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第44話 飛鳥井建設 副社長代理

兵藤貴史は飛鳥井建設 副社長の椅子に座って仕事をしていた 榊原伊織が久し振りに脚本を手掛ける映画が始動した 飛鳥井建設 副社長と脚本家の二足のわらじを履いて頑張っていた榊原だったが 平行して仕事を続けるのにどうしても支障が出て来た…… どちらも続けられない事はない 事はないが…… 妻に淋しい想いをさせているのは事実だった 脚本を手掛ける事になり、副社長の仕事と脚本とで手一杯になり…… どうしても妻が蔑ろになってしまっていた それは本意ではない 妻との時間を作る そう決断を決めた榊原は、兵藤を飛鳥井建設 副社長室に呼び出した 榊原に飛鳥井建設 副社長室に呼び出され来た兵藤は戦々恐々だった やはり榊原は 「貴史、君が僕の代わりをしてくれませんか?」 と無理難題を吹っ掛けて唐突にそう言った 「…………はい??????」 訳の解らない兵藤は 『何言ってるんだよコイツ……』と想った 「康太が淋しがっています 僕は脚本を手掛けてから、会社と脚本とで手一杯になり……康太は迷惑かけまいとして我慢しているのです それは……僕にとって不本意な出来事なのです かと言って副社長の仕事を社長や会長に押し付ける訳にもいかないのです なので、代役を立てる事にしました」 榊原はそう言いニッコリと笑顔を浮かべ 「貴史、副社長の代理、お願いしますね!」 と言い捨てた 兵藤は「………何で俺だよ…お前んとこは人材だけは豊富にいるやん」と自分に白羽の矢を立てた事に疑問を口にした 「一生は牧場が出産ラッシュに突入したので、牧場にかかりっきりです 聡一郎は四宮の会社の新事業を立ち上げて、起動に乗るまでは手一杯でしょうね 隼人はまた海外で仕事中ですし、日本にいても副社長の席は預けられません 慎一は家の事や子供の事、牧場の事や馬の事もありますしね これ以上は無理なんですよ それに副社長の椅子を託すって事は……最初のハードルを低くされては困るので…… 難関になって貰わねばなりません なので難関に成りうる人材、それは君しか思い付きません! 康太がサポートに入ります 僕は妻のサポートに徹します 脚本と妻のサポートに徹するので……… 貴史、君は康太と共に飛鳥井建設を護って下さい 近いうちに康太が正式な代理を用意するので、それまでの間、宜しくお願いしますね!」 なんと言う屁理屈…… 兵藤は「………康太がサポートに?妻サービスする為に副社長の席を俺に託すんだろ? だったら妻は傍に置いて書けば良いじゃねぇのか?」と新婚に突入してろと暗に言った 「僕は書くと他が見えるタイプではないのです 妻のサポートに徹する事は出来ても…… ずっと一緒とはいきません 昼間に集中して書き上げるので、夜は時間を作りたいのです その間、妻は暇をもて余すので……仕事をさせておかねばなりません 暇をもて余せば……ロクな事をしないのは目に見えてます なので康太には副社長代理のサポートに徹してもらいます なぁに秘書の西村が手綱を握っててくれるので、君は気にしなくても大丈夫です」 榊原がそう言うと、榊原の後ろで控えていた秘書が兵藤の前に立った 「飛鳥井康太の秘書の西村沙織と申します 以後お見知り置きを!」 それはそれは美しい秘書が微笑み自己紹介をした 兵藤は美しい花には刺があるのを知っていた しかも遥か昔に御逢いした……記憶が危険を発信していた 榊原は「で、引き受けてくれますよね?」と下拵えをした後に、確認を求めた 「………秘書まで紹介した後に確認……とか、確信犯だろ?お前……」 「貴史しか頼めませんからね 狸親父達はここぞとばかりに腑抜けた書類を持って来るでしょうからね…… 舐めて掛かってくるのは目に見えてます」 「………そんなに酷いのか?」 「ええ……妻なら昇華してやる!と叫ぶ程に……」 「………人とを見て仕事するって……どんだけだよ」 兵藤はボヤいた 「若いってだけで……人を見下し懐柔しようと実力もないのに威圧的に来る人もいますからね…… とにかく足元を見られたらお仕舞いです 際限なく付け込んで来ますからね」 「………何かさ……親父の後援会の奴等と一緒だな アイツ等さ……俺が若いと想って苔にしようと必死でさ 見下して苔にして懐柔しようと必死だったな 力を見せつけて制圧して……踏みつけプライドも矜持も落として従わせる 糞だな……んとに嫌になる……」 「仕方ないですよ 君も僕も……世間から見たら若造なんですから…… 若造が目上の人間を従わせるには力を見せ付ける事でしか従わせられないのは現実なんです それが嫌でも……反吐が出てもね それが現実なんです」 榊原の言葉は…… 何処か悲しげで……哀愁を漂わせていた 「解ったよ!引き受ける 但し、俺の遣り方に文句は一切言うな!」 「言いませんよ 君は僕らのボスだった 僕は一度でもボスの命令に背いた事がありましたか?」 桜林学園 生徒会 会長 兵藤貴史 執行部 部長していた時は、兵藤の部下だった 頼もしい執行部 部長だった 榊原に言っておけば間違いない そう想って無理難題を押し付けた事もあった それでも期待以上の出来で榊原は応えて来るのだった 絶対の信頼関係 それは確かにあった 「………逆らいはしなかったが……命令無視は多々とあったけどな……」 兵藤がボヤくと榊原は笑って 「でも君は大目に見てくれましたね」 と答えた 「お前は昔から妻の事には目がなかったからな」 兵藤は笑った 「愛する我が妻ですからね」 榊原も笑った 「お前の留守中は何がなんでも守り通してやろう 四神としてお前の留守を護ってやった俺だからな 今度もお前の期待以上の出来を期待していてくれ!」 「………朱雀……そうでしたね……」 「だからお前は全力で自分のやるべき事をやれ!」 「君は何時の世も頼もしいですね」 「あたりめぇじゃねぇかよ! 何時の世もお前と俺とは切っても切れねぇ仲間じゃねぇかよ!」 「………でしたね」 頼もしい仲間でいてくれた 頑固で融通が効かない冷徹な奴だったのに…… 見捨てずにいてくれた 「んじゃ、今日、これから副社長の仕事やる事にするか! だからさ伊織、お前帰れよ 康太は多分買い物だ お前の誕生日近くだろ? 今年は何をやるか悩んでいたぜ! 西村、書類に目を通すから持って来いよ それと社長と会長に俺が仕事を継いだ事を伝えといえくれ! んでもって俺のやる事に口は出すなと釘を刺しといてくれ!」 「それでしたら副社長が充分刺しておりましたから大丈夫かと……」 西村は楽しそうに、そう答えた そして榊原に「副社長はさっさと帰宅されれば宜しいです。康太を悲しませたら許しませんよ?」と言い追い払った 榊原は笑って「そうですね。妻に会いに行きます」と言い副社長を出て逝った 兵藤はそれを見送り「らしくねえ事をしやがって!」と呟いた 「取り敢えず桜林の電子頭脳と謂われた手腕を奮ってみるか!」 と呟き、兵藤は書類に目を通した 「なってない!やり直して下さい!」 容赦のない厳しい叱責の声だった 兵藤の厳しい声が副社長室に響いた 「…………代理の癖に……生意気言うな!」 兵藤の父親位の年齢の男性社員が兵藤に食い付いた 「代理だからチョロいと想いましたか?」 兵藤は皮肉に嗤って男性社員を見た 「代理なら代理らしくしてれば良いんだ!」 「副社長の椅子を託された以上はそれ以上の仕事をしないと私の存在意義を問われますから、それは無理です!」 兵藤はそう言い男性社員の前に書類を放った 話にならないと追い出そうとすると、ドアがノックされた 西村がドアを開けに行くと栗田一夫が深々と頭を下げてから、副社長室へと入って来た 「代理、うちの部署の社員が失礼をしているとか? 引き取りに来ました……どうか穏便に済ませてやって戴けませんか?」 兵藤は「穏便に済ませと?」と唇の端を吊り上げて栗田に問うた こんな顔は主と本当に良く似ていて……嫌になる 「………出来れば…でよいのですが……」 栗田が言うと兵藤は机の中からボイスレコーダーを取り出した 微笑み兵藤はそれを栗田に手渡した 「己の実力を棚上げにして吐く台詞は……陳腐すぎて嗤うしかないですね」 冷たい瞳で射抜かれて……男性社員は背中に冷や汗を流した 「俺は未来の日本を背負う存在 そんな俺が飾りの為だけに副社長の椅子に座ってる訳ないでしょ? そんな事も解りませんか?栗田一夫」 栗田に問いかけられる 栗田は近い将来、国会に立つであろう存在を目にして 「榊原伊織副社長が貴方に副社長の椅子を託したと言うのであれば……… それは自分以上の力を認めているから! 私は社員に副社長代理をナメて掛かれば痛い目を見ると通告しております なので貴方が処分すると申すのであれば…… 仕方がありません! 通告に耳を貸さず甘く見たからいけないのですから! ですが、このど忙しい時期に社員は減らしたくはないのですよ へらず口叩く社員だって使えるモノは使わねば消化出来ない事だってあります」 栗田はしれっとそう言った 「人手不足は否めない……って事ですか 使えるモノは無能でも使わねばならねぇと言うのであれば、俺がこの椅子に座っている間に二度とふざけた書類は持って来るな! 次はねぇからな栗田! 次、俺にこんなふざけた書類を見せるなら、戒告か訓告処分にしてやる 人手不足と言うなら、ふざけた社員は切るべきだ! その方が滑車が回る事を教えてやるよ!」 そこまで謂われたら……なにも言えない 栗田は観念するしかなかった 「…………承知しております! 貴方が代理になったと言う事は副社長以上に厳しい戦略を用いられるのは目に見えてました 主も副社長も貴方の実力を認めております 兵藤貴史、貴方が飛鳥井建設に吹き荒れる一陣の活性剤になられる事を期待しております」 栗田は嬉しそうに、そう言った 「………流石……康太の駒……一筋縄ではいかねぇな!」 兵藤はニカッと嗤い、後は興味もないとばかりに書類に目を遠し始めた 「栗田、少し待ってろ! 今、目を通している書類について聞きてぇ事がある」 書類から目を離さずに言う 「………この者はどうされます?」 「戻せ!そして二度とナメた口を利くなと給料カットに再教育でもしとけ! 第一線から外して様子を見る!以上!」 「はっ!」 栗田は男性社員に向き直ると 「と言う事だ 喧嘩は相手を見て売りなさい 君は今の仕事から離れてもらう まぁ、簡単に言うなら、総てのポジションを剥奪すると言う事だ 退職届は何時でも受理しよう だがこの就職難のご時世に転職も難しいだろう 0からやり直すと言うなら飛鳥井家真贋、我が主が唱えた再教育のシステムに乗っかってrestartの道はある 選ぶの君だ! 答えを出す猶予は1日差し上げますので、考えて来て下さい」 男性社員は死刑執行を聞く気分で、それを聞いていた 何が起こっているのか? 訳も解らずに……副社長室を追いやられ…… 部署に戻ると………自分の椅子はなかった 統括本部長代理の城田が男性社員を見ると近寄って来た 「貴方は再教育らしいので、部屋を移って貰います」 「………え?……何で……」 「喧嘩は相手を見て売りましょう あの副社長が実力のない人間に代理を依頼する訳ないでしょ? 兵藤貴史 桜林学園 で中等部と高等部で生徒会長をしていた天才です 彼は副社長の椅子に座ると言う事は、副社長以上の仕事をされる 元々飛鳥井建設でバイトされていた方ですから、知識も素晴らしくあります 現場で働いている時は製図の欠点を指摘して、現場の職人を唸らせた 製図や数字を見れば地形や土壌、総てが彼の頭の中で計算される 人は彼の事を人間コンピューターと呼んだ 彼に叶う頭脳は……そうそういないのです 統括本部長は代理をナメて掛かるなと警告していますよね? 一番警戒せねばならない人物 それは何よりも兵藤貴史なのです 彼は今も時々、飛鳥井建設でバイトしています そして真贋の目となり会社の至る所を視察して、改良すべき点をあげている 誰よりも会社の事を見ているのは……代理なのです 君はそんな代理をナメて掛かった 然るべき制裁でしょう 統括本部長が入ればこその制裁でした 介入しなければ今頃貴方は会社にも社会にも……存在しないゴミクスにしかなれなかった 一度……地獄を味わってみますか? 絶望しかない地獄で生きてみますか? そこまで落ちれば……人は本性を出すと俺は想う そこで踏ん張るか崩れるかで道は別れる 貴方は……どっちなんでしょうね?」 城田の言葉にうすら寒さを感じた男性社員は身を震わせた 男性社員は「………君は……そんな地獄を見た……とでも言うのか?」と城田に問い掛けた 「ええ。真贋に楯突いて、社会的な制裁を受けました 俺は飛鳥井建設から伝令を受けて、何処でも働けなくなった 畑違いの仕事なら妨害は受けない 畑違いの職場で働こうか……とも考えた だけど俺は製図を引くのが好きだった やはり畑違いの職場では働けないと気付いた だから何かしら建築に携わって生きていければ……と想った 俺は現場で日雇い労働者として働き始めた どんな形でも良いと思い働き始めると、知らなかった建築が見えて来た 俺は机上空論でしか製図を引かなかった事に気付いた 賞を総なめにして来た だけど……そこには人が暮らす空間は存在していなかった それに気付いた それに気付くと……ちゃんと今見てる目で製図が引きたいと想った 無理だと想っていたが……心が渇望した そんな時、真贋に拾われたんだ 真贋は俺が望むステージまで押し上げてくれた 俺は……その想いを忘れはしない 恩を忘れはしない ソコまで逝かないと解れなかった想いを絶対に忘れない だから君も知れば良い 見方を変えた世界を知る その時間は無駄じゃないと知れば良い それを決めるのは俺じゃない それを感じるのは俺じゃない 総ては君の世界の出来事だから、君が感じて判断を下せば良い その為の場所に俺は送り出す事しか出来ない そこから先は………君が這い上がって来て下さい また逢いましょう!」 城田はそう言うと深々と頭を下げた そして部下に 「再教育プログラムを執行してください!」と告げた 部下は男を連れて、部署から出て逝った 城田は役員しか上がれない最上階の階段で窓の外を見ながら煙草を吸っていた 「サボりかよ?城田」 声がして振り向くと兵藤貴史が立っていた 城田は兵藤を見て 「息抜きです そう言う貴方はサボりですか?」と問い掛けた 「おう!サボりだ…… しかし嫌な仕事だな……」 兵藤はボソッと呟いた 「……その嫌な仕事の執行人として手を下すのは俺の役割だって……知っていました?」 城田は苦笑してそう言った 「知らねぇ……あぁ…お前、栗田の部下だったな」 「役職はそうですが、俺は真贋の駒です」 「栗田だって駒やん」 「………あの人は……真贋命ですからね 設計家としての華々しい未来を捨てて付いて逝った人ですからね」 格が違う………と城田はボヤいた 「………お前だって康太命だろ?」 「俺が今あるのは真贋のお陰ですから……」 「それは違う」 「………え?……」 「康太は使えねぇ奴は助けもしねぇ…… お前をこの場に立たせたのは使えると踏んだからだ 必然だったから助けた それだけだろ?」 「………そうかも知れない だけど……それだけじゃない 救われたのは……色々……… 何時も行き詰まった時に彼は手を差し伸べてくれる」 「それは康太の趣味だな アイツはお節介が好きなんだよ だからお前の結婚式とか合作しちゃう訳よ」 それを聞いて城田は真っ赤な顔をした 「……やめて下さいよ…… 俺はまだ……アイツを育てる義務がある」 姉の子を育てていた たった一人の肉親である姉が亡くなった これで天涯孤独になるかと想ったら、姉の子が生きていた その子を育てる義務がある……と言うのが城田の生き甲斐となった 「別に育てるのは一人じゃなくても良いだろ? お前とお前が選んだ人で育てたって良い事だろ?」 「………それは……迷惑が掛かる……」 「迷惑かぁ……迷惑なんて相手が想ってなければ迷惑にはならねぇだろ? 一緒に苦労しても良い そう想ってる奴に苦労なんて感じねぇよ 馬鹿だなぁ城田は……… 共に一緒に過ごす時間は大切なモノだと感じるなら一緒いろよ! 離れる方が後悔する事もある 離れた後で……あの時……手を離さなければ……と想うなら……離さなければ良いんだ そうすれば苦労も二等分 重みも二等分だ 二人なら乗り越えられない壁だって乗り越えられるさ 俺は………見てるだけだった ずっと後悔していた あの時……手を差し伸べるだけで違ったかも知れない ずっとそうやって考えては……悔やんでいた 悔やんで後悔して……過ぎ去った日々に取り返しがつかない事を知るんだ だから俺は……二度と後悔しないと決めた 二度と後悔したくないから共に生きると決めた 一緒なら乗り越えられない壁だって乗り越えられる 共に生きるって事はそう言う事だ 辛い事だって、悲しい事だって、嬉しい事だって……分かち合う喜びに満ちている それだけで……俺は……産まれて来て良かったと思える 悔いるなら傍に逝け 想うなら一緒にいろ まずは、そこ逝けよ そしたら……想いは始まる お前の人生はやっと動き出す お前が生きて来た意味がやっと身を遺す」 「………兵藤君……」 悲しい声だった 後悔と……悔恨の日々……を味わった者にしか口に出来ない言葉だった 彼は……そんな想いをしたのだろう…… 「…………一歩……踏み出してみるよ…… 総てを懸けて言葉にてみる……」 城田は兵藤にそう告げた 「おー!頑張れ! 玉砕したら一緒に飲んでやるからな! 成功しても一緒飲んでやる! まぁどっちにしても飲み明かそうぜ!」 動き出す勇気をもらう そして城田は歩き出す決意を固めた 兵藤は城田の肩を叩くと、副社長室へと戻って逝った 時おり吹き荒れる一陣の突風は、飛鳥井建設に緊張と決意と活油となり滑車は回り出す 緊張感が緩む頃合いを狙って繰り出される戦略は社員たちの気持ちを奮い立たせる事となった 社長室と会長室の内線が止まらない 瑛太は「無視です」と秘書に告げて自分の仕事を消化して逝く 清隆は「………副社長権限の発令をなさい!それは副社長代理も同等の価値を持つ発令だと解らせなさい!」と社内に伝令を流した 副社長権限の酷使 要は副社長同等の力を副社長代理も持っていると知らしめる為に発令された それを受け社員は気を引き締めた 相手は『鬼』の上を逝くラスボス級の『鬼』なのだから…… こうして兵藤貴史の副社長代理の日々が続いた これはそんな日々の一部分にしか非ず 彼の戦歴は……また日をもって明らかにする 「さてと西村、現場の視察に逝くとするか!」 兵藤の声が響く 副社長代理は現場の視察を得意とする その目は会長室の上を逝くとお墨付きを貰った程だった 抜き打ちでやられる視察に戦々恐々とする者や 「お!何時でも来い!」と受けて立つ者までいた 兵藤貴史は確実に副社長の代理を熟していた 今日も冷笑を携えて瞳を光らせていた 飛鳥井家真贋が副社長代理のサポートにつき 吹き荒れる台風の目になるのは、また別のお話で……

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