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第62話 ハワイ狂想曲 ~年末年始は大騒ぎ~

ハワイの地にタラップは下りて飛行機から下りる兵藤貴史は疲れ果てた顔をしていた 「‥‥マジ勘弁してくれ‥‥」 ゲッソリと窶れ果てていた まさか‥こんなに飛行機移動が大変だったとは‥‥ 流石‥‥康太の子 音弥は飛行機に乗るや…… ノートを出すと「いちょ」とを書きだす始末で… 「音弥、なにやってるのよ?」 と兵藤は想わず聞いた程だった 「かぁちゃがね、オレはいちゅもなにかあったときのために『いちょ』はかいてありゅっていうのね らからおとたんもひこうきおちてもいいようにかいてるにょ」 遺書を書いてるのね‥‥ 「堕ちないから、今の飛行機は簡単に堕ちないから…」 と音弥を宥めていた スチュワーデスがギロッと兵藤に目をやる あぁ‥‥スチュワーデスの視線が痛い‥‥ どうして座席がオレと子供達なんだよ‥‥ そうしている間にも、翔は神妙な顔をして 「はいじゃっく‥‥あったら、どうちたらいいのかにゃ‥ かけゆ‥‥ぶじにハワイのちにつけるかにゃ?」 なんて心配する始末 お前‥‥なんでハイジャックなんて知ってるの? 何処で知ったのよ?それ??? しかもお子様が使っていい単語じゃねぇぞ? 「そんな簡単にハイジャックされないから大丈夫だって…」 と宥めていると…スチュワーデスに何て事を子供に言わせてるんだ!!と睨み付けられた 兵藤はトホホな気分でいた やっぱお前の子供は‥‥一筋縄でいかねぇのな康太‥‥ そんな中で太陽はニコニコと笑って静かに座っていた 流生は優しいお姉さんが大好きなのか、好みのスチュワーデスを見つけるや否や 「ちれーなおねぇさん、やちゃちぃね!」 と将来が怖い発言をしていた 怖い‥‥緑川一生に酷使した顔で‥‥チャラい事を平然と言ってのけている スチュワーデスは頬を染めて照れ臭そうに笑っていた 「りゅーちゃ、おおきくなったら、おねーさんみないなちとと、こいびとににゃりたいにゃ」 なんて口説いていた お前‥‥将来怖いぞ‥‥ こんなちゃっかりさん一生に似てるのか? そう言えば昔の一生は節操なしだったな 来るもの拒まず、去るもの追わずの入れ食い状態だった 「‥‥流生‥‥スチュワーデスは止めとけ‥‥」 兵藤はスチュワーデスと関係があったのか?的確なアドバイスをして止めた 「どうちて?」 「スチュワーデスはお空が恋人みたいなもんだからな‥‥逢いたい時に逢えないんだよ 淋しい想いをしたくなきゃスチュワーデスは避けるべきだぜ?」 「ちょうなにょ? にゃらりゅーちゃ、やめときゅ!」 兵藤の発言にスチュワーデスはピキピキと笑顔を引き攣らせた あぁ‥‥完全に終わったな‥‥ 兵藤に向けられる視線が冷たい 兵藤は背筋に冷たいモノを感じて、あははっ‥‥と笑った 大空はそんな兄弟の喧騒を他所に、一心不乱に胸にある十字架を持って 「しゅよ、たちゅけたまえ」 と祈っていた おい‥‥お前も‥‥何処で知ったのよ?それ? 「‥‥かな‥‥いまそれ止めとけ‥‥」 然り気無く大空を止める 「ひょーろーきゅん いのりはたいちぇちゅにゃにょ!」 「‥‥かな‥‥今は‥‥」 止めとけ‥と言いたかった 言いたかったが、大空は聞く耳を持たず 「しゅよ!おちにゃいようにたちゅけたまえ!」 と祈っていた 本当に‥‥止めて‥‥ スチュワーデスから、完全に敵視され 兵藤は早くもいたたまれなくなった どっと疲れ果てた兵藤を気にして太陽は 「ひょーろーきゅん らいじょうび?」と気にかけてくれていた 優しいなお前‥‥ 兵藤は太陽の頭を撫でた 「おねーさん ひこうちとめてくらちゃい! ひょーろーきゅんが ちぶんわるいって! おねぇぎゃいちまちゅ!」 太陽‥‥飛行機は止まらないぞ‥‥ スチュワーデスは兵藤をギロッと睨み 「ボク、飛行機は止まらないのよ 気分が悪いようでしたら医療スタッフをお呼び致しましょうか?」 「‥いえ‥‥大丈夫です」 兵藤が言うと太陽は涙をためて 「ひょーろーきゅん ちなないでね!」と訴えた その場を去れないスチュワーデスは 「死にそうにお辛いなら緊急着陸いたしますが?」 と音弥を無下に出来なくて言った 「本当に大丈夫ですからお構い無く」 兵藤はトホホな気分でそう言った 仕方なく後ろに座っていた榊原が 「彼は同行者ですので様子は僕達で見ますので!」と申し出た 榊原は兵藤に「すみませんでした」と謝った 兵藤は後ろに振り返った時、十字架を持って祈りまくる聡一郎が視界に入った 康太は「ハイジャックにあわねぇかな?オレ飛行機に缶詰は嫌だかんな 無事にハワイに到着出来きるかな」と勝手な事を宣い‥‥ 榊原は「大丈夫ですよ」と宥めていた 後ろでも同じ事が行われていた 聡一郎は「主よ!助け給え!」と呟いている 発信源はそこか‥‥ 隼人は遺書を書いていた お前もか‥‥ 一生は「やっぱしスチュワーデスは良いなぁ」と節操なしな発言をしていた 兵藤は「死んでおしまい一生!」と言い捨てた 一生は反論する事なく苦笑していた やはり一生の様子は何処かおかしい 平静を装ってチャラい発言をしているが‥‥ 何処かに違和感を感じていた その後も機内食が「たらにゃいね!」とだとか 「じっとちてると、きゃらだなにゃまるね!」 と言い動こうとしたり 飛行機がミシッと言うと祈り続けたり‥‥ 更にスチュワーデスから冷たい視線を感じて居たたまれない兵藤は‥‥ もぉ‥‥頼むから下ろしてくれ!! と想わず叫んでいた 翔は「おりられにゃいよ!ひょーろーきゅん」と的確なアドバイスを飛ばし 兵藤は余計に落ち込んだ そして疲れ果てていた 後ろの方でも「機内食ってんとに足らねぇんだよな」と言う声がして 兵藤は苦笑した 隼人が「じっとしてると体躯が鈍るのだ!」と落ち着きなく 飛行機がミシッと言うたびに聡一郎は一心不乱に祈り続けていた 伊織‥‥お前も大変だな‥‥ 玲香と清隆はひたすら眠り 瑛太と京香は静かに読書していた その横で瑛智がすやすや眠っていた 真矢と清四郎は楽しそうに話をして 笙は美智瑠の面倒を見て、明日菜は匠を寝かせねいた 慎一は和希と和真と北斗と共に静かに座っていた 一生はテンション高く騒いだと想ったら窓の外を眺めて苦悩した顔で眉を顰めていた 何かあるのは‥‥ その場にいた全員が知っていた 知っていたがなにも言えなかった 総てを知っているのは‥‥康太だけだろう 何かあれば康太が何とかするだろう‥‥ そう思っていた 飛行機はやっとの想いでハワイの地に到着した 飛行機から下りた兵藤は既に旅行帰りの観光客並みに疲れ果てていた ホテルへと移動してチェックインする 宿泊予定は二泊三日と結構な強行軍な日程となっていた 25日にハワイの地に到着し28日には帰国の予定だった 29日は仕事納めで会社を上げての大掃除の予定が入っているから、それまでの暫しの休暇となる 兵藤は、だったら仕事納めの後に来れば良いのに‥‥とか想った その方が年末年始を暖かい国で過ごせるのに‥‥ そんな疑問を抱いていると康太が 「年始は一族の者や関係者が年賀に来るからな、家を空ける訳にはいかねぇんだよ」 と一族総勢、真贋へのご挨拶があるんだろうな‥‥と大変に思っていた 兵藤も年末には家に還れと謂われていた 一族や後援者が年賀に来るから、毎年家を空けない習わしは健在なのだろう 康太は兵藤の心中を知ってか、康太は兵藤の背中をバシッと叩いて 「ハワイまで来て辛気臭い顔すんな!」と怒った 「すまん‥‥でも此処にいられる日は限られていると想うとな‥‥休暇が二泊三日って少なくねぇか?」 「そうか?オレは子供達にせがまれてクリスマスはお前と一緒に過ごすつもりでいたんだよ そしたら美緒と母ちゃんが寒い時に何故にもっと寒い所におらねばならぬのじゃ!とか言い出してな ならハワイに行くかって事になって、ならハワイに行こうって清四郎さん達も話に乗ってチケットも案外楽にとれたかんな来ただけなんだよ 仕事納めには会社に顔を出さねぇとならねぇからな その前の骨休めだ」 事の経緯を聞けば、ちょっとそこまで軽い気持ちで来た‥‥そんな感じだった 康太が兵藤と話していると隼人が「流生達を泳ぎに連れて逝くのだ!」と言い出して急かした 兵藤は取り敢えず部屋へと移動して、重いコートは脱ぎ捨てて、水着に着替えた 水着の上にアロハを羽織り一息 兵藤はホテルの部屋を見渡して思い込んでいた 誰かと相部屋になるのかと想っていたが 部屋は豪勢な事に一人一部屋が宛がわれていた まるで部外者を排除するかの様にフロアごと貸し切っていた 最上階のフロアは他の人間は立ち入る事を禁止にしてSPを立たせて厳戒体制を引いていた この現状に勘繰るな‥‥と謂うのが無理な事だった 水着に着替えてフロアに逝くと、康太は榊原や子供達と既にフロアにいた 良く見たら康太は水着は着てはいなかった 「康太、どうしたのよ?」 「オレか?オレは泳がねぇからな水着は着ねぇんだよ」 我先に水着になりそうな奴が、泳がねぇからな‥‥と言う台詞に兵藤は怪訝に眉を顰めた 「‥‥‥泳ぎに来たんじゃねぇのかよ?」 「違う!オレは朝陽を見に来たんだよ」 康太はそう言い笑った その場には一生はいなかった 少し遅れてやって来た一生も水着は着ていなかった 聡一郎が隼人と共にやって来たが、水着は着ていなかった 兵藤は「泳がねぇのかよ?」と尋ねた 一生は「塩水は傷に染みるでしょうがな」と何でもない風に答えた 「俺だけ水着かよ?」 兵藤が言うと聡一郎が、まぁまぁ‥‥と言い兵藤の肩に腕を回して耳に囁いた 「貴史、君は流生達と泳ぐ約束したんでしょう? 僕らは砂浜にいますから、君が一緒に泳いでやって下さい 僕達は塩水が天敵なのです」 あぁ‥‥こんなに怪我していたら、海水は天敵だろうな‥‥ 兵藤はそう想った 音弥が兵藤の手を引っ張って 「ひょーろーきゅん、いこう!」と誘った ホテルから海岸まで徒歩3分 海の前にあるホテルは、正面玄関を出るとそのまま海に出られる様になっていた 兵藤は音弥達と手を繋ぎ、海岸まで走って行った 海岸に来ると海に飛び込もうとする兵藤の海水パンツを翔は引っ張って制止した 「らめらよ!ひょーろーきゅん じゅんびうんろーはたいせつなんらからね!」 と翔に怒られた 海水パンツを引っ張られ‥‥ずり下がって見えそうになるのを隠して兵藤は 「ごめん翔」と謝った 「すいみんぐ、いってるのねかけるたち」 「え?」 「すいみんぐのせんせいが、じゅんびうんろーはたいちぇちゅっていってたにょ」 「そうだな、足が吊ったら大変だもんな」 兵藤は成長した翔を見て、何だか頼もしくもあり淋しくもあるなって感じて見ていた 横を見れば流生も音弥も太陽も大空も準備体操をしていた 準備体操が終わると兵藤と海に入って、波と戯れた 浅瀬でボールで遊んだり、浜辺で小山を作ったりして遊んだ 康太と榊原は楽しそうに子供達を見ていた 子供達は可愛くて人目を引く そんな子供達に近寄ろうとするとSPが出て子供達を護る様に警戒していた SPはニック・マクガイヤーだけではなく他にも隠れてはいるが、いざとなったら飛び出して来るのだろう 飛鳥井康太の子供 それだけで利用価値は大きいと言う事なのか‥‥ いや、それだけの理由だけではないのだろう どの子も見目のいい容姿を持つ それも狙われる要因の一つなのだろう 子供達とクタクタになるまで遊んで、夕方にホテルへと戻った 子供達は夕飯を食べると早々に眠りについた 食事が終わり、それぞれの部屋に戻ろうとする所を、兵藤は康太を捕まえて 「違和感があるんだけど?」と問い質す様に言った 「ならお前の部屋に逝くか!」 と康太は榊原と共に兵藤の部屋に押し掛けて行った 部屋に入りソファーに腰を下ろすと康太は 「違和感って何よ?」と問い掛けた 「一生、おかしくねぇか?」 「あぁ‥‥それか‥‥」 「異常にテンションが高いと想ったら、次の瞬間には拒絶する様に黙り込み考え込んでる それに違和感を感じねぇ方がよっぽどだろうが!」 兵藤は怒って言い捨てた 康太は静かに‥‥ 「アイツに死刑宣告をしたのがハワイの地だからな‥‥ 色んな意味でアイツはハワイなんぞには来たくなかったんだろ?」 死刑宣告‥‥ 兵藤はそこいらへんの事情は詳しくはなかった 「一生には愛し抜いた女がいた事は話したよな?」 「若旦那の妹だっけ?」 「そうだ、彼女との因縁は前世からある 惹かれ合うのは必然だったのか、偶然だったのは解らねぇ‥‥ アイツは一生に一度の恋をして‥‥ひたすら愛した だけど‥‥その愛は許されるものではなかった 前世も今世も‥‥彼女は人のモノで‥‥ 二人は禁忌を犯した オレは‥‥一生に彼女とは永遠に一緒にはなれない‥‥彼女はお前の所には来ない‥‥ と、引導を‥渡した 謂わば死刑宣告をしたも同然の事を一生にした 一生は死ぬつもりだった オレらの部屋を出たら死ぬつもりだった‥‥ そんなアイツを無理矢理この世に引き留めた オレは自分の体躯を使って‥‥ アイツをこの世に引き留めた アイツは死ぬ事すら叶わなくて‥‥時を止めた そんなアイツが死刑宣告された地に立つと謂う事は‥‥どう謂う事か‥‥考えなくても解るだろ?」 一生を生かす為に寝た話は聞いた事がある だがその時は‥‥現実味のない‥‥絵空事の様に感じていた だが今、こうして一生の様子がおかしい事こそが、現実だと証明してい 「‥‥一生‥‥大丈夫なのか?」 「怪我に手を突っ込み塩を塗る様なもんだからな‥‥悶え苦しんでいるんじゃねぇか?」 「‥‥そうなると解っていて‥‥何で‥‥」 一生を連れて来たんだよ?‥‥とは言えなかった 子供じゃないのだから、来たくなければ来ない手段だって取れただろう 「修学旅行最終日の夜、オレらは砂浜で夜を過ごした 砂浜に寝そべって話をした‥‥ たわいもない話をして‥‥オレらは約束した そして始まりの朝陽を見た だからオレらは、この地に朝陽を見に来たんだよ あの日見た朝陽は今も胸に焼き付いている だからこそ‥‥オレらは更に逝けるって確かめねばならねぇんだ」 重い言葉だった 簡単に朝陽を見に来たんだよ!と謂うが‥‥ 朝陽は康太達にとって特別なモノなのだろう 始まりを迎える時、彼等は何時も朝陽を見に行っていた その総ての始まりの朝陽がこの地なのだろう それ程に彼等にとって特別なモノなのだろう 「‥‥お前は時々‥‥残酷な事をするな‥‥」 兵藤はボソッと呟いた 生温湯に浸かっていれば傷は‥広がらないだろう‥‥ 何時か傷は癒えるだろう だけど康太は敢えて傷に塩を塗り込み‥‥ 現実を直視させようとする 「それでもな‥‥始めねぇとならねぇ時もあるんだよ 車が横転して死にそうな目にあった時に‥‥このまま死んだら悔いだらけじゃねぇかよ!って想ったんだよ! オレらはこれより本陣へと斬り込みに逝かねぇとならねぇんだ! お前がアメリカに行ってからも色々とあったんだよ 世界中の殺し屋にターゲットにされ、命を狙われた この先も‥‥手を変え品を変え仕掛けて来るだろう その前に炙り出して返り討ちにしてやるつもりだ だが逃げおおせるのが得意な奴だからな‥‥ 命の保証なんてねぇんだよ だからこそオレらは新しい朝を迎える必要があるんだよ 始まるんじゃねぇ! 始めるんだよ! 始まりの朝陽をオレは見に来たんだよ」 話を終えると康太と榊原は部屋に帰って行った 兵藤は一人になると窓の外を見ていた 自分のいない世界で闘っている康太を想った 傍にいたい‥‥ その想いは強い 共に逝く事だけを願って来た だが人の世に堕ちた炎帝は青龍だけ連れて逝ってしまった 傍にいたいだけなのに‥‥‥ それさえままにならない‥‥ 自分がいない時間を送る 当たり前の事だけど、いないと見えない部分が大きい だから敢えて傍にいる道を望んだ それが間違いだとは想わない 想わないが‥‥道は外れた 政治家として生きて逝くならば‥‥ 経歴の箔が足らない 解っていて足掻いて出した結論だった 兵藤は窓の外を眺めながら‥‥ 唇を噛み締めた 唇を噛みきって‥‥鮮血が流れ落ちた 「‥‥‥傍にいられねぇってのは‥‥‥こう言う事なんだな‥‥」 解っていたが‥‥知らない部分が大きすぎて悔しくて仕方がない 桜林時代、康太を切り捨て離れていた時間が悔しくて堪らない 一生が背負った苦しみを軽んじていた訳ではない 訳ではないが‥‥ 「高校生の一生が背負うには重すぎる荷物だろうが‥‥」 流生は一生の子だ 日に日に似て来る姿に、誰の子なのか一目瞭然となっていた 流生はそれを感じているのか、最近は一生には自分から近寄ろうとはしなかった まるで何を確かめるかの様に、母に甘え、父に甘え‥‥ そして、ジーッと一生を見ていた‥‥ 見られている一生がたじろぐ程に、射抜いて‥‥ そうかと想えば次の瞬間には両親に甘えて抱き着いていた 何時から‥‥なんだろ? 何時から‥‥一生と流生の間に距離が出来て来ているのだろう 昔は一生に甘えて懐いていた筈なのに‥‥ そう言えば太陽と大空は真矢と清四郎には距離を取る 音弥はマイペースで隼人とも一緒にいる事はある 翔は瑛太と京香の方が距離を取っている あの瞳は総てを視てしまっているのだろう‥‥ 知っているから翔は距離を取る 瑛太と京香も次代の真贋として扱う ‥‥悲しい親子関係だった‥‥ 一生親子の名乗りのあげられない親子だった 烈は総てにおいてマイペースな子で、誰とでも仲良く一緒にいるのを見掛ける 達観した貫がある所為か、烈は距離を取らなかった どの子にも個性が顕れて来ていた そして何よりも大きくなった 一年見てないだけなのに‥‥ 何年も見ていなかった感を受ける いなかった時間が悔やまれる 子供の成長は早い それが本当だと離れてみて始めて気付かされた 一緒にいる時は、共に成長を見守っていられたのに‥‥ 悔しい‥‥ 悔しい‥‥ 自分で選んだ道だけど悔しくて堪らない 兵藤は日本に還ろうと決めていた お正月の間に神楽四季とコンタクトを取って、今後の相談に乗って貰おう 四六時中、一緒にはいられないだろうけど‥‥ 一目も見られない距離にいるよりはマシだと想っていた そして何よりも様子がおかしかった一生を想った 一生、お前らしくないじゃねぇか 一生‥‥お前‥‥自ら棘の道に飛び込んでいたんだな‥‥ お前、俺にわざわざ棘の道を逝く物好きだと謂ったよな? お前もそうじゃねぇかよ‥‥ 棘の道を逝く物好きじゃねぇかよ? 今も‥‥血を流しているのか? 今も‥‥愛してると叫んで傷を広げているのか? バカだなお前‥‥ 康太が共に逝ける段取りしてくれた時もあるだろうに‥‥ みすみす棒にふって共に逝く道を塞いだ大馬鹿者じゃねぇか‥‥ でも‥‥愛してるは止められねぇもんな‥‥ 喩え報われなくとも‥‥ 愛してるを止める事は出来はしない‥‥ それを身をもって実感している兵藤だからこそ、一生の想いが痛くて仕方がなかった 一生‥‥ そんなに不安定になる程に‥‥想いを遺しているのか? その場にいない力哉の想いも痛かった 一生が不安定になるのが解っていたからこそ、この地に来なかったのだろう‥‥ 「取り敢えず、俺は還る算段しねぇとな‥」 もう離れた場所にいるのは沢山だ そんな想いが溢れ出す 殺し屋に命を狙われたり‥‥ って、そんなヤバい事になってるのさえ知らなかった お前を想う気持ちを封印しようとした結果‥‥ 俺は見る事を拒絶していたのかも知れねぇな‥‥ 情けねぇ‥‥ 本当に情けねぇな‥‥ 兵藤は何時までも窓の外を眺めていた ベッドに潜り込んだのは朝方だった すっかり体躯は冷えきって‥‥冷えた体躯を抱く様に丸くなって寝ていた 「なぁ、起きねぇとキスするぞ?」 キス? 誰だよ? 「5・4・3・2・1‥‥チュッ」 うっ!‥‥‥止めろ‥‥ 兵藤は慌てて飛び起きようとした だが押さえ付けられて身動き出来ずにいた 寝惚けた頭には事の事態が解らずにいた どう謂う訳か目の前に康太がいて‥‥キスしていた 「こうた‥‥」 名前を呼ぶと康太は笑って兵藤を引き寄せた 「おはよ貴史!」 そう言い、舌を差し込み執拗な接吻をした 兵藤はクラクラとして「ギブ‥‥」とか弱く白旗をあげると 「こらこら寝込みを襲ったらあかんがな」 と、一生がドウドウと康太を止めた 「‥‥一生‥‥」 呟くと手が伸びて来て、兵藤の服を剥ぎ取り始めた 「うわっ!」 兵藤が悲鳴をあげると怜悧な顔が 「早く支度しないと置いて逝きますよ!」と辛辣な言葉を吐いた 聡一郎はテキパキ兵藤の服を脱がせて裸にした 「そっ‥‥聡一郎‥‥」 「シャワーを浴びて目を醒ましなさい!」 「解った、直ぐに出て来る」 そう言い浴室に飛び込むと、聡一郎チョイスで服を用意して脱衣場に用意した 兵藤はシャワーを慌てて浴びた シャワーを終え脱衣場に用意された服を着て出て行った 聡一郎が兵藤の濡れた髪をドライヤーで乾かし世話を焼く こんなに面倒見の良い奴だったか? 何処か冷めて冷淡な聡一郎を想い意外に想っていると、一生が捕捉するかの様に口を開いた 「最近聡一郎は隼人の面倒を見てるからな やたら面倒見の良い奴になってんだよ」 と説明した 「隼人は僕の弟ですからね 兄が弟の世話を焼くのは当たり前です」 優しく微笑みそう言う聡一郎は、日本にいた頃とは違って感じた 前はもっと冷たい自己中的な感じじゃなかったか? 兵藤が疑問に想っていると聡一郎は笑って 「僕は改めて家族を大切にしようと想っただけです 親のいない僕にとって飛鳥井や榊原の家族は僕の家族も同然なのです それと同様で隼人は僕の弟も同然なのです 手のかかる子は可愛い 隼人が何時か大切な人を見付けるその日まで‥‥僕も大切に育てようと決めただけです」 「‥‥そうなんだ‥‥所で聡一郎、お前の恋人はハワイに来てないのか?」 「彼は‥‥今、アメリカです 学園生活を送る事も叶わず‥‥治療の為に渡米して一年が経ちました 来年辺りならハワイへ治療の場を移すかもですが、今はいません」 「‥‥え?‥‥お前、ハワイにいて良いのかよ?」 「ええ、彼が康兄を頼むと言って来たのです 別に僕達は別れたりしていませんよ?」 「‥‥そうなのか?」 恋人同士なら何時も共に‥‥いたくないのか? 「何万年経とうともラブラブな恋人同士なんてのは我が主の領域ですよ」 聡一郎はそう言い笑った 一生が「今日は流生達は真矢さん達が見てくれるから俺達はハワイの地を‥‥歩く予定だ」と説明した やはり一生の様子は一目瞭然な程におかしかった 今日の一生は窶れていた 寝てないのか目に隈が出来ていた 何か声を掛けようとした瞬間、ドアがバターンと開かれた 「遅いのだ!」 隼人がご立腹な様子でドアの入口に立っていた 聡一郎は隼人の傍に逝くと 「貴史の支度に手間取っていたのですよ」と説明した 「早く逝くのだ! その前に朝を食べるのだ!」 駄々っ子の様な言い分を聡一郎は笑って「ハイハイ!」と答えた 「ハイは一度なのだ!」 「そうでしたね、それより隼人、顔を洗いましたか?」 「洗ったのだ!」 良く見れば目脂が着いていた それで洗ったと言えるのか? 隼人は顔を水でザバッとやるだけで擦らない 康太が良くやるので榊原がキュッキュッと洗ってやってるのだ 母に似た隼人は水が嫌いなのか‥‥康太と同じ事をしていた 「顔、ゴシゴシ洗ってないでしょ?」 「‥‥洗うと痛いのだ‥‥」 隼人は康太を助けようと窓ガラスに顔を直撃してかなり切れたから傷も深かった 役者としての顔を傷付け‥‥元通りに治るのか心配だったが、本人は役者がダメになったら飛鳥井建設で働くのだ!と楽観的にそう言っていた 「僕が拭いてあげるので来なさい」 そう言い洗面所へと向かって行った 兵藤は外出するから財布と携帯をポケットに突っ込んで素早く支度をした 顔を拭いて貰った隼人がニコニコと洗面所から出て来て、皆で部屋を出てレストランへと向かった レストランには真矢達が既に席に着いていた 慎一は我が子と北斗と共に席に着いていた 慎一の目は一生を伺い、主へと向けられた 康太は慎一の視線を受けて首をふった 慎一は溜め息を吐き出した 榊原は康太を席に座らせた 隼人も聡一郎も席に着き、一生は少し遅れて席に着いた 兵藤も席に着き食事を始める事にした 瑛太は嬉しそうに「今日は楽しんでらっしゃい」と弟達の時間が穏やかであるように祈る様に口にした 「瑛兄、流生達を頼むな」 「母さん達が孫との時間を楽しみにしてますからね 手は沢山あります、君は気にせずに楽しんで来れば良いのです」 瑛太はそう言い弟達を送り出す 真矢や清四郎も「「楽しんでらっしゃい」」と送り出してやった 玲香と清隆は黙って我が子を送り出す お留守番が解っている流生は少しだけ悲しそうに玲香に抱き着いて顔を埋めた 康太は流生の頭を撫でて 「今夜は浜辺で一緒に寝て朝を迎えような 朝になったら一緒に朝陽を見よう お前達の胸に焼き付けて還ろうな‥」と言った 流生は「あちゃひ?ちょれちれー?」と問い掛けた 「めちゃくそ綺麗だぞ 始まりの朝の朝陽だかんな お前達の朝が始まるんだ‥‥胸に焼き付けておくといい‥‥」 「かぁちゃ‥‥」 「母は何時だってお前達の為に生きている それだけ覚えておいてくれ!」 流生はコクッと頷いた 康太は立ち上がると、断ち切る様に我が子達から離れた 榊原は我が子に「少しだけお留守番してて下さいね」と言い荷物を取りに行った 父と母と共に聡一郎が立ちあがり、一生、隼人、兵藤が共に立ち上がった 慎一は席に座ったままなのを見て玲香は 「お主は逝かぬのか?」と問い掛けた 「俺は主の留守を守らねばならぬ存在ですので!」 執事としての矜持を見せて笑った 慎一は音弥を膝に乗せて食事をさせていた 慎一は康太の留守の間に音弥をハワイの病院に連れて逝く予定が入っていた 「今日は音弥は別行動ですので、出来ましたら‥‥和希と和馬と北斗をお願いしたいのですが‥‥」 慎一がそう言うと瑛太が「私も一緒に行きましょうか?」と申し出た 「瑛兄さん‥‥」 「甘い叔父がいた方が音弥も還りに甘える楽しみがあるでしょう」 瑛太は笑ってそう言った 真矢は「あら、音弥、甘えて高いのねだりなさいね!」と笑った 玲香は「病院が終わったら合流すれば良いであろうて!」と痛む胸を押さえて言った 何時も何時も‥‥音弥の楽しみは奪われる 運動会で走りたい‥‥皆と一緒に走りたい ずっも願って来た想いすら‥‥ 奪って逝く 辛い想いをしてオペに耐えたと言うのに‥‥ まだ音弥に試練を与えると謂うのか? 超未熟児として産まれて、生きているのが奇跡だと謂われた子だ その体躯に幾つものハンデを背負ってしまったのは仕方がない だが動きたい盛りの子に動くなと制限をして我慢をさせねばならない現状を想うとやるせなかった 玲香は音弥の頭を撫でて 「待っておるからな‥‥」と口にした 音弥は嬉しそうな顔をして「あい!」と手をあげ答えた 兄弟は心配そうな顔で音弥を見ていた 最近の音弥は歩くのも辛そうで‥‥ それに耐えて必死で追い付こうとする姿に泣き出したい程の想いを抱えていた 翔は音弥を心配しつつ、ポロポロと食べ物をこぼして平気な顔をしている瑛智の頭を叩いた 叩かれた瑛智はキョトーンとして、次の瞬間泣き出した 冷たい瞳で瑛智を見る翔の顔に瑛智は反抗的に睨み付けた 「えいち、わざとこぼすのやめるにょ!」 「うるちゃい!」 瑛智は翔に反抗的だった 最近の瑛智は少し我が儘だった 我が儘を言っても聞いて貰えないのは解っている 解っているが親の愛を確かめたい‥‥そんな想いもあったのだ 出て行こうとした康太が足を止め 「瑛智、止めとけ!」と言うと瑛智は泣き出した 康太は瑛智を抱っこすると、少し離れて何やら話をしていた 康太は翔を呼ぶと、翔は康太の傍に寄って来た 「翔、おめぇは正しい 正しいが少しだけ瑛智の想いも組んでやれ 正しくてもな押し付けるのは間違いなんだよ翔」 「すみましぇんでした‥‥」 「翔、瑛智は寂しかったんだよ」 「‥え?‥‥さみしいにょ?」 「そりゃ寂しいだろうが‥‥お前には庇ってくれる兄弟がいるけど、瑛智にはいねぇんだ 親に構って貰いたくて、わざと甘えた行動をするのはダメだって解っているけど、振り向いて欲しいんだから‥‥仕方ねぇじゃねぇかよ?」 振り向いて欲しくて、わざと幼稚な行動をする 振り向いて貰えないと解っていても‥‥振り向いて欲しかったからやったと謂われれば‥‥ 翔は何も言えなかった 「えいちのきょうだい‥‥いる」 「‥‥翔‥‥」 視える翔なら総て解っているのだろう 総て解っていて翔は口にした 翔は天を指差して 「えいちのきょうだい、おそらにいるにょ」 と言った 康太は驚いた瞳で翔を見た 自分が兄だと解っていて‥‥翔は忘れちゃダメだよ謂わんばかりに‥‥空を指差した 「そうか‥‥そうだよな忘れちゃダメだよな」 「そう、わすれちゃらめなにょ! いのちは‥‥ちゅなぎゃれるにょ! いちゅか‥‥ママにかえりゅひがくるにょ!」 「‥‥翔‥‥」 それは康太にしか視えない事だと想っていた だが翔には視えていたと謂うのか‥‥ 「何時かあの子は‥‥京香に還る‥‥ それを知っていたか‥‥」 「たまちぃはかえりゅにょ! めぐりめぎゅって‥‥かえりゅにょ!」 「‥‥そうか‥‥還るか‥‥」 康太はそう呟き‥‥それを見上げ‥‥涙した 「かけゆのかぁちゃはかぁちゃだけだよ!」 「‥‥え?‥‥」 「ちは‥‥こいけど、たましいのつにゃりがりが、いちばんちゅよい かけゆはかぁちゃの、たまちぃをうけちゅいでうまれたこだから、なにがあってもらいじょうぶ!」 康太は翔を抱き締めた 「お前はかぁちゃの自慢の息子だ 何があっても大丈夫だ! お前ならどんな壁も乗り越えて逝ける そう言う様にオレは育てて来たし、育てて逝く‥‥お前は次代の飛鳥井家真贋だ」 視える世界は厳しい世界しか写し出さないだろう 知らなくて良い事を視る 人の裏の汚い部分を垣間見る 人の人生を直視する 間違いを正す 救おうとする傍から、掌から零れ落ちる時もある 真贋として生まれた者の宿命だった 玲香は翔と瑛智を受け取り 「遅くなる‥‥逝くがよい」と告げた 康太は頷き歩き出した その後を榊原が続き、一生、聡一郎、隼人、兵藤が続いた 玲香は康太達を送り出し瑛智と翔を抱き締めた ホテルを後にした康太達は、あの日、修学旅行で回った道を歩いた あの日の記憶が鮮明に甦る 一生は苦しい顔をして、次の瞬間にはテンション高めに騒いでいた 街をあてをもなく歩いて、コナ・コーヒーに行き珈琲を飲む 榊原は寛いだ顔をして珈琲を飲んでいた 康太は紅茶派で「やっぱオレは紅茶がいい!」と自分を曲げない発言をして、皆苦笑した コナ・コーヒーを後にする頃には陽は傾き、夕陽に染まっていた 康太のお腹がグーゥーと鳴り出し、榊原は「ホテルに戻りますか?」と還る提案をした 「だな、音弥の診察結果も気になるしな‥‥」 康太が呟くと兵藤は「音弥?どうしたのよ?」と問いかけた 榊原が音弥の足の事を話した 兵藤は痛そうな顔をして‥‥‥ 「‥‥音弥ばかり酷な目に遭うな‥‥」と呟いた 「生きてるのが奇跡みたいな未熟児でしたからね‥‥成長するにしたがって何らかの後遺症は残るのは覚悟していました‥‥」 超未熟児‥‥生まれた時は息をしていなかった 母に抱かれる事なく生まれた子‥‥ 隼人は「臓器ならオレ様のをやっても良いのだが、骨は‥‥変わりにやれないのだ」と‥‥呟いた 愛した人が遺した愛だった 愛した人がくれた家族だった 命を懸けて遺した大切な大切な‥‥愛なのだ 変われるものなら変わってやりたかった 兵藤は「今の医学をナメんな!音弥ならきっと乗り越えて逝くさ!」と変な考えはするな!と頭を撫でた 榊原の携帯が胸ポケットで振動を繰り返し、榊原は携帯を取り出して電話に出た 「伊織です」 『そろそろ康太がお腹を空かせている頃ではありませんか?』 瑛太からだった 榊原はクスッと笑って 「グッドタイミングです」と答えた 合流する場所を決めて、そこへ逝く約束をして電話を切った 「瑛兄さんからでした ご飯を食べましょう!とお誘いでした」 榊原が謂うと康太は嬉しそうな顔をして 「おぉ!流石瑛兄、オレの腹の状態を知ってるやんか!」 と、足取り軽く待ち合わせ場所へと向かった 待ち合わせ場所へ逝くと、既に瑛太と共に康太の子供や玲香、清隆、真矢、清四郎、そして慎一が我が子と北斗と共にいた 真矢は美智瑠と匠を連れていた 「笙と明日菜はデートして来なさいと送り出しました 新婚気分で三人目でも出来てしまうかも知れませんね」 真矢が笑って謂うと康太は 「流石です義母さん 粋な計らいで子供が増えるのは間違いないでしょう! ハワイで製作された子供なんて情熱的じゃないですか!」 「ほほほ、笙もやる時はやれるじゃないの!」 「真矢さんの家も賑やかになりますね」 「どの子も孫に変わりはないわ どの子も愛しい私の孫ですもの」 「‥‥義母さん‥‥ありがとう‥‥」 愛する伊織を生んでくれてありがとう 愛する我が子を生んでくれてありがとう 感謝の想いは尽きない 真矢と話していると足元に流生が抱き着いた 康太は流生の頭を撫でて「ただいま流生」と声をかけた 「おかえりにゃさい、かぁちゃ」 「お留守番寂しかったか?」 流生はコクッと頷いた 「ごめんな‥‥淋しい想いばかりさせて‥‥」 「りゅーちゃ、ちゃんとおるすばんできりゅ! さみしーけど、ちゃんとおるすばんできりゅ! らから、かならじゅ‥‥かえってきて‥」 「当たり前じゃねぇかよ! 必ず還って来るに決まっているじゃねぇかよ!」 康太は流生を強く抱き締めた 流生は康太に縋り着いて顔を埋めた 康太は翔や音弥、太陽、大空、烈に「おいで!」と声を掛けた 音弥達は康太に飛び付いて、母のぬくもりを確かめんばかりに縋り着いていた 「お留守番、良くできたな」 康太が言うと音弥が「えらい?」と聞いた 康太は音弥の頭を撫でて「偉いぞ!よく頑張ったな」と誉めた ホテルへ戻ると一旦部屋へ戻る事にした 康太は「一生、来い!」と言い一生を連れて榊原と共に部屋へと戻って行った 聡一郎は心配そうな顔をして康太達を見送った 兵藤は聡一郎に「んな顔するな!」と声をかけた 「解っているんですが‥‥」 すみません‥‥と謝った 「大丈夫だ!アイツには康太さえいれば大丈夫だ! 昔からそうだったろ?」 「‥‥‥そうでしたね‥‥昔からアイツは炎帝さえいれば良かったですものね」 「そうそう!って事で俺の部屋で飲み明かそうぜ!」 兵藤が言うと玲香が「おお!ならお主の部屋で飲み明かそうかのぉ!」と乗って美緒と悪のりして兵藤に着いて逝く算段をした 兵藤はトホホな顔をして全員で部屋へと向かった 歩き疲れた子供達は、兵藤のベッドを占領して 飛鳥井の家族や真矢と清四郎、そして聡一郎、隼人、慎一が子供連れて飲んでいた 慎一そっくりの顔の和真と、多分妻に似たのであろう和希 女の子みたいな優しい顔をした北斗と共に、慎一は静かに飲んでいた 勿論、子供達はジュースを、飲んでいた 隼人は瑛太に「瑛兄、話があるのだ」と問い掛けた 何を言われるのか解っている瑛太は「ええ。誰かが来ると想っていました」と答えた 「瑛智が可哀想なのだ‥‥」 「解っています‥‥ですが瑛智を愛せば‥‥ 側にいない子達が‥‥哀れで‥‥ついつい距離を取ってしまいました‥‥」 「瑛智は瑛兄の子なのだ 愛してやらないのは可哀想なのだ 側にいられない子達には‥‥もう 触れられないのだ 触れられる子をおざなりにするのはお門違いだと想うのだ」 厳しい一撃だった 瑛太は驚いた瞳で隼人を見て‥‥直ぐ様謝った 「すみませんでした 逃げでした‥‥翔は総てを知っているのでしょ? あの瞳で視られると‥‥堪らなくなるのです そんな時私はどうして良いか解らなくなるのです‥‥」 「翔に限らず‥‥康太の子は何かを感じていると想うのだ 段々現実が見えて来る年になるのだ 何時までも隠しておけないと康太は覚悟を決めている それで飛鳥井に残らずとも良いと‥‥康太は想っている 何処へ逝こうとも自分の子だ 幸せでいてくれたらそれで良い‥‥最近の康太の口癖なのだ」 「‥‥‥飛鳥井の血を引く子達も、そうでない子達も‥‥力があると康太は言ってましたね ならば‥‥気付いているのでしょうね」 「子供は大人が想うほど無知じゃない 誰よりも見ているのを忘れちゃいけない 瑛智は“自分”を見て欲しいのだ 愛して欲しいのだ‥‥瑛兄と京香が愛してないとは謂わない だけど‥‥そろそろ見てやる時だと想うのだ」 京香は泣きそうな顔で隼人を見ていた 愛する者を亡くした想いを誰よりも知る隼人の言葉は重かった 大人の男の顔をした隼人に、桜林時代の甘えた雰囲気はなかった 京香は「すまなかった隼人‥‥」と謝った 「オレ様に謝罪は必要ないのだ 謝るなら瑛智の話にもっと耳を傾けてやるのだ でなくば‥‥愛されたいと謂う想いばかり抱えた淋しい魂しか抱けない奴になるしかないからな‥‥」 自分の様に‥‥ 淋しい魂を抱く出来損ないなど誰にもなって欲しくはないのだ‥‥ 京香は耐えきれなくなり泣き出した 瑛太がそっと京香の肩を抱いた 隼人は立ち上がると窓の外を眺めて 「オレ様は康太に拾われた‥‥だから救われた それがなかったら今もオレ様は空っぽで現実の見えない馬鹿だったと想うのだ」と呟いた 聡一郎が隼人を抱き締め 「君には康太がいます 僕達がいます‥‥」 「オレ様は康太の長男だからな」 「そうですよ! また明日から始めないと‥‥ね。 その為に康太はハワイまで来たのですからね」 「始まりの朝‥‥なのだ」 「そうです。この地から始まった旅はまだまだ途中ですからね‥‥ 再び始める為に全員で見たかったのですよ」 「オレ様も‥‥始めるのだ‥‥音弥に恥じない日々を‥‥菜々子に恥じない日々を‥‥」 「ええ‥‥始めましょう‥‥」 聡一郎はそう言い隼人を抱き締めた そして一生に想いを馳せた 一生‥‥再び始めましょう‥‥ 君が捨てたこの地で‥‥ 一生を連れて部屋に戻った康太は部屋に入るとソファーにドサッと座った そして一生の顔を見た 一生は‥‥観念した瞳で‥‥康太の瞳を受けた 「一生、あんで呼ばれたか察しは着くか?」 「不安定だったからだろ?」 「来たくなかったか?」 一生は首をふった 「オレはまたお前に酷い事をしているのか?」 「違う‥‥違う康太‥‥」 「お前の心は今も血を流し、想いを馳せている あの時からお前は‥‥心に悔いを遺し‥‥日々を生きている 無理矢理動かした時は、刻むたびに‥‥お前を苦しめているのか?」 「康太、俺は自分の意志でこの地に来た 始まりの朝を皆で見る為に来たんだ そろそろ重い後悔を下ろして歩き出そうと想っている‥‥ 前(未来)を見ねぇとな‥‥ 離れて暮らしていた時、現実を刻もうと心に誓った その想いは今も忘れちゃいねぇ」 「なら‥‥あんで‥‥んなに不安定なんだよ?」 「想いに心が着いていけてねぇみてぇだな」 一生が言うと康太は爆笑した 「大丈夫だ一生 今世も来世もオレ等は共に在る」 「それは嫌だな‥‥来世を終えたら離れ離れになるみてぇじゃねぇかよ?」 「オレは来世を終えれば冥府に逝く」 「なら俺は赤い蛇になって冥府の片隅にでも暮らす事にするから、ずっと一緒だ!」 「そうか‥‥ならば重い荷物を下ろせよ」 「それは無理だな‥‥これは俺の罪だからな‥‥そんなに簡単には下ろせねぇんだよ」 「難儀な奴だな」 「俺は何一つ忘れる事もないし、どれだけ苦しくても‥‥その苦しみを手放すつもりもない」 一生が言うと榊原は一生の背後から腕を回し抱き着いた 「‥‥貴方の姿を知れて良かったです‥‥」 兄とは名ばかりで‥‥口を聞く事すらなかった 遠巻きに軽蔑して距離を取っていた 赤龍の何一つ見ていなかった なにも知らずにいなくて良かった 君を知れて良かった‥‥ 榊原は心の底から想った 一生は榊原の腕のぬくもりに甘えて‥‥ 「俺も‥‥お前を知れて良かったぜ 踏み出せば見えてくる生身のお前が見られて本当に良かったと想うぜ」 「‥‥赤龍‥‥何故女神と逝かなかったのですか?」 「一緒に逝って‥‥幸せになるには‥‥多くの人を傷付けて来たからな‥‥ 俺等が幸せになったらいけねぇと想ったんだ それと‥‥その愛を選ぶと謂う事は‥‥ 二度と康太に逢わないと謂う事を指す あの人は‥‥捨てられないでしょ?って謂って笑ったよ 私も生まれて来た過去は捨てられないの‥‥って‥‥あの人はそう言い赦してくれたんだ」 「僕は‥‥貴方が還って来なければ良いと想った‥‥ それで貴方の愛が報われるなら‥‥そう想って止みませんでした」 「伊織‥‥」 「過去は変えられない だけど未来は変えられる そう言い康太は送り出した筈です 君が逝きたい先に送り出した筈です なのに君は逝かなかった‥‥ならば苦しむのはお門違いだと想うのです」 「手厳しいなぁ‥‥」 抱く腕は優しいのに‥‥ 「君がこんなに世話が焼ける人だとは知りませんでした」 「俺も‥‥お前がこんなにも優しいなんて知らなかったぜ‥‥」 「魔界にいた僕は‥‥誰にも優しくはありませでしたからね‥‥」 「‥‥?」 「親の期待を裏切らない様に自分を律し‥‥レールからはみ出さない為に必死でしたからね 僕が‥‥自分を出したのは‥‥炎帝を愛した事だけでした 愛したからと謂って手に入るなんて想ってもいませんでした 炎帝は黒龍のモノだと想っていましたから‥‥ そう想っていても‥‥堪えきれず抱いてしまいました‥‥ 優しさの欠片もなく続いた関係に‥‥僕は今も後悔しか遺してはいません‥‥」 「魔界にいた頃のお前からは、んな後悔は微塵も垣間見れなかった だからお前が炎帝と駆け落ちした時には、めちゃくそ驚いた‥‥ その時、俺も兄貴も親父たちも‥‥青龍の何も見てなかったんだなって想ったんだ 何一つお前の事を知ろうとしなかった結果だと想った お前が今幸せで本当に良かった」 「僕は幸せです なくしたくないから‥‥僕は闘い続ける所存です」 榊原の言葉に一生は笑って 「お前らしいって今なら想うぜ」と言った 「一生、始まりの朝を皆で見ましょう」 「あぁ‥‥そのつもりで来た」 「‥‥この先‥‥何があろうとも揺るぎない明日を刻みましょう」 一生は康太の方をバツの悪い顔で見た 康太は笑っていた 一生は康太に「音弥の足の具合はどうよ?」と問い掛けた 「久遠がハワイでオペしたらどうだと言ったんだよ こっちの方に久遠の知り合いの医者がいるって言ってたから慎一に逝かせたんだ」 「で、どうするのよ?」 「多分オペになる そしたら交代でハワイに来ねぇとならねぇ事になる」 「俺も協力出来る事はする そのつもりで還って来たんだからな」 「お前がハワイに来るなら、オレの知り合いの人間に逢わせようと想っている そこでも学ぶと良い、篠原の知り合いでもあるからな」 「揺るぎねぇ明日に繋がるならなんでもやるさ! 俺はもう道は違えねぇ!」 そう言い康太の瞳を射抜いた 康太はその瞳を受けて笑った 「その顔が出来るなら心配ねぇな さてと貴史の部屋に逝って朝に備えようぜ!」 康太はそう言うと立ち上がった 榊原は康太を抱き締めて「愛してます」と伝えた 「オレも愛してるぜ青龍」 意識が戻りつつあるのを察しして康太は青龍と呼んだ 青龍にとって未だに草っぱらで犯った冷遇した時代はトラウマでもあるのだ 怖いのだ‥‥ 嫌われたら死んでしまいたくなる程に‥‥ 怖いのだ そんな青龍の想いを鑑みてぬくもりを与えた 榊原は康太の頬に口吻けを落とすと、肩を抱いたまま部屋を後にした 兵藤の部屋に襲撃をかけに向かう 兵藤の部屋のドアをノックすると慎一がドアを開けた 「一生は大丈夫ですか?」 「大丈夫だ、んなに心配するまでもなかった」 「それは良かったです」 慎一は康太と榊原と一生を部屋に入れた 部屋の中は酔っぱらいの巣窟と成り果てていた 兵藤はソファーに座って「よぉ!片付いたか?」と問い掛けた 「おー!少しだけ、ナーバスになってただけだ! んなに重症じゃねぇからな連れて来た」 「そうか、それは良かった まぁ普段が結構煩いからな大人しいと勘繰っちまうんだよな」 兵藤はそう言い笑った 夜が明けるまで部屋で過ごし 夜が明ける前に子供達を起こして砂浜へと移動した 眠い目を擦りつつ流生達は砂浜へと向かった 砂浜に皆で寝て夜空を眺めた 流生は「ちれーね」とキラキラした夜空をみて言った 翔は落ちてきそうな星空を眺め 音弥、太陽、大空も無言で夜空を眺めていた 兵藤は「俺は別行動だったからな、それだけが悔やまれる」とボヤいた 聡一郎は「生徒会長が規律を破ったら大変でしょ?」と現実を見ろと言わんばかりに言った 桜林学園 高等部生徒会長 兵藤貴史 彼の経歴に傷を着けない為に康太は距離を取り 兵藤は康太を切り捨てて手に入れた地位に負い目を感じていた 康太は「今一緒だからいいやん」と簡単に言ってのけた 兵藤はあまりにも簡単に言われて笑った 「だな‥‥これから一緒なら‥‥それで良いか?」 「お前はオレの前にいる オレはお前を見届ける‥‥約束だからな」 「約束は守れよ!」 見届けると言う事は兵藤よりも長生きせねばならない約束だ 康太は曖昧に笑って答えなかった もう約束できる明日は‥‥なかったからだ‥‥ 短命な自分に兵藤を見届ける時間は残ってはいなかった 康太は流生に「次は仲間と見ろ!始まりの朝を刻む仲間と見るんだ‥‥」と言葉にした 「はじまりのあちゃ‥‥こころにきざむにょ」 「そうだ‥‥朝陽を見るたびに思い出せ 母と父は‥‥お前達と共にいた事を‥‥思い出してくれ‥‥」 「‥‥かぁちゃ‥‥」 康太は祈る様に言葉にした 音弥は母に抱き着いた 流生も母に抱き着き 「じゅっといっちょにゃにょ!」と訴えた 康太は笑って「ずっと一緒だ流生、おめぇの母はオレだけだろうが!」と言葉にした 「そーにゃにょ! りゅーちゃのかぁちゃはひとり! かぁちゃだけなのにょ!」 康太は流生と音弥を強く‥‥強く抱き締めた 太陽も大空も翔も烈も母に抱き着いた 「オレの大切な子だ オレの愛する子だ 母はこの命よりもお前が大切だ」 翔は康太をじーっと見た 射抜く様にじーっと見て 「かぁちゃ、かけゆはまだまだみじゅくゆえ、くたばるのは、じきそうしょうでしゅ!」と訴えた 翔の言い方に康太は爆笑した 一生は「何処で覚えて来るんだ?そう言う言葉?」と古くさい言い回しを言った 榊原が一生の疑問に答えた 「翔は飛鳥井家真贋ですからね 菩提寺へ逝けば大人が翔の前に傅くのです 回りは皆大人ばかりの世界に‥‥翔は真贋と謂う重責を背負って生きているのです なので自分の言葉は一字一句違えるのは許されないのです そんな世界に身を置けば‥‥古式ゆかしい言葉になるしかないのです」 「‥‥飛鳥井家真贋‥‥そうだったな翔はもう次代の真贋として扱われてるんだったな」 こんな小さいのに‥‥ 子供が背負える荷物じゃないだろうに‥‥ 「康太はもっと大変でした‥‥何時の世も稀代の真贋は短命でしたからね‥‥ やっと悪しき風習を終えるさせる事が出来た そうして‥‥果てへと繋がって逝く 康太にはもう来世の転生はありませんけど‥‥見守って逝こうと想っています」 「俺らも見守って逝くと約束する 何があろうとも見守って逝くと約束しよう!」 榊原はなにも言わず微笑んだ 長い間、たわいもない話をした 昔の事 今の事 未来の事 夢を見る様に話をして‥‥ 夜が白むと立ち上り朝陽を待った 太陽が水平線から顔を出すと辺りが照らされ黄金に輝く 太陽が「かぁちゃ!」と朝陽を指差して叫んだ 音弥は「まぶちぃね」と目を細め 大空は「はじまりのあちゃなんらね」としみじみ言葉にした 翔はその朝陽を瞳と脳裏と胸に刻み付け 流生は「りゅーちゃ‥‥わすれにゃい!」と言葉にした 兵藤は「今まで見たどんな朝陽よりも美しいと感じるな」と呟いた 康太は「ハワイで朝陽を見た時、何時か天国に一番近い島に行こうなって約束したんだ‥‥まだ逝けてねぇけどな 何時か必ず行きてぇと想っている」と懐かしそうに口にした 隼人は「そうなのだ!何時か本当に逝こう‥‥康太」と朝陽から目を離す事なく口にした 「そうだな、時間を作って逝こうな」 「約束なのだ」 「あぁ約束しよう隼人 此処から再び始めて天国に一番近い島へと逝こう」 「その時の自分に負けない様に頑張るのだ」 今の自分は弱くとも、再び歩き出し今よりずっと強くなると心に誓う 兵藤は「俺も混ぜろよ」と仲間外れにするなよ!と釘を刺した 康太は笑って「あぁ一緒に逝こうな」と口にした 真っ赤な朝陽が昇る 生命力の塊の様な朝陽が辺りを照らす 目に眩しい光を放つ朝陽は、あの朝と同じ様に康太達を照らしていた 一生は朝陽を見つめ 「あの日の朝陽も綺麗だったが‥‥今日の朝陽も綺麗だな」と呟いた 流生は黙って一生を見上げていた 時々流生は何も謂わず一生を見ている時がある 昔みたいに一生にベッタリと謂う事はなくなったが、時々近付く事もなく黙って見ている時があるのだ 一生は流生の視線に気付いていた 何時の時も気付いていた その視線に糾弾されているかの様に感じた時もある 流生に恥じない自分でいたい そう思って焦った時もある 抗って藻掻いて悪足掻きして‥‥北斗や力哉を苦しめた 前が見えず迷路の中に置き去りにされたみたいに、進むべき先が見えずに焦った 離れてみて‥‥やはり康太の傍に還りたいと切実に想った 離れている苦しみの果てに、共に逝く覚悟をした だから胸を張ろう 誇れる背中を見せて逝こう だからもう振り返らない 逝くと決めたから前を向き胸を張る 一生は笑っていた 屈託のない笑顔で笑っていた 「康太、約束したなら叶えねぇとな! 時間は待ってても来てくれねぇ 自分で作らねぇと約束は果たせねぇからな! お前が‥‥今か抱えている厄介な奴との問題が片付いたら必ず逝こうぜ!」 「だな、必ず逝こう! 天国に一番近い島へ逝こうな!」 康太が呟くと兵藤が疑問に想っている事を口にした 「あんで天国に一番近い島よ? 朝陽を見るなら太陽に一番近い島じゃねぇのかよ?」 その質問には榊原が答えた 「‥‥‥天国に一番近いんだから太陽にも一番近いんだろうなって‥‥想っているんですよ」 「成る程‥‥一理あるな」 「まぁ僕達は天国に一番近い島に逝く前に、天国に一番近い事故に遭いましたけどね」 榊原はそう言い笑った 兵藤はそれは笑えねぇよ!とボヤいた みんなで見る朝陽だった 心に刻む朝陽だった 此処から始めよう 始まりの朝を迎えよう 歩き出す 一歩一歩 逝く道は険しくとも この日見た朝陽を忘れない 心を照らす朝陽を忘れない だから、始まりの朝を迎えよう

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