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第七章・16
あぁ、疲れた疲れた、と、その日弦はやや遅く帰宅した。
明日の日曜日もやはり今日と同じように、執事をやらねばならないのだ。
最初の内は、あまりの恥ずかしさから切腹してしまいたい心地を感じたが、そこを乗り越えればもう怖いものなしだった。
幼稚園児から後期高齢者まで、女性であれば誰にでも『お嬢様』と執事をやって一日過ごした。
それに、千尋も喜んでいたようだしな、と弦は後輩の顔色を伺った。
あの様子なら、はしゃぎながら感想を言ってくるに違いない、と思っていたが、妙なことに千尋はやたらおとなしく沈んでいた。
「どうした、千尋。具合でも悪いか」
「え? あ、何でもありません」
女の子の手を引く先輩。
すごく大人びて見えた。
本当に、その人の執事になっちゃったみたいに見えた。
あぁ、このまま先輩は円い人間になってしまうのかな。
そして、誰かの執事になっちゃうのかな。
鼻の奥がツンとして、思わず涙がにじみそうになるのを、千尋はぐっとこらえた。
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