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第74話 今日の佳き日に‥

緑川一生は逗子にいた 夏のクソ暑いさにも負けず、走り回っていた 力哉と付き合い始めて5年 そろそろケジメをつけねばと想っていた 一度は別れた恋人同士だった だが離れきれず手を取ってしまった 手を取った時に‥‥ 絶対に幸せにすると‥‥誓った だが俺は力哉を幸せに出来てるのか? 少々不安‥‥ 出来るだけ言葉にして確認は怠らない様に心掛けている 不安がらせない様に‥‥ 愛を感じて貰える様に努力はして来た だからこそ‥‥ここいら辺でケジメを着け二人の絶対のカタチを築きたかった ケジメが結婚式と言うのも変だが‥‥ やはり世界で一番幸せなカップルだと豪語する康太と伊織がして来た事は参考にしたい 榊原が康太に着せた様に、一生も力哉にウェディングドレスを着せて遣りたかった まぁウェディングドレスと言うのはあくまでも力哉が着ても良いと謂うなら‥‥であってタキシードで挙げたって構わなかった 力哉が選ぶ衣装で結婚式を挙げるつもりだった だが皆には謂うつもりはなかった 一生は二人きりで挙式をしようと‥‥想い逗子に来ていたのだった 結婚式を挙げようと話した日に力哉には衣装はどうする?との話もした 力哉も男だ ドレス等と謂うのは屈辱に感じるかも知れないからだ 「力哉、結婚式を挙げたいと思っているんだけど?」 一生が謂うと力哉は 「え?‥‥誰と? 一生‥‥女の人と結婚するの?」 と悲しそうな顔をした 一生は慌てて 「お前とするんだよ! 他の誰かと挙げてどうするよ?」と力哉に言った 力哉は驚いた顔で「僕と?」と問い掛けた 「あぁ、死ぬ瞬間まで俺と一緒にいてくれ‥‥ 戸籍も入れたいと想ってる 一緒の墓に入るなら別姓だと何かと不便だからな‥‥嫌か?」 力哉は一生に抱き着いた 「僕が嫌だなんて謂う訳ないじゃないか!」 「なら結婚式を挙げよう力哉」 力哉は涙を流しながら何度も何度もうんうん!と頷いた 「で、衣装はどうするよ?」 「どうするって?どういう事?」 「お前は男だろ? だからやっぱウェディングドレスを着るのに抵抗があるんじゃないかって‥‥」 だったら二人タキシードでも構わないと一生は言った 力哉は「世界一で一番幸せな夫婦だと豪語するカップルをやはり見習いたいよ僕は‥‥」と嬉しそうに答えた 「ならウェディングドレスを着るか?」 「うん!着るよ! 君の為に着るよ!」 力哉はそう言ってくれた その日から一生は式場を探した 男同士だが挙式を挙げてくれる式場をかなり探した 幾度も幾度も断られ‥‥その中でやっと見付けた場所だった 話をしたら快く快諾してくれた 一生は夏のクソ暑い今なら挙式をする人も少ないだろうから快諾してくれたのだと想っていた こんなに暑くて結婚式どころじゃないから暇なんだよな?‥‥と想ったら、逗子マリーナは夏の方が挙式する人が多い事を知った 連日式場は満杯でキャンセルが出たからその日の時間は空いていたのだと知った そうして進めて来た挙式だった 一生は力哉に 「この結婚式は二人きりで挙げる事になるけど‥‥良いか?」と問い掛けた 「‥‥二人きりで‥‥‥」 力哉は呟き‥‥納得していた 秘書をやっている力哉には康太と榊原が如何に忙しいか解っていたからだ‥‥ 「皆に祝って欲しいけど‥‥ アイツに祝って欲しいけど‥‥言えねぇよな‥」 寝る間も惜しんで飛び回っている康太に‥‥ そんな我が儘は言い出せなかった 力哉は一生の手を取り 「良いよ、二人だけで挙げよう」と言ってくれた はにかむ様に笑って「一生がいてくれれば僕はそれだけで良いんだよ」と一生を優しく抱き締めた 誰よりも康太に見て欲しかったのは一生だろう‥‥ それを解っているから力哉は一生の言葉を受け入れたのだった 一生は力哉を抱き締めた 愛しい恋人だった 挙式前日、力哉と一生は逗子マリーナリビエラに来ていた 前日から泊まり翌日挙式を挙げる予定だった 挙式を決めた日から幾度も二人で逗子マリーナに来て衣装合わせを繰り返し、式の段取りを話し合って来た 力哉と一生はその日、衣装の最終チェックとリハーサルを終え、ホテルへと引き上げた 部屋に入り一生は力哉に 「幸せになろうな」と告げた 力哉は頷いた 「やっぱ‥‥康太達にも‥‥参列して欲しかったか?」 一生は不安げに力哉に問い掛けた 「一生の想いはとても嬉しいよ‥‥‥ 少しだけ‥‥‥本当に少しだけ‥‥康太達にも祝福して貰いたかった‥‥かな‥‥と想っちゃう‥‥」 「俺も‥‥康太達に参列して貰おうと想ったんだ‥‥ だけど今‥‥アイツ等は寝る間もない程に忙しいだろ?」 映画の完成試写会や完成披露に引っ張りだこで飛び回っているのを一生は知っていた 知っていたから‥‥邪魔は出来ないと二人きりで挙げる事にしたのだった 「そうだね‥‥皆‥‥飛鳥井の家に還って来てずっと一緒だと想ったけど‥‥ 最近は康太や伊織の顔‥‥あんまり見てないね」 力哉は淋しそうに呟いた 「ごめんな‥‥力哉 康太達が忙しい時期じゃなきゃ‥必ず出てくれただろうにな‥‥」 「それだと‥‥かなり大事になりそうだもんね」 「だな‥‥」 淋しくないと謂えば嘘になるが‥‥ 一生のくれる愛が力哉には嬉しくて堪らなかった 「ねぇ一生、僕は‥‥君を愛して良かったよ こんな僕を愛してくれてありがとう」 「力哉‥‥」 一生は力哉を抱き締めた 「今夜は沢山話をして寝ようね!」 「おー!挙式前夜の花嫁に不埒に手は出しませんとも!」 一生の物言いに力哉は笑った 軽く買ってきた食事を取り、お風呂に入りベッドに入った その夜、力哉と一生は手を繋ぎ、話をしながら眠りに落ちた とても幸せな一時だった 朝、目醒めると朝食を済ませて、一生と力哉はホテルの受付へと向かった 受け付けに声を掛けると着付けのスタッフが迎えに来るとの事でラウンジのソファーで待つ事にした ラウンジのソファーへ移動しようとして‥‥ 一生は動きを止めた 一生は固まって身動き一つ取れずにいた 「康太‥‥どうして‥‥」 一生が唖然としていると奥から玲香と京香が姿を現した 玲香は「一生、力哉にレンタルのドレスを着せるつもりかえ?」と少々お怒りモードだった 「え?義母さん‥‥何で?」 一生は言葉もなかった 「世界一幸せな夫婦が着たウェディングドレスを、お主の最愛の人に着せなくてどうするのだ?」と優しく微笑み一生に声を掛けた 京香も「力哉、水臭いではないか!お主と我は姉妹の様に過ごしたのではないのか?」と悲しそうに謂われて‥‥ 力哉は「ごめんね‥‥京香」と謝った 「お主の幸せを誰よりも祈っておるのは飛鳥井の家族と榊原の家族、そして仲間であろうて! ならば二人きりで‥‥と謂うのは家族を蔑ろにし過ぎではないか?」 力哉は京香に抱き着いた そして肩を震わせ謝っていた 一生は康太に「ごめん‥‥」と謝った 康太は何も言わなかった 一生の想いが解るから何も言わなかった だが力哉の想いも解るから‥‥ 想いに沿ってやりたかったのだ 一生は康太が何も謂わないから‥‥固まったままでいた その時、沈黙を破る様に瑛太がウェディングプランナーと共にやって来ると力哉を掴まえ 「お願いします!」と言い康太のウェディングドレスを渡した ウェディングプランナーは康太のドレスを預かり 「承知致しました! 我々も最大限努力致します!」 と言い力哉を引き摺って行った 力哉はなすがまま‥‥連れて逝かれた スタッフがスーツの袋を持って一生の所へ来ると、一生もスタッフに連れて逝かれた 瑛太はその姿を見送り 「真矢さん達は?」と尋ねた 榊原は「母達は前日からホテルに泊まっているので直ぐに来ると想います」と伝えた 榊 清四郎は逗子のオーナーズマンションを購入していたのだ 逗子で結婚式と聞き、何十年ぶりかにマンションへと来ていたのだった 康太も源右衛門からオーナーズマンションを引き継いでいた 今宵はそこに一泊して逝く予定だった 康太と榊原は我が子の手を引き楽しそうだった 子供達も久しぶりのお泊まりに嬉しそうだった 康太は「着付けまで時間が掛かるからな、荷物を部屋に持って行って着替えて来るとするか!」と言った 源右衛門は逗子マリーナにオーナーズマンションを持っていた この一帯のマンションで一番大きく部屋数も5部屋ある広さだった 部屋に逝く前に真矢も清四郎に声をかけ合流して部屋へと向かう 部屋のベルをならすと清四郎がドアを開けてくれた 「力哉達はどうでした?驚いてましたか?」 真矢は心配そうに問い掛けた 榊原は「ええ。ビックリしてました 今ウェディングドレスの着付けに行ってます」と説明した 真矢は「二人きりで挙げるつもりだったんでしょ?‥‥‥良いのかしら押し掛けたりして‥‥」と心配げに問い掛けた 康太は「大丈夫ですよ!」と真矢を安心させた 「力哉は皆に祝福して貰いたがっていた 一生は迷惑掛けられないと想ってたみてぇだがな‥‥」 「一生は何で?‥‥‥少し‥‥哀しいですね」 「一生は己のケジメに皆を付き合わせるのが忍びなかっただけです」 「そんな事‥‥気にしなくても大丈夫なのに‥‥」 「それこそが‥‥一生なりのケジメなんですよ‥‥」 「でも力哉は‥‥」 皆に祝って欲しかったんでしょ?‥‥とは言えなかった 力哉を想えば‥‥何も言えなかった 「力哉は‥‥一生がしてくれるのなら‥それだけで嬉しくて仕方がなかったんだよ 一生の愛だからな、力哉はそれを受けとるしかなかったんだよ 一生が二人きりで‥‥と謂うなら、誰に知られる事なく二人きりで挙げるつもりだったんだよ」 「本当に‥‥健気な子ね‥‥」 「それが力哉だかんな‥」 康太は独りごちた 真矢は頷いた 誰もが幸せで、誰にも祝福される結婚式を挙げれる訳ではない‥ 解っているけど‥‥ やるせなさが胸を押し潰そうになった 康太は「義母さん達が祝ってくれるなら、もう淋しい結婚式じゃねぇ! 力哉はそれだけで満足だと思うぜ!」と言葉にした 真矢は嬉しそうに微笑み 「そうだと‥‥良いわね」と呟いた 悲しそうな顔をする真矢に流生が抱き着いて 「ばぁたん‥‥なかにゃいで‥‥」と慰めた 真矢は流生を抱き締め 「大丈夫よ流生‥‥流生がいてくれるから、ばぁたんは大丈夫なのよ」と言い流生の頬を撫でた 音弥も「ばぁたん‥‥ぎゃまんはらめよ」と祖母を想う 真矢は音弥の手を取ると「大丈夫よ音弥」と言い抱き締めた 祖母の腕に抱かれ流生と音弥は嬉しそうに笑っていた 太陽は玲香に「ばぁちゃ、なんかのみたい!」と我が儘を言っていた 玲香は荷物の中のジュースを取り出してコップに注ぐと太陽に渡した 玲香は子供達の為にジュースを沢山持って来ていたのだった 慎一も飲み物や軽い食べ物は運び込んでいるが、それとは別に重くなるのに持って来ていたのだった 大空と翔も「「ボクも!」」と催促してジュースを貰っていた 烈は眠くて少しご機嫌ナナメだった 抱っこして宥めていると眠り、榊原は寝室のドアを開けるとベッドの上に烈を寝かせた そして応接間に戻って来ると首をコキコキ動かしていた 真矢は笑って「重かった?」と問い掛けた 「お米十キロ持ってる様なモノですから‥‥」 「まぁ貴方も飲みなさい」 真矢はそう言いコップを榊原に渡した コップを受け取り榊原はゴクゴクジュースを飲み干した 瑛太は「さてと着替えますか?」と式に参列する準備に入った その言葉を合図にして、各々が着替えに向かった 玲香と清隆、瑛太と京香、康太と榊原、聡一郎と隼人 慎一は子供達と部屋は既に決まっていて、それぞれの部屋に支度に向かった 康太と子供達は榊原が着させた 子供達もスーツを着て、少しだけ大人びて見えた 暫くして力哉と一生の担当者が、康太達のいるオーナーズマンションへと迎えにやって来た 瑛太がドアを開けに逝くと 「どうしでした?着られましたか?」と係員に問い掛けた 係員は「直す事なくピッタリでした。とてもお美しく出来上がりましたよ」と優しいげに答えた 瑛太は「それは良かったです」と言い部屋の皆に 「時間です!行きますよ!」と告げた 玲香、真矢、京香は今日の佳き日の為に着物を新調していた 三人で作りに行ったのだった 瑛太、清隆、榊原、康太、聡一郎、隼人、慎一もスーツを新調していた そして清四郎は着物を新調していた 皆、示し合わせた様に夏用の着物やスーツを新調して迎えた日だった 子供達もスーツを着て、少しだけ暑苦しそうだった 子供達のスーツもこの日の為に榊原が誂えさせたモノだった チャペルへと案内され親族の席に座る 親族席には当然誰も座ってはいなかった 二人きりの結婚式をすると謂う事は空席の中 誰に祝われる事なくヴァージンロードを歩まねばならない‥‥と謂う事だ‥‥ 真矢や玲香は力哉にそんな想いはさせたくないと想っていた 清隆はスタッフに力哉の父として共にヴァージンロードを歩く事を申し出た スタッフは是非そうしてやって下さいと喜んで申し出を受けた 瑛太は翔と流生に花嫁のヴェールを持つように言った 二人は「「あい!!」」と瑛太に謂われた通り力哉のヴェールを持つ為にスタッフに連れられて行った チャペルの階段の下で力哉と一生は入場を待っていた 清隆は入場の入口に立っていた 流生と翔はスタッフに連れられて花嫁の傍までやって来るとスタッフが 「お二人が花嫁のヴェールを持って入場を致します。 リハーサルと違いますが‥‥入場入口に花嫁のお義父様が立っておられますので、花婿様は一足先に司祭様の所で花嫁を待ってて下さい 花嫁様はお義父様に手を引かれて花婿様の所まで逝かれます 花嫁のお義父様の手から、花婿様の手に引き渡されますので、そしたら花嫁様は花婿様のお手を取って司祭様の方へと向いて立って下さい 後はリハーサル通りやって下されば宜しいです」 スタッフは一通り説明をした そして心よりの言葉を二人に贈った 「宜しかったですね‥‥」 ニコッと微笑まれ一生は泣きそうになった 「それではお時間です」 促され二人はチャペルの階段を上がった チャペル入口に立つと、花婿は一人で静かに祭壇へと歩を進めた 清隆は力哉に手を差し出した 「私は君の父親として君に接してきた だから君を嫁に出す気はないが‥‥花嫁の父として‥‥送り出そうと想っている」 「義父さん‥‥」 「誰よりも幸せにおなり」 力哉は涙ぐみ‥‥「はい。」と答え清隆の手を取った 花嫁は父親に付き添われヴァージンロードをゆっくりと歩いた ヴェールを流生と翔が持って歩いていた 一生はその光景を信じられない想いで見ていた 清隆は祭壇の前に逝くと花婿へ「幸せにしてやって下さい」と言い花嫁を渡した 一生は「はい。絶対に‥‥」と答え花嫁の手を取った 讚美歌が流れる中、挙式は始まった 神父が祭壇の前に立ち、厳かに十字架を手に二人の決意を問い質す様に問い掛けた 「新郎 緑川一生、あなたはここにいる安西力哉を、 病める時も、健やかなる時も、 富める時も、貧しき時も、 妻として愛し、敬い、 慈しむ事を誓いますか?」 「はい!誓います!」 「新婦安西力哉、あなたはここにいる緑川一生を 病める時も、健やかなる時も、 富める時も、貧しき時も、 夫として愛し、敬い、 慈しむ事を誓いますか?」 「はい!誓います!」 二人は心を込めてそう答えた 神父は二人の為に誓いの言葉の前に、祝辞を述べた 「愛に性別の差などない 神は等しく人間に愛をお教えになった 人は人を愛する為に神は作られた 神が与えたもうた愛を日々慈しみ育てて行って下さい! 二人なら乗り越えられない壁はない 苦しみも喜びも半分ずつ持てば立ち向かえられない明日はない どうか今の想いを忘れずにいてくれください! では誓いの言葉を!」 一生と力哉は一生懸命練習した誓いの言葉を読み上げた 「「私緑川一生は、安西力哉を法的に 婚姻した妻(夫)とし、 今日より良い時も悪い時も、 富める時も貧しい時も、 病める時も健やかなる時も、愛し慈しみ、 そして、死が二人を分かつまで 貞操を守ることをここに誓います」」 誓いの言葉を述べると神父は 「指輪の交換をして下さい」と謂った 二人の前に指輪が差し出され一生は指輪を手にすると力哉の薬指に指輪をはめた 力哉も指輪を手にすると一生の薬指に指輪をはめるが‥‥緊張しているのか‥‥ スムーズには入らなかった やっとの事で指輪の交換を終えると式は佳境となり 「それでは誓いのキスを!」と神父は誓いの口吻をする様に告げた 花嫁と花婿は向かい合わせに立つと 一生は力哉のヴェールを上げ、その唇に誓いのキスを落とした 親族席に座っている瑛太達は一斉に拍手を贈った その後、結婚証明書に二人で署名し、挙式は終わった 花嫁と花婿は親族に深々と頭を下げると、式場を後にした スタッフが「フラワーシャワーの為、階段の下でお待ちください」と告げに来て康太達は立ち上がった 康太は大役を終えて還って来た流生と翔に「ご苦労様」と労いの言葉をかけて手を繋いだ 流生は「はなよめちゃん、ちれーね!」と嬉しそうに母に報告した 「だな!花嫁ってのは世界で一番綺麗に出来てるんだかんな!」と言い歩き出した 全員立ち上がり階段の下へと移動する 途中、スタッフにフラワーシャワー用の花を手渡された 康太は子供達に「花嫁と花婿が下りて来たら飛ばすんだぞ!」と教えた 「「「「「あい!!!!!」」」」」 子供達は元気にお返事を返した 烈は榊原に抱き着いて泣いていた 康太は榊原に「烈、どうしたよ?」と尋ねた 「何時もと総てが違うので戸惑っているんですよ」と説明した 康太は烈に手を差し出すと 「烈、お前も兄達とお花を飛ばそうぜ!」と言い烈の手を取った 「おはにゃ?」 「そうだ、綺麗だろ?」 康太は烈の手にフラワーシャワー用のお花を握らせた 翔が烈の手を取ると「にーたん」と烈は嬉しそうに言った 康太は流生を抱き上げると 「おめでとう!って言って飛ばすんだぞ!」と特等席を陣取りそう言った 「かぁちゃ、りゅーちゃ ぎゃんばる!」 「おー!そしたら泣いて喜ばれるかんな!」 「あい!」 「お前も何時か‥‥大切な人が出来たら母ちゃんのウェディングドレスを着せて式を挙げろ!」 「りゅーちゃ?」 「そうだ!」 「りゅーちゃにはまら、むじゅかちいにゃ!」 「そうか?‥‥一生位大きくなったら‥‥だ」 「りゅーちゃなれりゅかにゃ?」 「なれるさ!母ちゃんと父ちゃんの子だからな!」 康太が謂うと流生は嬉しそうに笑った 花嫁と花婿がゆっくりと階段を下りて来る 目の前まで下りて来ると 「おめれとう!」と言い流生は手の中のお花を高く高く‥‥飛ばした 一生は流生を見ていた 母の手の中で笑っている流生を見ていた 名乗れずとも‥‥‥我が子だった 我が子に祝って貰う結婚式だった 最高の1日‥‥ 一生の頬を涙が流れて落ちた 「ありがとう‥‥」 一生の唇がそう言っていた フラワーシャワーを終えると写真撮影に入り 親族は控え室へと移動となった 瑛太はスタッフを呼び会食の人数が増えた事と料理のグレードを上げて出来る限りの事を頼んだ 急な事だと謂え式場側は快く対処してくれた 写真撮影を終えて控え室へと来る頃には夕方になっていた スーツに着替えて一生と力哉が控え室へと戻って来た 一生と力哉は皆に深々と頭を下げた 「今日は忙しい中本当にありがとうございました」 一生が謂うと力哉も 「本当にありがとうございました とても嬉しかったです」 と涙ぐみ想いを伝えた 聡一郎は立ち上がると一生の前に立ち‥‥ その頬をパシッと叩いた 「え?‥‥‥聡一郎?」 一生が唖然とするなか聡一郎は冷たい瞳で一生を見ていた 「力哉の為に挙げると謂うなら、まずは家族に話をすべきでしたね!」 ビシッと言われて一生は苦笑した 本当にその通りだったからだ‥‥ 「ごめんな聡一郎‥‥」 「別に怒っちゃいません! ですが力哉が可哀想だったので叩きました 僕なら康太に抱き着いたまま挙式を挙げたいですからね」 聡一郎はそう言い笑った 一生は幾らなんでも‥‥抱き着いたままは‥‥と返答に困っていた 聡一郎は「言葉のあやです!」と笑って隼人と共に立ち上がった 悠太はずっと入院していた だから今日の佳き日にも悠太の姿はなかった スタッフがレストランへ御移動お願い致します!と呼びに来ると康太はスタッフと共に歩き出した スタッフは康太に「源右衛門様のお孫様に御座いますか?」と問い掛けた 「あぁ、オレは飛鳥井源右衛門の孫になる」 「そうですか?次代の真贋様に御座いましたか」 「源右衛門は他界したからオレが現真贋だ」 「‥‥‥そうでしたか‥‥源右衛門様が‥‥ 私は源右衛門様にお世話になった者に御座います つい最近まで‥‥家族の看病に追われておりましたから‥‥世情に疎くて申し訳御座いません」 「気にしなくて良い‥‥家族は残念だったな きっとあの世で源右衛門と逢ってると想う‥ だからお前は肩の荷を下ろせば良い」 康太が謂うとスタッフは驚いた瞳で康太を見て‥‥ 「そう言われると心の荷が少しだけ軽くなります」と儚げに微笑んだ 何もかも忘れる様に必死に働いて働いて働いて‥‥それでも心の空虚はなくならなかった 亡くした‥‥悔いは消えてはくれなかった 康太は翔の手を引き前に出すと 「次代の真贋、飛鳥井翔だ 源右衛門の面影があるだろ? 今後とも宜しくしてやってくれ!」 スタッフは「はい。」と謂うと翔の目線まで腰を屈め「宜しくお願い致します」と挨拶をした 翔はスタッフを視ていた そして静かに頷いた スタッフは立ち上がり姿勢を正すと、レストランまで案内した レストランへ入り特別に誂えて貰った席へと座る フランス料理のフルコースを食す事になっていた 食前酒を注いで貰い乾杯をした 飲めると謂う事もあって皆テンション高めに乾杯はされた 地元の食材を使った高級フランス料理の数々に舌鼓を打って食事もお酒も進んだ 玲香は一生に「お主達はチェックアウトはもうしたのかえ?」と問い掛けた 一生は「はい。一泊の予定でした」と答えた すると真矢が「ならば今宵は逗子マリーナに泊まると良いわね! 私達が使っていた部屋で泊まりなさいよ!」と提案した 一生は「真矢さん達は?」と問い掛けた 「あら、私達なら心配無用よ 飛鳥井源右衛門が所有していたオーナーズマンションがあるからね そこに泊めて戴くわ」 「え?逗子に持ち家があるのですか?」 「あるのよ!私達もあるのよ! 貴方達に貸す部屋は清四郎所有のマンションよ 源右衛門が所有していた部屋はもっと広く5LDKは軽くあるのよ それに加えて客間もあるしね 客間で宴会に突入してそのまま泊まるわ」 真矢は楽しそうに答えた 一生は「ならお言葉に甘えて‥‥」と泊まる事にした お酒も入り楽しい時間を過ごした 楽しい時間はあっと謂う間に過ぎて‥‥ 会食は終わった 会食を終えると真矢は一生達を部屋へと案内した 部屋に荷物があるから聡一郎と隼人と慎一に頼み来て貰う事にした どういう訳か榊原も真矢に着いて来ていた 榊原の指示の元テキパキと荷物を運び出すと 「此処の部屋はホテルに管理して貰っているので明日、一緒に帰るなら鍵を持って部屋に来て下さい 帰る時間はまた聡一郎がLINEでもします」 と言い残し慌ただしく出て行った 真矢も「力ちゃん今日は.甘えまくって我が儘言っても良いのよ!」と力哉を気遣い聡一郎達と部屋を出て行った 一生は荷物を片付けると「風呂にでも入るか?」と尋ねた 力哉は頬を赤くして‥‥頷いた 一緒にお風呂に入り互いの体躯を洗い湯船に浸かった 結婚式を挙げたカップルだと謂うのに‥‥ 熟年夫婦かよ!と言いたくなる淡白さでお風呂に入り浴衣に着替えた 力哉は何だか淋しそうだった 一生は仕方なく甘い初夜よりも力哉の望みを叶えるべく口を開いた 「康太達がいるなら‥‥やはり一緒にいたいか?」 淋しそうな理由を言い当てられ力哉は頷いた 「ごめんね一生‥‥本当に嬉しかったんだよ 本当に幸せな日だった‥‥夢でも見てるみたいに‥‥幸せだよ僕 でもね‥‥康太に逢いたいよ‥‥ 家族に逢いたいんだよ‥‥‥」 「なら康太の部屋に逝くか? 初夜って言っても‥‥お前の初めては既に貰ってるしな!」 一生が笑うと力哉は顔を真っ赤にして 「‥‥バカっ‥‥」と呟いた 「俺も‥‥やっぱ康太に逢いてぇよ‥‥ 傍にいられる距離なら‥‥一緒にいてぇと想っちまうんだよ‥‥だから謝らなくて良い‥」 「一生‥‥」 力哉は一生の名を呼び‥‥微笑んだ 「行こうよ!一生」 「だな!(康太達が)最近忙しくてあってなかったもんな」 「それもあるけど‥‥やはり僕は飛鳥井や榊原の家族が大好きだよ‥‥ 本当の子供みたいに大切に思いやってくれる‥‥あの人達が大好きなんだ‥‥」 「俺も大好きだぜ! あの家族があったからこそ俺達は支えられ動けるんだからな」 「一生‥‥僕達‥‥大切にされてるね‥‥」 「あぁ、だからこそ俺達も大切にしようぜ!」 「うん‥‥うん‥‥君と同じ位大切にする」 「おい‥‥そこは君の次に大切にするだろ?」 「あ‥‥ごめん一生」 力哉が謝ると一生は爆笑した 「愛してるぜ力哉 俺はお前に出逢って‥‥本当に良かったと想っている ずっと傍にいてくれ力哉」 「一生‥‥」 力哉は想わず一生に抱き着いた 「僕も愛してるよ一生! 僕も君に出逢えて良かったと想っているんだよ 本当に‥‥本当に‥‥僕と出逢ってくれてありがとう‥‥」 一生は力哉の唇に口吻けを落とした とても優しい口吻けだった 「なぁ力哉、このまま引っ付いていたら犯っちまうぜ? それでも良いなら抱き着いていろよ!」 一生に言われて力哉は慌てて離れた 一生は笑いながら力哉の手を取ると 「んなら行くとするか!」と勢いを着けた そして着替えてキーを手にして部屋を後にした 康太達の部屋まで向かいドアベルを鳴らすと慎一がドアを開けてくれた 慎一は「どうぞ!」と言い二人を迎え入れてくれた そして康太の所へ行き 「康太、やはり来ちゃいました」と言い報告した 康太は「だろ?」と言い笑っていた 一生は「あんだよ?」と言い拗ねた様に問い掛けた 榊原が笑って 「母さんが『力ちゃんは一生に甘えられてるかしら?』と言って心配してたんです そしたら康太が「そのうち来るんじゃね?」と言ってたんですよ まさか‥‥初夜に来る訳ないでしょ?と言ってたんですけどね‥‥」 と説明した だから『やはり来ちゃいました』なのかと一生は苦笑した 「仕方ねぇだろ? 俺達は皆と共にいてぇんだから‥‥」 一生が拗ねた様に謂うと康太が一生の手を取って引き寄せた そして少しだけ意地悪を言った 「オレに隠し事出来ると想ってたのか?」 一生は少しだけ苦し気に顔を歪めると‥‥ 「お前に隠し事なんてする気はねぇよ‥‥ でも‥‥寝る間もない程に忙しくしてるお前に‥‥謂う事は出来なかった‥‥」 「幾ら忙しくても仲間を祝福する時間位作るさ! それが出来ねぇならなんの為に一緒にいるって事じゃねぇか?」 「ごめん‥‥康太‥‥」 「お前が‥‥決めた事に文句は謂うつもりはなかったし、出るつもりもなかった だけど力哉の想いは割り切れてなかったからな、力哉の想いに添わせて貰おうと想ったんだよ」 「ありがとう康太 やはり‥‥二人きりの挙式にならなくて良かったと想った 誰にも祝福されないのは‥‥悲しいって想い知った‥‥ 俺は解ってなかったんだよ‥‥ 空席だらけの式場を‥‥ 祝福されない挙式の淋しさを‥‥解ってなかった 俺は‥‥皆に祝福されて挙式を挙げられて本当に良かったと想った ありがとう康太‥‥」 一生はそう言い深々と頭を下げるた 一生の肩が震えていた 康太は一生を抱き寄せて背中を撫でてやった そして落ち着くとソファーに座らせた その横に力哉を座らせて立ち上がると 「んじゃ、今日の佳き日に、乾杯といくか?瑛兄」 康太はグラスを高く掲げた 瑛太は「それでは主役も来た事ですし、皆様グラスをお手に取って下さい!」とグラスを手にした そして「乾杯!」と言いグラスを高く掲げた 康太は榊原と乾杯!と言いグラスをカチンっと合わせた そして家族とグラスを合わせると、一気に飲み干した 康太は力哉に「幸せにして貰えよ!」と声をかけた 力哉は「もう十分幸せだよ?」と答えた 「いやいや!もっともっともーっと幸せにして貰え!解ったな?」 「解ったよ康太‥‥ あのね、僕ね‥‥飛鳥井や榊原の家族が大好きだよ だからね大切にしたいんだ その中でね‥‥康太が一番大切なんだよ?」 「いやいや‥‥力哉‥‥一生を一番にしといてやれよ! オレは二番でも三番でも構わねぇからよぉ!」 「だぁって‥‥一生の一番は康太だもん 僕だけ一番にしたら‥‥何だか悔しい‥‥」 力哉の言い草に康太は爆笑した 一生は「力哉‥‥俺は二番なのか?」と笑って問い掛けていた 「一番は揺るぎないんじゃないの? 僕だって二番だよね?」 「違うって‥‥」 「違わないじゃないか!」 「力哉‥‥最近怖いってお前‥‥」 完全に尻に敷かれた状態の一生を目にして家族は皆笑っていた 隼人は「犬も食わないのだ!」と言いブスーッとしていた 聡一郎も「そうそう!まったくラブラブじゃないですか!」とお酒を片手に熱い熱いとヤケ糞に言っていた 真矢はそんな聡一郎に「今日挙式を挙げたばかりでラブラブでなくては困りますよ!」と突っ込んでいた 聡一郎は爆笑していた 流生達、お子様は疲れたのかお眠になっていた その中で烈一人、ジュースを片手に起きていた 一生は「それジュースだよな?」と、あまりの貫禄に問い掛けた程だった 酒を持っていたとしても不自然じゃない貫禄‥‥ そう言われて真矢は「烈、それジュースよね?」と想わず確かめた コップの中身はオレンジジュースだった 「ジュースだわ」 想わず胸を撫で下ろす真矢に榊原は苦笑しつつ 「母さん‥‥烈はまだ幼児ですって‥」と注意した 「しかし‥‥瑛智と言い烈と言いガタイが良すぎよね?」 ガタイと謂うよりは貫禄なのだが‥‥ 「母さん、兄さんとこの匠も同じ様なモノでしょう?」 「そうなのよね‥‥あの子‥‥やたらとオッサン臭い子なのよね‥‥ ジュースよりも渋茶飲むのよ‥‥あの子 ケーキよりも和菓子だし‥渋すぎよね?」 真矢が謂うと康太が「飛鳥井の血なんでしょうね」と説明した 真矢は「源右衛門は‥‥貫禄ありましたものね」 そう言い故人を忍び「さぁ飲みましょう!湿っていたら源右衛門にドやされますからね」と言葉にした 飛鳥井の宴会に突入する血筋は脈々と受け継がれていた 玲香は「本当に佳い日じゃったな」と言葉にした 京香も「本当に、佳い日でしたね義母様」と力哉の幸せを願い口にした 幸せに‥‥ 幸せにね力哉 それが皆の想いだった 力哉は皆の想いを受け止め幸せになると心に誓った 今日の佳き日に僕は幸せへと突き進む‥‥ みんな‥‥ありがとう‥‥ 力哉は幸せだった 幸せそうに始終笑っていた          Happywedding 逗子の夜更けは優しく更けていった

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