219 / 239

第七章・14

 低い柔らかな声で静かにそう言われると、千尋はもうへなへなと座り込んでしまうところだった。  椅子をひき、メニューを渡される。  なかなか決められないでいると、お勧めの飲み物を紹介してくれる。  特訓で散々やったやり取りのはずなのに、千尋は夢見心地になってしまう。  ぼおっとジュースを飲みながら、室内を歩く弦の姿に見とれている。  次第に千尋以外の客も、ちらほらやってくるようになってきた。  その中には、彼の友人・佐藤と数名の姿もあった。 「お、河島じゃん」 「ヤッホ~♪ 河島くん」  佐藤グループの中の女子に、弦が声をかける。 「お帰りなさいませ、お嬢様」  今しがた千尋にしてあげたように椅子をひき、メニューを渡す。  千尋はその二人の姿に、ぽかんと口を開けたまま固まってしまった。

ともだちにシェアしよう!