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第39話 桃色の想い

「……くっ……苦しい…………」 兵藤貴史は重苦しくのし掛かった重さに目を醒ました 重苦しい原因を目で追うと…… 兵藤の腹の上に桃太郎が乗っていた 「………桃……止めろって言ったのに……」 桃太郎は不安なのか、退院してきた兵藤と離れるのを嫌がった そして寝ている兵藤の上に乗って来るから…… その重さに、兵藤は苦しくて目を醒ます そんな日々を送っていた キューン 桃太郎は悲しそうに鳴いた 兵藤は諦めて桃太郎を持ち上げた 「ほら横に来い! 淋しいなら今度は横で寝ろよ」 そう言い兵藤は桃太郎を抱き締めた 桃太郎は兵藤の胸に顔を埋めた ご主人貴史…… ボクはご主人貴史が帰って来ないかも知れないと想うと…… 不安で堪らなくなるんだ… 桃太郎は願う 一分一秒でも長くご主人貴史といさせて下さい……と。 大学の構内のカフェで康太は兵藤を見掛けて声をかけた 「眠そうじゃん貴史 昨夜は相当頑張ちゃったのか?」 気怠げな兵藤に、康太はワルガキの顔して揶揄する 「何を頑張るんだよ……桃太郎が俺から離れねぇからな……少し困っているんだよ」 兵藤はそう言いあくびをした 「桃?そう言えば最近朝見ねぇな?」 康太は毎朝の散歩を思い浮かべて呟いた 「………桃の奴……俺にベタッーと引っ付いているからな、朝の散歩は行けてねぇんだよ」 兵藤は刺されて入院していた 完治して退院してきたけど、まだ無理は出来ないから犬の散歩は美緒と昭一郎がやっていた その散歩に桃太郎は着いていくのを拒んで、兵藤に張り付いているのだった 康太は一生を見た 一生は「桃は何処よ?」と問い掛けた 「………桃なら足元にいる コイツが離れねぇからな……講義も一緒に逝かねぇとならねぇんだ」 「桃と一度対話しねぇとな 講義が終わったら飛鳥井に寄ってくれ」 「なら今すぐに逝こうぜ!」 兵藤は講義よりも早くなんとかしてくれ!と立ち上がった 「……おい待て……俺達は授業残ってるんだよ!」 「……俺の為に単位落としてくれ!」 「……それは嫌だわ……少し待て貴史 俺と康太と隼人は少し講義を受けてくる 絶対に落とせねぇんだよ 今度留年したら康太は大学を辞めるって言ってるからな……それはさせられねぇっしょ?」 そこまで言われたら……待つしかなかった 「とにかくお前は伊織と聡一郎と慎一と、此処で待ってろよ!」 「待っててやるから早くなんとかしてくれ!」 「何とかなるかは解らねぇけど……話しはしてみるわ」 一生はそう言い康太達と授業を受ける為に席を外した 兵藤はそれを見送りため息を着いた 榊原はそれを見て 「………どうしたのですか?」と問い掛けた 「……トイレや風呂まで御一緒する犬って…どう思うよ?」 「………それは嫌ですね でも先日、一ノ瀬さんの病院にトイレや風呂まで着いて来る兎がいて困ってるって話は聞きました 顔を突っ込むからドアを閉められないって話を聞いたばかりです」 「………兎……で、それをやる?」 「らしいですよ ケージから出たら飼い主の側から離れない しまいにはトイレや風呂まで着いて来るらしいです お風呂のドアをガリガリやるから開けると、入ってきて座ってるそうです 寝てる時は顔の上に乗って来て、窒息して死ぬかと思ったって話をしてました だからですかね、デジャブでした」 「………一ノ瀬はそんな状態を何だって言ってた?」 「境界線を引いてやれば、そんな事態は起きない ………だそうですよ? 犬の場合はどうなんでしょう…… 兎の場合……ですからね 犬はケージに入ってばかりじゃないですからね 電話するので聞いてみたら良いんじゃないんですか?」 榊原はそう言い携帯を取り出した 「一ノ瀬先生ですか?榊原です お世話になってます、今お時間大丈夫ですか?」 『伊織君、どうしたんですか?』 一ノ瀬の優しい声が受話器越しに伝わった 「兵藤貴史の所のシュナウザー犬桃太郎はご存知でしたよね?」 『桃ちゃん?知ってるよ?』 「飼い主が困る程の行動を取っているそうなので、相談に乗ってやって下さいませんか?」 『構わないよ』 榊原は兵藤に携帯を渡した 兵藤は電話を変わると、切実な話を始めた そんな兵藤の横で榊原は優雅にお茶をしていた 女性徒が榊原の姿を見付けて傍に近寄ろうとするが、慎一が睨みを効かせているから…… 中々近寄れる強者はいなかった 電話が終わると兵藤は携帯を榊原に返した 榊原はそれを受け取り 「一ノ瀬先生はどう仰ってました?」と問い掛けた 「桃の場合……俺が刺されてご主人と二度と離れたくないって想ってるらしくて、離れまいと必死になってるんじゃないかって……」 「ですね、桃太郎は君が大好きですからね」 榊原はそう言い優しく笑った 「目に余るならトレーナーに調教して貰った方が良いと言われた」 「そうですか、で、君はどうするのですか?」 「………調教なんてしてみろ? あの犬はコンプレックスの塊だからな……落ち込むのは目に見えている……やりたくねぇな…」 「………桃は未だに……イオリにコンプレックスを持っているのですか?」 「………美緒がな……イオリ見るたびに言ってるからな…… 桃は賢い犬だからな……解るんだろな?」 「複雑……ですね イオリはチャンピオン犬ですが、飛鳥井の家では特別に扱ってはおりません……チャンピオン犬だったのですね 言われて解る程度の認識でしかありません」 「だろうな、でもイオリは恋人の所にいられて幸せだと想う 桃はそんな二匹を見てるのが好きだしな」 「タカシをもう一度妊娠させれば良いのです そしたらチャンピオン犬が出るかも知れませんよ?」 「………コーギーが来る予定なんだよ だからタカシに子供を産まさせるのは無理かも知れねぇな……」 「………コーギー?コータの兄弟犬の子供ですか?」 「そうだ、ソイツの子供が生まれたら流生にやるよ!」 「………貴史……一生に何とかして貰いましょう! 大丈夫です、彼は愛と平和を司る神ですから…… 彼は万物の生き物に愛され、平和と愛を司る為に存在するのです」 「………頼みは一生か……」 「ですね、彼はどんな荒くれの馬でも大人しくさせるらしいです 一生でダメなら北斗がいます 彼は動物の言葉が解るらしいです」 「……慎一と一生の牧場を継ぐべき存在だったな北斗は……」 「そうです。 北斗は本当に動物に愛されています 北斗と一生で説得すれば大概の生き物は言うことを聞きます それでもダメなら弥勒に頼んでみます」 「………弥勒?何を頼むのよ?」 「言うことを聞かない時は枷をします 孫悟空の額の額の輪みたいに、枷をして痛みを与えるのです」 「……それは……」 可哀想だ……兵藤は想った 話をしていると康太達が戻って来た 「お!お待たせ!んじゃ飛鳥井に行くもんよー!」 康太が言うと榊原は立ち上がった 慎一も一生も立ちあがり、康太の傍へと歩いて行った 兵藤は「………俺は朝は送って来て貰ったから、車じゃねぇんだよ」と乗せて行ってくれと頼んだ 榊原は桃太郎を持ち上げると 「僕の車に乗れば良いです」と言った 「お!悪いな!じゃ乗せてってくれよ!」 榊原は皆と一緒に駐車場へと向かった 一生の車に慎一と聡一郎が乗り込み 榊原の車に隼人と兵藤が乗り込んだ 榊原は後部座席に座った隼人の膝の上に桃太郎を乗せた 「隼人、君が抱っこしてあげて下さい」 榊原は康太を助手席に乗せると、隼人にそう言った 「解ってるのだ! イオリを持ちなれているから大丈夫なのだ」 隼人は笑って桃太郎を撫でた 榊原は運転席に乗り込むと、車に乗り込んだ 榊原に近寄ろうとする女性を完全に無視して、榊原は車を走らせた 「相変わらずモテモテだな伊織」 兵藤は揶揄して、そう言った 榊原は嫌な顔して……… 「…………飛鳥井建設の副社長としてプレジデントに乗った影響でしょ? 副社長婦人になりたいと言う女性が多くて辟易していた所です」 と種明かしをして、げんなりとした顔をした 飛鳥井の家に着くと、女性が数人待ち構えていた 「………困りましたね…」 榊原が言うと慎一は「停めて下さい、俺が帰って貰います」と言った 榊原が車を停めると、慎一は車から降りて女性に近付いた 「車が入るのでどいて貰えませんか?」 慎一が家をかけると、女性は何も言わず嗤っていた 移動する気配がないと知ると、慎一は警備会社に直結のカメラを作動した そのカメラに写ると言う事は証拠写真となり、警備会社で保存管理される事となる カメラを作動して暫くすると警備会社の車が駆け付けて来た それを見て女性は素早く逃げて逝った 「………どさくさを狙う輩も後を絶たないと言う事です…」 榊原はため息混じりに呟いて地下駐車場へと車を走らせた 慎一はシャッターを閉めて辺りを見渡して家へと入っていった 慎一は家に入るとお茶の準備をしにキッチンに向かった 一生も地下駐車場に車を停めると、車から降りた そして桃太郎を抱っこすると 「二人きりで対話させてくれ!」と言い歩き出した 康太は「応接間を使え!」と一生に声をかけた 「康太は?どうするのよ?」 「オレはキッチンで飯でも食ってくる事にする」 康太はそう言い皆とキッチンに向かった 一生は桃太郎と共に応接間に向かった ソファーに桃太郎を抱っこしたまま座る 一生は桃太郎を撫でて声をかけた 「桃、あんで連れて来られたか解るか? お前は賢い犬だ……解ってるんだろ?」 桃太郎はキュンキュン鳴いた 『………ボクがご主人貴史から離れないから?』 「そうだ!貴史は貴史の時間がある、世界がある お前を連れて行ってやれねぇ時もある 解っているな?」 『………還って来ないかも……… そう思うと……ボクは怖くて仕方がないんだ…… ご主人貴史が迷惑しているのは知っているよ もうじき……ご主人貴史が大切にしていたコータの兄弟犬も来るのも知ってる そしたら……ボクは……あの家では……用なしになるのも知っている だから…… その時まで……傍にいたいんだ』 「………それは間違っている 貴史はコーギーが来たってお前を蔑ろにはしねぇだろ?」 『………ご主人貴史の大事な大事な犬はコータだけだよ?』 一生は桃太郎を抱き締めた 「お前も大事だから…大学まで連れて行ってるんじゃねぇのかよ?」 『違うよ……ボクは……多分嫌われてる だって……コオみたいに愛されてないから…… ご主人貴史はいまだにコオを見る瞳は違うよ ボク……思い出が欲しかったんだ 他の家に行っても……忘れない思い出が欲しかったんだ…』 桃太郎はコーギーの子が来たら捨てられると想っていたら 一生は桃太郎の想いが痛くて…… 桃太郎を抱き締めたまま泣いた 「貴史がお前の事を蔑ろにしたら……その時は俺が飼ってやる! 俺の所へ来い!」 『………カズキ……良いの? ボク……イオリみたいなチャンピオン犬じゃないよ?』 「んな人がつけた称号なんて意味ねぇんだよ桃太郎 お前は……この世で一匹しかいない お前の代わりなんているかよ!」 『………ボク……帰らないご主人様を待つのは嫌なんだ…… 着いて逝きたい…今のは……やりすぎだって知ってる だけど……あと少しなんだ…… ボクがご主人貴史の傍にいられるのは……あと少しなんだ……』 「いたいなら……ずっと傍にいれば良いじゃねぇか! んで……んな哀しい事を言うんだ!」 『………ボク……コーギーが来たら……貰われて行くんだ……美緒がそう言ってた……』 「んなバカな話はあるかよ! なら還らなくて良い! お前はずっと俺の傍にいろ!」 『………カズキ……ボク……要らない子だから…… きっと……カズキも嫌いになっちゃうよ……』 こじらせてる 桃太郎の心の中は……要らないって感じて壊れてしまっていた 一生は携帯を取ると康太に電話を掛けた 「康太……貴史を連れて来てくれ…… 桃の中は……もう壊れちまっている…… 壊したのは貴史と…美緒だ」 『解った、井筒屋の沢庵食うから待ってろ!』 康太はそう言い電話を切った 一生は桃太郎を抱き締めてペロッと鼻を舐めてやった 「桃、おめぇはんとに……」 一生の足元にはコオとイオリとガルが揃って睨み付けていた 今にも飛びかかりそうにイオリが牙を剥く ウーッ!と低く唸り威嚇していた 「桃、おめぇの兄弟はおめぇの為に怒っているぞ?」 『……イオリ……』 コオも短い足を踏み締めて威嚇していた ガルもコオ同様威嚇する 一生はそんな足の短い二匹を見て苦笑した ………威嚇になってねぇぞコオ…ガル おめぇらは止めといた方がいい…… 「イオリ、性格の悪さが目立つ止めとけコオに嫌われるぞ?」 『僕の兄弟を泣かした奴は許せません!』 「俺は悪くねぇぞ?」 『………なら何とかしてあげて下さい』 「まぁ待ってろ!」 兵藤が応接間にやって来ると…… 一生に睨まれていた コオやイオリ、ガルに至るまで威嚇して睨んでいた 兵藤は訳が解らなくて…… 「……一生、何で俺は睨まれているのよ?」と問い掛けた 一生はコータの兄弟犬が来たら捨てられる事を話した 美緒がそう言ってた事も告げて桃太郎の想いを話した 桃太郎は兵藤との想い出を作りたかっただけなんだって言うと兵藤は驚いた顔をしていた 「……桃太郎を何処かへやるなら俺が貰う! タダとは言わない……言い値で買い取る」 「一生……桃太郎をやる気はねぇ! 幾ら積まれようとも桃太郎は売らねぇよ」 「なら何でコイツはそう感じて想い出を作ろうとしてるんだよ! 『あと少しなんだ……想い出を作りたかっただけなんだ』 あんで桃太郎はそんな事を感じているんだよ!」 一生は桃太郎の想いを想うと涙が止まらなかった 「………桃…」 兵藤が名を呼ぶと、桃太郎は兵藤を見上げた 「………何処へもやらないって約束したろ?」 兵藤が言うと桃太郎はキュンキュン鳴き出した 「俺はチャンピオン犬なんてどうでもいい! 桃太郎、お前にいて欲しいんだ しかも美緒がお前を預けようとしていたのは、お前が俺を探して回っているからだろ? 足が擦りむけて血が出るまで探しているから、預けた方が良いかと話していたんだ 俺が還ってくればお前を預ける必要はねぇだろ?」 兵藤は桃太郎の頭を撫でた 桃太郎は兵藤に飛び付いた そして兵藤をペロペロとなめた 『ご主人貴史ぃ……』 堪えていた箍が切れたのか、桃太郎はワンワン鳴いた 鳴いて 鳴いて 兵藤に甘えた 「所で一生、桃太郎に何処へもやらねぇから少し落ち着けと言っといてくれ」 「………桃太郎、誤解は解けたんだから、少し落ち着けよ?」 一生は桃太郎に優しく言い聞かせた 「何処にいても必ず還って来るんだからベッタリはダメだぞ?」 一生が言うと桃太郎はワンワンと吠えた 「お風呂やトイレまで着いて逝くのもダメだぞ?」 ワン! 「腹の上に乗るのもダメだぞ?」 ワンワン! 「大学まで着いて来るのもダメだぞ?」 ワワワン! 「ちゃんとお留守番出来るな!」 ワォーン! 「うしうし!桃はいい子だ 貴史、これで桃は大丈夫だ!」 「本当か? まぁ良い、大人しくしえなかったら 調教してやるからな!」 兵藤が言うと桃太郎はキャイ~ン!と鳴いた 一生は笑って桃太郎と兵藤を見た イオリはコオとイチャイチャ舐めていた 一生が「おい…」と声をかけると 『犬も食わない奴でしょ? なら僕はコオを舐めていたいです』としれっとした顔で言った ガルはそんなベタ甘な父さんと母さんに甘えていた 兵藤は笑っていた 康太は「一件落着だな」と笑った 「………すまねぇ……」 「桃は一途なんだよ んとにお前しか見えねぇんだな」 「……これで風呂は静かに入れるな 美緒が毛が浮くから桃太郎は入れるなってうるせねぇんだよ」 「…犬と一緒に風呂に入ってるのかよ? もっと色っぽい話はねぇのかよ?」 「うるせぇ!放っとけ!」 桃太郎は幸せそうに兵藤に膝の上で丸くなって眠りに落ちた 桃太郎なりな悩んでいた日々は終わった もし……犬の願いを聞いてくれる神様がいるなら 少しでも長くご主人貴史といさせて下さい それだけがボクの願いです 夢の中で桃太郎は神に祈った

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