81 / 95
第81話 嵐の大掃除
飛鳥井建設 副社長 榊原伊織は飛鳥井建設正面玄関の前に立っていた
空気がピリピリ凍てつく程に威圧感を放っていた
「飛鳥井建設 社員の皆さん!」
榊原は社員に向けて声を放った
「今日は飛鳥井建設の大掃除の日です!
今年の業務も今日で終わります!
日頃の感謝を込めて会社を磨きあげる時がやって来ました」
会社を磨きあげる時が‥‥
社員達は今年もとうとうこの日がやって来たのか‥‥と息を飲んだ
現場の人間も仕事納めを終えて、大掃除の場にいた
飛鳥井建設社員ならば、避けては通れぬイベントとなっていた
「今年はこの日の為に助っ人を呼びました
この者達が格セクションの番人となります
では宜しくお願いします」
榊原が言うと、榊原の横ににズラッと助っ人が並んだ
榊原は「右から兵藤貴史、清家静流、一条隼人、榊原笙、榊原清四郎、榊原真矢、神野晟雅、この方々は君達の掃除を見てダメ出しをして下さる方々なので、丁重にお願いします!」と説明した
城田は「副社長は監視なさらないのですか?そして真贋は何処にいらっしゃるのですか?」と問い掛けた
毎年、大掃除は地獄の番人が人任せにするなど‥‥心配して問い掛けた
「飛鳥井家真贋は体調を崩してるので大事を取って休みです
ですので僕は何時もより張り切っています
僕が出ない筈などないじゃないですか!
ですが僕とて人間なので、細かい所までは目が届かない事もあるので、今年はそれを解消しようと試験的に導入してみようと想ったのです
効率が良ければ来年からは、各セクションごとに監視者を立てようかと想っています
ご存知の方々もいらっしゃると想いますが、兵藤貴史、清家静流、は僕の学友で、一条隼人は飛鳥井康太の長男とも謂える存在なのです
そして榊原笙、榊原清四郎、榊原真矢は僕の家族で、神野晟雅は社長の学友兼隼人の事務所の社長です
この時代を生き抜いていらっしゃる方々の協力を今年は仰ごうと想い来て貰いました
彼等の厳しい目が光っていると言っても過言ではありません!
皆さん、心して掃除に励んで下さい!
ではこの後、大掃除開始となります!
一生、開始の合図と説明をお願いします」
榊原の後ろに控えていた一生が前に出ると
「これより大掃除開始です!
皆さんそれぞれの部署に散らばって自分の部署を磨きあげて下さい!
それでは大掃除スタート!」
と開始を告げた
社員達は一目散に自分の部署へと走った
城田は愛染に「真贋の体調どうなんだろ?」と問い掛けた
愛染は「また無理なさったのかもな‥」と心配そうに呟いた
瀬能も「真贋が伴侶殿の横にいないと言うのは由々しき事態なんですがね‥‥」と心配そうに呟いた
一生は「んな事を言ってる暇に持ち場へ逝かねぇと今年の助っ人は口うるせぇぞ!」と早く動けと催促した
城田は一生に「真贋は?」と問い掛けた
真贋の駒故絶対に引かない意思が垣間見えた
「飛鳥井建設の最近の危機を知っているなら騒ぐな!
アイツは常に会社のために動いている!」
と一生は城田に耳打ちした
真贋の真髄を耳打ちされ、城田は「大掃除頑張って来ます!」と引いた
その場を離れた城田に愛染と瀬能は「一生さんは何と?」と問い掛けた
城田は耳を貸せとばかりに人差し指でチョイチョイと招いた
そして二人の耳に「かくかくしかじか、ゴニョゴニョ!」と話した
二人は納得して自分の持ち場へと走った
飛鳥井建設は常に狙われている
真贋と言う特殊な神に近い存在は常に狙われている
真贋を手に入れれば、無敵だと想ってる輩が多すぎなのだ
ドラゴンボールの玉じゃあるいまいし、手に入れても願いなんて誰が叶えるかよ?!
と謂うのが真贋の口癖なのだ
『飛鳥井』と言う名の元に真贋は存在しているのだ
絶対に他で存在するつもりは皆無なのに‥‥
それを理解している輩は結構少ないのかも知れない
大掃除が始まり社員達は、各々各部署へと散らばっていった
掃除開始と同時に各部署には助っ人が配置されて、助っ人が細かい所まで目を光らせていた
助っ人と副社長の厳しい監視との相乗効果も高まって、意識は目の前の掃除へと切り替えられる
そこに真贋がいないと好都合だと動き出す輩以外は皆、掃除に必死になっていた
ここ数ヵ月、大きな仕事の入札が見事に外れて、他社に取られている事態が起きていた
真贋の眼で見た一般競争入札価格が最高値を大幅に外して他社に落とされていた
入札を行った社長の瑛太が危惧する程で、社長は社内情報の漏洩を疑った
会社を裏切る輩などいないだろう‥‥
膿は出しきり社内は正常化されている‥‥と想っていた矢先の事態だった
それだけに会社のトップの者達の衝戟は‥‥計り知れなかった
だが真贋はそれでも逝かぬ事態に決断を下した
「会社にネズミがいるしかねぇなら、誘きだすしかねぇじゃんか!」‥‥と。
新年早々、駅ビル開発の入札が行われる
飛鳥井を出し抜いて競り落としたい会社が必ず動き出すであろう事を視野に入れて‥‥
社内は大掃除に余念がなかった
皆が各々自分の役割を果たそうと必死に動いている
そんな時こそネズミはチューチューと動き出すのだ
康太は会社の誰も存在すら知らない部屋にいた
部屋の壁一面、テレビモニターが並べられ会社の至る所を写し出していた
『伊織、栗田を呼びつけて周辺を手薄にさせろ!』
康太は榊原にインカムで指示を出したを送った
最近のイヤホンは着けてる事すら解らない程、高性能に出来ていた
更に榊原が特注で作らせたイヤホンは、榊原の耳の形を取って細部まで精巧に本物同然にコピーさせたて作ったモノだった
身長の高い榊原がイヤホンを装着していたとしても誰にも気付かせない出来だった
『解りました。ならば計画通りにします』
榊原はそう言うと栗田を呼び出した
栗田の変わりに榊原真矢が助っ人として入ると、社員は俄然と張り切った
真矢は「あまり無理しちゃダメよ、でも手も抜いちゃダメよ」とにこやかに言った
すると社員が「それってどっちに力を入れたら良いんですか?」と冗談で言った
「副社長の一発合格貰える様に頑張って!」
そう来たか!!
社員は少しだけ笑って、掃除に没頭した
動きやすい雰囲気を作る
「誰か統括本部長の部屋も掃除してあげてね」
すると待ってましたとばかりに、統括本部長の部屋へと入って行く社員達がいた
真矢はそれを見届け、他の社員達が手伝いに逝かない様に気を使っていた
動き出したネズミは建築施工部の統括本部長の部屋に入り、掃除してると見せかけて書類を漁っていた
目指すは【〇〇駅ビル開発入札価格】と書いた書類だった
一番下の机の中からお目当ての書類を見付けると、胸ポケットから小型カメラを取り出してパシャっと写して元に戻す
それを康太はモニタールームで見ていた
「安田、宮武、今井‥‥去年入った中途入社の社員か‥‥」
康太はPCを取り出すと三人の履歴書をピックアップして探偵をやっている久我山慶一のPCへと転送した
転送が終わると『了解!直ぐ取りかかる!』とメールが入った
康太は携帯を取り出すと「久我山慶一のサポートに着いて動いてくれ!」と電話を入れた
『了解!直ぐに連絡を取ります!』
相手は快く了承した
「俊作、最近どうよ?」
『幸せですよ康太さん
最近は家族で食事したりして結構穏やかな時間を過ごせてます』
「そうか、それは良かった
んじゃ、報告待ってるな!」
康太はそう言い電話を切った
電話の相手は中村俊作、康太の駒だった
彼の家族は一度崩壊した
そして社会的に抹殺されるしかない‥‥所まで来ていた
康太の弟の悠太を拉致してリンチしたのが中村俊作の弟だったのだ
紆余曲折あり家族とはなにかを見直し、日々作り上げて今に至った、そんな日々を俊作は送っていた
康太は榊原に「会長室に移動する」とインカムで話すと榊原はカメラを見て頷いた
康太はネズミの証拠現場を録画していた
ROMを手にすると会長室へと誰にも見つかる事なく移動した
康太のいた場所は最上階と下の階との中間地点に位置する部屋にいた
会社を建て直す時に一部の人間だけ知る部屋を図面に描いて作らせた部屋だった
ビルのワンフロアぶち抜いた様な部屋には会社の総てを見渡せるモニターを設置した
まぁこの階にはそれ以外の部屋もあったりするが‥‥それはまだ明かされてない部屋だった
康太は部屋の中にある階段を上がった
階段を上がると、目の前の壁を押した
すると最上階にある役員専用のフロアへと出た
康太はその足で会長室へと向かった
ドアをノックすると清隆がドアを開け康太を招き入れた
会長室に入ると清隆は「ネズミは見付かりましたか?」と問い掛けた
康太は手にしたROMをPCに差し込むと
「瑛兄と伊織が来たら見せるわ」と言った
時刻は12時に差し掛かろうとしていた
各部署の見回りに行っていた榊原が、「お昼です!お弁当を食べましょう!」と助っ人や一生達に声を掛けた
一生は「昼食は食堂に用意してありますので、皆さん昼食を取りに行って下さい!」と声を掛けた
そして広報課の一色に「昼食は食堂に行って下さいと放送お願いします!」と連絡を入れ、その場を離れた
ネズミ達は何食わぬ顔で皆と合流し昼食を取る為に食堂へと移動して行った
会長室に皆が集まると秘書は弁当を皆の前に出した
兵藤は「首尾はどうよ?」と康太に問い掛けた
「上場だ!これを見てくれよ!」と言い康太はROMを起動させ、さっき撮ったばかりの動画を見せた
瑛太は「安田、宮武、今井ですか?彼等は去年途中入社で入った社員ですね」と冷静に分析してから述べた
榊原も「彼等は製図屋でしたよね?」と建築施工部の中でも際立つ存在だと口にした
康太は「一生、誰にも知られずに城田を呼べよ」と無茶な事を言ってのけた
一生は「また難易度高い事を‥‥」とボヤいたが、無茶ぶりをそのまま城田に放った
『城田、聞きたい事があるらしいから誰にも知られずに会長室まで来いよ
非常階段で最上階の入り口まで誰に見付かる事なく頼む!俺は入り口の所で待ってるから来てくれ!!』
とメールした
城田はメールを目にして‥‥
「ったくあの人達は‥‥」とボヤいた
城田は愛染と中村と綾小路に「俺は呼ばれたから抜けるが後のサポートを頼む!」と頼んで
「彼女にメールして来るわ!」とウキウキとして食堂を出て行った
中村理央は機転を利かせて「ったくアイツはラブラブ気分が抜けてないなぁ~」と話をふった
愛染は「城田は副社長を見習って愛妻家やってますからね」と笑って言った
綾小路は「昼休みだ。多目に見てやろう」と愛染を宥めた
三人の心の中は『城田、上手くやれ!』だった
三人に見送られた城田は、非常階段から最上階を目指した
誰もいないか確かめて電話しているフリして歩を進める
最上階まで逝くと一生が出迎えてくれ、城田は一生と共に会長室へと向かった
会長室に入ると
康太は「呼び出して悪かったな」と城田に言った
城田は「貴方に呼ばれるなら地球の裏側にいても駆け付けますとも!」と笑って言った
「来て貰ったばかりで悪いが、これを見てくれよ!」
康太はそう言い動画を再生した
動画には安田、宮武、今井の三人が統括本部長のデスクを漁って目当ての書類を見付けると小型カメラで撮影しているシーンが写し出されていた
「安田、宮武、今井‥‥ですか‥‥
彼等が貴方の探していたネズミですか?」
「で、アイツ等の近くで働いていたおめぇに聞くしかねぇと想って来て貰った」
「不審な態度はあったかどうかですか?」
「そうだ!」
「中途入社なので浮いた立場ではありました
彼等は馴染む気が皆無だったのか‥‥他の誰とも話そうとはしませんでしたから‥‥
かと言って仕事は出来ましたよ!
だから何か謂う奴等はいませんでした!
そのうちなじむだろうと皆想っていたと想います」
「なじまず‥‥はみ出さず‥‥一定枠を越えずってやつか?」
「彼等は最初からスパイの為に入社したのですか?」
「それは解らねぇからな、今は泳がせている
だから目立った事はねぇように頼みたい」
「解りました!
彼等が泳ぎやすい様に気を配ります」
「頼むな」
「はい。しかし‥‥よくも会社を裏切れるなアイツら‥‥」
城田は悔しそうに言った
「元々仕える会社にいたとしたら、アイツらの優先順位はそっちにあるんだよ
だからミッションをこなす位の軽いノリで来たんだろ?」
康太に謂れ城田は悔しさで胸が一杯になった
「俺も貴方の駒ですが‥‥プライドを捨てる様な行為はしません!」
「俺がおめぇにプライドを簡単に捨てさせる事なんてさせるかよ!」
この人は俺のプライドを守る為ならば、己が傷付いたとしても守ってくれるだろう‥‥
捨て駒みたいな使い方は絶対にしない人だ!
城田は悔しくて‥‥唇を噛み締めた
‥‥涙が零れそうになったが我慢した
康太はそんな城田の思いを知ってか知らずか‥‥
「城田、おめぇを地獄の底から拾い上げたその日から、おめぇには光輝く道しか用意してねぇんだよ!
胸を張って歩けねぇ様な道は用意してねぇんだよ!」
と言うから‥‥城田は涙が止まらなくなった
一生は城田を抱き締めて、涙を拭ってやった
康太は「アイツ等はオレの眼を逃れる為に常にオレのいない時を狙うかんな!
泳がせている間はオレは社内に姿を現す事はねぇと想う!」と城田に留守を頼むと告げると城田は背筋を正して
「了解しました!
俺等は貴方の想いのままに動く!
それしか考えてません!」
「んじゃ、何時もの様に海外のブロバイダーを経由しての連絡、頼むな」
「了解です!逐一貴方に報告します!」
「昼休みの所、悪かったな」
「いいえ、貴方に逢えて得しました!
それでは失礼します!」
城田はそう言い会長室を後にした
瑛太は「どうなさるのですか?」と問い掛けた
「今回は飛鳥井家次代の真贋の眼を試す為に連れて来てるからな!
翔が動きやすい様にするだけさ!」
次代の真贋の眼‥‥
家族は‥‥翔の背負うべく荷物の重さを痛感させられた
清隆は「翔、来てるのですか?」と尋ねた
「おう!オレの横でずっと視ていた
今もモニター視てるんじゃねぇかな?」
「お昼は‥‥」
「集中力を欠かせたくねぇからな
視た後にでも食わせるから気にすんな!」
家族は言葉を失った
玲香は「他の子は‥‥どうしておるのじゃ?」と尋ねた
「他の子もモニター視てるんじゃねぇかな?
翔が浮かばねぇ事でも兄弟で力を合わせれば解る事もあるかんな!」
「‥‥そうか‥‥もう仕事をなさる時期が来たのであるな‥‥」
玲香は哀しそうに呟いた
「それが定めだかんな
オレは翔の年には既に視て金を稼いでいた
翔もそろそろ真贋の仕事をしねぇとならねぇ時が来た
真贋の仕事は実践で磨かれる
実践を知らぬ者は本番で脆い存在にしかなれねぇ!」
清隆は立ち上がると「次代の真贋の初仕事、無事終われます様に祈っております!」と口にして深々と頭を下げた
康太はPCがピロリンと鳴りデーターが送られて来た事を告げると榊原に
「子供達を連れて来てくれ!」と頼んだ
榊原は立ち上がると会長室を出て行った
暫くして会長室に入って来た翔は‥‥‥
真贋の着物を来ていた
清隆は「真贋、此方へ!」と言い席を譲った
翔はソファーに座ると現真贋に深々と頭を下げた
康太は「視えたか?」と翔に問い掛けた
翔は「あい!みえました!」と答えた
翔はスケッチブックを取り出すと三人の顔を貼った写真の上にクレヨンで何やら書いていた
「さんにんは、ほくしんこうぎょうというかいちゃにつとめてて、しゃちょーみずからしじしていました」
翔の言葉に瑛太が「北進工業‥‥うちが負けた会社ですね」と呟いた
「あしょこのしゃちょーはあすかいをめのかたきにしてるのです」
そんな事も解るのか‥‥と瑛太は翔の次代の真贋の責任の重さを感じていた
流生が「りゅーちゃ、すこしみてたにょね、そのさんにんはげーむかんかくでたのしんでたにょね!」と自分の役割を告げた
音弥も「くりたにょつくえのかぎ、わたしたやつほかにいるにょのね」と告げた
大空は「そう。いもずりゅしきにでてくりゅかもしれにゃいね!」と核心的な事を言った
太陽は「くりた‥‥けがしてたから‥‥そのあいだにやられたにょね、かわいちょーね」と栗田に同情的に言った
五人兄弟は互いの足らない所を補うかのように共に行動し切磋琢磨して力を磨いていた
その成果が現れたと謂う事だった
康太は翔に「で、真贋、どう出るのよ?」と問い掛けた
翔は果てを視て「かぎをてにいれたやちゅから、かたずけるべきだとおもいます」と答えた
「オレも異存はねぇな!
で、鍵を三人に渡したのは誰か視えているのかよ?」
「たなはしにじじょうをきく」
康太は鍵を渡した犯人の名を上げた翔に
「上出来だ!
今回は此処までで良い!」と役務の終わりを告げた
翔は不安そうな瞳を康太に向けて
「かけゆ‥できてませんでしたか?」と問い掛けた
康太は翔の頭を撫でて
「上出来だ翔!
これから少しずつ真贋の仕事をする事になる
だが今は俺もいるかんな
少しずつ実践を積んで逝けば良いんだ!」
諭すように言った
翔は「あい。わかりました」と納得して息を吐き出した
康太は流生、音弥、太陽、大空の頭を撫でて
「お前達もご苦労だったな」と労を労った
榊原はお弁当の蓋を開けて
「さぁ食べなさい」と我が子に言った
子供達のお弁当はお子様用の味付けで、子供達の好きなモノばかりが入っていた
清隆は翔に「お務めご苦労様でした」と声を掛けた
翔は「かけゆはもっとしゅぎょうしないと‥‥だめだから‥‥」
と今日の出来を採点していた
榊原は「焦りは禁物です!心に余裕がないと何をやっても上手くは生きません!
穏やかに楽しく過ごすのも修行の一貫ですよ」と優しく言った
我が子の心のケアは榊原の担当だった
厳しい母に優しい父
曲がらず育ってくれと、父は祈るように我が子に接していた
流生が「かけゆ、じぶんのきゃぱしるよろし!」と元気づけた
「りゅーちゃ‥‥」
「じぶんしらにゃいやつは、さいしょからまけてるってひょーろーきゅんいってたにょね!」
流生が謂うと音弥が
「じぶんをみとめないやつは、おのれをしれにゃいやつらって、かぁちゃいってたにょね!」
と母の口癖を言葉にした
何時もは大人しい大空も
「あせるとめのまえのものがみえなくなるってかぁちゃいちゅもいってるにょねぇ!」と翔を励ます言葉を口にした
皆が謂うと太陽も頑張り
「かけゆはちゅごいよ!
ひな、いつもかんちんしてるもん
ひなにはできにゃいこと、たくちゃんしてる
ほんとうにほんとうに、かけるはちゅごいよ!」と励ました
翔は兄弟に励まされ、嬉しくなり鼻を啜りながらお弁当を食べていた
康太は翔に
「飯繰ったら着物は脱ぐぞ!
そしたら今日はもう遊んで構わねぇ!」と仕事の終わりを告げた
メリハリを着けて切り替えさせる
その都度その都度、生活にメリハリを着けて規則を守らせていた
修行、訓練、実践、呪文の勉強
それらは子供が習うには難しかったが、翔は必死に覚えて頑張っていた
それも修行が終われば、兄弟でいられる時間があればこそだった
流生が「かけゆ、おしごとごくろさんれした!」と笑って謂うと翔は嬉しそうに笑った
その顔は本当に子供のあどけない顔だった
慎一が食事を終えた子供と康太にプリンを出して渡した
榊原はこぼさない様に、プリンの蓋を開けて子供達に渡した
そして最後に愛する妻に手渡した
子供達は母のプリンの蓋が開くまで待ち
母がスプーンを手にすると一緒にプリンをすくって食べ始めた
「かぁちゃ おいちぃね!」
流生が謂うと康太も子供みたいな顔で笑って
「だな、めちゃくそうめぇな!」と満悦だった
榊原は子供達に
「今日は今年最後のスイミングの日ですから、掃除が終わったら行きますよ」と告げた
子供達は幾つかの習い事をしていた
スイミングと菩提寺の修行と英会話教室は全員で行く習い事の一つだった
翔はスイミングと菩提寺で修行、書道教室、英会話教室
流生はスイミングと菩提寺で修行、ガーデニング教室、英会話教室
音弥はスイミングと菩提寺で修行、絵画教室、英会話教室
太陽はスイミングと菩提寺で修行、華道、英会話教室
大空はスイミングと菩提寺で修行、茶道、英会話教室
とスイミングと菩提寺で修行は兄弟でやる習い事だが後は皆、それぞれの特性を鑑みて遣りたいと謂う事をやらせていた
昼食を終えると榊原は一生に
「午後から点検に回りますと放送を流してください」と伝えた
一生は一色の所へ内線で指示を出すとお茶を啜っていた
「んじゃ昼からも頑張るとするか!」
昼を食べた一生は慎一を手伝って片付けを始めていた
瑛太は「‥‥午後も‥‥掃除ですか‥‥」と憂鬱そうに呟いた
瑛太にとったら掃除より仕事をしていた方が楽だった
飛鳥井建設の大掃除は副社長の最終チェックをもって完了した
どの部署も光輝く程に美しく磨かれ最高の出来となっていた
多くの問題は残ってはいるが‥‥
飛鳥井建設の大掃除は終った
掃除が終わると皆を貸し切った料亭の離れに移動させ忘年会を開いた
泣いても笑っても‥‥
今年の業務は終わりを告げていた
社員は用意された離れで楽しく忘年会を始めた
その会場には会長や社長、副社長は参加しなかった
「年に一度の無礼講なので社員の皆で楽しんで来て下さい!
制限時間は三時間
それ以降は皆の好きに二次会でも繰り出して下さい!」
榊原はそう言い社員を送り出した
基本、三時間は全員参加
ネズミ達も三時間は参加せねばならなかった
栗田の目が‥‥
城田の目が光る中、忘年会は始まった
忘年会に参加しなかった榊原は今年最後のスイミングへ子供達を連れて来ていた
子供達がスイミングをしている間、榊原も水着に着替えて泳いでいた
勿論、他の客がいると色目を使われるのでオーナー特権を発動して、空いたコースを独り占めして泳いでいるのだった
ぷよぷよのお腹になったら妻に嫌われる!!
榊原の日々の努力の一貫だった
飛鳥井の捕り物のお話はまた別のお話で‥‥
ともだちにシェアしよう!