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第38話 墓参り ~繋がる想い 重なる想い~

一生は力哉と激しく愛し合っていた 全力で力哉に愛を注ぎ込み…… 力哉の中から抜くと静かに抱き締めた 「……力哉……」 「何ですか?」 「………墓参りに逝こうと想う……」 力哉は信じられない顔で一生を見た 「……本当に?」 今まで何度も墓参りに逝くと言いつつ…… 一生は墓参りに逝けてなかった 父親に対する憎しみが…… 中々……一歩踏み出す勇気を妨げていた 「……もう……憎しみはねぇ……」 でも素直に……父親に向き直る気にはなれなかった 「……一生が墓参りに逝くのなら…… 僕も……母さんと父さんの墓参りに逝くとしましょうか……」 力哉も一度も墓参りには行ってなかった 墓がどこに在るのかさえも……力哉は知らなかった 「………力哉……」 一生は痛々しく力哉を見て抱き締めた 「君はご両親の墓参りに行きなさい 僕は……兄さんに聞いて逝って来ます…」 「……若旦那……教えてくれるか? 逝くときは俺も着いて逝こうか?」 「大丈夫です 頼めば……場所は教えてくれます 君はご両親の墓参りに行きなさい 僕は……僕の両親にやっと逢いに逝けるのです 着いて来ないで下さいね!」 「……力哉……」 「僕は誰も恨んではいません それどころか、僕に康太と引き合わせてくれた運命に感謝したい…… 僕を生んで下さってありがとう…と言葉にしたい」 「………お前は……強いな……」 「僕が強いとしたら、それは一生の愛だろうね」 「………え?……」 「僕に……一生をくれた康太の愛だよ」 「力哉……」 「一生……僕は人らしい感情の総てを止めて生きていた そんな僕の殻を破り、人として生きる事を教えてくれたのは康太だ そして人を愛する想いを教えてくれたのは一生、君です 僕は君と康太と飛鳥井や榊原、康太の愛する人達に支えられて生きている 僕は……人らしい感情を手に入れて、日々を過ごしている 昔の自分じゃ考えられない 昔の僕は……人形も同然でしたから…… だから……こうして生きている自分を……… 見せるのも子供としての義務かなと想えるのです 何も与えてもらえなかった……と恨み言を言うのではなく、僕はありがとうと言います 僕をこの世に送り出してくれて……ありがとう…って…そう伝えようと想うんだ」 一生は堪えきれなくなり…… 力哉の肩に顔を埋めた 「僕は……人として生きるのを止めようと想っていたんだ……」 「……え?……」 想わず顔をあげた一生の瞳は濡れていた 「裁かれる日の為だけに生きてきた 裁かれる日だけを夢見て……生きてきた 裁かれる日が僕を解き放ってくれるんだって…… そう思って日々を生きてきたんだ」 力哉の言葉は…… 悲しく……辛く……一生は涙が止まらなかった 「僕は自分の事をあまり君に話した事はないよね? それは君もそうなんだよ? 君は……僕には何でも話してはくれない」 「………それは……」 力哉を苦しめたくないから…… と言う大義名分もあれば、総てを話して…… 軽蔑されたくはないから……ってのもあった 「君の過去は君の子供の聡一郎から聞いてるよ 聡一郎はいい子だね 君が育てた子にしては良い子過ぎるよね 君の長男は聡一郎なんだね そして姉さんの事は、兄さんから聞いたよ 兄さんね、総て話してくれた後にさ 帰って来て良いから……って抱き締めてくれたんだ」 「………そっか……」 「まぁ僕が気にしてるのが解るから、康太が頼んでくれたんだろうけどね でもさ、僕は君の口から聞いた事しか信じないって決めてるんだ だから何時か……話してね」 寝物語で良いから……話してね 力哉はそう言い優しく一生を抱き締めた そして額に口吻けを落とした 「墓参りに逝った夜 総てお前に話すよ」 「無理しなくて良いよ?」 「無理じゃねぇ……区切りとケジメだ そしてプロポーズだ」 「プロポーズなら僕が言うよ!」 力哉はそう言い、ニコッと笑って 「Please marry me」 と手を差し出した 一生はその手を取り、手の甲に口吻けを落とした 「……クソ……男前やんか……」 「一生、返事は?」 「yes!日本語で言いやがれ!」 力哉は笑って「僕と結婚して下さい」と言った 「日本語で言っても男前やんか!腹立つ! 何、力哉が挿れてぇって事か?」 「違うよ!」 力哉は慌てた 一生は笑って「良いぞ!男だもんな挿れてぇよな!」と言いニカッと笑った 「…知ってて言ってるでしょ? それと…返事は?」 「どちらも『はい!』だ力哉 俺はお前を愛してる ずっと……一人の人を愛して来た…… 許されない愛だったけど……俺は命を懸けて愛した だから……その想いは…無くしたくはねぇ……って想ってる 全身全霊懸けた愛だったんだ……その想いはやれねぇけど…… その想いを越えて、俺はお前を愛している それではダメか? それでは嫌か?………」 「嫌だったら今 僕は君の横にはいないよ 僕は……魘され苦しんでも朝には何もなかった様に……振る舞う君に惹かれたんだからね そんな君を嫌う筈なんかないよ」 「………力哉……愛してる その言葉に嘘偽りはない」 「なら良いよ! 僕を愛してくれれば良いよ 僕の一番はこの先も康太だけ…… 僕は…僕に光をくれた人を忘れない そして君の一番も康太でしょ? だからそれで良い 康太を一番にしてくれない人なんて愛せないんだからね!」 「……俺ら二人…相当の康太バカだからな……」 「それは康太に関わった人たち皆、そうだろ?」 「……だな……」 「だからさ、僕達は僕達の愛を刻もうよ その為に、一生も頑張れ! 過去を許して……見直さなきゃね」 「……俺はお前を愛して、本当に良かったよ! もう少し甘やかしてくれたら、もっと良いんだけどな」 「甘やかしてるでしょ? 聡一郎に何時も言われるんだよ? 力哉は少しあのバカに甘い……って…」 「……聡一郎め……倍返ししてやる! アイツは親孝行って文字を忘れてるな!」 一生はプンプン怒った 「一生……聡一郎ね、お盆には……お墓参りに逝ったんだよ」 「……え?俺、それ、知らなーず!」 「伊織と康太が付き添って逝ったんだよ 帰って来た夜、二人に添い寝されて聡一郎は寝たって言ってた」 「……俺だけ知らねぇの?」 そう言えばお盆に入った日、康太と榊原と聡一郎はいなかった 何処へ逝ったんだ?と探していたらベタベタ甘い二人が手を繋いでデートから帰って来てたっけ…… 「……僕……そんな聡一郎見てさ……羨ましかったんだ 聡一郎は強いなって……羨ましかったんだ 聡一郎にそう言ったら……次は力哉だね……って言ってくれたんだ 墓参りに聡一郎は一緒に来てくれると言ってくれたんだ…… だからさ僕は聡一郎と逝こうと想っているんだ 僕は聡一郎が可愛いよ 弟みたいに可愛いよ 聡一郎も最近、僕を頼ってくれるようになってさ 二人で買い物にも逝くし、美味しいものも食べに逝くようになったんだ 僕は悠太も可愛いよ だからさ花火をやるって頼ってくれた日、協力したいって想ったんだ 一人で登校する悠太の送り迎えも、してやりたいから申し出たんだ 飛鳥井の家族や康太の仲間は僕には大切な家族なんだ そてやれる嬉しさ そして頼られる嬉しさ 僕は康太の子達を見て…… 思い知らされたんだ だから、僕はもう一人じゃない……そうでしょ?一生?」 「……なんか妬けるけど、お前が幸せなら、俺も嬉しい」 「だからさ……頑張ろうね一生 これからの人生よりも重い比重なんてないんだもんね 僕も君も大丈夫だよ もう過去だと……受け入れてるからね……」 「愛してる力哉」 「どうしたの?突然?」 「お前が男前過ぎて欲情した! さてと、朝まで頑張ってみる?」 「無理!無理だって!!」 「俺も無理! 挿れられるよりも挿れてぇって証明しねぇとな!」 「要らない!そんな証明!」 「んで力哉は挿れられる方が向いてるって教えねぇとな!」 「……ゃ……ぁん……これ以上は……あぁっ…深いって……」 力哉は甘く泣かされて…… 後はもう、一生の好き放題にされた どんな事をされても受け入れる それは一生を愛しているから…… 愛の確認は大切な作業だと、何度も何度も泣かされた 意識を手放した力哉を、一生は強く抱き締めて眠りに落ちた 翌朝 力哉は一生が目が醒める前にベッドを抜け出し 支度をして部屋を出た 部屋を出て階下に下りると、聡一郎が力哉を待っていた 「行きますか?」 聡一郎はそう言うと力哉を優しく抱き締めた 「……聡一郎……ありがとう」 「場所は聞いて知ってます 慎一にお弁当も渡されてます 向こうに着いたら食べましょう!」 そう言い聡一郎は力哉の手を引っ張った 力哉は歩き出した 「………聡一郎……君がいてくれて……本当に良かった……」 「僕もね、そう想います 手の掛かる兄さんがいなきゃ張り合いがない」 「聡一郎……」 聡一郎は笑って「帰りに何時ものファミレスに行き、皆を呼び出しますか?」と提案した そんな力哉は笑って「それ良いね」と賛同 二人は……笑顔のまま飛鳥井の家を後にした 車に乗り込み、目的地へと向かう 力哉は目的地がどこに在るのか……知らなかった 聞くのは……怖いから…… 聡一郎に任せて……目的地へと進む 「……聡一郎……ごめんね」 「謝ったら怒りますよ? それでも言いますか? 取り敢えずお尻ペンペンでもしてみますか?」 「…それは嫌だよ……」 「なら謝るのはお止めなさい」 「……そうするよ」 「康太ね、『目的地にはサプライズを用意しておいた』って言ったんですよ」 「……サプライズ? 康太のサプライズは怖いよ聡一郎……」 「………ですね、あの世から本人でも呼び出したり簡単にする人ですからね……」 「………僕は今幸せだから……何も要らないんだけどね……」 「だから、康太は用意するんですよ 力哉が禍根の一根すら遺さないようにね」 「………康太の愛は……大きくて深くて……暖かいね 恩返ししたくても……追い付かないよ」 「彼は恩返しなど望んではいない 昔も今も……あの方の愛は……無償で大きい……」 昔も……と言う台詞は……そこはかとなく長い時なのを、彼らの話を聞いていて……何となく解っていた 聡一郎は力哉の頭を撫でた 「聡一郎……?」 聡一郎は何も言わず、目的地へと車を走らせた 一生が目を醒ますと、力哉は既にいなかった ベッドの上に『頑張れ!』とメモが置いてあった 一生はそれを手にして笑った そしてベッドから下りると浴室に向かい、シャワーを浴びると支度に取り掛かった 支度を終えて階下に下りると、慎一が既に待ち構えていた その横には康太がいた 「……康太?」 一生が呼ぶが康太は無視して、慎一に「頼むな!」と声を掛けて離れた 慎一は「ボーッとしないで!行きますよ!」と声を掛けた 一生は「おう!悪い……」と謝り、慎一が渡した荷物を持った そして駐車場へと向かい車に乗り込んだ 車に乗り込むとき……目に鮮やかな青い花が後部座席に置いてあるのに目を止めた その花は……緑川牧場に夏になると何時も咲いていた花だった…… 慎一は一生が何を見ているか知ると 「それは若旦那からです トナミの倉庫になった今も花壇には……ニゲラ(黒種草)が植えられてるそうです この写真をどうぞ、若旦那からです」 慎一はそう言い胸ポケットから写真を取り出すと一生に渡した 一生は写真を受け取り目にして驚いた まだ……父 緑川慎吾が存命だった頃の牧場だ 母 綾香は慎吾の好きな花を牧場一面に植えていた頃の……写真だった 「………これ……」 「若旦那が馬を始める切っ掛けとなった場所 調教師は既に飛鳥井と契約していて、凄く残念で、その記念に写したそうですよ なので若旦那は今もあの地には、このニゲラ(黒種草)を植えてらっしゃるそうです 墓参りに逝くと言ったら是非にと申し出て、朝一番に田代さんが届けて下さったのです」 「………お袋……この花が好きだったな…… そっか……親父が好きな花だったのか……」 「慎吾さんも綾香さんも好きな花の方が良いでしょ?」 慎一は父親の事を慎吾さんと言う まるで……一生の父親の様に……言う時がある 「……少し……聞いても良いか?」 「ん?何を?」 「お前さ、どうして親父の事を慎吾さんって言うんだ?」 「あぁ、癖だな……俺は母親の事も名前で呼ぶからな… 俺の母親の名前は皆川和美 俺はあの人の事を和美さんと言う 物心着いた頃から……俺にとっては……他人よりも遠い存在だったからな……滅多と母さん父さんと言う呼び方はしなかった…… まぁ呼ぶ事もなかったんだけどな……」 「………あのクソ親父……俺はお前からそう言う話を聞くと堪らなくなるんだ…… お前は『死者に鞭打つな』と言うけど…… 俺は……てめぇの我が儘で人の人生を狂わした親父が許せねぇ時があるんだ……」 「言ってやるな一生 俺も……小さい頃は『父さん』と呼んでたさ でも……あの人が家を出てからは……名前で呼び出した……許せないとか……許してないとかじゃない 俺にとっては……関わりなきモノ…だったんだ 元々俺は前世の記憶を持っているから…… あの方の傍へ逝けないのであれば……意味を成さないって想っていたんだよ 俺は……傲慢で人生を終えた自分をやり直す為だけに、あの方の道を辿ってこの世に生を成した だからな……あの方に仕える事の出来る今が至福の時だったりするんだ だからお前に……遺恨は遺さないで貰いたいんだ 俺は感謝している 俺と言う人間をこの世に送り出してくれた事に、本当に感謝しているんだ だから月命日も欠かさない お前も、今こうして生きているのは両親がこの世にお前を産み出してくれたからだと想えば、腹なんか立たないだろ?」 「……俺は……お前には敵わねぇよ」 慎一は笑って一生の頭を撫でた 「………あんだよ?」 「帰りは皆を誘ってファミレスに行きますか?」 「だな!」 そう言い一生は窓の外を見た 緑川慎吾、綾香の墓石は飛鳥井の菩提寺の片隅にある 本来、飛鳥井の名を持たぬ者に、資格はないのだが…… 飛鳥井に仕えてくれた者だから……と、許された一画だった 車は飛鳥井の菩提寺の駐車場へと停められた 車を停めると慎一は車から下りた 一生も車から下りると城之内優が二人を待ち構えていた 「遅いぞ!慎一!」 城之内は怒っていた 「………城之内さん、そんなに早くは来れませんよ 一生は恋人と別れを惜しんでたんですからね」 慎一が言うと城之内は 「ラブラブかよ……んとに薄情な息子が……」とボヤいた 「そう言ってやらないで下さい 所で貴方の自慢の息子は?」 「後で見せてやるよ! では逝くとしましょうか!」 城之内は袈裟を着て坊主が板に着いていた 先頃、結婚して嫁も娶った……と康太が言っていた 多分、康太が関わっているんだろうが…… 康太は余分な事は話さないから……詳しくは知らなかった 墓石の前に逝くと一生の見知った奴が、城之内と同じ袈裟を着て立っていた 「……え?……城之内竜之介君だよな?」 一生は会社で幾度も顔を合わせている人物を見て言った 城之内は「おや、知ってたか?そっかお前は飛鳥井建設に勤めてるんだったな」と今更ながらに言った 「父さん、今更ですよ」 竜之介は笑って父を見た 父……と名乗るには……余りにも年が近い…… 父と言うより……兄と呼べる関係に見えた 「父さん、康太さんに頼まれているんですよね?」 と早くお経を読めと催促した 城之内は墓前に深々と一礼すると、経をあげ始めた 父のサポートをして竜之介も経をあげる 二人はどこから見ても親子だった 経をあげ終えると、城之内は帰りに寄ってくれ!と言い残して寺へと引き上げた 一生は花と線香を手向けて、手を合わせた 『………親父……お袋……待たせたな 俺は……康太を苦しめたあんた達を許せなかった 慎一の人生を狂わせた……あんた達を許せなかった だけど……そんな想いは……疲れるだけだからな止める 俺は……あんた達二人の子供なのは変えられねぇからな…… だから…あんた達に無事な姿を見せに来ると決めたんだ……』 一生は手を合わせ対話してきた 逃げて……逃げて…… 一度も足を踏み入れる事がなかった だけど逃げないと決めたんだ だから……あんた達に向き合うと決めたんだ…… 一生は長年の想いが浄化されていくのが解った 物凄く穏やかな気持ちで、今を迎えられている事が誇らしかった 力哉は聡一郎に連れられて、見知らぬ寺へとやって来た 「………此処に?」 「そうだよ!さぁ、逝くよ力哉」 聡一郎が力哉の手を握り締めた そして歩み出す 力哉は穏やかな気持ちでいられた それもこれも聡一郎がいてくれからだと思う 聡一郎は地図を見て、墓地の中をスタスタと歩いた 一際、綺麗に奉ってある一区画に到着すると、そこには……… 戸浪海里が力哉を待っていた 「力哉、良く来てくれたね」 戸浪はそう言い力哉を抱き締めた 「………康太が言っていたサプライズって……」 「多分、私だね 力哉が墓参りに逝くから場所を教えてくれと電話が来た時に、頼んだんです 私も力哉と共に墓参りがしたい………と。」 「………兄さん……ありがとう」 「この墓が戸浪の代々の墓石です 父はその横の墓石の中に入ってます 君のお母さんは、この墓地の横……祖父が…… 死してまで引き離すのを躊躇い……最善を尽くした 二人は幼なじみだったのです 父は……体躯の弱い君の母を愛した だが祖父は僕の母と無理矢理婚姻を結ばせた…… 祖父が作った……罪だ……許してやってくれないか…」 「兄さん、僕は恨んでなんていません 僕はこの世に生まれてきて良かったと想ったのです その感謝の言葉を贈りたかった それだけです……」 「………力哉……」 戸浪は力哉を抱き締めた 力哉も戸浪を抱き締めた 二人は……確かに……兄弟だった 「あなた、力哉さんいらした?」 戸浪の妻の沙羅が小さな子供を二人連れてやって来た 子供は駆け出して父の足に縋り付いた 「力哉、紹介しよう、三男の海と四男の煌星です」 戸浪は二人の息子を抱き上げて紹介した 海は何処と無く流生に似ていた やはり流生には戸浪の血が入っているのだと認識させられた そしてもう一人は……どうみても外人に見えた 金髪に金色の瞳……… 力哉はその子達を胸に焼き付けた 「兄さんの息子達ですか、宜しく安西力哉です」 力哉は自己紹介した 戸浪は我が子を腕に抱き 「……この子達が明日のトナミの礎になるのです そうしてトナミは明日へと繋がって逝く…… 力哉、この子達の背負うべきモノも大きい 力になってやってくれないか?」 「………兄さん……僕で出来る事でしたら……」 「……力哉、幸せになりなさい…… それが……最期まで……気に掛けていた祖父への供養になります そして……父への供養になる… 祖父の手前、お前の傍には来れなかったが、父は何時もお前を気にしていた それだけは…忘れないでやってくれ……」 戸浪はそう言い胸ポケットから封筒を取りだし、力哉に渡した 「…これは?」 「弁護士が期限が来た手紙を届けてくれた 時を経て……お前が手にする……父さんからの手紙だ」 「……見ても良いのですか?」 力哉が言うと戸浪はペーパーナイフを力哉に渡した 力哉は封を破って、手紙を取り出した 『力哉へ お前がこの手紙を読んでいる時には……もう私はこの世にはいないだろう…… 時が来たら……必ずお前の手に届く様に弁護士に預けておく事にした だから、この手紙を読んでいるのは大人になった君へ贈る最初で最期の手紙になります 今君は幸せですか? 笑っていますか? どんな大人になってますか? 愛する人は出来ましたか? 家族は出来ましたか? 私はそれを見届ける事は出来ないだろう 身体中…病に蝕まれ 私の命は風前の灯火…… お前を……一度も抱き締めてやる事も出来ず…… 逝く…弱い父を許してください… 総ては…私の罪にある 海里は悪くはない 願わくば……兄弟仲良く……助け合って生きて欲しい それが出来ないのであれば…… 幸せに それしか望んではいません 幸せに 誰よりも幸せに 父は……君の幸せを祈っています 私は海里も亜沙美も……愛してやれなかった お前も……愛してやれなかった ダメな父親です…… でも愛している お前も……海里も亜沙美も……区別する事なく 我が子を愛して止まない それだけは忘れないでおくれ……」 父の愛を感じられる手紙だった 力哉は手紙を読み終わると戸浪に渡した 戸浪は手紙を受け取り、目を通した そして読み終えると…… 手紙を封の中に入れて、力哉に返した 「……私にとっても父は遠い存在でした…… 同じ家に暮らしているのに……掴めない蜃気楼の様に……私は父の温もりを感じた事はない だけど……こうして改めて父を見ると…… 不器用な男だったのだと解ります 力哉……罪を作った人達を許してやってくれないか? 我々は二度と同じ過ちは犯さないと誓う 人の苦しみの上に成り立っていい幸せなどないと解っているから……」 「………兄さん……僕は……誰も恨んでなどいません 今は……ちゃんと真実が見えるから…… 墓参り来ようと想ったのです 来て良かったです……ありがとう兄さん……」 「私はお前の兄だからね……それだけは……忘れないでおくれ……」 「はい!」 戸浪は花を手向け線香を点した 力哉は父と母に深々と頭を下げた そして『………ありがとうございました』と感謝の言葉を胸に抱いた 『……僕は産まれて良かったと想っています 僕をこの世に生み出してくれて…… 本当にありがとうございました』 生きていたから伝えられた言葉だった 今が幸せだから紡げた言葉だった 聡一郎は黙って力哉を見守ってくれていた 『……父さん、母さん……僕には大切な人達がいます 僕を護ってくれる人達がいます 信じられますか? 生きるのさえ諦めていた僕が…… この命なんて要らないって想っていた僕が…… 護りたいと想う大切な人達がいるのです 僕は幸せです、父さん、母さん だから何も心配しないで下さい …………ありがとう……父さん……母さん 安らかに眠って下さい』 力哉は心から、そう思った 力哉の頬を伝う涙を、戸浪は拭った 力哉は知らないうちに泣いていた 「…兄さん……」 「料亭の離れを貸し切りにしました 康太や飛鳥井や榊原の皆さんをお呼びして過ごしませんか?」 「………良いんですか?」 「それが楽しみで田代に予約させたのですよ」 戸浪は嬉しそうにそう言った まるで子供の様な顔をするようになった 喜怒哀楽が見てとれるようになった 沙羅はそんな戸浪が愛しいと想った 今は心底愛していると言える人だと胸を張る 沙羅は「飛鳥井の六人兄弟に逢うのが楽しみですね」と嬉しそうだった 戸浪は「君は六人兄弟のファンでしたね」と楽しそうに笑った 「あんなに絆の強い兄弟はいませんわ 憧れて止みません ずっと見届けたいと想わせる子達ですね」 「…ですね、ずっと見届けて逝きましょう沙羅」 「はい!あなた!」 戸浪と沙羅は見詰め合い頷いた 力哉は仲の良い夫婦だと、見ていて笑顔になった 力哉はこの二人の葛藤や苦しみを知らない だけど、それで良いと戸浪は想う 知らなくて良い事は知る必要などないのだから…… 戸浪は聡一郎に「お疲れ様でしたね」と労いの言葉を投げ掛けた 聡一郎は嬉しそうに笑って 「力哉は一人で送り出すよりは精神的に楽なので大丈夫です」 「仲良いね、君達は」 「はい!力哉は僕の兄さんですから! 血は繋がらずとも、僕達は繋り生きている」 「力哉を頼みますね」 「はい!少し天然なので苦労しますけど、お兄ちゃんですから!」 聡一郎が笑ってそう答えると、力哉はふくれた顔で 「………聡一郎ってば!」と拗ねた 聡一郎は笑って「康太に連絡を取ります」と言い場を離れた 戸浪は力哉の頭を撫でてやった こんな顔、見た事はない もっと沢山の顔を見てやれば良かった 後悔は止めどなく溢れる だが、これから知れば良いと戸浪は想う 康太に言われた言葉が全身を溢れさせる 『気付いたら、そこから始めれば良いだろ! 遅すぎるって事はねぇんだからよぉ!』 康太…… 君の言葉が、私の中を満たします 康太…… 君に出逢わねば知れなかった想いです 康太…… 康太…… 君に逢いたい…… 電話を終えて戻ってくると聡一郎は 「一生も墓参りを終えて連絡してきたみたいです 慎一には田代さんが連絡してくれて、料亭に向かっているそうです 料亭に向かいますか?」と問い掛けた 沙羅は「楽しんでらっしゃい!」と言い二人の子供を連れて帰り支度をした 聡一郎は「沙羅さんは?」と問い掛けた 「聡ちゃん、海と煌星はやんちゃ盛りだからね……」 「烈が残念がります……少しでも行きませんか?」 海と煌星は結構やんちゃな男の子だった いたずらっ子を皆の中に連れて逝くのは…… 沙羅は戸浪を見た 「烈と海と煌星は同級生になるのでしたね」 と口にした 烈は厳しいお兄ちゃんの元、礼儀正しい子だった 「……沙羅……良い機会かも知れません… このいたずらっ子達と飛鳥井の子達を逢わせて見ましょうかね?」 トホホ……と言った感じで戸浪が口にする 聡一郎は「うちは翔が結構厳しく、流生がお行儀にはうるさいからね……お兄ちゃん達に怒られてみるってのはどうですか?」と提案した 戸浪は笑って 「……では、うちの子には泣いてもらいましょう!」と言い煌星を抱き上げた 沙羅が海を抱き上げた 聡一郎は沙羅の腕の中から海を剥がすと 「……こうしてみると流生に似てるなって想うのです 流生は母さん似でもあるんですね」 と、しみじみ言葉にした 沙羅は「聡ちゃんも想うの?」と問い掛けた 「あの子は父親似だと想っていたんですよ でも海を見ると、海の中に流生に似た部分もちゃんとあって、あの子は戸浪の血もちゃんと受け継がれてるんだって想います」 「………聡ちゃん……」 「幼稚舎に通いだした……あの子達は……多分本当の親は康太じゃない…と知り始めてるでしょう でもね、流生は両親が大好きです 『りゅーちゃ とぅちゃに!」と言ってるので目指すは伊織みたいですよ? 血じゃないんですよね…… 絆と日々の積み重ね 愛と絶対の信頼 僕達はそうやって確かめながら生きています 顔を背けなければ大丈夫 ちゃんと姿が見えていれば絆は紡いで逝けます」 「……ありがとう聡ちゃん……」 「いえいえ、またランチに連れて逝ってくれればチャラです!」 「まぁ聡ちゃんったら」 沙羅は楽しそうに笑った 最近沙羅は聡一郎や力哉達とランチやショッピングに出掛ける機会を持っていた 落ち込まない様に……と何かにつけて聡一郎が気に掛けてメールやラインで繋がろうとしてくれていた この前、聡一郎が一生を連れて来てくれた 一生を目にすれば人柄の良さは直ぐに解った 抑圧された世界の中にいる人間にとって、一生の溌剌とした笑顔は救いに感じるだろう 義妹が何故一生を愛したのか…… 救いにも似た想いを感じ取っていた 「では行きますよ! 腹が減ると結構手を焼くのは飛鳥井の子供達じゃないんですよ!」 そう言い聡一郎は力哉の手を取り歩き出した 「……え?聡ちゃん誰??」 「康太ですよ 腹減り康太は……本当にタチが悪い」 聡一郎は駐車場へと向かった タクシーで来た戸浪親子を後部座席に押しやり 聡一郎は戸浪が貸し切りにした料亭へと急いだ 田代が精力的に、飛鳥井建設に顔を出していた 社長室に通されソファーに座る 社長室のソファーには巨大ネズミが鎮座して…… その横で小さく田代は座っていた 「戸浪が飛鳥井と榊原の家族と食事を……と申しております!」 瑛太はピキッと怒りマークを額に張り付け 「………田代……その連絡を私にやれと言うのですか?」 「だって力哉もいないし、一生もいない 聡一郎もいないし、慎一もいないんだよ?」 田代はケーキと紅茶をモグモグ食べて「おかわり!」を要求した 秘書は「良い食いっぷりだな!」と気に入ったのか、おかわりを用意してやった 「でさ瑛太、お願いな!」 こんな時の田代は何を言っても無駄なのは、その長い付き合いで知っていた 瑛太は母 玲香に泣きついて…… 「母さん連絡をお願いします!」と頼んだ 「仕方ないのぉ~なら我が連絡しておく」 玲香が折れると瑛太は料亭の場所を伝えた 田代は「……相変わらずマザコンだな……瑛太」と呟いた 瑛太は更にピキッと怒りマークを額に張り付けた 「……私の何処がマザコンですか!」 母に泣きつく所…… マザコン以外のなにものでもなかろうが……田代は想う 「無自覚?」 「……もういい黙りなさい君!」 瑛太は辟易してそう言った 玲香から清四郎達とも連絡がついたと内線が入り、瑛太はそれを受け取った 「田代、全員に連絡が取れた」 瑛太はそう言い胸ポケットから携帯を取り出した 「康太?田代から連絡はありましたか?」 『おー!連絡貰ったぜ! オレは腹を減らして会食に挑む!』 「……何か食べても大丈夫ですから!!」 『それだと鱈腹食えねぇじゃねぇかよ?』 鱈腹食べるつもりなのね…… 腹減り康太をそんなに待たせると……榊原が大変になる…… 瑛太は慌てた 瑛太は田代を急かして、料亭へと急いだ 地下駐車場に行くついでに清隆と玲香と出くわし、一緒に逝く事にした 玲香は「京香は真矢と一緒に来るであろう!」と瑛太の妻の事を告げた 「……お腹……大きいから無理したらダメだって言ったのに……」 瑛太は妻を心配して言葉にした 田代は「……京香さん妊娠中?」と問い掛けた 「あぁ、少しお腹の出て来た5ヶ月です」 「……意外……だったな」 「何がです?」 「瑛智君が最後って聞いてたからさ……」 「子供は授かり物です そして愛も深まったのだと康太が言ってくれたので、頑張った甲斐がありました 田代程に……子沢山は望めませんがね」 「望まなくて良い……んとにお前は…… それ、惚気だろが!」 「違いますよ!早く行きますよ」 瑛太は田代を急かした そして清隆と玲香は、そんな二人を見ていた 仲の良い気のおけない友に向ける瑛太の顔は何時になく穏やかだった 田代の車に同乗して料亭へと向かう 田代は「明日、困りませんか?」と問い掛けると瑛太が 「明日は伊織の車にでも乗り込みます!」と笑った 田代は「……困ったお兄ちゃんだ…」と笑った 料亭の駐車場に車を停めると、既に康太と榊原は悠太を連れて待っていた そして……どう言う訳か…… 栗田と恵太と蒼太と宙夢が一緒にいた 玲香は車から下りると「……珍しい組み合わせだな」と笑った 蒼太は「康太に呼ばれたのですよ!康太に呼ばれれば……僕は何処へでも駆け付ける駒ですからね!」と母に説明した 恵太も「一夫も康太の駒だから……主が呼べば駆け付けちゃうんだよね」といたずらっ子みたいな顔で笑った 玲香は康太を見た 「家族はたまには集まらねぇとな! 若旦那が席を儲けてくれたかんな! 皆を呼んだんだよ!」 「………良いのか?」 「母ちゃん、我が子の縁まで切れねぇって言ったやん 母ちゃんは孫と子供に囲まれて笑ってれば良いんだよ!」 康太はそう言うと玲香を抱き締めた 戸浪が聡一郎の運転する車で到着すると、戸浪と沙羅と子供達は車から下りた 康太は車から下りた沙羅に近寄った 「沙羅、疲れてねぇか?」 「大丈夫です お逢いしとう御座いました」 「沙羅、オレの子供達だ 中へ入ったらご挨拶するんだぞ?」 康太は足元にいる五人の子供に声を掛けると、五人の子供達は「「「「「あい!」」」」」と言い手をあげた 榊原は烈を抱っこしていた そして榊原の足元に瑛智が抱き着いていた 沙羅は「この子は?」と問い掛けた 「瑛兄さんの子です 瑛智、ご挨拶なさい」 と榊原が言うと「ちわ!」とペコッと頭を下げた ドシッと貫禄のある瑛智は瑛太にはあまり似ていなかった 瑛太と言うよりも源右衛門に似ている風貌だった 「瑛智ちゃんね、宜しくね」 沙羅は笑ってご挨拶した 料亭の中から女将が出て来て 「皆様 お揃いですか?」と声をかけた 一生と慎一は早々と料亭の駐車場に康太を待っていた 清四郎と真矢と笙と明日菜と子供は、連絡をもらってタクシーで駆け付けていた となると、全員揃っていた 戸浪は康太を見た 「若旦那、全員揃っている ……でも良いのかよ? 結構集まっちまった……」 「構いません! 今日は力哉に逢わせてくれたお礼です」 女将に案内されて料亭の中へと入っていく 翔は沙羅の両手にいる子を、ジッーッと見ていた 部屋に案内されて中へと入っていく 沙羅は女優の榊原真矢を見て、ドキドキとしていた 「………あの……榊原真矢さんですか?」 沙羅が声を掛けると、真矢は嬉しそうに笑って 「そうよ、伊織の母なの」と答えた 俳優 榊 清四郎と女優 榊原真矢の子供…… 兄は俳優の榊原 笙 と、テレビの中の存在に沙羅は……クラクラしていた 翔は海と煌星を見ると、傍に近寄った 「うみちゃ こーちゃー」 教えられた訳でもないのに……翔は二人の名前を呼んだ 流生が「よろちく!」と抱き着いた 音弥が「おとたん!ちく!」と自己紹介した 太陽と大空も「ちならよ!」「かにゃらよ!」と自己紹介をした 烈がヨチヨチ歩いて近付いた 「にーにー」 「れちゅ!」 流生はそう言い烈を抱き上げた 沙羅は落とさないかハラハラ 案の定……烈を抱っこしたままドテンっと転けると、流生は泣き出した 烈は流生を撫でて、ブーブー何か喋っていた 「あら、烈君は優しいのね」 沙羅は流生を抱き上げた 「何処か痛い?」 「……らいじょうび!りゅーちゃ ちゅよい!」 笑った顔は海に何処か似ていた こんな時、流生の中に戸浪を血を感じずにはいられない 沙羅は流生を抱き締めた 流生は沙羅を撫で撫でしてやった 流生を下へ下ろすと流生は榊原の所へ駆け寄った 「とぅちゃ!」 「どうしたんですか?流生」 流生は榊原の首に抱き着いて離れなかった 榊原は烈を抱き上げて、赤くなった額を撫でた 太陽と大空が榊原に近寄ると、榊原は烈を下に下ろした 太陽と大空が烈を撫で撫でしていた 翔は煌星と海の傍にいた 煌星がなにやら話す 海もなにやら話す 翔は頷いて、何やら話していた 沙羅は「………人見知りして気難しい海と煌星が……笑ってる」と唖然として呟いた 料理が運ばれて、乾杯する 戸浪は康太に抱き着いて「逢いたかったです……」と思いの丈を口にした 「貴史が刺されて忙しかったかんな……」 「貴史はどうなのです? お見舞いにもう一度行こうと思ってましたら退院したとの連絡を貰いました」 「自宅で安静に……って事だ もう傷が開く心配はない」 「……そうですか……安心しました」 「若旦那、ありがとうな」 「改まってなんです?」 「こんな素敵な時間をありがとう」 「それを言うなら、私の方が礼を言います 力哉と墓参りが出来ました……本当にありがとうございました……」 「礼を言われる筋合いじゃねぇだろ?それは……」 「こんな時間を持てたのは……君がいてくれたからこそです……」 「若旦那が思いの先に逝ったから迎えられただけだ オレは何にもしてねぇ!」 「本当に貴方って人は…そう言う事で良いです!」 戸浪はそう言うと嬉しそうに笑った そして席について食事を始めた 海と煌星も席について食事を始めた 我が儘な煌星が好き嫌いを言うと翔が「らめ!」と怒っていた 睨みを効かせて怒るから……海と煌星は涙をためて頷いた 食事よりも遊びが気になる海は、食事途中で動き出す 流生が「らめ!」と怒ると、海は涙をうかべて言う事をきいた 戸浪は笑って、そんな子達を見ていた 飛鳥井の子は皆、行儀よく食べていた 烈に至るまで食事の最中は大人しく、瑛智や美智瑠も良い子して食べるしかなかった 沙羅は「飛鳥井の子は本当にお行儀が良いわね」としみじみ呟いた 玲香が「翔が厳しい奴だからな」と笑った 真矢が沙羅に「飲みましょう!沙羅!私の事は真矢で良いわよ!」と声を掛けると、沙羅は嬉しそうに真矢の方に行った 女は女同士 盛り上がる 盛り上がる 何時の世も女が集まれば、華やかに笑い声が響き渡った 瑛太は田代と共に飲んでいた 戸浪は康太と榊原と共にちびちび飲んでいた 戸浪はずっと笑顔で幸せそうだった 「……翔は凄いですね……」 戸浪の言葉に康太は「ん?何処が?」と問い掛けた 「海と煌星、ジッーッと見て名前を当てました」 「小さくても真贋だかんな その人を視れば解るんだよ 海と煌星は……翔が導く星の下に在る 二人が迷わねぇ指針は翔がなる」 「………え?……翔……がですか?」 「流生は海の血を嗅ぎ取って距離を置くからな 翔がなるしかねぇんだよ! また翔は知ってるからな、自ら指針を買って出るしかねぇんだよ」 「………知っている……とは?」 「流生の中の戸浪の血を確実に嗅ぎ当ててるって事だ」 「……言葉もありません……」 「オレの子は既に気づき始めている… オレの本当の子じゃないって……理解し始めている」 聡一郎が言っていた事だった 「………康太……」 「オレは親だからな揺らがねぇ! そしたら……その先に逝けると信じてる」 戸浪は何も言わず頷いた 自分達の明日を照らしてくれている言葉だと受け止めた 太陽と音弥が康太に甘えて抱き着いた 「かぁちゃ たべてりゅ?」音弥が心配して問い掛ける 「いちゃく にゃーい?」と太陽が心配する 康太は二人を抱き締めて「大丈夫だ!」と笑う 安心すると太陽と音弥は清四郎の膝に座った 仲良くお膝に座る太陽と音弥を、清四郎は嬉しそうな顔で撫でた 流生も康太に「らいじょうび?」と声をかける かぁちゃが辛いのは嫌なのだ 「大丈夫だ流生!」 康太が言うと流生は康太の首に腕を回し甘えた 「りゅーちゃ おっきくなっちゃら かぁちゃ らきゅにちゃちぇるからにぇ!」 「お!頼もしいな 流生に甘えようかな」 康太は流生におぶさった 流生は母を支えようと凛凛しい顔をしていた 翔はじっと大人しく、康太と流生を見ていた 流生が「かける!おいれ!」と言うと翔は近寄ってきた 「かけゆも かぁちゃまもりゅにょ!」 「おっ!男の子は頼もしいなぁ!」 康太が笑って言うと音弥も太陽も大空も烈も、康太に抱き着いた そして瑛智も…… 「おっ!瑛智も守ってくれるのかよ?」 康太が言うと瑛智はコクンッと頷いた 「瑛智はいい子だ!」 康太はそう言い瑛智を戸浪に渡した 戸浪は瑛智を見て………懐かしい気分になった 「………源右衛門に……似てますね?」 「だろ?海、来い!」 康太は海を呼んだ 康太に呼ばれて海が近寄って来た 「戸浪宗玄の魂を引き継ぐ者、それが海だからな きっと二人は友情を育む事になるだろ 生前の二人のように……」 「………そんな繋がりが……」 戸浪は胸が一杯になった ドシッと座る瑛智は何処か子供らしくなく…… 翔同様、総てを見抜く瞳をしていた 「瑛智は翔程じゃねぇけどな力持ちだ 見通す目はねぇが、先を詠む力は持っている 慎一の子供の一人と同じだな!」 「……慎一の子と……あれ?そう言えば慎一の子は?」 お留守番なら可哀想な事をした 戸浪がそう思っていると康太が事情を説明した 「桜林学園 初等科恒例、林間学校に参加中だ 和希と和真、そして北斗は沖縄に行っている」 「………和希達はまだ低学年でしたよね? なのに……林間学校なんてあるんですか?」 「あるんだな、これが! オレの時は瑛兄が付き添いで大学休んで来てくれたんだよな?」 康太が言うと瑛太は苦笑した 「………そうでしたね……大変でした……あれは」 「……付き添い?要るのですか?」 戸浪は訳が解らない……顔をした 瑛太は仕方なく説明した 「普通の子は親族の同伴は要らないんですけどね…… うちの康太は元気が良すぎて……行方不明になるので見張るために付き添いが必要だったんですよ 私は……初等科の修学旅行まで付き添いました 中等部からは一生達が付き添ってくれたので助かりました……」 瑛太が言うと一生は笑って 「康太は人と同じ方向に逝くのが嫌いだからな…… まぁ人が集まれば怪異も集まるからな…避ける為に康太は行方不明になりたがる」 と説明した 康太は瑛太の背中に張り付き 「瑛兄、大好きだ」と甘えた 「小さい頃から君はそうやって甘えれば……許して貰えると思うんですからね」 瑛太がボヤくと康太は 「だって許してくれたやん!」と甘えた 妬いた榊原が康太を引き剥がすと、瑛太は苦笑した 戸浪は何だか大変だな…と思いつつ憧れて止まない想いになる 絶対の信頼 絶対の存在 その友情が飛鳥井の子と自分の子とで結ばれるのは嬉しい 戸浪は我が子を見た すると海は泣いていた 煌星も泣いていた その前に翔が厳しい顔で立っていた 戸浪は子供達の横にいる慎一を見た 慎一は戸浪に「……海ちゃんと煌星ちゃんは結構偏食みたいで、食べたくないモノはわざと落としたりするので、翔が怒っているのです」と説明した 翔は戸浪を見ると「なっちぇにゃい!」と怒った 戸浪は「……直します……」と翔に謝った 「かんしゃ にゃいやちゅ らめになる! そまちゅに ちゅるやちゅ ちゃいていににゃる!」 翔が怒ると、流生がドウドウと落ち着かせる 「かけゆ ちゅこち おちちゅくにょ!」 「……りゅーちゃ かけゆ まちぎゃっちぇる?」 「まちぎゃっちぇ にゃい れも、あたまごにゃしに おきょるにょ らめ!」 「………らね……かけゆ……はんちぇい ちゅる!」 流生は翔の頭を良い子、良い子と撫で撫でした 音弥が出て来て 「わぎゃままにゃきょ ちらわれりゅ!」と海と煌星に言い聞かせた 太陽が「もっちゃいにゃい こと ちたら、らめ!」と怒った 大空も「なっちぇにゃい!」とダメ出しした 海は「……ぎょめん…」と謝った 煌星も「たべゆ……きゃら…」と謝った 翔が「れいちぇちゅ にゃきもにょ ちとのうえにたてにゃい!」と言葉にした 戸浪は「………何処で覚えるのですか?」と思わず問いかけた すると飛鳥井の家族や榊原の家族、一生も聡一郎も隼人も慎一も榊原の方を指差した 榊原は康太を抱き締めたまま固まった 「……何ですか?」 思わず問い掛ける 「……伊織…君は子供に厳しいのですか?」 「冗談じゃないです! 我が家は母親が厳しい鬼なので、僕は優しい父に徹しています!」 「……翔の古くさい言い回し…君が教えているのですか?」 「礼節なき者、人の上にたてませんよ!と教えです 古くさいだなんて失礼ですね!」 榊原は心外だと呟いた 沙羅は「本当に飛鳥井の子は礼儀がなってますね。 うちは結構上が甘いので、叱られる事には慣れてないのですね 時々、こうして海と煌星を叱ってやってくれませんか?」と申し出た 康太は「逢いたくなったら逢いに来れば良い! 飛鳥井の家は何時でも開かれている」と言葉にした 玲香は「そうじゃ、何時でも来られるとよい!」と言い孫と息子に囲まれて笑っていた 蒼太は「母さん飲みすぎですよ」と心配すると 恵太が「父さんも少し飲みすぎですよ」と心配した 共に暮らしてなくても親は親 それを教えてくれたのは康太だった 飛鳥井から断絶されても……文句の言えない事をしたのに…… こうして親に逢える事を許してくれた 玲香は嬉しそうに我が子を見た 蒼太は自分の体躯も治りきってないのに悠太の心配をした 「悠太、もう大丈夫なの?」 悠太は笑って「兄さんは大丈夫なのですか?」と返した 栗田も「悠太、痛くないのか?」と心配して言葉にする 「一夫さんは痛い所はないですか?」と悠太は返した 「俺は康兄に護って貰ったから大丈夫だよ! 宙夢君、蒼兄に何かあったら言うんだよ 恵兄、恵美ちゃんはどうしたの?」 恵太は「週末は菩提寺に泊まり込みで修行に行くから、いないんだよ」と淋しそうに答えた 「ならさ飛鳥井に来て子守りしてよ! 京香姉さんが妊娠中で人手不足なんだ!」 と言い悠太は烈を恵太に渡した 「京香姉さん、妊娠おめでとうございます!」 恵太は京香の妊娠を祝う言葉を言った 蒼太も「姉さん、妊娠おめでとうございます!」と祝った 京香は「………」浮かない顔で……何も言わなかった 康太は「京香!」と名前を呼んだ すると京香は泣き出した 「泣くな京香……めでてぇんだ笑ってろ!」 「……だって……」 康太は京香の横に座ると、顔を拭いてやった 「その子はお前の子だって言っただけやん! 何が気に食わねぇんだよ!」 「それが気に食わぬ!」 「何者にも囚われねぇ子を生めって言ってるだけやん……」 康太が言うと真矢が「康太は女心が解ってませんね!」と嗜めた 「……え?……何処いらへんが?」 「京香は飛鳥井の女なのです! 飛鳥井に関係なき子だと解ってて喜んで産めはしないでしょ?」 「………京香の腹の子は……母ちゃんが産めずに逝かせた子だからさ……京香には生んで欲しいし…… その子は何者にも囚われねぇで育てて欲しいと想ったんだよ 上の二人はオレが奪ったみてぇなもんだからな……」 琴音は死んで、翔は康太の子になり、親だと名乗れない…… 瑛智は飛鳥井瑛太を継ぐべき存在だから… 真矢は康太の想いも、京香の想いも解るから、あえて言う 「なら絶対に産まなきゃね京香 玲香の為にも産まなきゃね」 「……真矢……」 京香が呟くと明日菜が京香を抱き締めた 「京香姉さん、その子には康太の子がお兄ちゃんになってくれるんだから! でも翔は厳しいからな…大変かもね うちの美智瑠は結構、翔に絞られたからね」 と、明日菜は口にした 蒼太は「めでたいんだからさ、乾杯しようよ!」コップを掲げた 恵太も「そうだね!一夫、乾杯の音頭をとりなよ!」と栗田に指示を出し 栗田は「では僭越ながら乾杯の音頭を取らさせて貰います!皆さんコップを持って下さい!」と言い 全員がコップを持つと「乾杯!」とコップを掲げた 康太は榊原とカチンッとコップを合わせ、口吻けた 蒼太は「……やっぱし、熱いね君達は…」と笑った 「たまには良いだろ?蒼兄! こうして皆が集まれば思い出も深まる 絆も深まり、母ちゃんや父ちゃんも喜ぶ!」 「ありがとう康太……」 蒼太は礼を言った 「恵兄も、たまには皆で飲むのも良いだろ?」 「だね。僕達の中には確かに飛鳥井の血が流れてるんだって想うよ! そして確かな絆に導かれているって感じるよ 僕も飛鳥井の子達が繋いでいく明日を見届けたいと想うよ! 力になれるならなりたいと想うよ!」と恵太は言葉にした その夜、料亭を後にして、飛鳥井の家へ向かい朝まで飲み明かした 血が繋がる様に飲めば絆も深くなる 明日を築く為に飲もう 玲香はそう言い盃をあけた 繋がる想い 重なる想い が、確かにあった だから先に逝けるのだ 確かな絆がまた強く結ばれた

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