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第84話 雪やこんこん

「かぁちゃ!!ゆきぃーふってるよぉ!」 鼻水を垂らして流生が母に駆け寄る 「積もってるのかよ?」 「ゆきらるま できるかもね」 流生は嬉しそうに答えた 「雪だるま作るのは結構雪が要るぞ?」 「はやきゅー!はやきゅー!」 流生は母を急かした 一人で外には出ない! 一人で屋上には行かない! お約束だから子供達は一人では雪には触れないのだった 康太は「屋上かよ?それとも外かよ?」と流生に尋ねた 「ひょーろーきゅんち」 「え?貴史んち?」 康太は不思議に想いながら携帯を取り出した そして兵藤に電話を入れた 「あ、オレ!」 『オレさんに知り合いはいません!』 「そうかよ!」 ブチッと康太は電話を切った 間髪入れず康太の携帯が鳴り響いた 『切るなよ!』 「知り合いじゃねぇんだろ?」 『一度言ってみたかったんだよ んとによぉ‥‥本当に切りやがるとは想わなかったわ』 「貴史、お前何処にいるのよ?」 ブツブツ言う兵藤は捨てて、康太は本題に入った 『俺?俺は家にいる!』 「そうか!なら逝くわ!」 『えー??えええええー?』 叫んでる兵藤を他所に康太は携帯を切った 「んじゃ取り敢えず貴史んちに逝くとするか!」 康太が謂うと子供達は応接間から出て来て 「「「「「「わぁーい!」」」」」」 と喜んでいた 子供達は皆、ふわふわのフードつきのコートを着せられ手袋をしてマフラーして完全防備だった 康太は応接間に顔を出すと一生が「子供達、ずっと待ってたんだから逝くぞ!」と康太を急かした 「オレのコート、持ってきてくれよ!」 「面倒だから俺の着ろよ!」 「マフラーもある?」 「おー!用意しといた」 準備万端、一生は自分の防寒用品を総て持って来ていた 康太は一生の防寒着を着てマフラーをして手袋を着けた 「んじゃ逝くとするか!」 母が謂うと子供達「「「「「「おー!」」」」」」と歓声を上げた 玄関で靴を履いて外に出る 一区画裏の兵藤さんちへ向かう 子供達はスキップして雪の降る道を歩いていた 一生は康太に「滑んなよ!」と注意を促した 「解ってるって!」 そう言いツルッと滑るのが康太だった 「うわぁ!」 バランスを崩す康太を支えてやっとこさ兵藤さんちへ到着 家の前には兵藤が出迎えてくれていた 流生は兵藤を見付けると「ひょーろーきゅん!」と走った そして‥‥‥転んだ 泣きそうなのを我慢する そして自分で立ち上がる 康太は自分で立ち上がった流生に「よし!偉かったな!」と言い冷たくなった手を擦った 兵藤は「大丈夫かよ?」と心配そうに問い掛けた 「大丈夫だ!オレの子は丈夫で逞しいかんな!」 「んとによぉ‥‥そんな所は母に似なくても良いのによぉ‥‥」 雪の降る日に転んで‥‥足を5針縫った過去持つ康太だった その修羅場に兵藤はいて、泣きながら助けを求めた過去を持つ 「うるせぇ貴史‥‥」 「雪が真っ赤に染まるシーンを何度見た事か‥‥」 兵藤はボヤく 「うるせぇ!早く子供達に用を聞きやがれ!」 康太を虐めるのを止めて、子供達に用件を聞く 「はいはい!了解!」 兵藤が仕方なく謂うと 「ひょーろーきゅん、はいはいちど!」と大空が注意をした 兵藤は大空を見て‥‥何処となく口煩い執行部部長を垣間見た 「はい!手厳しいな伊織にそっくりやん‥‥」 兵藤の言葉に一生と康太は笑った 翔が前に出ると兵藤にペコッとお辞儀をした 礼節を重んじる真贋らしき態度に兵藤は優しく笑って翔を見た 「ひょーろーきゅん!いっしょにゆきらるまをつくってください!」 翔が謂うと兵藤は「御安い御用だぜ!」と快諾してくれた そう言うかと既に兵藤の手には雪かき用のスコップを持っていた 何十年ぶりかのどか雪だった 兵藤は子供達を玄関横から中庭の方へと回らせた 芝生の上の雪はかなり積もっていた 「んじゃ、作るとするか!」 「「「「「「あい!」」」」」」 6人の兄弟は全員片手をあげてお返事をした 「めちゃくそ可愛いやんか!」 兵藤はそう呟き笑った 兵藤が雪を雪かきスコップで積み上げて逝くと、子供達はそれを園芸用のスコップでペタペタ固めた それを手伝って一生と康太も固める 黙々と作業する 音弥はずっと雪やこんこんの歌を歌っていた 今度は替え歌じゃなく、歌っていた 二時間ちょいかけて立派な雪だるまが出来上がった 外から楽しそうな声が聞こえて兵藤美緒は声のする方まで近寄った 窓の外で康太の子と仲良く雪だるまを作っている息子を見掛けて美緒は夫の部屋まで向かいクローゼットを開けた もう使っていないシルクハットとマフラーがあった筈‥‥ 美緒はそれを探して見付けると応接間を突っ切って外へと窓から出た 「貴史、立派な雪だるまが出来たな その雪だるまのアイテムだ!」 美緒はそう言いシルクハットとマフラーを息子に渡した 美緒から受け取ったアイテムを雪だるまを飾る ミカンの目と人参の鼻 手にはホウキを持たせ 頭にはシルクハットを被せた 首にはマフラーを巻いて 立派な雪だるまが出来上がった 流生は「みおたん」と美緒の名を呼んだ 「何かしら?流生」 子供達は一列に並んで 「「「「「「あいがとー!」」」」」」とお礼を述べた 「あら、可愛い」 美緒の目尻は下がりっぱなしだった 「ひょーろーきゅん!」 音弥が名を呼ぶと 「「「「「「あいがとー!」」」」」」と全員でお礼を述べた 「何か照れるって」 兵藤は改めて謂われると照れると感じていた 烈は雪だるまにベターッと抱き着いていた 流生が「れちゅ!」と引っ張るけど烈は動かなかった 康太は烈を抱き上げ 「熱が上がったか?」と額に手を当てた 烈の額は触るとジュッと火傷しそうな程に熱かった 熱があるから冷たい雪だるまで冷やしていたのだ 「烈、おめぇはもう帰らねぇとダメだな」 康太が謂うと烈は「やら!」と泣き出し 「にーにーといりゅー!」 と言い駄々を捏ねる 頑固一徹、己を曲げない烈だった 兵藤は「烈、熱出してるのかよ?」と尋ねた 「あぁ、でも寝ちゃぁいねぇんだよコイツは!」 康太が謂うと美緒は烈の傍に行き 「それはいかぬな! 我が帰るまで見ててやろうぞ! だからお主達は写真を撮りまくって楽しんでおるとよい!」 と言い烈を抱き上げた 「重いなお主‥‥来年幼稚舎の筈であろうて‥‥」 と苦笑しつつも烈を部屋の中へと連れて行った 兵藤は「んじゃ、写真を撮るとするか!」と言いカメラを取り出した カメラを三脚にセットして、自動撮影のボタンを押した 雪だるまを囲む様にして子供達と兵藤と一生と康太が並んでいた 皆、笑って写真に写っていた 一頻り写真を撮り 雪合戦をしたりして遊びまくると子供達は眠そうな顔をした 康太は「今日はこの辺だな、ありがとうな貴史」と礼を述べた 一生が烈を取りに行き 皆で兵藤の家を後にした 太陽は「たのちかったね」と母に言った 大空も「おちゃちん、くれりゅかにゃ?」と沢山撮った写真をくれるか心配していた 「大丈夫だ大空、きっとくれるさ」 康太が謂うと大空は嬉しそうに笑った 流生は「れちゅ‥‥らいじょうび?」と弟の心配をしていた 一生に抱っこされた烈は苦しそうな寝息をたてて眠っていた 一生は「大丈夫だ!直ぐに良くなるさ」と言った 本当に‥‥そうであって欲しいから、そう言った 飛鳥井の家に帰り応接間へと向かう 烈は毛布にくるまれてソファーの上で眠っていた 皆の所に寝かせないと直ぐに起きて泣き出すからだ 音弥は烈の横で雪やこんこんの歌を歌ってやっていた 兄弟達も弟の回りでワンとにゃん達と遊んでいた 外は静かに雪が降っていた 榊原は雪の為、電車に乗って出勤したから帰りは遅いだろう 何度も何度も電話があった 『早目に仕事を上がります 烈は大丈夫ですか? 皆は怪我などしてませんか?』 雪が降れば外で遊びたがるのを見越しての言葉だった 父の心配を乗せて 雪は今も降り積もっていた そんな静かな雪の日の物語 白い白い綿毛が降り積もる日の一ページ

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