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第75話 honeymoon

結婚式を挙げた緑川一生と安西力哉の二人に 飛鳥井康太は「おめぇら新婚旅行に行って来いよ!」と突拍子もなく言い ほれ!っと封筒に入った宿泊券を渡した 一生は封筒を受け取り中を確かめて‥‥固まった 封筒の中には高知空港行きのチケットと、土佐のホテルの宿泊券が入っていた 「‥‥‥康太‥‥」 「あんだよ?」 「‥‥新婚旅行は解る‥‥ だがなして土佐なんだよ?」 「だって戻り鰹の旬ですがな」 「‥‥食いてぇのか?」 一生は的確に謂われて問い掛けた 「おー!解ってるやん! クール宅急便で送ってくれよ!」 「解った‥‥なら新婚旅行に行って来るわ」 「おー!行ってこい!」 康太が謂うと瑛太が鰹の食べ方の算段を榊原とする 「伊織、戻り鰹はやはり炙りですかね?」 「ですね!油が乗ってて美味しいでしょうね なら我が家も鰹を炙る為にバーナーを買いますかね?」 榊原が謂うと清隆も乗り出して 「良いですね! なら私は香りの良い葱や生姜や薬味を調達しましょう!」と乗り気だった 玲香も「ならば我は究極のポン酢を探そうぞ!」と気合いを見せた 真矢は「その鰹!私も是非とも食したいですわ!」と名乗りを上げた 清四郎も「そうです!私達もご一緒して宜しいですか?」と言い出す始末だった 瑛太は「当たり前じゃないですか!美味しい戻り鰹をツマミに飲みあかそうではありませんか!」とにこやかに言った 話題はすっかり戻り鰹の話だった 力哉は「漁師さんから一番良い鰹を聞いて買い付けて来るよ!」と言った 一生は新婚旅行だよな?と想った 鰹の買い付けに行くんじゃねぇよな? 想ったが口に出す勇気はなかった 想いに耽ってる一生に、榊原は袱紗に包んだ分厚い封筒の束を渡した 封筒に気付いて一生は「あんだよ?それ?」と問い掛けた 榊原は笑って「ご祝儀です!」と答えた 「ご祝儀?」 一生は不思議そうに問い返した 「ええ。君達の結婚を祝して家族や仲間からご祝儀を渡してくれと頼まれているのです 皆、多く包もうとしていたので一人30000円までと制限を掛けさせて貰っています」 「‥・‥聞いて良いか? 最高幾ら包もうとしてたのよ?」 「最高金額は300万円です 隼人と義父さんが包んで来ました 飛鳥井の家族も30万は包んでいました お返しが大変なので止めなさいと言いましたが‥‥お返しなんて期待してないから!と謂われました なので一人3万円と決めさせて貰いました ホテルの費用は既に払ってあります 旅費もご用意しました 君達は逝くだけで良いのです なのでこのご祝儀は貰っておいて構わないので有り難く頂戴して良いです」 「これで鰹、買って来るわ」 「いえいえ!鰹の御代は此方の封筒を用意しました!」 そう言い榊原は胸ポケットから封筒を取り出し一生に渡した 一生はその封筒を手渡され 「幾ら入ってるのよ?」と問い掛けた 「50万です そのお金で戻り鰹お願いしますね!」 「解った‥‥買って来るわ」 「楽しんで行ってらっしゃい!」 榊原は優しげにそう言い微笑んだ 袱紗を広げるとご祝儀袋が何枚も重なっていた 飛鳥井清隆と達筆な文字で書かれたご祝儀袋の下には、またもや達筆な文字で飛鳥井玲香と書かれていた 神経質な文字で飛鳥井瑛太 綺麗な写本の様な文字で飛鳥井京香 総て英語で四宮聡一郎 隼人は独特の文字で一条隼人と書いてあった 印刷と見間違えんばかりの毛筆で緑川慎一 毛筆の続け文字で榊 清四郎 ‥‥畏れ多くて手が震えた まるでサインの様な榊原真矢 そして殴り書きの様な文字で飛鳥井康太 几帳面な文字で榊原伊織 その下に「かじゅへ」と書かれた封筒が入っていた 「おめれとう、りゅうより」 たとたどしい文字で書かれていた そしてご祝儀なのか1000円札が入っていた 1枚1枚封を開けると 「おめれとう、かけるより」 「おめれとう おとやより」 「おめれとう ひなより」 「おめれとう かなより」 とかかれていて1000円札が入っていた 封筒を持ったまま固まっていると榊原が説明をした 「そのお金は子供達が貯めたお金です 君達を祝いたいとカードを書いて貯めたお金を持ち寄って来たのです 『かじゅをよろこばせたいにょ!』と言ったので何日も何日も練習して書いたのです 子供達の想いです。 良かったですね一生‥‥」 一生は封筒を胸に抱いた 「ありがとう‥‥」 「お礼はあの子達に直接言ってあげて下さい」 「そうする‥‥アイツ等にも謂う 義父さん、義母さん、義兄さん‥‥本当にありがとうございました パパ(清四郎)さん、ママ(真矢)さん本当にありがとうございました」 一生はそう言い深々と頭を下げた 真矢は笑って「鰹、楽しみにしてるわね」と答えた 玲香も「真矢、戻り鰹を食した事はあるかえ?」と問い掛けた 「ええ。土佐でロケがあった時に皆で行きました!」 「ならば戻り鰹に合う薬味を教えてやってくれぬか? 我等は‥‥基本、地方に逝く事はあまりないからのぉ‥‥」 真矢は俄然張り切り 「解りましたとも! 一生、鰹を送ったらLINEをして頂戴! そしたら薬味を清隆さん達と揃えてますからね!」と楽しげに言った 力哉は「待ってて下さいね!立派な戻り鰹を送りますからね!」と決意を固めた様に言った やはり一生は想う‥‥ 新婚旅行だよな? ‥‥‥‥‥と。 一生と力哉は家族と横浜へ一旦戻り、東京空港へと向かい高知へ旅たつ事になった 最近忙しかった康太は二人に 「おめぇらが還って来る頃は一段落してるだろうから、ゆっくり戻り鰹を楽しめるかんな!」 忙しさのピークは終わっるであろう事を告げた 一緒にいられる時間があると聞き力哉は嬉しそうに 「必ずや美味な戻り鰹を送るからね!」 と約束した 戻り鰹に負けた‥‥ 緑川一生 23才の夏だった‥‥ 力哉と一生は皆と共に横浜へ還り、着替えを新しいのに取り替えて荷造りした後、東京へと向かった 朝一番の市に間に合う為に最終便で羽田空港から高知行きの飛行機に乗った 高知空港から土佐ロイヤルホテルへはタクシーで向かった ホテルに到着してチェックインする部屋へと移動した 部屋まで案内してくれたベルボーイに戻り鰹が欲しい胸を伝え助言を求めた 流石地元民と謂える情報を貰い部屋へと一旦案内された 荷物を置いて時計を見ると市場に向かうのは少し早く空港で買った食べ物を軽く食べた 鰹漁に合わせてフロントへと向かいタクシーを呼んで貰い[ひろめ市場]へと向かい鰹の買い付けをする 夜も開けぬ時間から市場はかなり込み合っていた 一生は競りが終わったら軽く食事を取って取り敢えず寝よう!と心に決めていた 寝不足では勃つものも勃たないってものだ それにしても‥‥‥新婚旅行だよな? と一生は想った 甘い時間はなく‥‥ 一生は頼まれた以上はやるしかねぇな!と気合いを入れた 一生は地場の競り市の行商人顔負けの迫力で戻り鰹を競り落とした 上質な戻り鰹を5本競り落とし 他の魚介類も購入して送る事にした 横浜へ向けクール宅急便で送る算段を着けた かなり頑張って競り落とし、一生は脱力していた 力哉は一生に缶ジュースを渡し 「お疲れ様」と労った 「力哉‥‥あれで喜んで貰えるかな?」 「喜んで貰えるに決まってるじゃないか!」 「なら闘って良かったって想えるわ」 「格好良かったよ一生 やはり僕が好きになっただけの事はあるよ」 さらっと謂われ一生は驚いた瞳を力哉に向けた 力哉は頬を染めて 「そんなに驚かないでよ‥‥」と恥ずかしそうに言った 「ありがとう力哉」 此処が外でなかったら抱き締めたかった程だった 缶ジュースを飲んでいると市場の関係者が 「緑川一生さんですか?」とやって来て尋ねた 「はい。」 「横浜へ荷物を送る方ですよね?」 「はい。そうです! 荷物に不備でも?」 「いえいえ!不備はありません! 貴方達はいつ頃横浜へ還られるか聞きに来ただけです」 市場関係者に答えたのは力哉だった 「4日後には還ります」 「解りました 予定通りの帰宅ですね?」と言い市場関係者は戻って行った 力哉は「?‥‥戻り鰹‥‥ちゃんと届くんだよね?」と不安そうに問い掛けた 「届くだろ? それよりも逗子からろくに眠ってねぇから眠い‥‥」 「ホテルに戻る? 今日はちゃんと眠って明日は観光だよ! 楽しんで遊んで‥‥その後は‥‥初夜だよ」 「随分お預け食らったからなぁ‥‥」 「ん‥‥ごめんね」 「謝るな‥‥なら今日は寝るか」 「ん!明日は新婚旅行を楽しもうね」 「だな!」 戻り鰹に賭けた時間は終わった 二人は戦いを終えて休養を取る為に眠りに落ちた 新婚旅行1日目は終わった 翌日の昼過ぎまで爆睡して、目を醒ました一生は力哉と共に起きてシャワーを浴びて、軽食を取ると5台山公園へと出向いた 高知市内には何本かの河川が流れ込んでいてるため、夜景に変化を与え、より美しい夜景を見られるしいからだ 河や湾がある夜景は日没30分後が一番美しい夜景が望めるとガイドブックに書いてあり 一生はそこへ力哉と共に行き夜景を楽しむつもりだった 少し早めに訪れて日が暮れる様を堪能しつつ 夕方から夜へと切り替わる町並みを二人で見た 力哉は「綺麗だね」と嬉しそうに呟いた 「新婚旅行だからな綺麗な夜景を見て 美味しい食事を取って愛を確かめ合うんだろ?」 あからさまに謂れ力哉はキョロキョロと辺りを見渡した 誰もいなくて‥‥ホッと胸を撫で下ろした 「一生‥‥」 注意しようと口を開くと 「黙ってろ! 今日は何しても許されるんだから‥‥」 「でも‥‥誰かに聞かれると‥‥恥ずかしいよ」 「気にするな! 暗くて性別なんて解らねぇって」 「そうかな?」 「そうそう!気にすんな!」 一生はそう言い力哉の唇に口吻けを落とした 力哉の瞳には何もかもが新鮮で‥‥輝いていた 力哉は一生の手をギュッと握り 「僕ね‥‥高知は初めてだよ‥‥」 「俺も初めてだぜ?」 「嘘‥‥一生は日本中飛び回っている雰囲気だよ?」 「んな事はねぇって‥‥子供の時なんて何処かへ連れて行って貰った記憶はねぇ‥‥ 俺の母親は所謂愛人ってやつでさ‥‥本妻に常に詫びて生きていた だからかな‥‥何処かへ連れて行って貰った事は一度もねぇんだよ 康太と共にいる様になって‥‥色んな所へ逝く様になった‥‥だけどまだまだ逝ってねぇ場所ばかりなんだぜ?」 一生は静かに話し出した 一生の言葉を受け止め力哉も話し出した 「僕もね‥・愛人の子だったから‥‥ 何処かへ逝けなくても仕方ないって想っていたんだ‥‥ 母さんが他界してからはもう‥‥何も家族に期待などしなかったしね‥‥ だから飛鳥井に来て‥‥色んな所へ逝けて信じられない位に‥‥嬉しいんだよ?」 一生は力哉を抱き締めた 「幸せにする お前だけ愛してるって誓う!」 そこ言葉を聞き力哉は一生の背を掻き抱いた 甘い時間のままホテルへと戻る レストランでディナーを取ると部屋に戻った 部屋に入るなり一生は力哉を口吻けた 優しい口吻けは歯列を割って一生の舌が乱入して来て激しさを増していた 口腔を一生の舌が暴れ回る 力哉は応える様に舌を搦めた 嚥下しきれない唾液が顎から伝って流れる 「‥‥‥んっ‥‥あっ‥‥」 甘い吐息が流れる 一生の手は力哉の服の中へと忍び込む 口吻けの合間に一生は 「こんなに我慢したのは久しぶりだな」とクスッと笑った 初夜の前は自粛 初夜は家族の元へ 我ながら良くも耐えたと想う 暴走しなかった息子(股間)を誉めてやりたい程だった 一生は既に硬く反り返ろうとしている股間を力哉に押し付けた 力哉の膝がガクッと崩れると、一生は力哉をヒョイッと抱き上げ寝室へと向かった ベッドに力哉を下ろすと一生は服を脱ぎ始めた 慌てて目を反らそうとする力哉の頬を掴むと 「見てろよ お前のモノだろ?」と唆した 力哉は頬を赤らめながらも頷き、一生を見ていた 上着を脱ぎ、ズボンを下着ごと脱ぎ捨てると、あっという間に全裸になった 力哉の股間が熱を持つのを感じていた 瞳は恥ずかしいのに‥‥ 聳え立つ股間に釘付けになった 亀頭の先っぽが濡れるのを感じていた 力哉は引き寄せられる様に‥‥ 一生の性器の先っぽに口吻けを落とすと‥‥ペロペロと舐めはじめた 愛する男が感じてくれるのが嬉しくて堪らなかった 潔癖症の力哉がフェラをやるのには抵抗も苦痛もあるだろうに‥‥ それでもしようとしてくれるのが嬉しくて堪らなかった 「力哉‥‥無理しなくて良い」 「出来るよ‥‥僕‥‥」 口一杯に一生のモノを頬張り‥‥ペロペロ先っぽも舐める 力哉の愛だった 一生は力哉の口かは性器を引き抜くと力哉を押し倒した 「え?‥‥僕、出来るのに‥‥」 そう言う力哉の耳朶を甘噛みしつつ‥‥ 「早くお前の中に挿れたいんだよ」と囁いた その言葉に力哉は力を抜いて、一生に身を任せた 乳首に吸い付き、指で弾くと力哉はイッてしまっていた 力哉はあまりの早さに‥‥ 「ごめん‥‥」と謝った 一生は笑って力哉を俯せにして腰に手を回し、お尻を高く持ち上げるとローションを垂らした 少し冷たいローションの感触に力哉は「ひゃっ‥‥」と声をあげた 「少し我慢な‥」 力哉を労り、それでも指を挿し込み解して逝く 腸壁を撫でられ声が止まらない 一生の唇は力哉の背中に愛撫しつつ、なるたけ負担を追わせない様に快感を与える事に専念した 指が3本挿れられる位になると指を抜き やっと一生が力哉の中へと入って来た 力哉の腰を繋がったまま持ち上げ下から突き上げる 動きは激しさを増して‥‥ 力哉は喘ぎっぱなしだった 力哉の中で一生が最大限大きくなると‥‥ 弾けて力哉の中に白濁を撒き散らした はぁはぁ‥‥と息を乱し力哉の中から抜くと 力哉をベッドに押し倒した 終わったばかりなのに‥‥ 力哉は「え?‥‥嘘‥‥‥」と呟いた 果てたばかりなのに一生の肉棒は衰える事はなく再び力哉の中へと押し入り‥‥ 力哉を蹂躙し始めた 一生は笑って力哉の耳元で 「サービスするぜ! 取り敢えず新婚旅行の間は毎晩犯る事にするわ」 「そんなサービス要らないってば‥‥」 「返品不可だぜ? 今夜は朝まで頑張ろうぜ そしたら観光に連れて行ってやる」 後は一生の施す快感に翻弄され‥‥ 時間も忘れて喘ぎまくった 途中意識をなくして 気が付いても‥‥まだ中に一生がいて 「もう勘弁‥‥僕はもう若くないんだってば‥‥」 と泣き言を言ったが聞き入れてもらえず 新婚旅行の間は毎晩、寝かせては貰えなかった 旅行最終日 一生と力哉はお土産を買いに来ていた 飛鳥井の家族や仲間 榊原の家族や康太の子供達へと一つ一つ探して買った お土産は送るんじゃなく持って帰るつもりだった ‥‥が、かなりの大荷物になり持ち帰るのが超大変となった 連日愛されて力哉は少しお疲れの顔をしていた 一生は「楽しかったか?」と問い掛けた 「うん!楽しかったよ あっちこっち見て回ったね 想い出が沢山出来たよ」 「また行こうな」 「うん‥‥行きたい‥‥」 「連れて行ってやるよ」 「ありがとう一生」 「何のありがとうだ?」 「連れて来てくれてありがとうのお礼だよ」 「新婚旅行だぜ? お前と来なくてどうするよ?」 そう言われて力哉は嬉しそうに笑って 「それもそうだね」と答えた 「ずっと俺といてくれるか?」 「いるよ!ずっと君といる」 そう返されて一生は嬉しそうに微笑んだ この人を愛して良かった‥‥ 子供のような笑顔で笑う人 その笑顔に惹かれて傍にいたいと想うようになった‥‥‥ 一生は荷物の山を見て 「んじゃ、取り敢えず還るとするか!」と帰宅を促した スーツケースに幾つもの袋をくくりつけ 両手に幾つもの紙袋を持ってヨロヨロになり‥‥ 力哉と一生は高知を後にした 横浜に着いた時にはすっかり日付が変わっていた 飛鳥井の家へと帰る 家族は皆寝ているかと思い、静かに家の中へ入り荷物を置いた すると応接間のドアが開き、ドアから笙が顔を出した 「お帰りお二人さん 新婚旅行は楽しめた?」 「笙さん‥はい楽しんで来ました」 「言ってくれれば式にも参列したし、ご祝儀も弾んだのに‥‥‥」 笙は至極残念そうに呟いた 一生は「俺は力哉と二人だけで挙げるつもりだったから‥‥」と困った顔で答えた 笙は笑って「困らせるつもりじゃなかった‥でも覚えておいて、僕達は君達の味方だって‥‥。」と一生の肩を叩いた 一生は「はい。」と答えた 笙は応接間の中の人間に 「凄い荷物だよ手伝って!」と応援要請をした 応接間の中から慎一と榊原が出て来て一生と力哉の荷物を応接間へと運び入れた 応接間に入ると康太の姿はなかった 一生は榊原に「康太は?」と問い掛けた 「彼は寝てます 病気とかじゃないので安心して下さい 真贋の仕事があったので疲れて寝てるだけです」 「‥‥‥傍にいなくて良いのかよ?」 「康太から日付が変わる頃還るから出迎えてやってくれと頼まれたのです 康太の要請を受けて出来るだけ多くの人が康太の分まで出迎えの為に待っていたんです」 「‥‥本当に何もないんだな?」 一生は念を押した 「当たり前でしょ? 何かあったら僕は康太の傍を死んでも離れません!それが答えです」 その言葉を聞き一生は息を吐き出した 榊原は一生を安心させる為に 「今回の真贋の仕事は‥‥とても厄介で力を使いきってしまったから‥‥と僕は西村に呼び出されて迎えにいきました 車の中で『今夜、日付が変わる頃一生達が還るから出迎えてやってくれ。オレは起きれるか解らねぇからな』と謂われたのです 久遠先生にも往診に来て貰い診て貰いました 久遠先生は疲れだろうから点滴を打つから寝かせろ!と謂れ点滴を打って下さいました 明日もダメな様なら病院に連れて逝く予定です」 そう聞き一生は 「明日病院に逝くなら俺も付き添うわ」と何時もの口調で言った 榊原は「楽しめましたか?」と問い掛けた 一生は笑顔で「めちゃくそ楽しめたぜ!」と答えた そして気になる戻り鰹は届いたのか?問い掛けた 「荷物、届いたのか?」 「ええ。先程届きました」 「先程って‥‥宅配ってそんなに時間が掛かるのかよ?」 「掛からないと想いますよ 君達の帰宅に合わせて届く様に康太が手配したんです」 「手配って、んな簡単に出来るのかよ?」 「出来ないと想いますが、君達の行った先は総て、康太が真贋の仕事で繋がっている得意先なので、多少の便宜をして下さったのです」 一生はだから、いつ頃帰られますか?だったのかと想った 瑛太が「主役の君達がいないのに荷物が届いても食べられませんからね‥‥ 君達の祝賀の意味を込めて宴会を開くつもりなんですよ」と答えた 力哉は「祝賀なんて‥‥もうやって貰ったのに‥‥」と泣きそうな顔で呟いた 真矢は力哉を抱き締めて 「何度でも祝って貰えば良いのよ そしたら宴会が出来るじゃない!」と笑って言った 宴会好きの飛鳥井だから気兼ねは無用よ!と真矢は二人を安心させる言葉を紡いだ 瑛太は「かと言って康太がいないのであれば、君達も淋しいでしょうから‥‥祝賀の宴会は明日にしましょう! 君達も今夜はゆっくり寝なさい!」と総ては明日にしようと提案した 疲れきった二人を何時までも引き留める訳にはいかないからだ 清隆は清四郎に「兄さんは泊まられるんですよね?」と問い掛けた 清四郎は笑って「戻り鰹を食さずに還れはせぬからな」と答えた 榊原は「一生が戻り鰹以外にも鮪や蛸を買い付けて来てくれましたからね 慎一と共に腕を奮うのが楽しみです 良い蛸がありますからね、子供達と共にたこ焼きでも作ろうかと想っているのです」と楽しそうに言った 玲香は「それは子供達も喜ぶであろう!」と眦を下げて甘いばぁばの顔でそう言った 時計は午前2時を指そうとしていた 榊原は立ち上がると 「取り敢えず寝ましょう!」と良い応接間を出て行った それを合図に各々の部屋へと引き上げて行った 清隆と玲香は清四郎と真矢と共に客間で寝る予定だった 「隼人も聡一郎も来るのじゃ!」と謂い皆を引き連れて客間へと行った 力哉と一生も自分達の部屋にと行った 翌日、飛鳥井の家は昼から大騒ぎだった 榊原は仕事を早めに切り上げて料理の準備に取り掛かった 康太は榊原の手伝いをして蛸をぶつ切りにしていた 一生は康太を見つけるなり傍へと近付き 「体躯‥‥大丈夫なのかよ?」と問い掛けた 康太は一生を視て 「めちゃくそ大変な仕事だったんだよ‥‥ 仕事が終わるなりぶっ倒れてな西村が伊織を呼んでくれたんだ‥‥ で、還るなり寝たけど今も疲れが抜けてねぇから怠いんだよ」 蛸をたこ焼き様に刻みつつ、康太は怠そうに言った 「その仕事は終わったのかよ? まだなら次は付き添えるぜ?」 「終わったから大丈夫だ! 当分は真贋の仕事はしねぇと決めてるしな」 「何かあったのか?」 「他の予定が入ってるんだよ」 「他の‥‥って何が入ってるんだよ?」 「‥‥‥まぁ‥‥この場で謂う事じゃねぇからな‥‥」 「何を隠してるんだよ‥‥」 「一生、今日はおめぇらの為に集まってくれた人達が来る! 他の事を考えてる暇なんてねぇぜ!」 「‥‥‥康太‥‥」 「それに隠し事じゃねぇ! 良く見てれば解る事だ! 解らねぇのはおめぇが見てねぇって事なんだぜ?」 「え‥‥‥?」 一生は何か話そうとした それを遮る様に慎一が康太の前に立った 慎一は「君達の宴会だと自覚はありますか?」と問い掛けた 「おー!自覚はある」 「なら働きなさい!」 慎一に謂われて一生は立ち上がった 後は忙しく卓上の長机を客間の襖を取っ払って並べた どれだけの人が来るの?って想う位沢山の卓上の長机を並べ座布団を並べた 座布団を並べた後は配膳 力哉と一生は忙しく飛び回っていた 夜になり招待客が飛鳥井を訪ねて来た 安曇勝也が「康太お招きありがとう!」と嬉しそうに康太を抱き締めた それを皮切りに三木繁雄や堂嶋正義、兵藤貴史が清家と共にやって来た 久遠医師も珍しくやって来て康太と話していた 久遠は招かれて来た訳じゃないのか? 「久遠、今日は新鮮な魚介類が食えるぜ?」と言い誘っていた 「おー!新鮮な魚介類か!!」 久遠は携帯を取り出すと「俺だ、今日は上がるから緊急な時以外は呼び出すな!」と告げて電話を切った 玲香は「おや?譲ではないか!今日はお主も飲むのかえ?」と尋ねた 久遠は「新鮮な魚介類があると謂われれば相伴しない訳にはいかないでしょうが!」と笑って答えた 玲香は「ふむ、ならば義恭と志津子も呼ぼうぞ! お主の息子らも連れて来る様に言っておこう! たこ焼きパーティーもあるらしいからな!」と携帯を取り出して誘っていた 電話をすると直ぐに逝く!と喜ばれ玲香は上機嫌だった 「ならば美緒も呼ばねばならぬな!」とワクワクして楽しい宴会の為に動いていた 堂嶋が呼んだのか幸哉も飛鳥井の家に来て康太と楽しく話していた 何ら変わりのない‥‥何時もの光景にしか見えなかった 料理の準備が整うと宴会に突入した 戻り鰹をメインにふんだんな魚介類がテーブルに並べられた 刺身や料理の合間をぬって鍋が数個置かれた 海鮮鍋の匂いに部屋が包まれると、鍋を所望する人が増えた 義恭や志津子も、兵藤美緒も飛鳥井にやって来て玲香は真矢も含めて女子会さながらの勢いで話は盛り上がって笑いが耐えなかった 清隆も三木や堂嶋、清四郎達と楽しそうに飲んでいた 康太は久遠と瑛太と片隅で話をしていた 一生が近寄ろうとすると聡一郎がそれを止めた 「一生、今近寄るのは止めなさい!」 そう言われ一生は不機嫌さを露にして聡一郎を見た 「何か隠し事してる? 俺だけ何も知らねぇのか?」 一生は苦しげにそう言った すると榊原が出て来て 「別に誰に何も隠してなどいませんよ? 今、この場で謂うのは筋が違うので敢えて謂わないだけです 君は自分達の為の宴会に水を刺す気ですか?」 とバシッと謂われた そう言われれば一生は何も言えなくなった 一生を見ている玲香の瞳が‥‥苦し気に翳った 無言で清隆は何かに堪えている風に‥‥瞳を瞑った 一生は‥‥やっと気付いた‥‥ 皆、何か辛い事があっただろうに‥‥ それでも一生や力哉の為に楽しげに祝ってくれている事を‥‥ やっと気付いた 一生は‥ごめん‥‥‥と呟き‥‥その場を明るくするために高知での話を始めた 戻り鰹を競り落とした時の武勇伝を語り始めたのだ 力哉も「一生は一歩も引かなくて転職した方が天性かと想ったよ」と笑いを誘った 聡一郎は「いっそ転職したら?一生」と揶揄した 「いやいや‥‥待て待て‥‥」 一生は止めているのに、清隆は「一生が市場で働くなら何時も新鮮な魚介類が食べられますね」と嬉しそうに言った 「義父さん‥‥それ以上虐めないで下さいよ」 一生が弱音を吐くと清隆は残念そうに「この戻り鰹美味しいのに‥‥」と言った 皆はその残念そうな言い種に爆笑した 康太と離れた久遠はガツガツ食って、ゴクゴク飲みまくっていた 「暖かい鍋なんて何年ぶりだろ?」 鍋のぬくもりに想わず久遠は呟いた この言い種に「‥‥‥嘘でしょ?」と想わず真矢は声をあげた 久遠は「暖かい飯を目の前にしても急患が出れば食う時には冷めちまうからな‥‥」と説明した その言葉に人の命を預かる大変さを垣間見た 真矢は「今度、熱々の保温可能な差し入れするからね!」と約束した 「それは有難い!」 久遠は嬉しそうに答えた そして一生と力哉に「あ、遅れちまったな‥‥一生、力哉、結婚おめでとうな!」と祝福の言葉を投げ掛けた 一生は「改まって謂われると照れます‥‥しかも俺らは‥‥男同士だし‥‥」と否定的な言葉を投げ掛けてしまっていた 「俺は気にしねぇぞ! どうせ人間なんてモノは一皮むけば臓器の塊だ! 性別なんて些細な表記にしか過ぎん」 見も蓋もない言い方に一生は笑った 「ありがとう久遠先生」 「祝儀を持って来てないからな 今度特別に検診でもしてやるさ!」 それは‥‥あんまり嬉しくないって‥‥久遠先生‥‥ 一生は苦笑した 康太は子供達とたこ焼きをしていた 焼くのは榊原 康太と子供達は応援していた 流生は「とぅちゃ かっこいいにょ!」と手際の良さに見蕩れ 翔は熱々のたこ焼きに「わがやのたこやきはさいこうね!」と絶賛した 音弥は「おいちぃね♪あちゅいね♪とまらにゃいね♪」と歌を歌いつつ食べていた 太陽は「こにょとろける ちょっかん!ちゃいこーね」と一つ食べるごとに味わい言っていた 大空は「ぼきゅも‥とぅちゃみたいになりたいにょ!」と闘志に燃えていた 烈は「にーたん、うまうまねー!」とお口の回りをソースと鰹節だらけにして笑っていた 榊原はひたすら焼きまくり 清隆や瑛太もたこ焼きに相伴にあずかっていた 清隆は「やはり伊織の作るたこ焼きは美味しいですね」と嬉しそうだった 瑛太も「ですね!伊織の料理はどれも美味しいですけどね」と料理の腕を絶賛していた 清四郎は「伊織に料理の才能があるなんて‥一緒に住んでる頃には夢にも想わなかったですね真矢‥‥」と子供の意外な発見に感慨深くそう言った 真矢も「伊織は何をしてもパーフェクトにこなしてましたよ‥‥ やらないだけであの子の出来ない事なんて滅多となかったんですよ?」と当時の嫌み臭い位に完璧な息子を思い浮かべていた 「そうなんですか‥‥昔から彼は何をしても才能があったんですね」 「そうよ!嫌みな位にね!」 榊原は両親の会話を聞いて居心地が悪かった だから止める為に自虐的な事を謂うしかなかった 「父さん母さん‥‥僕には役者の才能はありませんでしたよ‥‥ 演じると言う事が壊滅的な鉄火面なので‥‥幾ら顔が良くても使えない‥‥とオーディションを受けに行った新貝洋治監督にはボロクソに謂われました それで役者の道はスッパリ諦めた息子に‥‥完璧なんて言葉は止めて下さい!」 榊原の言葉に真矢と清四郎は驚いた瞳を向けた 「新貝‥‥」 「監督‥‥‥」 各々に口遊む‥‥‥ 真矢は「それって何時の話?」と問い掛けた この子も笙みたいに役者を目指していた時期があっただなんて‥‥ 信じられなかった 「小学6年の頃です あの事があったから僕は家を出る事を決めたのですから‥‥」 だから中学から桜林学園に転入して寮に入ったのか‥‥と改めて知る事実だった 榊原は満面の笑みを浮かべ 「でもあの日の失望があったからこそ、僕は康太と出逢う道へ逝けたのです! 康太は僕の初恋ですから!」 と惚気た 何時もの事だと皆は笑っていた 真矢は「私達は何も知らなかった‥‥貴方の苦しみを知ろうともしてなかったのね」と我が子が苦しんでいた事すら知らなかったと苦しそうに言葉を吐き出した 清四郎も「すまなかった‥‥」と謝った 榊原は「止めて下さいよ!今でも腹が立つ!!あの男‥‥そんな表情のない顔ならポスターで要は足りる!と言ったんですよ!!失礼な! 今度あの男に逢ったなら‥‥蹴り飛ばしてやろうと想っているのです」と思い出して腹を立てていた 清四郎は確かに‥‥あの当時の榊原は表情がなかった‥‥と想った 真矢も何て的確に言っちゃうの?‥‥‥子供なのに‥‥それはないわ!と想った 100歩譲っても‥‥もっとオブラートに包んでも良いじゃない! 真矢は我が子を傷付けた新貝洋治を許せずにいた 「伊織、今度彼に出逢ったら母が蹴り飛ばしてあげますとも!」と約束した 榊原は笑って「冗談ですよ母さん」と本当にやるだろうな‥‥と想い止めた 康太は「あつあつ!」言いつつたこ焼きを頬張っていた だが収集がつかねぇだろうから‥‥ 「んじゃオレが蹴飛ばしといてやんよ! オレの夫を能面みてぇに謂う奴は許しちゃおけねぇかんな! んで少しの嫌がらせもしといてやんよ 明日村松康三に逢うかんな! イビっといてくれって頼んでおいてやんよ! だから義母さんは蹴飛ばさなくて良いからな!」 と事態の収集に動いた 真矢は残念そうに「蹴る位‥‥」と言っていたが‥ 「ダメだって! 夫の事は総て妻がやるっもんだろ?」と通した 流生が「かぁちゃ かっこいー!」と喜ぶと 「おー!おめぇらの母ちゃんは強いんだぜ!」と笑った 隼人が「康太はノロケたいだけなのだ!」と茶々を入れ 康太は「解っちまったか?」と笑った その話はそこで御仕舞いとなった 安曇勝也、堂嶋正義、三木繁雄から結婚祝いを貰い一生と力哉は信じられない想いでいた お祝いはそればかりではなかった 兵藤貴史と清家静流が「祝いだ!」と言い一生と力哉にデカい箱を渡した 清家は「不本意でしたが貴史と共に探しました」とにこやかに謂うと、兵藤は少し怒って 「何が不本意だよ!」と怒った その夜は沢山の人に祝って貰い 沢山の人に御祝いを貰った 一生と力哉には忘れられない日となった 飛鳥井の家の客間には何時までも笑い声が絶えなかった 後日談 一生は翌日、皆が還った後康太に「何があったんだよ?」と問い掛けた 康太は疲れた顔をして 「悠太の調子が悪いんだよ」と答えた 悠太‥‥と聞き、意外過ぎて何があったのか解らなかった 「悠太に何かあったのか?」 そう言えば最近悠太を見ていなかった‥‥ 静かで寡黙な悠太は何時だって兄のために生きていた その悠太に何かあったと謂うのか? 「何もねぇよ‥‥‥何もねぇけど悠太の受けたダメージは‥‥今もアイツを苦しめているって事だ‥‥‥」 死んでもおかしくない傷だった 悠太の命を繋いだのは祖父、飛鳥井源右衛門だった そして生かしたのは兄、飛鳥井康太だった 「悠太相当悪いのか? ひょっとして最近見ねぇって事は入院でもしてるのか?」 「あぁ‥‥悠太は今入院してる 今度の入院はかなり長くなるだろう‥‥‥‥」 「どんな状況なのか‥‥話してくれねぇか?」 「‥‥‥悠太の全身‥‥至る所に拷問を受けた後遺症で骨に亀裂が走っているんだよ ある程度は久遠が治してくれたが‥‥完璧には治せねぇって謂われていた 全身骨折したんだ‥‥そうそう簡単には治らねぇのは承知していた そしてその傷は‥‥着実に悠太の体躯を蝕むだろうと‥‥謂われていた だから悠太もオレ等も覚悟は出来ていた」 「亀裂‥‥それって‥‥治らねぇのか?」 「全身って言ったやんか 一つや二つ治しても焼け石に水みてぇなもんなんだよ ‥‥悠太‥‥歩けなくなったんだよ まるで‥‥音を立てて崩れ落ちるかのように悠太の骨はポキポキ折れて‥‥倒れた もう‥‥己の体躯も支えられねぇ所まで来てる‥‥」 そんなに‥‥ 一生は言葉もなかった‥‥ 「久遠の恩師がアメリカにいる オレは悠太を連れてアメリカに逝き、オペが出来るかを調べて貰った 何年も掛かるが不可能な事ではない謂われた 悠太はそのままアメリカで入院している オレ等はオペに備えて、総てのスケジュールの調整をしている所だ‥‥」 「俺も逝く!」 一生は間髪入れずそう言った だが「それは無理だ一生!」と却下した 「何でだよ!」 「お前の牧場は慎一1人で回すには限界がある!」 「それでも‥‥」 言い掛けて言葉を飲み込んだ 康太は一生の肩を叩き 「何も向こうに行きっぱなしになる訳じゃねぇ‥‥ 聡一郎が付き添う事になるからな、オレ等は聡一郎を支える為に行ったり来たりを繰り返すだけだ‥‥‥」 「なら俺もその中に加えてくれ! 俺も聡一郎を支える一人になりてぇ!」 「オペが終わったらな‥‥そうしてやってくれ‥‥」 「オペが終わったら? ならオペの前は?」 「オペの準備を入れてオペの最中は血縁者しか付き添えねぇんだよ!」 「なら旦那は?‥‥‥」 「伊織は清四郎さんが飛鳥井源右衛門の息子と認められたから、悠太の叔父と言う事で身内として入れる事になってるんだよ」 「え‥‥」 「清四郎さんが飛鳥井源右衛門の息子だと裁判所に申請したんだよ 戸籍と血液鑑定を添えて裁判所に申請して‥‥裁判所は清四郎さんを飛鳥井源右衛門の実子として認めた だから伊織は源右衛門の孫、悠太の叔父として病院側に申請して許可を得てる」 「なら‥‥俺等は‥‥付き添いたくても‥‥付き添えれねぇと謂う事なのか?」 「‥‥‥悪い‥‥」 「だから謂わなかったのか?俺に‥‥」 「違げぇよ!祝いの席で謂う事じゃねぇからな 謂わなかっただけだ‥‥悠太の事を聞いて誰が笑って祝福なんて出来るよ? それに大分前から悠太は飛鳥井にいなかった‥‥」 だから見てれば解ると謂ったのか? 一生はそれを聞いて「ごめん‥‥」と謝った 殺し屋の一件で距離を置いているのだと想った それか師匠脇本誠一の弟子として飛び回っているのか?と想っていた そう言えば‥‥悠太を飛鳥井の家で見掛けなくなったのは‥‥ 何時からだろう?‥‥ 「悠太は今アメリカなのか?」 「そうだ、検査が続いてるから付き添いは禁止されてるからなオレ等は帰って来た 検査の結果が出たら悠太の所へいきオペの準備に入る」 「悠太‥‥散々苦しんだじゃねぇか! なのに‥‥まだ苦しめられなきゃならねぇのかよ!!」 一生は悔しそうに拳を握り締めて叫んだ 「一生、頼みがある‥‥」 一生は顔をあげて康太を見た 「何でも聞いてやる‥‥俺に出来る事なら何だって聞いてやる!」 「オペには俺と伊織、真矢さんと清四郎さんしか逝かない‥‥父ちゃんや母ちゃん、瑛兄は会社があるからな‥‥逝けねぇんだよ だから‥‥お前に父ちゃん達を頼みたいんだよ! オペが終わったら‥‥父ちゃん達とアメリカに見舞いに来てやってくれ‥‥」 オペに失敗したら‥‥‥ アメリカに逝く事はなくなる‥‥ 賭けだった だからこそ敢えて康太は言ったのだ 昨夜の清隆や玲香の表情の翳りは‥‥これだったのかと一生は理解した 「解った! 義父さんや義母さん、義兄さんの事はこの命を賭けて護るし支えると約束する!」 「‥‥‥すまねぇな‥‥」 「俺の方こそ言わせてごめん‥‥ なぁ康太‥‥聡一郎は悠太に付き添えるのか?」 身内でもないのに‥‥付き添えれるのか? と一生は心配して口にした 「聡一郎はアメリカに渡った時、悠太と式を挙げた 結婚証明書を発行され立場上は『妻』と認められたからな、付き添いは許されているんだよ 向こうはゲイも市民権が確立されてるからな‥」 「そうか‥‥俺は‥‥何も知らなかったんだな‥‥」 「なぁ一生、聡一郎は悠太の病院に添う為に結婚式を挙げたんだ 付き添う為に必要な行為だったからな‥‥ 誰にも祝福される事なく‥‥二人きりで式を挙げた‥‥ お前の結婚式を‥‥聡一郎がどんな想いで見ていたか‥‥解るか?」 一生は聡一郎がどんな想いでいたのか考えて‥‥胸を握りしめた 痛い‥‥ 痛い‥‥ 心が壊れてしまいそうに痛かった なぁ聡一郎‥‥ お前‥‥どんな想いで俺達の結婚式を見てたんだよ‥‥ 誰にも祝福される事なく‥‥式を挙げるつもりだった だが‥‥皆に祝福され挙式をした今‥‥ それがどれだけ辛い事なのか‥‥ 一生には痛い程に解っていた 「聡一郎‥‥‥」 一生は呟いた そして我が子とも言える聡一郎を思い浮かべた ズタズタでボロボロの聡一郎をこの世に繋ぎ止めたのは一生だった 誰よりも幸せになれと祈っていたのに‥‥ 何故‥‥‥ 何時も何時も‥‥ 聡一郎の幸せを奪うんだよ! 一生は悲しみにうち震えていた 神様‥‥‥ どうか‥‥聡一郎の幸せを奪わないでやって下さい‥‥ 世の中を恨んで 父親を憎んで 生きて来た聡一郎に追い討ちをかけないでやって下さい やっと‥‥ やっと‥‥手にした幸せなんですから‥‥‥ 一生はもし悠太に何かあったら‥‥‥ 聡一郎は確実に後を追うだろうと考えて身震いした 康太は一枚の写真を取り出すと一生へと渡した 一生はその写真を受け取り‥‥‥ 声をあげて泣いた 写真の中に白いタキシードを着た聡一郎が笑っていた 同じく白いタキシードを着た悠太も車椅子に座って笑っていた とても幸せそうなカップルの写真だった‥ そして‥‥とても寂しい結婚式の写真だった‥‥ 「康太‥‥俺決めたわ! 聡一郎が悠太と一緒に帰って来たら皆に祝福される式を絶対に挙げてやる! 花嫁の父は俺が務めてやるって今決めた!」 一生が決意を口にすると康太は笑って 「聡一郎はウェディングドレスは着ねぇぞ? どうしても着ろと謂うならば悠太に着せてやる!と言ってたかんな‥‥」と答えた 聡一郎らしくて‥‥‥一生は笑った そして聡一郎らしくて‥‥一生は泣いた 康太は何も謂わなかった 一生は「我等四悪童‥‥地獄の果てまで共に在る!そうだろ?康太‥‥」と切っても切れない絆を口にした 我等四悪童は、お前と共に在る‥‥ だから聡一郎が還らない訳がないのだ 還って来い聡一郎! 一つでも欠けたら‥‥許さねぇからな! 還って来い!悠太! おめぇの居場所は康太の傍じゃねぇのかよ? 「絶対に‥‥‥」 一生はそう言い‥‥瞳を瞑った たとえ何があろうとも 越えれぬ壁はねぇ! 一人で登れねぇなら‥‥ 俺らがいる 康太がいる ‥‥‥聡一郎‥‥聡一郎‥‥ おめぇは一人じゃねぇんだからな‥‥ 聡一郎と悠太の闘いは始まったばかりだった

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