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第51話 緑川兄弟のバレンタイン
【弟 一生のバレンタイン】
バレンタインデー当日
………緑川一生は会社に出ていた
「一生、頼まれてくれねぇ?」と康太に謂われたのでパドック入る馬の調整の為の書類を作成していた
康太は一生の膝の上に乗って
「なぁ一生」と声を掛けた
「あんだよ?」
「今日、バレンタインデーやん?」
「だな!」
「祝うのか?」
「仕事を終えたら食事に出かけて……何か祝う的だな」
「力哉はスィーツ好きだから美味しいチョコくれそうだな」
康太が羨ましそうに言う
榊原 伊織は甘いモノが嫌いだ
基本、出されたモノは食べる
好き嫌いのない出来た男だが、甘いモノが壊滅的に受け付けないでいた
最初の頃は康太は榊原にチョコを贈っていた
が、榊原が食べずに康太に食べさせてばかりだから、チョコを贈るのを止めていた
「康太は旦那とデートに逝くんでっしゃろ?」
「だな。会社を終えたら何処かへ逝こうって約束してる」
「楽しんで来なはれ!」
「だな……」
康太は浮かない顔をしていた
「どうしたよ?」
「………どうもしねぇよ!」
康太はそう言い笑った
一生は引っ掛かりを感じつつもなにも言わなかった
そこへ真贋の部屋がノックされた
一生は「どうぞ!」と声を掛けると、栗田と城田がドアから顔を出した
一生の膝の上に座っている康太を見て
城田は「真贋、浮気ですか?」と笑って問い掛けた
「バカ言え!一生はオレもんだぜ?
オレが自分のもんに座って何で浮気になるんだよ?」
とんでもない言い種に一生は笑って城田に
「俺は王子様の僕(しもべ)ですから…」と言った
城田は絶対に信頼が羨ましかった
「お二人は何時からの仲なんですか?」
「幼稚舎からの付き合いだ!
幼稚舎には一生の他にも慎一や聡一郎、貴史もいたぜ」
康太が言うと一生は
「本当にワルガキで俺等は……巻添え食って大変だった」とボヤいた
そんな古くからの付き合いだったとは……
驚く城田と、頷く栗田
城田は栗田に「本部長は何時からのお付き合いなんですか?」と尋ねた
「真贋が小学校に上がった頃、師匠…脇田誠一の所から略奪され今に至る」と端的に答えた
康太は立ち上がると栗田の背中をよじ登った
「そうそう。懐かしいなぁ……
惚れ込んでオレの駒に奪って来たんだよな」
「ランドセル背負った貴方に掴まって……以来貴方の為だけに生きているのです」
「一夫、何か用があったんじゃねぇのかよ?」
「真贋がいるとお聞きしたので顔を見に来ただけです」
「そっか……最近顔を見せてなかったな」
康太が言うと城田が「そうです。逢いたかったんですよ康太…」と答えた
栗田と城田に近いうちに食事を取る約束すると部屋を出て逝った
栗田達を見送り康太は立ち上がった
「じゃ一生、力哉とデートに逝って来いよ!」
「お前は?」
「オレか?オレは伊織とデートだ」
ならな!と言い康太は真贋の部屋を出て逝った
一生は力哉を見た
「デートに行くとするか!力哉」
「映画とかなら康太と見に行くから……嫌だ」
「映画じゃねぇよ
しかも康太が見るのは悪魔と死神の映画だろうが!」
「単行本貸しますか?」
単行本まで買っていた訳ね……
「………嫌……良い……」
「なら何処へ連れて逝ってくれるのですか?」
「飛鳥井の家に帰るんだよ」
一生は楽しそうに言うと、意外な事を告げた
「飛鳥井の家に………ですか?」
「康太の子供達と一緒にバレンタインデーやるんだよ!
貴史も呼んであるからな
飛鳥井の家族や榊原の家族、皆でバレンタインデーやるぞ!」
「………一生はそれで……良いのですか?」
「何が?俺はお前の望む事をしてやりてぇんだよ
お前には家族はいない
俺にも家族と呼べるのは慎一だけだ
だけど俺達には【家族】と想える人たちがいる
家族として生きる場所がある
お前同様、俺も……家族を大切に想っている
両親不在のバレンタインデーなら、俺らが一緒に祝わないでどうするよ?
そんなバレンタインデーがあっても良いじゃねぇかよ?
俺とお前が望むバレンタインデーをやろうぜ!」
「………一生……」
大切に想われ愛されている実感を噛み締める
こんな時、一生は甘やかして愛を注いでくれる
この世で一番愛した男に同じだけの愛を貰う
最高に幸せだった
「慎一が料理を作っている筈だ
俺達も還って手伝わねぇとな」
「一生にチョコ、作ったんだよ」
「なら貰わねぇとな」
「今年はね伊織も康太にチョコを作ったんだって
慎一が言っていたよ」
「伊織が?康太をチョコまみれにでもする気か?」
「チョコまみれにするならクリームチョコを用意するよね?
伊織が慎一に頼んでいたチョコは数ヶ月前から特注で作らせた蕩けるチョコだよ
その製作の為だけに部屋を借りて挑んでいたからね」
「………部屋を借りて?
俺……それ知らなーずだぜ?」
「飛鳥井の家をチョコで汚す訳にはいきません!って言ってワンルームの部屋を借りていたんだよ
どんなチョコ作ったんだろうね」
「…………まともなチョコは………」
作っちゃいねぇだろうな………一生はそう想った
「伊織がね『一生はミルクチョコなら食べれますよ!』って言って蕩けるミルクチョコをくれたんだ
後でプレゼントするからね」
旦那!謀りやがったな!!
何がミルクチョコならだ!!!
一生はチョコが嫌いだった
それを力哉に言えなくて毎年力哉のくれるチョコを四苦八苦しながら食べていた
ミルクチョコ………そろそろ観念して言えって事か旦那…………
「………力哉……俺はチョコは……」
「苦手なんですよね?
やっと言ってくれましたね
伊織はビターなチョコをくれたのです
でも一生にはミルクチョコだと言いなさい。面白い百面相が見れますよ?と教えてくれたんだ」
「別にチョコが嫌いなんじゃねぇぞ
康太に貰ったチョコを食って病院送りになってから……チョコを食べると体躯が拒絶反応をおこすんだ」
チョコで病院送り……
それはどんなチョコなんだ?????
「………病院送りって……どんな品物だったのですか?」
「康太が火傷しまくって作ってくれたチョコだ
カタチは悪かったけど、想いなら誰よりも詰まったチョコだった………けど、康太は雜いならな……」
こんな時、一生は誰よりも康太を庇う
病院送りにされても雜いからと、康太を庇う
羨ましいとさえ想う
二人の生きてきた年数は絶対の関係にさせたのだ
「アイツは昔っから雜くてな
触るモノは壊す……だから家族は何も触らせず育てた」
だから康太は何もしないのだ
何時も何時も、何もしないのだ
「今は旦那がいるからな、旦那が見ててフォローするから大丈夫になったけどな……」
それまでは触ると壊すと家族に警戒されて可哀想な位だった………と想いを馳せる
「一生?」
「還ろうか、俺達のいる場所に」
「そうだね、還ろう僕達のいる場所に……」
力哉は一生を見上げた
自然に合わさる唇が愛しい
い抱き合うぬくもりに酔いしれ愛を感じる
力哉は体躯を離すと「還ろう」と告げた
一生は頷き「還ろうか!」と返した
二人は仲良く会社を後にした
【兄 慎一のバレンタインデー】
慎一は井筒屋に来ていた
この日は奇しくもバレンタインデーだった
康太の沢庵を買う
康太の羊羮を買う
康太のコロッケを買う
主の為だけに買い物をする
井筒屋のおばちゃんはそんな好青年 慎一を微笑ましく想っていた
「慎ちゃん、今日はバレンタインデーだからね
慎ちゃんにもあげるよ!」
ほれ!
と言いリボンの着いた箱を貰った
「慎ちゃんは今はない好青年そのものだねぇ!
そんな慎ちゃんにおばちゃん達からプレゼントだよ」
慎一はチョコを受け取り「俺に……ですか?」と問い掛けた
「慎ちゃんにだよ!
何時もありがとうね!」
おばちゃんは笑っていた
優しく優しく笑っていた
慎一はチョコを受け取り深々と頭を下げた
「ありがとうございます」
慎一は礼を言い、井筒屋を後にした
井筒屋を終えてクリーニング屋に!
真贋の着物を取りに逝くと、そこのおばちゃんにもチョコを貰った
八百屋のおばちゃんもチョコをくれた
今日は……何なんでしょうね……と慎一は想う
気を取り直して飛鳥井の家に戻り、キッチンへ
途中、玲香と出会い
「おおお!慎一、よい所に参った!」
玲香はラッピングされた箱を慎一に渡した
「俺に…ですか?」
「そうじゃ!何時もご苦労様じゃな慎一
その労いを込めて贈らせて貰うのじゃ」
「ありがとうございます」
礼を言いキッチンへ
キッチンには京香が明日菜と共にいた
京香は慎一を見ると
「慎一、待っておった!」と告げた
「何かありましたか?」
不思議そうに慎一は問い掛けた
「何もありはせぬ
お主にチョコを渡さねばと明日菜と共に待っておったのじゃ!」
京香はそう言い慎一にラッピングされた箱を渡した
明日菜も慎一に箱を渡した
「慎一には美味しい料理の作り方を教えて貰ってるからな
日頃の感謝を込めて、笙よりも高いチョコを買った」
「………佐伯……夫より高いのよ……と言われても喜べませんよ?」
「素直に受け取れ!
気持ちだ!
日頃の感謝は夫よりも慎一に比重が偏ったって事だ」
そう言い明日菜はガハハッと笑った
そこへキッチンに近付いて来る足音があった
「慎一♪」
キッチンのドアを開けて飛び込んできて慎一に抱き付いた
その少し後に清四郎の姿があった
「………清四郎さん……妻を止めましょうよ」
「我が子を抱き締める妻を止める事は誰にも出来ません」
慎一の事も我が子として接してくれる
そんな二人が慎一は大好きだった
真矢は慎一にラッピングされた箱を渡した
清四郎も「君の息子達の分もあるよ!私達の孫だもの、ちゃんも用意したんだよ」と嬉しそうに言う
真矢は慎一の頭を撫で撫でして
「慎一、お腹すいたから母に何か食べさせて頂戴」と告げた
明日菜は「なら姉にも何か食べさせてよ!」と便乗した
慎一は「皆さん席に座って下さい。」と言いカウンターの中へと入った
そして手際よく調理を始めた
みんなの前に食事を並べて慎一は
「今夜は康太夫婦の不在の子供達とバレンタインを祝う事になっているので食べ過ぎには注意して下さいね!」と釘を刺すのも忘れなかった
真矢は「伊織は康太とデート?」と問い掛けた
「1ヶ月前から気合いが入ってましたからね」
気合い?
何故バレンタインデーに気合いが必要なの?
真矢は「………あの子……現金だものね……この日の為に何をしていたのかしら……」と酷使されるであろう康太を想う
清四郎は妻の肩を抱き
「大丈夫です!」と慰めた
その時、玄関のチャイムがなり慎一は玄関へと出向いた
ドアを開けると天宮から飛鳥井に戻った、飛鳥井綺麗が立っていた
「綺麗、康太は不在ですが?」
「我が用があるのは慎一、お主だ」
「俺……ですか?」
「今日はバレンタインデーだからな
お前にチョコを持って来た」
「俺に……ですか?」
「そうだ!お前に!持って来た」
慎一はチョコを受け取り「ありがとうございます」と礼を述べた
「上がりますか?」
「いや、仕事があるからな帰る
我は……やはりお主の子を産みたい
お主の様な子を、今度はこの手で育てたい」
「……俺はろくでなし……ですよ?」
「和希と和真はよい子ではないか!
子種の提供、やはり考えておいてくれ!」
「………はい。主に今度は聞いてみます」
「あやつの眼の果てを期待しておる!」
綺麗は笑うと慎一を抱き締めた
そして離れると還って逝った
キッチンに戻ろうとすると、女優の嵯山瑠衣(さざんるい)と源氏薫子(げんじかおるこ)が共に立っていた
隼人の仕事に付き添った時に出逢った女優だった
「慎一さんチョコを受け取って下さい!」
「慎一さんの為だけに用意しました!」
二人からチョコを差し出され慎一は困った顔をしていた
「………隼人でなく……俺……にですか?」
美波は「慎一さんにです!」と腕に抱き着いた
細波も「慎一さん受け取って下さい」と反対側の腕に抱き着いた
モテ期到来……?
そこへ兵藤が「おっ!モテモテやん慎一」と声を掛けた
瑠衣と薫子の瞳がキラーンと輝いた
「慎一さん、此の方は?」
「何方なんですぅ?」
すっかり男前を目にして、瑠衣と薫子は慎一から離れた
「康太の御学友、兵藤貴史様に御座います」
慎一は敢えて仰々しく物言いをした
「彼は将来の日本を背負う方に御座います
淑女との噂はご法度!
ご紹介だけにさせて戴きます!
さぁ貴史様、此方へ!」
背中で兵藤を隠し仁王立ちで二人を威嚇する
こんな時の慎一には近寄りがたかった
二人は早々に退散した
「モテモテだったな慎一」
「彼女達はハンターです
より見映えの良い男を。
より稼ぎの良い男を。
より知名度のある男を。
自分がより駆け上がる為のアイテムを手に入れようと躍起になっているだけです」
「………それを言っちゃう?
そんな言い方だと身も蓋もねぇじゃねぇか」
「身も蓋もなくて良いのです
俺は主の傍を離れる気は皆無!
その為に障害となるべきモノなど不要なのです」
「お前、今日本で一番売れてる女優 柴原芽里に公開プロポーズされてたよな?」
柴原芽里がぶっちゃけトーク番組で『私が今一番愛しているのは緑川慎一と言う男性です』
と言ったから大騒ぎになった
『彼と結婚出来ないなら、彼の子供だけでも欲しい
こんな気持ちにさせてくれた慎一には本当に感謝している
この先も……私は彼だけを想って生きて逝く』
この爆弾発言は世間にセンセーショナルな話題となった
マスコミは競って【緑川慎一】なるものを調べた
だが………飛鳥井康太の執事
とのデータにマスコミは書くのを止めざるを得なかった
話題は一途な想いを抱く女優に終始され決着を見せた
「我が主と近付きたいと言う輩が、俺に近寄ろうとしているので困ります」
それで一蹴したい慎一に兵藤は
「あの女優は本気だって知っているんだろ?」
「例え本気だとしても俺は応える気はありません
応える気がない俺は……何も言ってはいけないのです」
「お前って本当に良い男だな!
皆が惚れるの解るわ」
「貴史、お腹は減っていませんか?」
「少し小腹が減ってる」
「ならお茶とお菓子をご用意致しましょう」
「慎一、これ美緒からだ。」
兵藤はそう言いラッピングされた箱を慎一に渡した
「美緒さんから?」
「美緒のお気に入りだからなお前」
「それは光栄です
でも夜には美緒さん、いらっしゃるのでは?」
「忘れたら慎一に申し訳が立たないから早目に渡しておけ!って無理矢理渡されたんだよ」
「そうですか。後でお礼を言わねばなりませんね
それより……桃太郎を上げるなら足を拭いて下さいね!」
慎一はそこいら辺は確りしていた
兵藤は苦笑すると桃太郎を抱き上げた
「慎一、抱き上げてるから足を拭いてくれ!」
「解りました
拭くのを持って来るので待ってて下さい」
そう言うと慎一はキッチンへと向かった
チョコを置いて拭くのを手にすると玄関に戻り桃太郎の足を拭いた
桃太郎を廊下に下ろすと、慎一は兵藤と共にキッチンに向かった
椅子に座ると慎一はケーキと紅茶を兵藤の前に置いた
慎一は美緒からのチョコを紙袋の中に丁寧に納めると、瑠衣と薫子からのチョコはゴミ箱に捨てた
「………お前って……そう言うタイプじゃねぇよな?」
兵藤は不思議そうに言った
「気を付けているだけです
俺に渡せば康太も口にするかも…と想った輩が毒を仕込んでいる可能性も捨てれないので……
本当に信頼出来る方以外のモノは捨てる事にしているのです
康太は毒には耐久性がありますが他の方はそう言う訳にはいきませんから……」
「……んな事……一度でもあったのか?」
「前に……貰って置いておいたお菓子をガルが食べて病院送りになりました
気付いて直ぐに吐かせたので死には至りませんでしたが……ガルは後遺症が残りました
あの子は……足の痺れと死ぬまで闘わねばなりません
もし飛鳥井の家族や子供……康太が食べたと想うと……」
慎一はそこまで言って身震いをした
「その袋のチョコは大丈夫なのか?」
「このチョコは井筒屋のおばちゃんや商店街のおばちゃん達の感謝の気持ちと、義母さんや義姉さん、佐伯からの想いですから、溶かしてケーキにして皆さんに感謝の気持ちを返したいと想っています」
律儀な奴だと兵藤は感心した
「しかしモテるなお前」
「妙齢のお嬢様方には愛されるみたいです」
慎一はそう言い笑った
【ハッピーバレンタイン】
バレンタインデーの夜
飛鳥井の家には神野晟雅や佐野春彦が訪問していた
佐野は「康太がいないとは……」と康太に逢いに来たのに……と残念がった
神野も「康太はデートですか?」と残念そうに呟いた
子供達が応接間にやって来ると手にしたカゴの中からチョコを手に取り
流生は「あい!ばぁちゃ!」と玲香に手渡した
翔は「あい!じぃんにょ!」と神野に手渡した
音弥は「あい!ちゃにょ!」と佐野に手渡した
佐野は「音弥!ありがとう」と言い音弥を抱き締めた
「おちゃけ……くちゃい……」
お酒臭い佐野から音弥は逃げ出した
佐野は逃げられても笑顔で「康太の子は本当にかわいいなぁ」と呟いた
太陽は京香や明日菜に「あい!きょーきゃ、あちゅにゃ!」と手渡し
大空は「あい!えいちゃ!ばぁたん、じぃたん」と手渡した
烈が清隆と清四郎に手渡す
皆、嬉しそうにチョコを貰っていた
瑛智が美緒にチョコを手渡した
「おお!瑛智ではないか!」
美緒は嬉しそうにチョコを手にした
真矢には永遠が渡した
「永遠、大きくなったわね」と引き寄せると抱っこした
そして北斗と和希と和真の頭を撫でて
「学校は楽しい?」と問い掛けた
和希が「楽しいよ!おばあ様」と答えた
和真が「授業参観に来て下さってありがとうございました」と改めてお礼を口にした
北斗は「凄く嬉しかったよおばあ様」と笑顔で答えた
真矢は出来る限り、どの子も平等に接していた
どの子も飛鳥井に意味のある大切な子なのだ
明日の飛鳥井を背負うべく子達なのだ
その手助けをする
どの子も分け隔てなく愛して逝こうと心に決めた
玲香はそんな真矢の想いが嬉しかった
「北斗、和希、和真、足らないモノがあったら、何でも言うがよい!
ばぁばは何時だってお前達の為にいるのだからな」
「「「はい!おばあちゃま」」」
北斗と和希と和真達も慎一から教えられたビターなチョコを配った
瑛太が「チョコは貰いましたか?」と笑顔で問い掛けると、和真が顔を赤くした
「貰ったのですか?和真」
瑛太が問い掛けると和希が
「和真は年上の御姉様達の人気があるからね
校門を出ると並んでてチョコを渡していたよ」
「和希は?」
「僕はね扱いにくい子供らしくてね見向きもされない」
和希がそう言うと真矢が
「和希は人の痛みの解る優しい子だもの
和希の良さが解らない人間には媚びる必要などないのよ」
と言葉にして撫でてやった
「………僕……何を言ってもキツいし毒吐くから……」
「それも和希なのよ
どんな和希でも私の可愛い子には変わらりはないわ」
「……おばあ様……」
和希は泣いていた
意地を張って強がって、言わなくても良い事を言う
それが和希だった
昔は素直な可愛い子と言われたが、今じゃひねくれまくって性格が悪い奴に成り下がった
キツい性格は他の生徒と軋轢を生んだ
それでも妥協はしたくなかった
妥協はする気もなかった
和真は温厚な性格のまま寡黙な生徒ととして一目おかれていた
北斗は物知りな所が凄いと一目おかれていた
和希は悪態を着く乱暴者としてレッテルを貼られていた
一生は「康太はどんな理不尽な事を言われても妥協はしなかったぜ!
それで自分の立場が悪くなるとしても、康太は己を貫いた
だからさ和希、お前も間違ってねぇと想うなら、そのまま逝けば良いと俺は想うぜ!」とエールを贈った
聡一郎も「……康太の初等科の頃は凄かったですからね……絶対に己を曲げないから軋轢が凄かった
それでも……康太は間違った事はしなかった
己を信じて貫いた
僕達は……そんな康太を……疎んで弾こうとした
康太は眩しい最期の宝物だったから……汚したくなくて離れた事もありました
離れなられない関係と言うのは必ず存在するのです
君が己を曲げすにいれば、何時か君の傍に立ってくれる存在が必ず現れる
その日まで真っ直ぐ逝けば良いと想います」と言葉にした
和希は物凄く……楽になった気がした
お歌を歌う音弥
ムードメーカの流生
堅実な翔
ずる賢い太陽
寡黙な大空
兄達に追い付こうと必死な烈
どの子も飛鳥井康太の子供達だった
その日の翔は珍しく瑛太の傍に近寄った
何時もは本能からか避けている節があった
「えいちゃ」
「何ですか?翔」
「あにょね、ちゃのみがありゅにょ」
「どんな頼みですか?
聞ける事なら聞きましょう」
「あのね、かけゆね……しゅいえい……やめちゃいに」
スイミングスクールに6人の子達は通っていた
それを辞めたいと言うのか?
「………かぁちゃに……ちゅたえるりょ……てちゅだって」
「良いですよ。
その代わり辞めたい理由、話して下さい」
瑛太が問い掛けると翔は泣きそうな顔をした
音弥が走って来ると、両手を広げて翔を護るように立った
「かけゆ……おとたんにょ……ためらの!
おきょらにゃいで……」
瑛太は音弥を撫でて
「理由を聞かないと君達の味方も出来ませんよ?
話して下さい音弥」
と促した
「おとたん……まら……あちがわりゅいきら……
ちぇんちぇい……おきょられてばきゃりにゃにょ…」
「先生が音弥を怒るのですか?」
「おとたん…らめなきょらから……」
「辞めて良いです!
そんな所……辞めれば良いです
私から康太には言っておきましょう」
瑛太が言うと慎一が「駄目ですよ瑛兄さん」と止めた
瑛太はキツい眼差して慎一を見た
「何故ですか?
嫌なモノは辞めれば良いじゃないですか?」
「そうして嫌なモノから排除ばかりしていたら……
この子達は無菌状態になってしまう……
この世は嫌な事も良い事も均等にあるのです
良い事ばかりで見せるのは得策でないと康太が判断したのです」
だから瑛太の所へ来たのか……
「まだ……この子達は……四歳です!」
「四歳だからこそ、根底の部分で逃げさせたくないのです」
「…………厳しすぎじゃ……ありませんか?」
「この子達の母は厳しい鬼になるのです
その分父は優しい菩薩になると決めている
子供の事は康太と伊織が決めます」
「兄は翔の叔父として、頼まれたからには伝えねばならぬ義務があります!
私は一歩も引く気はありません!」
慎一は困った顔をした
一生は慎一の肩を叩いて
「子供達は頼もしい叔父を味方に着けている
それは子供達にとって物凄く心強い事だって事は康太が一番知っているさ」
と引けと言った
「……あのコーチは見ているこっちが腹が立つので……
月のない夜にボコろうかと想っていたのに…」
慎一は冗談か本気か解らぬ言葉を口にした
一生も「康太が止めなきゃ、翌日の朝日は拝めなくさせてやる気だったぜ!俺も」と賛同した
瑛太は「そんなに……酷いのですか?」と問い掛けた
一生は「音弥はコーチの八つ当たりの集中攻撃受けてる」とスイミングに一緒について逝った感想を述べた
「………康太は何故……怒らないのですか?」
瑛太が問い掛けると慎一は
「子供達がコーチに言うのを待っているのかも知れませんね
親が言うのは容易い
だけど子供達が力を合わせて乗り越える試練だと想っているのかも知れません」と答えた
「そうですか……でも翔に頼まれたので叔父として頼られた限りは全力で護ると決めたのです
なので康太に談判する事にします!」
瑛太はそう言い嬉しそうに笑った
慎一は瑛太に
「康太は解ってますよ」と言葉にした
「慎一、翔は視えるから私と距離を取ろうとするのです………その翔が私を頼ってくれたので…嬉しかったんです……」
「良かったですね瑛兄さん」
「慎一、私は甘い叔父でいたいのです」
「それでいいと想います」
瑛太は嬉しそうに笑うと佐野や神野と飲み明かす事に決めた
飛鳥井の家族がいる
榊原の家族がいる
そして一生がいる
聡一郎がいる………
聡一郎は悠太と並んでご飯を食べていた
「沢山食べなさい!大きくなれませんよ」
聡一郎は悠太に言う
悠太は困った顔して
「………これ以上大きくなると康兄に嫌われる……」と遠慮した
「嫌われちゃいなさい!
君には僕がいれば良いんでしょ?」
少し酔ってる聡一郎が言う
「………そうですが……康兄に嫌われたくはないです」
「だよね?僕より康太が大切だもんね君」
「そう言う聡一郎だって、俺より康兄が大切だよね」
「腹立つ……」
聡一郎は悠太の口を引っ張った
慎一は「二人とも康太バカなのは変わらないでしょ?」と止めた
すると力哉が「そうそう。一生も主バカだもんね」と上機嫌で言った
「そう言う力哉も主バカでっしゃろ?」
「だよね……二人揃って主バカなんて……凄くない?僕達!」
「………それって凄いのか?」
「凄いよね瑛兄さん!」
力哉は瑛太に甘えた
瑛太は力哉を撫でながら
「凄いですよ力哉」と甘やかした
力哉は家族として飛鳥井の家で生きると決めていた
僕の大切な家族なんだ
そう想っていた
その想いに家族は応えた
玲香は「力哉、こっちに来るがよい」と誘った
力哉は玲香達の傍に逝くと、仲良く飲み始めた
一生はみんなを見つめていた
此処が自分達の居場所なんだと噛み締める
慎一は「力哉、取られてしまいましたね」と笑った
「力哉は主の次に家族が大切だからな」
「お前がいればこそ、力哉はそう想えているんだ」
お前がいなきゃ……
力哉はそうは想わなかっただろう……と慎一は一生を撫でた
「慎一、飲もうぜ!」
一生はコップを突きだした
慎一はそれを受け取って飲み始めた
兵藤は子供達の相手をして疲れて一緒に眠りに落ち……
コオ達の横に布団を敷いて寝かせた
仲良く眠る姿に絶対の信頼を感じていた
悠太と聡一郎はそれ見て笑った
楽しいバレンタインデーの晩だった
主不在の晩だった
慎一は我が子を膝の上で寝かせ幸せそうに目を瞑った
真矢が自分が羽織っていたショールを慎一に掛けてやった
とても幸せなバレンタインデーの夜だった
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