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第46話 最悪の二人 後半戦 ①

あの二人は一緒にすべきではない       閻魔大魔王 備忘録より 兵藤貴史が飛鳥井建設の副社長代理の椅子に座って二ヶ月が過ぎた 当初、一ヶ月で戻る……つもりだったが、脚本が難産過ぎて……中々副社長の椅子に復帰が出来ていなかった 兵藤は停滞していた現場の粛清をして、怠慢な社員の考え方を叩き直して新しい風を吹き込んだ 康太は榊原に仕事の事は一切話さなかった 脚本を書く上で雑念は入れたくなかったから……だ。 榊原もそれを知っているから聞こうとはしなかった ただ何時も『言える事ならば言って下さい。僕は何時でも君の為に存在するのですから……』と愛を囁いていた 時間を作り妻と過ごす時間を大切に過ごした この時間は二人にとってかけがえのない時間となった その日、兵藤は朝から解雇処分対象の元現場監督と元主任達を呼び出していた 飛鳥井建設の建築部の会議室に呼び出された元監督と元主任達は椅子に座っていた 彼等は身を弁えず兵藤と康太の姿を見ると勝手な事を訴え始めた 「給料まで差止めされたら……生活は成り立ちません!」 「資産まで凍結され……妻と子は……家を出て行った……お前らの所為だ!」 好き勝手言う言葉を聞く事もなく兵藤は 「身勝手な言い分を聞き入れる程、我が社は甘くはない! それが解っててあなた方はヘッドハンティングの口車に乗せられたと言う訳です! どうぞ!引き抜き先においで下さい!」 兵藤は引き抜き先とは交渉決裂したのを知っていて敢えて口にした 引き抜き先の条件は 『飛鳥井建設を根底から揺るがす仕事』だったのだ 彼等は職場放棄して会社に打撃を与えるために経費も横領した 今よりも厚待遇で給料もアップと言う甘い汁を啜る為に、彼等は甘い汁に飛び付いた だが飛鳥井建設の現場は滞る所か、納期には期待以上の出来で迎えられる事間違いない状況だった 当然、ヘッドハンティングは見直し 彼等は行き場をなくし……… 仕事を失った そして多大な負債を抱えて今まさに路頭に迷わんばかりとなった 「今日、あなた方をお呼びしたのは、あなた方の怨み言を聞く為ではない!」 兵藤はそう言い捨て元監督と元主任を見回した 停滞していた現場は四ヶ所 そこの監督と主任達だった 彼等は解雇通告を受けて、初めて己の甘さを知った事となった 当然、ヘッドハンティング先の会社には雇い入れては貰えなかった 『飛鳥井建設』を解雇となったら建築会社への再就職は難しい現実を知り…… 彼等は今までの経験と実績を総て捨てて、異業種へ逝かねばならない現実に…… 地獄を見た 康太は元社員を見て 「ヘッドハンティング先の就職はご破算になったみてぇだな!」と嗤った 「そりゃ当たり前か! お前等は飛鳥井建設に不利益を与えて信用の失墜を命じられたのだからな! 飛鳥井建設に真贋が存在する以上、信用の失墜など! あり得はしない! お前等は捨て駒に使われただけだ! 外資辺りではデュエラポン財閥の一族 ゼネコン系では静間建設辺りか? 静間建設はデュエラポン財閥のconglomerateである建設会社が日本に進出を目論んでるらしからな そしてお前等の依頼先だろ?」 見事に言い当てられて………言葉を失った そして職も信用も………失った 総て失った元社員達は身震いした この果てし無い絶望の先に……… 何が待ち受けているのか…… 恐怖しかなかった 兵藤は「お前らはスケープゴートとなって貰う!」と言い捨てた 会社に謀反をする者がどう言う末路を辿るか……見せしめにすると謂われたも同然だった 元社員達は青褪めた…… 社会的に抹消されたも同然だったから…… 元社員のうちの一人が 「元監督の秋田道朗と申します」と自己紹介をした 「秋田どうしたよ?」 康太は秋田を視て問い掛けた 「己の甘さが招いた結末なので……しっかりと最期の御奉仕をさせて頂きます」 秋田はそう言うと鞄を取り出し、中からCD-Rを取り出した それを康太に渡した 「これは?」 「ヘッドハンティングの相手との交渉を録画しております」 「………!!………アイツ等は警戒心が強く……尻尾は掴ませない筈じゃ?」 兵藤は、まさか……と想い問い掛けた 「そうです。それ同様、私も警戒心が強かったと言う事です 失敗したなら蜥蜴の尻尾は切り落とされる 切り落とされるならば……もろとも…… 俺だけがこの世から抹殺されるのは本意ではない なので知り合いの喫茶店を指名して高感度カメラで録画した 向こうも警戒したなら、こちらはその保険を取ったまでです ですが交渉が決裂して俺は家捜しされた 天井を剥がして、畳を上げて床下まで剥がしての家捜しでした だけど、こっちはそんな尻尾は掴ませはしない このCD-Rが今後の情報の役に立てられると想い持参しました 俺は……取り返しのつかない失態をした 勉強代として支払った額は痛かったですが……転んでもタダでは起きない意思表示としたいのでお持ちしました」 「秋田」 「はい!」 「視て良いか?」 「はい!」 兵藤は秘書にCD-Rを手渡した 秘書はCD-Rをデッキの中へセットして兵藤に渡した 再生ボタンを押すと、映像が流れてきた 男はかなり美味しい話を持ちかけていた 会話は一部始終綺麗に写っていた 相手の顔も会話もバッチリ撮れていた 「これで相手は気付かなかった?」 康太は問い掛けた 「画像見て解りませんか? 相手は用心しています 気付いていたかも知れません…… ですが、こっちも保険を手にせねば……総てを失いますので…」 「………これは……言い逃れ出来ねぇレベルだな…… まぁ、言い逃れ出来ないにしても、お得意の蜥蜴の尻尾切りすれば良いだけか……」 と兵藤は呟いた すると康太もそれに同意した 「ヘッドハンティングする輩はどの組織にも属してねぇからな まぁ……そのヘッドハンティングの信用は皆無に等しくなるわな お前等の復讐の為にこれは使わせて貰う! こいつが何処までの依頼をされてるのか…… 弥勒、調べて来てくれよ! 依頼料は会社の経費で出すから少し安くなるけど……引き受けてくれねぇか?」 『お主の頼みなら少し位値引かれても聞いてやるさ! 此奴の身辺を探ってくれば良いのか?』 「あぁ、頼めるか?」 『頼まれてやるとも!』 康太が安堵のため息をつくと、兵藤は 「この件が片付いたら甘露酒を差し入れに持って逝くよ!」 『………それは………暫しの間は必要ない……』 暗い声が響き……弥勒は気配を消した 弥勒が消えると康太は瞳を瞑り考えていた 兵藤は「………弥勒……何かあった?」と勘の良さを発揮した 「………多分……厳正が……弱っているか……」 「………弥勒厳正?」 「最期を看取るか……弥勒……」 康太は呟いた 兵藤は「………定め……なのか?」と問い掛けた 「厳正は源右衛門の為だけに現世に送られた存在 その存在意味がなくなれば厳正は消える筈だった だが厳正は源右衛門を亡くしてからも生きていた…… それは……孫の存在が気掛かりだったんだろうな…… 定めとは言え……過酷な試練を与えられた…孫の為だけに生き長らえたんだならな そっか……厳正は還るなら……雪に逢わせるか……」 愛した女の落し胤を護る為に厳正は康太に立ち向かおうとした事があった 「………貴史……この世に未練のねぇ奴なんて一人もいねぇよ…… 人は今際の際に遺した者の果てを見たいと未練が残る 厳正の未練は……今世は孫と息子と……北斗か……」 どの子も……未来の道が照らされます様に……と、願って止まない 傍にいられぬ愛しき子よ せめて……お前の進むべき道が照らされる様に祈ろう そう想い厳正は北斗を想って護って来た 息子を想って傍にいた 孫を想って果てを願った 命を削り……祈って願った どうか…… どうか…… 安らかな時間が訪れます様に…… 愛しき子達の幸せだけを……願った 康太には厳正の想いが痛い程に解った 何時か……遺して逝かねばならない現実があるから…… 強くなれ 強くなってくれ…… 傍にいられる時間が短いから…… 強くなれと願う そして心を鬼にして……厳しい母は鬼になる どうか誰よりも……強く生きてくれ それだけが望みだった 愛する我が子を遺して逝かねばならない想いは強い 「………親なれば……我が子を想わねぇ日なんてねぇよ…… ……子なれば…親を想わねぇ日なんてねぇ……」 康太はそう呟き……元監督と元主任達を見た 「この場に座っているって事が親不孝だと考える奴はいねぇのか?」 元監督と元主任達は驚いた顔をして康太を見て…… そして悔しそうに唇を噛み締めて…… 「親不孝だと想っていますよ! だけど!他の奴より良い給料を取って良い施設に入れてやりたかった!それは親孝行になりませんか?」 一人の元監督がそう訴えた 「人の幸福なんてのは杓子定規じゃ計れねぇかんな…… 年を取り、自分の事すら解らなくなってのは本当に情けねぇな…… 記憶がなくなって逝く恐怖ってのを考えてやった事があるか? お前は親を良い施設にいれるのは親孝行だと言った だけど良い施設に入れられて逢いに来ない身内を想って他界した年寄りを知っている 見付けられずに孤独死して逝った年寄りも知っている 何が幸せなんて、その人の想いは計っちゃいけねぇんだ お前が幸せだと提唱していた施設に入れれば、親は幸せになるのか? 少なくとも……お前の親はお前や孫の息遣いが感じられる距離にいたいと思っているぞ…… 親の意見は聞いたのかよ? ボケてても心はあるぞ? 訳が解らなくなって一番不安なのは本人なんだ! 恐怖や不安……当たり前だろ! 自分が壊れていくのに不安を感じない奴なんていない! 誰しもが老いに負ける 老いは等しく誰の元にもやってくる 孤独死したとしても悔いのない日々を送れたのなら…… それはそれで幸せだったと想うぜ お前はまずは親と話せよ 膝を付き合わせて親と話せ そしたら答えは自ずと見えてくる お前はその過程をせずに幸せの押し付けをしただけだ」 元監督はガクッと肩を落とした 秋田は康太に 「……貴方には何もかも……見えてるんでしょうね」と呟いた 「お前は視える奴の苦悩が解るか?」 康太は問い掛けた 秋田はその問いの意味を図り知るのに時間が掛かった 視える奴の苦悩?? 何もかも視える素晴らしい機能を持った人間 誰しもが羨ま………しいと……想う? そう考えて、初めて言葉の意味を知った 何もかも視える 目の前の人間を丸裸にして視なくても良いモノまで視えてしまう…… 回りの人間はそんな人間を恐怖に想うだろう 「………すみませんでした……」 秋田は謝った 「オレはずっと化け物だと謂われて来た そりゃそうだよな…人の人生を変えてしまう力を持っているんだからな だがなオレは適材適所、配置するが役目 その役目はオレにしか出来ないと想っている ……そりゃ……そんな力……欲しくなかったとは想ったさ 飛鳥井家真贋として産まれた瞬間から親から引き離され、オレは親を奪われた 親や兄弟はオレとは話してはならぬと謂われた 距離をとる親や……それでも祖父の見えない所で暖めてくれ空腹を満たしてくれた兄達の事は……忘れた事はねぇ こんな弟でも愛してくれた兄達を……知っているから オレは曲がらすに生きて来られた そんな兄達と仲間がいてくれる だからオレは……今も生きていられる だがオレの瞳から逃れようとする人間はいなくはならねぇ…… 人は真髄を突かれるとオレを化け物だと罵る みんなそうだ……化け物、悪魔、死神 罵る言葉に傷付かない人間なんていねぇよ! オレだって傷付いて、普通の人間に産まれたかったって想ったさ! だけど……こうして生まれちゃった以上……オレは他には逝けねぇ……逝けねぇんだよ 産まれた瞬間、オレは飛鳥井家真贋として生きる道が決められていた だからオレはオレのやる事をする 苦悩がねぇ訳じゃねぇ…… 何時だって自分が化け物だって自覚はあるさ そして能力を使い続けて逝くって事は…自分の命を削って生きているって事だ オレは何時の世も短命だった だからオレは遺された時間を使ってやらねぇとならねぇ事をやる それが定めだと想っている」 いさぎのよい言葉だった 命を削って…… どんな蕀の道でも逝く…… 元監督や元主任達は気迫に負けて……己を悔やんでいた お金さえあれば……楽にさせてやれると想っていた お金さえあれば……何でも叶えられると想っていた 何故……そんな風に想ったんだろう 家族に背を向けていたのは…… 自分だ 誰にも向いていなかったのは……自分だ 話し合う事を止めたのは自分だ 自分は何を見ていたのだろう…… 己の足元を見た 自分はこんなにも危うい場所に立っていのか? みんな……己を知り、己を悔いた頃、康太は口を開いた 「飛鳥井建設はお前達に解雇を言い渡した 飛鳥井を敵に回して建設会社で働いて逝くのは無理だろう で、お前達はこの会社を出て、その足で何処へ逝くのよ?」 意味を図りかねる元社員は戸惑っていた 秋田は「………何処へ……とは、どう言う意味に御座いますか?」と尋ねた 「そのままの意味だ オレはお前達に解雇通告を出した お前達は会社に多大な損失を出して現場を遅らせ、現場の資金を使い込みした お前達の給料を押さえて資産を押さえたとしても、全然足りない金額となる どうするよ?返済する気はあるのかよ?」 康太が問い掛けると「木内と申します、宜しいですか?」と元主任が手を上げて話し掛けた 「あんだよ?聞いてやるから言ってみな」 「多分………私達はこの会社を出た瞬間……犯罪者になるのは決まりきった事です 刑事罰を受けて社会的に制裁を受ける そんは私達は二度と……建設会社では働けないのでしょうね……なれば返済したいと想ったとしても……多分それは無理になると想います 己一人食わせられるか解らないのに……返済金まで捻出出来るか……解りません」 と、弱音を吐いた それが現実だった 会社を裏切り、会社を陥れると言う大義名分の為に湯水の様に金を使ったのは現実なのだ 当たり前の事を言われているのだ 「返せねぇならブタ箱に入って償えば良いさ」 行く先は刑務所と暗に言葉にする 「…………こんなに……追い詰められて社会的に葬り去られてしまうしかないと言うのに……… アイツ等はのうのうと何も失う事なく生きていると思うと……腹が立ってなりません…」 元社員は…そう言い悔しそうに唇を噛み締めた 「おめぇら悔しいか?」 康太の問いかけに全員『はい!』と答えた 「仕返ししてやりてぇか?」 『はい!返せるなら…この痛み分は……味合わせてやりたいです!』 各々口にする 康太は兵藤を見て嗤った 「なら溜飲は下げねぇとな! まぁ溜飲を下げたとしても解雇は覆らねぇけどな!」 「それでも良いです! 罪は償います それが我等がした罪なのですから…… だったら、同じ罪を……ヘッドハンティングに来た奴等や、彼等を使った会社に……与えてやりたいです」 元社員の言葉を聞いて兵藤は 「ならさ、一泡吹かせてやれよ! それはお前らしか出来ねぇ事だ お前らだから出来る事だ まぁ、それが終わったら適材適所、配置してくれると想うぜ! それが飛鳥井家真贋と言う存在だからな! 落とし所は弁えて見事な采配をする お前らは飛鳥井家真贋を目の当たりに知る事となる」 と楽しそうに言葉にした 元社員は自分を陥れた輩に鉄槌を下せる事を許され、息を吐き出した 死なばもろとも…… 自分達だけが制裁を受けるのはおかしい 裏で糸引く輩が何も失わないのはおかしい 元社員達は目の前にいる二人の言葉に覚悟を決めた ヘッドハンティングが喫茶店を利用すると、飛鳥井建設の元社員達が入れ替り姿を見せた ヘッドハンティングは知らぬ顔を決め込んだが…… 何日も何日も続くと…… 居心地が悪くなり……この事が回りに広がるとにヘッドハンティングとして動けなくなる…と…危惧した 「………お前達……何の用だ?」 ヘッドハンティングは、この日も当然のようにいる元社員の顔を見ると突っ掛かって行った 元社員達は「用はありませんよ」と嗤った 他の元社員も「そう。下っ端には、ね!」と意味深に言葉を放った 「……下っ端?飛鳥井建設もクビになった癖に……何を偉そうに!!」 「そう。クビになったさ! だからお前等がのうのうと生活してるのは許せないんだよね!」 元社員はそう言いPCを取り出し秋田に手渡した 秋田はUSBメモリを差し込み 「デュエラポン財閥でしたっけ? それとも静間建設でしたっけ? どちらも株価は暴落の一途を辿っているみたいですね? 外資として日本の建設会社を買い叩こうとしてたのに、レッドスコーピオン(赤蠍商事)の介入で嗤っても要られなくなりましたか?」 「……え?何を言ってる? レッドスコーピオン……赤蠍商事が何故?」 「それはデュエラポン財閥の天敵だからじゃないですか?」 秋田が言うとヘッドハンティングの男は顔色をなくした 秋田は更に追い討ちをかけた 「貴方は用心深い男でしたけど、ここを見て下さい」 と言い画像をある場面で止めてヘッドハンティングの男に見せた 「静間建設の封筒は致命的なミスでしたね 後から調べたら貴方はこの日、俺達に会う前に静間建設の副社長と逢って来た 静間建設は社内に掟があるみたいですね 飛鳥井建設には関わるな………と。 歴代の社長さん達は賢かったみたいですね 犬の尾だと想っていたら獅子の尾だったって災難を最初から回避していた だが二世のご子息は危機感もなきゃ、世間を見通す眼もなかったと言う事だ お前は今後二度とヘッドハンティングとしては生きられない! お前は致命的なミスをおかした 社会的な信用の失墜だ 総てをなくした俺達同様! お前の社会的な総てを奪ってやるよ!」 それが総てを奪われた者の復讐だと秋田は言った ガクッと肩を落とすヘッドハンティングの前に康太と兵藤が姿を現せた 康太はヘッドハンティングの前に座ると 「お前は総てをなくした」と現実を放り投げた 「………そうみたいですね」 「お前だけ蜥蜴の尾っぽみたく切り落とされるか?」 「まさか……死なばもろとも……何としてでも……一矢報いてやるつもりですよ!」 康太はヘッドハンティングの憎しみに満ちた瞳を見て 「ならば報いてやれよ! チャンスはオレ等が作ってやんよ!」と言い放った 「………やはり飛鳥井はどの会社とも違うのですね……」 手を出すべきではなかった……と言う後悔の呟きを拾い 「あぁ、飛鳥井家真贋は飛鳥井の為だけに在る 飛鳥井の為だけに動く 飛鳥井の為でなければオレは動く気はねぇ! それが解らねぇ輩が増えて本当に迷惑な話だよ」 「静間建設は飛鳥井に手を出すべきではない!。との社訓を守り続けていた」 「それを破ったのは静間建設副社長 静間顕彰 現社長の長男だろ?」 「はい。」 「アイツが暴挙に出たのはオリンピックバブルを期待した建設ラッシュの拠点のビル建設で甘い汁を吸いたいんだろ? 既に飛鳥井はその特化の地域のマンション建設を手掛けてるからな邪魔なんだろ?」 ……的を得た言葉に、ヘッドハンティングは言葉をなくした 康太は携帯を取り出すと電話を掛けた 「貴正か?これから叩きに行こうと想う」 『では途中で合流致しましょう』 「………悪かったな……お前の手を煩わせて…」 『ご心配なく。 静間は私共にとっても目の上のタンコブ 少し大人しくさせるのなら、こちらから買って出たい程のお話なのです』 「頼むな貴正」 『お任せあれ!念には念を押して腕によりをかけます故に!』 その言葉を聞き康太は電話を切った 「貴史、バスを頼む」 「解ってるよ!」 兵藤はタブレットを取り出すとバスの手配をした 手筈が整うと「店の前に停まるぜ」と伝えた 康太はその言葉を聞くと頷いた 兵藤は康太の前に立つと 「総てはお前の想いのままに……明日の飛鳥井を繋げに逝こうぜ」と言い康太に手を差し出した 康太は兵藤の手を掴むと 「なら逝くとするか!」 そう言い喫茶店を出て行った 元社員達は覚悟を決めて康太達の後ろに続いた 外で待っているとバスが目の前に停まった バスの運転手が下りて来て 「飛鳥井建設の方ですか?」と問い掛けた 「そうだ!」 「では、どうぞお乗りください」 運転手はそう言い運転席に戻った 皆はバスへと乗り込んだ バスに乗り込むと康太はPCを取り出しポチポチと素早い早さでキーボードを操作していた 物凄い早さでキーを叩く康太を見て、元社員達は何も言えなかった 兵藤は静間建設へ逝ってくれ!と行き先を告げた バスは静間建設へと向けて走り出した 「これでピースは総て揃った」 康太はPCから顔をあげずに、そう呟いた 兵藤は笑顔で「それは良かった」と言った 総ては最初から決まっていた理の様にピースを組み込み配置する それが飛鳥井家真贋の……運命(さだめ)だった 康太の胸ポケットの携帯がプルプル震え、康太は携帯を取り出した 「はい。」 『指示の通りに立ち上げれば宜しいのですか?』 「そうだ。書類の申請は天宮に話は通してある やってくれる筈だ」 『では即座に立ち上げます!』 「頼むな!」 電話の相手は『御意!』と言い返事をして電話を切った 康太の髪が窓も開けてないのに靡いていた 「勝機は手中にある! オレはぜってぇに負けねぇ!」 自分を奮い立たせる様に康太は口にした 兵藤は何も言わず果てを見ていた バスは静間建設の前に停車した 兵藤は運転手に「電話を入れる時まで待機しててくれ!」と告げた 運転手は「では近くの駐車場でお待ちしております」と答え、全員を下ろすと走り去った 静間建設の前には円城寺貴正が康太を待って立っていた 「貴正!」 康太が声をかけると円城寺は 「途中でお逢いできるかと想いましたが道路が空いてて早く着きすぎました」と笑って答えた 「待たせてすまねぇ!」 「お気になさらずとも宜しいです 逝きますか?」 「おう!共に……頼むな」 「解っております!では逝きましょう」 康太は円城寺と共に静間建設の中へと入って行った 受け付けの前に立つと康太は 「社長さんか会長さんにお逢いできませんですか?」 と尋ねた 受け付けは怪訝な顔をして 「アポはありますか?」と問い掛けた 「アポはねぇよ!」 「でしたら取り継ぐのは無理に御座います」 「飛鳥井康太が来たと社長か会長に言え!」 「…飛鳥井……解りました……少々お待ちを」 受け付けの人間は会長室に電話を入れた 「会長、飛鳥井康太様と申す方が御来社に御座います 如何なされますか?」 受け付けの人間の言葉に会長は 「………本当に……飛鳥井康太と名乗ったのか?」と問い掛けた 「はい。アポはないけど、飛鳥井康太と名前を通せと仰られたので……ご連絡を致しました」 電話の向こうで息を飲む音がした 康太は更に追い討ちをかけて 「オレの隣にいるのは赤蠍商事の円城寺貴正だ! お目通り願いたいがどうする? 門前払いなら、こっちもその様に出るしかねぇけどな」 向こうに聞こえる様に話し出した 『今すぐお通しして! 絶対に失礼のない様に……』 と言い電話を切った 受け付けの人間は「お通り下さい」と言い深々と頭を下げた 康太は「会長室ってどこにあるのよ?」と話し掛けると瑛太と変わらぬ年齢の男が康太の方へ近寄ってきた 「飛鳥井康太様に御座いますか?」 問い掛けられ康太はその男を値踏みするように視た 肘で兵藤を押すと、兵藤は「そうです!」と答えた 「私は会長の秘書の佐東と申します 私がご案内致します どうぞご一緒にお願い申します」 佐東に案内されて康太達は後について行った 会長室の前に立つとドアを開けて全員を招き入れた 円城寺は静間建設 会長 静間豪彰を見て 「お久しぶりです静間建設会長」と挨拶をした 会長は「円城寺さん、我々は貴方と敵対した覚えはない……なのに何故……株価の介入をなされたのですか?」と問い質した 「静間会長、貴方の会社が飛鳥井建設を潰そうとしたので、少しお灸を据えさせて戴きました! デュエラポン財閥も同様 飛鳥井を手中に納めようと妨害していたので、己の立場を弁えさせたまでです 私達、赤蠍商事は飛鳥井康太を全面的に支援する! 絶対に!妨害などさせはしない! また妨害して多大な損害を負わせたのですから…覚悟なさると良い」 円城寺が説明する言葉が会長は理解できないでいた 「……わが社が飛鳥井建設に妨害したと言うのか?」 驚愕の瞳を円城寺に向けて……会長は問い掛けた 「そうです!」 「それは本当に?」 「会長、飛鳥井康太は確たる証拠もなしに動く事はしませんよ? 証拠がないのなら時空を越えて証拠をもぎ取ってくる それが飛鳥井家真贋なのです 貴方も痛い程に知っておいてではないのですか?」 「わが社は! 飛鳥井建設に手を出してはならぬ……と言う社訓がある それを破って……妨害した輩は……何処の誰なのですか?」 「それは飛鳥井家真贋に話して戴きましょう」 会長は兵藤を見た だが兵藤の横から高校生位の少年が出て来て…… 目を疑った 「飛鳥井家真贋、飛鳥井康太だ! 証拠なら言い逃れ出来ねぇ程になあるんだよ!」 そう言い康太は証拠書類を会長の前に放った 会長はその書類を手にして目を通し始めた 見れば見る程に言い逃れ出来ない確たる証拠が用意されていた 妨害工作をしたも同然の証拠に……… 「誰が……これをやったのですか?」と問い掛けた 「静間顕彰!現副社長だ!」 「………顕彰が……そうですか……」 「世間知らず、無知、無能……言っちゃ悪いけどこいつが社長になったら……倒産させるぞ! 外資に乗っ取られ名前は残ったとしても……飾りのエンブレム程度にしか扱われはしない お前の会社は澱みすぎている 外の風を通してないから腐って終焉を待つしかないんだ!」 全くその通りだった 「飛鳥井家真贋……顕彰は副社長の職務を解く……」 会長は苦渋の決断を迫られて口にした なのに康太は 「それだけじゃ足りねぇよ! お前の孫は此処にいる元社員の人生も歪めた 人間はてめぇの駒じゃねぇって知らねぇ無能が人を使い……人生を狂わせた コイツらは自分達の位置まで堕ちてこいと言っている 当たり前だよな のうのうと安泰の場所で過ごされたら人生狂わされた方はやってられねぇよな!」 全くその通りだった 「静間建設を経済的に追い詰めるのは容易い 海運に手を回し資材を止めようか? お達しを出せば聞いてくれる会社は多い 資材の調達を妨害して人材を引き抜こうか? お前の稼働している現場総てを妨害して遅らせ潰して逝くのは容易い事だぜ?やってみるかよ?」 康太は更に追い討ちを掛ける 「………何がお望みですか? 我等は……その望みを聞くしか他ならない……」 「望み?そんなの決まってるじゃねぇか! お前の会社をスケープゴートにして飛鳥井に手を出せば滅ぶと知らしめる良い機会かもな!」 康太はギロッと会長を睨み付けた 「………それも仕方ない……運命……なのですね……」 会長が言うと康太は腹を抱えて笑いだした 「茶番劇は止めようぜ会長! 腹が捩れるじゃねぇかよ!」 「茶番劇ではない……」 会長はそう訴えた 康太は「茶番劇だよ会長!」と言葉を放った 「………だが……」 茶番劇だとしても……社員の生活を護る義務があるのだ おいそれと容易く手放せる筈などないのだ 「お前は孫を切れるか?」 「切ります!会社を護る為であれば……」 「社長も同じ考えか?」 「………それは解りません……あやつは我の言葉など聞きはしない……」 「そして我が子を甘やかしてクズにした……ロクでもねぇな……」 「社長を呼びます!」 「だな!」 会長は社長に内線を入れて直ぐに会長室まで来いと告げた 社長は『忙しいので無理です』と言い内線を切った 会長はため息をついて……受話器を置いた 「今頃気付いて火消しにかかったみてぇだな」 康太が言うと会長は「…え?」と問い掛けた 「やっと己の息子の所業に気付いて動いてるんだよ」 康太が言うと円城寺は「……愚かな」と呟いた 「面倒くせぇから連れて来いよ!」 康太が言うと会長は部屋を出て行った 社長室のドアを開けると……… 一心不乱にPCに向かっている社長の姿があった 社長は会長の姿を見て……バツの悪い顔をした 「お主は……わしの電話を無視して何をしておるのじゃ?」 社長は「父さん何の用ですか?」と諦めた瞳をして問い掛けた 「………静間建設の株価が下落の一途を辿っておる このままでは、静間建設は終わる もう気付いておるのじゃろ?」 「大丈夫ですよ父さん デュエラポン財閥がバックに着いている以上我が社は安泰です」 「そのデュエラポン財閥は赤蠍商事の妨害を受けて株価が暴落の一途を辿っているのを知っているか?」 「………え?……そんな訳……」 社長は慌ててPCを立ち上げて調べ始めた デュエラポン財閥の株価の暴落 関連企業の信用の失墜…… 大きな痛手を負って……このままでは幾つかの関連企業を手放さなければならないだろう そんな状態で日本の企業にまで手は伸ばしてはいられないだろう…… 社長は項垂れる様に下を向いた 会長はそんな社長に「赤蠍商事の円城寺社長と飛鳥井家真贋がお見栄だ。今すぐに来なさい!」と告げた 社長は「飛鳥井家真贋?」と訝しんで聞き返した 「早くなさい!」 会長は押しきり、そう言った 「はい。」 社長は立ち上がり会長と共に会長室まで共に向かった 会長室には円城寺と高校生位の少年とやけにイケメンな青年がソファーに座っていた その後ろには九名のスーツを着た男達が立っていた 下を向いていた少年が顔を上げて社長を視ると、社長はその少年こそが飛鳥井家真贋なのだと確信した 社長は康太を見て 「静間建設 社長の静間英彰に御座います」と言い深々と頭を下げた 「飛鳥井家真贋、飛鳥井康太だ!」 康太はそれを受けて自己紹介した 「………康太様、我が社は飛鳥井建設には手を出してはならない社訓が御座います……」 「社訓があっても手を出してたら社訓になってねぇだろ?」 「デュエラポン財閥の株価下落は……貴方の所業に御座いますか?」 「そうだ。何故そうなったか書類を見れば解ると想うけど?」 社長は会長に手渡して貰った書類に目を通した 書類には言い逃れも言い訳も出来ない現実が暴きたてられていた 社長は総てを見て……額に手を当てて考え込んでしまった こんな事をする人間は一人しか思い付かないから…… 愚かな事をした 取り返しのつかない事をした 自ら………獅子の尾を踏みつけに行ったも同然の事をしたのだ 噛み殺されたとしたても………… 自業自得 康太は理解したのを視とると 「お前は我が子でも斬れるか?」と問い掛けた 覚悟を決めた瞳が康太を射抜き 「はい。私は静間建設社長です 我が子の命よりも会社に働いてくれている社員達の生活の方が大切に御座います 会社は社員に支えられて成り立っている 社員の存在を疎かにして成り立ちはしない それは飛鳥井家元真贋 源右衛門殿の教え 静間建設は古くから飛鳥井家真贋とは何らかのお付き合いがあるのです 源右衛門殿は飛鳥井に手を出さない代わりに、存続する為の力を貸して下さっていた 共存してこそ未来があると会長の教え……… それを自ら破る事などあってはならない!」 立派な覚悟と本懐を遂げる武士の瞳をしていた 康太はこんな立派な信念があって何故柔な息子を作り出してしまったのか……と疑問に想った 「静間英彰、お前は息子の教育をしなかったのか? 少なくとも、貴殿の叩き込みの精神を受け継いでいれば、他人の人生を狂わす愚かな愚行に走りはしなかったと想う……」 それが何より残念だ……と口にした 「………会社を大きくする為だけに……私は旧財閥の娘を妻にしました 妻は……気位の高い女です 共に生きると言うよりも、あの人は自分の想いのままに生きている……そんな人でした 私は……そんな妻と解り合うのを諦めました そして………我が子は……妻が育て帝王学を叩き込みました 総てが机上空論 叩き上げて来た訳ではないので甘さが目立ちます ですが……我が子なのです…… 私は精一杯……あの子にしてやろうと歩み寄りました だが……私の言葉は何一つ届きはしなかった その結果ならば仕方がありません あの子には……責任を取って戴くしかありません」 康太は苦しげな呟きを聞いていた 「堕ちねば見えねぇ事だってある 叩き上げた鉄は打たれ強い 叩かれてねぇ鉄はポキッと折れる その差だ だがやり直せば良い 人間(ひと)は何度でもやり直し立ち上がれる力を持っているんだからな!」 「………はい。引導を……渡してやって下さい…… 我等、静間建設は飛鳥井家真贋の指示に従います 我等は未来永劫、飛鳥井建設には手は出さないと約束致しましょう ですので……後生ですからトドメは刺さないで戴きたい 我等の肩には何百、何千と言う人間の生活が掛かっているのです その人間を路頭に迷わす事は避けねばなりません 経営者たるもの最善を尽くして判断して逝かねばならない その為ならば……私情など捨て去る覚悟はとうに出来ております」 会社の為ならば…躊躇する事なく我が子を切り捨てる覚悟は出来ていると……社長は苦渋の選択を口にした そこまでして護らねばならぬと伝えた その姿は天晴れだった 康太は死刑を執行する 「なれば静間顕彰を呼び出せ!」 「はい。私が自ら連れて参ります」 社長はそう言うと会長室を出て逝った 会長は我が子の姿を見送り瞳(め)を瞑った 多くのモノを切り捨てて護り通して来た そしてまた多くのモノを切り捨てて護り通して逝くのだ 我等には私情に流されてはならぬ立場がある 私情に流されれ行くなれば泥舟に乗り……終焉を看取るしかないのだ それはしてはいけない判断だった 企業のトップを張る以上は私情には流されてはいけない掟だった 社長に連れられ副社長がやって来た 洗練されたスーツに身を包み苦労など何一つ知らぬ青年がそこに在った 副社長は会長室に入るなり会長に 「何か御用ですか?お祖父様」と鷹揚に話しかけた 「用がなくば呼び出したりはせぬ!」 何時もと違い断罪をする人間の声だった 副社長はブルッと身震いして、やっと自分の置かれた立場を理解しようとした 「顕彰、お前は飛鳥井建設に妨害工作をしたと言うのは事実か?」 会長は単刀直入に問い質した 「妨害工作?何を言ってるのですか? 妨害工作などではありません! 邪魔なネズミが目の前をうろちょろしていたので叩き潰してやっただけです! 僕の手柄でオリンピック特化の仕事が出来るんじゃないですか!」 自慢気に言う副社長に会長は 「それらは総てご破算になったわ! お前はこの静間建設を経営の危機に導いた」 「………え?何を言っておいでですか?お祖父様??」 副社長は訳が解らないと狼狽えた 社長は副社長の前に書類とデュエラポン財閥の株価暴落と静間建設の株価暴落の今現在の状況をPCで見せた 副社長はそれらを見て青褪めた 「………なにこれ?……何だよこれは!!」 「この事態を招いたのは静間顕彰、副社長のお前の仕業だ! よって静間顕彰、お前は副社長の任を解く! たった今、お前は副社長ではなくなった!」 「………何だよ!こんな事お母様が聞いたらどうなるか解っているんだろうな!」 副社長は逆ギレして叫んだ 社長は静かに「お前の母親が何を言おうが、飛鳥井家真贋を敵に回しては生きては逝けはしない! お前は誰を敵に回そうとしているか解っているのか? お前の母親が幾ら大企業の娘だとしても……半日も持ちはせぬ! そうなれば一番に斬られるのはお前の母親だ 現に今、そうなりつつある! 我が社は飛鳥井建設を敵に回す事はない! お前は総ての責任を取って副社長の席を解任する! 静間顕彰と我が社とは無関係のモノとする!」と宣言した 自らの手で息子に引導を渡す 身を切られる程の痛みを押さえ付け、社長は社員の身の保証を取った 会長は副社長の解任状を秘書に申し付け作成させた その書状を会社の至る所に貼り社員に知らしめる事となった 会長はその書状を見せて 「………真贋……痛み分けで……堪えては貰えませんか?」と幕く引きを提案した 「静間顕彰は飛鳥井の元社員の人生を狂わした この者達は職を失い家族を失い信用を失った この人間を産み出したのはお前の息子だ お前が無能な息子を副社長の座に着かせたからおきた悲劇だ! 死なばもろとも……刺し違える覚悟で、この者達は来ている その者達の前で同じ台詞が吐けますか?」 吐けはしない…… 己の会社の社員の生活を護るのが義務だと言う大義名分があるのなら…… 彼等はそれらの生活の総てを狂わされ……踊らされた捨て駒だった 兵藤は足を組み不敵に嗤うと 「目先の金に踊らされたこの者達も部は悪いが対価が合わねぇな、それでは! 一番の黒幕は飛鳥井を潰そうと企み牙を剥いた静間顕彰の筈だ 黒幕が職を辞する程度なのはおかしいでしょう? 対価は等しく同罪! 差し出せ! 己が会社を護るのならば! 本当に斬り捨てろ! でなくば話は続けられない!」 と断罪を下す発言をした 形だけの免責などは受けないと宣言したも同然の言葉だった 会長は兵藤に「………貴方は?」と尋ねた 「俺は飛鳥井建設 副社長代理の兵藤貴史だ」 兵藤が自己紹介すると会長は、兵藤と言うキーワードに気付いた 「………兵藤丈一郎を継がれる存在か?」 「そうだ!」 兵藤貴史は竜ヶ崎斎王の娘と婚姻が決まっている 政界で竜ヶ崎斎王は強敵だった そればかりか現総理 安曇勝也の懐刀の堂嶋正義が育てているとも聞いた どっちにしても強敵なのには代わりはなかった どちらも……自分達の首を締める存在なのには代わりはなかった 「貴殿は……どの様な幕く引きが所望なのですか?」 「飛鳥井が被った被害と等しく同等の対価を要求する! 痛み分け? そんなお前達が得する言い分など飲む気は毛頭ない」 一歩も引かぬ瞳だった 政界を揺るがした兵藤丈一郎 先陣を切って今の日本を築き上げた男を垣間見て…… 会長は言い分を飲むしかあるまいと想った 「………それでは……貴殿の言い分をお聞き致しましょう」 死刑執行が行われる 無理難題 吹っ掛けられようとも逃げる手立てなんてないのだから…… 「静間顕彰の身を引き取ろう! 事の発端の責任は本人に取らせる事とする」 「………飛鳥井建設にもたらした損害は……」 「それは真贋に決めてもらうしかないな」 兵藤が言うと会長は康太を見た 康太は鋭い瞳で会長を視ていた 総てを暴き総てを見通す瞳に会長は息を飲んだ 「真光寺家とは縁を切れ! 此所で会社の土台を叩いて頑丈に固めておかねぇと屋台骨は揺らぐ事となる 不要なモノなどさっさと切れ! 真光寺家も静間顕彰も静間の会社には不要な長物 静間建設は今、分岐点に来ている 後百年続ける為に今改革をするか 百年待たぬうちに消え去るか…… 選ぶのはオレじゃねぇ 選ぶのはお前たちだ 何でもかんでも繋げて成り立たせようとしたツケが今来てるんだ これからは断ち切る作業をして繋げる努力をしろ!」 真髄を突いた話に会長も社長も驚愕の瞳を康太に向けた まさに言われている通りだった 社長は「静間顕彰は貴方に引き渡します!」と断言した 顕彰は「なっ!!何バカな事を言ってるのさ!」と抵抗したが、聞こえないかの様に続けた 「静間建設が飛鳥井にもたらした損害はどんな事をしても……償う所存です 貴方の仰有る通りに致します それで静間建設が先に繋げれるのでしたら……悪魔に魂を売り飛ばしても良い…… 私の肩には社員の生活が掛かっております また職を失った方々には本当に申し訳ない事をした 我が社は……償えるのでしたら貴殿達を受け入れても良いと想っています」 そう言い社長は深々と頭を下げた 顕彰はその場に座り込んで震えた 康太は会長と社長を見据えて 「オレの望みは共存共闘 倭の国の経済を担う為に闘い共に生きてくれと言いたい 一社だけ強くてもそれじゃダメなんだ 弱肉強食なのは仕方ねぇけどな、共倒れにならない様に共存共闘して逝かねぇとダメだと想っている オレは道を違えるなら導く存在だと想っている 静間建設には常にトップを走って貰い、宮瀬建設、蕪村建設と続き大きな力を日本の社会で見せて欲しい まだまだ高度成長期を支えてきた底力は弱ってはいないと知らしめないと、倭の国に生まれた甲斐がねぇ その為に静間はトップを走る義務がある 外資に根絶やしにされねぇ為に、自国の企業が踏ん張らねぇでどうする?違うか?静間豪彰」 「……はい……まさにその通りに御座います……」 「飛鳥井建設からの要求はこの者達の身の振り方に協力して貰いたい……それだけだ それで溜飲を下げてやる その代わり二度目はねぇからな!それだけは覚えとけ!」 「元々我が社は飛鳥井建設には手は出してはならないとの社訓が御座います 二度と飛鳥井建設に牙を剥く事は御座いません」 「この場にいるのは飛鳥井建設を辞めさせられた者 ヘッドハンティングとして表立っていた者 この者達の身が立つ様に協力をお願いしたい お前の副社長が甘い汁をちらつかせなかったら定年まで堅実に働いたであろう者達の人生を狂わせた…… 罪悪感があるのら少しの情けをかけてやって欲しい」 路頭に迷った者達が富士の樹海でも目指したら、寝覚めは悪いからな!と兵藤は笑い飛ばした 富士の樹海……と聞いて会長も社長もギクッとなった 職を失い……あまつさえ犯罪者として罰せられるかも知れない立場の者達だった 悲観して……… 考えるだけで恐ろしかった 「………我等が出来る事でしたら…… この者達の再就職を受け入れろと申されるのですか?」 「それは無理だな この者達は此処に来る前に退職届を提出している 飛鳥井へも戻れぬのなら、静間にも逝けはしない身の上だ」 「………退職届………」 本当に先のない決断をして……この場にいるという事が解って言葉を失った 「……我等は何をしたら宜しいのですか?」 「慰謝料だ! 身ぐるみ剥がれる事を想えば多少の慰謝料、安いと想う 一応、飛鳥井家真贋として真光寺家に対して強く出られる様に名前は貸してやるんだし 対価は取れてると想うけど?」 「………お幾ら程……御用意したら宜しいのですか?」 「副社長室の金庫に眠る1億! デュエラポン財閥からの美味しい前金を戴く事にする お前達は何も知らない!を決め込め!! 静間顕彰等という人間は我が社にはいないと宣言すれば良い! 静間顕彰はオレが貰い受ける 静間の姓は捨て去って別人になる だから問題はねぇだろ? お前の会社が損している訳じゃねぇ!」 康太が言うと兵藤が 「誰も損はしてねぇ! 元々が存在してねぇ金だろ? 静間顕彰なる奴が勝手にやった事だ 公に出来ねぇ金だから洗浄して回すしかねぇ だから何も聞かなかった事にしろ! お前達は何も知らない それで万事上手くゆく事もあるってもんだ」 兵藤の言葉に乗っかるしかなかった 会長は「では我等は何も知らぬ事にします。」と総て「諾」と受け入れた 社長は「真贋、真光寺家とは縁を切ります!静間建設に新しい風を吹き込む為にはどうしたら良いか?アドバイスだけお願い出来ませんか?」と先へ進む為に動きだし始めていた 「血を切るしかねぇ! 古い血は澱むからな! 近いうちにお前の会社の人選をしてやろう! その時に適材適所、配置してやろう」 「ありがとうございます! では1億、持って参ります!」 社長は顕彰に一億の隠し場所を問い質し、秘書に申し付け持って来させた 康太は一億入ったジェラルミンケースを受け取った 「ではこの件は幕を引く事にする 遺恨は残さず共存共闘、先へと繋いで逝く事を約束しよう!」 「「はい。共存共闘、倭の国の為に!」」 と堅い約束を交わした 円城寺はそれを見届けて 「康太、総ては見届けました これで宜しいのですか?」と問い掛けた 「あぁ貴正、助かった」 「総ては貴方の想いのままに……私はそれだけしか望んではおりません!」 円城寺は康太の手の甲に口吻けを落として、帰って行った 康太は円城寺を見送ると、立ち上がった 「では近いうちに会社を訪ねる事にする!」 「お願い致します」 会長と社長は深々と頭を下げた 兵藤は顕彰の首根っこを掴むと不敵に嗤い康太の後ろに控えていた 社長は「兵藤貴史様、貴方が政局に上がられる時、我が社は貴方の後援会に名を連ねさせて戴く所存に御座います」と申し出をした 兵藤貴史と言う政治家が政局に上がる時、名だたる後援者に後押しされる事となるだろう 康太の狙いはそれなのか? と問い質したくなる程に……… 歯車が回っているのが解った 康太からジェラルミンケースを奪うと兵藤は歩き始めた 「お前が持つと怖いからな!」 落としたりしたら大変だと兵藤はジェラルミンケースを大切に持っていた 康太達は静間建設を後にすると正面玄関へと出て行った 静間顕彰はスゴスゴと項垂れて歩いていた 兵藤はエレベーターに乗る前にバスの運転手に連絡を入れた 正面玄関で暫し待つとバスは到着した 康太と兵藤はバスに乗り込んだ 元ヘッドハンティングと元社員達もバスに乗り込み、各々の席に座った 康太はバスに乗り込むとまたPCを取り出して一心不乱にキーボードを叩いていた 兵藤は「何処へ逝くよ?」と問い掛けた 「撮影現場まで頼む」 「撮影現場?それって何処よ?」 「西村に電話して村松康三は何処にいるか聞いてくれ んで、そこへと向かってくれ!」 康太はそう言い静間顕彰に振り向いた 「おい!お前、今幾つよ?」と年を聞いた 顕彰は素直に「………22……」と答えた 兵藤は「何だ同い年かよ?」とボヤいた 顕彰はポツポツ喋りだした 「飛鳥井建設の副社長が22だって聞いた 手腕を奮って凄いって何時も何時も比べられていた…… だから僕も出来るんだって躍起になって……」 「22か……まぁ少し年食ってるけど良いか… 」 「??……22だとダメだった?」 「違う。おめぇは畑違いの所にいるんだよ そんな畑違いの場所で手腕なんて奮えねぇんだよ」 「………畑違いの場所?」 「お前は副社長とか机上の空論をするんじゃなく、その手でモノを作り出す側の人間な筈だ 自分でも気づいているんじゃねぇか?」 「………気付いていても……それがどうなるの? お母様は許さない………お母様が許した事をしなきゃ…… 僕は生きている価値すらない…」

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