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第58話 本当に怖いのは‥‥

飛鳥井康太はホラーは嫌いだった だが夏と言う事で、TSUTAYAでホラー映画をレンタルして来る 榊原や聡一郎、隼人、時々悠太や葛西を招いてDVDを観る 康太は怖いシーンでも平気だが‥‥関係ない所で眉を顰めていた 葛西は「……怖くないんですか?」と一度訪ねた事がある 返ってきた言葉に……葛西は二度と康太とDVDを観る事は止めよう……と心に誓った程だった 「オレはホラー映画の中に映り込む‥‥本物の方が見たくない程に嫌だ‥」 なら何で借りて来てるんですか? 借りて来なくても良いじゃないですか!と言いたい 言いたいけど……言えない…… 「時々タチの悪いのが映像の中に映り込んでやがる‥‥ ほら良く視てみろよココ!」 リモコンを握る康太はストップボタンを押した うっ!………まぢですか…… 葛西は……油が切れたロボット宜しく…… ギギギーッと音を立てる様に画面から顔を反らした 壁が透けてる…… これは……本物? ……いや……待て待て繁樹……この世に霊などいてたまるものか…… 葛西は平静を装い……内心バクバクでテレビ画面を見続けた ストップボタンを解除して映像は流れる 葛西は祈った これ以上……出て来るんじゃないぞ……と。 「お……この霊はかなり危険な感じがするな 憑かれたら……命……んっ…モガッ…!!」 榊原は康太の口を押さえた このままじゃ葛西が失神する 榊原は康太の耳元で 「葛西君を怖がらせてはダメですよ 君も怖がりなんですから解るでしょ?」 と、めっ!と怒った 「伊織……ごめん……」 「僕と二人きりの時なら、どれだけ言っても平気です…… 怖いと言って僕に抱き着いても何しても大丈夫ですからね」 「なぁ伊織、このDVD古いのか?」 「いいえ。新作だから半年位前のだと想いますよ?」 「この女優……危ねぇぜ? 早く手を打たねぇと手遅れかもな」 榊原は立ち上がると聡一郎に 「この女優さんの所属事務所を検索お願いします!」と頼んだ 聡一郎は映画をネットで検索して出演者の名をチェックした後に女優の詳しい検索をした 「相賀和成さんの事務所です」 「なら伊織、相賀に連絡取って……然り気無くこの女優どうしてるか聞いてくれねぇか?」 康太が言うと榊原はめちゃくそ嫌な顔をした 「………体調悪くて寝てるなんて謂われたら……どう言えば良いんですか?」 榊原はプルプル震えてそう言った 「その時は相賀にその女優を連れて飛鳥井に来いよ……とでも言っとけよ」 「良いです!言いますとも! その代わり……今夜覚えておきなさい!」 「………覚えてたら……」 「大丈夫です!取り立ては絶対に、ですから!」 「……オレは伊織、おめぇの方が怖い……」 榊原は相賀に連絡を入れた 連絡を入れると直ぐに女優を連れて飛鳥井の家に向かうと約束してくれた 「では相賀が来るまでにDVD見ちゃいましょうね!」 何もなかった様にDVDは流れて…… 女優はラストに向かうにしたがって顔色も悪くなって行っていた メイクだよな? 葛西は想った メイクじゃないなら…… 寮に早く帰ろうかな…… でも寮に還っても一人だし……風呂とかやたらと広いし……出ないよな? 葛西は段々顔色が悪くなって行った 悠太は葛西を心配した 「……葛西……顔色悪いよ……」 「……何か寮に(霊が)いないよな?って考えていたんだ」 葛西が言うと康太が何かを言い掛け 「寮か?寮には……んぐっ……」とくぐもった声になった 榊原に口を押さえられていたのだ 「僕は高等部は二年半、桜林の寮で過ごしました! 大丈夫!何もないですから!」 引き攣った顔をして榊原は笑った 葛西は絶対に嘘だ!と想った 康太は笑って榊原の膝に乗り上げ抱き着いた 「龍騎、相賀がちゃんと来られる様に送ってくれ」 榊原の胸に顔を埋めたまま康太はそう呟いた 『承知した』 紫雲龍騎の声が響き、葛西はビクッとなった 本当に止めて‥‥‥ 『その者には我の呪術を施した御守りを持たせてやろう』 ビクビク怯える気配を察知して紫雲はそう告げた 「それは良い!頼むな龍騎」 一陣の風が康太の回りに包み込む様に吹き抜け‥‥気配はなくなった 暫くして相賀が女優と共にやって来た 憔悴しきって窶れて別人になった女優を支えて相賀はやって来たのだった 「康太‥‥連れて来ました‥‥」 「‥‥‥ひでぇな‥‥あと少し遅ければ連れて逝かれていたな‥‥」 康太が呟くと相賀は「え?」と謂う顔をした 相賀と女優を応接間に招き入れると、康太は見ていたDVDを相賀に渡した 「このDVD視ててな‥‥その女優に憑いているのが解ったんだよ 何処の事務所の女優か探していたら、相賀、おめぇんちの女優だと解った」 「‥‥このDVD‥‥出演してから体調を崩したのです‥‥今じゃ廃人一歩手前の状態になり‥‥手は尽くしたのですが‥‥」 相賀は悔しそうに言葉にした 康太はDVDをセットすると再び映像を流した そして問題のシーンまで早送りすると憑かれた瞬間でストップした 「弥勒、今憑いてるのって、この霊か?」 呼ばれて弥勒が姿を現した 「だな!この現場は何処なんだ? ちゃんとしたお祓いもせずに撮影したとしか謂えないズサンさが伺えるな」 弥勒はプンプン怒っていた 弥勒は珍しく真っ白な着物を来て登場していた 「龍騎、呪縛したら出て来い!」 そう言い呪文を唱えると女優の足元に魔法陣を出した すると漆黒の着物に身を包んだ紫雲が姿を現した 紫雲は女優を視て 「良くない霊に肉体を乗っ取られる所でした ほぼ‥‥精神は乗っ取られているかも知れないので‥‥完璧に戻せるかは解りませんが‥‥ 康太の頼みであれば捨て置けぬ! 精一杯の事はやらせて貰う‥‥」 葛西はもう寮に還りたかった もう止めて‥‥ 限界をとっくにオーバーして‥‥ 出来たら気絶したかった 応接間にいる犬達はウーと唸り声をあげて威嚇し続け‥‥ 凡人の葛西にだって‥‥ただ事ではないと想えた 悪魔祓い宜しく‥‥浄霊が始まり‥‥ 隼人は卒倒しそうな葛西を抱き締めてやった 「葛西、怖かったらオレ様の胸に顔を埋めていたら良いのだ」 「‥‥隼人さん‥‥」 「オレ様は慣れている だがお前は‥‥私生活に影響が出ないか‥‥オレ様は心配なのだ」 「‥‥気絶できるのなら‥‥気絶したいです‥」 「ならそのまま倒れているのだ」 そう言い隼人は鳩尾に拳を入れた 葛西は‥‥視界が暗くなり‥‥フェードアウトして行った 「康太、葛西は真人間なのだ 怖がらせるのは良くないのだ」 隼人に怒られ康太はバツの悪い顔をして、葛西を連れてきた悠太に「すまん」と謝った 悠太は笑って 「葛西は気にしたりしないから大丈夫です」と答えた 浄霊はかなり手子摺る渋とさで女優に取り憑き 弥勒と紫雲を手こずらせた 康太は立ち上がると雷帝の剣を手に出した 「雷で消し去ってやんよ!」 榊原は消し去ろうとする康太を止めて、正義の槍を握らせた 榊原は槍ごと康太の手を握り締めた そして槍に語り掛ける様に唱えた 「罪には相応の贖罪を! 人の行いは死後の背負う重りなり 裁かれし魂は等価の代償を! 糺して与えん‥‥真実なり!」 そう言い女優に取り憑いた影を斬った 物凄い悲鳴が鼓膜をつんざいた うぉぉぉうぁぁぁぁ! 足掻き苦しむ呻きが応接間に響き渡った 相賀は何がおこったのか‥‥解らず腰を抜かさんばかりに驚いていた 女優はガクッと倒れると‥‥影は姿を消していた 「どうよ?弥勒‥‥まだ残ってる?」 康太は長引かせると女優の精神がダメージを食らうと想い強引な浄霊をしたのだった 「影は消えたが‥‥目を醒まさないと‥‥どうにも解らんな」 精神まで喰われていたら‥‥廃人は免れない 消耗も激しく榊原は久遠に電話を入れた 「久遠先生、飛鳥井の家に‥‥意識不明の女性がいるのですが、診て貰えませんか?」 『身内の奴か?』 「いえ、飛鳥井の関係ではないです」 『でもぶっ倒れている状況は話してくれるんだろうな?』 「無論!でも信じられるか‥‥解りません」 『お前達に何年付き合っていると想うよ? 大概の事なら平気になった 連れて来れそうなら病院にいるが、どうするよ?』 「今からお連れします」 榊原はそう言い電話を切った 「相賀さん、彼女を車までお願いします」 榊原が言うと相賀は女優を抱き上げて駐車場へと向かった 弥勒と紫雲は姿を消していた 康太は「ありがとうな、弥勒、龍騎」と礼を述べた 弥勒は『構わぬ!上手いのを期待しておるからな』と笑って答えた 「解ってる!今度何処かへ連れて行く」 紫雲も『遊びに来てくれるなら‥』と要求した 「近いうちに山に上がるわ」 紫雲と弥勒は『『待っておるぞ!』』と言い気配を消した 病院の駐車場に車を停めると、ストレッチャーを引っ張って久遠が姿を現した 相賀は女優を抱き上げてストレッチャーの上に寝かせた 処置の為に久遠は走って病院の中へと入って行った 康太と榊原は相賀と共に病院の中へと入って行った その後を隼人と聡一郎が付いて走った 康太は「映画でも観に逝ってたら、もっと早く解ったんだけどな」と口にした ホラー嫌いの康太が映画館に行ってわざわざホラー映画を観る機会は滅多とない 時々、夏限定で観るだけだった 相賀は憔悴しきって 「事務所から初めて出す仕事だったんです」と口にした 「多分ロケ地が曰く付きなんて場所だったんだろうな‥‥ しかも撮影の前も後もお祓いすらしてないって言うからな‥‥ 異変が起きているのは‥‥あの人だけじゃないかもな」 「‥‥え?‥‥」 「視える奴なら作りもんの方より怖い映像が見ている筈だ 無傷な訳がないと‥想うけどな」 「事務所のスタッフに連絡を入れて調べさせます」 相賀は携帯を取り出すと、事務所に電話してあのホラー映画のスタッフの現在の状況を調べる様に言った 康太は相賀に「何か書ける紙はねぇか?」と問い掛けた 相賀はナースステーションから紙とペンを借りて来て康太に渡した 「もしスタッフに異常があったら、退魔師 鷹司 清水に連絡を入れろ!」 康太が言うと榊原が 「鷹司? 緑翠さんに関係ある方ですか?」 と聞き覚えのある苗字を耳にして問い掛けた 「鷹司 清水は緑翠の兄だ 鷹司の家は退魔師を生業としている家だ 緑翠も経済塾をやっているが本業は退魔師だ 清水は家長だからな、アイツに頼むが筋だと謂うだけだ」 「‥‥退魔師?祓い魔の神楽と違うのですか?」 「たいした違いはねぇけど、読んで字の如し 祓い魔は魔を祓う為にいる 霊媒師の様な仕事も兼ねているのが祓い屋だ 退魔師は魔獣、魔物、化け物、全般を祓い退ける仕事を生業にしている 霊でも悪霊とかになると魔物とたいして変わらねぇ力を持つからな退魔師の鷹司の方が向いてると想ったんだよ」 「そうなんですか‥‥本当に君は顔が広いですね」 「半分はじぃちゃんの知り合いだ 後の半分は‥‥魔界の繋がりだ 見てれば解るだろ?」 「解りますけど、妬けるのです 愛ゆえですので許しなさい」 「許すに決まってやん!」 イチャイチャと仲よろしく待っていると、処置を終えて久遠がやって来た 「康太、良くアレで生きてるなと俺は言いたいぜ!」とぶつくさ文句を言いながら康太の横に座った 「説明しろ!」 疲れ果てた久遠が文句を言いつつも説明を聞こうとしていた 「久遠はさ、黒い呪いの家って映画、知ってる?」 「撮影中に事故があってスタッフが数名、搬送されて来たから知ってるぜ?」 久遠の言葉に康太は榊原を見た 榊原は「‥‥霊障はそこから始まっていたのですかね?」と呟いた 榊原が康太がDVDを見てたら取り憑かれた女優を見つけ、どうなってるか?と言ったのが事の発端だと説明した 取り憑いていた霊は康太と榊原が祓ったが、生業にしている訳ではないから‥‥ 精神まで喰われずに祓えなかったんじゃないか? と色々久遠に話した 久遠は顔色一つ変えず 「年に数人、あの件の撮影現場になった家に肝試しに行き運び込まれる患者がいるんだよ 治療の最中に発狂して意識が戻らなくなった奴もいたな」 さらっと言ってのけた それを聞き康太は 「家に棲み着く霊は中々祓えねぇからな‥‥ ましてや、その家は幾度も祓う人間が入って命を落とし、その妖力を吸って力を増しているからな‥‥」と思案していた 久遠は「んな危険な場所で撮影とかした時点で自己責任の度を超してやがるな、まぁ自業自得って奴だわな」と気楽な気持ちで撮影をした者達を垣間見て言葉にした 「体躯は治療すれば治る 俺の仕事は体躯を治す事だ そこまではキッチリ治してやる 心とかは俺の範疇外だ! 良い医者を紹介してやるから逝くしかねぇわな」 「まぁその判断は相賀が決める事だ 相談に来たら乗ってやってくれ!」 相賀は久遠に深々と頭を下げた 「解った‥‥まぁ内臓全部なかったサバトか黒魔術の生贄の患者よりはましだったけどな‥‥本当に最近変な患者が多くて困るな」 「‥‥久遠‥‥何でサバトか黒魔術だと解るんだよ?」 「黒い祭壇の前の、逆五芒星の上に寝させられていたらしくてな 捜査に当たった刑事が調べたらどうやらサバトか黒魔術でもやってたらしい‥‥と判断されたらしい」 「‥‥それって何時の話よ?」 「先週の話だぜ?」 久遠がそう言うと康太は考え込んで 「黒魔術‥‥サバト‥‥黒い祭壇に人間の贄‥‥内臓が取られていた‥‥ 唐沢で資料集められるかな?」 そう呟いた 榊原は携帯を取り出すと唐沢に電話を入れた 「榊原伊織です 唐沢さんですか?」 榊原が問い掛けると気さくな声が響き渡った 『伴侶殿、どうされましたか?』 「先週、サバトだか黒魔術だかの儀式があったらしくて内臓が取り除かれた被害者が病院に運ばれた事件があったそうですが、唐沢さんその事件の捜査内容取り寄せられませんか?」 『‥‥‥その話‥‥何処から出たのですか? ニュースにすらしておりません事件を‥‥何処で知られたのですか?』 「飛鳥井記念病院、久遠医師が診察に当たられたのでお聞き致しました」 『‥‥成る程‥‥そちらは箝口令は引いておりませんでした‥‥ 解りました、30分時間をください そしたらお持ちいたします』 唐沢はそう言い電話を切った 榊原は康太を見て「‥‥電話すべきではなかったのですか?」と問い質した 「遅かれ早かれオレの所へ来る事件なんだろ? 構わねぇだろ?」 「なら良いです 僕は君さえいれば生きて逝けるのですから‥‥」 ラブラブな二人は常にイチャイチャ仲が良い 相賀や聡一郎、隼人はそんな二人を安心した瞳で見ていた 久遠は顔色の良い康太を見て検査の必要性はないな‥‥と様子を見ていた 暫くすると唐沢が飛鳥井記念病院に到着したと、榊原の電話に連絡が入った 榊原は病院関係者に唐沢を院長室に連れてきて下さい!と頼み院長室で待っていた 唐沢は病院関係者に連れられて院長室にやって来ると、院長室には相賀や聡一郎、隼人がいて人数の多さに驚いていた 悠太と葛西は飛鳥井の家に置いて来たが、聡一郎と隼人は病院に相賀と共に来ていた 唐沢は相賀や聡一郎、隼人とは初対面だったが、気にする事なく康太の側へと向かった そして「真贋、調査報告書です」と言い調書を康太に渡した 「唐沢、おめぇこの件、オレに知らせる気はなかったのか?」 康太は調書に目を通して、唐沢に問い掛けた 「必要性がありましたらお知らせしますよ ですが、箝口令を引いた変死は俺の部署に回されますが、そんなに早くは回っては来ないのですよ 俺の部署に回ってくるまでは、色々な部署をたらい回しにされ、上の判断で回ってくる 多分、近いうちに回って来るでしょうが、今現在は俺の管轄にはないのは確かです」 「そうか、オレは知りたかっただけだ 原因を究明しようとか想っている訳じゃねぇ 資料さえ目を通せれば‥‥現場の残像からオレは視れるしな 誰が関わって起こした事件なのかだけ知れればそれで良いんだよ」 唐沢は「え?‥‥出られる気はないのですか?」と問い掛けた 事件に興味を持ったから資料が必要だったのではないのか? 「出る気はねぇよ だが‥‥この先も続くならこの街を血で汚した責任は取らせてやるけどな」 康太が謂うと榊原は 「出ねばならない時が来たら‥‥と言う事ですね」と呟いた 「だな‥しかし‥‥ホラーDVDを発端に話が段々広がって逝くやんか」 「そうですね‥サバトまで出て来た時点でお手上げです 僕としては関わりたくないのですが?」 「オレだって関わりたくねぇさ‥‥」 康太が謂うと唐沢も「俺も出来れば奇々怪々な事件は避けて通りたいですよ‥‥ステーキが食べれない事件は避けて通りたいです」と辟易した声をあげた 康太は爆笑した 榊原も、成る程‥‥と苦笑した 唐沢は「真贋は何故病院に?何処か悪いのですか?」と尋ねた 「ホラーDVD見ててな、作品の中の女優に霊が取り憑いているのが視えたんだよ で、その女優が何処の事務所の奴か調べたら相賀んちの女優だったから連れて来させたんだよ で、取り憑いていたのを断ち切って病院に入院させたんだよ で、此方が芸能事務所をやってる相賀和成だ 聡一郎と隼人はお前も知ってるでだろ?」 「存じ上げております」 「だろうな警護対象の顔は忘れねぇもんな」 「そう言う事です 真贋、この件は貴方が危惧していた件と繋がりはあるから声が掛かったのかと想いました」 「‥‥住良木や蘆谷を反魂で甦らせた‥‥ あの事件と繋がっていると、お前は想っているんだろ?」 「この世に産み出そうとする為に贄を必要とする‥‥遡れば戸浪万里、彼も贄にされてましたよね?」 「だな‥‥掘り下げていけば何処かで繋がってやがるのかもな‥‥」 「ヴァンパイアや闇に棲む者達を狩ってバランスを崩し‥‥闇を増幅させ‥‥下拵えなら何処にでも繋がりそうですけどね」 「‥‥唐沢‥‥それ謂うのか?」 「言いたくなんかありませんけどね、布石は打たれている気がしてならないのですよ」 「お前、やっぱし有能や奴だな オレの仕事を増やしてくれる」 「貴方が動いた‥‥それはもう始まっているんですよ 否応なしに関わって来る明日だと謂う事です」 「なら正式関わったなら動くと約束しよう でも今は‥‥時期尚早、時が来るのを待つとしよう」 「では俺は時が来たら貴方にお知らせします」 康太は頷いて相賀に向き直った 「相賀、わざわざ来た唐沢をもてなしてやってくれねぇか?」 「解りました、何をご所望ですか?」 「唐沢、今何食べたい?」 康太は笑って唐沢に声をかけた 唐沢は「食えれば何でも‥‥そう言えばここ一週間コンビニのお握り以外食べてないな‥」と思い出したら空腹を感じていた 相賀は唐沢が可哀想になり早く何か食べさせてやりたくなった 「康太、料亭にお連れしよう! 胃に優しいのにした方が良さそうですしな」 一気に食べたら胃が驚くだろうから、胃に優しいのを女将に用意させようと想った しかも料亭なら久遠にも差し入れ可能だったからだ 「久遠先生にも後で何か差し入れさせて戴きます」 「差し入れよりも一緒に逝こうぜ! ここ最近オーバーワーク気味だろ? オレの事言ってられなくなるぜ?」 康太に言われて久遠は観念した 「お邪魔でないのなら‥」 久遠がそう言うと相賀は瞳を輝かせ 「久遠先生!迷惑などとんでもない! 是非ご一緒に!!」 相賀は嬉しそうにそう言うと料亭に席を予約した 珍しい組み合わせで料亭へと出向く事となった 肩書きを忘れて酒を交わす 久遠は楽しそうに酒を飲んでいた 唐沢も楽しそうに酒を飲んでいた 相賀は息子位の年の久遠と唐沢と飲めるのが楽しくて仕方がない風だった 相賀には子供はいなかった だから我が子と変わらぬ年の青年と飲むのは楽しみで仕方がなかった あの子も‥‥ そんな視線を送っていると康太と目が合った 康太は優しい瞳で相賀を見ていた 「相賀、唐沢は国を背負う仕事をしているんだよ だから名刺は渡せなかった‥‥借りの名刺はあるけど、そんな偽った名刺は渡したくなかったんだろうな」 「お聞き致しませんよ 私は肩書きで付き合う訳ではありませんから‥」 「ならさ、たまには上手い飯を奢ってやってくれねぇか? 唐沢はさ、仕事柄‥‥詮索を避ける為寂しい生活してるからさ‥‥」 「詮索などしません! 一緒にいるのに肩書きなど不要ですから!」 「良かったな唐沢! それと久遠もたまには外に誘ってやってくれねぇか‥人の命を救って自分の命を削ってやがるからな‥‥」 「願ってもない! 久遠先生、たまには老人とお付き合い下さい」 相賀に謂われ久遠は困った顔をして 「‥‥俺は面白味もない人間だ‥‥それでよければ‥‥」と答えた 相賀は爆笑した 「久遠先生、私は静かに飲みたいので貴方の様な方はうってつけなのです それに十分貴方は魅力的な方ですよ」 相賀は優しい瞳で久遠を見ていた 康太は相賀に「こいつは義恭の倅だ」と教えた 「‥‥‥それは知りませんでした 彼とは飲み友達ですが、子供の話はしませんでしたから彼も子がいないのかと想いました」 「義恭には悟と言う子もいるぜ この前、お前と食事に行った日‥‥血だらけになった奴を病院に運んだやん‥‥ あれが義恭の‥‥子だ」 相賀は息を飲んだ 「‥‥彼は‥‥」 「死んでねぇよ‥」 康太が言うと久遠は康太を睨み付けていた 「‥それ何時の話だ? 切ったなら何故俺の所へ連れて来ない?」 久遠は負い目を常に感じていた それが解っているから‥‥悟を別の病院に運ばせたのだ 「‥‥お前と義恭にはには黙ってろと‥‥謂われた だから知らんぷり頼むな!」 「‥‥俺は医者だ! アイツを救ってやると約束したんだ!‥‥」 久遠は叫んだ 唐沢はそんな久遠の肩を抱いた 「お前、何でそんなに背負おうとするんだ? 肩の力を抜けよ 救ってやる‥‥そう言ってお前は総てを背負うのか? そりゃ‥‥お前には知らせたくなくなるだろう‥‥ 俺は親を知らない‥‥物心着いた頃には施設にいたから産みの親の顔さえ知らない そんな俺が余計な事は言えないのは‥‥解っている だがお前は何でもかんでも背負おうとし過ぎだ 人を救うには、救われたいと願う気持ちが要るんだよ 相手が手を差し伸べてないのに手を掴むのは至難の業だ 康太が謂わない事は気にしなくても良いって事なんだよ」 「‥‥唐沢‥‥」 「親がいるだけ儲けものだ 親がいなきゃ親孝行は出来ないからな 親は大切にしてやれ‥‥親を知らない俺が謂えるのはそんな所だ」 「‥‥大切にしたいと何時も想っていても‥‥何時だって俺は茅の外だ‥‥」 「それは違う! お前が茅の外にしてるから、お前も茅の外にされるんだよ 回りを変えたいなら、まずはお前が変わらないとな」 耳が痛い一言だった 容赦のない一言だった 正論なだけに久遠はぐうの音も出なかった 唐沢は久遠の肩をポンッと叩き 「今は飲む! 飲む時になにも考えるな! 酒がまずくなるからな! そして康太にだけは奢るな! アイツはザルだからな!」 唐沢は陽気に叫んでいた 康太は「うるさい!唐沢!」と脛を蹴飛ばした 「痛いっ!!」 と唐沢は涙目になって脛を撫でた 久遠は笑っていた 相賀も笑っていた 優しい時間が流れて夜は更けて逝った 料亭で飲み始め、泥酔一歩手前で仕方なく飛鳥井の家に連れて帰って来た タクシーの中で榊原は悠太に電話を入れて、客間にお布団を敷いておく様に頼んでおいた 飛鳥井の家に帰り、酔っぱらいを手分けして客間に連れて逝く 聡一郎は唐沢を、榊原は久遠を、隼人は相賀を連れて客間へと向かった 着替えさせて布団に寝かせる頃には‥‥聡一郎も隼人も榊原も疲れ果てていた 布団に寝転がり唐沢は「楽しかったな」と呟いた 相賀は「また一緒に飲みましょう」次の約束をしようとした 唐沢は嬉しそうな顔をして「是非!」と言った 案外気の合う三人はたわいもない話をして‥‥何時しか眠りについた 翌朝、キッチンに下りて行き、葛西の姿を見て 「葛西、泊まったのか?」と康太は尋ねた 葛西は「寮に‥‥帰っても一人なので‥‥」と泣きそうな顔をした 康太は紫雲龍騎に渡された御守りを葛西に渡した 受け取り葛西は「これは?」と尋ねた 「飛鳥井の菩提寺の最高僧がお前の為だけに祈りを捧げて作らせた御守りだ! これを持っていれば、霊だって事故だって弾き飛ばしてくれる筈だ! お前を守り抜いてくれる御守りだ!持っていろ」 「‥‥康太さん‥‥」 「お前を傷付ける奴はオレが許さねぇかんな! お前は何も心配しなくていい! うしうし!霊が怖いなんて本当におめぇは可愛いな」 康太は葛西の頭をグリグリ撫でた 悠太は「‥‥もとはと謂えば康兄‥‥貴方が葛西を脅かしたんですけど?」と少しだけ恨み言を言った 康太は悠太の唇を摘まむと 「悠太、兄ちゃんは好きか?」と尋ねた 悠太はコクッと頷いた 「うしうし!おめぇも可愛いって! だから拗ねなくて大丈夫だぜ!」 康太はガハハハッと笑った 当分葛西はビクビクするだろう‥‥ もう一生‥‥ホラーは見ない そう言った葛西の声が脳裏に響く 本当に怖いのは‥‥貴方ですよ康兄‥‥ 悠太は心の中で呟いた

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