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第63話 雪やこんこん
幼稚舎からの帰り道
雪が降っていた
音弥は、ゆちやこんこん、おとたんもこんこん♪と歌を歌っていた
歌の通り音弥は風邪を引いていた
康太は音弥の首にマフラーを巻いてやった
「辛くないか?」
「らいじょうび」
音弥は鼻水を垂らして頬を林檎の様に真っ赤にして答えた
他の子も少々風邪気味だった
「皆、早く家に帰るぞ」
康太はそう言い家路を急いだ
太陽は「かぁちゃ」と呼び掛けた
「何だ?ひな」
「わんわん、ゆちふるとよろこぶんらよね?」
なのに駆け回っている犬はいなかった
康太は苦笑して
「犬も散歩に出たくない程に寒いんだよ」と答えた
謂われて音弥は散歩に出たがらないコオを思い浮かべた
「コオたん‥‥としなのかなにゃ?」
「年もあるけどキノコ狩りの時に痛めた足が痛むんじゃねぇか?」
秋に行ったキノコ狩り
コオとイオリとガルも同乗していた
その時コオは足を骨折した
以来、骨折は治ったけど痛むのか走り回らなくなっていた
そして寒さが身に堪えるのか出歩く事すら拒絶する様になっていた
そもそも日本にいる犬がトリュフ犬並みの力を発揮するかは定かではない
ないのに康太はコオ達ワンにキノコの匂いを嗅がせて見つけ出させようと企んだのだ
結果、キノコを見付けに逝く前にあの世に逝きそうになったのだが‥‥
「コオたん‥げんきににゃるといいね」
「だな‥‥」
そう言い康太は雪が本格的に降る空を見上げた
「早く帰って散歩に逝かねぇとな‥‥」
康太が呟くと一生が
「こうも寒いと逝かねぇと想うぞ」と苦笑して言った
「犬は喜び庭駆け回る‥って嘘だな
うちの犬は雪で喜びやしねぇかんな」
「まぁガル辺りは喜ぶかもな」
「ならガルを連れて散歩に出るとするか」
「だな、でも音弥はお留守番だな」
「伊織に病院に連れて行って貰うか‥」
「旦那帰って来るって?」
榊原は会社に出勤中で、康太は午前中真贋の仕事が入っていて別行動だった
「雪が降るから早めに帰るって言ってたからな、帰ったら全員病院に連れて逝くつもりだ
オレはまだ免疫が低下しているから病院とかは避けてとならねぇとダメだかんな」
「俺も手伝うし、お前はガルの散歩でも行ってろ」
「ありがとう一生」
一生は康太を気遣い家まで子供達と向かった
家に入ろうとするとクラクションが鳴らされ振り向いた
すると榊原が窓を開け
「音弥は?」と心配した顔で問い掛けた
「伊織お帰り」康太は嬉しそうな顔で榊原を見て
「病院に連れて行ってもらおうと想っていた」と伝えた
「解りました
全員車に乗せて下さい」
榊原が言うと一生は「音弥だけじゃなく?」と問い掛けた
「一人が風邪をひくと連鎖で引きますから今から見せておいて予防をするつもりです」
成る程‥‥と一生は納得し、子供達を車に乗せドアを閉めた
一生は榊原に「俺も後を追って逝くから!」と告げると榊原は「待ってます」と言い車を走らせた
一生は康太に「なら俺も病院へ逝くとするわ!」と告げて歩き出した
康太は雪を払って家の中へと向かった
玄関を開けて家の中へ入ると烈が飛び掛かって来た
「あーちゃ!」
「お!烈、どうしたよ?」
康太が問い掛けると怜香が応接間から顔を出した
「烈、インフルかも知れぬからな病院へ逝く所じゃ」
「‥‥インフル?なら音弥もインフルかな?」
康太が言うと怜香は鼻水を垂らしていた音弥を思い浮かべた
「音弥はどうしたのじゃ?」
「今、伊織が病院に連れて行った」
「なら今から追えば合流出来るな」
怜香はそう言い携帯を取り出し榊原へ電話を入れた
何やら話をつけて電話を切ると
「なら我も出掛ける故に大人しくしておるのじゃぞ?」
「ガルとオレは散歩に逝くつりなんだけど?」
「止めておくがいい
お前まで滑って怪我をしたら事故の連鎖の憂き目に合うわ!
お前が怪我したなんて聞いたら伊織と瑛太と清隆が飛んで来るではないか!
そしたらこの悪天候では‥‥謂わぬとも解るな?」
康太はうんうん!と頷いた
「なら大人しくしておるのじゃぞ?」
怜香はそう言い慌ただしく烈を連れて出掛けて行った
応接間のソファーに座り窓の外を見てみると、雪は本気的に降りだしていた
康太はコオとイオリとガルの傍へと寄った
「コオ、イオリ、ガル、外は雪だぞ?」
コオは外を見て‥‥寒そうに身震いすると丸くなった
イオリはコオの躯体を舐めて温もりを確かめる様に寄り添った
ガルは楽しそうに雪を見て跳び跳ねていた
「ガルは雪が好きか?」
問い掛けるとガルは『ワン!』と返事をした
「なら散歩に逝くか?」
康太はリードを取り出してガルにはめようとすると応接間のドアが開いて
「止めて下さいね
滑って骨折しますよ!
雪の降るなかウロウロ歩いて、滑って想わず地面に手を着いて、手首を骨折して手首にプレート入れたいのですか?」
「それは嫌だわ‥‥」
振り向くとそこには慎一が紅茶を持って立っていた
「やけに詳しく言ったけど‥‥誰か手首にプレート入れた奴いるのか?」
「‥‥‥ええ‥‥まぁ‥‥知りたくもないですけど、古傷が痛むとか言ってますからね」
「誰だよ?そんなドジな奴?」
「‥‥‥聞きたいですか?」
「おう!」
「誰かは教えられませんが‥‥‥
雪がめちゃくちゃ積もった翌朝にアイスバーンと化した道を止めとけば良いのに、わざわざ病院へ行き診察される前に‥‥滑って転んで慌てて手を着いて‥‥ポキッと折れて‥‥
救急車で病院に行ったと言う‥‥ドジな奴の話ですけどね
手首にプレート入れられ今も時々古傷が痛んでる‥‥救いようのないドジな話です
そうなりたくないなら雪の降る日に外に出るのは止めときなさい!」
「‥‥‥そうするわ‥‥」
聞くんじゃなかった‥‥と康太は想った
「伊織から電話がありました
くれぐれも康太を外に出さないで下さい!と。
なので散歩は諦めて下さい」
「‥‥‥解った」
「さぁケーキを焼いたので食べて下さい」
康太はソファーに座るとティーカップに口をつけた
そして慎一が焼いてくれたケーキを食べ始めた
外は更に激しく雪が降っていた
暫くすると榊原が子供達と共に還って来た
応接間に入ると子供達は母に飛び付いて甘えた
康太は我が子を抱き締めて榊原に「インフルだった?」と問い掛けた
「ええ。音弥はインフルエンザでした
太陽と大空はインフルエンザ反応が出ました
なので一週間は幼稚舎には行けません」
「なら部屋に連れて行って寝かせるか‥‥」
康太が言うと音弥は康太の膝にしがみついた
「‥‥おとたん‥‥ひとりでねりゅのいや‥」
「‥‥音弥‥‥」
音弥が言うと翔が康太の前に立ち
「‥‥おとたん‥‥ここにねさせたららめ?」
と訴えた
康太は榊原を見た
榊原は笑って我が子を抱き締めた
「みんな一緒が良いんですね
なら応接間はダメです
義父さんや義母さん、義兄さんに移りますからね」
榊原が言うと玲香が「そんな事は気にせずともよい!予防接種は受けておる!
それでも発症するなら運が悪かっただけであろうて!
インフルならば会社も休めるし、いい休養が出来るではないか!」と言い笑い飛ばした
榊原は困った顔をしていたが、慎一に言って客間の布団を二組応接間に運んで貰った
コオ達のゲージの横に布団を敷いて音弥と太陽と大空を寝かせた
音弥は窓の外の雪を楽しそうに見て
ゆちやこんこん、おとたんもこんこん♪と歌っていた
辛い日も皆と一緒なら‥‥頑張れる
そんな音弥を見てコオは立ち上がった
事故からこっち傷が傷んだ
事故の恐怖も抜けきらず‥‥
甘えて楽な方へと向いていたのだ
イオリがいてくれたのに‥‥
ガルがいてくれたのに‥‥
コオは音弥の顔をペロペロ舐めた
頑張れ!
頑張れ!
と祈る様に舐めた
音弥は「こおたん、いたきゅにゃい?」と心配してくれた
優しい‥‥
康太の子はどの子も優しい
コオは『ワンワンワワン(痛くないよ)』と鳴いた
一緒に散歩に行こう
共にいられる時間はそんなに長くはない
だから一緒にいられる時間は大切なのだ
コオは雪を見上げてクルクル回った
流生は楽しそうにコオを見て撫でた
太陽は「ゆちだるま、つくりたいね」と楽しそう
大空も「かなのてぶきゅろ、あげゆ」と雪だるまさんを思い浮かべて言葉にした
翔は「ならボクのまふらー、かしてあげゆ」と楽しそうに言った
雪は嫌だけど楽しい事が沢山詰まっている
康太は雪を見て、今頃は魔界も雪が降っているだろうな‥‥
と厳しい冬を思い浮かべていた
吐く息が凍りそうに寒い吹雪を背景に立つ青龍は何時だって寒さを感じさせずに立っていた
寒くはないのかな?
あの冷えきった手を暖めてあげたい‥‥
ずっとそう思っていた
「青龍を暖めてやりたかったな‥‥」
康太は小さな声で呟いた
「僕は暖めてくれないのですか?」
少し妬いた声で言う
自分なのに‥‥
康太は笑って「暖めるに決まってるやん‥」と答えた
榊原は康太の手を握り締めると微笑んだ
烈が康太に甘えて抱き着いて来ると、抱き上げて頬に接吻けた
「あーたん」
烈は本当に甘えん坊さんだった
康太は烈のおでこに冷えピタを貼って、音弥の横に寝かせた
「寝てろ」
ぜーぜー言ってる烈を寝かせる
音弥は「ゆちやこんこん、れちゅもこんこん♪」と歌っていた
雪がしんしん降り続けたが部屋の中はぬくもりに包まれていた
ゆちやこんこん、おとたんもこんこん♪
れちゅもこんこん♪
音弥の歌が何時までも響いていた
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