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第19話 運動会 当日

この日 飛鳥井の家は慌ただしかった 「昼飯は一緒に食うんだぞ!良いか!昼になったら必ず来るんだぞ!」 「「「「「お!わかっちぇる!」」」」」 「みんな、頑張るんだぞ! かぁちゃととぅちゃ、ばぁちゃやじぃちゃ みんなが応援しに行くかんな!」 「「「「「あい!ぎゃんびゃる!」」」」」 気合いの入った声で檄が飛ぶ それに子供達は応えていた 今日は修学館 桜林学園 幼稚舎の運動会 土曜日に運動会で、月曜日は振替休日となっていた この日、清四郎と真矢は飛鳥井の家に泊まった 康太の子供達の運動会に逝く為だった 「ばぁたん りゅーちゃ ぎゃんびゃりゅにょ!」 「流生、応援しますからね」 真矢が言うと音弥も「おとたんもぎゃんびゃりゅにょ!」と嬉しそうに言った 太陽と大空は……滅多と真矢と清四郎には近寄らない 翔が瑛太に近寄らない様に、本能が何かを察知しているのか……… 近寄ろうとしなかった 清四郎が「太陽、大空」と声をかけても スーッと離れて兄弟の後ろに隠れた 清四郎は哀しそうな顔をすると……… 烈がトコトコ走って来て体当たりをした 「れー れー」 烈は自分の名を呼びながら清四郎に抱き着いた 真矢には翔が抱き着いた 清四郎は笑って烈をお膝の上に乗せようとした すると太陽が「らめ!あんよ いちゃいにょ!」と怒った 大空も「きをちゅけにゃきゃ らめよ!」とおませな言葉遣いをした 真矢は笑って「ほら、ダメですよ」と烈を抱き上げた 「まーや」 烈の言葉に「あら、烈……」と嬉しそうに笑った 子供達の成長が真矢の生き甲斐だった 榊原は烈をヒョイッと抱き上げた 「烈、ヨチヨチ勝手に動いたら……解ってますね」 榊原がゴォォォォォと怒りの炎を燃え上がらせて烈に言った 真矢は榊原に「………伊織……もっと優しく……」と取り成した 「昨夜、スーパーに連れて行ったら、物の見事に迷子になりました! 流石、康太の子だけあります! 迷子になってもちゃっかり泣きもしません」 「………あら……」 真矢は言葉もなかった 「父さん、母さん、そろそろ行きますよ!」 「荷物は?」 「後で一生達が運んでくれます」 榊原に言われて真矢は清四郎と共に出掛けることにした 運動会と言う事もあって、子供達はテンション上がりまくりだった 瑛太と京香、清隆と玲香も共に揃って運動会を見に行くことにした 京香は玲香と手を繋いでいた お昼の御飯とか荷物は一生と隼人と聡一郎が運び込む事になっていた 幼稚舎へは制服を着て逝く事となっていた 男子たるもの どんな時でも紳士的であれ と言う学園の教えで、体操服での登下校は禁止していた まぁ……康太曰く……面倒くせぇ校則だぜ……なのだが…… 桜林は紳士を作る学園だと自負していた 幼稚舎だからと言っても、紳士的な行為は免除はされなかった 帽子と桜林の幼稚舎の制服を着て、何時ものように登校する 子供達はスキップしていた とぅちゃとかぁちゃが運動会を見てくれるからだ ここは練習の成果の見せ時だった 今年の幼稚舎の運動会は中等部の運動場で行われる事となった 幼稚舎の運動場は狭い 飛鳥井の一族総勢で揃えば……他の父兄は……立ち見となる 下手したら入らない場合がある 幼稚舎運動会と聞き付けて、やって来る人物の対策もせねばならなかった だから学園長の神楽四季が結構大きい運動場がある中等部で行う事に決めたのだった 中等部の運動場に行くと、一生がレジャーシートを敷いて場所を取っていた そのシートの上に康太達は座った シートに座っていると 「お前の子の活躍を見に来た」と言う声が聞こえた 榊原が振り返ると清家静流が、藤森や兵藤達と一緒に立っていた そして後ろには顔見知りがウヨウヨと湧いていた 「………静流……やはり来ましたね」 榊原はゲンナリと呟いた 「お前に会いに来たのではない 僕は康太に会いに来たのです 康太の子の運動会だから見届けに来たんだよ 康太は返しきれない恩があるんだ 文句を言わず黙ってなさい!」 「………何も謂ってません……」 「顔が不満たらたらじゃないか」 清家は榊原を構って、康太に抱き着いた 「康太……」 康太は清家の背中を撫でてやった 「今日はオレの子の応援に来たんだろ? なら何も謂わなくても良い」 清家は頷き、康太を離した その腕に……ドスンッと烈を渡した 「……え?……この子は?」 「オレの子のだ!烈って言うんだよ」 「………何時産んだんですか?」 「二年ほど前だな」 康太がそう言うと清家は腕の中の烈を見た 烈は兵藤の顔を見付けて、手を伸ばし 「ひょー ひょー」と呼んだ 兵藤は烈を清家の腕から貰い受けて抱き上げた 「おっ!烈、元気だったか?」 烈はニコニコして頷いていた 清家は「何か……康太の子は貴史に懐きすぎの様な気がします…」と淋しそうに言った 兵藤は流生達から【ひょーろーきゅん!】と呼ばれて 手を振られていた 何だか腹が立つ 清家は兵藤の足を蹴った 「痛ぇな!」 「何か君……康太の子供達と仲良すぎです」 清家がボヤくと一生が 「貴史は飛鳥井に良く来るからな」と取り成した 「家が裏だと優位だな……」 ボヤく清家の腕に榊原は瑛智をドスンッと乗せた 「………うっ……重い……この子も伊織の子か?」 「違います。この子は瑛義兄さんの子の瑛智です」 「………似た様な顔だな……」 瑛智と烈は何処か似ていて 翔と瑛智は兄弟と言っても遜色のない顔をしていた 烈も負けず劣らず、その仲間に入れる顔をして…… 太陽と大空も……見れば似ている 飛鳥井の血だった 受け継がれる飛鳥井の血だった 榊原は笑って「飛鳥井の血を受け継ぎし子達ですからね」と言葉にした 話をしていると翔が康太の傍に来た 「かぁちゃ きまちた」 康太は翔を抱き締めてやった 翔は………何が起こったのか解らず……固まった 前日 翔は修行中に怪我をした 池の縁に立ち、目を瞑り歩く修行中に落ちて怪我をした 運悪く岩場で腕と足を怪我した 康太は慎一から救急箱を受け取ると、手早く包帯を変えた 運動会が始まる前に母の所へ来なさい そう翔に言いつけておいたから、翔はやって来たのだ 「痛くはねぇか?」 「らいじょうびれちゅ」 「そうか……頑張れよ かぁちゃととぅちゃ、家族は皆 応援してるからな」 「わかっちぇまちゅ!」 手当てが終わると翔は走って皆の元へ帰っていった 清家はそれを……辛そうな瞳で見ていた まるで……兄が………父と話す時みたいに…… 兄は……父と話す時……姿勢を正し敬語だった 清家は苦しくなって……胸を押さえた 康太は前を向いていた 我が子の勇姿を見逃す事なく見届ける為に…… 前を向いていた 榊原は清家を見ていた その瞳は………何も謂うなと物語っていた こう言うカタチでしか生きられない親子もいるのだ 瑛太は翔の見てない時に翔を見る 我が子なのだから…… 当たり前だ 真矢と清四郎は祖母や祖父の立場で我が子を見る 託した子なれど……血の繋がった我が子なのだ どれだけの想いを胸に閉じ込めて…… 清家は前を向いた その時、人混みの中から兄を見た…… そして……スーッと消えていった あの人も……康太の子供達を見に来たのだ……と清家は想った 飛鳥井の子供達の生まれて初めての運動会は始まった 桜林は昔ながらのリレーをしていた 競い合う精神をなくしたら、人は向上しない その精神でリレーランクを付けられていた トーナメント方式で走り 準決勝は飛鳥井の子達だけが残った 一コース 飛鳥井 流生 二コース 飛鳥井 音弥 三コース 飛鳥井 大空 四コース 飛鳥井 翔 五コース 飛鳥井 太陽 兄弟は燃えていた 今はライバルだった 皆の心は『じぇったいに まきぇにゃい!』だった 時には友として 時にはライバルとして 時には絶対無敵の兄弟として 彼等は生きていた 【位置について、ヨウイー!】 バーンっとピストルの音がして、兄弟は走り出した 皆手を抜くことなく必死に走る 康太はどの子も頑張れ!と心の中からエールを送る どの子も康太の子だった 母親から託された大切な宝物だった 京香は翔を見ていた そして音弥を見ていた 亡くした琴音は今もこうして音弥の中で生きている 京香は涙ぐみながら「頑張れ!」と応援していた 流生の母親も……兄 戸浪海里と一緒に見に来ていた 来賓席の中から流生を見ていた 音弥の父 隼人は亡くなった妻の分まで……音弥を応援していた 我が子なのだ 父だと名乗れずとも、目の前で日々大きくなる我が子は可愛い…… どの子も可愛い 隼人は飛鳥井康太の長男として、一緒に成長していた 太陽と大空の母 真矢は我が子の頑張る姿を見ていた 大きくなった 康太の為だけに産んであげた子供達だった 我が子と呼べずとも、明日の飛鳥井の為に生きていく我が子を見ていくと決めた どの子も変わりなく愛すと心に決めた そして……子供達が頑張る姿を目にすれば…… 胸は一杯になり…… 涙が溢れた 玲香はハンカチを真矢に渡した 「姉さん……ありがとう」 「真矢……辛い道を逝かせるな……」 「姉さん、辛くなどありません 私は孫の運動会を見に来られる日なんて来ないと想っていました…… だから嬉しくって……」 玲香や京香は本当に真矢を大切にしてくれる 京香は明日菜のサポートをして、本当に姉妹のように日々生きてくれている 京香は美智留を膝の上に乗せて、明日菜と話していた その姿は姉妹だった そして真矢と玲香も姉妹そのものだった 清四郎は清隆と孫の勇姿を見ていた 笙は瑛太と子供達の勇姿を見ていた 「………翔は……生傷が耐えないね……」 「康太の子供時代を見ているようです……」 瑛太は遙か彼方に視線を向けた 子供の頃の康太も生傷が耐えない子供だった 笙は「………あぁ……そうか……康太も真贋だったね…」と今更ながらに真贋の過酷さを想った 「………愛する弟を護ろうと……想った……」 「蒼太も……そう言ってた……」 「…………飛鳥井の悪習を断ち切ろうと何度想った事か……総代になったら………断ち切ってやる…… そう思ったのに……未だに断ち切れてない……」 「康太は明日の飛鳥井を繋げる為に日々生きてる 断ち切れる筈なんかない……」 「………翔は…誰よりも弁えている子だ…… もう少し……康太みたいにやんちゃでも良い」 それが本音だった 「まぁ……朝の挨拶が保母のスカート捲りで、呼び出しされてばっかりなのは……困ったけど……」 瑛太はそう言い笑った 目の前のレースは翔が、一等賞を取った 足から血を流し…… それでもテープを切った その後に流生がゴールを切って 大空、音弥、太陽がゴールした 康太は「翔!」と言いコイコイと手で合図した 翔その腕の中へ駆けていき……飛び込んだ 「頑張ったな翔」 思いっ切り抱き締めてやり、椅子に座らせた 榊原が翔の足の手当てをした 翔がかぁちゃの方に駆けて逝くのを見ると、兄弟もかぁちゃの方へと駆けて逝った 康太は流生、太陽、音弥、大空を抱き締めて 「頑張ったな」と声をかけた 手当てが終わると、翔を立たせた そして五人に「ほら、頑張って来い!」と言い背中を押した 五人は皆の元に戻った 翔は1位のリボンを胸に付けて貰った 佐野春彦は遠くから康太を見ていた 声をかけるのは帰りと決めていた 今は……母で在る康太を見ていたかった 神楽四季もその想いは一緒で、声をかける事はなかった 午前の部が終わると、子供達はとぅちゃとかぁちゃのいる席に走って来た 「「「「「かぁちゃ とぅちゃ!」」」」」 走って来るなり康太の腕の中へ飛び込んだ 「頑張ったな」 康太は我が子を腕に抱き労った 一生はハンデイカムとカメラで撮影に余念はなかった 席に戻ってきた子供達をパシャパシャ撮影 慎一はそんな一生を余所に、お昼の準備をした レジャーシートの真ん中に……… おにぎりの山と、重箱を並べた その重箱の数……20近くあった おにぎり 稲荷寿司 ちらし寿司 から揚げやおかずを詰め合わせ 割り箸と手拭きをドサッと置いて 取り皿を置いた 「皆さん 用意が出来ました お好きなのを食べて下さい」 慎一はそう言うと別口で作った重箱を康太と子供達に渡した 康太はその重箱を受け取りガツガツ食べ始めた その横で子供達もガツガツ食べ始めた よく似た食べ方だと、皆が想った 「おめぇら良く噛んで食べろよ!」 康太が言う すると流生も「かぁちゃ よきゅきゃんれたべりゅ!」とお返しの一撃 「………おめぇ……言うようになったな」 康太は爆笑した 康太は翔に「午後は無理するんじゃねぇぞ」と言った 最近のかぁちゃは優しい…… 修行中じゃなければ優しい 「わかりまちた」 翔はそう言い笑った 康太は翔のほっぺに付いたご飯粒を取って食べた 烈が翔に近寄りチューをした 「にーにー ぎゃん……」 烈が言う 翔は烈に唐揚げを小さくちぎってお口の中へ入れてやった 「にーにー」 烈は喜んでモグモグ食べた 流生も太陽も大空も音弥も弟が可愛くて世話を焼いていた 真矢はそれ見て「烈はお兄ちゃん達に愛されてるのね」と微笑んだ 清家や兵藤、藤森やその他大勢も御相伴に預かり、お昼を食べていた 清四郎も笙にお昼を持たせて来たから、かなりの量を用意してきた PTA会長の戸浪海里も康太の傍へと近寄ってきた 「康太、子供達は頑張りましたね」 「若旦那、お昼食ったかよ?」 「まだです。 君にご挨拶してから食べに行こうと想っています」 「なら此処で食えよ」 「………え?……」 「慎一、亜沙美の所へは流生を連れて弁当を持って行ってやれ!」 康太がそう言うと慎一は立ち上がった 「今は校長室に亜沙美はいる」 「解りました でも持っていきます」 慎一は流生と手を繋ぐとお弁当を持って校長室に向かった 「………康太……」 「若旦那は食え! 皆と食べると美味しいぞ!」 戸浪は一度も味わった事のない感覚だった 皆と一緒に遠足に行った時みたいに弁当を食べている自分に驚いていた 楽しい 瑛太が戸浪に声をかける 清四郎や笙、兵藤や清家も戸浪に声をかけていた 戸浪は生まれて初めて味わう感覚に……胸が一杯になった 康太は子供達に「昼からはお遊戯だな」と言うと 子供達は康太に「「「「「みちぇねぇ!」」」」とお願いした 「楽しみだな」 康太は嬉しそうにそう言い我が子を見詰めた 愛すべき我が子だった 飛鳥井の明日を託す子供達だった 「オレはお遊戯と言うか運動会に出れなかったな…… そう言えば……」 康太が言うと瑛太が「康太……」と止めた 「瑛兄……何か……我が子が羨ましいって想っちまった……」 「………康太……兄が……お前のフォローを出来なかったから……お前に淋しい想いをさせてしまった……」 「違ぇよ瑛兄……瑛兄は精一杯でオレを護ってくれたじゃねぇかよ」 【午後の部が始まります! 園児の皆さん集まってください】 放送が掛かり、子供達は立ち上がった 子供達は母に手をふって走って逝った 榊原は康太に「大丈夫ですか?」と問い掛けた 「大丈夫だ……オレは……運動会に一度も出た事ねぇからな……羨ましいって想っちまったんだ」 「………一度も出なかった?何故ですか?」 「怪我したからな」 「………え?……」 榊原が……飲み込めずにいると兵藤が思い出した様に 「そう言えば康太は一度も運動会に出てなかったな」と思い出した様に言葉にした 「運動会の前に必ず三通夜の修行が入ったからな…… 三通夜の修行を終えた後は……必ずと言って言い程に病院送りになってたからな……運動会には一度も出た事がねぇんだよ」 康太は羨ましそうに子供達を見ていた それにはそんな想いがあったとは想わなかった 瑛太は当時を想い出して苦しそうに胸を押さえた 「瑛兄、オレの子は沢山想い出を作ってやりてぇんだ」 母の想いだった 我が子への想いだった 榊原は康太を引き寄せて、強く抱き締めた 康太は笑って「大丈夫だ伊織」と返した 「午後一番でお遊戯だ 楽しみだな伊織 オレ達の子がどんな風にお遊戯踊るか…… 夢にまで見てきた日が来たな」 「ええ……僕達の子の晴れ舞台ですね」 榊原はそう言い康太を離した 「その前に、食っちまおうぜ!コレ!」 康太はそう言いお弁当をやっつけようと言った 皆は美味しそうにお弁当をやっつける協力をした 全部なくなる頃には皆はお腹をさする程の満腹となった 空の容疑を片づけて皆にお茶を配る 皆はお茶を貰い一息ついていた 一生と慎一は荷物を車へと運びに行った 戸浪は午後のPTA選抜リレーに出る為に本部席へと戻った 流生は亜沙美と逢って嬉しそうに兄弟と合流していた 【是より幼稚舎 年少組のお遊戯を行います】 入場門の所には綺麗なポンポンを腕に付けた生徒達が並んでいた 頭にはそれぞれの好きなお面を付けていた 流生はお花のお面 翔は犬……多分コオのお面 音弥はかぁちゃのお面 太陽は好きなホットケーキのお面 大空はとぅちゃのお面 を、それぞれ頭に付けていた 榊原がカメラを手にして写真を撮り始めた 音弥は誰よりも上手く踊っていた 血は争えない その場にいるだけで華やかなオーラを放っていた ゆくゆくは修学館の理事長になる存在だった 翔も頑張って踊っていた だが堅さが取るない実直な踊りだった 翔が明日の飛鳥井の真贋となり康太から総てを受け継ぐ事となる 太陽は楽しそうに踊っていた 太陽はどんな時でもマイペースを崩さない 大空は黙々と踊っていた 榊原同様に不器用な男だった 流生はムードメーカーでお調子者 悪さをしても憎めない所は康太に似ていた 一生は悪さをして……学園中の生徒や教師達から嫌われていた そこは……一生とは似ていなかった 子供達は両親に見て貰う為に日々練習をして来た 榊原は康太の手を握りしめ 「………知らないうちに……子供って成長しているんですね……」と淋しそうに言葉にした そのうち……親の存在なんて煩くなって来るのだ…… 自分達がそうであった様に……… 子供達も成長の一途をたどれば…… 何時か来る道だった 子供達は余所の子より物凄く上手くお遊戯を踊っていた(………親の欲目入りまくりだが……) 康太は我が子のお遊戯を見ていた 「今日は頑張ったな」 康太は呟いた 「ええ。本当に頑張りましたね」 音楽が鳴り止み、お遊戯は終わった 子供達は両親の方を見て、やり遂げたよ!と笑顔を見せていた 康太はそれに応えて手をふった 「今夜は……よく眠るだろうな」 「ええ爆眠でしょうね」 我が子を見詰める榊原に慎一は一足先に帰る事を告げた 「伊織、俺と一生は一足先に帰ります 皆さん家に帰ったら宴会でしょ? 手配をしておきます」 「頼みますね」 榊原は一生に目を向けた 一生は背を向けて立っていた 少し前に、子供達の送り迎えに付いて行っていた時 何も知らない他の子が一生の事を流生のパパ?と聞いて来た 違うというと、何時も来るパパ達より似てるのに?と言われた 以来、一生は幼稚舎に逝くのを止めた なるべく顔を出さず、流生の横に立たない様にした 一生は永久に名乗らないと決めていた 飛鳥井康太の子なのだ 自分の存在が子供達を……… 流生を悩ませるのは許せなかった 一生は一足先に車に戻った ハンデイカムを聡一郎に押し付けて、何も謂わずに車へと向かった 隼人は………そんな一生が悲しかった 【これで幼稚舎の運動会の全プログラムを終了致しました 来賓の皆様、お疲れ様でした 父兄の皆様、お疲れ様でした 皆様 お気を付けてお帰りください】 総てのプログラムが終了して運動会は終わった 子供達は幼稚舎に戻る前に、康太に抱き着いた 「かぁちゃ まっちぇて!」 流生が甘える 音弥も康太に抱き着いた 翔も太陽も大空も康太に抱き着いて甘えた 「ちゃんと待ってるからな!」 康太が言うと今度は榊原の方に抱き着いた 「とぅちゃも?」 音弥が問いかける 「ええ。ちゃんと待ってます 帰ったらお祝いしましょうね!」 父の言葉に安心して子供達はクラスに戻っていった 運動会が終わり、藤森や他の生徒は康太を抱き締めて、帰って行った 清家は公演を控えてる為に帰って行った 「チケットを送るので見に来て下さい」 と何度も何度も甘えて康太に「あぁ必ず行くからな!」約束して貰って満足して帰宅した 康太は幼稚舎の校門の方へと移動した 瑛太や清隆、玲香と京香、笙と明日菜一足先に家に帰って行った 真矢と清四郎は孫を迎える為に幼稚舎の方へと一緒に行った 隼人と聡一郎と兵藤も康太と共にいた 校門の所で待っていると子供達が駆け寄って来た 康太と榊原は『かぁちゃ とぅちゃ』と飛び込んで来ると想い待っていた だが子供達は【ひょーろーきゅん!】と言い、兵藤に駆け寄って行った 「………ありかよ……これ?」 康太はボヤいた 榊原は笑って「仕方ありませんよ」と言った 翔は康太の横まで来ると手を繋いだ 修行に行く時はいつも、そうだから…… 今回も何時もと同じようにした 康太は翔を抱き上げると 「今日は修行はお休みだ! 良くがんばったな翔」 と褒めてやった 「かぁちゃ……」 「家に帰ったらお祝いだ」 「あい!」 康太は翔を下ろすと、隼人に抱っこされてる烈を翔の横に下ろした 「れちゅ」 「にーにー」 翔は烈と手を繋いだ 翔を下ろすと流生が康太の足に抱き着いた 「かぁちゃ りゅーちゃ ぎゃんびゃっちゃ」 「うしうし!流生も頑張ったな おうちに帰るとおやつがあるぜ!」 「りゅーちゃ ちゅぎゅきゃえる!」 現金な流生はおやつと聞いてすぐに帰るといい歩き出した 兵藤は太陽と手を繋ぎ 聡一郎は大空と手を繋いでいた 真矢は翔と烈と手を繋ぎ 清四朗は音弥と手を繋いで 康太と榊原は流生と手を繋ぎ 飛鳥井の家へと還って逝った 飛鳥井の家に還って逝くと、瑛太や清隆、玲香は既にお祝いに突入していた 玲香は美緒を呼んで楽しそうに飲んでいた 真矢はそれを見つけ、その中へ入った 清四朗も清隆や瑛太の所へと行って、晩酌を始めた 子供達はソファーに座っておやつを食べていた コオ、イオリ、ガルはそんな家族を楽しそうに見ていた 康太は何時もの席に座った その横には一生が座った 「一生」 「ん?何だ?」 「気にする必要はない!」 いきなり本題に入り切り出した 「………そう言う訳にもいかねぇだろ?」 「なら……何時までも逃げ続けるのか?」 「………っ!……!!!」 答えられなかった 応えられる訳などないのだ…… 「………虐めるな康太……」 「背を向けるな!良いな!」 「………」 一生は何も言わなかった 康太は一生を殴り飛ばした 一生の口から血が流れいたが、一生は拭きもしなかった 康太は悔しそうに唇を噛むと……ソファーから立ち上がって……着替えに行った 榊原も直ぐ後に康太を追った 兵藤は一生の血を拭ってやり 「アイツの言いたい事は解るな?」と問い掛けた 「………解るけど俺の存在は……苦しめるだけだっ……」 「じゃ、此処から出て逝けよ! んな覚悟もねぇ癖に半端に背中を向けるんじゃねぇ! この先もそうやって生きていくのか?」 一生は下を向いて……唇を噛み締めた 流生が兵藤に飛び付き 「らめ!いぢめ らめにゃにょ!」と兵藤を止めた 兵藤は流生を抱き上げて 「虐めじゃねぇ!ケジメだ!」 「きぇじめぇ?」 「そうだ!ケジメのねぇ事をするなと怒っている」 「………ひょーろーきゅん かじゅ おきょらないで……」 「大切な事なんだよ流生」 「りゅーちゃ わかりゅ……ひょーろーきゅん  りゅーちゃ わかっちぇる」 「翔みてぇな台詞は言うな!」 兵藤は流生の頭を撫でた 「りゅーちゃ かぁちゃに にちぇる! りゅーちゃ とぅちゃ いっちょ ぎゃんきょ りゅーちゃ とぅちゃとかぁちゃのきょ!」 胸を張って流生は言う 何を言われようとも 流生は揺るぎなかった 「流生は康太に似て男前だな その気っ風の良さ…見紛う事なくおめぇは康太の子だ」 「ちょう!ひょーろーきゅん わかっちぇる!」 流生は親指を立ててニカッと笑った 康太が何時もやるポーズだった 着替えが終わった康太が榊原と共に応接間にやって来ると子供達は大喜びだった 流生は康太に抱き着き 「もぉ おきょってにゃい?」と問い掛けた 「怒ってねぇぞ! ちゃんと食ったか?」 「たべちぇりゅ!」 兵藤はうしうし!と撫でてやった 太陽と大空と音弥は心配そうに流生を見ていた 翔は目を瞑っていた そして小さな声で……… 「ちゅべては きめられち ことわりにゃにょ」と呟いた 清四朗は胸が苦しくなった こんな小さいのに…… 翔は飛鳥井の真贋として生きていた 総ては決められし理だ! 康太が言う台詞だった 清隆が清四朗の盃に酒をついだ 「飲みましょう 子供の世界は子供が何とかします」 「…………何も………してやれませんね」 「しようなんて想っちゃダメです兄さん 何も出来なくて正解なんです」 「………え?………」 「我々は見守るしか出来ないのです」 「………清隆……」 「必要な時に手を差し伸べる 今まだ時ではない」 「…………清隆……兄はどうやらせっかちらしい……」 「そんな時は飲むんですよ兄さん」 酒を酌み交わし、分かち合う 魂を織り成して 共に味わう苦しみを溜飲する 父であろう 祖父であろう そして家族であろう…… 清四朗は……ゴクンッと飲んだ酒が……… 体内に染みて…… 一人じゃない絆を噛み締めていた 天涯孤独の身の上かと想った だけど違った 父さんは……私に兄弟を遺して逝ってくれた 家族を遺して逝ってくれた 清四朗は涙を拭いながら……笑った その夜 飛鳥井の家からは楽しそうな笑い声が響いていた 子供達はそんはみんなの声を聞きながら……眠りに落ちた 生まれて初めての運動会の日 飛鳥井の絆はより強く築かれて逝った

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