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第17話 ちゃみちぃ

流生は元気の良い子なのに、ここ数日ため息ばかり着いていた 音弥も元気がない 星組の担任 みすず先生は心配で仕方がなかった 他の組の先生に問い掛けると、桃組 まつり先生と 花組 たえこ先生も飛鳥井の兄弟は元気がないと心配そうに口にした 桃組の大空は更に寡黙になり、誰とも口をきかなかった 花組の太陽と翔も誰とも口を聞かず、孤立しているとの事だった まつり先生が「………親子さんに言うべきでしょうか?」と口にした たえこ先生も「ですね……こんなに元気がないのは……親子さんに面談を申し込むしかないと想っています」と訳が解らない事態を打破すべく思案している最中だった それを止めたのは高等部の教授 佐野春彦だった 「飛鳥井康太は今 日本にいない 子供達を連れに来ているのは慎一だ 康太は遊びに行ってる訳じゃない 子供達は母親と父親と一緒にいられなくて寂しがっているだけでしょ?」 佐野はよく幼稚舎へ来て、飛鳥井の子供達を見に来ていた 佐野の肩書きは学園長代理と言うだけあって……下手な事はいえなかった その上、佐野は飛鳥井贔屓な教師だった 幼稚舎でさえも権力を持つ佐野に意見できる教師はいなかった 佐野は校庭を見ていた 皆 元気に遊ぶ中、飛鳥井の五人兄弟は…… 淋しそうにしていた 佐野は校庭へと出向いた 「元気ないな……そんなに元気ないと康太が還ってきたら心配するぞ?」 佐野の声に兄弟は振り返った 流生は佐野を一瞥しただけで「うるちゃい!」と言った 「俺にウルサいとは……本当に康太がいねぇと可愛くねぇな!」 佐野は笑って流生を持ち上げて抱っこした 「かぁちゃ……いなくて淋しいか?」 「とぅちゃも……いにゃいにょ!」 流生は本当に悲しそうに……そう言った 「お前達のとぅちゃとかぁちゃはお前達に遺す明日のために闘っているんだ!」 佐野が言うと翔が「わかっちぇる!」と答えた 「なら、んな悲しい顔してんじゃねぇよ!」 佐野は流生の頭を撫でて下へ下ろした そして子ども達と目線を同じくして屈み込んだ 「はりゅひきょ!ぎょめん…」 翔は佐野に謝った 「翔……お前は……そんなに瑛太に似なくても良いのに……」 「ちょれはちかたぎゃにゃい! かけゆ……ちってるから……」 「………え?……」 佐野は顔面蒼白になった 不用意な事は言ってはならなかった 「………知ってる?……何を?」 「かけゆ……えいちゃ……ちゅにゃきゃってちぇる」 「………翔……」 「かけゆ ……みえりゅ……きゃら……」 「……そっか……お前は飛鳥井康太の子だろ?」 「ちょう!かけゆはあちゅきゃいにょちんぎゃん!」 背負うべきモノが重い言葉だった 佐野は翔の頭を撫でた 「音弥 お歌は歌わないのか?」 「おとたん おうた……かぁちゃ とぅちゃらけにうたう」 だから……いない今は歌は歌わない……… と音弥は言った 佐野は……刹那くなった 太陽と大空は淋しさを堪えるかの様に…… 表情をなくして逝く 両親がいない現実の淋しさを耐えていた 佐野は子ども達の頭を撫でて 「早く還って来ると良いな」と言葉にした 流生は「まっちぇりゅにょ!」と訴えた ずっとずっと……待ってるの と流生は言葉にした 太陽は「かぁちゃ いたいいたい……ちてにゃいきゃにゃ?」と悲しそうに訴えた 康太が苦しんで病院へ運ばれたのを覚えているから…… 心配しているのだった 大空は「とぅちゃ……ぎゃみゃん ちてにゃいきゃにゃ?」と悲しそうに訴えた 榊原は何時も我慢して堪えて康太を送り出すのを…… 見ている台詞だった 翔は「かけゆ もっちょ ちゅぎょうちゅる」と母親に苦労を掛けない様に…… 母を思っていた 優しい…… 康太と榊原の子供達だった 本当に良い子に育った この子達に会える日をずっと待っていた やはり……康太、お前の子は凄いな…… 子のいない佐野は康太の子が幼稚舎に来るのを、ずっと待っていた 見守ろうと心に決めたのだ 流生は「はりゅひきょ にゃくにゃ」と佐野を慰めた その顔は……一生に酷似していても…… その魂は康太の魂を受け継いでいた 「ありがとうな流生」 「りゅーちゃ ちゅよい」 自分を奮い立たせて言葉にする そんな所は本当に康太によく似ていた 「流生 運動会の練習はバッチシか?」 佐野は春の運動会には来るであろう康太を想った 「りゅーちゃたち おとたんいりゅ!」 歌とお遊戯をやらせたらピカイチの音弥がいるから楽勝だと流生は言った 音弥はニカッと笑って親指を立てていた そんな顔は康太に酷似していた 「おとたん じぇったいおんきゃん ありゅにょ」 絶対音感があるの……と音弥はいとも簡単に言った 「絶対音感……凄いな音弥は」 「とぅちゃ ちょうにんらって! おとたん とぅちゃといっちょにゃにょ!」 音弥は嬉しそうに、そう答えた 「そっか、榊原は絶対音感の持ち主だったな」 卒業式の時のピアノの音を思い出し、佐野は口にした 成長が楽しみな子供達だった 佐野は、本当に日々成長している子供達が愛しかった 写メを撮り、妻に見せる 妻は飛鳥井康太の子の成長を二人で見守ろうと言った 康太に貰った命だから…… 日々大切に妻は生きていた 子供達は……五人で集まり…… 悲しそうに寄り添った 早く還ってきて…… 五人兄弟にとって両親は飛鳥井康太と榊原伊織の他にはいなかった 大好きな 大好きな両親だった

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