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第26話 美容院
そこは………ハサミを持った………
恐ろしい人がいる………
ブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブル
それは……
この人の一言で始まった
「ん?おめぇら……何か毛が伸びたな……」
康太が言うと榊原が敏感に感じ取り
「では美容院に行きますか?」と言い
「慎一、コオとイオリとガルを美容院に連れて逝くので、予約頼みます」と美容院に逝く算段を付けた
慎一は「はい!直ぐに予約を入れます」と言い電話をかけに行った
暫くして戻ってきて
「予約取れました
2時には来て下さいとの事です
それとガルは初めてなので毛質とか調べさせて下さいとの事です」
慎一の言葉に康太は
「ガルってイオリと一緒の毛質じゃねぇのかよ?」
と何気ない質問を投げかけた
慎一はガルの傍に行き、ガルを撫でて、イオリを撫でた
「………一緒……ですよね?」
「だろ?ガルってシュナウザーって言ってたよな?」
「スコティッシュテリアと言ってました」
「………そうか……同じ顔だから……シュナウザーかと思ってた」
何気に酷い一言を言い、康太はガルを撫でた
飛鳥井に来た頃より、ガルは少し育っていた
顔は……イオリによく似ていて、ハッキリ言って見分けが付かない程だった
一緒に暮らすと顔が似て来ると言うのは本当かも知れない
長い間共に生きてきた夫婦が似る様に、犬も共に生きていると似るのか?
ガルは本当にイオリに酷似していた
ガルは父に甘える
イオリはガルを舐めてやる
躾に厳しいのはコオの方だった
『家でやってるのは外でも出るんだぜ!』
と、何処に出しても恥ずかしくない我が子として教育中だった
『父さん……』
『ガル どうしました?』
『ボク……美容院って行った事ない……』
『………そうか……生まれて半年でしたね君は……』
『ねぇ父さん、美容院って楽しいの?』
『…………慣れれば……楽しいかも……』
あくまでも………慣れれば……の話だ
イオリはコオを鼻で押した
『あんだよ?イオリ』
『母さん、ガルに美容院を教えてやりなさい』
『美容院か?
眠たくなる程に気持ちいいぞ!』
…………嘘……
イオリは信じられない顔をした
ガルは母の言葉を信じて喜んだ
『気持ちいいのかぁ…
早く行きたいなぁ!』
イオリはプルプル顔をふった
一時半になると康太はガルを抱き上げた
『行くぞ!』
そう言うとコオはしっぽを振り
イオリはドヨーンと暗くなった
イオリは誰かに毛並みを触られるのが大嫌いだった
慎一がイオリのリードを持った
榊原がコオのリードを持って駐車場へと向かった
美容院に行くと、顔見知りのワンワン美容院の店長が顔を出した
「康太君 この子が新しい子なの?」
ワンワン美容院 店長の水上悦朗は楽しそうな顔でガルを受け取った
「うわぁ、この手触り凄いよ!」
「コイツはゴマゴマの色で出たからな………
記憶をなくす程の扱いをされて来た」
「……なにそれ!ゴマゴマはスコティッシュテリアじゃないってか!その人達飼い主の資格ないよ!」
水上悦朗は動物病院の一ノ瀬聡哉の友人で、一ノ瀬経由で紹介して貰った店だった
「なら、ガル君からやるか!」
ガルは水上に連れられて台の上に乗せられた
『………え?……何するのぉ?』
ガルは水上を見た
すると………
「さぁ、始めようね」
ハサミをシャキシャキ動かしながら………
水上は言った
こっ………怖い……
ボク……殺されちゃうの……
「さぁ綺麗になろうね!」
眼光鋭く言われて………
ガルは………ショッー………とチビッた
「大丈夫!後で洗おうね!」
何もなかった様に水上はガルの毛をカットし始めた
康太は「………トラウマにならなきゃ良いけどな……」と呟いた
榊原は「トラウマになるでしょうね……」と脅えまくるガルを見て……
この次からは美容院と言ったら来ないだろうな……
と想った
ブルブルブルブルブルブルブルブル
ブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブル
ブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブル
…………恐いよぉ……
震えるガルにはお構いなしで、水上は伸びきった毛をカットして行った
隣の台にコオが乗せられて、お姉さんにカットされていた
『………お母さん……気持ちよさそう……』
母の偉大さを……初めて知った
ガルは綺麗にカットして貰い、お風呂に入れて貰った
それて終わり、次はイオリとなった
水上の瞳が鋭く光る
「流石チャンピオン犬、この毛触り……凄いね」
イオリはプルプル震えていた
イオリは触られたくなんかなかった
出来るなら伸びっぱなしでも構わない
それでも……父の威厳は護りたかった
父さんは大丈夫だとガルにアピールしつつ
水上の瞳が怖かった……
隣を見るとコオが気持ちよさそう寝ていた
爪を切られてるのに……
コオは寝ていた……
イオリはコオの偉大さを実感した
『僕の妻はやはり一味違いますね』
誇らしい気持ちになる
水上にあっちこっち触られ……
耐えて……カットされた
洗って貰って、爪を切って貰って……
その日は終わった
終わってイオリはため息をついた
毎回……どっと疲れる
イオリは美容院が大嫌いだった
『………僕もお姉さんにやって貰いたい……』
呟くと水上が瞳を光らせ
「イオリ君、次も僕が綺麗にしてあげるからね!」
と言われた
ガルはずっと震えていた
『………美容院……怖い……殺されるぅ……』
康太がガルを抱き上げると……ガルはショッーとチビッた
榊原はピキッとガルを睨み付けた
この人………めちゃくそ怖い……
ガルをつまみ上げる榊原にガルは震え上がった
恐いよぉ~
助けてぇお母さん……
ワンワン鳴く子犬をコオは舐めてやった
『………んとによぉ……大人げねぇだろうが……』
コオはそうボヤいた
イオリは『……コオ……ダメですよ……』と止めた
『ボク……もう美容院には行かない』
ガルは心に誓った
生まれて半年のガルには…
ハサミをシャキシャキ持った人間が………
恐ろしかった
チビッて睨みつける…飼い主も
恐ろしかった
ブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブル
ブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブル
ブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブルブル
美容院
そこはハサミを持った人間がいる……
恐いよぉ……
二度と行かないと心に決めた
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