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第25話 永遠

四宮永遠 それがどうやら僕の名前らしい…… 大人しく、口数の少ない永遠は、人を観察して空気を読んでいた 苦手な人は…… 飛鳥井康太 彼は……じっーっと人を見るから…… 全部、その瞳に晒されたみたいで…… 見られたくないと想っちゃう 「トワ、学校に逝くよ!」 僕の父である四宮聡一郎が僕の支度を待つ 永遠は桜林に入学した 和希や和真、北斗は一学年上だった 永遠は学園生活にはまだ慣れていなかった 同じ学年に知り合いがいるのといないのとでは大いに違いがあると永遠は想う 「とぅちゃま…」 手を繋いで階段を下りて逝く 途中、康太とバッタリ逢った 「おっ!永遠やん!」 康太は永遠を抱き上げた 「………おはようございます……」 「おはよう永遠 今日も元気かよ?」 「………元気だよ……」 「ほれ、烈だ!お前も可愛がってやってくれ!」 康太は永遠を烈の横に下ろした 「烈……」 「ちょわ…」 二人は仲良しさんだった 手を繋ぎ歩く 永遠は飛鳥井の子が大好きだった 康太は聡一郎に「今年から初等科の運動会に永遠も加わるのか、楽しみだな」としみじみ声をかけた 聡一郎はそれを受けて、康太に抱き着いた 「君がいてくれたから……僕は……永遠の手を離さずにすみました……」 康太は聡一郎の背中を撫でてやった 流生が中々来ない母に焦れて呼びに来た 「かぁちゃ!はやきゅう!」 「おっ!流生、オレを呼びに来たのか?」 「ちょう!はやきゅう!」 流生は母に手を伸ばした 康太は流生を抱き上げた 流生はますます……一生に似て来ていた 利かん気の強い眉毛は父親譲りで…… そのうち黙ってても父親は誰なのか……解る事だろう 「かぁちゃ うんろーきゃい! りゅーちゃ!ぎゃんびゃる!」 「見に行くからな!」 流生は母に擦り寄って甘えていた 翔が遅いと呼びに来て 康太は永遠の手を引いて歩き出した 「聡一郎は優しいか?」 「……少し怖い時もあります…」 「そうか……それもお前の為を想えばこそだ」 見上げるその顔は……翔と酷似していた 翔と兄弟だと言ったら誰でも信じる そんな容姿をしていた 飛鳥井悠太の子供だという証だった 「解るなトワ?」 永遠はうん!と頷いた 「そうか!良い子だ! 烈、京香の処へ一緒に逝け!」 烈は頷くと歩き出した 永遠と手を繋いで京香の方へと歩いて行った 「………血は……争えねぇな……」 「………僕の子です あの子は四宮興産の次期社長です」 「良い社長になる様に育てろ!」 「解ってます」 康太は聡一郎の肩を叩くと、子ども達と共に幼稚舎へと向かった 康太の子供は本当に榊原と康太を両親だと信じて…… 仲良く生きている 羨ましい限りだった 康太達親子を送っていると、慎一が応接間にやって来た 慎一は「康太が送って逝きましたか?」と問い掛けた 「あぁ、今 出て行ったよ」 「そうですか……聡一郎はどうしたのですか?」 「………康太達……仲の良い親子を見てて…… 羨ましくなっちゃった……」 「君は永遠と仲良くないのですか?」 「僕は……ついつい厳しくなっちゃうからね……」 「前に……一生と幼稚舎へと逝った時…… 幼稚舎の子に、流生の父親は一生なんだろ?…… と言われた時があります 迎えに来る親よりも一生の方が似てるよ……そう言われたのです 子供は……何も知らないので、無邪気な事を言います 一生はそんな事があって……幼稚舎へは迎えに行かなくなりました」 「…………え……そんな事があったの?」 聡一郎は胸を押さえた 一生は親と名乗れず生きていく道を選んだ 親と名乗れず……傍にいる どんな想いで一生はそれを聞いたのだろう…… 「流生は同級生に 『ぼきゅのかぁちゃは あちゅきゃいこうちゃ とぅちゃは ちゃきゃきびゃらいおり! ぼきゅはとぅちゃとかぁちゃのきょ!』 そう胸を張って言いました 康太の六人の子達は、飛鳥井康太を母に 榊原伊織を父に……両親の愛を貫いて生きているのです きっと永遠もそうやって君の姿を見て、成長するのです だから決して子供から目を背けるのは止めてあげてください」 「………慎一……」 「俺も……子供と一緒には生きてはいなかった ですから偉そうな事は言えませんけど…… 俺は……主のように子ども達から目をそらす事なく生きていこうと決めているのです」 「………ありがとう慎一」 慎一なりの励ましだと想った 「親は子に日々成長させて貰っているのです 俺も聡一郎も日々、子供と共に生きているのです 子供達は沢山の事を肌で感じて成長しています 大人より……見ているんですよ?」 「………そうだね……」 「永遠は空気を読む その瞳は……総てを知って受け入れている あの子は康太の子程強くはないが力持ち……だそうですよ?」 「………え?それ知らない……」 「飛鳥井の血が確実に受け継がれ、聡一郎、君へと還るのです」 「………え?……」 「君は飛鳥井康太に還り 永遠は聡一郎へと還る 繋がって先へと逝くのです 人の縁(えん)とな奇妙なモノ 何処へ繋がって、何処へ流れていくのか…… 縁(えにし)を結わえて逝く先に確かな明日が見えて来ると、俺は想います」 「………慎一、ありがとう……」 「親と名乗れぬ……弟は荊の道ではないと…… 兄に言った 俺の逝く道は、康太へと還る場所へと繋がっている……と。 だから歩いて逝かねばならないんだ 辛くても……哀しくても…… 見届けると決めたから…… アイツは……誰よりも弱い そして誰よりも強い 護りたいモノがあるからな 聡一郎もそうだろ? だったら目は反らしちゃダメだ」 聡一郎は堪えきれず泣いた 「永遠の知能はかなり高い だから俺達の何気ない言葉は理解出来ている」 慎一は聡一郎を抱き締めて 「だから聡一郎は笑ってなきゃダメだ どんなに辛くても笑顔を向けてやれ」 「………一生は……辛くないのかな?」 悠太は辛くないのかな…… 「悠太は……自分で選んだ道を……悔いたりしない そう言う風に康太に育てられた だから……一生と悠太を一緒にしてやるな……」 「………一緒にしてないよ…… でも……流生を抱っこしている一生を見ると…… 辛いんだ…… 悠太とダブって……悠太は辛くないのかな?って想っちゃうんだ……」 「辛いからって引き返せる道なんてないのは…… 聡一郎が一番知ってるだろ?」 「………っ!!!…………知ってるよ……」 「だったら逝かなきゃ 辛くても泣きたくても……逝くしか出来ない その道を選んだのは本人だろう? 一生は………俺に言った ………親だと一生名乗らない覚悟だと…… 康太は何時か名乗れと言った だが……一生は我が子を……迷わす事はしたくねぇ……と魔界に逝くまで黙って逝くと決めている 魔界に逝っても……名乗りはしないだろう 次代の赤龍として育てたとしても…… 一生は名乗る事はしない そう決めて生きている……きっと悠太もそうだと想う」 「…………悠太はやっぱ……康太の弟だね…… 康太が育てた子だ…… それが……僕には辛くて……仕方がないんだ」 「だったら言うか? お前の父親は悠太だと教えるか?」 聡一郎は首をふった 「………それはしない約束だもの……出来ない……」 「それは誰との約束?」 「悠太が康太と決めた約束 悠太は康太の言う通りにするよ…… 決して兄を裏切らない……」 『慎一君……俺は罪を犯した 康兄を愛しすぎて……苦しくて逃げた そして……優しい人を苦しめた…… 康兄は……優しい人の身の振り方も支えてやったんだろうな…… だから俺はもう二度と……康兄を裏切ったりしなくないんだ…』 瀕死の重傷の悠太が慎一に語った想いだった 兄しか愛せない悠太と…… 康太が総ての聡一郎 似たもの同士が……互いを求め……寄り添い合った 「聡一郎、あんまり泣くと…目が腫れる……」 「止まらないんだもん……」 大概……慎一に甘えてる 解っているが……慎一の包容力の大きさに…… 甘やかされ……寄り添いたくなる 慎一は聡一郎の手を引いてキッチンに向かった 椅子に座らせると慎一は聡一郎の前にケーキを置いた そして淹れ立ての紅茶を置いた 聡一郎は決意も新たに……永遠と向き合うと決めた 我が子なのだ 血は繋がらずとも我が子なのだ 愛して、育てると決めた ………あの日の心を忘れたわけじゃない 「慎一 ありがとう」 「どういたしまして…… 最近、俺の息子は反抗期に突入して…… 家出中だ……俺も親の自信なんて皆無に等しい……」 「………家出って……何処へ?」 「………蓮んち!」 「………蓮って相場師の?」 「そう……和真は蓮の家に、和希は菩提寺に……」 「………それって修業じゃないの?」 「…………そうとも言いますけどね…… 俺の知らないうちに逝かなくても……」 慎一は拗ねていた 「………慎一、北斗は?」 「北斗は一生と馬の調教の訓練で白馬に行ってます」 「…………学校は?」 「休んで行きました……相談も報告もなしで…… 父の日……忘れてるだろうな……」 「絶対に忘れてないよ! 慎一……拗ねてるだろ?珍しすぎる……」 「………拗ねてません!」 絶対に拗ねていた…… 聡一郎は笑っていた 康太に慎一が拗ねてるって教えなきゃ! 珍しくて、聡一郎は慎一にも悩みがあるんだと想った 悩みのない親なんていないんだと…… 初めて解った 聡一郎は気分が楽になった 聡一郎は飛鳥井建設へ向かう前に保育園へ向かった 保育園の前には玲香がいた 「義母さん」 聡一郎が声をかけると玲香は嬉しそうに笑った 「聡一郎、烈を連れ帰ってくれるのかえ?」 「そうです」 「なれば、烈を連れ帰ってたもれ! 我は瑛智と美智留と匠を連れ帰るから」 「義母さん、瑛智と烈は僕が連れ帰りますよ 歩けるようになったけど、大変ですからね」 「頼めるかえ?」 「大丈夫です!」 聡一郎はそう言い、烈と瑛智を歩かせて、駐車場まで逝くと、後部座席に乗せた 後部座席には既に永遠は座っていた 永遠は瑛智と烈を見て笑っていた 瑛智が永遠にチュッとした 烈も永遠にチュッとした 三人はまるで兄弟のように育ち仲良しだった 椅子を固定して、ベルトを確かめると 聡一郎は運転席に戻った 三人は仲良く何だか話していた 瑛智と烈と永遠は………何処かしら似ていた 流石、飛鳥井の血を引く三人だった 聡一郎は「そっか……清四郎さんは源右衛門の息子か……」と今更ながらに烈の中にも飛鳥井の血が流れているのを実感した 飛鳥井の駐車場に車を停めると、玲香も子供達を下ろしている所だった そこへ榊原が運転するヴェルファイアが駐車場に入ってきた 榊原は車を停めると 「義母さん、聡一郎、今帰りですか?」と声をかけた 玲香は顔を曇らせ……「修業か?」と問い掛けた 「はい!今終わって帰って来ました」 「………そうか……」 後部座席のドアを開けて子供達を下ろすと、子供達は玲香の処へと走って行った 「ばぁちゃ!」 玲香の顔が綻ぶ 翔はまた傷だらけだった 康太は「翔、顔見せがまだ残ってる!着替えて来るぞ」と言い、翔を連れて行った 玲香は「顔見せ?」と榊原に問い掛けた 「康太は次代の飛鳥井家真贋の顔見せをしているのです……」と説明した 「………早くはないか……」 「………康太には時間はないので……」 「………っ……そんな事を言うでない……」 玲香は目頭を押さえた 「義母さん……何も謂わないでやって下さい」 「………真贋の事を我は何か言える立場にない……」 それが飛鳥井の家風だった 真贋の言葉は絶対 一族の者はそうして真贋を護り、今世まで存続させた スーツに着替えた康太と翔は迎えに来た車に乗って出掛けた 兄弟は淋しそうだった 聡一郎は何も言えず、永遠と部屋へと帰った ボーッとしていると永遠が聡一郎を撫でてくれた 「とぅちゃま いたいにょ?」 「痛くないよ永遠…… ありがとうね」 「とぅちゃま……修行 したいれちゅ」 「………修業?……永遠がするのかい?」 「修行……流生達 行ってる」 「………永遠、自分がしたいのをすれば良い 自分で決めるんだ……自分で決めたなら辛くても辞めたらダメだよ?」 「………はい!」 「だけど、まだ良いよ 瑛智や烈達が淋しがるよ?」 「そうか……」 「君はまだ子供で良いよ 子供でいてよ…… ずっとずっと……僕の子供でいてよ……」 聡一郎は永遠を抱き締めた 倍速で生きている康太の想いは誰よりも解る 遺さねばならない…… 飛鳥井の家の為だけに生きる康太の…… 進む道は過酷だ 翔の生きる道も過酷だ…… 子供らしさを……捨て去り 無理矢理大人の服を着せられ…… 生きていかねばならないのだ 「愛してるよ永遠…… 君は僕の大切な宝物だ……」 許される限り…… ゆっくり大人におなり…… 聡一郎は永遠を抱き締めて泣いていた 永遠はそんな聡一郎の想いが…… 抱かれた腕から伝わり…… 縋り付いて……顔を埋めた まだ子供で良いと言われた日 永遠は泣いた 今まで我慢した分……泣いて泣いて…… 泣き疲れて寝た

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