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第42話 楽しい時間は早く過ぎる‥

ご主人貴史…… 桃太郎は寂しくて……何時も泣いていた 泣いて…… 泣いて…… 目の下に……涙のシミが出来て……毛並みが色を変えてしまう程に…… 泣いていた 美緒はそんな桃太郎を不憫に想い、飛鳥井の家へと預けた 飛鳥井の家には兄弟犬のイオリがいるからと想い、苦肉の策だった タカシやごまは一人でも割りと平気な子達だった 自分のテリトリーを歩き回ってゴロンッと寝て 好きな時間を使っていた だが、桃太郎は飼い主命な犬だから…… 飼い主がいないと泣き暮らす そんなダイブだった 美緒は息子の貴史が何処で何をしているか知らない 知る必要はないと想っている 何か理由があって動いているのだろうし 動いている事を問い質しても……素直に答えるダイブではない それを知っているから美緒は聞かない事にしていた だが、桃太郎は見てられなくて…… 「貴史、桃太郎がお前を探して歩いて大変じゃ…… どうしたら良いだろうな……我も手を焼いておる」 とラインをするのだった 一日に一回 返事があるからその通りにしてやる 『すまない美緒……俺はまだ還れねぇから飛鳥井に預けておいてくれ』 そう返事があり、美緒は桃太郎を飛鳥井の家に預けた 『ねぇ桃ちゃん……元気ないね』 コオが桃太郎を心配して声をかける 『コオ……タカシがいないんだ…』 『そうか……うちもご主人康太とご主人伊織がいないよ…… 早く会いたいけど……待ってれば逢えるよ! 絶対に還って来てくれるよ!』 『……コオは強いね』 『だって逢いたいって泣いて……泣き暮らしてても…… 1日なら、楽しい事を沢山して過ごせって…… ご主人康太が言っていたんだ そうだよね 泣いてても1日は過ぎちゃうもんね でも泣いて1日過ごすなら、笑って楽しい事を沢山して過ごしたいもんね どの1日を選ぶ?って聞かれた事あるんだ オレは……楽しい事を沢山……って答えた そしたら『そうだ!楽しい事を沢山して過ごしてろ! 絶対に還って来るからな…心配せずに待ってろ!』 そう言ったんだ オレは……信じて待つと決めた 楽しい事を沢山感じて、待つと決めたんだ 桃ちゃんもそうしなよ 泣いて待ってても1日ならさ、楽しい事を沢山して過ごすのも1日なんだよ。 楽しい時間は早く過ぎる あっという間に時間は過ぎて逝くんだよ!』 コオは楽しそうにそう言い尻尾を振った イオリも桃太郎に 『ご主人貴史が還って来るまでいると良いです 朝の散歩は慎一が連れて逝ってくれるから、一緒に行きましょう! ドングリが転がってて秋を満喫出来ますよ今なら!』 と優しく声をかけた ガルはコオに甘えて 『桃ちゃん一緒に行こうね!』と楽しそうに言った 『ガルちゃ……』 コオはガルを舐めながら 『桃ちゃんも子供作ると良いかもね そしたら寂しくないかもね』と提案した 『ボクはまだご主人貴史を独り占めしたいから…… 子供はまだ良いや…』 『我が子は可愛いよ桃ちゃん きっと桃ちゃんの子供ならチャンピオン犬出るかもね 桃ちゃんの毛並み、イオリに負けてないもん』 『チャンピオン犬じゃなくても良いよ ボクの子供ならどの子もちゃんと愛してやりたいから……』 桃太郎はそう言い笑った 嬉しそうに笑った 何時までも会話は尽きる事なく あずきが玲香の部屋から出て来て、桃太郎を見て飛び付いた 午後から玲香に逢いに蒼太が恵太と共にやって来て 応接間で玲香は過ごした コオやイオリ、ガルやあずきがいる 桃太郎は人の多い応接間が好きだった 玲香は我が子と一緒に嬉しそうだった 「どうしたのじゃ?遊びに来るのは構わぬが、珍しすぎではあるまいか?」 遊びに来てくれた我が子に何かあるのか?と勘繰りたくなるのは……仕方ない 近くに住んでいても滅多と逢いに来ないのだから…… 誤魔化されないか……と蒼太は口を開いた 「康太がまだ還れらしくて『母ちゃんの様子を見に行ってくれ!頼んだからな!』とラインが来たのです 電話しても繋がらなくて……でもラインを入れておけば一日に一回必ず既読になるので連絡は取れるのです 僕も康太がいないのなら一生達もいないだろうから、様子を見に行くつもりだったので、来ました」 玲香は目頭を押さえて「……そうか……」と呟いた 悠太がケーキを持って還って来ると、ケーキと紅茶を応接間に運んだ 玲香はそのタイミングの良さに 「悠太、それは偶然か?」と問い掛けた 「康兄が蒼兄と恵兄にケーキと紅茶を出してもてなしとけ!とラインが入りました 俺は脇田にいたのですが、康兄からの連絡だったので師匠が喜び勇んでケーキを買ってくれて送ってくれたのです」 と悠太が説明した 蒼太は「康太らしいな」と笑った 恵太は「悠太が駆り出されたと言う事は、一生とかいないのですね」と的を得た事を言った 「あぁ、何処にいるかも解らぬ!でも瑛太の所には連絡は入っているのか、何とか自分を保っておる」 玲香の言い種に蒼太は笑った 恵太は瑛太らしいと苦笑した 蒼太は桃太郎を見て 「貴史君もいないのですね……」と呟いた 「……あぁ……あの子は貴史が大好きな犬故…… 足の毛が摩りきれて血が出る程に主を探すのじゃ… だからうちで預かっておるのじゃ」 玲香が言うと恵太は辛そうな顔をして 「………ご主人不在は…誰よりも解るんだね…… うちもさ……ご主人不在でクシュンとしている大型犬いるよ」 呟いた 蒼太は「それ、栗田?」と問い掛けた 「そう。一夫はご主人命だからさ……不在だと死にそうな顔してるんだ……腹立つ!」 蒼太は恵太の背中を撫でて 「言ってやるな……」と言った すると、ソファーに座ってその様子を見ていた悠太が 「俺もすっごく解ります」と賛同した 恵太は「……それって聡一郎?」と問い掛けた 「はい!今回は一緒に逝っているのでいませんが、留守番の時は何をしてても気もそぞろで何も見に入ってないんだよね」と言い笑った 恵太は「それ解る!まさにそれだよ!」と爆笑した みんなで楽しげに雑談していると、瑛太と清隆が還って来た 玲香は「どうしたのじゃ?」と笑って問い掛けた 清隆が「康太が家族サービスしやがれと言って来たのです!私も最近、康太とラインをする様になったのです! で、康太からラインが入っていたので家族サービスする為に還りました」 清隆は楽しそうに、そう答えた すると瑛太もニコニコ笑って 「私も康太から留守を頼むな瑛兄!とラインが入ったので、子供達と遊ぶ為に早く仕事を上がりました 慎一に電話したら、既にお迎えに逝ってるそうなので、還って来るのを待つつもりなのです」 そう答えた そうこうしている間に子供達が幼稚舎から還って来た 流生は話し声が聞こえると、応接間のドアを開けて清隆に飛び付いた 太陽と大空は瑛太に飛び付き 音弥は蒼太に飛び付いた 翔は玲香の方へと行って「たらいま!」と挨拶した 「お帰り翔 どうであった?幼稚舎は?」 「ふちゅうれちゅ!」 「楽しかったかえ?」 「ふちゅうれちゅ!」 「友達とは遊んだかえ?」 「ふちゅうれちゅ!」 「………お主の普通は……瑛太と同じで見えにくいな」 玲香がそう呟くと瑛太は反論に出た 「………母さん、私の何処が見えにくいのですか?」 「お主も同じ事を言っておった」 「………グッ……そんな事はありません!」 「そんなに早くから冷めずともよいと我は想うぞ?」 「性格なんでしょ? 私は熱い男なので冷めてなどいません!」 瑛太が興奮して反論すると、翔が 「えいちゃ けんきゃらめ!」と止めに入った 「翔……私は……喧嘩などしておりません」 「わきゃった……よちよち!いいきょえいちゃ」 翔は瑛太の頭を撫で撫でしてやった 瑛太は照れくさそうに笑って 「翔は康太に似て優しいですね」と答えた 「かけゆ かぁちゃ いっちょ!」 翔はそう言い嬉しそうに笑った 瑛太は「ええ……君は本当に康太ソックリです……流石血は争えませんね」と言った 「かけゆ かぁちゃにょきょらから! ちょれいぎゃいには、にゃれにゃいの」 「それで良いのです」 瑛太はそう言うと、悲しそうに笑った 流生が瑛太の膝にドカッと座った 「……流生?」 「きゃわいぎゃるの!」 「え??」 「りゅーちゃ めっちゃきゃわいい」 そう言いペコちゃんみたいに舌をペロッと出して笑った 「ええ。流生は可愛いです」 瑛太が言うと音弥もドカッと瑛太の膝の上に座った 「おとたんもきゃわいいって! おとたん  ひゃやとよりきゃわいい!」 ………返答に困る…… 瑛太は困って……それでも笑っていた そこへお留守番の隼人が仕事を終えて神野と共に応接間に入って来た 隼人は応接間に入ると、音弥の首根っこを掴んだ 「………隼人?……止めなさい…」 瑛太は慌てて止めた すると隼人は胸ポケットから携帯を取り出し瑛太に見せた 「……え?何?」 「見るのだ!」 隼人が言うと瑛太は携帯を見た 『隼人、早く家に帰らねぇとお前より可愛いと音弥が言ってるから、お前二番になるかもな』 『まぁ二番でも音弥の次に可愛いから良いか?』 隼人は「嫌なのだ!オレ様が一番なのだ!」と返すと 『なら仕事をぶっぎりで終わらせて帰れ! 隼人、あと少しお留守番してろ! そしたらネズミの国に連れて逝ってやるからな! 取り敢えず、還って一番可愛いを奪って来い!』 「解った留守番してるのだ! そして家に還って一番可愛いを奪って来るのだ!」 『そうしろ!隼人愛してるぜ!良い子にしてろ!』 康太の文字に瑛太は笑った 文字からも解る康太の気配 愛する長男の為に、愛する家族の為に、愛する子供の為に……… 康太は一緒にいる時間を作ったのだ 「音弥!オレ様が一番可愛いのだ!」張り合い言う 音弥はベーッと舌を出すと 「ひゃやとじじい」とカウンター攻撃した ブチッ 「オレ様の何処がじじいなのだ!」 怒って隼人が音弥を抱き上げてベーッとお返しした 「おとにゃげらい…」 「こどもげない!」 「ひゃやと ぎゃまんもひちゅよう!」 「音弥、我慢も必要!」 「まねちゅんにゃ!」 「お前こそ真似すんな!」 喧嘩に発展 そこへ真矢と清四郎がやって来た 「賑やかね」真矢が言うと 「本当に……久しぶりですね」と清四郎が応接間を眺めて言った 玲香は真矢に「康太に呼ばれたのかえ?」と問い掛けた 真矢は笑って「瑛太に呼ばれたのです。ねっ?瑛太」と瑛太に問い掛けた 瑛太は隼人から音弥を奪い、真矢に渡し 「ええ。久しぶりに子供達と過ごそうと想い連絡をしたのです それが我が弟、康太の望みですからね」 優しい笑みを浮かべて言った 玲香は笑って頷いた コオやイオリやガルは家族が揃う賑やかさに嬉しくなり丸くなった 家族のいる空気が好きだった この家の、この場所が好きだった 誰もいない場所は寂しさが詰まり… 人が増えると楽しさが詰まる…… そんな場所が大好きだった 楽しい時は早く過ぎる こうして楽しい時間をやり過ごしていれば…… 還って来てくれる 還って来てくれるんだ……… 桃太郎はそう想った 楽しい時間を噛み締める 楽しい時間の先に待っている時間を夢見る だから焦がれて生きていこうと想った 桃太郎は瑛太の膝の上に乗った 瑛太は桃太郎を撫でた 烈がよちよち瑛太に近寄って、桃太郎を撫でた 瑛太は烈の頭を撫でた 烈は瑛太の膝の上に乗って甘えて………寝た 瑛太の膝の上には桃太郎と烈が眠りに落ちていた 瑛太はそんな烈と桃太郎を優しい瞳で見ていた 清隆は「寝ちゃいましたね」と言葉にすると瑛太の膝から烈を抱き上げた そして空いているソファーの上に寝させてブランケットを被せた 「…………淋しいのでしょう……」 清隆は口にした 流生は清隆に抱き着いた 「いうにょ らめ」 言ったらもっともっと淋しくなるから… 言っちゃダメだと流生はいった 「………でしたね……言っちゃダメでしたね」 「ぎゃみゃん れきりゅもん」 「ならじぃちゃんも我慢します」 清隆はそう言い流生を抱き締めた 流生は清隆に抱きついて……眠りに落ちた 太陽は玲香に抱かれ 大空は京香に抱かれ 音弥は真矢に抱かれ 翔は清四郎に抱かれ 眠りに落ちた 淋しかったのだ 康太の子供達も……淋しかったのだと桃太郎は想った その夜、桃太郎は夢を見た ご主人貴史が還って来て抱いてくれる夢を見た

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