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第67話 桃太郎
桃太郎は飛行機の格納庫の中で眠っていた
飛行機に搭乗と同時に獣医に注射を打たれて‥‥意識は遠くなって逝った
アメリカへ御主人貴史と共に旅立った日を想う
御主人貴史と離れたくなくて着いて逝った
決して楽ではなかった
楽ではなかったが、御主人貴史といられて幸せだった
御主人貴史‥‥ボクは貴方の傍にいたいよ‥‥
そこで意識は完全に途絶えた
そして再び目を醒ますとそこは‥‥
え?何処?何処なのぉぉぉぉぉ!!!!!
焦って飛び起きると押さえ付けられた
『落ち着くよろし!』
え?誰?‥‥‥
顔は‥‥ボク達に似ているけど‥‥足が短い
ガル?
ガルちゃ?‥‥‥じゃないよね‥‥
ガルちゃはこんなに凛々しくなかった様な気が‥‥
桃太郎は困惑する
そして意識と記憶を総動員して考えた
ココハドコ‥‥
ボクハダレ?
グルグルしてると‥‥
「貴史、何とか言ってやれよ
桃が困惑してるぜ?」
懐かしい声か聞こえた
「だな、桃、還って来たんだよ
此処は飛鳥井の家だ
横にいるのはシュナウザーに良く似てるが足の短いスコティッシュ・テリアのガルだ
で、シュナウザーのイオリ
ウェルシュ・コーギー・ペンブロークのコオ
お前の友達だったろ?忘れたのか?」
桃太郎はワンワンワンワワンと吠えた
一生が桃太郎を抱き上げた
「ガルは成犬になったからな
お前といた頃は子犬だったからだ!」
と桃太郎に言い聞かせる様に言った
『ボク‥‥還って来たの?』
「あぁ還って来たんだよ!桃」
『カズキぃ‥‥逢いたかったよぉ』
桃太郎は鼻水を滴ながらキュンキュン鳴いた
一生は桃太郎を撫でながら
「俺も逢いたかったぜ桃」と声を掛けた
兵藤は「流石だな全智万能の愛の神は」と呟いた
犬語は解らない
それは当たり前だ
だが一生は動物でも昆虫でも生きるモノ総ての声が解るのだ
万物の愛を司る神は便利だな‥‥と兵藤は想った
一生は兵藤の頭をゴツンッと叩き
「人を便利扱いすんな!」と怒った
「超能力者?」
「訳ねぇだろ?
大体お前の考えてる事が解るだけだろ?
何万年の付き合いだよ?」
一生は兵藤の首をロックオンして拳でグリグリした
兵藤は「康太!助けろぉ!!」と康太に助けを求めた
康太が助けてくれると想っていたら
「一生、もっとやっておしまいなさい!」
と謂う声が掛かった
よく知った声だった
「美緒っ!我が子を助けろってば!」
「我が家に還るよりも先に飛鳥井に還るならば、飛鳥井の子になってしまえばよいではないか!」
兵藤はグッと詰まった
帰国を告げたのは康太にだけだった
だから空港には康太と榊原が迎えに来てくれて、その足で飛鳥井の家まで来たのだった
夜に兵藤の家には還れば良いだろう‥‥と安易に考えていた
「‥‥美緒‥‥すまねぇ‥‥許して‥‥」
「ならば母にただいまと申せ」
「ただいま!美緒」
「ふむ‥‥許してやるとするか
一生、その腕を緩めてやってくれぬか?」
美緒が謂うと一生は仕方ないなぁと残念がって腕を外した
桃太郎はそんな御主人貴史を見て還って来たんだと実感した
桃太郎はガルに近寄った
『‥‥ガルちゃ?』
凛凛しい顔したガルは何処かイオリに似ていた
『そうだよ桃ちゃん』
桃太郎はガルにスリスリとすり寄った
そしてコオとイオリを見た
『コオ、イオリ‥‥ただいま!』
コオとイオリは桃太郎を舐めて
『『お帰り桃』』と帰還を祝った
還って来たんだ‥‥
また明日から‥‥日本で過ごせるのだ‥‥
でも御主人貴史は?
アメリカに還ってしまうんだろうか?
一人で還ってしまうんだろうか?
ボクは置いてきぼりにされるのかな?
今度こそ‥‥お留守番なのかな?
桃太郎はキュンキュンと鳴き出した
床にボタボタと涙と鼻水が零れ落ちる
一生はタオルを手にすると桃太郎の横に座った
そして抱き上げて顔を拭いてやった
「貴史、おめぇは日本に還って来たんだよな?」
「あぁ、4月から桜林の大学に通い始める予定だ
まぁ、あと何回かはアメリカに逝かねぇとならねぇだろうけど、そんなに長期間じゃねぇ」
「だってさ、桃
心配しなくても大丈夫だ!
御主人様はお前を置いてアメリカに逝ったりしねぇってよ?」
『本当に?』
ドバーッと溢れ出す涙と鼻水に‥‥
「本当に、だ!
おめぇは俺が信じられないのか?」
一生は少し怒ったポーズで言った
桃太郎は慌てて
『違うよ!カズキ‥ありがとう‥‥
ボクの言葉を代弁してくれるのは君だけだよ
信じてるよ‥‥カズキ』
「なら泣き止まねぇとな
大丈夫だ、アメリカに逝ってる間は飛鳥井で過ごせば良いさ
皆で遊んでれば御主人様も迎えに来てくれるさ」
『‥‥ありがとうカズキ‥‥』
桃太郎はガルとコオとイオリを舐めて
『ありがとうガル、コオ、イオリ‥‥
逢いたかったよ‥‥凄く逢いたかったよぉ‥‥』
と鳴きながら訴えた
『ガルちゃは男前になっちゃったね
最初解らなかったよ‥‥』
桃太郎が謂うとイオリが
『中身はあの頃のままお子様だ
やんちゃで御主人康太を困らせているお子様だ』
イオリがそう言うと康太が「ガル取ってこい!」言いボールを放った
ガルは康太が放ったボールを追って‥‥窓ガラスに激突した
キャイ~ン
ガルのなき声が響いた
変わってない
目の前のモノに夢中になると突進して逝く所は‥‥別れた頃と何一つ変わってなかった
一生は蹲るガルを抱き上げた
「前をちゃんと見ろ!
怪我していねぇか?
あぁ、犬歯で唇を切ってるやんか!」
一生が謂うと慎一がタオルを放って寄越した
慎一は「一ノ瀬先生に連絡が必要か?」と問い掛けた
一生は怪我の度合いを見て
「様子見だな、しかしバカだなお前は‥‥
天道虫を追い掛けて川にぶち落ちたのを忘れたのか?
追い掛けるのも良いけど回りを見ろ!」
ガルはキューンと鳴いた
桃太郎は変わってないガルに安堵した
『父さん痛いよぉ母さん痛いよぉ』
ガルは鳴く
コオはガルを舐めた
イオリも我が子を舐めて『痛いですか?』と心配そうな顔をした
兵藤は「猪突猛進は健在か‥‥」と可哀想なんだけど変わってないガルに笑みを溢した
榊原は康太に「めっ!」と怒った
康太は笑って
「変わってないのが解って良かったやん!」と言った
ガルは成犬になって凛凛しい顔になった
だが何一つ変わってないのを証明する為に‥‥
ボールを放ったのだ
ガルには痛い証明になってしまったが‥‥
時間は想うよりも進んでないのだと‥‥感じられて良かった
兵藤は桃太郎と共に飛鳥井の家を後にした
美緒と共に我が家へと還る
桃太郎は御主人貴史にリードを引かれ歩く
見慣れた風景に桃太郎は還って来たのだと実感した
還りたかった‥‥
夢にまで見た景色だった
あぁ‥‥還って来たんだ‥‥
何だか泣けて来た
ボタボタ涙と鼻水をたらしながら歩く桃太郎に兵藤は「どうした桃?」と問い掛けた
桃太郎はうるうるとした瞳で兵藤を見ていた
「還って来たな桃」
『御主人貴史‥‥』
「もう何処にも逝かなくても良いんだ桃」
『‥‥御主人貴史といるよ‥
御主人貴史の逝く所に着いて行きたいよ‥‥
還るのは嬉しいけど‥‥置いて逝かれるのは嫌なんだ』
兵藤は犬語は解らないけど
「俺も還って来たんだ!
アイツのいる所から離れる気はねぇんだよ」
御主人貴史‥‥
本当に還って来たんだね‥‥
桃太郎は還って来た実感を噛み締めていた
ただいま!
ボクはもう何処にも逝かないよ‥‥
またあの日常が戻って来るんだと桃太郎の足取りはウキウキとしていた
桃太郎は一生のくれた宝石を前足でなぞり‥‥
歩き出した
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