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第72話 暑いぃぃ~んだワン!
暑い‥‥
暑い‥‥
ボク達は一年中モコモコのホカホカの毛皮を着ているから‥‥
夏は地獄なんだよね
兵藤さんちの愛犬桃太郎は飛鳥井の家の応接間に来てデローンと伸びていた
イオリとコオは暑くないのぉ?と言いたい位にベターッとくっついて座ってる
ねぇ‥‥あせぼ出来ないの?
ボクなんて‥‥お腹にあせぼできちゃってるんだよぉ‥‥
あれは痒い
痒くてかくと、今度は痛い‥‥
ご主人貴史に薬を塗って貰ってるけど‥‥
この暑さだもん‥‥
治らないよぉ~
丸刈りにしてぇ~
そしたら涼しいだろうな‥‥
あ~暑い‥‥
溶けるぅ~
あせぼが出来るぅ~
桃太郎はデローンと伸びたままワンワンと吠えていた
飛鳥井の応接間は榊原がいなければ、かなり涼しい
今は榊原が康太と外出中だからかなり涼しい筈なのだが‥‥
緑川一生は伸びきった犬を足で突っついた
「桃‥‥見てるだけで暑苦しいなぁお前‥‥」
桃太郎はワンワンと吠え『カズキぃ~溶けるぅ~』と訴えた
「溶けねぇって‥‥どんだけ夏に弱いのよお前‥‥」
一生はボヤいた
榊原と康太が外から戻って来ると応接間にやって来た
榊原は応接間に入るなり
「ここは北極ですか?」と眉を顰めた
エアコンのリモコンを手にしようとすると、榊原よりも早く桃太郎がリモコンを口に咥えて遠ざけた
ワンワンワンワン!!!
『止めてよ溶けちゃうって!!!』
一生は仕方なく「桃‥‥この部屋で暑いって伸びてるんだ‥‥(温度を)上げたらめちゃくそ煩い事になるぜ?」と事情を説明してやった
榊原は仕方なくソファーに座ると
「兵藤の家はシベリア並の温度なのですか?」と嫌み臭く言った
康太は服のボタンを外してパタパタ涼を取っていた
「めちゃくそ涼しいなぁ‥‥
何時もこんなんだと嬉しなぁ‥」
暑がりの康太は何時も涼しい場所を探す
だが榊原と一緒だとエアコンは25度設定で涼しくないのだ
結構温度を下げてくれるのはエッチの後でバテてる時だけ
学生時代から榊原はケチな男だった
部屋が暑いとごねてもクーラーを着けてくれず
その挙げ句
「君暑いんですよね?
じゃぁさ、食堂に行って
おばちゃんに頼んで
食堂の冷蔵庫に入れてもらえば良いんですよ!」
とまで言った男だった
康太も桃太郎同様暑くてバテバテで伸びていた
榊原はキッチンに向かい冷たいジュースをいれて応接間に戻って来ると康太にコップを渡した
そして一生にも渡すと桃太郎には冷たい牛乳を差し出した
桃太郎は目の色を変えて飛び起き牛乳を飲んだ
榊原はモコモコの桃太郎を見て
「美容室でカットしますかね?」と呟いた
一生は「桃は兵藤んちの子だからな‥‥飼い主に聞けよ」と今にも美容室に行きそうな榊原に釘を刺した
「貴史がやるとは想いませんが‥‥聞いてみますか」
榊原はそう言い携帯を取り出した
そして電話を掛けた
「もしもし、僕は榊原伊織ですが、兵藤貴史さんの携帯で間違いありませんか?」
『どうしたよ?伊織』
珍しい事もあるもんだなと兵藤は電話に出て想った
「君んちの犬、美容室に行ってカットしても良いですか?
うちの子達は皆、美容室でカットしてあります
体感温度が違うみたいですよ?」
『‥‥‥桃、伸びてる?』
「ええ。それは見事に‥‥暑がりな康太と同様伸び切ってます」
『‥‥そうか‥‥悪かったな預かって貰って‥‥』
「それは構いません
でも見てるこっちも暑いのでカットして構いませんか?」
『あぁ、頼む‥‥
俺はまだ帰れねぇから‥‥まだ桃の事頼めるか?』
「それは気にしなくても構いません
心置きなく絞られて来ると良いでしょう!」
兵藤は今、大学に復帰する為に試験を受け
その上、進藤に塾で絞られ課題の山とかし消化する為に泊まり込みで三木の家に行っていた
その間桃太郎は飛鳥井の家で預かる事になっていた
榊原は立ち上がると桃にリードを着け
「涼しくなりたいのなら僕と共に来なさい!」
と半ば脅して桃太郎に言い聞かせた
桃太郎は逆らったらダメだ‥‥と立ちあがり榊原の横に着いた
「康太、僕は桃太郎の散髪に行って来ます
君はどうしますか?」
「暑いかんな部屋にいる」
「なら僕が還るまで良い子でいて下さい」
榊原は康太にチュッと口吻けを落とすと、桃太郎と共に応接間を出て行った
康太はエアコンのリモコンを引き寄せて温度を下げようとした
そこへ榊原が応接間のドアを開け
「それ以上温度を下げたら許しませんよ!」と釘を刺した
康太はリモコンを手放して
うんうん!と頷いた
榊原はニコッと微笑み「良い子です」と言いドアを閉めた
康太は上着を脱いでソファーに寝そべった
「暑っちぃ‥‥死ぬ‥‥」
一生は「本当に夏は弱いんだから‥‥」とボヤき内輪を手に取ると康太を扇いだ
「めちゃくそ気持ちいい‥‥」
そう言い康太はズボンもポイッと脱ぎ捨てパンツいっちょうになった
康太は一生に
「この前さパンツを冷蔵庫に入れといたら伊織に怒られた‥‥」と愚痴った
一生は苦笑して
「そりゃ怒るやろ
下着は冷蔵庫に入れるもんやないやろ!」
「夏は総ての部位に冷感素材が良いって言ってるのによぉ‥‥」
「冬は総ての部位にヒートテックが良いほざいとったがな‥‥」
「男のロマンじゃねぇか!」
「まぁ、おめぇの体躯を考えての事だろ?
旦那の愛だと想って受け取っておけよ」
「そうなんだけどな‥‥暑ちぃんだもんよー!」
暑さの前には理性など働かない‥‥
それを実践したのが飛鳥井康太だった
榊原がカットを終えて飛鳥井の家に還って来ると康太は寝ていた
服を全部脱ぎ捨てて下着一枚で寝ていた
その横で桃太郎も腹を見せて眠る事にした
少しカットして貰ったら涼しい
風が地肌に感じる
とても良い感じ
桃太郎はうとうと眠りに落ちて行った
榊原はゴローンと眠る愛する妻と‥‥桃太郎の寝姿に同じ匂いを感じていた
一生は笑って「旦那ご苦労だったな!」と言い労いの言葉を掛けた
「毎年‥‥夏になると暑がりには困らせられますね‥‥」
「下着‥‥冷蔵庫に入れてたんだって?」
「ええ。冷え冷えパンツは男のロマンだと言ってました」
「‥‥康太だからな‥‥」
「ですね‥‥見てください桃太郎を‥同じ格好で寝てますね」
榊原は康太と桃太郎を目にして微笑んでいた
スイミングスクールを終えた子供達も暑い!とボヤいて応接間に転がり込むだろう
康太と同様、服を脱いで暑い!暑いと騒ぐのだ
飛鳥井の家も随分賑やかになった
もうじきお盆
お墓参りに逝かねばと想いを馳せた
夏
ご先祖が還って来る
源右衛門が還って来る‥‥
胡瓜の馬に茄子の牛を作らねば‥‥
想いを馳せる
ガルが榊原の膝の上に飛び乗って甘えると‥‥
「純毛パワーは違いますね」と言いガルを床の上に置いた
桃太郎の茹だる程に暑い夏はまだまだ続く
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