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第15話 駆除

『僕の妻は何気にモテるのです……』 榊原 伊織は苦悩した顔で…… 妻を想った 榊原 伊織の妻 飛鳥井 康太 は、小さくてガサツで、人と眼が違う男の子だ 彼はモテる 中等部の時に出逢って 片思いをしていた その時から彼の下駄箱にはラブレターが毎日毎日入っていた 榊原はそれらを駆除してゴミ箱に捨てる 風紀を取り締まるのは執行部 部長の務め …………風紀委員は何時も『それって僕達の仕事じゃないんですか?』と泣いていたが…… 榊原には大義名分が必要だった 副社長室の机の上には飛鳥井康太様……宛ての手紙が積み上げられていた 秘書の西村は「……それは隠匿でっしゃろ?」と言うが 失礼な!隠匿なのではない!! 妻のために手紙はチェックするのだ 総ては妻の為 多くの書類の中に 『飛鳥井康太様』と康太に宛てた手紙は特に念入りにチェックする 害虫駆除は必要なのだ 見るからに真贋室宛ての手紙は油断は出来ない 『一目見た時から君を……』なんて目にした日には…… 即ざにゴミ箱へ行く事となる 勿論、康太に出した社員は……… 虐めたいが……康太の駒が見張ってるから…… 少しだけ仕事で大変にさせる……位の報復しか出来なかった もっと追い詰めたいのに…… 榊原はギリギリと悔しがる 行きつけのレストランのシェフは康太と仲が良い 行きつけのスィーツレストランのパティシエも康太と仲が良い 言い出したらキリがないが…… 康太はモテる 康太からしたら榊原の方がモテるのだが…… 榊原はその視野にも入れないから気付いてない 社内を闊歩する榊原に熱い視線を送る女性社員は少なくない レストランでもカフェでも榊原に熱い視線を送る女性は少なからずいる なのに榊原はそれらを視界に入れる事すらない そして妻の害虫駆除に気を病む 「康太……他は視ないでください……」 「ならオレの目を潰すしかねぇな…」 康太は何時も笑う 「良いぞ!お前だけしか感じれなくしろよ!」 君の目を潰しで…… 飛び立つ羽根を毟り取り…… 駆けていく脚をへし折る 僕だけを見て 僕だけを見て…… 他は見ないで…… 誰も見ないで…… だけど、それが出来ない現実がある 康太を閉じ込めて自分だけの世界に入れたとしても…… その先に幸せなんてない 輝く康太を見ていたいのだ…… 日々萎れていく康太が見たい訳じゃない 光を浴びない花はいつか枯れてゆく 暗闇に閉じ込めても…… それは自分が欲しい康太は手に入らない 解ってる! 解ってるのだ…… 榊原は苦悩する だから榊原は駆除に余念がないのだ 愛する人を独占できる喜び 渡したくない想いなら誰よりも強い 自分は面白くもない人間だから…… 愛してもらえる事が奇跡だと榊原は想う 幾多の人と寝た 別れる前は口すら聞かなくなった 相手は必ず口にした 『榊原君って思ったより面白くない人なんだね』 だった…… 解ってる 解ってるさ!そんな事…… 母親からも言われた ため息交じりに『何考えてるか本当に解らない子……』って何度も言われた 気の利いた事すら言えない自分が嫌になる…… 面白くない自分が嫌になる 榊原は副社長室の机に突っ伏した すると優しい手が榊原の頭を撫でた 「どうした伊織? 辛かったら言うんだぞ? もう目の前で伊織をなくす恐怖は味わいたくねぇからな……」 盲腸で康太の前で倒れたときのことを言っているのだ 榊原は康太を抱き締めた 「………君はモテるので害虫駆除が大変です…」 「………んなの気にしなくて良い…… そうやって近付いて来ようとする奴らだって…… 本当のオレの目から逃れようとするんだから……」 「僕は君の瞳が好きです」 「そんな事を言うのは伊織だけだ」 「愛してます康太」 「オレも愛してる」 愛する人をこの手に出来る限り…… 榊原は害虫駆除に日々燃える 誰にも君は渡しません!! 今日も榊原はせっせと害虫駆除に手を焼くのだった

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