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第88話 幸せの欠片

ヒラヒラ ヒラヒラ ヒラヒラ 白い花びらが風に舞う ヒラヒラ ヒラヒラ 幸せの欠片が風に舞う ガルは小さな花びらを追い掛けて走り回っていた 『待ってぇ~』 花びらを追い掛けて‥‥パクっ 『味がしないなぁ‥‥ふわふわの綿菓子みたいな色なのに‥‥』 パクっパクっパクっ‥‥ガルは花びらをパクパクっと追い掛けて食べていた 背中に乗ってるシナモンが迷惑そうな顔をして乗っていた 片足で背中をビシッと叩くと、ガルは大人しくなった 『ごめんねシナモン』 『あんまし走ると落ちるってガルちゃ』 シナモンは怒ってそう言った なら下りれば良いのに‥‥とコオやイオリは想った だけどシナモンは下りない 最近のガルは、足の悪いシナモンを背中に乗せて散歩に出ていた 『でもね、シナモン‥‥美味しそうだよ、これ』 そう言われシナモンも目の前に落ちて来た舞い散る花びらをパクんっ‥‥ 『あんまし美味しくないよガルちゃ』 シナモンはペッペッと花びらを吐き出した ガルは歩くのを止めて立ち止まると上を見上げた 公園の桜は満開を終えて散り始めていた 風が吹くたびに花びらが風に乗りヒラヒラ、ヒラヒラ散っていた ガルは一生を見上げて 『今年の桜も終わりだね』と名残惜しそうに言った 一生も桜を見上げて 「だな、この次雨が降ったら終わりそうだな」と桜の終わりを口にした ガルはクルクル回って 『今年は沢山桜を見たよ』と嬉しそうに言ったた シナモンは『来年も沢山見たいね』と言った ガルもシナモンも嬉しそうに笑っていた それを見ているコオやイオリも嬉しそうに笑っていた そこへ兵藤貴史が愛犬桃太郎を連れて散歩に来た 桃太郎はコオやイオリ、ガルやシナモンを見て飼い主を無視して突っ走って来た 引き摺られる様に兵藤は走らされ‥‥リードを引っ張った 急ブレーキ掛けさせられ‥‥桃太郎は止まらざるを得なかった キュ~ンと桃太郎は鳴いて兵藤を見上げた 「俺は馬車馬の様には走れねぇんだよ!」 『ごめんなさーい』 桃太郎はクシュんとなった 兵藤はそんな桃太郎を抱き上げて、康太達の傍へと歩いて行った 傍に近寄ると康太は「大変だな」と笑って声を掛けた 「んとによぉ‥‥桃太郎は飛鳥井のワン達が大好きだからな」 そう言い桃太郎のリードを外して地面に置いた 桃太郎は嬉しそうにガルの方へと走って行った 兵藤はシナモンを乗せてるガルを見て 「しかし‥‥何時見てもあの猫はガルの背中のに上に乗ってるんだな?」と問い掛けた 康太はシナモンを見て表情を曇らせると 「あれは上手く歩けねぇんだよ 本当なら猫には散歩は必要ねぇからな留守番でも構わねぇんだろうけど、何時も何時もガルが背中の上に乗せて散歩に来るんだよ」 と説明した ガルはシナモンだけ留守番なのは可哀想だと、連れ歩く様になっていた 兵藤は「ガルらしいな」とクスッと笑った 桃太郎はガルと仲良く話をしている風に楽しそうだった ガルは一生の所まで来ると 『一生、シナモン頼めるぅ?』と上目遣いで見上げてそう言った 憎めない顔に一生は謂う事を聞いてやるのだった 一生はシナモンを持ち上げると 「ほれ、好きなだけじゃれて来い!」と言った ガルと桃太郎はおっかけっこするように走って、じゃれて飛び回っていた まだ子供のガルは遊びたい盛りだった 兵藤は「元気だよな、あの二匹は‥‥」とボヤいた 康太は笑って「体力有り余ってそうだからな!」と言った 一生はシナモンを地面に下ろすと 「少し歩いてみろ」と言った ゆっくり歩くなら歩けなくもなかった だが走る事は出来ない 危機が迫ったとしても俊敏に逃げる猫の様な行動は取れなかった シナモンはゆったりとした足取りで歩いて、康太の足元まで来ると甘えた様に足にスリスリした 康太はシナモンを抱き上げると兵藤に渡した 兵藤はシナモンを貰い受けると撫でた 柔らかな犬とは違う肌触りに 「柔らけぇーなシナモン うちの猫とは毛並みが違うな」 「おめぇんちの猫はロシアンブルーだろ? これは短毛の種類だからな毛並みは違うかもな」 「俺もマンチカン飼おうかな」 この足の短さ 何処かコーギーを彷彿させる容姿に兵藤はすっかり夢中になっていた 康太は笑って 「なら一ノ瀬辺りにブリーダー紹介してもらう様に話を通しておいてやんよ!」 「桃太郎、仲良くしてくれるかな?」 「大丈夫だろ? ガルみたいに背中に乗せて歩きそうだな」 桃太郎ならやりそうで笑えた 目の前のガルと桃太郎は桜の花びらに戯れてパクパクって飛び付いて食べていた 兵藤は「あれ‥‥腹怖さねぇか?」と心配して問い掛けた 「大丈夫だろ? うちのガルはずっとあんな調子だったけど、寝込む感じはなかったからな」 「お前んちの‥‥テリア元気だな‥‥あの短い足で桃と同じ様に良く駆け回れるなって何時も想う」 顔はシュナウザーなのに、足はコーギー並み‥‥ 初めて目にした時は爆笑して‥‥ガルに飛び蹴りをかまされた あの短い足で‥‥‥だ。 「言ってやるな、うちのガルは良い子なんだからな! 足の短さなんて関係ねぇんだよ! 短いとか謂うな!」 なんと謂う親バカ発言‥‥ しかも何故足が短いで怒る? 一生は大爆笑していた 一生は「貴史、足が短いは禁句だって解ってる?」と問い掛けた 兵藤は、あっ!と思い付く事を思い出した 背が小さい 足が短い この二つは康太が子供の頃からムキになって不機嫌になるワードだったのを思い出した 「康太‥‥」 「あんだよ?」 「‥‥すまねぇ‥‥足の短さなんて関係ないな‥‥」 「おめぇは胴体よりも足が長げぇからな‥‥短けぇ奴の気持ちなんて解らねぇよな」 取り敢えず謝って話を反らす それしかない兵藤は榊原の事を問い掛けた 「康太‥‥足なんて長くても得しないから‥ それよりも伊織はどうしたよ?」 「伊織?伊織は鷹司 緑翠の塾に行ってお勉強中だ」 「あぁ、気難しくて教え子を選ぶから、中々教えを乞えねぇって謂う御仁の塾なんだろ? 良くもまぁ入れたなって美緒が言ってたぜ!」 美緒が言っていた 鷹司 緑翠の塾の出だと謂うならば、経営者は文句を言わせぬ手腕を約束されたも同然となり 政治家ならば押しも押されぬ箔が着く 鷹司 緑翠と謂う御仁は数々の政治家や政財界の著名人を輩出し続ける塾の塾長だと謂う だが鷹司緑翠は人を選ぶ 入りたいからと謂って簡単に教えを乞えれる訳ではないのだ なのに康太は「おめぇも通うか?」と意図も簡単に謂ってのけたのだった 「‥‥‥鷹司緑翠の塾に‥‥と謂うんじゃねぇよな?」 「何謂ってんだよ?貴史 ボケたのか? 何の話をしてるか忘れたとか謂うなよ?」 謂われてみればそうなんだけど‥‥ そんなに簡単に謂わないで欲しいもんだ‥ 「美緒が鷹司緑翠は人を選ぶと謂ってるぜ?」 「あぁ、そう言う事か 堂嶋正義は鷹司緑翠の教え子の一人だぜ? 当然、三木繁雄もだ! そして今、安曇貴之も貴教も塾生の一人に名を連ねている 学ぶなら刺激が多い今の方が良いと想うんだけどな」 康太はそう言い唇の端を吊り上げて嗤った 榊原伊織、安曇貴之と貴教、めちゃくそ刺激を受けそうな名前に兵藤は瞳を輝かせた 「それ、楽しそうだな」 「だろ?お前ならそう言うと想っていた 近いうちに鷹司を訪ねろ! くれぐれも美緒と共に逝くんじゃねぇぞ!」 「勿論、一人で逝くに決まってるが‥‥ あんで美緒がダメなのよ?と聞いても良いか?」 「美緒がダメとかじゃねぇんだよ 親と共に来る甘ちゃんに教える訳がねぇんだよ! 美緒に謂えば教えを乞う以上は御挨拶に‥‥とか言いそうやん? だから一人で逝けよと言ってるだけだ!」 やたらめったら厳しい御仁なのは耳に入ってく噂で知っていた 何だか康太に果てを知らないうちに用意されてる気分になって来る‥‥ 留学にしても安曇兄弟に心を揺さぶられ決意させられた様なもんだし‥‥ そんな兵藤の想いを知ってか知らずか康太は笑って 「まぁ決めるのはお前だ! オレは可能性の話をしているが、その可能性を実現にするのはオレじゃねぇかんな!」 とトドメを刺した そうですとも‥‥そうですとも‥‥ 目の前になりたい可能性をぶら下げて走れと尻に鞭を打つ 馬主だけあって馬の扱いは上手かった 兵藤は受けてたってやるぜ!と言う笑みを溢して 「その可能性を俺は見事に掴むんだろ?」と言った 康太は何も謂わずに笑っていた 桃太郎が鼻に桜の花びらを着けて兵藤の所まで走って来ると、兵藤は 「あに食ってるんだよ!」と言い鼻に着いてる花びらを拭いてやった 『ご主人貴史、楽しそうだね』 ワンワンと吠えて桃太郎はそう言った だが犬語は全く解らない兵藤は桃太郎の頭を撫でてやっていた 「桃、桜の花びらは上手かったか?」 兵藤は笑って問い掛けた 『あれ、味がしないよぉ‥‥』 桃太郎が謂うと一生は爆笑した ガルが満足そうな顔で康太の所まで走って来た 康太はシナモンを抱き上げるとガルの背中に乗せた 『ありがとうご主人康太』 「楽しかったか?」 ワン! ガルは尾っぽを振ってそう答えた 「それは良かったぜ! お前が楽しいとオレも嬉しいかんな!」 康太が謂うとコオとイオリも撫でて貰おうと康太に飛び付いた 「うしうし!コオもイオリも楽しかったか? ゴールデンウィークはまた海に逝こうな! 浜辺を想いっきり走ると良い!」 とゴールデンウィークの予定を口にした 『『『それはとっても楽しみだよぉ!!』』』とワンワンと吠えた 散歩の帰り道、ガルは歌っていた 『お花、お花、綺麗なお花♪ 美味しいお花、楽しいお花、毛虫のお花~♪』 一生はなんちゅう歌‥歌ってるのよと想った シナモンは楽しそうにガルの歌を聴いていた 散歩から還る帰り道 猫を背中に乗せて歩くガルが多くの人の目に止まって写メを撮られていた 一生は「名物になりそうですがな‥‥」とボヤいた 最近はSNS経由で噂は早く広まる ガルの写真が載せられると、一目見に来ようと来る人たちが増えて散歩どころではなくなりつつあった 飼い主と共に写メを撮ろうとすると、SPが前に出て警戒する だから必要以上の行動はおこされずに済んではいるが‥‥ ゴールデンウィーク辺りになると噂を便りに、来る人達も増えるだろう‥‥ だからこそのゴールデンウィークの遠出だった ガルはそんな喧騒は他所に幸せそうに歩いていた ガルは桜の花びらはヒラヒラと落ちると一生を見上げて 『幸せの欠片が落ちて逝くよぉ~』と言った 一生は桜の花びらを見て 「幸せの欠片か、ガルらしいな」と笑った 『あれって美味しそうなのにね‥味がないんだよね』 とガルは残念そうに言った 一生は笑いを堪えるのが無理になって爆笑した 幸せの欠片を食ったらあかんがな 一生は「ガルが桜の花びらを幸せの欠片って言ってんだよ!」と教えた 康太は桜の花びらを見上げて 「幸せの欠片か、ガルらしいな」と笑った 「なのにだぜ、美味しそうなのにね美味しくないって謂ってたぜ!」と爆笑の理由を話した 兵藤は爆笑した コオもイオリも幸せそうに笑っていた 幸せな帰り道 ヒラヒラ ヒラヒラ 幸せの欠片か舞い散っていた‥‥ 『これ美味しくないよぉ~』 『ガルちゃ、走ると落ちるってば!』 『ごめんねシナモン』 にゃぁ~ シナモンはガルの背にスリスリした

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