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第40話 告白

「先輩……好きです」 飛鳥井悠太は静まり返った放課後の下駄箱で告白された 葛西と共に生徒会を終えて帰宅の徒に着こうとしている時だった 悠太は訳が解らず 「………え?俺?それとも葛西?」と問い掛けた 朴念仁の悠太は必死の告白を自分ではなく葛西なのかと問い掛けた 葛西は「……あちゃー」と顔を押さえた 必死の告白をした少年は顔を真っ赤にして 「……飛鳥井先輩です」 と涙をためて答えた 悠太は少年に向き直ると深々と頭を下げた 「ごめん……俺は愛する人がいるんだ だから……応えられない」 飛鳥井悠太には恋人がいる その噂は確信をもって広がっていた 薬指の指輪を隠す事なく着けているから噂はかなりの尾びれを着けて広まっていた 「………知ってます…… 先輩には恋人がいるって…知ってます それでも諦めきれなくて……告白だけ……したかったんです……」 泣きながらそう訴える 刹那い…… 片想いなら誰よりもして来た そして今も片想い中なのだ だからやるせなさは誰よりも解っていた でも……解っていても応えてやる訳にはいかなかった 悠太は困った顔をした 仕方なく葛西が助け船を出した 「悠太、そう言う時は『ありがとう』と言ってお礼を言えばいいんだよ! 彼は応えて貰えるとは想っていない筈だ」 あわよくば……とは想っていないと釘を刺してやる 悠太はニコッと笑って「ありがとう」と礼を述べた 少年は……その顔を見て、走って行った 「そんな顔するな悠太 お前には本命がいる それは周知の事実として噂は流れている 玉砕覚悟だったと想う それでも告げて先に逝くしか出来ないから告白したんだ……」 「………葛西……」 「さぁ逝くぜ!」 葛西は悠太を促した ゆったりとした歩調で葛西は歩く 足の悪い悠太に合わせて、葛西は歩いていた 「なぁ悠太……あの人……幸せそうに笑ってる?」 あの人が誰か…解る悠太は…… 「最近は忙しくて家にいない日の方が多い……」 と、馬鹿正直に答えた 葛西は「………兵藤会長が刺された……って一件のニュースのせいか?」と心配そうな顔で問い掛けた 「どうだろ?俺は康兄の事はあんまし知らないからな……」 「………そっか……大変な時なんだな 俺もまだまだ頑張らなきゃな!」 あの方へ……返せる程に頑張らなきゃな と、葛西は果てを見て……呟いた 「葛西、来年の修学旅行の予定を立てないとね 週末は飛鳥井に泊まりなよ 実行委員数人と時間を計って計画を出して行こうよ!」 「週末か……俺は遅くなるけど良いか?」 「あれ?デートでもあったりする?」 「最近、進藤先生の塾に入ったんだ 高坂陸王と海王もいたから驚いたけど、あの人の役に立つ日の為に何か出来る事を模索して…… 何時か戦力になる日が来るまで、俺は自分を鍛え上げようと想っているんだ だから政治を第一歩として学んでいるんだ 俺にはお前のように製図を引くセンスはない モノを造り出す創造性もない それは一番自分が解っているからな ならば影で支えられる存在になりたい 何になるかは解らない だから可能性総てを試してみようと想ったんだ 進藤先生に相談したら手始めに始めてみろと助言も貰えたし、俺は第一歩を歩もうと決めたんだ」 友は……歩き始めていた 自分の人生と向き直って 自分の可能性を模索して、歩き始めていた それが誇らしくもあり…… 寂しくもあった…… だが道は違えど友だった ずっとずっと友でると決めていた 「……飛鳥井建設でもバイトしてるんじゃなかった……お前?」 「あぁ、経理や監査そして経営実践と帝王学を綾小路綾人さんに教わっている まだまだ即戦力にはなれないから勉強しなきゃ!」 「……なのに……進藤先生の所でも勉強するのか?」 「俺は学ぶ事が沢山あるんだよ」 「………生徒会もあるのを忘れるなよ」 「解ってるさ!」 「……色気ねぇな……恋人でも作れよ」 「今は歩く方に比重が傾いているからな無理だ もし恋人を作っても蔑ろにするのは目に見えている……」 「……そっか……」 「お前みたいに……恋人以外を愛し続けても許してくれる人なんて滅多といないって……」 「………そんな事言ってたら……一生独身になっちゃうじゃないか……」 「………罪深き子供は……愛を信じちゃいないんだ……愛が永遠だと信じちゃいないんだ…… だから……そんな息子は……誰も愛しちゃいけないと想う……」 両親の間に愛なんてなかった…… 利害のためだけに生活を共にして……子をなしただけの事だった そんな自分が誰かと一緒に生きるなんて想像すらつかなかった 何より…愛する人は……初めて目にした日から唯一人しか要らない…… そんな自分が誰と一緒にいると言う事は…… 愛はやれない 心はやれないから体躯をあげると言ってるも同然なのだ… 誰もそんな事は望みはしない…… そんな事は十分解っているのだ…… 葛西は茶化す様に 「最近 モテまくりじゃんか悠太」と笑っていった 「俺より葛西、お前の方がモテてるだろ? 下駄箱の中や机の中のラブレターを俺が知らないと思ったいた?」 「夢見る子羊が多いんだよ かって俺も夢見る子羊だったからな…… 片想いの辛さは解っている だから夢も見ない程に辛辣にお断りしている そのうち夢見る子羊もいなくなるさ」 葛西は笑ってそう答えた 「……それ……笑えないよ……」 「悠太、誰かを傷付けても護りたい人がいるなら断れ! 傷付くかもなんて情けは、夢を見させるだけ酷だって解れ!」 辛辣な言葉のなかに見える優しさ 葛西繁樹と言う人は冷酷にはなりきれない優しさがあった 「………解っているよ葛西」 「なら良い!俺は来期から生徒会は辞退する 俺の時間は……もう生徒会の為には使わない だからお前が会長になって纏めて行け!」 「嫌だ!お前が表に立たないのに、生徒会にいる気はない! それに俺は‥‥体躯に爆弾を抱えいるも同然だからな‥‥何時まで学園生活を続けられるか解らないんだよ」 ………このっ!殴り飛ばしたい程に難儀な奴を、どさくさに紛れて表に立たせるのは無理なのか…… 「………お前って……そう言う奴だよ」 葛西は眉を顰めて嫌そうに呟いた 「解ってるならさ、お前は俺の前を逝けよ!」 「仕方ないなぁ、なら俺は忙しいからさフォロー宜しく!」 「それが目的か?」 「俺は室生繁樹じゃない葛西繁樹だ 何時か……親父が手放した旅館を取り戻して無くしたモノを手に入れる それまでは死に物狂いにならなきゃならないんだ 総てを取り戻したら………あの人の為だけに生きるって決めているんだ」 「ならさ、お前が取り戻したら新しい旅館の絵図は俺が引いてやるよ! それまでに名のある設計者にならないとな」 悠太は最近、脇田誠一の一番弟子としてメディアに取り上げられている 何処へ逝くにも師匠と同行する 脇田は惜しげもなく弟子だとメディアに言い触らした 飛鳥井家真贋の溺愛している弟 ゆくゆくは飛鳥井建設の設計者になるべき存在として注目を集めていた もっとも……本人はそんな喧騒の外にいて、いたってマイペースに日々を過ごしている そんな飛鳥井悠太が手掛けると謂うのなら…… ネームバリューは十分にある だが、教えない そんな事は教えなくても良い ネームバリューなんか要らないから…… 友が自分の夢の手助けをしてくれるだけなのだから 「康太さんが行ったハワイに逝くんだもんな ハワイの朝陽を見ないとな あの人も見た朝陽を見るのが楽しみだ」 「………お前は……何から何まで康兄だな」 「お前が言うな!」 「俺は康兄の弟だから良いんだよ!」 「なら俺の命はあの人のモノだから良いんだよ」 言い合いをしていると「葛西!悠太!」と言う声がかかった 声の方を向くと康太が立っていた 悠太は「康兄!どうしたんですか?」と兄の傍へと駆け寄った 「葛西、体躯の調子はどうよ? ちゃんと定期検診行ってるか?」 康太は葛西の心配をした 葛西は嬉しそうに笑って「はい!」と答えた 「葛西…」 「はい!」 「俺に返す日なんて考えなくて良い オレは悔いのない日々を送れと言った筈だ 進藤に聞いてビックリした ………オレは……んな事は望んじゃいねぇぞ?」 康太は進藤に葛西が教えを乞いに来た事を告げられ驚いた 飛鳥井建設にバイトに行って確実に実践経験を積んで即戦力になりつつあると綾小路に聞いたばかりだった 『彼はスポンジの様に総てを吸収して行きます その努力は頭が下がります 出来ない事があれば食らい付いて教えを乞い 物凄い努力をして……その先に逝きます まだ17歳でしょ?彼は…… 僕は……倍速で生きてる彼が…… 少しだけ心配です まるで……俊作を見ているみたいだと……理央が言っていました…… 僕も……彼の師匠として……少しだけ心配です』 綾小路は心配そうに胸のうちを吐露した オーバーワーク過ぎなのだ 何時か壊れてしまわないか…… 不安なのだと言葉にする 俊作と葛西は別人だと解っていても…… 倍速で生きる生き方は…… 何時か壊れてしまわないか……不安にさせるのだった 綾小路は弟子が心配だった 初めて出来た弟子なのだ 弟子など取るつもりはなかった だが教えを乞う弟子は真摯でひたむきで、世話を焼かずにはいられなかった 「……康太さん大丈夫です」 案の定の返答を耳にして康太は実力行使する 「葛西、綾人がお前のスケジュールを管理する事になった」 「え??師匠が?何かの冗談ですか?」 「飛鳥井建設のバイトの日 進藤の所へ勉強に行く日 生徒会の仕事をする日 学校と進藤と協議して管理する事となったそうだ! この後、会社に行くんだろ? なら綾人に聞けよ んでお前は休む日も作れ! でないとパンクするのは目に見えている! 自分を一番に大切にしろ!解ったな!」 康太は怒っていた だが葛西は譲らない 「それは無理です……俺の一番は貴方ですから……」 「オレが大切なら自分の管理位しろよ! 酷使して尽くして……オレが喜ぶと思っているかよ?」 「………すみませんでした……」 「バイトも進藤の所の勉強も少しペースを落とせ 今しか味わえない学園生活を蔑ろにするな……」 「………すみませんでした……」 「たまには遊べ!サボれ!怠慢になれ! 普通、もっと頑張れってのはあるけど、頑張りすぎるなって……変だろうが……」 「貴方の為になりたかったんです…」 「おめぇの犠牲の上に成り立つ日々なんて要らねぇよ」 そうだ…… この人は……こう言うのは解っていた 自分の日々を大切にしろとさんざん言われた 「少し……ペースを落とします でも師匠の所と進藤先生の所の勉強は辞めません」 「誰も辞めろとは言っちゃいねぇよ」 「はい……」 葛西は嬉しそうに笑った 悠太は「康兄、なにか用事があったのですか?」とわざわざ学園に姿を現した事を問い掛けた 「葛西に用があったんだよ」 「なら週末まで待ってれば来たのに……」 悠太はボヤいた 「待ってられなかったんだよ 待ってる間に手遅れになりたくねぇからな」 「葛西ばっかり……ずるい……」 悠太は拗ねた 康太は笑って悠太の胸をポコンッと叩いた 「葛西は目を離すと無理するらしいからな 綾小路から釘を刺しとけと頼まれたんだよ 進藤も無茶なお子様にはお仕置きが必要だと言ってたからな 釘を刺しに来ただけだ!」 「そっか……康兄、義兄さんは? 一生君や慎一君も連れずに来るなんて珍しいですね」 「伊織なら校門の所にいるぜ 葛西に話があるから一人で来ただけだ 悠太、帰りは一緒に歩いて帰ろうぜ 葛西も来いよ!飯食って泊まって逝けよ!」 「はい!」 葛西は嬉しそうに答えた 校門の所に逝くと榊原が立っていた 康太の姿を見つけると榊原は傍に寄って康太を引き寄せた 「帰りますか? 義兄さんが井筒屋の羊羹をゲットして帰ってきたそうですよ?」 「すげぇ!還ろうぜ!」 康太は早足で歩き出した その後を榊原が追って歩く 悠太と葛西はその後について歩いた この愛しき日々を瞳に焼き付ける 生きている証し 生きて逝く礎…… 葛西は確りとした足取りで歩き出した 明日を信じて共に逝く そう信じて後へと続いた 飛鳥井の家へと還る道すがら、葛西は悠太が告白された事を告げた ちゃんと断った事を付け加え 悠太のモテ期を教えた 康太は笑って「モテ期到来か……メディアで脇田誠一の弟子だと注目されているからな、当たり前の事だと想う 注目を浴びれば、近付こうとする輩は増えてくる お前は自分の意思に関係なく有名人だって忘れるな」 とキツい言葉を投げ掛けた 榊原は「康太、悠太は誰よりも解っていますよ」と悠太に変わって代弁した 「それでもな、言わねぇとならねぇ時もある スキャンダルをでっち上げて話題にしようと想う奴もいるって事だ 不本意な想いをするのが嫌なら、気を付けろって事だ」 悠太は驚いた瞳を康太に向けて 「………でっち上げて……そんな不本意な事など御免です 兄さん達は……そんな目に合っているって事ですか?」 その問いに康太は答えなかった 榊原も答えなかった それが返答だった 渦巻く陰謀は手ぐすね引いて待っていると言う事だった 「康兄、俺は大丈夫です 外野が何を言おうと自分の道は見えてます 康兄が敷いてくれたレールの上を俺は逝くだけです」 「なら良い……さてと井筒屋の羊羮がオレを呼んでるかんな!」 康太はそう言い走り出した 後少しで飛鳥井の家の近くに逝くと、一生が音弥と共に出迎えてくれた 「かぁちゃ!とぅちゃ!ゆーちゃ!かちゃい!」 名を呼び音弥は康太に飛び付いた 「どうしたよ?音弥?」 「おむきゃえ きちゃにょ! おとたん らいひょう!」 音弥はそう答え康太に甘えた 康太は音弥を抱っこして家へと向かった 玄関を開けると流生や翔、太陽と大空が待ち構えて抱き着いてきた 康太は音弥を下ろすと五人兄弟を抱き締めた 「お待たせ!淋しかったか?」 「「「「「ちゃみち きゃっちゃ!」」」」」 我が子は寂しかったと良い抱き着いた 康太は我が子を強く抱き締めた 葛西はそんな康太を幸せそうな顔で見ていた 果てへと続く先に…… 貴方の温もりを感じていられる それだけで……良いのです 葛西はそう思った 悠太もそう思った そして二人して顔を見合わせ笑った

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