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第35話 花火
康太は子供達と屋上に出て花火をしていた
今年の花火大会は……
流生が熱を出して寝込んで行けなかった
流生はみんな楽しみにしていたのに……
寝込んでしまったのを申し訳なく想って落ち込んでいた
だから花火を買って来て、屋上で楽しむ事にしたのだ
「かぁちゃ ちれいね!」
音弥が笑って康太に言う
翔も笑って「ちれい!ちれいね!」と楽しんでいた
太陽と大空も「「ちれい!」」と飛び上がって見ていた
流生は榊原の後ろに隠れて……それを見ていた
「りゅーちゃ おいれ!」
翔が流生の名を呼ぶ
だけど流生は首をふって……行こうとはしなかった
そこに兵藤がやって来た
「お!花火やってんな!
もっと大きいのを見せてやるから一緒に来るか?」
顔を出すなり言うと子供たちは兵藤に抱き着いた
だが……流生は榊原の後ろに隠れて……兵藤に抱き着くのを我慢していた
兵藤は流生に近寄り抱き上げた
「どうしたよ?流生」
流生は涙を溜めて兵藤を見た
「………りゅーちゃ……みんにゃにょ たのちみ……らめにちた……」
流生は泣きながら兵藤に訴えた
兵藤は流生の頭を撫でて
「それはおめぇが悪い訳じゃねぇだろ?」と慰めた
そして笑って流生を下ろすと手を繋いだ
「俺がお前達に花火を見せてやるよ!
だから俺と来い!」
「………はにゃび?」
「そう。花火!行くか?流生?」
「いきゅ!ひょーろーきゅん ちゅれてっちぇ!」
「うし!行こうな!
ほれ、翔、音弥、太陽、大空、行くぞ!」
兵藤は他の子にも声を掛けた
そして康太に向き直ると「行くぞ康太」と笑った
康太は「なぁ烈と瑛智も良いか?今 京香が妊娠中だから大変なんだよ」と他の子も連れていかねばならない事を告げた
「おー!誰でも良いから連れて行って良いぞ!」
「で、何処でやってるんだよ?」
「桜林の校庭に行くんだよ!」
兵藤は嬉しそうにそう言い、子供たちと手を繋ぎ歩き出した
康太は榊原と共に烈と瑛智を連れて玄関へと向かった
一生と慎一はコオとイオリとガルを連れて逝く事にした
外に出ると笙と出会した
笙は康太に「何処へ行くんですか?」と問い掛けた
「笙、うちに用かよ?」
「流生が寝込んでいたでしょ?
だから様子を見に来たんですよ
美智瑠と匠も心配していたんで連れた来たんです」
「清四郎さんと真矢さんは?」
「一緒に来てます
美智瑠が走り出したんで少し早く着いてしまったんです」
言ってる矢先に清四郎と真矢がやって来た
康太はそれを見て「なら逝くか?貴史、増えても大丈夫か?」と問い掛けた
兵藤は「大丈夫だ、静流を待たせてるからな……行くぞ!」と急かして歩き出した
「……静流……いるのかよ?」
「アイツが発起人だからな」
「……貴史……話が見えなーず!」
康太は説明を要求した
仕方なく兵藤は説明した
「事の発端は静流が俺の快気祝いをしてやるって話だったんだよ
だけど、流生が熱出して花火大会に行けなかったのを知った静流が『桜林のグラウンドで花火を見ないか?』と在校生やOBを巻き込んで動き出したんだよ
で、何とかド派手なのを打ち上げれる所まで来たからな呼びに来たんだよ
さぁ俺の快気祝いとお前んちの子の為に上げる花火を見に行こうぜ!」
「……あんで、うちの子が花火を見れなかったって知ってるのよ?」
「桜林の奴なら殆ど知ってるぜ?
何せ一生が呟くからな……知らねぇ奴はいねぇんじゃねぇか?」
「………何かイマイチ解らねぇけど……
子供達に花火を見せてやれて良かった
ありがとうな貴史」
「礼は漕ぎ着けた奴等に言ってやってくれ!」
「みんなにも言う
貴史には一番最初に言う」
兵藤は笑って歩き出した
そして疑問を口にする
「………京香さん……妊娠してるんだ?
翔が最期じゃなかったのかよ?」
「そのつもりだったけどな……二人の愛が深まって、その結果だかんな」
「お前の果てが狂わねぇのかよ?」
「大丈夫だ……今度こそ……自分達の手で育てる子を……与えてやりてぇからな…」
康太の愛は深く……
家族を想っている
「瑛智は?」
「アイツは飛鳥井の次代の社長を継ぐ者だかんな」
「そっか……瑛智が次代の社長だったな…
それより花火だ!康太 行くぞ!」
兵藤は、そう言い走り出した
子供達も負けずに走り出した
桜林のグランドまでは直ぐに着いた
校庭に着くと、清家が駆け寄って康太に抱き着いた
「逢いたかった!」
歌舞伎を海外の人たちに知ってもらう一貫として毎年海外公演がある
その一員に選ばれて3ヶ月
海外で過ごしていたのだ
日本に未練はないが、康太には逢いたくて堪らなかった
康太に抱き着き、やっと日本に還ってこれた……と実感する
清家が康太を抱き締めて浸っていると高坂海王と陸王が近寄ってきた
海王が「康太さんまた流生君達に逢いに行きますね」とスリスリして
陸王も「夏休み中飛鳥井で過ごしたい……」と甘えた
康太は「良いぞ!夏休み中飛鳥井で過ごせよ」と了承した
「子供達と遊んでくれてるんだろ?
何時も悪いな」
「康太さん、俺ら本当に楽しいんだ
だからこれからも遊ぶのを許してほしいんだ」
「流生達がそれを望んでる
それ以上誰に許可がいるんだよ」
「「康太さん…」」
流生が海王の手を取り「きゃい!」と名を呼んだ
「お!りゅーちゃん、どうしたの?」
海王は年相応の顔をして流生に笑いかけていた
「「「りくちゃ」」」
太陽と大空と音弥が言うと陸王は笑って「なに?」と問い掛けた
抱き着いてくる子供が愛しいと想った
陸王は子供達を抱き締めて翔を見た
「翔君、また怪我したの?」
背負うものが大きい翔に何時も気にかけて声を掛ける
翔は笑って「らいじょうび!」と言うのだ
陸王は翔の手を引き、抱き締めた
兵藤は海王と陸生に
「おめぇら仲良いんだな」と声を掛けた
「暇があると飛鳥井に逝って遊んでますからね」と海王が答えた
清家が「花火、始めますよ!」と声を掛けると
ドカッーンと音をたてて花火が打ち上がった
真矢は海王と陸生に「また劇場に来てね」と声を掛けた
清四郎も「私も今度大きな映画を撮ります。映画の撮影の見学に来なさい」と声を掛けた
海王と陸生は「はい!楽しみです」と答えた
あの日……康太に救われた日以来
清四郎や真矢は何かにつけて気にかけて誘ってくれる様になった
玲香も何かあれば必ず声をかけてくれる
白馬に一緒に逝く約束も出来ていた
流生達は花火を目を輝かせて見ていた
悠太が康太に近寄って「康兄、綺麗でしょ?」と声を掛けた
「静流にコキ使われてたのか?」
康太は悠太を見て笑った
「お役に立てて良かったです」
悠太はそう言い恋人の横に立った
聡一郎は「お疲れ」と言い悠太の手を取った
見つめあっていると「悠太、置き去りは酷いよ!」と言う声がした
振り向くとそこには力哉がご立腹だった
一生は力哉に「どうしたのよ?」と声を掛けた
「悠太が手伝ってくれと言うので、花火の搬入を手伝ってました
なのに……自分だけ恋人の所へ行こうなんて百年早いです!」
力哉が悠太の手伝いをした?
何かピンッとしない
そんな顔してると力哉は笑って
「悠太はまだ足を引き摺ってるので、学校の送り迎え
僕がしてるんですよ?知りませんでしたか?」
「………知らなかった」
「僕が気になるからしてるだけですけどね」
力哉が言うと悠太は「凄く助かってるよ力哉君、ありがとう」とお礼を述べた
「悠太は僕にとっても大切な弟ですからね」
気にかけて当たり前だと力哉は笑った
聡一郎はそんな力哉を抱き締めて「ありがとう」と言った
「聡一郎、最近食べてます?
肋が刺さってますよ?
ちゃんと食べないと久遠先生に怒鳴られますよ」
「……それは嫌だ……」
「君は注射嫌いでしたね
なら尚更です!ちゃんと食べるんですよ」
「解ってるよ
力哉が美味しいクレープ屋に連れてってくれれば良いんです!」
「連れてきますよ、でもご飯もちゃんと食べるんですよ」
「食べるよお兄ちゃんがうるさいもんね!」
聡一郎はそう言い笑った
力哉は「………うるさかった?」と不安そうな瞳を向けた
「嬉しいに決まってるでしょ?
お兄ちゃん、大好きですよ!」
力哉は赤い顔して嬉しそうに笑った
力哉と聡一郎の間に隼人が割り込み
「ずるいのだ!」と拗ねた
力哉と聡一郎は笑って隼人を抱き締めた
その姿は兄弟の様に仲良く見えた
子供達は花火に釘付けになった
花火の音に近所の人や、花火を目撃した人が集まりだした
見知らぬもの同士
美しい花火を楽しむ
そんな奇妙な縁を目で追いながら、康太は花火を見ていた
真矢は「綺麗ね康太」と、花火を見ながら声を掛けた
「………ええ……綺麗だな義母さん」
「………京香……妊娠してるのね
もう妊娠しない筈じゃなかった?」
「京香は一人目の子は目の前で失った
二人目の子はオレが貰い受けた
三人目の子は飛鳥井の歯車に組み込まれた子だ
だからな今回、京香が身籠ってくれて……
オレは心から安堵した
何者にも囚われない京香だけの子を産ませてやりてぇ
そう想っていたからな……」
「京香はきっとお腹の子も……どの子と変わらない風にしか出来ないわよ
この子は自分だけの子……なんて思う筈ないでしょ?」
「………義母さん」
「京香よ?康太
あの子は身も心も飛鳥井の女であろうと願っている
そんな子がこの子は特別……なんて育てる筈ないでしょ?
ましてや飛鳥井に何の関係も持たない子だって知れたら……悔やむかも知れないわよ?」
全くその通りだった
京香は妊娠した時、康太に問い掛けたのだ
『康太……我は身籠った
翔で最期なのではないのか?
ならば……我はこの子を下ろした方が良いのか?』
飛鳥井康太の果てが狂うのであれば……
京香の想いは……総てが飛鳥井康太の為に在る
『……何者にも囚われない自分だけの子を産めよ』
康太はそう言った
『それは要らぬ康太
我の子はどの子も同じ
お前の子も我の子も総てが愛おしい子じゃ
区別などつけれぬ』
京香らしい言葉だった
『産んでくれよ京香』
『それではお主の未来が狂わぬのか?』
『大丈夫だ
その子は瑛兄と京香が本当に愛し合って望まれて出来た子だ
オレは言ったよな?
そんなに仲が良いならもう一人位出来そうだな……って
瑛兄はなら頑張りましょう……と言い頑張った結果だ
オレはな京香
お前達の子を逝かせてしまった
そればかりか…取り上げて親だと名乗らせる事も禁じた……
飛鳥井の歯車に組み込ませてしまった子を産ませた事を……何時も悔やんでいた
だから……その子はオレを救ってくれた子でもある』
『康太……我は琴音の事以外で悔やんだ事などない
その琴音の魂も……音弥の中にいると想えば……
我はお主の子達が愛おしい……
だから悔やむでない康太
我は幸せだと申しておるであろう
そうか、また子を産んでもよいのか』
京香はそう言い菩薩のような慈愛に満ちた顔で笑った
母は強い
母と言う生き物は何故こうも強いのか……
康太はそう思った
「義母さん……母と言う生き物はどうしてあぁも強いんだろうな……」
「それは子供を護る為に強くなろうと願うからよ
康太、貴方も強い母じゃない
我が子の為に日々生きてる姿は、どの母親にも負けてないわよ
私は本当に康太に我が子を託して良かったと想っているの
康太の子はどの子も可愛いわ
そして我が子を護る康太はどの母親にも負けてない」
真矢はそう言い康太を抱き締めた
康太は……その言葉を聞いて胸が熱くなった
烈がヨチヨチ歩いて康太の足に止まると、康太は烈を抱き上げた
「烈、花火だぞ」
「びー びー」
最近烈は少しずつ話をするようになっていた
兄がいると口が達者になる
「かぁーかぁー」
すり寄る烈が愛しかった
烈の容姿は飛鳥井の人間に近い容姿になるだろう
真矢は康太の手から烈を受け取ると「烈」と名を呼んだ
烈はニコッと笑って真矢の腕から下りる仕草をした
真矢は烈を下ろすとヨチヨチ行く姿を見送った
烈は慎一の足に掴まった
「にーにー」
「烈、どうしたんですか?」
慎一は烈を抱き上げた
花火を見上げて「烈、綺麗でしょ?」と問い掛ける
烈はニコニコ笑って甘えていた
太陽と大空が真矢の手を握った
真矢は嬉しそうに「あら、太陽と大空 どうしたの?」と問いかけた
「ばぁたん」
「ちれいね!」
太陽と大空はそう言い花火を見上げていた
清四郎は翔の傍に行き、傷に触れた
「痛いですか?」
翔は生傷が耐えない
口を出す気はないが……
こんな小さいのに背負うものの大きさに……
支えてやりたいと思うのだった
「いちゃくにゃいよ、じぃたん」
「無理はダメですよ」
「………わかっちぇる……あいがと…じぃたん」
翔は、はにかんで笑った
兄 一葉に似た顔に胸が熱くなる
兄さん……貴方の傍にずっと行きたかった……
清四郎は兄を想っていた
すると清四郎の横に瑛太が寄って行った
「……瑛太……」
「一生が桜林の校庭で花火をあげていると言ったので
見に来ました
綺麗ですね……今年は花火は諦めていたので嬉しいですね」
花火に照らされた横顔は夢を語っていた兄に酷似している
当たり前だ
榊原一葉 その人なのだから……
「瑛太……」
清四郎は瑛太の名を呼んだ
瑛太は優しく笑うと「帰りは飛鳥井に寄って下さい」と口にした
瑛太は携帯を取り出すと妻に「皆を連れて帰るから宴会の準備をして下さい」電話を入れた
「清四郎さん、伊織悲願の映画化決定おめでとうございます」
「ありがとう瑛太………私はまだ役者として走れるのかな?」
少し気弱に心の内を吐露する
「走れますよ清四郎さん
ずっと………ずっと……応援していますから……」
まるで……兄から言われたような言葉に……
清四郎は目頭を押さえた
花火をクライマックスを迎えると、清家はマイクを持った
「飛鳥井康太、兵藤貴史、お前たちの為に皆が協力してくれたのです
後で礼を述べて下さいね!
皆が賛同して協力してくれたからこそ、成し遂げる事が出来ました
だから今日の日を迎えられた
本当にご協力感謝いたします!」
清家はそう言いマイクを二人に差し出した
康太がそのマイクを手にした
「ありがとう!」
大きな声で康太は叫んだ
「この花火を打ち上げるに当たって、ご協力して下さった方々
人力下さった皆様
本当にありがとうございました
皆はどんな風に聞いてるか知らねぇけど……
オレには6人の子供がいる
その子供の一人が熱を出して花火大会に行けなかった
今年は諦めてたから……子供に見せてやれて凄く嬉しい……
こうして仲間や子供達と学舎で花火が見れるとは思ってはいなかった
本当にありがとう……凄く綺麗だった
今日、こうして花火を上げるに当たって皆が協力してくれ、上げる事が出来た
そう思うと胸が暑くなります
皆、本当にありがとう!」
康太はそう言いマイクを兵藤に渡した
兵藤はマイクを受け取ると、皆を見渡した
そしてマイクを持つとニカッと笑った
「……ありがとう……この花火を打ち上げるために協力してくれた総ての人に感謝します
もう既にご存知の人もいると想うが、俺は刺されて入院を余儀なくされていた
治った祝いを清家静流がしてやると言ってくれた
清家は康太の子が花火大会に行けなかった事を知って、俺と康太の子が心に刻める花火をあげてくれた
ありがとう静流
お前は本当に俺の右腕だ
その調子で大学の運営も手伝ってくれるつもりなんだな!ありがとう静流!」
兵藤は嬉しそうに言うと清家は
「冗談じゃありません!
大学まで貴方のお守りは御免です!」と辞退した
「素直じゃねぇな!
もう受理されてるし、伊織も役員の仲間に入れといたし、我らの底力を見せてやろうぜ!
伊織、上に上がって来いよ!」と言った
榊原は烈を抱っこしたまま、壇上に上がった
兵藤は榊原にマイクを渡した
榊原はマイクを受け取ると「ブーブー」と烈がマイクを掴んで喋った
花火を見に来た人々は、我が子を抱く榊原に魅入っていた
子供を抱っこしていても絵になる男だった
榊原は烈からマイクを取り上げると
「兵藤貴史、もう体躯は大丈夫ですか?
これからは絶対に刃物の前に飛び出すのは止めて下さいね!」
と労りつつ釘を刺した
その場に居合わせた人々は笑った
「この花火を上げるに当たって協力してくれ皆様
本当にありがとうございました
流生、おいで」
榊原は流生に手を差し出すと、流生は榊原の所へと走って行った
兵藤が流生を壇上に上げてやると、榊原は流生を見て優しく微笑んだ
「僕の次男になる流生ですが、熱を出して花火大会には行けませんでした
落ち込んでいた所だったので、本当に励みになりました
流生、花火は綺麗でしたか?」
榊原はそう問いかけてマイクを流生に向けた
流生は瞳を輝かせて
「ちれいらった!」と答えた
「ならお礼は?ちゃんと言えますか?」
流生は手をあげて「あい!」と返事した
流生はマイクを握ると「あいぎゃとうごじゃぃまちた」と礼を述べた
飛鳥井流生
彼の顔は……康太の子と言うよりも………
康太は、ちゃんと礼が言えた流生の頭を撫でて
「ちゃんと言えたな、偉いぞ流生」と誉めた
流生は「かぁちゃ」と言い甘えて抱き付いた
そして兵藤の手を取ると「ひょーろーきゅん」と言い声を掛けた
兵藤は流生を抱っこして「ありがとう」と礼を言った
流生も「あいがと」と言い頭を下げた
兵藤は流生と仲が良く、絶対の信頼関係が伺えれた
在校生もOBも、血も涙もない冷徹なコンピューターと呼ばれた男を見た
頭脳明晰な男には感情など存在しないと想われたのに……いやに人間臭くなったものだ
子供達が兵藤目掛けて走ってくる
兵藤は両手を開いて子供達を抱き締めた
どの子も……面影のある顔をしていた
康太は子供達の前に立つと
「隠して通せねぇからな……公表する
オレの子供達だ!
幼稚舎に通い始めた
以後、お見知り置きを。」
そう言い康太は深々と頭を下げた
榊原も康太の横に立ち頭を下げた
子供は榊原の事を「とぅちゃ」
康太の事を「かぁちゃ 」と呼んでいた
六人の子供は間違いなく飛鳥井康太と榊原伊織の子供達だった
お礼を言い帰り支度をしていると佐野春彦が康太の傍に寄ってきた
「康太」
「彦ちゃん、元気かよ?」
佐野は康太の回りにいる子供達に目を向けて………
「………多くない?」と問い掛けた
康太の子は六人なのに1.2.3...7??
七人いたりする??
康太は笑って瑛智を抱き上げて佐野に渡した
「この子は瑛兄んとこの子だ
京香が妊娠中たかんな面倒みてるんだよ」
それで納得
「……瑛太の子か……」
瑛太の子よりも翔の方が瑛太に酷似していた
そして何故か烈も、瑛太に似た姿をしていた
二人は並べば兄弟だと納得の容姿だった
「瑛智は源右衛門の父親に似てるんだよ」
「………そうなんだ」
「………翔は……瑛兄に瓜二つだろ?
後、烈、どうして似てるか不思議なんだろ?
元は同じ血を与し者だからな、似ても不思議じゃねぇんだよ!
清四郎さんは源右衛門の息子だからな」
「………返答に困るの知ってて言ってるだろ?康太」
「ん!でも疑問に答えてやってるのは確かだぜ?」
清家は「ラスト十連発!」と叫ぶと花火は連続で打ち上げられた
そして花火は終わった
「これにて、兵藤貴史快気祝い、飛鳥井康太の子に見せる花火は終了いたしました!
皆様、ご協力本当にありがとうございました!
お気をつけてお帰りください」
清家はそう言うと現生徒会役員達にマイクを渡した
現生徒会役員達は片付けを始めた
葛西繁樹が康太の所へとやって来ると深々と頭を下げた
「康太さんお久しぶりです」
「お!葛西、耳の調子はどうよ?」
「もう何時も通りです
俺、寮に入りました……」
葛西の家は経営不振のまま倒産した
葛西の両親は飛鳥井康太に援助をしてくれる様に話をしてくれと……言った
だが葛西は両親の申し出を断った
両親は飛鳥井康太さえ援助してくれれば……と葛西を責めた
そして……両親は姿を消した
学校から帰ると……両親の姿はなかった
葛西は唖然としていると康太が現れた
そして寮に入れと言ってきた
葛西は断ったが……一人で生きていくには……あまりにも無力な為に……葛西は寮に入った
何時か康太に恩返しする
それが今の葛西を生かしていた
「そうか。お前は何も心配しなくて良い!
今は体躯を治して、学園生活を楽しむ事だ」
「はい!楽しんでます!」
葛西は心よりそう答えた
「何時でも泊まりに来い」
「はい!また遊びに行かさせて貰います」
そう言い葛西は康太を抱き締めると……走って行った
花火も終わり康太は帰る事にした
清家や藤森、海王、陸王も一緒について来た
悠太は葛西に電話を入れた
来ないか?そう言うと葛西は断った
その声は……泣いた後の声だった
葛西が突然寮に入ったと聞いた
詳しい話は知らないが……
何かあったのだと思う
昔 支えてくれたから……今度は自分が支えてやろうと決めていた
悠太は聡一郎に「葛西の所へ行っても良い?」と問い掛けた
聡一郎は悠太に口吻けを落とすと
「着いててやりなさい
僕に康太がいてくれる様に……
君は葛西にいてやりなさい」と言ってくれた
悠太は寮へと向かった
飛鳥井の家は笑い声が何時までも耐えない夜を迎えていた
テーブルの上には源右衛門のコップが一つ
源右衛門が愛した焼酎を注いで
そこに源右衛門がいるように振る舞っていた
源右衛門のコップがカチンッと音を立てて乾杯される
誰もが盃を掲げる前に源右衛門のコップに乾杯した
忘れられない人がいて
忘れられない場所がある
玲香は笑っていた
その顔に……もう涙の跡はない
悔やんで苦しんで……後を追おうと想った日もある
でも自分達が……明日の飛鳥井を見届けるのだと決めた
源右衛門の代わりに護ると決めた
お義父様……子供達も幼稚舎に通うようになって……
凄く成長しましたよ?
烈も歩けるようになり
………京香が身籠りました……
貴方の孫が……また一人増えるのですよ源右衛門……
みなの想いは亡くした人を思い
今を刻んでいた
清隆が思い出した様に
「花火は死者の霊魂を慰める為に上げられているのですよ」
と桜林で花火が上がった事を聞いて、口にした
父さん……
貴方が守ってくれた家族は……
今日も元気に今を刻んでいます……
ありがとう父さん
清隆は胸の中で想いを抱き締めた
康太は家族や子供や仲間や友に囲まれて幸せそうに笑っていた
人の優しさが心にしみる
そんな夏の日の出来事だった
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