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第45話 最悪の二人 前半戦

 嵐が吹き荒れる       被害は甚大で……       効果は絶大      最悪の二人がコンビを組んだ 走り幅跳びの選手がバーを目にして精神統一するかの様に… 飛鳥井建設 副社長室の前で、社員が目を瞑り深呼吸してドアをノックする姿が見受けられていた かなり高いハードルは容易には飛べない…… ドアがノックされると秘書の西村がドアを開けに向かった 開けられたドアに迎え入れられ部屋の中を見た すると副社長の机には代理が座り ソファーには真贋が足を組んで座っていた 「客だ西村」 飛鳥井家真贋 飛鳥井康太が西村に嬉しそうに言った 「…………お茶をご用意致します 代理、お茶が整うまで進めないで下さい」 西村はそう言いお茶の準備に向かった 言われた通り、兵藤は待っていた お茶を持って来ると西村は康太の前にマカロンの茶菓子を置き 兵藤と社員の前には………お茶だけを置いた ………この差は…… 社員は想う だが口には出さない 怖いから…… 社員は真贋の目は見ずに……落ち着きなく座っていた 兵藤は「では、書類を!」と言い社員から書類を受け取った 黙って書類に目を通す 真贋は書類には目を通さず、社員を見ていた 背中に冷や汗が流れていく…  居心地悪い…… 康太は書類など見ずに、書類を見る兵藤と社員を視ていた 「貴史、その土壌は昔海だったから水分が多い筈だ 土壌の改良工事に幾ら掛かるか計算を出さねぇとゴーは出せねぇって前に言った案件だろ? 大型商業施設は地盤沈下で頓挫した筈だろ? 今度はマンション建築……どちらも土壌改良工事が優先だろうが! 土壌改良工事を先にやった上での建築となる 試算しただけでも……かなりの金額が跳ね上がる 試算した金額では、まず無理だ しかも土壌で問題が出て着工が遅れれば、違約金を払うはめになる んな高リスク、低リターンの仕事は引き受ける業者はいねぇだろ? うちも当然、引き受ける気はない」 と、キッパリ言い捨てた 社員は「マンションを低層にして……」と説明を始めようとした 「無理だ!低層にしても無駄だ その土地、掘り返してみろよ 少し掘れば貝殻が出て来る程の水分の多い土地の上に、元々は海だったと言うからな鉄骨も細心の注意を払わねぇと錆びるし、ガタが早く来る あそこの土地は一般住宅しか使い道はねぇんだよ 一般住宅の建て売り住宅にしても区画売るのは結構大変な事になるな 自分の足で歩いて土地を視てから企画は立ち上げろ どこぞの不動産関係者に踊らされた企画原案を持ち込んだって、うちでは扱わない!以上だ! 西村、お引き取り願って!」 康太が言うと西村は「出直しなさい!」と社員を立たせて追い出した 兵藤は「………何で一目瞭然な書類を持って来るのよ?」と疑問を口にした 「建築に疎いかと想ったんだろ? たからチョロいと想って乗せられてやって来た ってのが現状だろ? アイツの彼女の親が手掛けている仕事で、協力して欲しい……と泣き付かれたんだろ?」 「………その彼女……って……それ目的で近付いた……って訳ないよな?」 「残念ながら……それ目的で近付いて懐柔されたから副社長室に乗り込んで来たんだろ? でなければ、まずは来ねぇと思うけどな」 「………人間不信になりそうだぜ……」 「そう言ってやるな 人間は弱いのさ 目先の欲目に目が眩む…… それより社内の視察に逝こうぜ! その後は現場の抜き打ち視察だな」 ワクワク楽しそうに言う 本当にタチが悪い それに乗る兵藤も大概……タチの悪い奴の仲間入りはしていると西村は想う だが現場の士気は上がるから……言わないでおく事にした 書類を片付け、視察の準備をする 今日の兵藤の着てる服は、隼人が立ち上げた『blood』と言うブランドのスーツだった 企業戦士をターゲットにしたスーツやカジュアルな普段着 自分もそれを着て仕事をしていた たいした宣伝をしなくても『一条隼人』が着ている服 と言う事で注目を集めて、クチコミは広まって行ってかなりの規模のブランドとなった 今回、兵藤に会社に働いてもらうと聞き付けた隼人が、自分にも何か出来ないか……と考えて、スーツの提供を買って出たカタチとなった 何時か……我が子が成人したら……着せたい そんな想いが詰まったブランドだった 兵藤はその提供されたスーツを着て、毎日出社していた 今回、飛鳥井建設に副社長代理で逝くと決まると、堂嶋正義が赤いスポーツカーを引き取りに来た そして落ち着いたアウディを変わりに持って来た 兵藤はその車に乗り、隼人の用意したスーツを着て…… 出社していた 朝になったら兵藤の家に康太がやって来る 美緒は待ち構えて、康太に食べ物を与えて満足してから、康太を乗せて共に出社していた 毎日、康太が来るから美緒は上機嫌で、息子である立場を脅かされつつあった まぁ……昔から……美緒の康太贔屓は変わらないのだが…… 『うちの子になれ!』が口癖なのは変わらなかった 「貴史、オレも隼人のブランドのスーツ着てるんだぜ? 何気にお揃いってか?」 ガハハッと笑われて…… 何と返答していいのか困る ………が、お揃い……の部分に顔が綻ぶ それが日課になりつつある毎朝の風景だった 役務終えた時、美緒が淋しがるだろうな………と思いつつ…… 自分も淋しくて堪らないだろうな……と想う でも今は精一杯、代理を務める その為にいるのだから……と自分を叱咤激励する 副社長代理と真贋が社内を回ると、一気に場の空気に緊張が走る 通り過ぎようとした者は、廊下の壁に張り付き 過ぎ去る時を待つ 真贋の目は見ない様に……目を反らす 視られたくはないのだ 真贋の瞳に晒されれば……どんな秘密だって一目瞭然となるのだから…… まるで怪異でも視る瞳を向ける 康太はそんな事はお構い無く歩く こんな時……兵藤は康太の置かれている立場を知る 「康太、俺はお前の瞳は脅威じゃねぇぞ」 そう言い兵藤は笑った 「昔も……お前はそう言ったな…… 遥か昔から……お前は何時もオレにそう言っていたな」 康太は懐かしげに瞳を細めて果てを見た 「俺は昔も今もお前は怖くはねぇからな お前に視られて困る事なんてしてねぇからな!」 「………でも人は……それでも視られたくはねぇんだろ? そんなに全員果てまで視れる訳じゃねぇって言っててもな、脅威に想う奴は減らねぇな…」 悲しげな言葉だった それでも胸を張り、風を切って歩く康太の歩みは止まらない それでいい お前は立ち止まらず歩けばいい 余分な事は俺が片付けてやるさ お前の歩みを止める奴は、俺が片付けてやる だからお前は進め 絶対に立ち止まるな 兵藤の想いだった 建築 施工の部署に顔を出すと、栗田が嬉しそうに飛んできた 「真贋!見回りですか?」 「おう!後で現場にも顔を出す 一夫、一緒に行くかよ?」 「是非ともお供させて下さい!」 「なら一時間後、地下駐車場に来い!」 「はい!必ずや!」 スキップでもしそうな勢いで仕事を片付けに行く栗田を見送っていると、城田が 「浮気ですか?」と近寄ってきた 康太は「ん?」と首を傾げた 「最近はご亭主とご一緒ではないのですか?」 「あぁ……伊織は今、映画の脚本作りに忙しいんだ」 康太が言うと城田は驚いた表情で康太を見て、ニコッと笑った 「………走り出したのですね?」 「おう!とうとう……な、走り出した だから我が亭主は忙しい で、我が友に助っ人に入って貰ったと言う訳だ」 「………その助っ人、かなりの遣り手で副社長の上を行くと社内では噂ですよ」 「あたりめぇじゃねぇかよ! 伊織の代理なんだから、上を行って貰わねぇと代理の意味がねぇじゃねぇかよ!」 「貴方と代理が歩くと、社内はチビりそうな恐怖だと……言われてます」 「貴史は鬼だからな……仕方ねぇな」 いや……貴方も鬼の仲間入りしてますって……と城田は呟いた 兵藤は「自分を棚にあげるな!ほれ、逝くぞ」と先を促した 康太は「ならまたな城田」と手をふった 城田は深々と頭を下げて、二人を見送った 社内を回っていると蒼太と出くわした 蒼太は康太に「見回りですか?」と問い掛けた 「蒼兄!」 康太は嬉しそうに立ち止まると、蒼太を見た 蒼太の隣には一色正和と水野千秋もいた 「意外な取り合わせだな」 と康太は呟いた 水野千秋は康太の傍に寄ると、そっと抱き着いた 「康太さんは旦那様とはご一緒ではないのですか?」 水野が問い掛ける 「伊織は脚本の仕事に専念してる」 「………とうとう…動き出したのですね 我等も監督さんから話が来たので、プロモーターの方々と話を詰めねばなりません スポンサーとして飛鳥井建設が名を連ねる以上最高のお仕事をせねば名が廃ります! なので蒼太さんに費用の見積もりを出して戴いて詰めれる所から企画をあげようと集まっているのです」 水野は仕事人の瞳をして、そう語った 「………苦労を掛けるな……」 康太が言うと一色が 「苦労などではありません! 最高の映画を創る手助けが出来て、我等も至福に想っています」と答えた 頼もしい言葉だった 一色は「真贋、副社長の代理を社内でお見掛けする者はチビりそうになるそうですよ?知っておいでですか?」と笑いながら問い掛けた 「………オレ等を見てチビりそうになるなんて……なぁ情けねぇよな」 「だな!」 「こんな天使の様なオレに!!」 「………天使は……止めとけ…… ガブリエル辺りが怒って来るからな……」 「………天使……ダメか?」 「ダメだな!」 「………残念だ……」 何と言う会話…… 一色はドン引きして水野は笑っていた それを見ている社員は石のように固まり…… 「んじゃ!視察に行ってくるわ!」と康太と兵藤が離れるまで息を殺していた 一色は二人を見送り 「最悪な二人と言われてるらしいですよ?」と口にした 蒼太は「だろうね!あの二人は産まれた瞬間からのワルガキだからね!」と言い笑った 一色は「羨ましい絆ですね……友と呼んでた奴とは……幾久しく逢っていません…… 人はそうして新しい道を踏み出して逝くのだと想っていました」としみじみと口にした 「……何処まで逝っても変わらない絆……羨ましいね あの子達見てると友に会いに行こうかなと想います」 「ですね!」 一色が呟くと水野が…… 「………いいね……僕は……友達なんていないから……」 と暗く呟いた 蒼太は水野の肩を抱いて 「君には愛する人が傍にいてくれるでしょ?」と慰めた 水野は顔を真っ赤にして頷いた 「さぁ、頑張ろうね! 綾小路が来る前に数字出しとかないとね」 歩く電子計算機は口煩く、融通が効かない 三人は慌てて仕事に取り掛かる事にした 地下駐車場に下りて逝くと、栗田がすでに待っていた 「一夫、早えぇじゃねぇかよ?」 「真贋に来て戴きたい現場があるのです」 栗田は……緊張した面持ちでそう切り出した 「良いぞ!一緒に逝こうぜ!」 「はい!何処までもお供致します」 康太は兵藤の車に乗り込んだ 栗田も兵藤の車の後部座席に乗り込んだ 車が走り出す前に栗田は書類を康太に渡した 康太が書類を受け取り目を通すと、兵藤は横から眺めて 「………こりゃ現場の指揮うんぬん以前の問題だわ」と呟いた 栗田は代理をするだけの瞳を持っていると確信した 「………代理はどう思われます?」 「どうって?着工の遅れが技量のモノか指揮の愚鈍さかって聞きてぇのか?」 「………そうです」 「指揮の奴に逢ってみて力量不足なら頭をすげ替える! そうでなくば現場の人間全部取り替えるしかねぇと想うけど?」 「………この書類だけで、その判断をされるとは……副社長は英断をされたのですね」 栗田は感心していた 「俺は全面的に任された 俺の好きに動けと言われている 伊織がどう動くかは知らねぇが、俺は俺のやり方で片付ける!」 それで良い…… だから栗田は「宜しくお願いします!」と頭を下げた 康太はナビに現場の住所を打ち込んだ 兵藤は車を走らせナビの指示に従い走る 案外早く現場に到着し、駐車場に車を停めて現場の中へと入って行った 現場の中には九頭竜遼一が現場の人間と話していた 「遼一、どうしたよ?」 康太が声をかけると九頭竜は驚いた顔をして…… 「綾小路から此処の現場が遅れているから見に行けと言われたのです このまま遅れを続ければ違約金は免れない 違約金、払うつもりはありませんので何とかして来て下さい!と言われたんだよ!」 綾小路らしい物言いに康太は苦笑した 「現場の責任者は?」 兵藤は責任者に話を聞くしかないと問い掛けた 「我々は末端の下請け業者なので詳しい事は解りません……」 責任を問われている人間は意外な言葉を吐いた 「…………この現場の責任者は何処にいるのよ?」 兵藤は九頭竜に問い掛けた 九頭竜は困った顔して…… 「どうやら……末端の下請けに放り投げ……みたいだな」 「??どの現場にも責任者は配置されているんじゃないのか?」 康太は栗田を見た 栗田は持参したファイルを開いて確認を始めた 「この現場には監督として西浦と言う監督が配置されています そして西浦と主任の笠原と言う社員が下請けを手配して進めている……と、此処には記してあります」 「で、監督の西浦と主任の笠原は何処にいるのよ?」 康太が言うと下請けが、バカにした様な口調で 「飛鳥井建設の現場監督と主任は、施工当日に来て以来来ていない! こっちが連絡を着けても『適当にやっといて!』の一点張り これで期日までに作れと言う方がおかしいだろうが!」 そう告げた しかも飛鳥井では契約していない下請け業者を何故使っているのか…… 康太は「………こんな事が横行してるのか?」と問い掛けた 栗田は同じ様に納期を遅れている現場は他にもあると告げた 「………遼一、この現場、頼めねぇか?」 「いいですよ!任されます!」 九頭竜が言うと康太は下請けの業者に 「今後、飛鳥井建設と契約したいのであれば、その力量見せて戴きたい 無理だと想うなら……他の業者に変更させて貰います」と告げた 下請け業者は康太を不敵に見て 「俺等はちゃんと指示さえ貰えば誰よりも働く 指示なくして好き勝手に施工した後に違うと言われて違約金を請求されるのは御免だからな!」 と不当な現場で働かされているんだと訴えた 「オレは飛鳥井家真贋、飛鳥井康太だ! 劣悪な現場に置いてしまって詫びを入れよう」 そう言い康太は深々と頭を下げた 「詫びは頭だけに非ず 今後、仕事ぶりを見て下請けに名を連ねて貰いたいと想います 貴方が腕を奮われオレがそれを認めた時、正式に契約を致しましょう!」と約束した この不景気なご時世……大手の仕事は欲しい 下請けは何時も割りを食う 末端の下請けまでに来る賃金はカットされまくり叩かれて足元を見られ…… キツい事ばかりだった それでも仕事があるなら……と頑張ってきた なのに……監督と主任の職場放棄 遅れる現場を見て……手が出せない日々に……悔しくて何度唇を噛み締めた事か…… 下請け業者は 「下請け業者の白木と申します」と自己紹介した 「白木洋次、この現場を頼むな!」す 康太はそう言い手を差し出した 白木は康太の手を取りフルネーム名乗らなかったのに……と驚き、それでも一縷の望みと感じていた 「遼一、この業者を使え 足りなければ応援を寄越す」 「はい!任せて下さい!」 「後、現場の事務所の鍵は総て変えろ!」 「……解りました! これより総ての鍵を変えて仕事にかかります」 「城田を派遣するから使うと良い」 「良いのですか?」 「あぁ、だから納期を伸ばすのは勘弁、な。」 「精一杯やらさせて貰います!」 康太は九頭竜の肩を叩いて現場を後にした そして車に乗り込むと 「綾小路、少し調べてくれねぇか?」と電話を入れた 『はい!では詳細を!』 綾小路に現場の場所と経費の使用用途、一切を調べて不正があれば天宮弁護士に連絡を取れ!と伝えて電話を切った そして電話を切って直ぐ、別の所へ電話を入れた 「瑛兄、少し良いか?」 『康太!少しと言わず好きなだけ大丈夫です』 「横領と解雇通告の準備してくれ!」 『解りました!お手の物です』 「今、綾小路に調べさせている もしもの時を考えて天宮にも動いてもらう手筈は整えた! 結果が上がって来たら法的処置をして処分を言い渡してくれ! それと給料も現場が始まった日から計算して差し引いてくれ 足りない分は本人の退職金から差し引いてくれ それでも足りない時は資産を押さえてスケープゴードにはなるからな手を打ってくれ」 『解りました!直ぐに動きましょう!』 「頼むな瑛兄」 『康太、後で顔を見せて下さい』 「おう!一度正式な書類をあげねぇとならねぇみてぇだからな顔を見せるよ」 瑛太は『待ってます』と言い電話を切った 兵藤は「何故、統制が取れてねぇんだ?」と至極当然の質問を投げて寄越した 「それは飛鳥井建設の信用失墜させたい会社が、社員を引き抜く条件として職場放棄をさせてるからだろうな……… この前は下請けに手を回された で、下請けを今は確保して回してるからな 飛鳥井の下請けだと職場放棄しても真贋に通して進めちまうからな…… それ程にうちの下請けは出来が違うんだよ!」 「ならさ……捨て駒にされてる下請け業者は、何の罪もない無関係の業者って事か?」 「外資は未だに飛鳥井建設を諦めていねぇし、日本最大級の建設会社は飛鳥井が目の上のタンコブだからな 潰したいのさ! だけど普通に潰したら飛鳥井の真贋が怖い だから弱味を握って取り込みたい 飛鳥井家真贋込みで飛鳥井建設を取り込みてぇんだろ?」 「飛鳥井建設を手に入れし者、真贋を手に入れる……ってか? バカだな……そいつら、飛鳥井家真贋は飛鳥井の為だけにしか存在しないのを知らねぇ新参者か?」 「オレの事、ドラゴンボールか何かだと想っている奴が多いかんな…… 手に入れたらどんな望みも聞いてもらえると想ってるんだろうな……」 「お前が素直に聞く訳ねぇのにな…… それだけ飛鳥井家真贋ってのはヴェールが掛かった存在なんだな」 「………オレは何時の世も平穏な日々を送りてぇだけだ……」 「お前が傷付かねぇ様に俺等がいるんじゃねぇかよ! 「ありがとう貴史…… 伊織はこの局面を予測して危惧していた そんな時に脚本の仕事をしなければならない事を悔やんでいた でもなオレは伊織に本懐を遂げさせてやりてぇんだ! だから何があっても!! オレは会社を護り通す!」 「大丈夫だ!康太 一人じゃねぇんだ!乗り越えられるだろ?」 「………ありがとう貴史……」 「改まって何だよ! さぁ次に行くぞ!」 兵藤と康太は栗田と共に停滞した現場を視察して回った 停滞している現場はほぼ同じ様に、監督や主任の職場放棄が目立った それら総てに手を回して、康太達は会社に戻った 会社に戻ると直ぐに社長室を目指した 社長室のドアをノックすると瑛太みずからドアを開けて、康太達を迎え入れた 康太はソファーに座り、書類をテーブルの上に放ると 「乗っ取られねぇ様に気を引き閉めねぇと……外資の餌食にしかならねぇな……」と感想を述べた 瑛太は兵藤に「率直な感想を聞かせて下さい」と頼んだ 兵藤は少し考えて 「下請けが割り食う現状を打破してやらねぇと……想っている 捨て駒にされた下請け業者は何処からも金が入らず経営も苦しくなり追い詰められるしかねぇ おかしいだろ?そんな現状は…… それをやろうとしている奴は絶対に許さねぇ! 捨て駒にして良い命なんて一つもねぇんだ!」 瑛太は兵藤の言葉を静かに聞いていた ドアがノックされ瑛太はドアを開けに逝くと、綾小路綾人が立っていた 「真贋に頼まれました詳細を持って来ました」と告げると、瑛太は綾小路を部屋の中へ招き入れた 綾小路は康太の前に書類を置くと 「結果、横領されまくってました」と結果を述べた 「この書類、天宮にも送った?」 「はい!給料は差止めしておきました ですが、彼らの給料を止めても不足の足しにすらなりません! 今、資産の調査をしております それでも幾ら回収できるか……解りません 飛鳥井に多大な負債を背負わせる事になる以上は、容赦なく追い詰めるしかありませんが……」 ………死なれたら気分は悪いです……とボソッと呟いた 「だな。生かさず殺さず……損をしねぇようにしねぇとな アイツ等が会社の経費で豪遊していたのは事実だしな 法的に罪は下される それを招いたのは自分達だ!」 綾小路は「では法的手続きに入ります」と告げると社長室を出て行った 康太は瑛太から解雇通告の書類を渡された 内容を確認して 「んじゃ内容証明を送付してくれ!」と告げた 内容証明を送付したら、もう後には戻れない道を逝く事になる 飛鳥井家真贋は……再び矢面に立たねばならなくなる 瑛太は痛む胸を押さえつつ……役務に徹した 康太は瑛太に 「総ての現場を軌道に乗せた 後はそのまま逝くしかねぇ……それしか道はねぇんだ瑛兄……」と瑛太の瞳を見て……言った 「解っています康太 ……私は……逆怨みが怖いだけです 逆怨みした輩が再びお前を狙わないか……不安なだけです……」 「大丈夫だ瑛兄 ニック・マクガイヤーを護衛に戻すからな」 「そうして下さい! 伊織が作り上げた私設警護の会社、物凄い人気なんですよね?」 「おー!それでニックがオレから離れたんだよな でも本国から人員を調達出来たからな戻せれたんだ」 「ではずっと護衛されてて下さいね…… 私達から君を奪わせないで……下さい」 「瑛兄、飛鳥井は果てへと続く 瑛智が社長になり翔が真贋になる そしてオレの子達が主要ポストに就いて先へ繋げる日まで……オレは護らねぇとならねぇんだよ」 この命……賭したとしても……… 康太の瞳は………そう物語っていた 「そうでしたね…… でも私はそんな果てしない未来よりも君が大切です それに私の目が黒いうちに瑛智が社長になる事はありません! 我が父も会長の座を譲りはしない筈です」 「瑛兄……」 「そんな果ての事より、食事はしたのですか? 君は薬を飲まないとならない筈です 伊織が傍にいなくとも、体躯には気を付けねばなりません!」 「解ってるよ瑛兄 伊織が貴史に薬を預けてるらしくてな 貴史が確実に薬を飲ませてくれるから大丈夫だ」 「抜かりはありませんか、安心しました」 「瑛兄、飛鳥井は特殊な存在だ……欲しがる奴は後を断たない…… でもなオレは飛鳥井の為にしか存在してはならぬ存在 古来の神と飛鳥井が契約し理は曲げてはならない」 「……解っています 私は一族の総代、一族を取り纏め導く存在なのですから……」 「しかし、懲りねぇ奴等が多くて辟易してるのは確かだな よくもまぁ懲りずに次から次へと考えるもんだ」 「本当に懲りませんね 私は伊織の映画に影響が出ねば……とそればかり案じています」 「………まぁ影響が出ていねぇとは言えねぇ状況だけどな…… 邪魔できるモノは何でも付け入りてぇんだろ? んな奴等の相手なんて出来るかよ! 後少しで伊織の脚本が出来上がる そしたら本格的に始動する 始動の狼煙を上げればもう後戻りは出来ねぇ…… 本当に多くの協賛やスポンサーを得て動き出す そうなれば……もう手出しは出来なくなる 日本を代表する有数な企業が名を連ねる事になるからな、手を出したくとも出せれなくなるさ」 「総て君の想いのままに逝かれる事を……祈っております」 瑛太はそう言い、深々と頭を下げた 康太はそれを受けて胸を張った 「ありがとう瑛兄」 瑛太は頭をあげると、康太を抱き締めた 「………一番の望みは……お前が傷付かぬ事だ……」 「必ず瑛兄に顔を見せる約束だろ?」 「ええ……必ず顔を見せて下さいね」 愛しき弟の逝く道を阻む事は決してしてはならない 本当なら逝かせたくはない…… だが、止める事はしてはならない 逝くなと言えば康太は兄の言う事を聞くだろう だがそれは本意ではない 不本意に顔を歪める姿など………見たくはないのだ だから見送るしか出来ない自分を知っている瑛太は何を言わない 黙って弟を逝かせる 断腸の想いを断ち切って……見送ると決めていた 「………どうかご無事で……」 瑛太はそう言い兵藤を見た 「貴史、君も無理だけはなさらぬ様に…… 二度と君が倒れる事があってはならないのですからね」 「解ってるよ瑛太さん 俺も……枕元で半日説教の小言は聞きたくねぇからな…」 刃物で倒れた兵藤を瑛太は何度も見舞った そして二度と無茶はしない!と、約束させられブチブチ小言を言われた 兵藤の家族に顔向けできなければ……切腹するしかないと家族で話し合ってた……とまで言われれば…… うんうん!と約束を全面的に聞くしかなかった 「貴史、あれは小言ではありませんよ?」 「…え?」 「あれは怨み言ですよ!」 そう言い瑛太は笑った 「余計タチが悪いわ!」 兵藤はそう言い困った顔をした 「貴史、君は兵藤の希望であり果ての日本の道標となるべき存在なのです ご自身の身を軽く扱われて良い筈などないのです」 「………軽くは扱ってない……解った瑛太さん…… 俺は今、社会勉強中だから……少しお手柔らかに頼みます」 「そう返しますか……解りました 怨み言は引っ込めます この場にいない伊織の為にも溜飲が下がる働きを期待しております」 「任しといてくれ!」 兵藤が言うと瑛太は笑っていた ドアがノックされ秘書がドアを開けに向かった ドアの前に立っていたのは康太のセキュリティのニック・マクガイヤーだった 秘書はなにも言わずニックを部屋の中へと招き入れた 康太を見つけニックは 「康太、これより護衛に着くから勝手に動き回ったらあかんで!この野郎!」 と挨拶した 「勝手に動き回らねぇよ マック、お前一人か?」 「後一人、本国から引き抜いた強者がいる 途中で迷子になったけど、来るだろ? 兵藤貴史の護衛には俺か、ケント・マクガイヤーか選んで貰う事となる!」 ニックの紹介に兵藤は 「マクガイヤー?マックに近い存在か?」と問い掛けた 「………弟だ……」 兵藤はニックをじっと見た そして「………弟…ね」と納得した 暫くして社長室のドアがノックされ、秘書がドアを開けに向かうと…… 長身で金髪碧眼のイケメンが立っていた やけにイケメンがなにも言わず立っていると……かなり迫力 秘書は取り敢えず「どうぞ!」と部屋へも招き入れた ニックはイケメンの顔を見て 「兵藤貴史、ケント・マクガイヤーだ!」と紹介した ニックは親しみやすい柔和な感じで ケントは殺伐とした雰囲気を持つ男だった 兵藤は「………イケメン……じゃねぇか……」と呟いた ハリウッド映画に出て来そうなイケメン 何か目立ちそう…… これで護衛出来るのか? 兵藤は目立ちそうな外国人を見てそう想った 愛想もないイケメンは無表情で立っていた 「貴史、どっちに警護されてぇ?」 康太は敢えて兵藤に問い掛けた 兵藤は「マック!」と名指しで指名した 康太はニャッと唇の端を吊り上げて嗤い 「ケンケン、オレの警護をしてくれ!」と言い放った ケントは無表情で「御意!」と答えた 「って事で貴史、護衛も着いたしな別行動と逝こうぜ! オレは遅れに遅れた現場回りをする お前は天宮と共に刑事訴訟の根回しを頼む」 現場回りと聞き兵藤は「………大丈夫なのかよ?」と問い掛けた 「大丈夫だ!貴史 何があろうともオレの道は狂わせねぇ!」 冷ややかに嗤う康太を見て、兵藤は眉を顰めた 相当……鶏冠に来ていたのね……と改めて想う だが役割分担をされた以上は自分の仕事をせねばならなかった 「了解!でもお互い報告を取り合って共に動ける所は動こうぜ!」と釘を刺しておいた 「おう!そっちが終わったら連絡くれ! オレが先に終わったら連絡するかんな!」 康太はそう言いケントを連れて出て逝った 兵藤は社長室を後にして、副社長室に戻った 副社長室のソファーにドサッと座ると 「マック、お前の弟って優秀?」と問い掛けた マックは「優秀ですよ!」と言い放った そして少し困った顔で 「弟は俺とは敵対するセキュリティガードをやっていた! そこの会社で常にトップを張っていたのは弟だ だが弟は……感情の起伏がない 思考や感情が全くないロボット……と謂われている 感情がないから……同情すべき相手にも一切の容赦をしない それで過剰防衛……と下されて解雇された 解雇された弟を俺のいたセキュリティガードに誘った そして日本には康太の指名で来日させた……」 と事情を説明した 兵藤は「康太の指名?」と問い返した 「………弟は刑事告訴される所だった ガードに着いてる方に必要以上の要求をされて……拒むと今度は無理難題謂われて…… 出来ずにいると今度は色々と余罪をつけて解雇される事となった 解雇されるだけならまだしも……色々な事が弟の所為にされ補償金が発生していた それを有能な弁護士を雇って片付けてくれ日本に招いてくれたんだ」 あのイケメンだもんな 自分のモノにしようと躍起になる奴は多いだろうな…… 兵藤はケントの顔を想像して……理解した 「………ケントは年々感情がなくなり……今ではロボットの様になってしまった……」 ニックが言うと西村が「大丈夫だマック」と取り成した 「え?何が大丈夫なんだ?」 「康太はロボットだろうがコンピューターだろうがぶっ壊して人間にする才能がある」 「………?それはどんな技?」 「マック、この兵藤貴史と言う男は桜林の頭脳、歩く電子頭脳と謂われた男だ そして榊原伊織、亭主は表情の一切ないロボット、嫌、鬼と謂われた男だ 大魔人だったか貴史?」 何故それを知る? 兵藤は苦笑して「………何処でそれを?」と問い掛けた 「彦ちゃんは飲み友達だからな!」 そう言い豪快に笑った こんな所に……意外な繋がりが…… 「まぁ元々の友達は彦ちゃんの妻の方だがな」 あの綺麗な……方か……と妙に納得した 西村はニックの肩を叩いて 「康太に任せておけ!」と言った ニックはコクッと頷いた 最悪な二人は護衛をつけて更に最悪になり…… 飛鳥井建設の者ならず震え上がらせた そのお話は最悪な二人 後半戦へ! ………(まだ続くのか………) こうご期待!!

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