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第77話 コオじゃあるまいし
「あんだよ?それは??コオじゃあるまいし!」
康太は叫んでいた
あまりの驚きに‥‥思わず叫んでいたのだった
康太はその日、一ノ瀬動物病院にワン達の検診に来ていた
診察台に傷付いた猫が保護されて一ノ瀬の診察を受けていた
その猫を見て康太は叫んだのだった
榊原は「康太、叫ばないで下さい」とドウドウと宥めた程だった
「だって伊織‥‥」
康太が謂うと榊原は「解っています君の言いたい事は‥‥」と言った
「まるでコオみたいだと言いたいのでしょ?」
榊原が謂うと康太はブンブン頷いた
榊原も診察台の上にいる猫を凝視した
「‥‥この足の短さ‥‥猫にもこんな種類がいたのですね」
短い‥‥
本当に足が短い猫だった
まるでぬいぐるみの様に愛らしい顔をして
もふもふの容姿をしていた猫は‥‥
コーギーばりに足が短かった
一ノ瀬聡哉は「この猫はマンチカンと言う種類の猫なんです。
犬種のダックスフントやコーギーを思わせる全身、短い脚を特色とする猫なんですよ」と説明した
康太はコオを抱き上げて短い足を伸ばして‥‥猫を見た
榊原は「康太‥‥コオが可哀想ですよ」と言いコオを康太から離した
康太は一ノ瀬に「触って良い?」と尋ねた
一ノ瀬は「どうでしょう‥‥虐待を受けてて保護された子なんですよ」と説明した
康太は「血統書つきの猫かなんかじゃねぇのか?珍しい猫なんだろ?」と珍しい猫が何故に虐待されたのか?不思議そうに問い掛けた
「マンチカンは雑種ですよ
正式に認定書のあるマンチカンはいないんじゃないですかね?
でも安い猫ではないのは確かですけどね
最近は高い猫だって捨て猫にされる時代です
虐待されて保護される猫は絶えませんからね‥‥」
一ノ瀬はそう言い哀しそうな顔をした
康太が手を伸ばし猫に触れようとすると‥‥
猫はビクッと体躯を振るわせ‥‥警戒した
「こんな小さな猫に虐待する奴は許せねぇな‥‥」
康太が呟くと
「矢を打ち込まれたり
ペンキをかけられたり‥‥灯油をまかれて火をつけられた猫も‥‥運びまれたりしました
最近は本当に多いんですよ
いたぶられて虫の息の子は‥‥手当ての甲斐なく‥‥看取るしか出来なくて‥‥
残虐無道な事をされて死んで逝く子らが後を絶えません‥‥」
この子もその中の一匹だと一ノ瀬は言った
「助けて!って謂えねぇからいたぶっても構わねぇって根性が気に入らねぇな‥‥」
康太は猫を視ていた
一ノ瀬はそれに気付き「‥‥康太君‥‥」と名を呼んだ
「買ったら自分のモノだもんな
何やっても勝手って領分でいたら世の中も渡りずれぇだろうな」
康太はそう言い嗤っていた
人の身勝手に傷つけられた命を憐れに想っていた
こんな毛玉の様な可愛い子を‥‥
傷付ける人間が許せなかった
康太が怒りに身を振るわせていると物凄い音を立てて車が動物病院の前に停まった
そして乱暴に動物病院のドアを開くと
「僕の猫を返して貰えないか?」と鷹揚な声が響き渡った
コオがウーゥゥゥゥゥと低く唸った
イオリがガルとコオの前に出て家族を護っていた
榊原は康太の前に庇うように立っていた
男のすぐ後ろに「お兄ちゃん!もう止めて!」と悲鳴にもにた声が響き渡った
男は一ノ瀬の前に立つと
「お前か?僕の猫を勝手に持ち出したのは?」と責める様に問い掛けた
一ノ瀬は迎え撃つ様な顔をすると
「ご家族から猫の保護を依頼されましたから!」と答えた
「この猫の飼い主は鷺ノ宮紫明、僕なのに?
勝手に家族の依頼を受けたりするのかい?」
猫はフゥーと逆毛を立てて鷺ノ宮紫明なるモノを威嚇していた
康太は黙ってそれを視ていた
鷺ノ宮‥‥何やら呟き‥‥
「伊織、トイレ!」と言いトイレへと行った
鷺ノ宮紫明はゲージを出すと猫を入れて帰ろうとしていた
康太はトイレから出て来ると‥‥‥
ゲージを蹴り飛ばし知らん顔して榊原の傍へと向かった
鷺ノ宮は怒った顔をして康太を睨み付けた
「何するんだい?」
「猫は保護されて治療中だ!
持って帰ってまたサウンドバック宜しく殴る蹴るしたら確実に死ぬ事になるぜ?」
「僕が買った猫が死のうが何しようが君には関係と想うけど?」
「保護され長らえた命を易々と絶つのは目覚めが悪すぎるからな!」
「これだから下賎の者は‥‥
僕は鷺ノ宮家の者次代当主になるべき者
本来ならお前なんかが口を聞ける立場にないのだと想うが良い!」
「へぇ、鷺ノ宮ってんなに偉い家なのか?」
「下賎の者には解らないだろう!」
馬鹿にするように嗤う兄に妹は
「もう止めて!お兄ちゃん!
お兄ちゃんは自分がこの世の中で一番偉いって想ってるだろうけど、この世に一番偉い人なんてお兄ちゃんじゃなく沢山いる!」
「五月蠅い!黙れ!」
兄は妹を一蹴した
一ノ瀬はこの状況を困った顔で見ていた
猫は渡したくはない
渡したくはないが‥‥
飼い主が来たのだ
飼い主が主張するなれば‥‥渡さねばならないだろう‥‥
イライラと鷺ノ宮紫明が爪を噛んで癇癪を起こす一歩手前で一ノ瀬動物病院のドアが開いた
「康太様!!」
初老の男性が康太の名を呼び飛び込んで来た
妹は驚いた顔で‥‥顔を上げた
「呼び出して悪かったな」
「いえいえ!鷺ノ宮紫苑、地球の裏側でも貴方が呼べば馳せ参じまする!」
一ノ瀬動物病院に入って来たのは鷺ノ宮紫苑
鷺ノ宮紫明と妹の父親だった
康太は空いてる椅子を紫明の方に蹴飛ばすと
「紫苑、めちゃくそ教育の良い御子息を御持ちのようだな!」と揶揄した
椅子を蹴飛ばされよろめいた紫明は「無礼者!」と罵声を浴びせた
紫苑はそんな息子の頬をバシンッと叩いた
「お義父様‥‥」
唇が何故?‥‥と呟いた
紫苑は康太に深々と頭を下げると
「不肖の伜が何か仕出かしましたか?」と尋ねた
「お前の息子は猫を虐待していたんだよ」
紫苑は顔色を変え紫明に
「それは本当ですか?」と尋ねた
紫明は顔色をなくし何も言わなかった
それが証拠となって紫苑は深い溜め息を漏らした
「おめぇの息子はてめぇが一番偉いと錯覚してやがる
まぁ正確には鷺ノ宮の家が一番偉いって想ってる
だから同じ動物病院に居合わせたオレを下賎の者扱いしやがった
最低の礼儀を兼ね備えた御子息だと感心した所だ!」
紫苑は康太に深々と頭を下げると
「行き届きませんでした
この子は‥‥祖父母が英才教育を施し帝王学を学ばせた
次代の当主として育てて来た子です‥‥
祖父母は‥‥帝王学を叩き込み貴族社会を学ばせた
肝心な人間性は磨かずに‥‥来てしまった結果こんな子を作り上げてしまった‥‥」
「今時、己が一番偉いなんて想ってる奴がいるなんてな驚きだった
鼻っ柱をへし折ってやろうって想ったし、猫が受けた痛みを味会わせてやるつもりだった」
「仕方がありません‥‥それが我が身が引き越した事‥貴方に命を取られようとも申し開きなど出来はしません」
頭を下げ続ける父を初めて目にした
鷺ノ宮が一番偉いんじゃないのか?
紫明には何がなんがだか理解出来ずにいた
康太は唇の端を皮肉に吊り上げると
「鷺ノ宮も終わるか?」と投げ掛けた
「終わるわけにはいきませぬ!
我の代で終わらせては御先祖様に申し訳が立ちませぬ!
息子を切る事で存続するのであれば‥‥どうか息子をお好きになさって下さい」
「家長はどうするよ?」
「妹の紫香がおります!
婿養子を取り鷺ノ宮を存続させてくれると想います」
「祖父母は納得するのか?」
「納得せずとも『飛鳥井に無体を働く馬鹿でした』と申せば黙る筈‥‥それでも足らぬも申すなれば‥‥鷺ノ宮紫苑、この命をもって償います所存です!」
鷺ノ宮紫苑の言葉に榊原は「康太、紫苑さんは安曇さんの後ろ楯として存続して貰わねばなりませんよ!」と行き過ぎを止めた
政界に顔が利き、他の政党や財界に太いパイプ役を担う鷺ノ宮は安曇の後ろ楯として動いているのだった
「解ってるさ伊織
ならさ紫苑、おめぇの息子を切れよ!」
康太の容赦のない声に紫苑は息子の前に立った
「鷺ノ宮紫明、今日からお前は鷺ノ宮家からは一切関係のない人間とする!」
「‥‥お義父様‥何言ってるのさ
お祖父様やお祖母様が許す訳ないじゃないか!」
「父や母が何を言おうが飛鳥井の真贋に逆らう者など我が家には誰一人としていない!」
「‥何それ‥何だよ?それ‥‥」
「お前の命は飛鳥井家真贋が握っていらっしゃる!」
「僕の命は僕のモノだ!」
紫明は叫んだ
だが紫苑は苦痛に眉根を寄せると首を振った
妹の紫香は「お兄ちゃんは飛鳥井の家の真贋だけには無礼を働いてはいけないよ‥‥と教わらなかったのですか?」と尋ねた
紫明は首をふり‥‥唖然と立っていた
康太は携帯を取り出すとワンコールで出た相手に
「一生、慎一にバスをチャーターするように頼んでくれねぇか?」と話した
『バスをチャーター?
俺も一緒に行っても良いって謂うなら頼んでやるよ!』
「良いぞ!ワン達の面倒を頼む」
『ワンいるのかよ?
あぁ、そうか、今日は検診だっけ?』
「後‥‥猫も連れて行きてぇんだけど」
『猫、飼うのか?』
「それはまだ決めてねぇけど‥‥」
『良いぞ!面倒見るから俺を乗せて行きやがれ!』
「なら慎一に一ノ瀬動物病院まで来る様に頼むな!」
『了解!』
元気に返事をして電話は切れた
電話を切った康太は
「まぁ取り敢えず鷺ノ宮紫明には猫と同じ目になってもらうとするか!」と嗤って言った
紫苑は諦めた様な瞳で息子を見ていた
妹は「お兄ちゃん‥助けてくれませんか?」と土下座して康太に頼み込んだ
康太は妹に「このままクズのまま放置する方が罪だって想わねぇか?」と問い掛けた
「‥‥お兄ちゃんは‥‥家族の犠牲になっただけです‥‥
過去の栄華に縋り付いて生きるあの人達にとって‥‥かびの生えた帝王学をお兄ちゃんに叩き込む事こそが誉れだと想っている
時は‥‥鷺ノ宮の家を取り残して刻一刻と進んでいるのに誰一人気付かない
等の昔に貴族だ華族だと身分もなくなり‥‥過去の財産もなくなったのに‥‥
そんな盲信を聞かされて育った兄も犠牲者なんです‥‥」
「紫香、おめぇだって兄を追いやった一人だろうが!」
「‥‥‥‥あの家の総てが間違いだと言ったとしても誰も私の言葉には耳を貸してはくれない
お兄ちゃんはあの家では特別な存在だった
そうしたのはあの家だと何度訴えても‥‥誰も私の言葉には耳を貸してはくれない」
「歪んだ教育を受けたって間違いが解る人間もいる!
こいつは間違った教育の中で胡座をかいてこのまま一生鷺ノ宮の当主として好き勝手に生きていけると夢を見ていた愚か者だ
本質は誰の所為でもねぇって事だろ?」
紫香は言葉をなくした
誰も言葉を忘れたかの様に押し黙っていた
暫くしてバスが一ノ瀬動物病院の前で停まった
バスから一生が下りて病院の中へと来ると‥‥
何やら気不味い空気が漂っていた
一生は辺りをぐるっと見渡した
コオやイオリ、ガルが心配そうな顔で一生を見ていた
一生は3匹を安心させる為に頭を撫でてやった
「どうしたよ?」
一生はガルに話しかけた
ガルが必死に一生に教える様にキュンキュン鳴いて、まるで一生と話をしている様だった
「そうか、安心しろ!
もう大丈夫だ!」
一生はそう言いガルを安心させた
そして診察ベッドの上に怯える様にしている猫の傍に向かった
「んな怯えなくて大丈夫だ!
康太が来たからには、もう痛い事はねぇから安心しろ!」
ウゥーと唸る猫に一生は言い聞かせる様に話し掛けていた
一生はそっと猫を撫でた
ビクッと震える猫の背を撫でて怪我の度合いを調べた
「骨、ポキッと行ってるな‥‥痛かったな」
一生が謂うと康太が
「どんな感じだ?」と声をかけた
「骨が折れてるしヒビも行ってるな
後打撲とナイフで斬りつけられた怪我が膿んでるみてぇだな
耳も鼓膜が多分やられてるな」
「そうか、山寺の和尚さんが
毬(まり)はけりたし 毬はなし
猫をかん袋に 押し込んで
ポンとけりゃ ニャンとなく
ニャンがニャンとなく ヨイヨイって感じでフルボッコにしてナイフで斬りつけまくった、って感じか?」
「だな」
「ならそれをやるまでだな!」
康太が簡単に謂うと一生は「え?何?何をやるって謂うんだよ?」と叫んだ
康太はそれには答えず榊原に「菩提寺の試練の間で良いか?」と問い掛けた
榊原は「試練の間へ‥‥素人を入れるのは気が引けますが試練の間辺りが妥当な所だと想います」と返した
一生は「なぁ康太、この猫‥‥足短か過ぎねぇ?」とコオばりの足を撫でながら謂った
「だろ?オレ叫んだかんな!」
康太は一生に興奮して驚いた時の事を話した
「猫をでもこんな足が短いのいるんだな」
一生は感心して猫を撫でた
康太は一生に「猫をゲージに入れてくれ!」と頼んだ
そして一ノ瀬に向き直り
「カタつけねぇと治療もクソもねぇかんな
カタを着けて来る事にするわ」と言い放った
慎一が病院に入って来ると
「慎一、この男を縛ってくれねぇか?」と頼んだ
康太が謂うと慎一は一旦バスに戻りロープを持って来た
そしてロープで器用に鷺ノ宮紫明を縛り上げると「バスに乗せますか?」と尋ねた
「おー!一生、犬と猫をバスに乗せてくれねぇか?」と頼んだ
一生は3匹のリードを持つと、猫をゲージに入れて肩から担いだ
康太は鷺ノ宮紫苑と紫香に「見届けろ!」と共に来る事を言い渡した
紫苑は娘と共に無言でバスに乗り込んだ
康太は一ノ瀬に「んじゃカタを着けて来るわ!」と謂った
一ノ瀬は「巻き込んじゃってゴメンね」と謝った
「気にするな!
んじゃ、また後で猫を連れて来るから、その時うちの犬の検診も頼むわ」
「ええ‥‥待ってます」
一ノ瀬は康太と榊原を見送った
バスに乗り込んだ康太と榊原は無言で空いてる席に座った
それを見届けて慎一は運転席に乗り込みバスを走らせた
バスは飛鳥井家の菩提寺への駐車場で停まった
バスから康太が下りると菩提寺の住職 城ノ内優が出迎えた
「こんな時間にお越しとは、珍しいじゃないか?」
砕けた調子で城ノ内は話し掛けて来た
康太は嗤って「試練の間を使わせて貰いてぇんだが?」と菩提寺に来た目的を話した
「お主は飛鳥井家真贋、お主が望むならばどの部屋だとて好きに使われるが良い!と言いてぇけど、俺は仏に遣える身だからな言っとかねぇとならねぇ事もある!
どの部屋を好きに使おうとも勝手だが、殺生だけは御法度だ!
試練の間を遣うのであれば紫雲に見張らせとけ!それだけがルールだ!」
「オレは猫に変わって復讐してやるだけだからな‥‥猫の想いを部屋がどう取るかは‥‥部屋次第ってもんだろ?」
「そう来たか‥‥まぁお前の好きにやれ!」
城ノ内は曲がった事はしない友の気質を知っているから敢えて口を出す事はしなかった
姿勢を糺すと「それでは試練の間へ御案内致します!」と僧侶の顔をしてそう言った
ゆったりとした足取りで城ノ内は境内を横切り本殿へと続く長廊下を渡り始めた
立派な襖の前に来ると城ノ内は歩みを止めた
「本殿 試練の間に御座います!
この部屋は意思を持つ部屋でも在る
貴方に課す試練を与える部屋に御座います」
城ノ内が謂うと襖の左右に巫女が控えて座っていた
康太は猫のゲージを一生から貰い受けると先に部屋の中へと入って逝った
部屋から戻って来ると康太の手には猫はいなかった
康太は慎一に「ロープを解け!」と言うと、慎一は紫明のロープを解いた
城ノ内は康太に詳細を知らされていないにも関わらず
「それでは鷺ノ宮紫明、立会人 鷺ノ宮紫苑、紫香 両名の入室を許可致します!」
と入室を告げた
すると襖の左右に控えていた巫女が襖を開いた
城ノ内は紫明の背を押し、紫苑と紫香の両名も部屋の中へ入れると襖を閉めた
パタンっと閉じられた襖の音が響き渡った
城ノ内は送り出しが終わると
「おめぇらは出て来るのを待つのかよ?」と尋ねた
康太は「一応、放り込んだ責任もあるしな」と答えると
「なら上手い茶菓子を隣の部屋に用意させよう!」と嬉しそうに言い準備に走って逝った
一生は「犬は大丈夫なのかよ?」と3匹はどうするんだ?と問い掛けた
康太は「大丈夫だろ?オレんちの犬は行儀が良いかんな!」と言い城ノ内の後を追った
慎一は「猫はどうしました?」と訪ねると
「あぁ、猫は同祖神の所だ!
見届けるつもりだからな置いて来た」
「あの子はどうするつもりなのですか?」
「コオと共に飼っても構わねぇと想っている
どうせ一匹増えたってどうって事ねぇだろ?」
「そうですね
飛鳥井のワンもにゃんも良い子達ですからね」
慎一は親バカ発言を惜しみもなく言った
康太は笑って試練の間の隣の部屋に入って逝った
襖が閉まった瞬間
部屋は真っ暗な暗闇に包まれた
「此処は何処だ!僕を何処にやった!」
紫明は叫んだ
叫んだが声は何処へも届く事はなかった
ドスンッドスンッと地響きがして
その足音は近付いて来ていた
「猫は何処だ?」
姿を現したのは青い鬼と赤い鬼で
身の丈300寸位ある大男だった
青い鬼は手に布袋を持っていた
赤い鬼は手に棍棒を持っていた
青い鬼は足元にいる紫明を見付けると
「あぁ、いたではないか!」と言い紫明を握り持ち上げた
袋に紫明を入れて入口を縛ると「それでは行くとするか!」と合図を送った
紫明が入った袋を空高く飛ばすと、落ちてくる前に赤い鬼が蹴りあげた
「そらそらお主の猫はどんな気持ちだったか想い知るがよい!」
赤い鬼はそう言いい嬲る様に鞠蹴りならぬ、紫明蹴りは続いた
床に下ろされた紫明は身動きひとつしなかった
赤い鬼は手にしたこん棒で紫明を叩いた
布が血で滲むのを‥‥紫苑と紫香は黙ってみていた
青い鬼は手にナイフを持っていた
紫明目掛けて突き刺そうとすると紫香は「止めて下さい!」と叫んだ
赤い鬼は紫香に「何故止める?こやつの猫だって止めて止めてっと泣き叫んでいたではないか?」と鋭い瞳で紫香を睨み付けた
「ええ、兄は鬱憤を総て猫にぶつけてました
私は‥‥見かねて猫を保護して貰いました」
「だからお主に罪がないとも?」
「え‥‥」
「見ていたのだろ?
猫が泣き叫ぶ姿を?
なればお主も同罪なのではないか?
保護して貰えば罪はなくなったとでもおもうたか?」
紫香はガタッと膝を崩して床に座った
ガタガタと震え
「私に力があったなら‥‥兄の好きにはさせなかった‥‥
兄は‥‥狂った様に何かに当たり散らす傾向はありました
私が中学の頃までは兄の鬱憤の総ては私に向いていました
猫がされていた事を私はやられていたのです
日々エスカレートしていった暴行を家族は見てみないフリしていました
ですが私の受けた傷は尋常ではなかったので、学校で問題となりやっと家族も動かざるを得なくなり兄は私をいないものとして扱うようになりました
兄は鬱憤を私にぶつけられなくなり、その鬱憤を近所の野良猫にぶつける様になりました
新聞で騒がれていた河川敷の変死した猫は兄がやったのです
私はそれを知っていました
知っていたけど‥‥私はやっと兄の暴力から解放され‥‥下手に兄に関わる事を恐れたのです
兄にとって私は関係ない存在でいられるんだ‥と想うと安堵しました
だけど‥‥そしてそんな自分が許せなかった
野良猫を殺し続け騒ぎになり警察が出て来ると兄はペットショップへ行き自由になる猫を買いに行きました
何体も何体も‥‥兄は猫を殺した‥‥
もう止めて欲しかった
だから兄さんが怒っても良いから猫を連れ出し保護して貰ったんのです‥‥」
赤い鬼は紫香に「お主は兄を呪っては‥‥御座らんのか?」と問い掛けた
「呪う気持ちなら誰よりも強いです
死んでくれないかなって祈った事もあります
この手で殺してやろうかと想った事も一度や二度ではありません!
兄が失脚するのは気持ちいいです
いっそ鷺ノ宮の家なんてなくなればいい!
そう思っています
それが私の気持ちです」
「ならば何故止める?」
「死なせる方が“楽”だからです
簡単に死なせたら、兄は解放されたと喜んで死んで逝くでしょう
悔いもせず、恥もせず、己を知る事なく死なせるものですか!
そんな楽な死に方させるものですか!
兄が生きて償わねば意味がないのです
挫折を知らない人間が挫折と屈辱を味わいのたうち回る様を見てやろうと想いました
だが‥‥それを見るならば、私も腐った人間にしかなり得ない‥‥
だから兄を止めるのです
兄は己の足で歩み考えねば意味がない
今の兄は鷺ノ宮が作り上げた亡霊でしかないのですから!」
「だから兄を止めるのか?」
「兄には人間の心がない
人間に戻った時兄は何を想うのか?
自戒に苦しむ姿を目に出来たら‥‥
私は生きる意味を全うしようと想うのです」
「生きる意味とな?」
「私は鷺ノ宮を捨てる
鷺ノ宮とは関係なき者になる
私は私の為に生きようと想っている
それが私が全うすべき意志です」
紫香が謂うと紫苑は驚いた瞳で娘を見た
赤鬼は青鬼の顔を見た
「猫の望みは己が味わっただけの痛みであったな」
「そうであったな、ならナイフで刺して終わりにするとするか!」
青鬼は袋から紫明を出すと右肩をナイフで刺した
袋からだされた紫明の顔は‥‥見るも無惨に腫れ上がり青褪めていた
赤鬼は小瓶を取り出すと紫明の口に流し込んだ
紫明は意識を取り戻し、痛みに呻いた
赤鬼は「痛みとは己に還る呪いだと知るがよい!」と言い放った
青鬼も「因果応報、人に石を投げれば、その石は必ずや己に還って来る
今世お主は非業を遂げた故、このままでは来世は人にはなれぬ!
お主は来世も続く所業を今世で償うか来世も持ち越すか考えねばならぬ岐路に立つ
炎帝様はお主を殺すなと申した
だから命は取らぬが、その性根を入れ替えねばお主の明日は暗闇へと進むしか道はなくなる」と説いた
赤鬼は紫明を摘まむと
「お主の猫の恐怖が解ったか?」と問い掛けた
「はい‥‥」
そう答えた顔は見るも無惨に腫れ上がり苦痛に歪んでいた
赤鬼は「人らしい顔になったではないか!」と能面の様な顔に表情が出たのを見て口にした
青鬼は「今の気持ちを聞かせろ!」と紫明に問い質した
「僕は護られた世界で生きていた‥‥
だがその世界は歪んで醜く欲望にまみれていた
僕は‥‥家族の期待が僕を歪めるのを知っていた‥‥
僕は紫香が羨ましかった‥‥
自由に生きてる妹が羨ましくて‥‥八つ当たりした
そのたびに自分の小ささを想い知らされ僕を歪めた
僕は自分が破滅の道に向かっているのを知っていました
何時か‥‥僕を罰する者が出て来る‥‥
そしたら僕は‥‥その者に身を委ね裁いて貰おう‥‥
その日から僕は裁かれるのを待つだけの日々を送った
だから今僕はもう鷺ノ宮の荷物を背負わなくても良い事実にホッとしています」
紫明の言葉に紫苑も紫香も驚いた瞳をして言葉をなくした
赤鬼は眉を顰めて
「憐れよの人の子よ‥‥
炎帝様が『殺すなよ』と申した事が解り申した
この憐れな魂のまま人の世を終える事になるのは避けたかったのであろうな‥‥」と苦し気に吐き出した
青鬼も「炎帝様だから果てを視られたのであろう‥‥なれば我等も炎帝様の申し付けは護らねばならぬな‥‥」と唸った
赤鬼は紫明を手にしたまま
「鷺ノ宮紫明なる者はこの世を去った
この者は此れより地獄へと参る!」と宣言した
青鬼は手にした棍棒で地面を強く叩き
「我等は閻魔大魔王に仕えし鬼 倶生神である!
この者の魂は我等倶生神が預かる事とする
以後の話は閻魔大魔王が御子弟 炎帝様とされるがよい!
我等は此れより地獄へ向かう!
この者の魂は地獄の修練場で魂の修練を受ける事となる!」
と宣誓した
紫香は「倶生神?‥‥嘘‥‥倶生神(くしょうじん)って‥‥人の善悪を記録し死後に閻魔大王に報告するという2人の神のこと?なぜそんな鬼が‥‥」唖然として知ってる知識を口にした
赤鬼は「仕事は終わり申した炎帝様!」と仕事の完遂を告げた
すると康太が姿を現し「呼び出して悪かったな!」と謝罪の言葉を投げ掛けた
青鬼は「炎帝様が呼ぶならば何処へでも馳せ参じ申す!」と厳つい顔を染めて言った
赤鬼は康太の前に紫明を下ろした
康太は紫明の痛々しい顔に触れ
「おめぇは足らねぇ事ばかりで出来ている
だから地獄の修練場で魂を磨いて来いよ!
そしたらおめぇは別人になって新しい人生を送ると良い」
優しく諭した
紫明は信じられないと言った顔で
「新しい人生‥‥?」と呟いた
康太は唖然としている紫明に
「人が生きるに知らねぇとならねぇ事は何か解るか?」と問い質した
紫明は解らないと首を振った
「それはな『痛み』だよ!
痛みを知らねぇ人間は平気で人を傷つける事が出来るんだ
だって痛みを知らねぇから他人事で済ませられるからな」
紫明はハッとなり腫れ上がって見ない瞳を凝らして康太を見た
まさにその通りだった
痛みを知らぬ人間は与えられる人の痛みが解らない
だから平然と人を傷つけられるのだ
人の痛みを知る人間ならば、手を下す前に痛みがうずきだす筈だ
人の痛みを知る人間こそが人を想う痛みを知るのだ
「傷みか‥‥僕は痛みを知らない人間でした
僕は知識ばかり詰められ中身のない人間でした
誇りや尊厳ばかり重んじて人を見下す教えばかり受けて来ました
鷺ノ宮がどれだけの家かは知らないが‥‥上に立つ人間として何一つ兼ね備えていない張りぼてにしかなれないと想っていた‥‥」
張りぼての人間‥‥
その言葉の為す意味を紫苑は重く受け止めていた
康太は紫苑に向き直ると
「息子だった奴に今生の別れを言ってやれよ」と告げた
紫苑は「‥‥もう‥‥私の傍には還っては来ませんか?」と呟いた
「こいつには新しい人生を用意してやるつもりだ!
今後一切鷺ノ宮とは関わりのない人間になる
それがこの者に課した罪状だ!
鷺ノ宮は紫香も家を出るらしいから、養子でも取らねぇと潰れるな」
「康太様‥‥(鷺ノ宮に)救いはないと?」
「そうは言ってねぇよ!
鷺ノ宮の存続を願うなら家にいる使用人を総てクビにしろ!
そしてお前の祖母と父と母を切れ!
老人ホームにでも入れるかしろ!
今後一切鷺ノ宮には関わりのない人間にさせろ!
それが出来たら紫香を当主に据えて鷺ノ宮を繋げてやんよ!」
康太が謂うと紫香は「え‥‥私は‥‥家を出るつもりです‥‥」と小さな声で言った
康太は紫香を立たせると
「鷺ノ宮を腐ったまま滅ぼさせるか?」と問い掛けた
「私に何が出来ると謂うのですか?」
「お前は兄よりも社交的で人を視る眼を持っている
それは鷺ノ宮の家の者に出ねばならぬ『眼』だったが、外腹のお前に出た
それが妬ましいと紫苑の妻と祖父母は躍起になり紫明を当主に据える算段をしていた
お前も知っていたのだろ?
自分があの母の子ではないと?」
「知っていました
あの人達は私を見るたびに『産まれてはならぬ子だ』と言ってましたから‥‥」
「紫苑は紫明の母には情も愛もなかった
だからこそ愛を遺したお前の母に“眼”を授けてしまったんだ
紫明は鷺ノ宮の犠牲者だ
罪を作ったのはお前の父、鷺ノ宮紫苑だ
だからこれから紫苑は過去の清算と謂う試練を与える
お前にはこれからの人生を鷺ノ宮に捧げると謂う試練を与えるしかねぇんだけど?
どうするよ?」
「お兄ちゃんは楽になれるのに?
私はまだ鷺ノ宮にいないとダメなのですか?」
「紫明が楽になれる?
それは間違いだ!」
「え?お兄ちゃんには新しい人生を用意してやると仰ったじゃないですか?」
紫香は康太に食って掛かった
「新しい人生を用意してやるとは言った
だがそれは地獄の修練場で魂の試練を受けた後にだ!
楽な人生を歩ませる為じゃねぇ!
しかも倶生神は地獄の閻魔大魔王の使い魔だ!
当然閻魔大魔王には『鷺ノ宮紫明の死亡』を明記して伝える使命を与えたから、人の世の鷺ノ宮紫明はこの世から抹消される事となる」
「そんな事‥‥」
出来る筈などない‥‥‥と紫香は想った
だが話は着実に目の前で進んでいた
「それでは炎帝様、我等は閻魔大魔王に鷺ノ宮紫明の死亡を報告した後、修練場へこの者をお連れするとする!」
「兄者に宜しく」
「解り申した!では失礼!」
倶生神は紫明を連れて地獄へと旅立って行った
倶生神が姿を消すと、そこはただの広い部屋になった
紫香は嘘みたいな話に頭が着いていけずにいた
康太を呼びに榊原が襖を開けると、康太は鷺ノ宮紫苑と紫香に
「詳しい話をしねぇとダメだから隣の部屋に来い!」と言い榊原と共に部屋を出て行った
隣の部屋に行くと一生と慎一が城ノ内と共に待っていた
城ノ内は紫苑と紫香を座布団のある席に座らせるとお茶を淹れて前に置いた
康太は「そろそろかな?」と榊原に問い掛けると、榊原も「そろそろでしょうね!」と返した
それと時を同じくして紫苑の携帯が鳴り響いた
紫苑は「失礼」と言い電話に出ると‥‥‥
顔色をなくして康太を見た
電話を切ると「我が息子‥‥鷺ノ宮紫明が交通事故に遭い‥‥死亡したと‥‥」警察からの電話だった
康太はお茶を飲みながら
「だから言ったやん!
鷺ノ宮紫明は死んだって!
オレは嘘は言ったりしねぇって忘れたか?紫苑」
「いいえ‥‥忘れてはおりません
息子は‥‥逝きましたか‥‥
なれば私は家に帰り葬儀の支度をして参ります
その後‥‥使用人を総て解雇して
父と母と祖父母も鷺ノ宮から出て行って貰う事とします!
鷺ノ宮存続の為に、私は謂われた事は必ず完遂致します‥‥」
「おめぇの家は虚栄に満ちすぎているんだ
それもおめぇが罪を作った所為もある
愛せねぇ女と結婚生活を続ける位ならもっと早く反抗して惚れた女と共に逝けば良かったんだ!
おめぇが意気地無しだったから作らなくても良い罪を作った!」
康太はキツい言葉を敢えて紫苑に投げ掛けた
紫苑は頭を垂れ
「はい。総ては私の作った罪です‥‥
私は意気地がなかったから両親や鷺ノ宮の仕来たりに逆らえなかった
惚れた女がいました‥‥好きで好きで堪らない人がいました
だけど現実は‥‥紫明の母親と親の言いなりになり結婚しました
紫明の母親は家柄だけ立派な女で勝ち気で気位だけ高い女でした
私はどうしても愛せなくて‥‥
やはり好きで好きで堪らない紫香の母親と過ちだと解っていて‥‥よりを戻しました
そして出来た子が紫香です
紫香は紫明が受け継がねばならぬ“眼”を持って産まれてしまいました‥‥
それが‥‥紫明の母親や祖父母の不興を買ってしまったのです
罪を作ったのは私なのに‥‥私は見ないフリをしてやり過ごしていました
紫明が紫香に八つ当たりしたのも知っていましたが‥‥私が何か言えば家族は余計紫香に当たるだろうと‥‥
そんな風に言い訳ばかり考えて逃げて来たのです‥‥
本当に済まなかった紫香‥‥
済まなかった紫明‥‥」
紫苑はグッタリと肩を落として泣いていた
榊原は紫苑に
「鷺ノ宮家家長は紫香さんが継ぐ事になったのですか?」と問い掛けた
紫苑は「どうでしょうか‥‥今更‥‥紫香に継がせる位なら‥‥鷺ノ宮を終わらせるのも良いかと想えて来ました」と謂う瞳は絶望に染まっていた
康太は「取り敢えず帰れよ紫苑!葬儀にはオレも参列させて貰う事にする」と言った
紫苑は窶れた顔をして
「はい。私に出来る精一杯で紫明を送りたいと想います!
その後‥‥総てを精算致します!」と言い深々と頭を下げ紫香と共に菩提寺を後にした
康太と榊原は二人を見送って
「一波乱来ますかね?」と榊原は呟いた
康太は「古い家には膿が沢山蓄積されてるからな‥‥膿を溜めきった家は膿を出しきるまで地獄を見るしかねぇかんな」と三木や兵藤のお家騒動を思い出し口にした
一生は猫をゲージに入れて来て
「んな事よりコオみてぇな猫の治療をしてやれよ!」と言った
康太は「だな!」と言い城ノ内に「なら還るわ!」と言った
城ノ内は「おー!気を付けて還れ!」と言い手をヒラヒラ振った
慎一は3匹のリードを持ち
一生は猫のゲージを持ち
榊原は康太と手を繋ぎ菩提寺を後にした
菩提寺の外に出て駐車場へと向かう
慎一は停めてあるバスのドアを開けると
ワン達を先に乗せてリードを一生に渡した
一生は猫のゲージを椅子の上に置いてワン達を足元に座らせた
康太と榊原も椅子に座ると慎一はバスを出した
「一ノ瀬先生の病院まで送ったらバスは返して来ます」
榊原のベンツは一ノ瀬動物病院の駐車場に停めてあるのを知っていたからバスはこの先邪魔にしかならないからの発言だった
「悪かったな慎一呼びつけたりして」
康太は慎一に謝った
「俺は主の為にいるのですからお気遣いは無用です
それより‥‥あの憐れな子があのまま死ななくて良かったと俺は想いました」
康太はなにも言わず微笑んだ
バスは一ノ瀬動物病院の前で停まり、康太と榊原、一生はワン達と傷付いた猫と共に下りた
一ノ瀬動物病院のドアを開くと心配した聡哉が奥から出迎えてくれた
康太は「片付いたからこの子を診てくれねぇか?」と頼んだ
聡哉は「この子、康太君の所で飼うの?」と問い掛けた
「おう!猫と犬だって仲良く生活してる動画とか見かけるし、何とかなるんじゃねぇか?」
「コオ君とイオリ君とガル君は温厚で賢い子だから受け入れてくれたとしたら仲良く生活出来ると想うよ」
「その前に治して遣ってくれねぇか?」
「了解だよ康太君!
でも少し入院になっちゃうけど大丈夫?」
「おー!完璧に治ったら迎えに来るかんな!」
康太はそう言い猫を撫でた
猫はニャーと言い康太の手に擦り寄って甘えた
「ワン達の検診はまた改めて来るとするわ!
今日は遅くなっちまったしな!」
「うん!何時でも大丈夫だからねうちは!」
「おー!頼むな聡哉!」
その日康太達は猫を入院させて飛鳥井の家に還って行った
榊原の車に乗り込み飛鳥井の家へと還る
車の中で康太は「疲れた‥‥」とボヤいた
榊原は康太の頭を撫で
「ご苦労様でした」と労を労った
その上で「葬儀は結構波乱かも知れませんよ?」と波乱の予感を口にした
「謂うな伊織‥‥」
「君に何かする輩がいたら僕が成敗して差し上げますよ」
榊原はそう言い康太のつむじに口吻けを落とした
一生は「始めるなよ!」と釘を刺す
榊原は笑って「大丈夫です!」と流した
一生は「また嵐が来るのか‥‥」と呟いた
一難去ってまた一難
飛鳥井康太が巻き起こす嵐はまだ吹き始めたばかりだった
その話はまた後の話となります
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