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第53話 出逢い

飛鳥井悠太は桜林学園 高等部2年A組のクラスへと急いで向かっていた 2年A組のクラスのドアを開けようとすると、スーッとドアが開いた 「悠太さん!」 そう言い抱き着いて来たのは高坂陸王だった 海王が悠太に「今日はどうなさったのですか?」と言いやはり悠太に抱き着いた 「今日、転校生が来るって言ってたよね? もう来てる?」 この日悠太は検査の為、お昼休みの登校となった 悠太が尋ねると陸王が「蘆谷貴章君?」と尋ねた 「そう!彼は?俺は彼の顔は知らないので……教えてもらえませんか?」 顔を知らない? なのに登校するなり探していると謂う……って事は兄の御使いなのか? 海王はクラスの中に入ると、孤立して座っている蘆谷貴章に声をかけた 「蘆谷君、お客様だ」 「え?……僕……にですか?」 不思議そうな顔で海王を見る 海王は貴章の腕を取ると「こっちだよ」と言い悠太の前に連れて行った 「悠太さん、蘆谷貴章君です」 陸王が紹介すると悠太はニコッと笑った 何処か榊原に似た容姿に、榊原と縁がある人なのかと想った 悠太は貴章の前に手を差し出すと 「初めまして蘆谷貴章君 俺は飛鳥井康太の弟の悠太です」と自己紹介をした どうみても………康太よりも老けた顔をしている悠太に 「兄じゃなく?」と問い掛けた 悠太は苦笑して「弟です」とハッキリ言った 海王は「………悠太さんは康太さんが育てた弟さんなんですよ」と嬉しそうに教えた 陸王は「桜林学園 生徒会執行部の部長さんをしている方です 桜林学園生徒会執行部の部長は康太さんの伴侶殿の役職だったんですよ」と補足をしたつもりで話した 悠太は余計ややこしくならなきゃ良いけど……と苦笑していると貴章が悠太の手を取り握り締めた 「蘆谷貴章です」 「飛鳥井悠太です 康太は三つ年上の俺の兄になります 兄に仰せつかった事がありまして呼びつけさせて戴きました 兄は貴方達に、陸王と海王とを…逢わせてくれと言ったのです」 「……え?僕に……ですか?」 「貴方と安倍晴葵さんに、です えっと晴葵さんは?どちらですか?」 悠太が言うと陸王が安倍晴葵を探しに逝って連れて来た 晴葵は悠太を見て「あれ?悠太君」と声をかけた 悠太は晴葵を見ると「晴葵さん、此方に!」と言い呼び寄せて貴章と並べて話をする事にした 「俺が用があるのは晴葵さんと貴章さんにです」 「「え?僕達に??」」 何だろう?と晴葵は貴章を見た 貴章は「悠太君は康太さんの御使いで来ているそうです」と一足先に聞いた分だけ伝えた 悠太は笑顔全開の顔で「康兄に貴方達と陸王と海王とを逢わせてやってくれ!と頼まれたので来ました」と伝えた 貴章は高校3年だった なのに転校先の学年は2年になっていた 何故なのか?と首をかしげていた 「康兄が貴章君は転校しても誰かと友達になると言うのはなさそうだから、お前が引き合わせてオレの伝令を伝えろ!と謂われたので俺が来なくちゃいけなかったのです!」 中々辛辣な物言いに貴章はそう来たか……と転校しても多分自分から動かなかっただろうと想う 「飛鳥井康太からの伝令です」 悠太はそう言うとメモを取り出して読み上げた 「『蘆谷貴章、安倍晴葵、お前等二人の運命は絆を強める事によって繋がって逝くのを忘れるな!』だそうです!」 悠太は伝令を伝え終わると海王と陸王の手を引き寄せて二人の前に立たせた 「此方が高坂海王君で、此方が陸王君です! これは必然的な出逢いであり繋がって逝く未来でもある!と康兄は言ってました」 悠太が言うと陸王は二人に「高坂陸王です」と自己紹介した 少し遅れて海王も「高坂海王です」と自己紹介をした 貴章と晴葵は海王と陸王を見て 「「覚えました!」」と声を揃えて言った そして「蘆谷貴章です。宜しくお願いします」と言いペコッとお辞儀して挨拶した 「安倍晴葵です。宜しくお願いします」と言い晴葵もペコッとお辞儀して挨拶した 陸王は二人を見て「変わったオーラを御持ちですね?」と尋ねた 海王は二人を見て「物凄い力を秘めておいでだ」と言葉を繋げた 二人が言うと悠太は 「力は名前の通り……と康兄が言ってました 回りくどい説明は省いとけ!視れば解る!って言ってたので追々互いを知る為に話されては如何ですか? 貴方達は唯一無二の存在になるべき運命なのですから……」と康太に謂われた通りに説明した 本当は冷や汗ものだった これは大役過ぎるよ康兄……内心想い弱音を吐く 悠太が言うと海王が爆笑した 「康太さんらしいわ! なら僕達は唯一無二に存在になるべき頑張りましょうかね? 親睦の意味を兼ねて、これからファミレスにでも行きませんか? あ、悠太さんもご一緒しませんか?」 「………俺は……今日は会社に顔を出さないとならないのです……」 「会社?何かありましたか?」 海王は心配そうに問い掛けた 「俺の製図が着工されたんでチェックに行っているんです やっと康兄の望むステージに上がれたんだ……」 悠太は本当に嬉しそうに笑った 静かな空間を破る様に怒鳴り声とドアを開ける声が教室に響いた 「おい!悠太!お前、生徒会の方忘れてるだろ!昼休みは貴重な時間なんだぞ!」と怒った葛西がやって来た 「葛西、忘れてないよ」 「忘れてないなら早く来いよ! 早く仕事あげて今日は釼持先生の所に勉強に逝く日なんだから!」 「解ってるさ、俺だって今日は会社に行くんだから早く片付けたいのは山々だよ だけど康兄からの用事があったから……」 「康太さんの用事? それを早く言えよ! 康太さんの用事って何なんだよ?」 「お前って本当に……康兄が好きだよな……」 「決まりきった事を言うな! 康太さんはこの命よりも大切な存在! それより何なんだよ用事って?」 「蘆谷貴章君と安倍春葵君に海王と陸王とを出逢わせて絶対の信頼を築かせろ……って康兄に謂われたんだよ」 葛西は貴章と晴葵の方へ視線を向けた ただならぬオーラに葛西は康太の歯車の中に加わったのだと感じ取った 葛西は貴章と晴葵の前に出ると 「桜林学園生徒会 会長の葛西繁樹だ!」と自己紹介した 生徒会長と聞き貴章は何故そんな学園のトップが来るかなぁ……と想った 晴葵も桜林の生徒会は生徒の人気、信頼、実績を兼ね備えた学園の天才しか入れない集団だと想っていた そんな天才が何故? 葛西は貴章と晴葵を見ていて「ただ者ではなさそうですね?」と呟いた 最近逢った陰陽師、東雲空也が纏う気配に似ていたから「陰陽師?」と口にした 晴葵と貴章は驚愕の瞳を葛西に向けた 陸王は「何でそう思うのですか?」と問い掛けた 海王も「ただ者ではないと想いましたが、何故陰陽師だと想ったのですか?」と真意を問い質した 葛西は笑って 「俺は康太さんの使い走りをする時があって、最近陰陽師の先生、東雲空也さんに出逢ったのです その方の気配にお二人は似ておいでだなっと想っただけです」と答えた 平成の陰陽師、東雲空也はかなり有名な人物だったから陸王も海王も知っていた 東雲空也を想いだし、晴葵と貴章を見ると、成る程!二人が纏う雰囲気は陰陽師と謂われる存在と酷似していた 「「成る程!!」」 陸王と海王が納得すると葛西は更に続けた 「お二人の名前は蘆谷貴章と安倍晴葵 まさにご本人が纏う気配にも劣らない そう言っても俺はご本人は知らないのですがね」 と核心を突く発言だった 流石、飛鳥井康太の駒を名乗るだけの人物だと二人は想った 葛西は「なぁ悠太、俺達はこれから出逢う陰陽師と縁を結わえて運命を共にすると謂われたと言ったのを覚えてるか?」と早すぎる出逢いに苦笑して言った 悠太も「勿論覚えてるさ……でもこれからってかなり早くない?」と、葛西から聞いてからの出逢いの早さに少しだけ文句を言った 葛西は爆笑して 「運命って奴は気紛れだと言う事だな」とボヤいた 「気紛れ過ぎだろ? そして……何で3年の俺達がまだ生徒会長と執行部部長なんてやってんだよ? そろそろ引退で楽させて貰えそうな3年なのにさ……生徒会がなきゃもっと早く帰れるのに……」 「言うな……全校生徒の総意だ……それは言うな」 「だけどさ……」 悠太がボヤくと海王と陸王は爆笑した 海王は生徒会副部長を陸王は執行部 副部長をしていた ちなみに戸浪万里は生徒会の監査役員をしていた 不正や行事などの全体的な行動を監視する監査役員として目を光らせていた 海王と陸王は顔を見合わせて思い付いた事を口にした 「ねぇ葛西君、この二人を生徒会に入れては如何ですか?」 「臨時委員会を開いて満場一致したら入れるんでしたよね?どうです?」 海王と陸王が言うと、悠太が 「それは出来ないんだ 康兄からこの二人は生徒会や部活には絶対に入れるなと謂われているんだ もし執拗な勧誘があったらお前が断る為に出ろ……とまで謂われているから、それは無理なんだ」 と説明した 「「そうなんですか……」」と海王と陸王は少しだけ残念そうに言った 「で、海王君陸王君、康兄から謂われているのにはまだ続きがあってね お二人に晴葵さんの仕事の手伝いをしてやってくれと謂われて来ました」 「……仕事の手伝い?何を手伝うんですか?」 「貴方達お二人は晴葵君と貴章君のサポートをして戴きたいのです」 「サポート?何のサポートをするの?」陸王は首を傾げて問い掛けた 「安倍晴葵さんは妖怪の管理をなさっているのです この世には霊と謂う存在と妖怪と謂う存在が混在しているのをご存知ですか?」 悠太の言葉に陸王が「……妖怪って物語の世界の異物なんじゃないの?」と問い掛けた 「違います! この倭の国には古来から存在しているのです で、総ての妖怪を『里』に転送する仕事を手伝ってやって貰えませんか?」 海王が「僕達は妖怪祓い出来る様な力はないよ?」と不安げに訴えた 「妖怪の調伏は蘆谷君と安倍君の仕事だから大丈夫だよ 君達には依頼の管理の仕事を頼みたいんだ 霊障で困っている人から依頼を受けて訪問して除霊か調伏かを調べて決行するまでを管理して下さいとの事です 人間界で悪さする妖怪を里に送り、管理するのが古来より安倍晴明の役目だった 今世は蘆谷君の力も借りられると謂うし、最強のタッグだよね」 悠太はさらっと言ったが、結構大変な事を言っていた 流石飛鳥井康太の弟だと、こんな時に思い知らされるのだった 「妖怪って言ったらさ、康兄が前に見てたアニメで『隠世の扉をお願い申す』なんてのがあったんだけど、やっぱ隠世の扉なんて出したりするの?」 悠太は能天気に言う 海王と陸王は爆笑した 貴章と晴葵はそのアニメを知らず……何と答えて良いか困った 海王は「康太さん見てたんだ」と楽しそうに言った 陸王は「そう言えばキーホルダーにもじゃが着いていたから好きなんだと想っていた」と腹を抱えてそう言った 晴葵は「その……隠世の扉……は解りませんが……康太さんが所望するなら作っても良いです」と言う始末だった 悠太はバツの悪い顔をして葛西を見た 葛西は悠太の頭をポコンッと叩いて 「こいつの言う突拍子もない事は聞かなくて良いから! こいつの兄貴バカは有名な桜林の事実なんで、覚えておくといい」 と取り成した 悠太は拗ねてチェッと唇を尖らせた 「悠太、時間が惜しい 生徒会じゃなくこの教室で草稿を書くぞ!」と言うと悠太を適当な席に座らせた 足の悪い悠太を走らせる事は極力避ける葛西だった 悠太は今も足を引き摺っている もう走る事は出来ないと聞いた日、葛西は自分の事の様に泣いた 自分の耳が聞こえなくなる事より…… 悠太が何かを無くす事の方が耐えられなかった その学園生活も何時まで続けられるか解らないと聞いた時、葛西は一分一秒でも長く悠太と共に過ごす事を誓った 海王と陸王は「ではお仕事手伝いをする以上は親交を深める為に共にする時間を増やしませんか?」と提案した それに依存はなく貴章と晴葵は海王と陸王とファミレスに行く約束を着けた 人は繋がり先へと逝くもんだ 康太の言葉が脳裏に甦る 貴章は「僕……転校したら……一学年下になってました…… 君達よりも年上ですけど仲良くして貰えますか?」と嘘や偽りのない関係を築く為に歩み寄った 陸王は「ひょっとして……転校するまで一学年になるの知らなかった……って事?」と信じられないと口にした 「そうなんです 桜林に転校しろと謂われたので来たら……一学年下だったんで……僕もどんなリアクションしていいか……解らなかった所です」 貴章が言うと晴葵も 「そうだよね貴章君は僕よりも一つ上だったよね? なのに同じクラスに来るから……声かけて良いのか……躊躇しちゃったんだ? 最初、どんな手違いで2年になっちゃったんだろ?と想って………そうか康太さんなんだね」と再確認する為に言葉に出して問い掛けた 「………学校に連れて来てくれたのは慎一さんでした 総ての手続きを終えたと朝、一緒に行ってくださったのですが……一学年下になっていたので……僕もどんなリアクションを取って良いものか……困りました」 海王は「まぁ高々一つの誤差は気にするな! 今日から卒業まで同じクラスで過ごす事になるんだから、改めて宜しく貴章君」と全く気にする事なく手を差し出した 貴章はその手を取って「宜しく」と言葉にした これから始まる桜林学園の高校生活が幕を切て落とされた どんな高校生活になるか それは自分達の足で進む道の先に答えはあるのだと想った 貴章は笑っていた 晴葵も笑っていた 海王も陸王も笑っていた 悠太と葛西も笑っていた これは飛鳥井康太が用意した明日へと続く出逢いだった

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