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第60話 誄歌

誄歌(るいか) この章は小さき魂を忘れぬ為に 京香と玲香に置き換えて 遺しておこうと想い‥‥ 書く事に決めた章です このお話では(玲香)の立場が私でした 幼き魂を見送る祖母、それが私でした ずっと忘れないよ‥‥ そんな想いを込めて 遺しておこうと想ったのです この章は生まれ来ぬ 貴方へ贈る‥‥誄歌です 京香は4度目の出産を迎えようとしていた 出産を待つ母の胸に最初の出産が思い出されていた 初めての出産 初めて我が子を腕に抱いた感動 飛鳥井 琴音 飛鳥井家真贋、飛鳥井源右衛門が名付けた 出産に真贋は立ち会えぬからと出産の前に京香に渡した名前だった 源右衛門は名を京香に渡して、抱き締めて泣いていた 今想うと‥‥琴音は早くに他界する運命が見えていたのだろう‥‥ 琴音は飛鳥井家現真贋が『転生の儀』を行って 一条隼人の子の魂へと転生する様に送り出してくれた 命を削って‥‥飛鳥井康太は京香に還してくれたのだ 愛してやれなかった琴音 早くに逝かせてしまった我が娘 京香は悔やんでも悔やみきれずにいた 我が子を想わない母はいない 我が子なれば命を擲ってでも助けねばならない そう思っていたのに‥‥逝かせてしまった そんな後悔も絶望も康太が総て背負ってくれ転生させてくれた そして京香を飛鳥井に還してくれた 愛する愛する康太 京香を絶望の縁から救ってくれるのは何時も‥‥ 康太なのだ 人形の様に父が用意した男に玩具にされ弄ばれて過ごした幼少時代 ネチネチと男に触られ嬲られるのが嫌で堪らなかった 心を殺して人形になる そんな真壁の三姉妹を救ってくれたのは康太だった 何時も傷だらけの優しい男の子 それが近所に住んでる飛鳥井康太だった 康太は真壁の三姉妹を救ってくれ解放してくれた そして生涯の伴侶となるべき存在を見付けてくれ‥‥忌み嫌った女ではなく、愛される女になれと送り出してくれた 女である自分を呪っていた そんな自分が我が子を身籠り‥‥この世に産み落とした瞬間の幸福 女に生まれてきて良かったと想えた それが母になれて感じた想いだった 琴音は他界して 翔は康太の子になり 瑛智は我が子として育ているが‥‥ やはり琴音を亡くした悔いは消えない 母とは名乗れぬが‥‥やはり我が子も愛しい そんな心に封をしてどの子も変わりなく愛そうと誓った 琴音と翔の分も愛そうと心に決めた 京香の子供は瑛智で終わる筈だった だが子を成して産んでも良いと謂われて、京香は瑛智に弟か妹を与えられて良かったと心から出産を望んだ そして迎える出産だった 出産の日、瑛太は会社を休んで京香に付き添ってくれた 玲香も京香に付き添い病院にやって来ていた 玲香は「康太に頼まれたからな」と口にした 瑛太は「‥‥康太は真贋ですから人の生き死にには関われませんからね‥‥」と呟いた 京香は女の子を出産した 650グラムの超未熟児として生まれた女の子だった 「女のお子さんが生まれました」 看護婦が控え室で待つ瑛太と玲香に告げたのは、京香が分娩室に入って一時間後の事だった 瑛太はウロウロと歩き回っていたが、その言葉を聞き飛び上がらんばかりに喜んだ 玲香は男の子が続いた家に女の子が産まれて、華やいだ存在になれ!と誕生を喜んだ が、次の瞬間、看護婦から告げられた言葉に 瑛太は天を見上げ 玲香は顔を覆った 京香の子供は生まれつき、先天性心疾患と判断された 心疾患ばかりではなく新生児肺水腫も合併していた 新生児の肺水腫は珍しい病気ではない だが重特化すれば呼吸困難になり命すら脅かしかねない危険さを孕んでいた 京香の子は生れた瞬間から‥‥命のカウトダウンをされ‥‥ 日々を生きて逝かねばならない病を持って生まれた 京香は我が子の誕生を喜んだ 喜んだが、次の瞬間‥‥信じられない想いで一杯たった 生まれた我が子は母に抱かれる事なく NICU(新生児集中治療室)のある病院へと転院すると告げられた 我が子を腕に抱けると想っていたのに‥‥ 京香は泣いた 病室に戻って来た京香を瑛太と玲香は優しく迎えて‥‥ 抱き締めて泣いた 玲香は瑛太と京香だけを病室に残し電話を掛けに逝った 「京香の子、生まれたわ」 『‥‥そうか‥‥』 康太は口数少なくそう言った 「お主は知っておったのか?』 暫しの沈黙 そして‥‥ 「‥‥産むなと謂えば良かったのか?』 と言葉を吐き出した 玲香は息をのみ 「‥‥っ‥‥そうは言ってはおらぬ‥‥」 と言葉して‥‥口を押さえて‥‥嗚咽を漏らした 『母ちゃん‥‥京香を支えてやってくれ‥‥ オレは関われねぇ‥‥関われば‥‥オレは歪みを正してしまうからな‥‥』 「‥‥‥康太‥‥京香は何一つ悪い事はしてはおらぬのにな‥‥人生はなんとも残酷な事よの‥‥」 『‥‥‥母ちゃん‥‥すまねぇ‥‥』 「お主が悪い訳ではない‥‥」 『嫌、オレの所為でもあるんだよ母ちゃん 飛鳥井は外の血を取り入れた 外の血が飛鳥井の血を弾き出した‥‥血とはそう言う役割を持つ力があるかんな‥‥』 「‥‥明日の飛鳥井を護るのが我等の務め! 我は飛鳥井の女である 京香も飛鳥井の女じゃ‥‥きっと乗り越えるであろう‥‥」 玲香はそう言い電話を切った 窓の外を眺めて‥‥玲香も亡くした我が子を想った 育ち盛りの我が子を病で亡くした 生きていれば瑛太よりも上になる 亡くした子の哀しみを乗り越えて蒼太を生んで‥‥やはり悲しみに囚われまいと我武者羅に働いた そんな時に子を身籠った 清隆は何かあったら大変だから、車に乗るのを止める様に言っていた‥‥ だが玲香は大きなお腹を抱えて電車での移動の方が大変だと、車に乗っていて事故に巻き込まれた‥‥ 大破した車の運転席と座席に挟まれ、(子は)死産した 子が玲香を守ったのか‥‥子が衝撃を緩和して玲香の命を救うカタチになった 絶望が玲香を襲った 我が子を亡くした哀しみ‥‥ あの子の傍に‥‥想いはそればかりだった それを救ったのはやはり家族の支えだった 数年前には妊娠と同時に子宮癌が発覚して、生む訳にはいかなくて、子を諦めた 何度も何度も我が子を亡くし‥‥絶望の縁に追いやられた‥‥ 我が子を亡くすと謂うのは我が身を切り裂かれる程に辛い 亡くした我が子の年を数える 生きていれば‥‥と同じ年くらいの子を目で追う 忘れる日など来ない 生まれ来ぬ子の誕生日に花を添えて手向ける 玲香は空を見上げ‥‥ 京香も同じ想いをするのかと‥‥やるせなくなった 琴音を亡くし、翔は我が子として名乗れず‥‥ 瑛智を腕に抱くたびに‥‥亡くした子を想うのだろう‥‥ 我の様に‥‥ 瑛太は玲香を探して廊下に出て来た 玲香を見付けると「母さん」と呼んだ 玲香は携帯をバックにしまうと、瑛太を見た 瑛太はそれに気付き 「康太に‥‥連絡したのですか?」と問い掛けた 「真贋に報告を入れるのは我の務めであるからな!」 「‥‥‥康太は視えてましたか‥‥」 「‥‥それが真贋で在る以上仕方あるまいて!」 「‥‥‥また京香から‥‥子を奪い取りますか?」 「‥‥‥そんな事を康太が望んでいると申すか?」 「想ってはいません 康太ではなく神は‥‥京香に試練を与えすぎだと想ってはいけませんか?」 「‥‥我も‥‥神を呪ろい‥‥恨んだぞ‥‥ 何故我から我が子を取り上げる‥‥と‥‥ 病で亡くし‥事故で亡くした 用心の為に車は止めておけと謂われたのに、止めずに乗って‥‥激突されて大破する事故に巻き込まれた 腹の子は‥‥死産だった‥‥ 何故‥‥我も連れて逝かなかった‥‥? 萎んでしまった腹を‥‥握り締めて我は泣いた 今も‥‥亡くした子の年を数え‥‥ 同じ年格好の子を目で追う でもな想像が出来ぬのじゃ‥‥ その子の成長はお主達とは違うかも知れぬからな‥‥想像が出来ぬのじゃ‥‥ 京香にそんな想い‥‥させたくはなかったのだけどな‥‥」 「‥‥母さん‥‥」 瑛太が母を抱き締めていると、榊原が姿を現した 瑛太は「伊織?」と名を呼んだ 榊原は深々と頭を下げ、顔を上げると一枚の紙を瑛太に渡した 瑛太は紙を受け取り広げた 半紙に墨で書かれたその文字は【未来】と希望に満ちた名を綴っていた 「飛鳥井家真贋が与える名前です 康太は傍には逝けませんので、僕が持って来ました」 瑛太は名を受け取り榊原を抱き締めた 「‥‥康太は‥‥泣いてませんでしたか?」 愛する愛する弟が平気でいられる筈などないのだ‥‥ 視えていたからと謂って未来は変えてはならぬのだから‥‥ 「康太は隼人が傍にいます そして赤ちゃんが運ばれる病院には聡一郎がおります 康太は行けません‥‥それを伝える為に僕は来ました」 「‥そうですか‥‥私は京香が動ける様になったら見に行きます‥‥」 瑛太は我が子に逢いに行くなれば妻と共に‥‥と決めていた 玲香は「なれば我が行こうぞ!」と榊原に告げた 「義母さん‥‥ご無理はなさらぬ様に‥‥」 「解っておる‥‥」 「では僕はこれで‥‥」 榊原は深々と頭を下げると、帰って行った 玲香は「我は病院に行くとしようぞ!」と言い病院を出て行った 瑛太は妻の病室へと向かった 病室に入ると京香は起きていた 瑛太は慌ててベッドに近寄った 「京香、起きてて大丈夫なのですか?」 そっと肩を抱くと京香は瑛太に詫びた 「‥‥すまぬ‥‥やはり我は‥‥ちゃんと子を成せぬ女なのかも知れぬ‥‥」 「京香‥‥何を?」 「別れてくれぬか?瑛太 そして我とは違う女と元気な子を‥‥」 「京香、本気で言ってますか? 私の結婚相手は飛鳥井家真贋が決めます 君が私の伴侶に相応しくないと決めるのは真贋だけです! 私は飛鳥井家の家に生まれた瞬間から、飛鳥井の家の為だけに生きて逝く駒に過ぎません! 飛鳥井の家の事は総て飛鳥井家真贋が決める 違いますか?京香」 申し訳なくて取り乱した京香は冷静になり瑛太を見上げた 「瑛太‥‥お主は後悔しておらぬか?」 「後悔?そんなのをする暇などありません! 私達には明日の飛鳥井を生きる瑛智がいます 年の割に態度も体躯もデカい我が子ですが、あの子が私の跡を継ぐべき子です そして康太の子が飛鳥井を導く礎になる 私達はまだその途中です」 「‥‥そうであったな‥‥すまぬ瑛太‥‥」 「飛鳥井玲香は子を三人亡くしています 私の上には兄がいました 兄は病でこの世を去り‥‥悲しみに暮れた玲香は我武者羅に働いた 蒼太を出産した後、直ぐに身籠ったが‥‥スリップした車に激突され‥‥車は大破した 玲香は運転席と座席との間に挟まれ‥‥子は‥‥生まれる前にこの世を去った そして数年前には子宮癌が発覚した その時、母は妊娠していた‥‥またしても玲香は我が子を諦めねばならぬ事になった 玲香は1日たりとも我が子を忘れた事はない‥‥と言った 私も‥‥1日たりとも琴音の事を忘れた事はない‥‥ 我が子と名乗れぬ翔の事を想わない日はない‥‥」 母とは我が子を想わぬ事はないと瑛太は口にした 京香は哀しみを振り払って 「‥‥あの子は‥‥大丈夫だろうか?」と我が子を案じた 「大丈夫です 君の欲しかった女の子です 康太があの子の名前を付けてくれました」 瑛太はそう言い榊原が持って来てくれた紙を京香に渡した 京香はその紙を見て「未来‥‥みく‥‥そうか‥‥みくか‥‥良い名だ‥」と呟いた 飛鳥井未来 瑛太と京香の間に生まれた女の子だった 京香の子はNICU(新生児集中治療室)を完備した病院に運ばれた 保育器の中で我が子は眠っていた 体躯に沢山の機械と管を付けられ‥‥眠っていた オギャーとこの世に生を成した我が子は‥‥ 父や母の温もりを知る事なく‥‥ 保育器の中へ入れられ 生命を維持する為に色んな機械に生かされ管を通されて‥‥ 命を繋げていた 京香と瑛太は我が子に逢う為に病院へと足を運んだ NICU(新生児集中治療室)に行く為に色んな工程を経てエプロンと手袋をはめる 保育器の小さな穴から手を入れ我が子に触れる それが親子の触れ合いだった 我が子の温もりに京香は堪えきれなくなりハンカチに顔を埋めた 瑛太は必死に生きている我が子に触れ‥‥ 「頑張れ!」と祈った 生きててくれれば良い‥‥ 生きててくれれば‥‥それで良い 頑張って生きる我が子の温もりに瑛太と京香は願った どんな時も瑛太は妻を連れて病院に向かった 我が子に逢いに毎日毎日 瑛太と京香は我が子に逢いに行った 玲香は化粧をして鏡の中で笑っていた 明るめの化粧をして、優しく微笑み 確認 悲しい顔は絶対に見せない そう決めていた 髪を結い服を着替える 玲香は見舞いに行く為に、毎日鏡に向かって笑顔の確認していた 未来が生まれた日から2ヶ月が経っていた 容態が悪くなり‥‥連絡が来るたび 玲香は病院へとタクシーを飛ばして駆け付けて行った 「未来は?」 「‥‥母さん‥‥まだ解りません‥‥」 瑛太が謂う 玲香は待合室の椅子に座って祈った どうか‥‥ どうか‥‥お願いします この命と交換出来るのならば‥‥変わってあげたい‥‥ 両手が感覚がなくなるまで握りしめていた 夜が明けるのを待った 朝が来るのを‥‥ひたすら待った 朝が来ないんじゃないか‥‥って錯覚する程に長い時間を祈る 夜が明けるたって何にも変わらないのは解っている 解っているけど‥‥希望を抱き‥‥ 朝を待つ 爪が手の甲に食い込み‥‥ 握り締めた手は感覚もなくなり‥‥硬直する 「母さん‥‥傷が‥‥」 瑛太が玲香の握り締めた手を取り‥‥傷を撫でた 傷なんかどうでも良い 助かるなら‥‥この心臓を取り出して差し出しても良い‥‥ 頼むから‥‥ 頼むから‥‥ 頼むから‥‥‥助けて下さい‥‥ 一進一退 今日 良くても 明日は‥‥危篤状態へと突入する そのたびに玲香は駆け付け祈った 顔を見せて ねぇ‥‥笑った顔を見せて‥‥ ガラス越しに笑う笑顔を思い出す ニコニコ、辛いだろうに笑顔を絶やさぬ愛しき子よ 玲香は孫を目にして微笑んだ 生まれて直ぐに母の温もりも知らずに‥‥ 全身機械を繋げられ‥‥ 命を繋げられ‥‥ 注射を射たれる オギャー!と痛みに泣く声を聞けば‥‥やるせない ‥‥赤ちゃんにしては痛すぎるであろう痛みに泣く声は掠れ‥‥ それでも生きようと頑張っている 頑張れ! 頑張れ! 頑張れ‥‥ 頑張れ‥‥と言う想いと‥‥ 解放してやりたい想いが鬩ぎ合う‥‥ 「痛いね‥‥痛いね‥‥」 痛い場所を撫でてやる事も出来ぬもどかしさ‥‥ この身を削り取られる様な痛みに‥‥耐える 京香の痛みはこんなものではない 母の痛みは‥‥こんなものではない‥‥ 京香を支えねば‥‥ 想いつつも‥‥京香に支えられる 「お母さん大丈夫ですか?」 疲れているだろうに‥‥ 京香は義母を労る 愛する夫の親なれば、我が親以上に尽くそうとしてくれる 玲香は気丈を装う 「我は殺しても死なぬ故に心配するでないぞ! それよりも京香、お主寝ておらぬのであろうて‥‥産後の肥立ちに悪いぞよ‥」 玲香の気遣いに京香は嬉しそうに笑って 「大丈夫です あの子が頑張っているのに‥‥ 休んでなんかいられません」 母なれば‥‥ 我が子を想わぬ日はない 玲香は「あの子の未来は途絶えたりなどしない‥‥大丈夫‥じゃ‥」と呟いた その言葉しか出て来なかった 気休めだと解っていても‥‥ その言葉しか出て来なかった 愛しき子は3ヶ月で‥‥ 天に召された 人の何倍も痛い想いをして耐えた 頑張り屋さんだった 夜があける前に‥‥未来はこの世を去った 全身機械と管が通された体躯から、丁寧に一つずつ器具が外され‥‥ 総て器具を取り外すと看護婦は未来を布にくるんで京香に渡した まだ暖かい‥‥ぬくもりがあった 夜中に容態が悪化して‥‥ 夜が明ける前に‥‥未来は息を引き取った 辛いばかりの日々が終わった 嬰児は生まれて初めて母の腕に抱かれた 玲香はやるせなくなり泣いていた 生まれて初めて母の腕に抱かれたのが‥‥息を引き取ってからだなんて‥‥ 残酷過ぎて‥‥泣いた 京香は我が子を想いっきり抱き締め‥‥ 温もりを確かめる様に頬を擦り寄せた 瑛太が京香と我が子を抱き締めた 京香は温もりがなくならないうちに‥‥と断ち切る様に顔をあげた そして玲香に「抱いてやって下さい‥‥」と艶やかに微笑んだ 母の顔だった 我が子を手にした母の顔だった 玲香は京香から未来を手渡して貰うと その手に抱いた 痛いばかりの日々に‥‥ 「もう痛いのはないんだよ‥‥」と言い抱き締めた 母の温もりも知らずに‥‥過ごした愛しき子よ‥‥ 痛いばかりの日々に泣き疲れて眠っていたね‥‥ 何でこんな目に‥‥ 大人は嘆いた 大人はひたすら嘆いて‥‥辛さを運命に責任転嫁しようとした 明日は‥‥ 明日は‥‥こそは‥‥ ひたすら明日を待った 明日になったら元気になってくれる‥‥ 望みと希望と願い 痛みに泣き出す声に胸を掻き毟らんばかりの痛みを感じ‥‥ 大人は泣くしかなかった‥‥ 無力な大人は哀しみを‥‥抱くしか出来なかった 玲香は未来の頭を撫でた 「いい子‥‥本当にお前はいい子じゃった‥」 その言葉を聞いて瑛太は嗚咽を漏らした 気丈に振る舞う不器用な男の‥‥慟哭だった 玲香は未来を京香に渡した 「今宵は‥‥親子水入らずで‥‥過ごすがよい」 最初で最期の‥‥親子の時間だった 瑛太は京香と我が子を飛鳥井の家に連れ還る事にした 多分‥‥康太は家にはいない‥‥ 瑛太は知っていたから我が子を家に連れ還った 飛鳥井家真贋は人の生き死にには関われはせぬ! 康太は全部視えていた筈だ‥‥ 瑛太は我が子を抱き上げると、京香を支える様に病院の外に出て車に乗り込んだ 我が子が‥‥冷たくなって逝くのを感じていた 我が子が‥‥固まって逝くのを感じていた 京香は耐え切れきれず我が子を抱き締めて泣いた 「‥‥‥この子は‥‥辛いばかりの日々だった‥‥」 頬を撫でて京香は呟いた 瑛太はそんな妻を見ているのが辛くて‥‥ 前を向いて運転していた 辛い‥‥ 我が子を亡くすのは辛い出来事だ‥‥ だが一番辛かったのは‥‥生まれた瞬間から生きる為と謂えど‥‥ 痛い事ばかりされた我が子だろう 瑛太は飛鳥井の家へと帰って行った 地下駐車場に車を停め、家の中へ入って逝くと‥‥ 家の中は静まり返って誰もいない風だった 瑛太と京香は我が子を部屋へと連れて行った 我が子の為に買っておいた産着に着替えさせてベッドに寝かせた まるで眠っている様な穏やかな顔だった 瑛太は「琴音の赤ちゃんの頃に似ているね」と顔を見つめながら呟いた 「翔にも似ておるな‥ どう謂う訳か瑛智には似ておらぬのだな‥‥」 瑛智は骨格からして違っていた 瑛太に似ていると謂うよりも源右衛門に似ていると謂った方が良い風貌だった 瑛太は未来を抱き上げると額に口吻けを落とし 「私の所に生まれて来てくれてありがとう」 と言葉にした ありがとう 生まれて来てくれて‥‥ありがとう 京香も「生まれて来てくれてありがとう」と言葉にした その夜は川の字で眠りについた 冷たい‥‥ 冷たい‥‥ 我が子を抱き締めて‥‥ 瑛太と京香は泣いていた 生きていてくれれば‥‥ 親子だと名乗れずとも見ていられる‥‥ だが‥‥死んでしまったら‥‥ もう見る事すら出来ない‥‥ 「瑛太‥‥」 「何ですか?京香」 「我は何時も琴音と同じ年格好の子を見ると‥‥琴音も生きていれば‥‥こんな感じで年を取ったのかな‥‥と年を数えているのだ‥‥ この子も‥‥毎年‥‥年を数えてしまうのだろうな‥‥」 「私も‥‥琴音の年を数えます 生きていれば‥‥あの子は‥‥と同じ年格好の子を目で追ってしまいます 後悔ばかり募ります‥‥ あの時君を家から出さなかったら琴音は‥‥と悔やんだり‥‥ 君を飛鳥井の家に戻さなかったら‥‥君は翔の母でいられたろうに‥‥とか 君に子を産ませなかったら‥‥こんなにも哀しませる事はなかっただろうか‥‥ とか、後悔ばかり募って逝きます 辛い想いばかりさせますね‥‥ 父も‥‥母に対してこんな想いを抱いていたのでしょうか‥‥ こんなも‥‥私は無力で‥‥何も出来ない男なのかと落ち込みます 京香、私は君を幸せに出来ていますか?」 京香は瑛太を抱き締めた 「幸せに決まっているではないか! 康太がくれた幸せではないか! 康太がくれた‥‥愛だからな‥‥幸せに決まっているではないか‥‥」 悲しい程に二人は夫婦だった 同じ魂を抱く夫婦だった 「なら私も幸せです 康太がくれた幸せですからね‥‥」 だから苦しみも辛さも哀しみも‥‥共に分かち合い生きて逝くのだ‥‥ 共に‥‥この命の果てる時まで‥‥共に‥‥ 「今度生まれ変わるなら‥‥元気な子におなり‥‥ 康太の子の様に元気な元気な子におなり‥‥」 痛い日々を過ごした我が子の魂が‥‥ 救われ導かれ‥‥安らかに眠り‥‥ 何時か生まれ変わる時が来たのなら‥‥ 元気な元気な子で生まれておいで‥‥ お父さんとお母さんに一杯愛して貰いなさい‥ 京香はもう子は成さないと決めていた 瑛太ももう子は‥‥出来ないだろうと想っていた 我が子を抱き締めて‥‥ 瑛太と京香は最期の時間を噛み締めていた 聡一郎や隼人は哀しいまでの親子を見守っていた その場に康太の姿はなかったが、康太の仲間が康太の変わりに見守っていた 聡一郎は耐えきれなくなり‥‥踞り泣いていた 隼人も菜々子の死を思い出し‥‥泣いていた 玲香が隼人を支えていた 「隼人、辛いなら部屋に逝くか?」 玲香は顔色の悪い隼人に問い掛けた 「ちゃんと康太の長男として見届けると決めているのだ‥‥だから最期まで傍にいるのだ‥」 「無理はしなくてよいのだぞ?」 「‥‥無理はしてない‥‥ だけど‥‥人の死は慣れないのだ‥‥」 「隼人‥‥慣れる筈などない‥‥ 慣れなくてよい‥‥そんなモノは‥‥」 玲香が隼人を強く抱き締めた 京香は隼人に「大丈夫か?」と心配そうに問い掛けた 一番辛いのは‥‥親なのに‥‥ 京香は“家族”の心配をする 葬儀は客間で行う事とになった 玲香と清隆が飛鳥井の家から出してやりましょう‥‥とたっての願いで、客間に祭壇を儲けた 小さな棺には未来が眠る様に横たわっていた 飛鳥井の菩提寺から僧侶として城之内が来て読経を上げた 城之内の家も‥‥弟が妻を亡くし、腹の中の子を亡くしたばかりだった 幼き子は‥‥何処か康太の子に似ていた それが城之内の胸を掻き立てた 城之内は心から成仏を願い経を読んだ 経が終わると葬儀社の人間が「献花を!」と告げて花を用意した 一人ずつ花を持ち棺の前に膝を着いた 玲香は棺に花を手向け孫の額に口吻けを落とした 「もう痛い事はないからな‥‥」 だから眠れ‥‥ 辛くて痛い日々は終わったのだ 未来の頭を愛しそうに撫でて‥‥断ち切る様に立ち上がった 清隆も未来の棺に花を手向け、愛しき幼子の頬に口吻けを落とした 不器用な男は我が子を亡くした時を思い出していた 病で逝った子は‥もう少し大きかった 生まれつき心臓に疾患を抱えて生まれた 生きている間は‥‥辛いばかりの日々だった そんな我が子を送った日 己の無力さを噛み締めて‥‥涙した 玲香は清隆の手を握り締めた 「‥‥玲香‥‥」 玲香はなにも言わず‥‥涙ぐんだ瞳で夫を見ていた 京香は聡一郎や隼人にも花を手向けてやってくれと言い 聡一郎達も花を手向ける事になった 聡一郎は白い花を手にすると棺の前に膝付いた 聡一郎は天使のような子を撫でて、その冷たさに‥‥ 二度と目を開けない現実を知った 今にも起きて来そうな‥‥顔をしているのに‥‥ こんなにも冷たい‥‥ 母の葬儀の時は小さくて‥‥途方に暮れるばかりだった 父の葬儀は出なかった 憎んでいたから‥‥死んだと知ってホッとした だが‥‥あの人も苦しかったのだと‥‥知り ちゃんと見送ってやれば良かった 親子の時間を過ごせば良かった‥‥と悔いが残った そんな想いが駆け巡り‥‥聡一郎は泣いていた 立ち上がれない程で、清隆に抱き抱えられ‥‥やっとの想いで立ち上がった 隼人は幼き子に真っ白な花を手向け額に口吻けを落とした 「今度はオレ様の子に生まれて来るのだ そしたらオレ様はずっとずーっと飛鳥井にいるからな、ずっと一緒にいられるのだ‥‥ 音弥の中に琴音がいる様に‥‥ 未来も誰かの中で生きるのだ‥‥」 隼人の言葉に玲香も清隆も‥もう涙を止める事は出来なくなっていた 瑛太が我が子と永遠に別れをする そっと頬を撫で‥‥額に口吻けを落とした 「君は愛しき我が子です もっと君と同じ時を過ごしたかった お父さん、好きな人が出来たの‥‥なんて台詞に‥‥あたふたする日を待ち焦がれていました 君の時間は止まってしまいましたが‥‥ 私達の中では何時でも生きています ‥‥生まれて来てくれてありがとう未来‥‥」 瑛太の言葉に京香は泣いてなにも言えなくなっていた ただただ‥‥我が子をみつめ‥‥ 瞳に焼き付けていた 密葬は終わり、棺の蓋は閉じられた 霊柩車に乗せて火葬場へと向かう 瑛太は喪主として、生まれた日に撮って貰った写真を遺影にして胸に抱き霊柩車に乗り込んだ 京香は気丈に立ち振舞い、我が子を送る為だけに自分の足で踏みとどまっていた 火葬場へ逝くと、葬儀屋が総て手はず通り準備をする 城之内はお経を詠んでいた 火葬炉の中へ棺は入れられ‥‥ 「お時間となりました」 と言う言葉を合図に火葬炉が点火した 玲香は火葬場の外へと出て逝った 火葬場の外に出て煙突を見上げる 最近の煙突は煙は出ない様になっていると謂われるが‥‥ それでも見送るなら立ち上って逝く瞬間を見送りたかった 京香も同じ思いだったのか、火葬場の外へと出て玲香の横に立った 「お義母さん‥‥本当に支えて下さってありがとうございました」 京香は深々と頭を下げた 玲香は京香の頭を上げさせると 「我も子を亡くしているからな‥‥」と呟いた そして玲香は京香に謝罪した 「心臓に欠陥が出てしまったのは‥‥我の所為じゃ‥‥本当にすまなかった」 「お義母さん‥‥それは違います」 「瑛太の上の子は心臓の疾患で他界したのじゃ‥‥ 我は弟を早くに心臓の病で失っておる だから医者になるつもりで医学を学んでおった 清隆と出逢わねば‥‥我は医者になっておった 村瀬の家は‥‥心臓の疾患を持つ子が生まれるのじゃ‥‥」 だから我が悪い‥と玲香は謝った 「お義母さん、未来の運命だったんです 短くしか生きられなかったけど、必死に生きていた‥‥ お義母さんが悔やんだら‥‥未来は‥‥浮かばれないじゃないですか‥‥」 「京香‥‥」 「未来が生まれて来た事を悔やみたくはないから‥‥もう‥‥責任を感じるのは止めませんか?」 「‥‥そうであったな‥‥すまなかった京香」 「きっと‥‥あの子の成長を目で追い‥‥ 毎日毎日‥‥思い浮かべるだろうけど‥‥止まってはいられない そんな事をあの子が望む筈などない だから‥‥死ぬまで‥‥母でありつづようと想う‥‥」 「我もそうじゃ‥‥死ぬまで‥‥子の事は忘れたりはせぬ‥‥ 我が忘れたら‥‥生きて来た軌跡が途絶えてしまうからな‥‥」 「お義母さん‥‥」 「お主のお子は‥‥源右衛門が導いてくれるであろう‥‥ 源右衛門は何時も何時も‥‥飛鳥井の為に在る お主の肩の荷は我が持とうぞ‥‥ だからお主は何も苦しまなくともよい‥‥」 玲香は京香の肩を優しく抱き締めた 二人して空を見上げ‥‥ 未来を見送った どうか‥‥ どうか‥‥ あの子の未来が安らかであります様に‥‥ 葬儀が終わった後 京香は慎一の不在を補う為に我武者羅に頑張り‥‥倒れた 何かをしていないと耐えきれなかったのだろう‥‥ だが体躯はとっくに限界を超えていたのだ 京香は倒れた 気丈に踏ん張っていたが、体躯が悲鳴を上げていたのだろう‥‥ それでも我が子の為に耐えて来たのだろう 糸が切れた様に京香は倒れ、病院に運ばれ即入院となった 限界を越えていたのなんて‥‥ 本人は嫌と謂う程に知っていた だがこの身が滅びようとも‥‥我が子を助けたかったのだ 我が子が大変な時にへばってなんていられない そう思い気力だけで耐えて来た 日替わりで家族や康太の仲間、榊原の家族も見舞いに来てくれたが‥‥ 康太だけは見舞いに来なかった 心が‥‥‥空虚に‥‥軋む 今まで頑張って来たのに‥‥ 今は‥‥心が‥‥空っぽだ 京香は歩とを見ていた 何も考えず‥‥ 外を見ていた 「外にお前の望むモノがあるのかよ?」 急に聞こえた声に、京香は声の方に振り向いた そこには康太が立っていた 康太が一人で立っていた 京香は「‥‥康太‥‥」と呟いていた 康太は京香に近付いて手を差し出した その手は‥‥京香の頬に触れた 「痩せたな‥‥ちゃんと食っているのかよ?」 「‥‥康太‥‥どうして?」 「見舞いに決まっているやん 頑張ったな京香‥‥」 康太の言葉に京香は涙が止まらなくなった 「‥‥康太には視えていたのか?」 妊娠する前から‥‥運命を知っていたのか? と京香は問い質した 「‥‥‥視えてる明日は‥‥変化を遂げていた それは未来が己の力で生きた軌跡なんだぜ?京香 未来は生まれて直ぐに逝くとオレは視えていた だがお前の子は運命に逆らって生きようとした 人の命はオレの視えてる通りにはいかねぇ‥‥ お前の子はお前の傍にいたくて頑張って生きていたんだ‥‥ 痛くても辛くても‥‥あの子はお前や瑛兄の傍にいたかったんだ‥‥」 「‥‥康太‥‥あの子は‥‥幸せだったのかな?」 「幸せだったに決まっているじゃねぇか! 母に愛され、父に愛され‥‥皆に愛された その命は短くとも精一杯に生きた軌跡を刻んだ あの魂は再び飛鳥井へと還る‥‥ お前の傍へ還る‥‥」 京香は顔を覆って泣いた 「‥‥それなら‥‥良かった‥‥ また逢えるなら‥‥あの子に恥じぬ日々を送らねばならぬな‥‥」 顔を上げた京香は美しく微笑んでいた 慈愛に満ちた菩薩の様に‥‥優しく微笑んでいた 康太は京香をベットに寝かせて頭を撫でた 「今は眠れ‥‥ 疲れた体躯を癒して‥‥元気になれ」 京香は目を瞑った 「魂は前世の記憶を手繰り寄せ繋がっているんだ 琴音がお前の元に生まれて来たのは偶然なんかじゃねぇ お前の魂が前世の記憶を手繰り寄せたからだ 人は繋がる生き物だ 一樹之陰と言ってな、人の縁は前世からの因縁だと謂われている お前が出逢う総ての人はお前の魂の前世の因縁だと想えば、お前と未来は来世も何らかの繋がりを持ち生きて逝けるんだぜ? 人の縁は奇妙なモノだ 繋げて途切れて‥‥それでも人は出逢う‥‥ それら総ての奇縁は前世のモノだと謂うならば‥‥またきっと出逢えるさ なぁ京香、そう想うだろ?」 「‥‥あぁ‥‥きっと出逢える縁があるのだな‥‥」 京香の涙が流れて‥‥枕に染みを作った 「何処で繋がるか解らねぇのが縁だ! だから人は誇って生きて逝かねばならねぇんだよ!」 胸を張らねぇといけねぇんだよ‥‥ 康太の言葉が胸に響いた 天に唾を吐けば、己の顔に降りかかる だから人は傲ってはならない 人を傷つけてはならないのだよ京香 何故か昔‥‥母から謂われた言葉が脳裏に響いた 京香はいつの間にか眠りに落ちていた スースーと規則正しい寝息が病室に響き渡る頃 榊原が瑛太と共に病室に顔を出した 瑛太は眠っている京香を見て 「眠っているのですか?」と問い掛けた 「あぁ眠らせた 目を醒ませば飯も食う様になるだろ?」 康太はそう言い、疲れた顔をしている瑛太に近寄った 「瑛兄、んな疲れ果てた顔してっと久遠に入院させられっぞ! 食ってちゃんとしねぇとならねぇのは瑛兄もだろ?」 康太に謂われて瑛太はバツの悪い顔をした 「‥‥京香が元気なら‥‥私も大丈夫です 康太が幸せそうに笑っていてくれるなら‥‥ 兄も京香も生きて逝けます‥」 瑛太はそう言い康太を抱き締めた 「‥‥何時か‥‥京香に還してやる 未来の魂が‥母の元へ還りたいと願っているからな 何時か京香の子に還してやる 瑛兄、子は何時か二人の元へ還る だから今はそれを待って生きてくれ‥‥」 「‥‥そうですか‥‥」 それなら‥‥私も頑張らないといけませんね‥‥ 瑛太はそう呟くと‥‥ 康太の胸に顔を埋めた 康太を抱く手は震えていた だが希望に満ちた想いは明日へと向かっていた 此処で立ち止まっていては‥‥ 明日へと逝けない 顔をあげた瑛太は、吹っ切れた顔をしていた 「伊織、隼人と聡一郎を呼んで、康太の子達とファミレスに行きませんか?」 榊原は兄の提案に「それは良いですね、では連絡を入れて来ます!」と言い病室を出て逝った 瑛太は弟を抱き締めて「ありがとう康太‥‥」と礼を言った 「瑛兄が幸せならオレは生きて逝ける 昔も今もその想いは変わらねぇ‥‥ だから哀しみに囚われないでくれ‥‥ 未来を悼むのは良い だが哀しみに囚われたら身動き出来なくなるからな‥‥ それだけは止めて欲しいだけだ‥‥」 「兄は幸せです 私が幸せでいないと‥‥琴音も未来も幸せでないですからね 何時か‥‥還るその日まで誇れる人間でいたいですからね」 「‥‥瑛兄‥‥瑛兄の子は飛鳥井の血を入れ換えたから‥‥轍から弾かれた‥‥ だから今度は‥‥誰よりも幸せに生まれて来てくれと‥‥願うばかりだ」 「君の所為じゃありません 悔やんだら未来は逝けなくなるでしょ?」 「‥‥そうだったな‥‥」 「兄が奢ってあげましょう! 何が食べたいですか?」 瑛太は笑っていた 眠りについた京香も幸せそうな顔で眠っていた その顔を見て瑛太は安心した 歩こう‥‥京香 共に歩いて行きましょう この命が消える瞬間まで、共に在りましょう京香 新たな決意を胸に‥‥ 病室に戻って来た榊原と共に、瑛太は病室を出て逝った 確りとした足取りで歩き出す 明日へと繋ぐ為に歩き出す 未来‥‥君にまた逢える日の為に‥‥ 私は歩き出します 京香と共に‥‥ 幼くして逝った孫へ この話を捧げます

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