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第10話 翔は渋茶
あすかいかける君は寡黙で冷静な生徒だった
特に目立つ訳でもない
特に何かを発言する訳でもない
なのに………この存在感は……半端ない
給食を食べた後
翔は不機嫌になる
想わず、みすず先生が
「かける君、どうしたの?」と問いかける程に……
眉間に皺を寄せて、不機嫌な空気を醸し出す
毎回、毎回………給食の後は……
星組の子はチビリそうになる……
『せんせい かけるくん きょわいれちゅ!」
と皆言ってくる程に……
怖い顔をしていた
お迎えに来た両親を呼び止めた
そしてお話をさせて貰う
一緒にお迎えに来た方達と共に、会議室へと来て貰いお話をする
やけにイケメンじゃねぇか!この野郎!!
と言うイケメンが三人もいた
榊原伊織、緑川一生と緑川慎一が座っていた
その横に当たり前に可愛い男が座っていた
飛鳥井康太、彼等の【母親】であり
戸籍上の父親だった
「今日、お呼び立てしましたのは……
翔君……彼が怖いと組の子は脅えてます
給食を食べた後、凄い不機嫌になるのです
何故か……解りますか?」
保母は思い切って問い掛けた
それに答えのは【母親】ではなく緑川慎一だった
「翔は食後は必ず玉露を飲むのです………
多分、給食では出ないので……玉露を飲みたいだけです」
食後に玉露……
保母は言葉を失った
榊原は「翔は母親の真似をしているのです」と優しい顔で、そう言った
康太を見つめる瞳は優しい
なのに保母を見る瞳は………
親の敵位に………突き刺さって痛い
なによ………この差は………
ブリザード吹き抜ける冷たさに………
保母は榊原を見ない様にした
康太は「すみません……翔に食後に玉露は止めさせます」と提案して謝罪した
「給食の後は牛乳なので玉露は出ません」
康太はたらーんとなって
「解ってます……すみません……」と謝った
すると康太の横の慎一と一生の視線は保母に突き刺さった
なんで康太を責める……的な瞳を受けて……
保母は……もう嫌……何で私が………と泣きそうになった
話し合いを終えて、康太達は子供を迎えに行った
康太は翔と手を繋いだ
そして歩き出した
「翔…」
「にゃに?」
「給食の後に玉露は出ない」
「………ぎょめん……」
「皆が翔の顔、恐いって……」
「………かける……らめなきょ……らった……」
そう言い俯いて……泣いた
榊原は翔を抱き上げた
「翔……父も不器用な男です………
仕方ないです君は父に似てしまったのです」
「………とぅちゃ……かけゆ……らめなきょ…」
「違います
そんな事ある筈ないでしょ?
翔は修行も頑張ってる良い子です」
翔は…「とぅちゃ……」と言い泣き出した
「康太、性格もあるのです
言葉にするなら……一方的ではいけませんよ?」
「………ごめん伊織……」
康太は悲しそうに……謝った
「康太、僕と君の子です
曲がらない様に導かねばなりません」
榊原はそう言い翔を康太に渡した
「翔は……伊織に似てるからな……」
「かけゆ とぅちゃとかぁちゃのきょ!」
翔はそう言い笑った
「そうだ!翔はオレと伊織の子だ
だからな……かぁちゃは誰よりも……厳しい鬼になる
お前の道を導く為に……オレは……お前を泣かせる」
康太は………ごめんな………と呟いた
翔は「かけゆ あちゅきゃいのちんぎゃん!ちかたにゃい!」
翔は飛鳥井の真贋 仕方ない
翔の口癖だった
こんな小さい頃から飛鳥井の真贋でいなければならなかった
それが翔の背負うべく未来だった
だから誰も愛して
子供達を守ると心に決めた
そんな子供達は桜林学園の幼稚舎へ通い始めたばかりだった
この先、色んな事があるだろうけど……
康太と榊原は見守ると心に決めていた
一生や慎一、聡一郎や隼人も
榊原の家族も
飛鳥井の家族も……
子供達の行く先が、安らかな光に包まれるように
祈ってやまなかった
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