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第28話 雪です

僕は雪です 生まれてすぐに喋った鬼です 炎帝が鬼である僕と、人間の体とを離してくれました 僕の姿でも……ちゃんと生きられる場所に炎帝が送ってくれました 魔界という場所は、人間の世界と違って…… 僕の姿でも生きられる場所でした 僕は、僕のいられる場所をくれた炎帝に仕えようと想いました 閻魔様に話したら良かろう……と場所をくれました その日から僕は炎帝に仕える事になりました 炎帝の家にいると、炎帝はいないのに尋ねて来る人が多いのです 毘沙門天さんも、その一人です 毘沙門天さんは人の世を守護する倭の国の神様なのだそうです その毘沙門天さんが先日…… 毘沙門天 と書かれたTシャツを着ていたのです 「…………毘沙門天さん」 「なんだ雪?」 コウモリのスープをカッ食らい、毘沙門天さんは返事をしました 「そのTシャツ、如何したのですか?」 「お!これか?このTシャツは自分で作ったんだよ!」 「…………え?Tシャツを作るのですか?」 「おー!俺は人の世で金持ちの守護をしているからな 欲しいのは言えば結構、買えちまうんだ」 「毘沙門天さん、雪も欲しいです」 「お!良いぞ!どんなのが欲しいんだ?」 「『赤いの!!』って書いたTシャツです」 「………赤いの?………赤いのって言ったら俺には…… 赤龍しか思い付かねぇけどな………雪が欲しいなら作らせるぜ! 何時も上手ぇ飯を食わしてくれるからな!」 「毘沙門天さん」 「何だ?」 「五枚位……って言ったら怒りますか?」 「怒らねぇって!安心しろよ! で、文字は何て入れるんだよ」 言われて、雪は紙に書き始めた 『赤いの!』 『黒いの!』 『金色の!』 『あまちゃん♡』 雪は嬉しそうに紙に書いて毘沙門天に渡した 「…………雪よ……」 「何ですか?」 「赤いのは赤龍、黒いのは黒龍として 金色の!……は金龍か?」 「そうです!凄いですね毘沙門天さん」 「………でもこの中に朱雀は入ってねぇぞ? 赤い鳥!って………朱雀にやらねぇのか?」 「朱雀さんは少し怖いので‥‥着て貰えるか解らないので‥‥」 雪は困った顔でそう言った 毘沙門天は笑って 「なら俺からと謂う事で赤い鳥!って作っておいてやる! だから安心しろ!」 「毘沙門天さん‥‥」 何時だってこの男は優しかった 優しく雪を護ってくれる優しさがあった 「ありがとうございます毘沙門天さん」 雪は嬉しそうに笑った だが毘沙門天は書かれた紙の最後の文字を見て固まった 「………んで……この、あまちゃん♡って……誰よ?」 「天照大神です」 雪はサラッと言うと………毘沙門天はブンブン首をふった 畏れ多い……… 毘沙門天は青褪めた…… 「天照大神様は時々お茶に来てくれるのです その時にお話ししたらTシャツを欲しいと言われたので、あの方にも一枚欲しいのです」 毘沙門天はドッと疲れて……… 「良いぞ!作ってきてやる!」と約束してくれた 「………毘沙門天さん」 「何だ?」 「………蒼いの!って……作ったら……ダメでしょうか」 「………お前が渡せるなら作ってきてやるぜ!」 毘沙門天は雪の頭をポンポン叩いた 毘沙門天は何時も優しかった 決して嘘はつかない 子供だとて、軽視しない そんな毘沙門天が雪は大好きだった 「………あの方……恐いです……」 「……だな……俺も怖い 睨まれたらチビリたくなるもんな…… 炎帝も何であんな恐ろしいの好きなんだろうな」 「炎帝は青龍の事を話す時、物凄く幸せそうな顔をします…… 長らくの友である黒い方にも優しい顔しますけど…… やはり蒼い方とは雲泥の差ですものね」 「雪、おめぇは好きな奴いねぇのか?」 「いません………毘沙門天さんは?」 「………俺か?………俺は………手が出せねぇ奴を想っている……… 想うのは自由だ…… 俺は……其奴だけ愛していれば良いと想っている」 「………羨ましいですね 雪も……誰かを愛せたら……良いなと想います」 「愛せるさ……雪だけを愛してくれる奴 絶対に出て来るさ そしたらお前の主みたいに寄り添い合って生きていけ」 「はい。ありがとうございます」 毘沙門天はニコニコと笑って雪を撫でた まるで弟のように雪が可愛らしかった 何時か………誰かを愛して 誰かと共に生きて逝け…… 雪の幸せを願う 雪の幸せだけを願い胸を押さえた 「毘沙門天さん、また来て下さいね! 毘沙門天さんの好物を沢山作りますからね」 「あぁ、今度来る時はTシャツを持って来るな」 約束した 約束した以上は毘沙門天は来てくれる そう思うと雪は嬉しかった 毘沙門天がいつ来ても良い様にお買い物に逝く 時々、狩りもする 炎帝の馬が暇そうにしてるから狩りに逝く すると炎帝の馬は風馬に雪を乗せて狩りをする ものの見事な狩りをして雪に獲物を取ってくれる それを調理して夏海に分けてあげる そして毘沙門天が来るのを待つ 来ない時は……遊びに来た黒龍達と食べる 誰か彼か遊びに来てくれるのだ 最近はカリウスと廉も来てくれる 魔界の事を教えてやりつつ、雪も楽しんでいた そしてやって来た毘沙門天に料理を振る舞う 雪は毘沙門天の膝の上でうとうと寝ていた 毘沙門天は雪を膝の上に乗せたまま酒を飲む 何時ものことだった 雪との約束のTシャツを持っていってやった 『雪』と書いたTシャツも手の上に乗せてやると雪は嬉しそうに笑って、そのTシャツを着た 「渡せると良いな」 毘沙門天は膝の上の雪を撫でながら…… そう言った そのTシャツがみんなの手に渡ったと、教えくれたのは……… 閣下の訃報を伝えに魔界に来た時だと…… 雪は言った 「そっか……渡せたか良かったな」 「他に欲しいのはないのか?」 「ありません! 雪は何も望んではいけませんから」 「んな事……言うな…… 頼むから……何か欲しいって言ってくれ…」 「なら井筒屋の沢庵が食べたいです」 「なら今度来た時に買ってきてやる」 「ではその時は御飯を炊きますね!」 「お!白飯か!良いなそれ」 毘沙門天は嬉しそうに言った 雪との時間は……毘沙門天の楽しみの一つだった 何も望まぬ子を……甘やかしてやりたかった 雪が望むだけ…… 傍にいてやろうと思った しかし………青龍が蒼いの!と書いたTシャツを受け取るのか…… 受け取ったとして……着るのか? 毘沙門天は考えて笑った 雪を膝に寝かせて飲む酒は美味かった

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