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第22話 力哉の悩み

怠い…… 一日中……口では言いずらい場所になにやら挟まっている感触がして…… 無駄に赤面して……疲れる 力哉は黙々とそんな自分に叱咤しつつ仕事をしていた 康太の秘書の西村沙織が真贋の部屋に入ってきた 西村が今 真贋の仕事を一手に引き受けてやっていた 康太の秘書に西村がなると聞いた日 力哉はもう自分はお払い箱なのだと想い泣いた 康太に必要とされないのなら生きていても仕方がないと想った だって自分を生かしているのは飛鳥井康太なのだから……… 康太に必要とされない自分など要らない…… だけど違った 康太はちゃんと見ていてくれて 許容量以上の仕事を抱えて熟している現実を改善する為に真贋の仕事と馬関係の仕事とを話してくれたのだ 忙しいのに変わりはないが 前よりはマシになった 家まで仕事を持ち込む事をしなくても良くなったのだから…… その分一生との時間が増えて 一生が離してくれなくなった 淡泊な男だと想っていたのに…… 最近は執拗にねっちこく……してくるから…… 疲れが抜けなかった 西村は力哉に 「お疲れか?力哉」と問い掛けた 力哉は驚いた瞳を西村に向けて「……え?」と問い掛けた 「一生は激しい奴だったのか……」 「………え?えええええええ????」 何故知ってる? そんなにあからさまにしてた??? 力哉は慌てた 「気にするな力哉 見てれば、そんなのは解るって事だ」 「………見てれば………解るの?」 「お前は何時も一生に熱い視線を送っている 一生はお前のことを所有物として束縛したがる それは二人は恋人同士だからだろうて! そんな野暮な奴ではないぞ!我は!」 西村はプンプン怒りながら力哉に言った 力哉は西村をまじっと見た アイドルの如月セイラ達三姉妹に酷似した顔だと、社員の間では噂されていた そんな疑問を西村に問い掛けた 「西村さんってアイドルの如月セイラに似てますね」 「当たり前だ!アレの製造者が我だからな!」 「………えっ?えええええええ??????」 「何だ?知らなかったのか? 如月セイラ、如月レイ、如月ミラノの三姉妹は我の娘じゃ!」 「………ミラノさんは……似てませんよね?」 「あぁ、アレは3度目の亭主似だからな」 「………そうなんですか?」 「力哉は何も聞かないなぁ…… 何回結婚したんだ?とか子供は何人いるのだ?とか 普通なら聞きたがる事を一切聞かないな」 西村はそう言い嗤った 男前の顔が美しく輝いていた 「………お聞きしても宜しいのですか?」 「構わぬぞ?五回結婚して五回離婚した 子供は全部で五人! 一回の結婚に一人ずつ生んだ結果だ! で、アイドルしているのは上の三人 下の二人は子役をしている 神野晟雅とは従兄弟だからな 彼奴は芸能事務所の社長してるから融通して貰っているのだ 従兄弟の所なら安心して頼めるであろうて! そして彼奴らはバイト感覚で働いているのだ」 「………そうでしたか……」 「一生、椅子に座るのが辛いならドーナツ座布団がよいぞ! ほれ、我がお前にもプレゼントしようぞ! ついでに一生には早く抜くように言っておいてやろうか?」 力哉は真っ赤な顔になった 「ウブだのぉ……」 ウブな力哉を西村は撫でた そこへ康太が榊原と共に顔を出した 真っ赤な顔をした力哉を、じーっと見て 康太は笑った 榊原とは手を繋いでいたから、康太が視たモノは伝わっていた 榊原は優しげな笑みを浮かべていた 「西村、力哉を虐めるな……」 「汚れておらぬ魂故に構いとうなります」 西村は優しく笑ってそう答えた 康太は力哉の椅子の上の座布団に目をやり 「お前も貰ったのかよ? それ、めちゃくそ楽だぜ!」と笑った 西村はそれを聞いて 「当たり前であろうて! それは特注なのじゃ! そんじょそこらの座布団とは違うのじゃ!」と偉そうに怒った 「オレも貰ったけど、ケツが楽だぜ力哉」 力哉は真っ赤な顔をした 西村はそんな力哉を優しく撫でてやった 「この座布団はな力哉 いくら座っても弾力性が弱まる事はない 特注で作らせたモノなのじゃ!」 「そんな良いの僕が貰って良いのですか?」 「構わぬ!注文する時に康太と力哉の分を頼んだのじゃ! 愛されすぎな恋人達にプレゼントなのじゃ!」 力哉は深々と座り直して実感した 成る程! 特注と言っただけの座り心地だった お尻が結構楽…… 力哉は西村に「ありがとう西村」と礼を述べた 西村は嬉しそうに笑って 「康太の周りは幸せオーラ満開じゃ…… また恋したくなったら……どうするのじゃ!」とボヤいた 康太は「………止めとけ!ストーカーをこれ以上増やすな」と嫌な顔をした ストーカーの単語に力哉は不安そうな瞳を康太に向けた 康太は西村を見た 個人情報なのだ 簡単には教えられないからだ…… 西村は「……別れた亭主や恋人はどう言う訳かストーカーになって、つけ狙うのじゃ……」と最悪な状態を口にした 「………今もいるのですか?」 「………今は真贋が排除してくれたからおらぬよな?康太?」 「………お前さ、アイドルと同じ顔なんだからさ危機感持とうぜ!」 「………製造元は我なのだ!あっちが似てるんであって我はオリジナルなのだからな!」 西村は屁理屈をこね回していた 「どっちが似てるなんて問題じゃねぇんだよ お前は本当に男の趣味が悪いからな……ストーカーになるんじゃねぇか……」 「………お主の伴侶殿も一歩間違えばストーカーではないか!」 榊原はギロッと西村を睨んだ 西村は知らん顔して、榊原の睨みには屈指はしなかった 力哉はハラハラとして……榊原の睨みに身をすくめた 「力哉が怖がっておろうが!」 西村はボヤいて力哉の頭を撫でてやった 康太は榊原を見上げた 榊原は康太を抱き締めて 「僕をそこいら辺のストーカーと一緒にしないで下さい!」と怒った そして康太を抱き上げて 「力哉、辛いなら帰っても構いませんよ そこの叔母上が何とかしてくださりますから…」 西村は「………お前の叔母上ではない……」とボヤいた 「我が妻の親族なれば、我慢もしましょう!」 榊原はそう言い康太を抱き上げたまま、真贋の部屋を出て行った 西村は「やれやれだわな」と苦笑した 康太と榊原が副社長室へ戻ると入れ違って一生が真贋の部屋へ入ってきた 「西村、陣内が探してたぞ?」 一生は来るまでに陣内が西村を探していた経緯を見て告げた 「………約束しておったな…… そうだ、一生」 「あんだよ?」 「この部屋で始めるでないぞ」 一生は顔を真っ赤にして怒鳴った 「誰が!始めるか!!旦那じゃあるまいし!」 「…………兄弟故に似ていると想っただけじゃ ならば行くとしようかのう」 やれやれ……と肩をすくめて西村は部屋を出て行った 一生はその背中を見送り 「………誰なんだよ……あの方は……」 とボヤいた 力哉は「伊織が叔母上と呼んでたよ?」とサラッと告げた 一生は固まった 「………旦那が……叔母上と言っていたのか?」 「ん、お主の叔母ではないと西村は言ってた」 「…………康太の……って……事か?」 「妻の身内なら我慢もしましょう……って言ってたよ?」 「………飛鳥井の身内なら……飛鳥井だよな? なら………天照大神……のって事か?」 一生は考えるのを放棄した 「一生、どうしたの?」 「どうもしねぇよ? それより体躯……辛くねぇか?」 一生が問い掛けると力哉は真っ赤な顔をした 「大丈夫だよ……」 「辛かったら言えよ」 「うん……」 力哉は頷いた 「ねぇ……一生…」 「あんだよ?」 「………もう少し手抜きで良いよ……」 「されたくねぇのか?」 「………一生が大変かと想って……」 「なら安心しろ!もっと念入りに可愛がってやるからな!」 ………僕……ひょっとして墓穴掘った? 「お前が大切なんだよ」 一生はそう言った 贅沢な悩みなのだ 愛されすぎて辛いなんて…… 昔の僕からしたら贅沢すぎなのだ 力哉は笑った 「僕も一生が大切なんだよ」 「それは嬉しいな!」 一生は力哉を引き寄せた 力哉は一生の腕の中に収まって笑った その笑顔は本当に幸せそうだった

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