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第85話 バレンタインラプソディー
康太の子供達を寝かせ着けるのは緑川慎一の仕事だった
この日も何時もの様に子供達を寝かせる為に子供部屋に入っていた
子供部屋には行く行くは一人一部屋の個室になる予定だった
一人で眠れる様になったら、今寝ている部屋は勉強部屋になり、勉強部屋を取り囲む様にして六部屋作られていた
今はまだ家具とかは入ってはいないが、子供の成長は早いから、そのうち寝かせなくても寝るようになるのだろう‥‥
慎一はそんな事を考えて少しだけ寂しさを覚えていたが‥‥
「ちんいち!」と名を呼ばれ我に返った
名前を呼んだのは流生だった
何処か弟に似た顔立ちをした子は凛凛しい眉毛をキリッとさせて立っていた
慎一は「何ですか?」と流生に問い掛けた
「あにょね、もうじき ばれんたいんでしょ?」
流生はニコッと笑って兄弟を見た
音弥が「れね、ちんいちにたのみがあるにょ!」と続けた
「頼みですか?何ですか?」
慎一は子供達に問い掛けた
大空が「あのね、ちょこ、つくりたいにょ!」とチョコを作りたいと訴えた
「チョコ‥‥ですか?
好きな子に渡したいのですか?」
慎一が問い掛けると太陽が
「とぅちゃとかぁちゃとじぃちゃとばぁちゃ、じぃたんとばぁたん」と好きな人の名前を上げた
流生も「えーちゃとしょーとあちゅにゃと‥‥えーっと‥‥えーっと‥‥」と悩んでいた
翔は「だいしゅきなひとにあげたいのれす!
みんにゃにくばりたいのでたくさん、ちゅくりたいのれす!」と訴えた
大好きな人皆にあげたいのだと子供達は訴えた
音弥が「たかなちやじんにょやおーぎゃ、ほかにもたくちゃんあげたいにょ!」と好きな人が沢山だから沢山作ってあげたいのだと訴えた
翔が「わかだんにゃにも‥‥」と謂うと流生は頷いて
「あしゃみにも‥‥あげたいにょ」と言った
若旦那にあげたいと翔が話をふったからこそ言えた台詞だった
慎一は「解りました!皆で沢山チョコを作りましょう!皆を驚かせる為にチョコを作る場所を探すので待ってて下さい」と前向きは言葉を紡いだ
「やくちょく?」
流生は約束してくれるのかと問い掛けた
「約束します」
そう言い指切りげんまんを6人の子とした
慎一と子供達との初めての約束となった
慎一は1ヶ月だけスイミングスクールの近くのレンタルルームを借りる事にした
スイミングスクールの帰りにレンタルルームに行きチョコを作る
家族に内緒でやるには、それしかなかった
だが家族に内緒と言っても‥‥帰りが遅いと心配されるから康太と玲香に子供達の意向を告げて、チョコ作りに励みたいと報告した
康太は慎一が借りたレンタルルームの家賃を払うと言ってくれたが、慎一は「俺も楽しみにしてる事ですから」と言い康太に支払わせなかった
その代わりチョコの差し入れは受ける事にした
沢山の人に配るならチョコは多い方が良いからだ
榊原からは梱包の箱と包装紙を差し入れて貰った
一生からはリボンを差し入れて貰った
その時犬でも食べれるチョコを頼まれた
作れるかは解らないが‥‥リボンの代償として引き受けた
慎一はチョコを湯煎していた
湯煎したチョコを子供達が小さいお玉ですくい流し込んでいた
火傷しないように細心の注意をはらい、作業は続けられた
プレゼントする人によってチョコの糖度は変えられていた
「これは瑛太義兄さんのです」
型にチョコを流し込みながら流生は
「いろ、くろいね‥にぎゃそうーね」とボヤいた
「瑛義兄さんは甘いのは食べませんからね」
「ちょーなにょよねぇ」
世間話してるオバンのように流生は納得しながらチョコを注いでいた
注いだチョコを冷蔵庫に持って行くのは大空の仕事だった
冷えたチョコを冷蔵から出すのは音弥の仕事で
割れないようにチョコをシリコンの容器から取り出すのは太陽の仕事だった
手先が器用な太陽ならではだった
箱詰めは皆でやる事にした
箱に入れて包装してリボンを結ぶ
ある程度チョコを取り出すと箱に詰めて
皆で頑張って包装した
リボンを結ぶのも悪戦苦闘
男の子はリボンとは無縁なのだ
ついつい流生は「りゅーちゃ‥‥いっちょーりぼんしない‥‥」とボヤいた
一生リボンしない‥‥なんと謂う台詞なんだと笑いつつ慎一はなるべく子供達の力でやらせる事にした
ハサミなど刃物を使うのは慎一がやり触らせない様に配慮はなされていた
結んだリボンを整えてパチンッとハサミで綺麗に切る
すると兄弟はパチパチと手を叩いて喜んだ
音弥は「てまひまかけてぇ~あいつめてぇ~」と歌っていた
「‥‥それ、何の歌ですか?」
慎一は音弥に問い掛けた
「これね、おとたんのちゅくったうたよ」
慎一は絶句した
歌も作るのですか?君は‥‥
ONE OK ROCKとか[Alexandros]とか聞いてるだけでもビックリなのに‥‥
やっぱし康太の子はひと味違うなと想った
1ヶ月掛けて全員分のチョコを作る
この日はラストのチョコを作る日だった
慎一は「今日でチョコ作りは終わりです!頑張って最後のチョコを作りましょうね」と声をかけた
翔は「きょうがさいごでしゅか?」と少しだけ淋しそうだった
最後のチョコ
とぅちゃとかぁちゃへのチョコを完成させて
1ヶ月掛けたチョコ作りは終わりを告げた
後は当日を迎えるだけの事となった
慎一は、実に段ボール3箱分のチョコをトランクに詰めこみ
レンタルルームの返却をすべく最終点検に余念がなかった
子供達は一生にお迎えに来て貰い、帰って行った
飛鳥井の家では子供達がレンタルルームに行ってる時がチャンスとばかりにチョコ作りに余念がなかった
榊原がチョコを湯煎し生クリームとお砂糖をたっぷり入れて混ぜていた
湯煎されたチョコを可愛いキャラモノの型に入れては冷凍庫に入れていた
榊原は「僕は君にチョコを作ります!愛を込めて君だけに贈りますからね」と甘い囁き
「おー!あれ?これ?難しいな‥‥」
シリコンの型からチョコを取り出すのに悪戦苦闘する康太は榊原の甘い囁きなど聞いてなかった
「康太、聞いてます?」
ついつい確認してしまう‥‥
「おー!聞いてんぞ!
でも返事は期待するな、手元が狂うかんな」
「愛してますよ奥さん」
「オレも愛してんぞ青龍
おめぇだけを未来永劫愛してる」
出血大サービスだった
「僕もです奥さん
君だけを未来永劫愛してます」
チョコが蕩け落ちそうな程に甘い囁きだった
康太はチョコ溶かしてるしまぁ良いか‥‥と思い作業に夢中になっていた
チョコをシリコンの容器から取り出したら箱に綺麗な包装紙をシュレッダーに掛けて切った様な紙を敷いて、その上にチョコを並べる
湯煎を終えた榊原が包装紙を自在に扱い包装していく
その手の器用さに康太はうっとりと魅入っていた
「おめぇの手、綺麗だな」
「僕の手だけしか好きじゃないのですか?」
榊原は笑って康太の唇を指で撫でた
「伊織の総てが好きだぜ
青龍の総てを愛してるかんな!」
「このまま‥‥ベッドに行きたいです」
「子供達が帰って来るまでに仕上げねぇと見付かるやんか‥」
「なので今は我慢します」
榊原はそう言いピッチをあげた
子供達が帰って来る前にリボンを結ぶまでして完成させると榊原は自室の冷蔵庫にチョコを持って行き冷やしに行った
それと同時に子供達が帰って来た
バレンタインデー当日の夕方
子供達はチョコを配りに歩いていた
まずはトナミ海運の戸浪海里と亜沙美兄弟へ配達
トナミ海運には慎一が流生を連れてやって来ていた
戸浪には事前に流生が訪ねる事を告げておいた
受付へと向かい
「ちゅいません!」と流生が受付嬢に声をかけた
「飛鳥井流生君ですか?」
受付嬢が問い掛けると流生は手をあげて
「あい!そうれす!」と答えた
「本当に可愛い‥‥はい、これどうぞ!」
受付嬢は流生にお菓子の包みを渡すと流生はそれを受け取って「あいがとう!」とペコッとお辞儀をした
礼儀正しさを日々教えていればこそ出来る行為だった
「社長が心待にしておいでです
どうぞ、直通のエレベーターでどうぞ!」
受付嬢が謂うと直通エレベーターの前に警備員が立っていて慎一と流生が向かうとエレベーターのドアを開けてくれた
警備員は慎一と流生を乗せると「このまま最上階へ参ります」と言い直通ボタンを押した
エレベーターはどの階に止まる事なく最上階へと昇って行った
最上階に到着するとエレベーターは止まりドアが開いた
ドアが開くと戸浪社長の秘書の田代が待ち構えていた
「慎一、流生いらっしゃい」
田代は流生を抱き上げると「うっ!重くなりましたね」と言った
慎一は「康太の子の中でも流生は大きいは方ですからね」と笑って言った
「一番大きなのは誰ですか?」
「翔です、彼は体躯もガッシリしてる分、体重もありす」
「一番軽くて小さいのは?」
「音弥です、彼は足の手術をして体重を支えられる様になって来ましたが、それまでは食事制限がありましたから‥‥かなり軽いです」
子供達はそれぞれ違いがあった
田代は「脱臼と骨の変形でしたね」と悲しそうに言った
「ええ。でも今は大丈夫です」
「それは良かった」
田代はそう言い社長室のドアを開けた
「社長、お待ちかねの流生です」
田代が謂うと戸浪は立ち上り流生の傍まで逝くと抱き上げた
「うっ‥重い‥‥」
抱き上げて高い高い‥‥してやろうと想っていたが‥‥断念
戸浪は流生の成長をこんなにも感じていた
田代は「でしょ?俺も少し前に痛感した所です」と苦笑して言った
「田代、煩いです」
戸浪は悔しそうに謂うと、流生の手を取りソファーに座らせた
流生は「ちんいち、ちょこ、ちょーらい」と本来の目的を告げた
慎一はチョコを流生に手渡した
「あい、これ、かんちゃのきもちれちゅ!」
流生は受け取ったチョコを戸浪に差し出しそう言った
「感謝の気持ち‥‥ですか?
ありがとう‥‥とても嬉しいです流生」
戸浪はチョコを受け取り‥涙が出そうになり困った
こんなにも良い子に成長して‥‥
「わかだんにゃ、あにょね、りゅーちゃ あちゃみにももってきたにょね」
流生はそう言い物凄い笑顔で笑っていた
「亜沙美に‥‥くれるのですか?」
流生の首には生まれた日に渡されたネックレスがキラキラ光っていた
「田代、亜沙美は隣の部屋にいます‥‥流生を連れて行って下さい」
戸浪はそれだけ謂うだけで精一杯だった
田代は流生の手を取ると
「なら田代のおじちゃんが連れて行って差し上げますとも!」と少しだけ茶化して流生を連れて行った
戸浪は流生を見送って慎一に
「ありがとう‥‥」と言葉にした
「今回のチョコは子供達の発案で来てます
子供達は親しかった人達全員にチョコを作りました
康太は‥‥今回は知らない所で子供達がやり始めた事です」
「自発的に子供達が?」
「そうです、日頃の感謝を伝える日だと康太が言ったので、バレンタインデーはそう言う日だと思ってるみたいで‥‥本来の愛の告白の日とは違いますけど‥‥ね。」
「良い子に育ちました
そして心も体躯も育ってるのを感じました」
戸浪はそう言うと目頭を押さえた
ジナル二次創作
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自分の作品
超 短編集 ( ˘⊖˘) 。o④
第3章 バレンタインラプソディー
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服社長室のドアを田代がノックすると戸浪海里の妹の亜沙美がドアを開けた
「どうしたのです?田代」
亜沙美は流生が来るのを知らなかった
「お客様です」
そう言い田代は流生を部屋の中へ入れた
「では後程参ります」と言い田代はドアを閉めた
亜沙美の前に流生が立っていた
凛凛しい眉は父さん譲りで‥‥
目元は兄の子供の頃の様にクリッとして大きく‥‥
自分の形跡を垣間見ていた
どちらの良い所を取ったらこんなに凛凛しい顔をした子になるのか?
雰囲気は父親に似て‥‥
亜沙美は「流生」と名を呼んだ
何時か‥‥流れるように一生へと辿り着ける様に飛鳥井康太が願いを込めて着けた名だ
「あちゃみ、これ、かんちゃのきもち!」
流生はそう言い綺麗にリボンをされた箱を亜沙美に差し出した
「くれるの?私に?」
「あい!あちゃみ、らいすきらから、かんちゃのきもちをこめたにょ!」
「流生‥‥ありがとう‥‥」
亜沙美はそう言い流生の差し出す箱を受け取った
そして箱を胸に抱き‥‥涙を流した
優しい子に育ってる
こんなにも優しい子に‥‥
体躯も大きくなった
こんな風に我が子の成長を目に出来るなんて‥‥
亜沙美には信じられない気持ちで一杯だった
母とは名乗れずとも、我が子がどうやって生きているのかは知りたい
それが母の想いだった
こんなにも優しい子に育ってる
亜沙美は堪えきれなくなり泣いていた
流生はその涙を拭った
ズボンのポケットからハンカチを取り出すと
流生の目線までしゃがんでいる亜沙美の涙を拭った
「にゃかにゃいの!
いいこらから、にゃかにゃいのね」
流生はそう言い亜沙美の頭を撫でた
弟がいると聞いた
きっとこの子はそうやって兄弟や弟の世話を焼いているのだろう‥‥
「かなちぃにょ?あちゃみ?」
「うんん、嬉しいのよ流生
流生がチョコをくれたから嬉しくて泣いてるの」
「また、ちゅくってくるから、なかにゃいで‥‥あちゃみ」
「ごめんね流生‥‥」
「あちゃみ、りゅーちゃ‥‥ちあわせだから‥‥」
「流生‥‥」
「りゅーちゃね、めちゃくちょしあわせよ」
「そうなの‥‥良かったわ」
「らからね、あちゃみもしあわせになりゅのね
たくちゃん たくちゃん しあわせになりゅの」
「流生‥‥」
亜沙美は流生を抱き締めて堪えきれずに泣いた
流生はずっと亜沙美の頭を撫でていた
康太‥‥ありがとう
こんな風に我が子に逢わせてくれて‥‥
本当にありがとう‥‥
亜沙美は涙を拭くと立ち上がった
「流生、ありがとう
今日の記念に写真、撮らせて貰って良い?」
「あい!」
流生は手をあげて快諾してくれた
亜沙美は引き出しからカメラを取り出すと、流生にレンズを向けた
レンズの向こうの流生はピースを出して笑っていた
その笑顔は‥‥一生にそっくりで‥‥
亜沙美はその笑顔をカメラに納めた
何枚か写真を撮ると亜沙美は「ありがとう」と流生にお礼を言った
「流生は誰と来たの?」
「ちんいち!」
「なら慎一君を待たせてるから、社長室まで行こうか?」
「あい!」
返事をすると流生は手を差し出した
亜沙美は流生の手を取り、手を繋いだ
とても暖かいぬくもりが亜沙美を包み込んだ
「流生の手はとても暖かいのね?」
「ちんいちとてをちゅにゃいできたのね」
だから手が暖かいのだと流生は言った
「そう、大きくなったわね」
もうちゃんと会話も出来る
「りゅーちゃね、とぅちゃとかぁちゃがらいすきなのにょね
ちんいちもかじゅもそーちゃもはやちょもらいすき!」
かじゅも‥‥
あの人はどんな想いで流生の傍にいる道を選んだのだろう‥‥
亜沙美は胸がきしきし傷んだ
あの人はもっと辛いのだろう‥‥
副社長室を出て廊下を歩く
社長室のドアの前まで来たら‥‥お別れた
流生は社長室のドアの前まで来ると
「あちゃみ、またあえりゅ?」と問い掛けた
「また逢えるわ流生」
「にゃら、またあいにくりゅね!」
「流生‥‥」
愛してるわ‥と言う言葉は飲み込む
絶対に本人に向けて言えない言葉だから‥
亜沙美は社長室のドアをノックした
すると戸浪が自らドアを開いた
「もう‥‥良いのですか?」
戸浪は問い掛けた
「ええ、兄さん‥‥」
戸浪は流生の手を取ると「じゃ流生、慎一が待ってますよ」と言った
流生は戸浪と手を繋ぎ亜沙美にバイバイした
戸浪は「今回のバレンタインデーは子供達の発案で康太は関与してないそうです‥‥
流生は私とお前に心からのチョコを持って来てくれたのです」と告げた
「兄さん‥‥」
「流生の想いです」
亜沙美は笑顔で流生に手を振った
そして自室へと早足で向かうとドアを閉めた
流生‥‥
流生‥‥
我が子の想いを感じて亜沙美は泣いていた
総て知れば許してくれないのだろう‥‥
それは解っている
流生を捨てたのだから‥‥
亜沙美は何時までも流生から貰ったチョコの箱を抱いて泣いていた
母なれば‥‥
我が子を思わぬ日はない‥‥
誰よりも我が子の幸せを祈っている
それだけを祈っているのだった
流生を連れて社長室に戻ってくると流生は慎一の傍へと走った
「ちんいち!ちゃんとわたしぇた!」
そう言い報告
慎一は「良かったですね」と謂うと立ち上がった
「では行きますか?」
「あい!ちんいち きょうはあいがと」
ちゃんと礼を述べる
「お役に立てて此方こそ光栄ですよ流生」
「にゃら、たかなちのとこへいくにょ!」
「次は小鳥遊ですか?神野も分も持って来てるので神野にも渡すのですよ」
「ちかたにゃい!」
「どんな言い分ですか?それは?」
慎一がボヤくと戸浪は爆笑した
「流生、もう大人顔負けですね」
「流生は力持なので、多分‥‥総て理解してやってるのだと想います」
この言葉には戸浪は唖然となり固まった
「総て‥‥理解しているのですか?」
「多分‥‥康太の子は全員、理解しているのだと想います
それが証拠に飛鳥井に来てる時、流生は若旦那には距離を取ってるでしょ?」
「謂われてみれば‥‥流生は来ませんね」
「この子達は皆、冷静に見極めて考えて行動しているのです
時々のニーズに合わせて行動しているのです
今日は‥‥兄弟の誰もいない
だから流生は素直になれているのです」
慎一はそろそろ告げる頃合いだと想い、戸浪にそう言った
「流生‥‥(総てを)解っているのですね」
戸浪は想わず呟いた
流生は戸浪を視た
真っ直ぐ、此方がたじろぐ程に真っ直ぐに視た
そして「ちんいち!はやきゅう!」と急かした
慎一は「それでは小鳥遊の所まで流生の分担なので失礼致します」と先に行く用事を告げた
背を向けて出て行こうとする流生に戸浪は
「流生!」と声をかけた
流生は背を向けたまま
「わかだんにゃ、らいじょうぶ!
りゅーちゃはまたあいにくりゅから」と言った
「また来て下さいね」
「こんろはけーきたべりゅからね」
「ええ。そうして下さい」
流生は振り向きもせず片手を上げて手を振った
そんな所は本当に飛鳥井康太にソックリだった
社長室を出ると田代がエレベーターまで見送りに来てくれた
エレベーターのボタンを押し、エレベーターが来るのを待つ
流生はクルッと振り返ると手を振った
「またねぇ、あちゃみ」
そう言いずっと手を振っていた
田代は副社長のドアの方を向くと、亜沙美がドアを開けて流生を見送っていた
流生はエレベーターが来てドアが閉まるまで手を振っていた
流生達がいなくなると田代は亜沙美に
「流生‥‥何もかも知っているそうです」と告げた
「え‥‥(総てを飛鳥井が)話したの?」
「彼は聞かされずとも知っているそうです」
女神だった自分と赤龍だったあの人の力を受けて流生は生まれた
力がない筈などないのに‥
総て知って『またねぇ!』と言ってくれるのだ
亜沙美は「本当に優しい子に育ちましたね」と誇らしげに言った
田代は「本当に‥‥」と言葉を詰まらせた
貴方がどんな大人になるのか?
見守って行けたらと亜沙美は願った
バレンタインデーの日にチョコを配るには、あまりにも沢山の人に作りすぎたので
配るのは兄弟で役割分担した
戸浪海里と亜沙美、そして小鳥遊と神野は流生が
久遠医師と看護婦の方々には太陽が
神楽四季と兵藤貴史は音弥が
加賀直人と相賀和成は大空が
脇田誠一は烈が
佐野春彦と長瀬匡哉は翔が配りに行く事になっていた
飛鳥井の家族と榊原の家族は今夜、飛鳥井の家に来てもらって全員で渡す事になっていた
音弥と翔は隼人と聡一郎に連れられて桜林学園に来ていた
音弥が桜林学園の学園長の神楽四季とOB会で桜林にきている兵藤貴史に渡す為に
翔は桜林の教師の佐野春彦と長瀬匡哉に渡す為に
桜林学園へ来ていた
佐野と長瀬は幼稚舎にいる兄弟の為に良く様子を見に来てくれていた
何かあると必ず声をかけてくれ解決に手助けしてくれていた
だからこそ、日頃の感謝を伝えるべくチョコを作ったのだ
音弥は「かけゆ!」と名を呼んだ
翔は「おとたん!」と決意の瞳を向けた
音弥に着いて行くのは聡一郎
翔に着いて行くのは隼人
二人は学園に着くなり別れて配る事となった
聡一郎は携帯を取り出すと「何処にいます?」と問い掛けた
いきなりコレかよ?と想いつつ兵藤は
『学園長室に学園長といるぜ!
その方が一石二鳥だからいろと言ったのはおめぇじゃねぇかよ?』とボヤいた
「それは良かったです
探す手間は省きたいですからね!
さぁ、音弥、行きますよ!」
電話を切ると聡一郎は目的地まで向かった
聡一郎と手を繋ぎ音弥は楽しそうに歌を歌っていた
学園長室まで行くとドアをノックした
ドアを開けたのは兵藤だった
兵藤を見付けて音弥は「ひょーろーきゅん!」と嬉しそうに抱き着いた
聡一郎は何故か子供に大人気の兵藤に
「何故この男がモテるのですかね?」訝った
兵藤はたらーんとなったが音弥を抱き上げて
「帰りは一緒に帰ろうぜ!」と言った
「あい!いっちょにいきょうね!」
と音弥は楽しそうに返した
ソファーに座ると音弥は手にした袋からチョコが入った箱を取り出して神楽四季に差し出した
「あい!ちき、これ かんちゃのきもち!」
神楽は「感謝の気持ち‥‥ですか?嬉しいです」と言いチョコを受け取った
音弥は兵藤にも「ひょーろーきゅん!かんちゃのきもち!」と言いチョコを渡した
兵藤は「めちゃくそ嬉しいよ音弥!」と感謝の気持ちを口にした
「これね、みんにゃでつくったにょのね
みんにゃでかんちゃのきもちいれたにょ!」
「兄弟全員の感謝の気持ちが入ってるのかよ?
嬉しいに決まってるやん!
ありがとうな音弥!
勿論、後で全員にも言うからな」
音弥嬉しそうに笑っていた
神楽は目頭を押さえて感激していた
その頃、翔は隼人と共に生活相談室を目指していた
隼人は携帯を取り出すと
「春彦、今から行くのだ!
長瀬と共に生活相談室にいるのだぞ!」と念を押した
『解ってる!三階の生活相談室だぞ?』
「解ってのだ!翔と伴に行くのだ」
そう言い携帯を切ると翔と共に階段を上がり始めた
途中、在校生が隼人を見付けて騒いでいた
その横に威厳のある子供に‥‥皆黙って遠巻きに見送る事となったが‥‥
二人が去った後「あの子‥‥悠太先輩に似てたね」と悲しげに言った
「悠太先輩をもっと厳しくした感じだね」
二人は今は通ってすらいない先輩を想った
三階の生活相談室に辿り着くとドアをノックした
ドアを開けたのは長瀬匡哉だった
「久しぶりだね隼人
翔君も久しぶり」
「久しぶりなのだ長瀬」
「ながせせんせー、おひしゃしぶりです」
翔はきちんと礼をして挨拶した
「翔は年の始めに一族に御披露目致したのだ」
と隼人は説明した
次代の真贋として一族総勢に御披露目したと言う事だった
佐野が「入れよ!」と言うと隼人と翔は部屋の中へと入って行った
翔は佐野を目にすると深々と頭を下げ
「おひしゃしぶりです」と挨拶した
佐野は「新年に御披露目をなさっとか?
おめでとうございます」と祝辞を述べた
「あいがとうございましゅ!
かけゆは、じだいのちんがんなりまちた」
友に似た顔で翔は笑っていた
その小さな肩には友よりも重い重責が掛かっているのだった
「先日、総代からお聞きしました」
「そうれすか、えーちゃは‥‥いいまちたか‥」
佐野は辛くて仕方がなかった
「えーちゃは‥‥かけゆにみえてるのか?ききまちた‥‥」
「何と答えられたのですか?」
佐野は信じられない想いで‥‥問い掛けた
「みえることなれば‥‥といいまちた」と答えた
佐野は絶句した
飛鳥井瑛太の事を父親だと視えていたと謂うのか‥‥
佐野は「そうでしたか‥‥それよりも今日はどのような用件でいらっしゃったのですか?」と用件を尋ねた
隼人は佐野に『翔が用があるから行くのだ!』と電話して来ただけだったから、どんな用件かは聞いてはいなかった
翔は手にしたチョコの箱を出して
「ひぎょろのかんしゃのきもちれす!」
と言い佐野に渡した
佐野はチョコを受け取り
「俺にですか?」と尋ねた
翔は頷いた
佐野がチョコを受け取ると
「ながせせんせーにも、ひぎょろのかんしゃのきもちれす!」と言いチョコを差し出した
長瀬は「オレにもですか?」と信じられない風に呟いた
「このちょきょはみんなにゃでつくりまちた」
と翔は兄弟全員で作ったと明かした
長瀬は「ありがとう」と言いチョコを受け取った
隼人の電話が鳴り響き、隼人は電話に出た
『隼人ですか?どうですか?首尾良く行きましたか?』
聡一郎からの電話だった
「今渡しのだ」
『そうですか、ならば全員で学園長室に来て下さいとこ事です』
「解ったのだ、今行くのだ」
と言い電話を切ると
「学園長室に行くのだ!」と告げた
ならば最初から学園長室にしとけばいいものを‥‥と隼人は想った
佐野が翔と逢うのに学園長室は嫌だと言ったからわざわざ相談室に行く事になったのだった
全員で学園長室へと行くと音弥は‥‥寝ていた
聡一郎は隼人に「遅いから寝てしまいました」と‥‥言い掛かりにも似た事を言った
「聡一郎、それは言い掛かりなのだ!」と隼人はやはり反撃に出た
聡一郎は「ちゃんと渡せましたか?」と尋ねた
翔は「あい!」と隼人に変わって返事をした
音弥が起きるのを待ってて帰宅する事となったが、隼人や聡一郎は久しぶりに寛いだ時間を送れて得した気分だった
一生は太陽と共に飛鳥井の記念病院に来ていた
院長にアポイントは取っていた
受け付けに声を掛けると院長室に久遠はいるとの事で、一生は太陽と共に院長室へと向かった
「かじゅ、いたいちとたくちゃんいるにょね」
と診察を待つ患者を見て悲しそうに言った
「だな、早く良くなると良いな」
「ちょーねぇ!」
一生と手を繋ぎ太陽はそう言った
院長室に辿り着きドアをノックすると久遠がドアを開けてくれた
「用があるって謂うから待ってたぞ!」
久遠はドアを開けるなりそう言った
太陽は久遠に重そうに持ってた紙袋2つを
「はい、どうじょ!」と言い渡した
久遠は紙袋を2つ渡されて
「え?俺にくれるのか?」と尋ねた
太陽は「こっちのかみぶきゅろは、よちやすとしじゅこ、たくちょとたくみにあげゆ、かんしゃのきもちのちょこでぇしゅ」と言い説明した
袋に渡す人の名前、久遠医師、飛鳥井義恭、志津子、拓美、拓人と書かれてあった
久遠は「俺等に‥‥ですか?」と信じられない想いで問い掛けた
一生は「このチョコは子供達が言い出して作ったチョコなのです
子供達が送りたい人の名前をあげて作りあげたチョコなので出来は良くないかも知れませんが、受け取ってやって下さい」と久遠に説明した
久遠は「ありがとう、家族に渡すよ今夜‥‥」と言った
太陽は「かけゆが、せんせー、こんややっちょかじょくにあえるねぇっていっちぇたにょ!」とチョコを口実に家に帰れとばかりの事を謂われて久遠は苦笑した
久遠は「‥‥翔かぁ、恐ろしいなアイツも‥‥」とボヤいた
御披露目の儀は義恭と志津子が見届けに逝った
とても立派な儀式でしたと言ってたのを覚えていた
太陽はもう一つの紙袋の説明を始めた
「こっちはねぇ、きゃんごふしゃんたちにあげゆにょね」と嬉しそうに言った
「え?看護婦達にくれるのですか?」
久遠は信じられない風に問い掛けた
一生は「小さいチョコですが皆に食べて欲しくて皆が作ってたので渡しておいて下さい」と伝えた
久遠は「ありがとう」と礼を言った
太陽は「かえりゅにょよ、せんせー」と念を押した
「あぁ、解ってる絶対に帰って渡す」と約束した
忙しい久遠だから一生と太陽は早々に帰る事にした
大空は相賀和成と加賀直人と逢うべく、二人の事務所の中間地点のカフェに来ていた
大空に付き添ったのは康太だった
二人に電話をすると相賀も加賀も即座に快諾してくれて来てくれる事となった
康太は烈も連れていた
烈は脇田誠一の所にチョコを持って行く予定だからだ!
あまり待つ事なく相賀と加賀がカフェに到着すると康太は立ちあがり
「悪いな呼び出して」と謝罪の言葉を述べた
相賀は「君の呼び出しなら撮影中で来ますとも!」上機嫌で言った
加賀も「君の用以上に大切な用などありません!」と笑っていた
康太は「おめぇらを用があるのはオレの息子の大空だ!大空用件を言えよ」と大空を促した
大空は紙袋を開くと中から綺麗にリボンをした箱を2つ取り出した
相賀と加賀の前に一つずつ並べた
「ひごろのかんちゃのきもちれす!
うけとってくだちゃい!」
大空はそう言いニコッと笑った
その顔に加賀は「伴侶殿に似ておいでですね」と呟いた
康太は嬉しそうに「だろ?ここ最近本当に似て来てるんだ」と言った
横にいる烈は翔に良く似た顔で貫禄があった
相賀は「ありがとう大空、本当に嬉しいです。隣にいるのは烈ですか?」とチョコを受け取り笑って問い掛けた
「おう!烈だ、大きくなっただろ?」
康太が言うと加賀は「貫禄がありますね」と大人顔負けの貫禄にそう言った
「烈は脇田誠一にチョコを渡す為に連れて来てるんだ
今日はそれぞれ散らばってチョコを渡しに行ってるんだ」
と説明した
「皆に?配りに‥‥ですか?
子供達にチョコを貰える人間は幸せですね」
と加賀は羨ましそうに言った
「今回のバレンタイン企画は子供達が自分達で立ち上げたんだよ
チョコも慎一の手を借りたが、自分達で作って配っている」
康太が説明すると相賀は『それは凄いですね」と感心した
ならばなおさら、子供達にチョコを貰える人間は子供達の信頼を勝ち取った人間となるのだ
加賀は「光栄です大空、本当にありがとう」と感謝の気持ちを口にした
大空はメロンソーダを美味しそうに飲んで笑っていた
康太は大空がメロンソーダを飲むのを待って
「んじゃ、今度はゆっくり飲もうぜ二人とも!」と言い立ち上がった
大空も立ちあがり烈を椅子から下りる手伝いをする
こんな所は普段からやってなきゃ出来ない光景だった
烈は兄の手を借りて椅子から下りると大空と手を繋いだ
そしてペコッとお辞儀をした
「んじゃ呼び出して悪かったな
慌ただしくて本当に申し訳ねぇけど今日はまだ回らねぇといけねぇからこれで失礼する」
康太はそう言い相賀と加賀にありがとうと告げた
二人にはカフェで別れてタクシーに乗り込む
その足で脇田誠一の事務所兼自宅へと向かう
烈は手にチョコの袋を握り締めていた
烈にとったら大役を今年は担われたと謂う事になる
脇田誠一の事務所兼自宅へ到着するとタクシーには帰って貰った
料金を清算してタクシーから下りる
大空と烈の手を引いて康太は脇田の玄関のドアフォンを押した
ピンポンと鳴るとインターフォンからは「康太!!」と言う声が響き
直ぐ様ドアが開かれた
康太は勝手知ったるでスタスタ子供達と共に部屋の奥へと向かった
リビングに顔を出すと脇田は康太に飛び付いた
「逢いたかった康太!」
「久しぶりだな誠一
悠太の病院に通ってくれてたんだって?」
「彼は俺の弟子ですから、師匠が弟子を支えるのは当然ではないですか!」
「ありがとうな誠一」
「構いません、俺に出来る事をして彼を支えるつもりなのは今も変わらない!」
有難い言葉だった
大空と烈は上を見上げてじーっとその光景を見ていた
脇田はその瞳に気付いて康太から離れた
脇田は二人顔をじっと見て
「えっと伴侶殿に似た子が大空で、この貫禄の子が烈ですか?」とどれだけ勉強してるのよ?と言いたい位ズバッと当てた
康太は笑って「正解!」と答えた
「遅くなりましたが座って下さい」
と言い3人を椅子に座らせた
烈は紙袋をテーブルの上に置いて
「あげゆ」と言い笑った
ズキューンとその笑顔にやられた脇田は
「めちゃくちゃ可愛いじゃないですか!」と悶えた
脇田は紙袋を受け取ると中のチョコの箱を取り出した
大空が「ひごろのかんちゃのきもちれちゅ!」と烈に変わって言うと
「何か康太の子はどの子も確りとしてるなぁ‥‥」と羨ましそうに言った
脇田の子供達は今留学中だった
妻もそれにともないアメリカに滞在していた
だから悠太の病院に暇を見付けては見舞いに行っているのだった
そもそも悠太の入院の時期と脇田の子供の留学の時期が同じだったから康太は勘ぐった程だったのだ
悠太を決して一人の時間を送らせはしない
妻の美奈子はそう言ってくれた
『何も出来なくとも、そーちゃんを支える事は出来るから‥』
力強い掩護射撃があったからこそ、続けられる治療だった
「ありがとうな誠一」
「何を改まって謂われるか!
俺は俺にしか出来ない事をする
悠太は俺の最後の弟子だ
弟子の面倒を見るのは師匠の務めでしょうが!」
多くの人の想いが悠太を支えていた
脇田の他にも兵藤や戸浪や蔵持等、康太に所縁のある者は何かにつけてアメリカに行くと悠太を見舞ってくれ滞在中は片時も離れる事なく悠太の傍にいて支えてくれていた
脇田はチョコを手にして
「烈ありがとう
大空もありがとう」と子供達にお礼を言った
康太は「今夜はまだまだ家族に配るらしくて‥‥落ち着いていられねぇんだよ
慌ただしくて悪いな誠一」と謝罪した
「お気になさらずに!
また時間を作ってくれればそれでチャラにしますって!」
「ありがとう、ならな誠一」
「はい。またお逢いできる日を楽しみにしております」
康太は立ち上がると子供達と共に脇田の家を後にした
康太は脇田の家を後にすると電話を入れた
「終わったぞ!」
『今どこよ?』
電話の相手は一生だった
「誠一んち出た所」
『その近くに待機してたから直ぐに行く』
そう言い電話は切れた
然程待つ事なく一生の車は迎えに来てくれた
一生の車の中には誰もいなかった
一生は「隼人に電話したら『チョコを配り終えたので飛鳥井に帰って慎一の手伝いをするつもりです』と言ったからついでに連れてって貰ったんだよ」と内情を伝えた
康太は子供達と共に一生の車に乗り込んだ
その頃慎一は流生を連れて神野の事務所にいた
神野の事務所に顔を出すと神野晟雅と小鳥遊優が忙しそうに仕事をしていた
流生は「じんにょ、たかなち」と名を呼ぶと二人は仕事を止めた
神野は「流生!どうしたんだ?子役にでも出てみたくなったのか?」ととんちんかんな事を言って
小鳥遊は「流生、バカが移るので寄っちゃダメですよ!」と酷い事を口にした
神野は「おい!」と怒ったが聞く耳は持たなかった
流生は「じんにょ またたかなちおこらちぇたにょ?」と問い掛けた
「違げぇよ!怒らせてなんかねぇよ!‥‥多分‥‥」
神野は抵抗するように言った
慎一は「流生、時間がありません!あれを!」と急かした
流生はチョコの入った紙袋を小鳥遊に渡した
「ひごろのかんちゃのきもちれちゅ!」
そう言い手渡された紙袋を受け取り小鳥遊は、紙袋の中を開いてみた
綺麗にラッピングされた箱が二つ入っていた
箱には『神野』『小鳥遊』と名前が書かれていた
慎一は「小鳥遊さんはビター、神野さんはクリーミーで子供達が作ったチョコです」と個人の好みで子供達が作った事を告げた
小鳥遊は「ありがとう‥‥信じられない想いだよ」と言い自分の名前が書かれたチョコを手にして、神野の書かれたチョコを神野に渡した
神野もチョコを受け取り
「ありがとう流生、そして康太の子全員にありがとうって伝えねぇとな」と言った
慎一は「今日は夜に榊原の家族も飛鳥井に来るのでチョコを渡さねばならないのです
俺は食事の準備があるので慌ただしいですが、これで失礼します!」と言い帰る事を告げた
小鳥遊は「ありがとう慎一、今度飛鳥井にお礼を言いに行くから」と告げた
神野も「暇そうな時を狙って押し掛けるわ」と言った
「では皆がいる時連絡をいれます」
と言い慎一は流生と共に飛鳥井の家に帰った
家に帰ると兄弟が全員、仕事を終えて応接間に集まっていた
流生は応接間のソファーに座ると
「ちゅびはどうらった?」と問い掛けた
全員、親指を立ててグッジョブのポーズを取ると流生は全員の成功を理解して嬉しそうに笑った
翔が「らけどまだよるがあるにょ」とバレンタインは終わらない事を告げた
大変だったバレンタインデーも残すとこ僅かとなっていた
夜になり榊原の家族が飛鳥井に遊びにやって来た
だが真矢と清四郎だけで、笙と明日菜と子供達はいなかった
真矢が「笙がねインフルエンザになってね、美智瑠も匠も‥‥明日菜も全員インフルエンザで寝込んでるのよ」とインフルエンザの猛威を伝えた
清四郎が「私達は仕事があるから‥‥ホテルで寝泊まりして悪いでしたけど‥笙家族とは別行動を取ってたのです」とインフルエンザに掛かった時からホテルで寝泊まりしてたと告げた
康太は「んなホテルなんかで泊まらなくてもうちに来れば良かったじゃねぇかよ」と少しだけ淋しそうに言った
真矢は「今夜から泊まらせて戴くわね、清四郎も私もロケ地が遠かったってのもあるのよ
撮影も終わったしね、当分泊めて貰うわね」と現状を話した
客間にテーブルを並べて料理を並べてた
旅館の料理張りの豪華さに真矢と清四郎は「凄いわ!」と感激していた
料理とお酒でいい気分なった頃
子供達は立ち上り皆、紙袋を持った
流生は一生
音弥は隼人
翔は瑛太
大空は清四郎
太陽は真矢に
飛鳥井の家族にはその後に全員で渡すつもりだった
流生は一生に
「ひごろのかんちゃのきもちをきょめて!」と言いチョコを渡した
一生は信じられない想いで流生からチョコを受け取っていた
一生は「ありがとう」と流生に言った
流生は一生に「かじゅに‥‥わたちゅのはやっぱし‥りゅーちゃしかいにゃいもんね!」と言い笑った
「流生‥‥」
「りゅーちゃね、かじゅのきょとちゅきよ!
とぅちゃとかぁちゃとばぁちゃたちのじゅっとあとらけど」
「俺はずっと後で良い‥嫌われてねぇならそれで良い‥‥」
「きらいじゃにゃいよ」
流生はそう言い一生の耳に唇を近付け
「かじゅはとくべちゅにちすきよ」と告げた
そう言った後に悲しげな瞳をした‥‥
一生は驚いた瞳で流生を見た
すると流生は一生に背を向けて母の胸に飛び込んだ
康太は何も言わず流生を抱き締めた
次は音弥
音弥は隼人にチョコを渡した
「オレ様にか?」
隼人は信じられない瞳で音弥を見た
「はやちょにあげゆ!
おとたん、やちゃちぃから‥‥はやちょにあげゆ!」
「それは嬉しいのだ」
「はやちょ‥‥ちあわちぇになりゅのだ
ちょれが‥‥うちろにいるちとの、おもいなにょら!」
後ろ?‥‥後ろにオレ様の幸せを祈る人がいると謂うのか?
オレ様の幸せを祈ってくれる人なんか康太や仲間を除けば一人しかいないじゃないか!
「音弥は‥‥後ろにいる人やらを視てるのか?」
「ときろにね、はやちょがげんきにゃいときにみるにょね」
九曜の血が音弥の中に紛れもなく流れている証拠だった
「ありがとう‥‥」
菜々子‥‥
愛しているのだ‥‥今も‥‥
お前ほどに愛せる人はまだ見付からないのだ
だけどオレ様は幸せだ
こんなにも幸せだ
隼人は堪えきれずに泣き出していた
聡一郎が優しく隼人を抱き締めていた
次にチョコを渡すのは
翔だった
翔はチョコを瑛太に渡した
瑛太は驚いた顔で「私にですか?」と問い掛けた
翔は頷いた
そして「ひぎょろのかんしゃのきもちれす!」と答えた
「ありがとう翔」
「えーちゃ‥‥」
翔は人差し指をクイクイと動かして、顔をこっちに寄越せと合図した
瑛太は翔の傍まで顔を近付けた
翔は瑛太の顔を両手で支えると
小さな声で
「あいがとう‥‥かけゆ‥いちゅもかんしゃちてる」と言った
「翔‥‥」
「えーちゃ なきむちね!」
翔はそう言い瑛太の涙を拭った
京香はそれを見て泣いていた
瑛智が母の涙を拭っていた
次に立ち上がったのは大空だった
大空は清四郎にチョコを渡した
清四郎は「私にですか?」と信じられない想いで言葉にした
「じぃたん らいすきらから、かな ぎゃんびゃった!」
「そうですか、嬉しいです」
大空は清四郎の頬に
「らいすきらよ!」と言いチュッとキスした
清四郎は康太に「君の‥‥計らいですか?」と問い掛けた
「今回のイベントは子供達が発案してやり遂げた事でオレはノータッチだ!
ただ、チョコを渡す役を決めたのは翔だ、と言う事だ」
翔なれば視えていて当たり前だった
視えているからこその配置だった
太陽は真矢の前に立つと
「ひぎょろのかんちゃのきもちれちゅ!どーじょ!」と言いチョコを渡した
「私にもあるのですね」
真矢はそう言い嬉しそうに笑った
「ばぁたんにわたちゅのきんちょーちた」
「あら?どうして?」
「ひなね、ほんびゃんによわいにょのね」
「あら、伊織も本番に弱かったわね
発表会で緊張しまくってロボットみたいな演奏した事あるもの」
真矢が謂うと榊原が「母さん!」と注意した
「とぅちゃ?ほんびゃんによわいにょ?」
「そうよ、だから大丈夫!」
真矢はそう言い太陽を撫でた
太陽は真矢に抱き着き
「らいすきよ!」と告げた
真矢はギューッと太陽を抱き締めて
「ありがとう」と告げた
最高の日だった
家族は幸せそうに笑っていた
清隆や玲香、京香には兄弟全員で渡した
烈もチョコを持ちフンッと鼻息荒く渡すモノだから‥‥
瑛智が怖くて‥‥チビりそうになっていた
いや‥‥少しチビったかも‥‥
京香はそんな我が子を見て笑っていた
烈よりも大きいのに烈が怖いだなんて‥‥
榊原は愛する愛する妻にチョコを渡した
「僕の愛を込めて!」
「ありがとう伊織
愛してんぞ!」
「僕も愛してます!」
終わらない愛の囁きに流生が母の傍まで行き、お口を塞いだ
音弥は父のお口を塞いでいた
翔が「めっ!」と怒っていた
榊原は我が子を抱き締めて
「続きは子供が寝た後にします」と言った
翔は瑛太の前に行き紙袋を二つ、瑛太に渡した
「きょれ、けーたとくりちゃとそーたのやちゅにゃのね
えーちゃ、わたちといてくだちゃい!」と頼み事をした
瑛太は「栗田と恵太と蒼太に渡せば良いのですね!お安いご用です!」と翔の頼みを請け負った
バレンタインデーの夜はこうして幸せに包まれて過ぎて行った
後日談
社長室に飛鳥井蒼太は呼び出された
僕‥‥何かしましたかね?
緊張して社長室に向かう
兄弟だけど長兄は威厳があり社長と言う役に就き越えられそうもない程に偉大だった
緊張して社長室のドアをノックする
「どうぞ!」
瑛太の声がして蒼太はドアを開け社長室に入って行った
「御用は?」
蒼太が聞くと瑛太は紙袋を蒼太に渡した
蒼太は紙袋を受け取り
「これは?」と問い掛けた
「康太の子供達から『日頃の感謝の気持ちを込めて!』とチョコを預かって来てるのです
しかと渡しましたから!」
「え?瑛兄、チョコなのですか?これは?」
「チョコだと言ってるでしょう?」
「呼び出した用件って?」
「チョコを渡す為です」
他に何があるんですか?と瑛太は信じられないとばかりの顔をした
「僕‥‥クビとかじゃないのですね」
「君は康太の駒、私が勝手にどうこう出来ない存在じゃないですか!」
何を言ってるだ?とばかりに瑛太は憤慨していた
「いや‥‥僕、クビかなって」
「それは私が決めれる案件ではない
それよりもたまには母さんに逢ってやりなさい
淋しそうにしてましたよ」
「解りました今度お茶に誘います
ありがとう瑛兄、子供達にありがとうと伝えておいて下さい」
「嫌です!」
「え???」
「お礼は本人達に言いなさい!」
「解りました、今夜にでも子供達に逢いに行きます」
「そうして下さい
でないと私が渡してないと想われるじゃないですか!」
‥‥‥瑛兄‥‥
蒼太はあまりの言われように苦笑した
昔なら考えられない会話だった
瑛太は「話はそれだけです!次は栗田と恵太を呼ばねばならないのです」と忙しそうに言った
蒼太は「瑛兄ありがとう」と言い社長室を出て行った
蒼太の足取りは軽かった
家族と永遠に逢えなくなる覚悟もした
だけどこうして逢う事を許されている
昔の飛鳥井ならば‥‥考えられない事だった
蒼太は母や父に逢いに行こうと想った
そして康太の子に直接ありがとう言おうと心に決めた
栗田と恵太は名指しで飛鳥井建設の社長に呼び出しを掛けられ‥‥
栗田は顔を引き攣らせて最上階まで直通のエレベーターに乗っていた
恵太もその横で社長自らの呼び出しに緊張しまくっていた
ドアをノックすると『どうぞ!』と謂う声が聞こえ栗田はドアを開けた
そして恵太と共に社長室に入る
栗田は「何か御用ですか?」とやっとの想いで問い掛けた
瑛太は紙袋を一つ取り出すと机の上に置いた
「康太の子供達からのたっての頼みで引き受けました
君達二人に『日頃の感謝の気持ちを込めて!』チョコを渡して欲しいと頼まれたのです」
そう言い早く紙袋を受けとれ!とばかり瑛太は紙袋を押した
恵太は紙袋を受け取り中を見た
紙袋の中には綺麗にラッピングされた箱が二つ入っていた
栗田は「これを俺に‥‥ですか?」と問い掛けた
「ええ。康太の子六人から託されたチョコです」
恵太は信じられない想いで
「ありがとう」と言った
「その言葉は私にではなく本人達に言ってあげて下さい!
あんなに近くに住んでるのですから遊びに来て謂えば良いではないですか!」
瑛太の言葉に恵太は「はい!そうします」と答えた
恵太は紙袋を抱き締めて泣いていた
栗田は「恵太‥‥」と言い困った顔をしていた
瑛太は栗田に「君もクビを覚悟して来たのですか?」と問い掛けた
「ええ。好かれてないのは知ってますから‥‥」
「嫌ってはいませんよ?栗田」
「え?‥‥‥」
「私は君の事を嫌ってはいません
なのでそこまで警戒するのはお止めなさい」
「そう言われても‥‥」
「しかも君は康太の駒じゃないですか?
私が康太の駒を勝手にクビになど出来ない事を知っているのではないのですか?」
「社長‥‥」
「恵太は私の弟です
幸せになってくれるのならば、それで良い
君が恵太を幸せに出来るのか?
様子を見てただけです
今はもう何も謂う気はありません
飛鳥井の家にも遊びに来れば良い
母さんや父さんをも少し気遣ってあげて下さい
それには常に逢ってないと気遣えませんよ?
両親は私達よりも先に死にます
その現実を見据えて悔いのない関係性を築いて行って欲しいと想っています」
瑛太の思いだった
恵太は何度もはい!はい!と返事をした
栗田と恵太は瑛太の人間臭い部分を垣間見た気分だった
二人は部屋を後にした
頃合いを読んで康太が瑛太の部屋にやって来た
「瑛兄、お疲れ様」
康太が笑う
「私は‥‥兄弟からも相当敬遠されているのですかね?」
と瑛太は苦笑して言った
「瑛兄は偉大すぎるんだよ
何処か兄弟でも近寄りがたい雰囲気がある
そうじゃねぇのにな‥‥
違うって教えたかったから今回は知ってもらえて良かったな瑛兄」
「大役過ぎでしょ?」
「翔の見立てだかんな」
「翔に『あいがとう‥‥かけゆ‥いちゅもかんしゃちてる』と謂われました
何もかも知っているのですね‥‥あの子は‥‥」
「自分の生い立ちを視ちまったからな‥‥」
「そうですか‥‥」
「来年になったら総てを話すつもりだ」
「康太‥‥」
「知っていようが何だろうが、親だと謂う人間が真実を告げてやらねぇとならねぇと想うんだ」
「そうですか‥でもあの子達は飛鳥井康太の子ですよ?」
それ以外にはなれない子だと‥‥瑛太は言った
「バレンタインにチョコ貰ったやん
ホワイトデーに御返しだぜ?瑛兄」
「何をお返ししましょうね?」
「慎一にリサーチしてもらおうぜ!」
「では頼んでおきます」
瑛太は笑った
険しい道なれど引き返す道はもうないのだ
ならば逝くしかない
その道しかないのならば‥‥
瑛太はこの命を賭してでも照らそうと想った
それこそが己の存在理由なのだから‥‥
康太は笑っていた
瑛太も笑っていた
怒濤のバレンタインデーはやっとこさ終わりを告げた
ともだちにシェアしよう!