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第八章・6
薄々、自分でも不安に感じていた。
営利目的なら、そんなことはせん、と突っぱねることができようが、チャリティー基金収集のため、という大義名分がついて回る以上協力しないわけにはいかない。
「やってみるか」
「はい!」
そして翌日から、弦の執事特訓が始まった。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
弦の言葉に、千尋がう~ん、と唸って見せる。
「お嬢様、って言う練習もそろそろした方がいいですよ、先輩」
「……お嬢様、か」
「男子のお客様には、メイドさんの女子が応対するんでしょう? 先輩がお相手をするのは、きっと全員女子ですよ」
「そうか、確かに」
じゃあ、もう一回、と千尋が玄関を出てゆく。
再びドアを開け、ただいま、と入ってくる。
「お帰りなさいませ、おッ嬢様ッ!」
「もっと力を抜いて、先輩」
そんなこんなで、入ってきた客に『お嬢様』と言う練習、椅子をひく練習、メニューを差し出す練習、飲み物を出す練習、などなど、千尋の指導のもとに弦の特訓が始まった。
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