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第66話 3月3日ひな祭り

  あかりをつけましょ ぼんぼりに   おはにゃをあげまちょ ひなたんに   ごにんきょうらいの ふえらいこ   きょうはたのちぃひにゃまちゅり! 音弥は楽しそうにお歌を歌っていた 太陽はそのうたを楽しそうに聞いていた お迎えに来た康太は‥‥おいおいと想い 「ひな祭り‥‥ひなの日だって勘違いしてねぇか?」と呟いた 榊原は苦笑して 「みたいですね‥‥ひな祭りなので太陽(ひなた)の日だと想っているのでしょうかね?」 流生は「いいにゃぁ、ひなたんらけいわってもらって‥‥」と拗ねた様に呟いた 「流生、今日は女の子の祝いの日だ 太陽を祝うじゃねぇぞ?」 「れも‥‥みんにゃ‥‥ひなのひらって‥‥」 流生は泣きながらそう言った 康太は困った顔で榊原を見た 榊原は流生を抱き上げて 「‥‥そう言えば‥‥うちには女の子がいませんでしたね! なのでおひな祭りは無関係だと想っていました」 と困った顔でどう言えば良いのかと‥‥思案していた 飛鳥井には女の子はいない 見事に男の子ばかりいるから屋上に鯉のぼりを上げて応接間には五月人形を飾っているのだ 「女の子がいるとひな祭りやらねぇとならねぇのか‥‥」 と康太は今更ながらに呟いた 幼稚舎から家まで歩いていると車が停まった 「康太どうしたのですか?」 声をかけて来たのは戸浪海里だった 康太を訪ねて飛鳥井の家へ行こうと向かう途中で康太達を見掛けて声をかけたのだ 「若旦那、お久しぶりです どちらへ向かわれるのですか? お時間があるなら寄って逝きませんか?」 康太が声を掛けると戸浪は車から下りて康太の傍へと向かった 秘書の田代は「では飛鳥井の家の駐車場へと停めさせて戴きます」と先に走って逝った 戸浪は「どうしたんです?」と困った顔をしていた事を問い掛けた 「うちは女の子がいないからひな祭りはやった事がないんですよ! でも幼稚舎でひな祭りの歌を教えて貰ったのか歌っていたのです」 「音弥あたりはお歌が大好きだから歌っていそうですね」 にこやかに戸浪は謂う 音弥は何時も楽しそうにお歌を歌っている所しか見ていない気がする 「そうなんですよ 音弥の歌を聴いててください」   あかりをつけまちょ ぼんぼりに   おはにゃをあげまちょ ひなたんに   ごにんきょうらいの ふえらいこ   きょうはたのちぃひにゃまちゅり! 「‥‥‥!!!‥‥康太の言いたい事が解りました‥‥」 戸浪は太陽を見た 「雛はひなでも‥‥ひなちゃん‥‥の事ですか?」 「そうなんだ‥‥どうしてひなは誕生日でもないのに祝われるの?ズルい‥‥と言われた」 「‥‥飛鳥井には女の子はいませんでしたね‥‥」 「そうなんだ‥‥で、ひなの日じゃねぇと教えていた所だ」 「そうでしたか‥‥女の子がいれば女の子の節句なんだと解りそうですがね‥‥ 我が家も女の子はいないので‥‥参考にはなりませんですけど‥‥」 戸浪は役に立たなくてすみません‥‥と謝った 音弥は戸浪の手を取ると「いっちょにかえるにょ!」と言いお歌を歌いながら歩き出した 流生は笑って兄弟達と歩いていた 目元が妹の子供の時に似ているなと想えた 子供の成長は早い 康太に託した時は‥‥お猿さんみたいな顔だったのに‥‥ 一生に酷似した顔だが、その中に確実に妹の面影を見せ付けられると‥‥ 何処の誰とも解らぬ他人に里子に出さなくて良かったと想えた 飛鳥井の家に還り応接間へと向かう 応接間には田代が既に座っていた 家の前でクラクションを鳴らしたら慎一が出て来て地下駐車場へのシャッターを開けてくれたのだ 慎一は帰宅した主に「お帰りなさい、どうでした?」と尋ねた 「ひな祭りは太陽の日だと想っているらしくてな‥‥説明に困っている うちにはお雛様やる女の子がいねぇからな」 慎一は絶句した ひなはひなでも、ひなたのひなと勘違いしたと謂うのか‥‥ 「‥‥俺も‥‥説明に困ります」 「だろ?こんな時‥‥どうしたら良いんだろうな‥‥」 康太が困っていると田代が 「ならば我が家に来ますか? お雛様が出ていますからねお祝いするのは女の子だと解る筈です」と提案を出した 康太は返答に困った 田代の一番下の子供は去年海外に渡って手術を受けた 康太が紹介した医者は海外で実績を積んでいる小児医療の第一人者だった 田代の子を見るなり医者は海外のオペを提案して来た まだまだ国内では臓器移植を子供にするのは難しい環境だった 順番待ちをしている子が何時来るとも解らない臓器提供を待てずに‥‥と謂う現実があったからだ 田代は双方の両親の協力を得て、海外でオペに踏み切った 5才まで生きられないと謂われた子が、6歳になり来年小学校に入学する それもこれも総ては康太が指し示してくれた明日があったからだった 田代は「もううちの子は元気になって普通の生活が営める程に回復しました なのでそのお礼を兼ねて、是非ともご招待したいのです 今日、此方に来たのはそれを伝える為です 俺がそれを謂う為に出向こうとするのを社長が便乗して着いて来ただけです! なので是非ともご招待したいのです」と飛鳥井の家に来た経緯を話した 康太は「なら伺うとするか、お前達、良い子にしてるんだぞ?」と子供達に声を掛けた 「「「「「あい!」」」」」 良いお返事だった 玄関のドアが開く音が聞こえるとバタバタと足音がした 「あーたん!」と叫びながら烈が還って来たのだった 康太の胸に飛び込んで「たらいま!」と烈は言い母に甘えた 「烈、お帰り」 その後を真矢が「烈、ばぁたんが焦るので走って逝くのは止めなさい!」とボヤきながら顔をだした 康太は「義母さんお帰り」と声を掛けると真矢は笑って 「ただいま 今日は私が烈を連れに行きました」 「ありがとう母さん 烈はやんちゃ盛りだから大変だったでしょ?」 「良い子にしてたんだけどね、家に帰るなり走り出したのよ」 真矢は一息着いて田代と戸浪に気づいた 「あら、若旦那と田代くんじゃない!どうしたの?」 真矢が問い掛けると、榊原はひな祭りの経緯を話して、これから田代の家にお招きされる事を告げた 真矢は「私は行っちゃダメかしら?」と拗ねた口調で問い掛けた 田代は「真矢さんも是非ともお越し下さい! 妻が真矢さんのファンなので‥‥サインをねだるかも知れませんが‥‥」と困った口調で‥‥告げた 「サインなんて何枚でもしますとも! ふふふ‥ファンだなんて嬉しいわ 今度の舞台のチケットをプレゼントさせて貰うわ その前に少し待ってて、伊織、私を家まで乗せて逝きなさい」 真矢は榊原を急かした 榊原は母の可愛い我が儘をきくべく真矢と共に応接間を後にした そして戻って来るとなんやら荷物を持って‥‥ 着飾っていた 女優オーラが半端ない‥‥目をやられそうな輝きだった 田代の車のステップワゴンに康太と康太の子供達が乗り込んだ 榊原は母と慎一を乗せて田代の後を着いて逝く事になった 戸浪は榊原の車の助手席に乗り込んだ 榊原は「こんなに沢山で押し掛けて大丈夫なのですか?田代の子は‥‥元気なのですか?」と心配そうに問い掛けた 戸浪は「今度は元気すぎて‥‥手を焼いてるそうなので大丈夫ですよ」と苦笑して言った 「それは良かったです 京香の子が‥‥手を尽くす甲斐なく‥‥逝きました 母親の‥‥悲しむ顔は見たくないですからね」 「‥‥京香さんのお子が? それは何時の頃の話ですか?」 「半年‥‥経っていません 京香は最近まで体調を崩して入院していました」 「‥‥‥それは‥‥知りませんでしたので御悔やみも謂えませんでした 御心痛な事でしょうね‥‥」 「お気になさらずに‥‥誰にも申しておりませんから‥身内しか知りません‥‥」 「今度、みなさんを逗子の方の料亭にご招待致します その日は1日のんびりと過ごそうではありませんか 京香さんも‥‥骨休めをされると良い 私の子も大きくなりました 海と煌星をみなさんにご紹介する良い機会でもあります 席を設けさせて下さい」 「煌星‥‥大きくなりましたか?」 「ええ!結構良いガタイをしています 烈を見てると烈と似たガタイです お兄ちゃん達は煌星に甘くていけません!」 「あぁ‥‥雅龍は体躯が確りしてましたからね‥‥」 榊原はそう呟き‥‥そして笑った 「一番甘いのはパパじゃないのですか?」 「痛いところを突いて来ますね」 戸浪はそう言い笑った 田代の家は郊外から離れた結構田舎街だった 田代は昔話の絵本か何かに出て来る様な庄屋が住んでいそうな大層立派な日本家屋の前に車を停めた 榊原は「田代の家ですか?」と戸浪に問い掛けた 「知りません、私も初めてなので‥‥」 社長が秘書の家をわざわざ知る必要などないのだ だから戸浪は田代の家を見るのは初めての事だった 田代は車から下りると康太と子供達を車から下ろした 榊原は車から下りると康太の傍へと向かった 流生が父の足に抱き着くと、榊原は流生を抱き上げた 田代は門を開けて家の中へと康太達を招き入れた 「古い家ですが‥‥ご先祖代々の家なので‥‥」 家の中は近代的にリフォームの手が入っていた 玄関を開けると田代の妻が「良くいらして下さいました!」と出迎えくれた 田代の妻は‥‥パッと見、女子高生でも通用しそうな可愛げな子だった 榊原は「未成年に手を出したのですか?」と田代をジロッと見た 田代は苦笑して「30は越えてますって‥‥」と説明した 田代の妻は真矢を見付けると、真矢に飛び付いた 「きゃー!何で何で榊原真矢さんが? 夢かしら‥‥いやだぁ‥‥凄く良い匂いがする」 子供みたいにはしゃぐ田代の妻を見て、真矢は笑っていた 田代は妻を真矢から引き剥がして、皆を家の中に招き入れた 「こらこら客人を玄関で足止めしたらダメでしょ?」 「‥‥‥ごめんなさい‥‥ご飯の用意して来ます」 田代の妻はしゅーんとして家の奥へと入って逝った 田代が招き入れてくれた部屋は、この屋敷の中で一番大きな広間だった 部屋の半分を雛人形が占拠していた 音弥は「あー、ひにゃにんぎょうだ!」と目を輝かせた 田代は子供達に「ひな祭りは女の子の節句なんですよ」と説明した 他の部屋にいる田代の子を呼びに逝くと、広間に着物を着た女の子達が姿を現せた 桃割れの髪を結い上げ、綺麗な着物を着た女の子達は7人いた 田代は康太に「あの桃色の着物を着た子が、お世話になった子供です」と紹介した 「もう大丈夫なのか?」 「薬は永久的に飲まねばならないでしょうけど‥‥その心臓が止まる事はないと謂われました 帰国して歩ける様になり‥‥日に日に元気になって来ました 今では妻を困らせる位に元気です」 「それは良かった それにしても見事に女の子ばかりだな お前が田代の‥‥家の最期になるか?」 「そうです‥‥田代の家は俺の代で終わる それでも良いんです‥‥我が子が生きていてくれれば‥‥」 田代の言葉に‥‥真矢は京香を想った 今もあの子は自分を責めて‥‥ 亡くした子を想って平気なフリしているのだろうか‥‥ 田代は「お雛様は女の子の節句なんですよ だから女の子はこうして着物を着て祝うのです 君達は五月の節句をするでしょ? 男の子の節句と女の子の節句 君達が日々元気に生きてくれる事を願い祝う節句なんだよ」と田代は解りやすく説明した 流生は「ひにゃのおいわい‥‥ちがうんらね!」とやっとこさひな祭りを理解した 「そうだよ、でも男の子も参加しても良いんだよ ほら、甘いお菓子を貰っておいで」 田代は流生の背を押して我が子の傍へと連れて逝った 田代の子は流生達に雛霰を小袋に入れてリボンを結んで「はい。あげる」と言い手渡した 流生は雛霰を貰い嬉しそうに笑った 音弥も翔も太陽も大空も烈も、雛霰を貰って白酒を注いで貰いご機嫌だった 田代の妻が料理を運び込むと「どうぞ、召し上がって下さい。お口に合うかは解りませんが‥‥」と皆に料理を取り分けて配った 慎一が手伝ってテキパキと用意をすると、康太は優しさに満ち溢れた手料理に口をつけた 「飛鳥井は女の子がいねぇからな‥‥ 慎一の子も男だし、聡一郎の子も男だ 京香の子も男だし‥‥やっと出来た女の子は‥‥この世を去った‥‥」 皮肉だな‥‥と康太は口にした 真矢は「康太、口に出してはなりません!」と窘めた 「すみませんでした義母さん つい‥‥口を突いて出てしまいました」 「悲しいのは‥‥家族全員同じです‥‥」 「義母さん‥‥」 「それよりも康太、私は田代くんの奥さんに喜んで貰えるかは解らないけど、サイン入りの写真集やアクセサリーなど持って来たのよ」 真矢はそう言い田代の妻に持って来た紙袋を手渡した 「はい。どうぞ!」 田代の妻は紙袋を受け取り、信じられない顔をした 真矢は「見て見て、この写真集はね康太が撮ってくれたのよ、そしてこのアクセサリーはね『夜は危ないが逝くしかねぇ!』の撮影の時に身に着けていた自前のネックレスよ! そしてこれはね『渡る世間は鬼しかいねぇ!』の撮影の時に身に着けていた指輪よ! 大切に大切にしていたの 撮影の為に用意されていたアクセサリーては確り来ないと監督に申し出て変更して貰った宝物なの! それをね、貴方にプレゼントするわ 女はね幾つになっても美しくありたいの! 幾つになっても夢をもち続けたいの だから貴方の毎日が光輝く希望に満ちています様に‥‥これをプレゼントさせて貰うわ」 プレゼントを胸に抱き‥田代の妻は泣き出した 「‥‥私‥‥頑張らなきゃ‥‥そう想って必死に生きて来たの‥‥ 子育てにアクセサリーなんて邪魔だと‥‥自分に言い聞かせて‥‥見ないようにしていた 貰っても‥‥良いですか? 身に付けても良いですか?」 「良いのよ 綺麗にしてれば子供達は嬉しいの 作り笑顔じゃなく溢れる笑顔で笑う母さんが大好きなのよ 時には息抜きして綺麗に装ってデートに出掛けると良いわ 母さんをお休みする日も作らないと疲れてしまうわ 鋭気を養ってまた笑える明日を生きる 人はねそうして自分を磨いて進むものなのよ」 だからもぉ一人で頑張らなくても大丈夫 気負っていなくて大丈夫なのよ 真矢はそう言い田代の妻を抱き締めた 嗚咽が漏れる 我慢していた想いが溢れだし‥‥ 人は涙を流す 涙は想いを流し出す為に流れ落ちる 魂の浄化 潤う心は新しい世界を見せてくれるだろう 田代の妻は涙を拭うと笑った 心から溢れ出る笑みだった 「ありがとう真矢さん 貴方が描いていた以上の女優さんで‥‥感激しました 貴方に憧れて良かった‥‥」 真矢は烈を抱き締め‥‥太陽と大空の頭を撫でた そして流生と翔、音弥を引き寄せて抱き締めた 「私には宝物がありますからね この子達の為にも‥‥輝かないとならないの でないと『萎んだねばぁたん』なんて謂われたら‥‥もう立ち直れないわ」 真矢が謂うと榊原は「母さん」と声を掛けた 「何伊織?」 「母さんは何時までも若くて美しいですよ?」 お世辞など言いそうもない我が息子から謂われて真矢は驚愕の瞳を榊原に向けた 「‥‥‥まぁ‥‥明日は嵐かしら?」 榊原は怒りマークを額に浮かべて 「もう言いません!」と言い捨てた 真矢は榊原の手を取ると 「そんな事は謂わないで‥‥ありがとう伊織」と目を潤ませて言った 田代の妻はそんな親子を見て羨ましいと想った 「良いですね‥‥羨ましい親子です」 榊原は何も謂わす微笑んだ 康太は聡一郎に迎えに来い!とラインした 直ぐ様『何処まで逝けば宜しいですか?』と問い掛けた 「慎一が来てるから聞いてくれ」 『解りました! 康太、僕は留守番だったので美味しいの食べさせて下さい』 「明日で良いか? 今日はお雛様だったからなお呼ばれされちまった」 『何時でも良いのです では迎えに行きます』 聡一郎はそう言いラインを止めた 慎一の方にラインが入り、慎一は聡一郎に居場所を教えた 戸浪は明日も早いからとタクシーで、一足早く還って逝った 30分位経った頃、聡一郎は田代の家を尋ねて来た 綺麗な外人が田代の家に来たから、田代の妻は緊張しまくっていた 「帰りますよ康太」 「オレは伊織の車で来た だからお前には慎一と子供を半分頼む」 「解りました! では慎一と流生と翔と音弥を乗せます」 聡一郎が謂うと榊原が「なら僕は太陽と大空、烈と母さんを乗せます」と折り合いがついたとばかりに田代と妻に 「今日は本当にありがとうございました!」と礼を述べた 田代は笑って「役に立てて良かったです」と答えた 真矢は田代の妻を優しく抱き締めて「劇のチケットを入れておいたから観に来てね」と言い優しく背中を撫でた そして榊原達と共に家を出ると車に乗り込んだ 聡一郎の車と榊原の車に分かれて還って逝くのを‥‥見送っていた 広間に戻り田代と妻はお雛様を後ろ向きにして逝った 「嫁入りが遅れるからね 明日には片付けなきゃ‥‥」 「だな‥‥子供の成長は早いな‥‥ あの人の手から引き離された流生がもう幼稚舎に通う年かぁ‥‥」 「‥‥??‥‥誰の事を仰有っているの?」 「康太の子供の中に流生って子がいただろ?」 あの活発で人をなごませる明るい子の事だと妻は想った 「あの子は‥‥社長の妹さんの産み落とした子だ‥‥ 外部に漏れたら大変な事になる‥‥聞いたら直ぐに忘れなさい」 「誰にも言いません‥‥そうですか‥‥ あの子が亜沙美さんの子なんですね‥‥」 「太陽と大空、烈は真矢さんが我が子の為だけに産み落とした子だ‥‥ お前の胸に‥‥しまっておきなさい そう言う‥‥愛もあるのだと‥‥お前だけは知っておきなさい」 「‥‥‥え?‥‥そんな事‥‥‥」 我が子なのに‥‥孫として接していると謂うのか? どの子も私の宝物なの! そう言った真矢の顔は慈愛に満ちていた どの子も分け隔てなく愛を注ぐ 我が子と呼べなくても‥‥ 愛されて育つ手助けをする そんな悲しい話があって良いのだろうか? 田代の妻は‥‥声も立てずに泣いていた 素敵なのは‥愛に満ち溢れ自信に満ち溢れているからなのだろう‥‥ 田代の妻は大好きだった女優さんが想像以上に素敵で夢のようだった 「夢のような時間をありがとうあなた‥‥」 「何時も苦労かけているからな たまには着飾ってデートに行こうな 家族で旅行にも行こうな 沢山沢山思い出を作ろうな」 「ええ‥‥ええあなた‥‥‥」 田代は妻を抱き締めた 妻は田代の背中に縋り着いた 「母さん達、それ何時までも続くの? もう寝て良い?着物脱いで良い?」 と長女に謂われて甘い時間は何処かへ逝った 田代は笑っていた 妻も笑っていた とても幸せな時間だった 康太は車の中で「やっとひな祭りの誤解が解けたな」と笑っていた 後部座席で子供達は寝ていた 榊原は「良かったですね」と安堵した声で笑った 真矢は腕の中で眠る烈を抱き締めていた 「重いわね‥‥本当に育ったわ」 「源右衛門の祖父の先祖返りだからな ガタイが良い人だからな‥兄弟で一番デカくなるんだろうな」 「そう言っていたわね こうして見ると顔は‥‥清四郎に似ているのね 血は受け継がれて逝くのだと‥‥今なら解ります」 烈の髪を撫でて真矢は言った 「義母さんが託してくれた宝物です」 「貴方だから‥‥託したのです 貴方がいなければ私は清四郎とも別れていたでしょう この幸せをくれたのは貴方です康太‥‥ だから私は伊織と同じ血を受け継いだ子を託したのです 私が今‥‥こんなにも幸せなのは‥‥ 貴方がくれた幸せなのです」 「それは違うよ義母さん 元々義母さん達はボタンの掛け違いみたいなモノだった 想いは互いに残したまま‥‥まだ互いを唯一無二だと感じていた オレは正しく修正しただけ‥‥義母さんの想いがあればこそ‥‥オレのお陰なんかじゃない」 「清四郎はいまだに貴方の事を心の師匠と呼んでるわ 貴方が謂うならば‥‥と慕っているのは確かなのよ?」 康太は笑って 「義母さん、今夜は飛鳥井に寄りますか?」と問い掛けた 「そうね、清四郎を呼んでね」 「ならラインしておきます」 「‥‥康太は清四郎とラインしてるの? それ、私‥‥知らなかったわ」 「だいたい用件はラインですよ? トークにメッセージいれとけば後で返してくれるので便利なんですよ」 「康太!私ともラインしましょう!」 「良いですよ後で伊織に入れて貰うと良いです」 「そのうち翔達も携帯を持つ日が来るでしょう? そうしたら、ばぁたんとラインするのよ! 今から楽しみだわ」 真矢はそう言い笑った 気が早いばぁたんは今から楽しみで仕方がなかった 孫の成長は楽しみだ 我が子の時と違う感動が味わえる また音弥の歌が聞きたい 今度は何を歌ってくれるのかしら? 真矢はそう想い笑った 飛鳥井の家に還ると清四郎が来ていた 人が揃えば宴会に突入する飛鳥井の家族は楽しげに飲み明かしていた

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