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第80話 聖夜 飛鳥井さんちは大騒ぎ
12月21日 クリスマス間近のこの日
飛鳥井の家族は桜木町に来ていた
毎年恒例のイベントを見る為に、わざわざ桜木町まで出向いて来たのだった
飛鳥井の家族は無論
榊原の両親や笙夫婦も一緒にゾロゾロと歩きながら夜景を楽しんでいた
真矢は音弥と美智瑠と手を引きながら楽しそうに笑っていた
妻の楽しそうな笑顔を見ながら、清四郎は嬉しげに家族といられる幸せを噛み締めていた
玲香は真矢を気遣い寄り添う様に歩いていた
二人はまるで最初から姉妹だったかの様に互いを気遣い支え合っていた
清隆は翔の手を引いて歩いていた
その横を北斗と和希、和真が歩いていた
楽しそうに笑っている翔を見て安堵していた
清隆は次代の真贋となる翔を常に気遣っていた
この子は何も謂わない
常に試練か何かだと想っているのか‥‥どんな境遇にいようとも寡黙にそれを受け止めていた
だからこそ家族といる時位‥‥暖かなぬくもりを与えてやりたいのだ
我が子に与えられなかったぬくもりを‥‥
与えてやりたいのだった
烈は匠と手を繋ぎ歩いていた
二人は解り合える何かがあるのか、良く二人で何やらテレパシーでも飛ばしているのか?と言いたくなる程に言葉もなく解り合えていた
この日も何も謂わず二人は手を繋ぎ歩いていた
そこへ永遠の手を瑛智が繋ぎ四人で歩く事も日常化していた
太陽と大空は瑛太に甘えて手を繋ぎ歩いていた
京香は聡一郎と楽しげに話ながら歩いていた
榊原は愛する妻を護りながら歩いていた
康太は夜景の美しさに「めちゃくそ綺麗やんか!」と榊原を見上げて話す
榊原はその瞳を潤ませた姿にクラっとなりつつも理性を総動員させて耐えていた
「君の方が綺麗ですよ」
榊原は心底本音を吐露した
だが相手は康太だったから爆笑された
「伊織、一生に眼医者に行きなはれ!って謂われるぞ!」
康太が謂うと一生はうんうん!と頷いていた
慎一が一生の頭をポコンッと殴ると一生は
「あんだよ?」と拗ねた様に言った
「犬も食わない台詞に絡むのはお止めなさい!」
「絡んでねぇだろ?
俺は頷いただけやん!」
「愛する人が一番美しく見えるイベントマジックなんです!
少し位多目に見てやりなさい!」
お前が一番酷い事謂ってねぇか?
一生は想った
北斗は夜空を見上げ指差した
「あの星はね、冬の大三角と冬の大六角形と言ってね、冬しか見られない星なんだよ」
と翔にお星様の説明していた
翔は北斗からお星様の話を聞くのが大好きだった
お星様を見上げる翔の姿が可愛くて北斗は何時も何時もお星様のお話をするのだった
和希と和真は翔にお話をしている北斗の方が楽しそうだよ‥‥と想いつつ、そんな顔を見守りたくて傍にいるのだった
家族と仲間で歩くゆったりとした時間が流れていた
その時『きゃー!榊原真矢よ!榊 清四郎も榊原笙もいる!』と謂う声が響き渡った
すると回りの人が我先にと取り囲み‥‥
真矢はプライベートな時間ですので‥‥と謂っていたが‥‥誰も聞く事なくパシャパシャとスマホで写真を取っていた
カメラを向けられた瞬間、同行していたセキュリティサービスが康太の子供をガードして隠した
飛鳥井康太の子の姿はこの世に出してはならなかったからだ
ニック・マグガイヤーは「騒ぎになるのでこの場から離れて下さい!」と取り囲む連中に謂った
だがチャンスとばかりに写メを取るのを止めなかったから、警察へと連絡を入れた
暫くして警察がやって来て歩道に立ち止まる人達の誘導に当たり、取り囲まれる現状から解放された
真矢は「ごめんなさいね‥」と謝った
康太は「義母さんが悪い訳じゃねぇだろ?
だから気にすんな!こう謂う事態も予測して手は打ってある!」と答えた
榊原も「本当に嘆かわしい事に、芸能人にプライベートは皆無なんですね‥マナーもなっていないのは他の人もやってるからと謂う安易な同調なんでしょうが、迷惑な話です
母さんは何も悪くないので気にするだけバカらしいですよ」とフォローした
瑛太は「では少し早いですが、ホテルへと向かいますか!」とその場から去る事を提案した
赤レンガの夜景を少しだけ見て
ホテル・ニューグランドへと向かう
ホテルの中へ入ると慎一がフロントに走った
キーを貰って来ると全員で部屋へと向かった
部屋の階までエレベーターに乗り、最上階まで向かう
子供達は大人しくセキュリティサービスに隠される様に手を引かれていた
清四郎はこんな時、嫌でも突き付けられる飛鳥井家真贋と謂う重責の重さだった
康太は部屋に入ると玲香に
「母ちゃん、騒いでた連中が、真矢さんの橫にいる女性は何て言う女優?それとも事務所の社長なの?なんて騒わいでいたぜ!」と笑って謂った
真矢は「姉さんは綺麗だから女優でも通るし社長でも通るわよね」と笑っていた
玲香は「我は飛鳥井の女にしかなれぬからな‥‥」と笑っていた
とても重い言葉だった
何者にもなれると謂われたとしても、玲香は飛鳥井の女にしかなれぬからな‥と謂うのだ
真矢は康太に「今年のクリスマスは22日に榊原の家で、23日には飛鳥井の家だったわね」と今後の予定を口にした
今年は清四郎の家でもクリスマスパーティーを開くと提案したのだった
榊原の家と飛鳥井の家でクリスマスパーティーをする
子供達は喜ぶだろうから、と謂う名目で楽しい時間を作るつもりだった
康太は「24日は歌舞伎座で、夜は会食で鋭気を養って下さい」今後の予定を口にした
康太は24日、クリスマスイブに歌舞伎座とホテルでの宿泊を真矢と清四郎、清隆と玲香にプレゼントしたのだった
瑛太と京香、そして笙と明日菜夫妻には我が子と過ごせる時間を作れる様にネズミの国の1日パスポートとホテルをプレゼントしたのだった
24日、飛鳥井の家で子供達とのんびり過ごすから母ちゃん達は楽しんで来てくれ!と康太は言った
飛鳥井の家から家族を全員送り出し、何かするのだろうとは想っていたが‥‥
家族は康太からのプレゼントを喜んで受け取った
この日はその前哨戦みたいなものだった
部屋に料理が運び込まれ家族はテーブルに着いた
給仕が子供用の椅子を運び入れ、子供達は大人しく椅子に座っていた
音弥が「にゃんか、きぞくみたいなにょ!」とおもてなしに感激して言った
どこら辺が貴族なのかは‥‥解らないが‥‥
またテレビでも見て覚えたのも知れなかった
コースの料理が並べられ前菜とワインで口を潤した
真矢はまだ気にしてか元気がなかった
こう言う時は流生が空気を詠み
「ばぁたん、りゅーちゃね、ばぁたんたちにプレゼントありゅにょ!」と楽しい雰囲気で包み込んだ
真矢は嬉しそうに顔を綻ばせると
「ばぁたんにプレゼントしてくれるの?」と問い掛けた
「そうだよ!ばぁたんにもじぃたんにも、じぃちゃやばぁちゃ、えいちゃやきよーか、ちょーとあちゅにゃにもありゅにょ!」と答えた
京香は「我と瑛太にもあるのか?」と嬉しそうに答えた
明日菜も「え?私にも?」と鬼の顔は何処へやらで笑って問い掛けていた
笙は「僕にもプレゼントくれるんですね、なら今あるプレゼントに上乗せせねば!」と気持ちが嬉しくてそう言った
瑛太は「康太の子はどの子も優しいですからね!」と叔父バカを発揮していた
音弥が「みんにゃにプレゼント!」と両手をあげて楽しげに謂うと
太陽も「けっこう くろうちたよね!」と製作の苦労を語った
大空は「あれはけっこうハードらったよね?」とますます訳の解らない事を口にした
結構ハードな事をしたの?
皆はそう思った
翔が「あした、みんなにプレゼントできるのでうれしいです」と大人びた口調で言った
やはり兄弟の中にいても大人びて冷静沈着な態度は浮いて見える
幼稚舎でもかなり浮いているであろう翔を想った
楽しい時間はお酒を進ませ、家族全員かなり酔っていた
子供達はジュースも進み、トイレへと直行となっていた
酔っても部屋を取ってあるので、慎一に言えばキーを渡して貰える算段となっていた
子供達は日付が変わる前には眠ってしまい、キングベッドを占拠して眠りに着いていた
窓の外には全館ライトアップが終わっても横浜の街がキラキラと輝いていた
日付が変わる頃には場所をリビングへと移り飲み明かしていた
途中、烈がベッドから這い出て寝室のドアをバンバン叩いていたから慎一がドアを開け烈を連れて来た
烈はジュースを貰いチビチビ飲んでいた
その姿を見て清隆は「我が父 源右衛門がそうやってチビチビ飲んでいる姿とダブります」と懐かしそうに目を細め呟いた
真矢は「この子まだトレパンマンはいてるのに‥‥貫禄よね」と笑っていった
自分が生んだ子なれど‥‥
飛鳥井の子として生きている
それが誇らしくて‥‥少しだけ寂しかった
だが康太にあげると決めた日から後悔はしていなかった
康太は烈を膝の上に乗せて
「飛鳥井の血が出てますからね」と笑った
瑛太や榊原と同じ様な顔立ちはまさしく飛鳥井の血だった
下手したら康太の方が並べば血縁のない他人に見られてしまうかも知れない程だった
寡黙で何処か翔に似ているが、烈は自由気ままな性格をしている
良くも悪しきもマイペースな性格をしていた
康太はジュースを飲んでる烈に
「んなに飲むとショーッと出ちまうぞ!」と謂ったが烈は気にするでもなく飲んでいた
「おい!」
康太は額に怒りマークを浮かべながら唸った
だが我関せずな烈は黙々と飲んでいた
「んとによぉ‥‥謂う事を聞きやがらねぇんだからな!」
康太はボヤいた
家族はみな笑っていた
その時、寝室をノックする音が響き、慎一がドアを開けに行った
すると寝室から出て来たのは翔だった
「れちゅ!」
翔が謂うと烈はビクッとなりコップをテーブルに置いた
「よいこはねりゅにょ!
れちゅはわるいこになっちゃうんらよ?」
烈はコクコク頷いて聞いていた
「ねりゅよ!」
「あい!」
烈は兄に手を引かれて寝室へと向かった
榊原は立ち上がると寝室へと向かい、烈を抱っこしてベッドに寝かせた
そして翔を抱き上げると
「ご苦労様でしたね翔」と労を労った
翔は「きびしかったでしゅか?」と少しだけ心配して榊原に問い掛けた
榊原は翔の額に口吻けを落として
「翔は厳しい兄で良いです
その分流生が慰めてくれますから」
と慰めた
グズグズ泣く烈を流生が背中をポンポン叩いて抱き締めて眠っていた
幾ら翔が厳しくても甘やかす兄は沢山いる
だから翔はそのままで良いと榊原は言った
翔は嬉しそうに笑うと「おやすみ とぅちゃ」と言った
榊原は翔をベッドに寝かせると「おやすみなさい翔」と言い布団を掛けてやった
家族はそんな優しい父親である榊原を見ていた
その姿からは冷酷の『れ』の字も伺えれないのに‥‥
部屋に戻ると榊原は家族に
「それでは僕と康太は聖なる夜に愛を確かめ合って来ますので!」と言い康太の手を取ると部屋を出て行った
家族は唖然として榊原と康太を見送った
玲香は「新婚気分な熱々に負けぬ様に飲まねばならぬな!」と言いワインを注いで一気に飲み干した
真矢も負けてられないとばかりに
「そうね!私達も楽しまなければね!」と言いシャンパンを飲み干した
「美緒も呼びましょうよ!」
真矢が謂うと「それは良いわな!一生、貴史を呼び寄せて美緒を釣るがよい」と簡単に言ってのけた
一生は兵藤に電話を入れた
「貴史、今暇か?」
『暇っちゃ暇かな?』
「今なにやってる?」
『進藤先生の勉強』
それ‥‥隙やないやん‥‥
一生は呼ぶのを止めようかと想った
『おい!何か用だったんだろ?』
「ホテル・ニューグランドに来ねぇかなと想ってお誘い」
『おー!今年はクリスマスを長く盛大にやる言ってたんだっけ?』
「そう。で、康太と旦那は愛を確認しに行ったし兵藤親子を呼べと指令が来たんだよ」
それは誰からの指令よ?
兵藤は想ったが‥‥聞くのは止めとこうと想った
『この後美緒と一緒に飛鳥井に繰り出す予定だったんだ!
このまま飛鳥井に行っても留守だったんだな?』
「それはグッドタイミング!
そう!今年は盛大に長くクリスマスをやる予定だからな
今夜はホテル・ニューグランドで、明日は清四郎さんちだ!
飛鳥井は23日やる予定だ」
『24日は?やらねぇのか?』
「24日は動かねぇって康太が言ってた」
『そうか、ならこれから美緒を拾ってホテル・ニューグランドへ行くわ』
細かい事は問わず兵藤は電話を切った
兵藤が美緒と共に部屋を訪ねて来たのは、結構早かった
面子も揃ったし、女性連中は乾杯!と再び乾杯をし調子をあげて飲み始めた
兵藤は一生や聡一郎と共にチビチビ始めた
そしてやっぱしスルー出来ねぇ事を聞く
「24日、何かするのか?」
「24日は家族みんなに慰労の意味を込めて遊びに行って貰うんだよ
で、康太は子供達との時間を楽しむらしい
俺も詳しくは解らねぇけど‥‥誰か来るらしいのは解ってるんだ」
「何で解るんだよ?」
「24日の料理を慎一に頼んでたからな」
「なら24日は遠慮しといた方が良いな」
「だな、24日はどんな誘いも一切断ってるみてぇだからな」
「何かあれば呼べ」
兵藤の最大限の譲歩だった
「あぁ、そうする!」
兵藤はその話は終わりだとばかりに飲み始めた
隼人は既に酔い潰れてソファーで寝ていた
聡一郎は目が座っていた
目を合わせたら危険かも知れない‥‥
飛鳥井の家族も榊原の家族もご機嫌で酒が進んでいた
もう‥‥理性を持っている奴なんか一人もいなかった
あ、慎一はそうでも‥‥なくないか‥‥
キリッと執事宜しく立ち振舞いは変わらないが‥‥
こいつも目が座ってたりしていた
目を合わせるの止めとこうと‥‥
飲んだくれの熱い時間は‥ぶっ倒れるまで続けられた
そして静かに21日の夜は更けて行った
22日
この日は清四郎の家でクリスマスパーティーだった
うっかり真矢が「22日は絶対仕事は入れないで下さいね!
康太の家族を招いてクリスマスパーティーをひらくので仕事を入れられると困るのです!!」と言ったもんだから‥
事務所の社長の相賀や加賀や神野まで乱入してのクリスマスとなった
「あきましゃ!」
神野の名を呼ぶのは音弥だった
すっかり甘い叔父さんになった神野は
「どうした?音弥?」とデレデレだった
小鳥遊は「絞まりのない!」と怒るが
「たきゃなち!」と流生に呼ばれれば
「流生、元気にしてましたか?」とデレデレだった
太陽は相賀に「じーたん」と甘え
大空は加賀に「にーたん」と甘えた
二人もデレデレで相賀は「ひなちゃん、何か欲しいのはあるかい?」と甘い甘いお祖父ちゃんとなっていた
加賀も「かなちゃん 好きな芸能人いたら逢わせてあげるからね!」と何でも我が儘を聞いてやる甘い叔父さんになっていた
神野は膝に烈を乗せてご機嫌だった
瑛智は神野の膝に乗った烈と仲良く何やら話してジュースを飲んでいた
神野は「瑛太、これジュースだよな?」と聞く程に貫禄だった
瑛太は「‥‥晟雅‥‥当たり前の事を何故聞きますかね?」と呆れて呟いた
「だって貫禄ありすぎだろ!」と神野はボヤいた
瑛智は父が隣にいるのに甘えようとはしなかった
それがどことなく不自然で仕方がなかった
神野は「瑛智‥‥パパに甘えないのか?」と問い掛けた
瑛智は瑛太を見て、烈の傍を離れた
神野は「喧嘩してるのかよ?」と問い掛けた
「いいえ、何時もあんなもんです」
「何時もあんなものなの?」
それはそれで問題だろ?‥‥と神野は想った
「えーち、おいで!」
流生に呼ばれて瑛智はホッと安堵した顔をした
「えーち、えーちゃはぶきようなおとこなにょね!」
だから解ってやれと瑛智に言い聞かせていた
流生の台詞を聞いて神野はブハッとお酒を吹き出した
瑛太は「汚い!」とタオルを放った
神野はテーブルや服を拭き拭きしながら
「お前‥‥康太の子に何謂われてるのよ?」
「彼等は大人ですからね‥‥容赦のない掩護射撃をして来るのです
流れ弾に気を付けないと晟雅、君にも当たりますよ」
「それは怖いな‥‥」
神野は苦笑した
和希が神野の所に「お洋服汚れませんでしたか?」と濡れタオルを手にしてやって来た
神野は濡れタオルを受け取り手を拭いた
そして「大丈夫だ!和希!
ありがとうな」と礼を言った
和真は神野のグラスを下げて、新しいグラスをテーブルの上に置いた
慎一の子は自発的にテキパキ動いていた
神野は「良い子達だな」と呟いた
翔はブランケットを手にすると、神野のお膝に掛けにやって来た
「翔?」
何故に?と想い名を呼ぶと翔は
「おひざ‥‥いたいだろうから‥‥」と言った
康太と共に事故に遭った時に痛めた膝が寒くなると疼き出し痛むのだった
翔には視えているのかと‥神野は「ありがとう」と礼を言った
翔は嬉しそうに笑うと兄弟の所へ戻って行った
礼儀正しく礼節を重んじるその姿は‥‥
瑛太に酷似していた
翔から瑛太に寄る事は滅多とない
瑛太からも翔に寄る事は皆無だった
二人は親子なのに‥‥遥か遠い存在となっていた
御使いが終わった翔は榊原から「ご苦労様でした」と労を労って貰っていた
「とぅちゃ」
嬉しそうな声がする
子供らしいあどけない声だった
翔は榊原に抱き着いた
榊原は翔を抱き締めた
「まだ少し熱っぽいですね
辛くありませんか?翔?」
「らいじょうびです」
「辛かったら謂うのですよ」
「あい!」
翔はクリスマスの少し前から風邪を引いていた
まぁ‥‥鼻水を垂らしているのは翔だけではなかった
一番酷いのは音弥で「はーくしょん!」とくしゃみをして、その後は鼻水がたらーっと垂れて‥‥
それを康太が「おー!また鼻水垂らしてるやんか!」と拭いて貰っているのだった
ゴシゴシ拭くから音弥は
「かぁちゃ‥‥いたい!」と訴えるが康太はゴシゴシ拭いていた
見兼ねて一生が「おい!拭きすぎやろが!」と止めるのだった
一生が優しく音弥のお鼻を拭いてやる
音弥は「かじゅ ありがと!」と礼を述べた
一生は音弥の額に手を当てて熱を計っていた
「まだ少し熱いからな
お薬のまねぇとダメだな」
「あれね、もうすこしおぃちぃとうれしいにょにね!」
風邪薬のシロップを思い出して音弥は言った
「それな俺も子供の頃想ったぜ!
実際‥美味しくねぇってガムシロ入れた奴知ってるけどな‥」
一生が謂うと瑛太がブハッと吹き出した
「それを今言いますか?」
瑛太は少しだけ恨み言を言った
一生は笑っていた
ガムシロップを入れたら虫歯になります!と止めても美味くねぇもん!と言いシロップを入れて飲む弟に‥‥手を焼いていた
一生はそれを知っていたのだった
瑛太は吹き出したお酒を拭き拭きしていた
やはり和希と和真が手伝って拭いていた
北斗が新しいグラスを持って来て、瑛太は世話を焼かれていた
太陽が瑛太のおくちを拭いてやると、大空も負けずと拭いていた
神野は「モテるなお前‥‥」と謂うと瑛太は嬉しそうに笑った
笑いが響き
会話は尽きなかった
全員がご機嫌で楽しい時間に酔いしれていた
22日の夜はこうして更けて行った
23日
この日、飛鳥井の家の玄関には闘志に満ちた漢達が並んでいた
流生が「よち!いくじょ!」と気合いの入った掛け声をあげると
「「「「おー!」」」」と気合いの入った返事が響いた
翔が「はしるのきんしらから!」と注意した
流生が「はしるかぁちゃ、とめにゃいとけがするから、ぜったいにとめるにょ!」と掛け声を掛けた
「「「「おー!」」」」
注意事項を確認した頃、康太と榊原が姿を現した
康太が「うし!行くか!」と謂うと
子供達は「「「「「おー!」」」」」と答えた
走り出そうとする康太の手を流生が繋いだ
反対の手を大空が繋ぎ、走るのを阻止する
康太は「‥‥‥おめぇら‥‥やるな!」と唸ると流生が
「かぁちゃ ころぶにょ!
まいとち、ころぶにょ!」とボヤいた
榊原は耐えきれなくなり‥‥背中を向け‥‥多分笑っているのだろう
背中が震えていた
一生も隠れて笑っていた
堂々と笑うと逆恨みが怖いからだ‥‥
仕方なく康太は歩いて井筒屋へと向かった
少しだけ早足で歩く作戦だった
早足で歩けば、そのうち子供の足では着いて来れなくなるだろう‥‥との算段をした
だが流生と大空は日頃スイミングで鍛えた足腰で、康太について歩いていた
康太は「疲れねぇのかよ?おめぇら‥‥」とボヤくと大空が
「かぁちゃ、ぼくたちスイミングいってるにょ!」と言った
日頃からスイミングで足腰鍛えたと大空は言った
康太はしみじみと
「こう言う時、子供の成長を感じるんな‥」
と噛み締める様に言った
今年は一人の怪我人を出す事なく井筒屋に辿り着いた
井筒屋に入ると康太は「おばちゃん!」と店の奥へと駆け寄った
おばちゃんは康太を見ると
「康太ちゃんいらっしゃい!」と嬉しそうに答えた
「おばちゃん!また今年も井筒屋のチキンを買いに来たぜ!」
「毎年ありがとうね
はい、ボク達クッキーね」
おばいゃんは子供達にクッキーを入れた包みを一人ずつに渡した
そして烈の分を榊原に渡した
「これは烈ちゃんの分ね
どうしたの?烈ちゃんは?」
「風邪ひいてるので家に置いて来ました」
「あら、流行ってるからね気を付けないとダメよ
早く良くなると良いわね」
「元気なんですけどね鼻水が凄くて‥」
「あらあら、それは大変」
おばちゃんは予約していたチキンを榊原に渡すと康太に骨付きチキンを手渡した
「ありがとうおばちゃん!」
康太は肉を食べて上機嫌だった
おばちゃんは「これは康太ちゃんの好きな沢庵、漬けあがったばかりのだから入れておくわね!」とサービスしてくれた
「ありがとうおばちゃん!
井筒屋の沢庵は最高だかんな!
オレの子も大好きなんだ!」
康太が謂うとおばちゃんは嬉しそうに笑っていた
チキンを買って帰る帰り道
やはり康太は子供達と手を繋ぎ歩いていた
「なぁ伊織‥‥」
「何ですか?」
「これってお前の悪巧みか?」
今年は走らせて貰えなかった事に少しだけ悔しくて言った
「違いますよ
子供達が成長した証なんでしょうね」
榊原の声が少しだけ寂しそうだった
子供の成長は早い‥‥
今年の子供達は母を想う為に行動したのだと榊原は言った
それが嬉しくもあり‥‥
やるせない想いが胸を締め付けた
今年のクリスマスは子供達の作戦が成功して、康太は転ぶ事なく買い物を終えた
今年のクリスマスは客間を解放してテーブルを敷き詰めた
テーブルの上を和希と和真と北斗が綺麗に拭き始めた
慎一はテーブルの前に座布団を並べていた
テーブルを拭き終えた我が子が父を手伝い座布団を並べる
冬休みだと謂うのに和希達は家にいてお手伝いをしていた
せっせと父と共に動く和希達に真矢は心配になり声を掛けた
「ねぇ和希、和真、北斗、貴方達冬休みよ?
友達と遊んだりしないの?」
それに答えたのは和真だった
「桜林はお金持ちの子が多いので冬休みに日本にいる子は少ないんですよ」
和真が謂うと和希も
「まぁ日本にいたとしても僕達は父さんのお手伝いがあるから遊べないんだけどね」と続けた
真矢は「お手伝いって‥‥子供は遊ぶものなのに‥‥」と胸を痛めた
北斗が「僕達は強制されて動いている訳じゃないので安心して下さい!
僕達は自分から進んでお手伝いしてるだけなんですから!」とフォローの言葉を述べた
あんまりフォローにならないのは北斗の困った所だが‥‥
仕方なく和真が「僕達は飛鳥井の子や家族といる時間が好きだから家にいるんです!
で、家にいるなら父さんのお手伝いをしたいからしてる、それだけです」と付け加えた
その間もせっせとお手伝いして手は止まらない
働き者の子供達だった
真矢は大量に買ったブーツのお菓子を和希と和真と北斗に渡した
三人は子供の顔をしてブーツのお菓子を受け取った
真矢は「プレゼントは後であげるからね!」とプレゼントとは別だと言った
でも流石に小学生がブーツのお菓子を受け取ってくれるかは‥‥不安だったのだ
和希は慎一の所へ行き、ブーツを見せた
慎一は真矢に「ありがとうございます」と礼を述べた
和真は「父さん、ベッドに飾って良い?」と問い掛けると、慎一は頷いた
慎一は和希、和真、北斗の頭を撫で
「良かったな」と言った
三人は嬉しそうな顔で笑っていた
その姿はどこから見ても親子だった
慎一は北斗に「北斗、一生に変わって俺が先生と面談して来ました
どうやら北斗は数学が苦手だと先生は仰っていた
お正月が開けたらミッチリ苦手な教科を勉強だよ?良いね!」と言った
北斗はバツの悪い顔をして
「先生、数学苦手な事、言っちゃったんだね」と呟いた
「苦手な教科は誰にでもある
だが勉強は好きなのだけしてれば良い訳じゃない、解るね北斗?」
「はい。解ります」
「苦手は克服する
君が鉄棒を克服した様に、勉強すれば解る様になります」
「頑張るね僕‥‥」
「ええ、北斗は頑張り屋さんだから直ぐに克服出来ますよ」
言い聞かせる様に謂うと、北斗は覚悟を決めた瞳で頷いた
慎一は和希と和真に向き直ると
「当然、面談はお前達の分もして来ました」と言った
「まずは和真、授業は退屈かも知れないが授業中に株をやるのは止めなさい!」
和真は高いIQを持っていた
下手したら高校位の授業なら難なく着いて行ける程に優秀だった
その優秀な頭脳を使い和真は最近、飛鳥井蓮の指南を受け株を学び始めていた
ゆくゆくは相場師になれるだろうと蓮は言っていた
先読みの瞳は相場師になるしかない!とまで謂わせていた
慎一は「和希、授業中に転た寝は止めなさい!」と注意した
予知予見の力を持つ和希は時々、転た寝をして予知夢を見て授業中に叫び声を上げる事が多々とあって先生から注意されていたのだった
和希は父に深々と頭を下げ
「すみませんでした!」と謝った
「春から紫雲龍騎に修行の時間を取って貰う様に城ノ内に頼んで来ましたから!」
慎一は修行のレベルアップを告げた
「‥‥修行でござるか?」
飛鳥井玲香と共に時代劇を見過ぎな和希は時々玲香ばりの言葉で話す事もあり‥‥
それも先生に注意されたばかりだった
「その古くさい言い方も‥‥止めなさい」
「気を付けるでござる!」
‥‥‥ダメかもな‥‥
慎一は想った
それも我が子の個性
親がどうこう謂うべき事ではない‥‥と解っているが‥‥
どうしたもんかと‥‥思い悩むのだった
「俺が禿げたら‥‥お前達の所為だな」
慎一はボソッと呟いた
三人は慌てて「「「気をつけます!」」」と言った
真矢はそんな親子のやり取りを見て笑っていた
夕方になり玲香達が仕事を終え帰宅すると、一気にクリスマスへと突入して行った
兵藤貴史が子供達から贈られた招待状を持って飛鳥井の家にやって来ると、子供達は全員兵藤に飛び付いた
「「「「「ひょーろーきゅん」」」」」
待ってましたとばかりに喜ぶ子供達に兵藤は笑っていた
子供達に手を引かれ客間へと向かう
「今年は応接間じゃねぇのかよ?」と兵藤は意外な感じで呟いた
流生が「ちょーなのねぇ!」と何処かの世間話のおばちゃん並みに相槌を打った
太陽が「かぁちゃがことちはよっぴゃらいをうごかすにょめんどうらって、いってた」
と報告
大空が「わしつらとごろねでおーけーいってたにょね!」と更に続け
音弥が「てまをはぶきゅ、いいあいであらしいにょね」と誰から聞いたんだ?って台詞を吐いた
翔が「かぜひかないもうふなら、たくさんあるのであんしてくらさい!!」とトドメを刺した
兵藤は「なんと謂うずさんな計画だよ?それは?」とボヤいた
すると背後から「気なすんな!」と言う声が掛かった
振り向かなくても(その声の主が)解る
聞きなれた声に兵藤は「ズボラな事しやがって!」と怒った
「おめぇも寝たらぬくぬくの毛布掛けてやんよ!」
コイツが言ってる張本人か‥‥と兵藤は想った
「ならぬくぬくの毛布掛けて貰うまで飲み明かすわ!」
兵藤は冗談とも本気ともつかぬ事を言った
康太は笑っていた
子供達は兵藤の傍から離れると自分の部屋へと走った
兵藤はすっかり準備の整った席へと案内され座った
料理を運び込みケーキを運び込む
一体幾つあるのよ?と謂う程に多くのケーキが運び込まれた
客間に入って来た榊原は「子供用と大人用分けて下さいよ!」と指示を出した
兵藤は「どんだけケーキがあるのよ!」と榊原に言った
榊原は「子供はケーキが好きじゃないですか?
うちは子供が多いので沢山必要なんですよ!
大人用はビターで洋酒が沢山入ってますから!」と説明した
「ひょっとしてお前の手作りなのか?」
「そうですよ!
料理は僕と慎一の合作です」
どんだけ器用なのよお前‥‥
「それと貴史、今年からは高価なプレゼントの交換は止めましたから、君には僕達からはプレゼントはないです」と伝えた
毎年どんどん高価になって行くプレゼント合戦に終止符を打ったのだった
「おー!聞いてる!
俺も子供達のプレゼントしか持って来てねぇよ!」
「それで大丈夫です」
榊原はそう言うと再び忙しそうに客間を出て行った
兵藤はiPodを聞いて座っている音弥を捕まえて膝の上に乗せると、片耳のイヤホンを取って
「あに聞いているんだよ?」と問い掛けた
「わんおきゅ!」
絶句‥‥
そう言えば昔から音弥はロックを書いていたっけ‥‥
何年か前は[Alexandros]だったっけ
今年はONE OK ROCK‥‥すげぇなコイツ
兵藤は感心した
音弥がイヤホンの片方を着けろと言って来たから耳にはめた
「すたんろあうちょふっちょいん」
と音弥は曲のタイトルを言った
今流行りの歌じゃないですか‥‥
Stand Out Fit In
渋いの聞きますね
兵藤は想った
「なけりゅのね、このうた」
泣けるんすか?音弥さん!!!
「ぴーぶぃ みちゃのにぇ
そちたら、なけてきちゃにょ!」
凄い感性
流石、アメリカで結構有名なバンドと歌出した隼人のDNA入ってるわ‥‥
兵藤は感心した
何年か前に隼人はハリウッドの映画に出た
その時知り合ったロックバンドから声が掛かり、今年の年末に歌を出したのだ
全米ヒットチャートに入ってる人気な曲
隼人は全米の大人気ロック歌手と共にステージに上がっても引けを取らないオーラを持っていた
兵藤は音弥の頭を撫でた
音弥はゆくゆくは神楽四季の子となり、桜林を継ぐ将来を持っていた
絶対音感を持つ子は、やはり底知れぬ感性で出来ていた
兵藤に頭を撫で貰っている音弥を見て流生は
「じゅるい!」と拗ねた
兵藤は流生の頭も撫でた
流生は「またわんおきゅ?」と尋ねた
音弥はうん!と頷いた
兵藤は「流生、おめぇも聞いているのかよ?」と問い掛けた
「なけりゅのね、あのぷぃぶぃ」
兵藤は家に帰ったら大画面のテレビにワンオクのMVを流してみようと想った
そうこうしているうちに時間は進みパーティーの時間になった
会社から帰った清隆達は着替えて客間に来ると慎一に大人用の席に案内され座った
皆が席に着くと康太は「母ちゃん、乾杯の音頭頼む」と言った
玲香は立ち上がるとグラスを全員手にしているのを確かめてから『乾杯!』と音頭を取った
この日は兵藤美緒は夫の後援会の方達とクリスマスパーティーに出て不在だった
何時選挙へと突入になるか解らぬ政局では、後援会での統制が重要な鍵となるのだ
せっせと後援会の方で動かねばならない事案も増えて来ていた
まぁ、元々家族で過ごすつもりだったから、他には声は掛けてはいなかったが‥‥
乾杯をした後は部屋を暗くしてケーキにローソクの灯をともした
子供達が喜んでローソクの灯を吹き消していた
ローソクの灯を吹き消すと電気がつけられた
榊原は子供達のケーキを切り分けお皿に取り分けて渡した
慎一は大人用のケーキを切り分けお皿に取り分けて渡した
少し遅れて笙が妻と子を連れてやって来た
笙は「すみません‥‥クリスマスは仕事入れないつもりでしたが、インタビューだけ頼むと謂れ仕方なく受けたら‥‥遅くなってしまいました」
最近の笙は役者として脂が乗った俳優になったと認められた所為か、仕事の幅が広がって来つつあった
慎一は笙夫妻を大人用の席に座らせ、子供達は子供用の席に座らせた
烈が美智瑠を待ってましたとばかりに手を引っ張って隣に座らせた
その横に匠も座らせた
翔は慎一に「たっくんはジュースは少ししかいれたらだめらから!」と注意事項を述べた
慎一はコップに本の少しジュースを入れて匠に渡した
翔は「とわちゃ、たっくんみてて」と永遠に匠を託した
永遠は「解った!」と言い匠の横に座った
慎一は子供達にケーキを渡した
沢山作ったケーキはあっという間に食べ尽くされ、子供達は満腹になっていた
遊びながら食べながら、ジュースを飲みながら消化して行く
子供達は部屋から取って来た紙袋を広げると
流生が「みんにゃにぷれじぇんとしたいとおもまちゅ!」と宣言した
すると子供達は立ちあがり紙袋を手にした
飛鳥井の6人兄弟の他に瑛智、美智瑠、匠、永遠も加わっていた
皆で話し合い
皆で協力し合い
作り上げたプレゼントだった
翔が「こどもたちからえのぷれぜんとをします」と言った
誰が誰かを描くかは事前に打ち合わせしてあるのか?
子供達はそれぞれの持ち場へと散らばって行った
先発をきったのは音弥だった
音弥は瑛太の所へ行くと
「えーちゃのえをかいたにょ!」と言い
紙袋から瑛太の絵を取り出して
「めりーくりちゅまちゅ!」と言い手渡した
瑛太はその絵を受け取り
「ありがとう」と言った
何時も何時も難しい顔をした瑛太を描くのは一苦労だった
それを音弥は「えーちゃ、いちゅもみけん、こうらから、むじゅかちかった‥‥」と眉間のしわを手で作りそう言った
瑛太は何故か「すみませんでしたね音弥」と謝った
音弥は「えーちゃ らいすきらから、わらっててほしいにょ!」と言い瑛太に抱き着いた
瑛太は泣きそうになりつつ堪え
「音弥‥‥ありがとう」と礼を述べた
音弥は嬉しそうに笑い
「めりーくりちゅまちゅ!」と言った
大空は清四郎の所へと行って「めりーくりちゅまちゅ!」と言い絵を手渡した
清四郎は「え?くれるのですか?」と驚いた顔で問い掛けた
「じぃたん かいたにょ!」
清四郎は大空が描いた絵を見た
絵の得意な真矢の血を引いた子は才能を感じさせる程に絵が上手かった
笑った清四郎の顔が描かれていた
孫達を見るその顔は何時も優しく笑ってくれていた
そんなじぃたんの顔を大空は描いたのだ
「ありがとう‥‥額に入れて大切にします」
と清四郎が謂うと大空は嬉しそうに笑った
流生は真矢の所に行き
「ばぁたん めりーくりちゅまちゅ!」
と言い絵を手渡した
真矢は絵を受け取り
「これをばぁたんに?くれるの?」と嬉しそうに問い掛けた
流生は「あい!」と手をあげ答えた
「流ちゃんの描いてくれた絵‥‥
ばぁたん何時もこんな風に笑っているのね」
と言い真矢は流生の描いてくれた絵をなぞった
流生の描いた真矢の絵は艶やかに笑う真矢の笑顔だった
その顔は女優であり
母であり
祖母の顔だった
真矢は流生を抱き締めて「ありがとう」と言った
どんな画家に描かれるよりも嬉しい一枚だった
翔は清隆の所に行き「めりーくりすます!」と言い絵を取り出し渡した
清隆は翔に絵を渡され嬉しそうに笑った
「ありがとう翔」
「じぃちゃはあんましわらわないから‥‥わらったかお、むずかちかったれす!」
「そうか?私は何時もそんなに難しい顔をしてますか?」
清隆が謂うと翔は頷いた
「それはいけませんね!
これからは気をつけますね翔」
「じぃちゃ らいすきだから、どんなじぃちゃでもらいじょうび!」
「それは嬉しいです」
清隆は翔を抱き締めると
「じぃちゃも翔が大好きです!」と返した
太陽は玲香の所へ行き絵を取り出し渡した
玲香は絵を受け取り「ありがとう」と言った
太陽の描いた玲香は‥‥強い飛鳥井の女、そのものだった
凛としてどんな逆境にも胸を張り背筋をただし立ち向かう
そんな強さが滲み出ていた
玲香は胸を締め付けられる程に嬉しかった
この子らの瞳に写る自分が、ちゃんと飛鳥井の女として映っていて良かったと想えた
「ひな‥‥ありがとう」
「ばぁちゃはあちゅかいのおんにゃだから、ちゅよくかいたにょ!」
その台詞に玲香は目頭を押さえた
太陽は「ばぁちゃ‥‥いやらった?」と心配して問い掛けた
玲香は「嬉し涙じゃ!」と言い泣いていた
太陽は玲香の涙をポケットから出したハンカチで拭った
こんな所はフェミニストな康太の子だとつくづく感じていた
翔は「じゃぁ、こうはんせんもがんばるにょ!」と宣言した
流生は一生の所に行くと「かじゅ!」と声を掛けた
最近の流生は一生に近寄らなかったから一生は驚いて流生を見た
「流生‥‥」
名を呼ぶだけで一杯一杯だった
流生は絵を取り出すと一生に渡した
一生はその絵を信じられない想いで受け取った
流生の描いた一生の絵は‥‥‥
ニカッと笑っている何時もの一生の笑顔だった
「かじゅはえがおがにあうにょね!」
「そうか?」
「ちょう!ないてりゅかお‥‥にあわにゃい!」
流生はそう言いズボンのポケットからハンカチを取り出して一生の涙を拭った
一生は涙を拭かれて、初めて自分が泣いているのを知った
「ごめん‥‥俺泣いてたわ」
「いいにょ!とちとるとるいせんがゆるむって、ばぁたんいってたにょ!」
なんと謂う言い種‥‥
ばぁたん真矢は気まずい顔で「流生!!」と言った
そして居直って「そうよ!一生、年取ると涙腺が緩むのよ!」とヤケになり言った
一生は泣いていたが笑って
「なら俺も年取ったから涙腺が緩んでるんですね」と言った
「そうよ!一生、嬉しい時は泣いたって良いのよ」
「真矢さん‥‥」
「嬉しいでしょ?一生」
だってその子はあなたの子じゃない‥‥
言葉に出せぬ想いで謂う
一生はそんな想いを受け取り
「嬉しいです!」と答えた
流生は一生の頭を撫で撫でした
その優しさに一生は涙が止まらなくなっていた
クリスマスのプレゼントは生涯忘れられない想いが詰まっていた
翔は聡一郎に絵を二枚渡した
聡一郎はそれを受け取り
キラッキラの後光が差した様な金色の絵を見た
「僕‥‥こんなに光ってますか?」とボヤいた
「それがそーちゃらから!」
聡一郎は笑ってもう一枚の絵を見た
「これは‥‥」
聡一郎はそう呟き‥‥泣いた
翔がくれたもう一枚の絵は‥‥
「悠太‥‥」
どこから見ても悠太の絵だった
今は日本にはいない悠太の絵だった
「ゆーちゃ がんばってるから‥‥」
「ありがとう翔‥‥悠太に渡すね
絶対に渡すね‥‥」
聡一郎は泣きながらそう言った
すると流生、音弥、太陽、大空、烈から同時に絵を手渡された
絵の横に一文字ずつ書いてあり‥‥聡一郎は一枚一枚並べた
するとその文字は『が、ん、ば、れ、ゆー、ちゃ!』となる様に書かれていた
聡一郎はその絵を胸に抱くと「ありがとう‥‥本当にありがとう」と言い泣いた
京香が聡一郎の傍に行き抱き締めると、聡一郎は京香に縋り付いて泣いていた
我慢してきた箍が切れてしまったみたいに、聡一郎は泣いた
音弥は隼人に「どーじょ!」と言い絵を手渡した
隼人はその絵を受け取り‥‥‥動きを止めた
「どーして‥‥」
隼人は呟いた
「はやとのへやにいちゅもかざってありゅ、しゃしん‥‥あれみちゃにょね!」
と音弥は説明した
隼人の部屋には今も菜々子と一緒に写っている写真を飾ってあるのだ
音弥はその写真を見て描きたくなったのだ
慎一に頼んで、隼人がいない時は隼人の部屋から写真を持って来て貰って描き上げたのだった
音弥のくれた絵には‥‥隼人と菜々子と手を繋ぎ写っていたのだった
音弥はそれを描いて隼人に渡したのだった
隼人は我慢しきれなくなり‥‥泣いた
康太は絵を覗き込み、成る程、これじゃ泣かない訳ねぇなと想い隼人を抱き締めた
「良かったな」
「良くないのだ康太‥‥これは康太の差し金なのか?」
「オレはんなの描けなんて言ってねぇよ
子供達が自発的に考えて相談して、描いたんだろ?」
康太は無関係だと言った
総ての采配をしているのは多分翔だ
恐るべし‥‥次代の真贋‥‥なのだ
大空は京香の所へ行き「ママ、どうじょ!」と言い絵を渡した
子供達は京香に育てられた時期があった
だからママと呼び慕っていた
翔は絶対に謂わないが、他の子は京香の事をママと呼んでいた
京香は「我にか?」と言い絵を受け取った
大空の描いた絵の京香は笑っていた
唇には紅をつけ艶やかに笑っていた
今の京香は悲しみで顔が曇っていたから‥‥
大空はママには笑っていて欲しいと願いを込めて描いたのだった
「かな‥‥我は‥‥最近笑っておらなんだな‥‥」
「わらっててママ」
大空はそう言い京香の頬を撫でた
「そうであったな‥‥
我にはまだこんなにも手の掛かる子等がいるではないか‥‥」
京香は泣きながらそう言った
流生は瑛智に「いくよろし!」と言った
瑛智は母の傍へ行き抱き着いた
「瑛智‥‥」
「かぁしゃん‥‥なきゃないで‥‥」
我が子のぬくもりを腕に抱き、京香は悲しみに暮れるのを止めようと決意した
「我も飛鳥井の女であったな」
弱くちゃ飛鳥井の女にはなれない
解っていたのに‥‥我が子を亡くし悲しみに瞳を曇らせてしまっていたのだった
「かな、ありがとう」
「ママがかなちぃのはいやらもん」
「お前の母は誰よりも強いからな!
我も見習わないといけぬな!」
京香は大空に言った
誰よりも強い飛鳥井康太を誰よりも近くで見て来たのに‥‥今は見てなかった‥‥と。
京香は「瑛智‥もう大丈夫じゃ!」と言葉にした
瑛智は母から離れると父を見る事なく、翔の方へと向かった
瑛太はそれを見て‥‥瑛智にそうさせたのは自分なのだと‥‥痛感していた
不器用な男は‥‥我が子を愛していない訳ではなかった
だが愛せない我が子を想うと‥‥どうしても距離を取ってしまうのだった
玲香はそれを見て「お主と一緒ではないか」と呟いた
清隆はその言葉を聞いて苦笑した
康太が‥‥嫌、次代の真贋が生まれた日から、我が子には距離をとってしまった父だったからだ
悔いがないと謂えば嘘になる
だが‥‥それを埋めれは出来ないが、今は‥‥その時を埋める様に家族でいたかった
清隆は「あれも不器用な男故‥‥距離の取り方が解らぬのであろう‥‥」と己の言葉を噛み締め言った
翔は瑛智に「さぁ、いくにょ!」と言った
瑛智は渋々瑛太の傍に行き‥‥絵を渡した
「とうしゃん じぃちゃにょ ぶつらんにおねぎゃいちまちゅ!」
そう言いペコッとお辞儀をした
瑛太は瑛智の描いた絵を見た
そこには‥‥源右衛門の絵が描かれていた
「源右衛門ですね
良く描けています」
瑛太はそう言い絵を玲香に見せた
玲香はその絵を清隆と共に見た
真矢と清四郎も絵を覗き込み
どこから見ても源右衛門な絵に感心した
玲香は「仏壇の横に飾ってやるとよい!」と言い瑛太に渡した
瑛太は意を決して瑛智に
「父の絵はないのですか?」と尋ねた
瑛智は驚いた顔をして「こんろ‥かきましゅ!」と答えた
「君の父の顔を描いて下さいね」
瑛智は頷いた
瑛太は瑛智に胸の中にある言葉を投げ掛けた
「君にとって私はよき父ではないのでしょうね?」
「とうしゃんはとうしゃんれす」
それ以外何にもなれないし、それ以外の関係になんてなれないと瑛智は言った
瑛太は笑って「ありがとう瑛智」と言葉にした
瑛智は瑛太の傍を離れると翔の傍へと行った
翔はずっと瑛智を見ていた
瑛智がちゃんと出来るか見ていたのだった
瑛太は翔と目があった
翔はじーっと瑛太を視て、瑛智に何か言った
瑛智はうんうん!と何度も頷いていた
榊原は何やら難しい顔をしている翔に
「翔」と名前を呼んだ
するの翔は父の傍へと振り向き、抱き着いた
子供らしい一面だった
「どうしたんです?翔」
「とぅちゃ らいすき」
翔は唐突にそう言った
榊原は笑って「僕も大好きですよ翔」と言い抱き締めた
一頻り榊原に抱き着くと、気を取り直して
「まだやりゅことがありゅんです」と言い榊原から離れた
翔は太陽の背中を押した
すると太陽は笙の所へ行き絵を渡した
笙は驚き「僕にもあるのですか?」と呟いた
笙は太陽に絵を貰い見た
やけにイケメンに描かれた絵は‥‥
「熱き想いの時の僕ですね
凄いです太陽、絵のセンスがありますね」と感激した
「ちょーはえんじてるときが、いちばんかっこいいのにょね」
ドキッとする言葉だった
どんな賛辞を聞くよりも心踊らされる言葉だった
「僕‥‥演じ続けて良かった‥」
笙は想わず涙ぐんだ
明日菜が夫の背を撫でていた
そうして見ると優しい妻だった
その明日菜の元に美智瑠と匠と烈がやって来て、三人合作で描いた絵を手渡した
明日菜はその絵を受け取り開いてみた
翔が「みちりゅとたっくんとれちゅが、がんばってかきました!」と捕捉を入れてやった
明日菜はまだ落書きに毛が生えた様な絵だけど、ちゃんと笑ってる顔が描かれていて
子供達の前でちゃんと笑えていたんだと解れて良かったと想った
京香が「良かったな明日菜」と言葉を掛けると
明日菜は「姉さん、私‥‥ちゃんと笑えてた‥‥」と嬉しそうに報告した
「良かったな明日菜」
二人は悲しみを乗り越える盟友であり姉妹の様に互いを差さえあっていた
翔は「次はとぅちゃとかぁちゃとひょーろーきゅんらからね」と指示を出すと
子供達は一斉に立ち上り榊原の所へ行った
流生が「とぅちゃ どーじょ!」と絵を手渡した
榊原は流生から絵を貰い嬉しそうにそれを見た
音弥が康太に「はい、かぁちゃ!」と言い絵を渡した
康太はそれを受け取り広げてみた
榊原の絵と康太の絵を並べて皆に見せた
優しい父と、少しだけ恐い母の顔が描かれていた
康太は「額に入れて飾ってくれよ」と榊原に言った
榊原は「そうですね、飾りますちゃんと」と約束した
音弥は「ちょれ、ろきゅにんでかいたにょ!」と説明した
榊原は「大変でしたね」と声を掛けた
大空が「めちゃくちょ、つかれたにょね!」とボヤいた
その言い種に康太は笑っていた
そしてラストは兵藤
子供達は兵藤の前に立つと
それぞれなにやら渡した
流生から貰ったのは‥‥‥
「ちょれね、れじんってのでつくったにょね!」と説明した
綺麗なお花が入ったキーホルダーだった
慎一が「その花は流生が屋上で育ててる花をドライフラワーにしてレジンで作り上げたのです」と説明した
兵藤は流生に「ありがとうな大切にする」と言った
次に受け取ったのが音弥からだった
音弥がくれたのは‥‥
「これ、音弥が作ったのか?」と問いたくなる程に綺麗な貝殻の置物だった
「ひょーろーきゅんにあげりゅためにちゅくっちゃのにょね」
と言った
やはり慎一が捕捉する
「足のオペの為に音弥はハワイに滞在していた事があるんですよ
その時に近くの海に行き貝殻を拾って来ていたのです
その貝殻を使って音弥が置物を作ると言うので、少しだけ手伝いました」
あぁ‥‥涙が出そう‥‥
毎年毎年、この子達は本当に‥‥
「ありがとうな音弥」
音弥は嬉しそうにニコッと笑った
次に手渡したのは太陽からだった
「はい、ひょーろーきゅん」
手渡されたプレゼントを見て兵藤はニコッと笑った
これも置物で、綺麗な色が交わり模様の様になってる毬だった
「この毬、どうしたのよ?」
兵藤が問い掛けると太陽は
「くりゅくりゅまいたにょね!」とくるくる巻く真似をした
巻いただけ?
嘘‥‥巻いただけじゃないだろ?
それに答えたのは真矢だった
「それね太陽と共に巻いて作ったのよ
太陽は器用でね、私のより上手に出来たのよ」
と嘘みたいな話をした
「ありがとう太陽」
太陽は兵藤に頭を撫でられ嬉しそうに笑った
大空はバンドエイドだからけの指で、兵藤に小さな紙を渡した
「これは?」
「ちおり!」
切り絵で作ったのか色が重なりあい、かなり高度な出来となっていた
兵藤は大空の手を取り
「この傷、この栞を作ったからか?」と尋ねた
「これはねぇ、かながへたらったかられちゅ」
「ごめんな‥‥こんな怪我させて‥‥」
「かな、ぶきようらから‥‥」
「大空、来年からは絶対に無理しないと約束してくれねぇか?
こんな怪我‥‥見る方が痛てぇよ」
「ぎょめん‥ひょーろーきゅん」
「謝るな‥‥謝らねぇでくれ
俺は大空が怪我して欲しくねぇんだ
でもめちゃくそ嬉しいぜ!
ありがとう大空
大切に使うからな!」
兵藤が言うと康太が兵藤の前に手を見せた
康太の手も‥‥
大空よりも酷くバンドエイドのお世話になっていた
「悪りぃな貴史
大空と共に切り絵をやったのはオレだ!
オレの作ったのは切れちまって使えねぇけど、大空のは綺麗に出来たんだな、これが!」
捕捉にもならない戯れ言を康太は言った
兵藤は爆笑した
康太は「悪かったな!」とボヤいた
「おめぇの手も痛てぇからな
来年からは刃物は止めてくれ!」
「来年からは伊織に任せる事にするから大丈夫だ!」
康太は笑って言った
榊原は「君の手が傷だらけになる位なら、僕がやるから大丈夫です!」と甘い蕩けそうな囁きを康太に言った
兵藤は「ごちそうさん!」と言った
翔が兵藤の前に立つと「どうぞ!」と言い小さな袋を手渡した
兵藤はそれを受け取り「御守り?」と問い掛けた
「はい、おまもりれす!
なかのもじはかけゆがかきました」と説明した
翔の御守りの捕捉をしたのは榊原だった
「菩提寺に行って紫雲龍騎から御守りの作り方を伝授されたのです
一文字一文字、翔は心を込めて、想いを込めて祈願した御守りなんです
翔は修行の一貫として写経をやっているので、筆の文字は大人顔負けだったりするのですよ」
と親バカ全開で説明した
兵藤は翔に「ありがとうな翔」と礼を述べた
プレゼントを全員に渡し終える頃にはかなり夜も更け、子供達は既にお眠になりつつあった
目を擦り始めると慎一が「寝ますか?」と尋ねた
子供達は観念して今宵は早々に子供部屋に行く事になった
子供部屋に行く時、兵藤を拉致る事を忘れなかった
兵藤は仕方なく子供達と共に、部屋へと連れて逝かれた
子供達と兵藤を見送って
玲香は「本当によいクリスマスであった、康太、伊織ありがとう」と礼を述べた
榊原は「義母さん止めて下さい、クリスマスは来年も再来年も‥‥10年後も20年後も続きます
受け継がれて逝くのです
だから礼など不要なのです」と語った
半分は夢だった
幾度転生しようとも稀代の真贋の寿命は短いのだ‥‥
今世に限り異例な事などないのだ‥‥
だが願ってしまうのだ
夢見てしまうのだ
じじぃになった康太と過ごす日々を‥‥‥
榊原の表情が曇ると康太が榊原の手を強く握り締めた
榊原は今考える事ではないと今を楽しむ事にした
今年は子供達の優しさにやられた家族は泣きながらお酒を飲んでいた
兵藤も子供達の優しさにやられた一人で、泣きそうだった
一生が「寝たフリしろよ、そしたら優しく泣かせてやる」と言った
兵藤は一生の背に顔を埋め寝たフリをした
嗚咽が漏れて‥‥
下手くそな寝たフリにならなかったけど‥‥
優しさに包まれてクリスマスの夜は更けていった
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