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第89話 ゴールデンウィーク2019 ①
今年のゴールデンウィークは10連休
飛鳥井建設も例外でなく10連休となっていた
康太は10連休だし子供達の喜ぶ事をしよう!と計画した
榊原や一生、聡一郎、隼人達と何処へ逝くか協議をして‥‥
答えが出なかったから榊原の両親や笙にも何処へ連れて行ったら喜ぶか協力を重ね
幾度も幾度も計画を練り上げ10連休を楽しむべく協議を繰り返した
だが中々答えは出なくて宙ぶらりんの状態となっていた
そんな康太を見て慎一は子供達を連れて来たのだった
慎一は子供達に「今年は10連休ですから何処へ遊びに行きたいですか?」と尋ねた
すると流生は「‥‥‥あそびにいきゅにも‥‥ひとおおいからにゃぁ‥‥」と憂鬱に呟き
翔も「だね、いもあらうようなひとには‥‥へきえきれすね」と大人顔負けの言葉を吐いた
康太はおいおい‥‥と想った
榊原は「なら海外に行きますか?」と訪ねると
音弥が「おちるぅ‥‥」と嫌な顔をした
榊原の顔が引き攣る‥‥
「飛行機は落ちませんよ!」
「あんにゃ、てつのかたまりがとぶんらよ?」
落ちて当然!の様に謂われて榊原は返答に困った
慎一は爆笑するのを押さえて‥‥笑っていた
康太は「飛行機がダメなら国内か‥‥」と呟いた
聡一郎は「国内でも北海道とか沖縄だと飛行機は欠かせませんよ?」と苦言を呈した
太陽は「いちじかんちょいにゃら、おとたんらいじょうび!」と現金な事を口にした
「一時間ちょいならって、めちゃくそ現金な奴やんか!」
大空は「かぁちゃ、かるちゅーむ たらにゃいにょ?」と怒る母に問い掛けた
最近の大空は煮干しの袋を片手に、何時も煮干しを食べていた
何故に煮干し?と問い掛けると
「ほねがちゅよいおときょになるにょ!」と返された
骨が強い男って‥‥それは何よ?と想ったが疲れそうだから聞きはしなかった
煮干しを差し出す大空から煮干しを1つ貰いお口に入れる
これは歯も鍛えられそうだな‥‥と想いつつ、何処へ逝くかな?と思案する
康太は「お前達、何処へ行きたいよ?」と直接聞いた方が早いと問い掛けた
翔は「パンダみたいれす」と答えた
大空は「かんらんしゃのりたいにょ!」と答え
流生は「おはにゃ、たくちゃんみたいにょ!」と答えた
それを榊原はPCに打ち込み検索をかけ始めた
太陽は「おふねにのりたいにょ!」と答え
音弥は「おーけちゅとら、ききたいにょ!」と答えた
烈は広告を手にして榊原に「とーとー!」と訴えた
榊原は広告を受け取り開いて見た
‥‥‥‥そこにはフラダンスをしてるお姉さん達が写っていて、それをアロハを着て眺めている客が写っている‥‥ハワイをうたっている何処かのスパリゾートの広告だった
榊原は「また‥‥渋いのを‥‥この広告何処にありました?」と問い掛けた
烈はニャッと嗤って聡一郎を指差した
榊原は聡一郎を見た
聡一郎は「僕がPCを見てたら烈が『そーちゃ!』と指差して来たのです
欲しいの?(この広告?)と聞くと頷いたのでコピってあげたのです」と説明した
榊原は「なら烈はこの広告のスパリゾートで良いですね」と烈の行きたい場所の候補にあげた
榊原はPCをポチポチしながら
「流生はお花が沢山見たいと言うので植物園か、お花畑がある場所を探します
烈はハワイアンなスパ、その日は泊まる予定を立てましょう
翔はパンダなので、動物園が良いですね
大空は観覧車に乗りたいとの事なので、観覧車がある遊園地を探しましょう
休みは10日あるのです
一人ずつ消化して行ってもまだ余裕があります!」
と大体の候補地を上げながら呟いた
康太は「太陽は船で音弥はオーケストラだぜ?
船は最悪‥‥若旦那に頼めば乗れそうだけど、オーケストラはやってなきゃ無理じゃねぇのか?」と最悪な事態を口にした
榊原は不適に嗤うと
「やってないのなら、やって戴けば良いだけの事です」とさらっと言ってのけた
聡一郎は「それってオーケストラを呼ぶと謂う事ですか?」と驚きの表情で問い掛けた
「そうです、父さんや母さん、神野や相賀や加賀の人脈をフルに使えば出来ませんかね?」
それは‥‥流石に出来そうな気がして来る‥‥
だけど、子供一人のためにオーケストラを呼ぶとか‥‥
どんだけセレブなのよ‥‥
榊原はPCをポチポチして
「パンダは上野辺りで手を打ってくれませんかね?
本場まで行くのは少し時間が食いそうですからね‥‥」
と呟いた
一生は「上野で十分ですがな‥‥本場まで行くには子供は疲れてまうがな‥」とボヤいた
「なら大空は横浜のみなとみらいにある観覧車で手を打って貰えますかね?」
「十分でっしゃろ?
世界最大の観覧車があるアメリカのネバダ州ラスベガスまで行く気かよ?
そりゃぁ高さ167.6mの「ハイ・ローラー」はすげぇだろうけど、子供が疲れるだろうが‥」
「そうですね、大空は横浜の観覧車っと。
で、流生はどうしますかね?」
「山下公園にイングリッシュガーデンがなかったか?
それか、くりはま花の国とかが有名だぞ?」
「山下公園にあるイングリッシュガーデンだと観覧車に乗った後に行けそうです」
「だな、あまり予定をつめると子供達が疲れるからな」
「ですよね、でも連れて行ってあげたいのです」
子供達が喜ぶ顔が見たいのです‥‥
榊原の想いが解るから一生もPCを叩いて必死に探すのを手伝った
「所で旦那よ、今回のお出掛けに榊原の家族や飛鳥井の家族は同行するのかよ?」
「どうなんでしょうね?
まだ聞いてもいません!」
「おい‥‥」
「僕達の予定に合わせる様な事は‥どうかと想って声が掛けられないのです」
「‥聞いてみれば良いやん!
その日が予定が悪くても、どれかで同行出来るかも知れねぇしな」
「なら君が聞いておいて下さい」
やぶ蛇と言うのは、こう言う事を謂うんだろうな‥‥と一生は想った
一生は取り敢えずLINEで
【ゴールデンウィークの御予定はどうなってますか?】と一斉送信した
瑛太からは『康太の家族と一緒に逝く予定です』と即座に返信された
一生は「瑛兄さんは康太の家族と同行するってさ」と榊原に告げた
榊原は「ならホテル取りますかね?」と思案した
玲香や清隆からも返信が来た
玲香は『我は孫と過ごす!孫が何処かへ逝くなれば我も同行する予定じゃ!』と絵文字を使って返信された
清隆は『私は家族と共の時間を送りたいです』と返され
「義母さんや義父さんも同行するってよ!」
どんどん増える人数に‥‥
「困りましたね、ゾロゾロ歩くなら考えないといけませんね」と思案した
流石に榊原の家族は目立つし
飛鳥井の家族も別の意味で目立つのだ
経済紙トップを何度も飾った飛鳥井建設の社長と会長の顔なのだから‥‥
真矢と清四郎は一緒にいたのか真矢の携帯から
『清四郎も私も時間が許す限り孫達と共にいたいわ!』と返信された
「真矢さんと清四郎さんも同行希望だ」
一生が告げる傍からLINEの通知が来て開くと
笙から『僕達家族も同行しても良いですか?』と入って来た
一生は「笙の家族も同行希望だぜ!」と告げた
榊原は「全員僕達家族と同行と謂う事ですか?」と呟いた
「だな。全員で回る事を想定して予定を立てねぇとダメだな」
「お花畑や、オーケストラとか船は大丈夫ですがね、パンダを見に行くのは流石と‥‥母や父や兄は目立ちませんかね?」
「目立つだろうけど、目立つからこそ単独で行きたくねぇってのもあるんだろ?
笙だって家族の事を考えてればこその同行だと想うぜ」
家族だけでいる時に騒がれれば子供達が危険に及ぶ
それだけは避けたい笙の想いだった
康太は苦悩して考え込む榊原の悩みを少しでも解消すべく携帯を取り出し電話をかけ始めた
「若旦那、お久しぶりです」
電話の相手はどうやら戸浪なのだろう
『康太!久し振りですね』
「ええ。お元気でしたか?」
『君に逢えなくて凄く寂しかったです!』
「若旦那、悪かったな
オレも結構大変だったかんな‥‥」
『そうでしたね、それで今は落ち着いているのですか?』
「あぁ、もう大丈夫だかんな、家族サービスをと考えてる最中だ!
で、此処からが本題なんだけど、若旦那に頼みがあるんだ!聞いて貰えねぇかな?」
『お聞き出来る事でしたら、戸浪海里何としてでも叶えて差し上げましょうとも!』
「太陽がな、船に乗りてぇらしいんだよ
で、手頃な感じの船に乗せて貰えねぇかと想って電話をしたんだよ
誕生日に豪華客船をプレゼントすると申し出を断ったばかりで大変申し訳ないが‥‥乗せて貰えませんですかね?」
『それは構いませんよ!
気にしてませんから‥‥私もね流石に豪華客船をプレゼントと言うのは遣りすぎだと想っていたのです‥‥でも康太に貰って欲しかった気持ちは変わってません!』
「ありがとうな若旦那」
『では今回の用件をお聞き致しましょう!
船を希望との事ですが、どのサイズの船を御所望ですか?
世界一周サイズの船ですか?
それともタンカーサイズの船ですか?』
「‥‥‥若旦那、小さいサイズの船で良いから家族全員で乗れるのが良い」
『それでしたらフェリーが手頃ですね
良いでしょう!
1つだけ条件を飲んで下さるのなら、お出し致しましょう!』
「助かる、で、条件って何だよ?」
『私の家族と田代の家族‥‥同行しても宜しいですか?』
「んなの条件にもならねぇじゃねぇかよ!
流生と一緒にいさせてやりてぇから亜沙美も一緒に連れて来いよ」
『宜しいのですか?』
「おめぇの家族だろ?
だったら問題はねぇよ!」
戸浪はグッと想いが込み上げ‥‥
『ありがとう康太』と礼を謂った
「礼を謂うのはこっちだって!
今年は子供達が行きたい場所へ遊びに逝くって決めてるんだ!
で、太陽が船に乗りたいって謂ってたから、若旦那しか思い付かなかった
本当に助かった若旦那」
『子供達が行きたい場所に逝くのですね
ちなみ子供達は何処へ行きたがったのか、お聞きしても宜しいですか?』
「おー!翔はパンダを見てぇと謂った
大空は観覧車、流生は沢山のお花で、烈はハワイアン的なスパ、音弥はオーケストラ、太陽は船に乗りてぇと、それぞれが行きてぇ場所を謂って来たんだよ」
『パンダは上野ですか?』
「おー!それしか近場はねぇからな」
『花畑は船を出す前にくりはま花の国へ寄られたらどうですか?
田代が車を出しますので、ご一緒させて下さるのなら一緒に過ごさせて下さい』
「それは楽しみだな」
『オーケストラはどうされるのですか?』
「伊織がやってなきゃ呼べば良いとか言ってたな」
『でしたら、それもご協力出来るかも知れません』
「若旦那、そんなには良い‥‥」
『ゴールデンウィーク中に戸浪が呼んだオーケストラのコンサートがあるのです
三渓園でゴールデンウィークの夕べを楽しむコンサートが有るのですよ
それにご招待状致しましょう
勿論、私達家族も同行致しますが宜しいですか?』
康太の希望以上の収穫に‥‥康太は胸が熱くなった
「何か悪いな若旦那」
『お気になさらずに!
わが社は貴方がいたからこそ、今もこうして護り続けて逝けたのですから!』
「んな事はねぇ!
おめぇらが頑張ったからこそ今があるんだ!
‥‥若旦那、電話するべきじゃなかったな
負担を掛けてすまねぇ‥‥」
『康太!私は君から電話があって嬉しかったです!
況してや私を頼って下さったなんて、嬉しすぎです!
そんな私が負担だなんて想う筈がないでしょ?』
るんるん♪とスキップしそうな喜び方の社長を目にして田代は戸浪の携帯を取ると
『田代です、お久しぶりです康太
社長はずっと三渓園のコンサートに康太達家族を呼ぼうかと迷っておいでだったのです
ゴールデンウィークの10連休、少しでも貴方とご一緒出来たらなぁ‥‥と仰ってたので、本当にお気に病むのは止めて戴きたい!
私も瑛太と飲めるのは久しぶりなので、今から楽しみです!』
「そう言って貰えると助かる」
田代は携帯を戸浪に渡した
戸浪は携帯を受け取り、田代め!と怒りつつも電話に出た
『田代が余計な事を言いました』
「若旦那、オレも若旦那達と過ごせてめちゃくそ嬉しいかんな!」
『康太‥‥』
「楽しもうな若旦那」
『はい!是非ともご一緒させて下さい!』
こうしてトントン拍子に船とオーケストラが決まった
康太は電話をテーブルの上に置くと
「伊織、船とオーケストラは決定だ!」と決まった事を口にした
榊原はニコッと微笑みを溢して
「それは良かったです
では日程の調整をしないといけませんね!
一生、船とオーケストラはいつ頃の予定か、田代さんに問い合わせて教えて下さい!」
テキパキ指示を出した
一生は「あいよ!」と謂われた事を完遂すべく動き始めた
聡一郎は「スパリゾートの詳しい詳細を用意します!」と言い部屋へと向かった
予定を詰めて
子供達の夢が実現して逝く瞬間となった
ゴールデンウィーク初日
瑛太がレンタルしたバスに皆で乗り込んだ
そのバスを運転するのは慎一だった
大型二種の免許を持つ慎一は移動の時には必ずバスをレンタルして、運転手として皆を乗せて遊びに逝くのだった
飛鳥井の家族、榊原の家族、康太の仲間達はパンダのいる動物園へと出向いて来た
ゴールデンウィーク初日とあって人でごった返していた
朝一番でSPが並び混雑を避けて入園すべく動いて何とか問題もなく入園した
まずはパンダへと目指す
翔は清隆と手を手を繋ぎ
流生は玲香と手を繋いで
音弥は清四郎
太陽は聡一郎
大空は一生と手を繋いでいた
烈は榊原と手を繋ぎ歩いていた
康太は美智瑠と瑛智と仲良く手を繋いでいた
瑛智と美智瑠が「「こーたん」」と名を呼び慕う
京香は明日菜を気遣いながら匠と手を繋いでいた
真矢は永遠と北斗と仲良く歩いていた
笙は和希と和真に世話を焼かれて歩いていた
慎一と一生は大荷物をカートに乗せて移動する
SPは飛鳥井と榊原の家族を護りつつサングラスをして真っ黒のスーツの上下を身に纏い歩いていた
彼等は瞬時に動ける様に距離を取りながら片時も傍を離れる事なく移動していた
その様はある意味異様で目立ったが、子供達を護る為だ仕方がない事だった
また芸能人と言う清四郎や真矢、笙らの為でもあった
朝一番にパンダを見てキリンを見て混雑を避けて動物園を後にした
慌ただしいが、『芸能人』を身近に発見した人間が興奮して押し掛けるのは避けたかったのだ
それだけでなく飛鳥井建設の会長、社長、副社長に御近づきになれる機会でもあるのだ
目の色を変えて押し掛けるのを見越して行動せねばならなかった
一人が騒げば人はその騒ぎに便乗して騒ぎを大きくして逝くモノなのだ
それが人の心理であり、悲しい現実だった
騒ぎになる前に動物園を後にしたが、翔は満足そうな顔をしていた
康太はバスに乗り込んだ後に翔に
「慌ただしくてすまねぇな」と謝った
だが翔は見たこともない様な笑顔で
「ぱんださんといっしょの、くれますか?」と訪ねて来た
翔はパンダのコーナーの前で、笹を食べてるパンダと一緒に写真を撮ったのだ
榊原は「ちゃんと引き伸ばしてあげるので待ってて下さいね」と優しく言った
翔は「あい!」とお返事して、わくわく楽しそうだった
この日はハワイ的なリゾートスパで一泊する予定だった
リゾートスパの横にあるホテルにチェックインすると家族全員のアロハとムームーが渡された
子供用のアロハもあって、此処ではその姿で過ごす事になっていた
特別待遇と言うのがないリゾートスパだけど、騒ぎを避ける為にハワイアンな舞台の鑑賞は、人目を避けれる様に椰子の木で遮り、容易には覗けない配慮がなされた
大浴場を一つ貸し切りにして温泉と舞台と料理を楽しむ
部屋に着くなり康太は「腹へった」と空腹を訴えた
温泉よりも先にお腹を満たすべくルームサービスを取って食事をした
食事を終えると貸し切りの大浴場へと向かい、お風呂に家族全員で入った
女性も男性も水着を着用して温泉に入るのが、玲香は少しだけ抵抗があったが‥‥
後で普通の温泉に入れば良いかと気を取り直して全員で温泉に入った
スイミングで泳ぎの腕が格段に上がった子供達は嬉しそうに泳いでいた
烈は‥‥温泉にお盆でジュースを浮かべて、ちびちび飲んでいた
聡一郎は「あれ、ジュースだよね?」と想わず確認した程に堂に入っていた
瑛智も美智瑠も永遠も仲良くお盆を取り囲み、ちびちび飲んでいた
康太はその姿に「じじくせぇ‥‥」とボソッと呟いた
すると烈が母に向けて‥‥
水鉄砲をピューッと放った
「うわっ!!」
不意打ちを突かれて康太は悲鳴をあげた
榊原は烈に「めっ!」と怒った
烈は舌を出して笑っていた
そんな顔は幼児だが‥‥
幼児が手酌さながらの温泉に入るだろうか‥‥
とにかく烈はご満悦だった
流生は「かぁちゃ、みてぇー!」と泳ぎを披露していた
「うめぇな流生」
「かぁちゃにょこらからね!」
流生は得意気に笑った
音弥が「じゅるい!おとたんもかぁちゃにょこらもん!」と訴えてクロールを披露した
「音弥もすげぇぞ!」
スイミングを始めたのは泳げなかった我が子の為だが、筋力を着けねばならない音弥の為でもあった
最近の音弥は幾度のオペの後遺症を感じさせない程に筋力を着けて来ていた
太陽は「かぁちゃ、ひなもおよげるにょ!」と背面泳ぎを披露していた
「めちゃくそ高度やんか!」
康太が謂うと榊原が「太陽は泳ぎが得意なんですよ」と説明した
その横で笙も背泳ぎをして優雅に泳いでいた
太陽は横を泳ぐ笙の体躯をベシッと叩いた
笙は「痛いよひなちゃん!」と苦情を述べた
「ちょー、よこでおよぎゃにゃいで!」
「えー!何でだよ?」
「ひなのおよぎがかすむにょ!」
「‥‥そうですか‥‥では離れた所で泳ぎますって」
笙は笑って太陽から離れた場所に行き泳いでいた
康太は笑ってそれを見ていた
一生が「そもそも、此処は温泉でプールじゃねぇぞ!」と怒ると流生が
「きにちゅんにゃ!かじゅ!」と慰めた
「大浴場で泳ぐか普通?」
「およぐにょよね、みじゅがあるから!」
名言だった
一生は「これは何も言えねぇわ!」とボヤいた
楽しく泳いで、体躯を洗って温泉から出ると、陽は既に傾き‥‥夕闇に染まりつつあった
榊原は「それではハワイアンダンスを見に行きますか?」と謂うと全員で椰子の木で遮られた席へと向かった
綺麗な常夏に似合うカクテルが運ばれ、料理が並べられた
ステージではダンスが始まり、榊原はSP達に食事を取る様に言った
何かあれば自分達も盾となり康太や子供達を護る!
一人に背負わせたりはしない!
そんな想いの現れだった
SPは交代で食事をする事になった
玲香や真矢は綺麗なカクテルにほろ酔いになり
玲香は「場所が違えば酒も美味と謂うモノであるな!」と上機嫌で言った
真矢も「御姉様、本当に美味しいですわね!」と上機嫌でカクテルを飲んでいた
何処か本当のハワイにも似た薫りがしていた
美味しい料理とカクテルと、目が離せないショーを見つつの一時は子供達にも楽しい時間だった
康太は烈と何やら話していた
「よいものじゃな」
烈が謂うと康太は「だろ?」と笑っていた
「爺は酒でも欲しいんだろうけど、今は子供の体躯だって忘れるなよ!」
「わしゅれてはおらん!」
ガッハッハハハと烈が笑う
何処か源右衛門を彷彿させる貫禄があった
時々烈は胸のたいそう大きな娘(こ)を選んで抱きつこうとするのだった
抱き上げてくれた時に胸にスリスリして、胸の感触を楽しんでいた
まるでスケベ爺さながらの様子に康太は拳骨をゴツンッとお見舞いするのだった
清隆は烈の中に祖父の面影を感じていた
優しくて豪胆な源右衛門よりも男前な祖父だった
スケベで女好き
その癖、いざと謂う時は誰よりも頼りになる存在感の凄かった祖父そっくりだと想っていた
真矢は「烈‥‥オッサン臭いわよ!あなた‥‥」と手酌で飲んでいるかのような貫禄に‥想わずボヤいた
私の血を引く子がオッサン臭いだなんて‥‥
烈はいかんいかん!と想うと可愛く笑って
「ばーたん あいちゅほちぃ」と甘えた
そんな調子の良い所が烈だった
真矢はアイスを頼むと烈に食べさせてやった
‥‥‥どういう訳か‥‥
烈の隣に瑛智や美智瑠が並んで、まるで雛の様に口を開くから‥‥
三人のお口にアイスを入れなきゃいけなくなったのだけど‥‥
美智瑠の手の甲には十字架の痣があった
生まれて直ぐに亡くした我が子を康太が転生させてくれたのだ
転生したと解る様に『印』を入れた
それが十字架の痣だった
北斗が「お手伝いしますか?」とやって来た
北斗は本当に真矢のお手伝いを進んでやってくれる子だった
「良いのよ北斗
何でも好きなのを食べてなさい」
「食べてます
お腹一杯だから、腹ごなしです」
「そう。楽しんでる?」
「ええ。楽しいです
皆といられるのは凄く嬉しいです」
北斗がそう言うと真矢は北斗の頭を撫でた
感慨深くなってると膝にドスンッと重さを感じた
見ると烈が真矢の椅子によじ登って座った重さだった
「烈どうしたの?」
そう問い掛けると烈は真矢の手を持って、頭を撫でろと謂う仕草をした
「撫でて欲しいのですか?」
問い掛けると烈はニコッと笑って頷いた
北斗は大爆笑して
真矢は烈を撫でた
康太は烈の前にトロピカルジュースを置いた
「きもちいいにゃ‥‥」
幸せそうな顔に清四郎は笑っていた
烈は「じーじー」と清四郎を呼んだ
「どうしました?烈?」
「きゃんぱい」
そう言いグラスをカチッと合わせた
粋なその姿に清四郎は笑って
「乾杯、烈」と言った
烈はトロピカルジュースを飲むと真矢の膝から下りた
そして美智瑠と瑛智が座る椅子に向かうとよじ登った
烈は「えーち、ふぁいちょ!」とエールを送った
瑛智は椅子から下りると瑛太の傍に向かった
「ととしゃん」
瑛智が謂うと瑛太は「何ですか?」と答えた
瑛智は父の座る椅子によじ登ると
「ととしゃん、たんじょうびおめれと!」と言い抱き締めた
瑛太は驚いた顔をしていた
そして「私の誕生日でしたか‥‥」と呟いた
「かけゆがね、みてくれちゃにょ!」
「そうでしたか‥‥翔が視てくれたのですか‥‥翔、ありがとう」
瑛太が謂うと翔は「おめでとうございます、えーにぃしゃん」と答えた
父なれど‥‥
父とは名乗れぬ我が子から謂われた言葉に、瑛太は胸が熱くなる
「ありがとう翔‥‥」
真贋のお披露目の‥‥あの日‥‥翔は答えてくれた
『知っておられるのですね、総て‥‥』と堪えきれず問い掛けた、その言葉に‥‥
翔は『みえることなれば‥‥』と答えてくれた
翔は視えているし、知っていると言ったも同然の言葉だった
その時の翔は恨むでもなく、避けるでもなく、平穏な言葉の羅列を紡ぎだしていた
あの日から親子の距離は自然となった
気負わず
装わず
自然体で話す様になっていた
翔は「えーにぃしゃんのたんじょうび、みんにゃでいわいたかったんです」と答えた
その翔の想いに兄弟や美智瑠や匠、瑛智が答えてくれ、烈が道を着けてくれたのだ
「ありがとう翔‥‥
物凄い‥プレゼントをありがとう」
瑛太が謂うと翔は嬉しそうに笑った
烈は翔の肩を叩くとニカッと嗤った
将来が怖い‥‥笑みだった
康太と榊原はそんな我が子を誇らしげに見て笑っていた
真矢も清四郎も泣きながら笑っていた
親子の絆は‥‥ちゃんとあるのだと‥‥皆が感じられるワンシーンに涙していた
玲香はこんなに嬉しそうに笑う我が子の顔は見た事がないな‥‥と想っていた
飛鳥井家総代を継ぐ者として、源右衛門が育てた総代だ
常に冷静沈着で、眉毛一つ動かす事なく人を切れる存在でなくばならなかった瑛太の重圧を‥‥常に感じていた
我が子に過酷な人生を強いねばならなぬ事に玲香は心を痛めていた
今‥‥瑛太の笑顔に‥‥気負いも重責も感じられず‥‥良かったと想った
瑛太が‥‥救われた想いがして‥‥玲香は
「厠に参る!」と言い席を立った
化粧室に入ると玲香は泣いた
心の澱が溶けるかのうように泣いた
真矢が玲香の後を追って化粧室に入ると玲香は泣いていた
慌てて取り繕うとする玲香を抱き締めて
「姉さん‥‥泣いても良いのです」と背中を擦りながら言った
「真矢‥瑛太が‥‥子供の様に笑ったのじゃ‥」
「良い笑顔でしたね」
「瑛太は‥‥楽しい時も哀しい時も‥‥その表情は変えぬのじゃ‥‥
幼き頃から総代をやるのが決まっていたからな‥‥あやつは総ての思いを飲み込み生きて逝く事しか出来なかったのじゃ‥‥」
「康太もそうですけど‥‥康太を守り通した瑛太の重圧はかなりのものでしたでしょうね」
「要らぬなら親兄弟でも斬らねばならぬのが総代じゃ!」
瑛太の生きて来た道程は楽ではなかったろう‥‥
それを子供の瑛太に強いたのであれば‥‥
親なれば胸を痛めない訳がないのだ‥‥
嫁の立場では‥‥逆らう事は無理だ
ならば飛鳥井の女として家族を守ろうとした
人前では決して涙は見せぬ
夜中に崩れそうな悲しみに襲われたとしても‥‥
我は飛鳥井の女だから!と堪えて来たのだ
素顔は化粧の下に隠し
気丈に生きて来たのだ
我が子の幸せだけを願い
孫を護る為に今を生きていた
孫は明日の飛鳥井になくてはならぬ存在となるからだ‥‥
総ては飛鳥井の為、家の為‥‥
それが飛鳥井に嫁いだ己の宿命だと己を奮い立たせて‥‥生きて来た‥‥
昭和の世が終わり
平成の世が終わり
新しい年号になったとしても、己の生き方は変わらない
これからも己はそうして生きて逝く
そんな玲香の心に、子供の様にうれ笑う瑛太の笑顔を目にして‥‥
色んな想いが溢れだしていた
「姉さん、良かったですね」
「あぁ‥‥真矢‥‥ありがとう‥‥
傍にいてくれてありがとう‥‥」
「姉さん、私は親戚をたらい回しにされた挙げ句施設で育ちました
引き取ってくれた親戚の叔父さんは‥‥私を慰み者にして、それを知った叔母さんが私を死ぬかと想う程に暴力をふるった
そんは絶望の世界に生きていたのです
施設に入った時はホッとしました
これで私は汚される事はないのだと安心したのです
その施設に清四郎もいました
私達は同じ施設で16になるまで生活をしていました
16になる前に清四郎は役者になりました
私は清四郎を追い掛ける為に女優になったのです
役者 榊 清四郎は盲目的な人で家庭を顧みる人ではなかった
私は何時も孤独でした‥‥
だけどね康太が‥‥私達に家族をくれたのです
今ある幸せは全部、康太がくれたものです
姉さんと出逢えたのも康太がいたから‥‥
私は兄妹を知らないから、姉さんといると本当の姉妹みたいに嬉しいの‥‥
だから姉さん、私も背負うから‥‥一緒に背負うから‥一人で責任を感じないで‥‥」
真矢の告白は‥‥
辛いモノだろうに‥‥謂わせてしまった事を玲香は悔やんだ
「真矢‥すまぬ」
「姉さん、一緒に背負いましょう
一人だと重い荷物でも二人なら耐えれる事もあるわ」
「ならば、我はお主の荷物も背負うことにしょうぞ!
我の荷物も、お主の荷物も、二人で分ければ‥‥楽勝だわいのぉ!」
「そうよ!姉さん
姉さんには、私が着いてるから!」
「それは心強いな
真矢には我がついておる!
世界中の皆が敵になろうとも、我は常にお主の味方じゃ!」
「それは勝ったも同然じゃない!」
「だわいのぉ!」
二人は顔を見合わせて笑った
心が軽くなるのを感じていた
気負って一人で踏ん張り生きて来た
これからもそうして生きて逝くのだと想っていた
だが‥‥その荷物を持ってくれる存在が現れたのだ
気負いも重責も二人で分ければ良いと言ってくれた
玲香は心が軽くなるのを感じていた
「さぁ姉さん飲みましょう!」
飛鳥井の女は色んな想いを飲んで忘れるかのように酒を飲む
「そうだわいのぉ!
飲むとしょうぞ!真矢」
玲香と真矢は席に戻った
玲香の瞼が腫れぼったかったが誰も何も言わなかった
ディナーを終えて部屋へと移る
部屋に戻ると子供達を寝かせて、皆遅くまで飲み明かしていた
皆で朝まで飲みあかし酔い潰れて‥‥
ゴールデンウィーク1日目は終わりを告げた
ゴールデンウィーク二日目
皆、早朝、叩き起こされ
吐きそうになり歯を磨き支度をして朝食を取った
そしてチェックアウトするとバスに乗り込んだ
バスに乗り込むと皆、飲み過ぎの体躯には辛くて早々に目を瞑り眠る事にした
明日菜はこの後のスケジュールを聞いてないから
「家に帰るのですか?」と尋ねた
康太は「これから花を見に行くんだよ」と答えた
「花?ですか?」
「ネモフィラの花畑が見頃だからな
国営武蔵丘陵森林公園まで見に行くんだよ
なんたって東京ドーム約65個分の広さを誇る園内には、日本一大きなエアートランポリンの「ぽんぽこマウンテン」やアスレチックコースなど、子供が思う存分に遊べる遊具が揃ってるって謂うかんな!
花以外にも楽しめぜ!
今の時期は公園の西口側にある花畑がネモフィラの爽やかな空色に染まる頃だかんな、お花が好きな流生に見せてやりてぇんだよ」
「ネモフィラ、青いお花ですよね?」
「あぁ、広大な敷地に植えられた一面青のお花畑が見えるのは今の時期だけだかんな!」
康太が謂うと流生が瞳を輝かせて
「てれびでみた‥‥おはにゃ?」と問いかけた
榊原は「そうですよ、見たいって言ってたでしょ?」と笑ってそう言った
翔は「よかっちゃね、りゅーちゃ」と自分の事の様に喜んでいた
太陽も大空も音弥も良かった良かったと喜んでいた
飛鳥井の子達は兄弟が嬉しいと自分の事の様に喜んで分かち合っていた
国営武蔵丘陵森林公園の駐車場にバスを停めて歩くと、そんなに歩く事なくネモフィラの花畑が目に飛び込んできた
蒼い‥‥青い花が辺り一面に咲き誇っていた
康太はその花を見て
「青龍の様に綺麗な蒼だな‥」と呟いた
榊原は少しだけ拗ねた顔をして
「僕と同じ位に綺麗なんですか?」と問い掛けた
「青龍が一番美しい蒼だ!」
「僕の色が一番好きですか?」
「当たり前じゃねぇかよ?
オレの蒼い龍が一番美しく、一番愛してるに決まってるやん!」
「僕も愛してます」
甘い雰囲気になると烈がドスンッと康太の膝に突進してスボンが脱げそうになる程に引っ張った
「烈‥‥」
烈は新品のチュッパチャプスを差し出すと
「くうか?」とニカッと笑った
康太はチュッパチャプスを受け取って
「食うに決まってるやん!」と答えた
甘い雰囲気だったのに‥‥と榊原は烈を抱き上げようとしたが‥‥
「重‥‥」
もう簡単には抱っこは出来そうもない‥‥
それ程に烈は成長していた
烈は「とーとー、たべゆ!いい?」とネモフィラを指差して問い掛けた
榊原は「食べちゃタメです!」と世話を焼きながら言った
流生は一面の花畑に瞳を輝かせていた
康太はカメラを構えると
「流生、撮ってやんよ!」と言った
流生はピースをしてカメラに笑顔を向けた
お花とのツーショットに流生はご機嫌だった
真矢や玲香、清隆も流生を撮って、他の子も撮った
歩き疲れたのか烈は路肩に腰を下ろしていた
するとその隣に瑛智や美智瑠、永遠も腰を下ろして休んでいた
ヤンキー座りでたむろする子供‥‥
明日菜は「‥‥将来が怖いだろうが!」と美智瑠を無理矢理立たせた
美智瑠は「かーしゃん、かるしゅーむたりにゃいにょ?」と問い掛けた
笙は腹を抱えて笑っていた
太陽は笙の足を蹴飛ばした
「痛いってひなちゃん!
何か僕に恨みでもあるの?」
「‥‥しょー いるとかぶるんらもん‥」
「被る?何が?????」
「きゃらぎゃ!」
笙は絶句した
明日菜は爆笑した
「‥‥‥それって‥‥難癖に近いよひなちゃん!」
「みんにゃ、しょーににてるいうもん」
「従兄弟は似るんだよ‥‥」
「‥‥みちるとはにてにゃい‥‥」
絶句‥‥子供の難癖は時として真髄を突いて来てしまうものだ
笙は「僕は君達のお父さんのお兄さんだからね、君達の中にも榊原真矢と榊清四郎の血が流れているんだよ、だから似ても仕方ないってモノでしょ?」と説明した
手は抜けない
子供達は時には検事よりも鋭い突っ込みをして来るモノなのだ
太陽は「なら、ちかたにゃいね!」と笑った
「なら許してくれるの?」
「らめ!それときょれとはちがうにょ!」
「えぇー!!厳しくない?僕だけに‥‥」
「しょー、あかでみーとったら、ゆるちてあげゆ」
「アカデミー賞?それ厳しいって!!」
「とれにゃいにょ?」
「取れるよ!
表彰式には君も連れて壇上に上がってあげるよ!」
もぉ‥‥自棄糞だった
「にゃら、しょーはすぎょいやくちゃらね!
それズルい‥‥
「ひなちゃんに誇れる役者になるよ!」
「そしたら、みんにゃにじまんちゅるね!」
そう言い太陽は可愛く笑った
真矢は笑って太陽に焚き付けられる笙を見ていた
笙はもうメロメロだった
下手したら我が子よりも太陽の方が気が合うかも知れないと感じていた
我が子も‥‥こんな風に‥父親をギャフンっと謂わせる日が来るのだろうか?
「しょー、やくちょくね!」
「あぁ、約束だよ!」
アカデミー賞 授賞式に甥っ子を連れて壇上に上がる自分を想像する
頑張ろう
血反吐を吐こうとも‥‥
極みに上がると約束したのだから頑張ろう
笙は心に誓った
大空は清四郎と一緒にいた
「じぃたんも、あがでみぃーとりゅにょ?」
と素朴な疑問を投げ掛ける
賞には縁遠い自分を想い清四郎は
「笙には負けてられませんね!」とメラメラと燃えていた
「かなね、じぃたんのえーが、らいすきよ!
すくりーんのなきゃのじぃたんは、きゃっこいいにょ!」
スクリーンの中のじぃたんは格好いいにょ!と謂われたら燃えない祖父はいないだろう!
月でも取って来てと謂われれば、ロケットでも飛ばさん勢いで頑張ってしまうのが祖父と言う生き物なのだ
可愛い孫にねだられれば何だってしてしまえるのだ!
清四郎は不敵に嗤うと
「なら笙と競争しますかね!」と宣言した
清四郎はアカデミー賞を孫にねだられ、ネモフィラの花畑の中で絶対に取ると心に誓った
真矢は孫に担がれた息子と夫の闘志に、私にもこうも単純なら良いのに‥‥と想った
音弥は真矢に「ばぁたん がんば!」と一言焚き付けた
「ばぁたん頑張ろうかしら?」とアカデミー賞を取るのは私よ!と心で宣言し不敵に嗤った
侮れない‥‥子供達だった
熾烈なアカデミー賞争奪戦は火蓋を切って落とされた瞬間だった
そんな闘志に燃えた役者を他所に、流生はネモフィラの花を背に笑顔で瑛太や清隆のカメラに収まっていた
目を離すと烈はネモフィラの花を摘まんで食べていた
榊原は慌てて烈を抱き上げると
「ペッとお口の中のを出しなさい!」とお花を吐き出させていた
「とーたん まじゅい」
「当たり前でしょ!
お腹減ったのですか?」
コクッと烈は頷いた
その横で康太も「腹へったよな烈!」と腹減りをアピールしていた
榊原はレストランへと走った
レストランで昼食を食べて、腹一杯になるまで食べた後はアスレチックで子供達は遊んでいた
清隆や瑛太、笙や清四郎は無謀にも‥‥子供達に混じってアスレチックを頑張り‥‥
翌日は筋肉痛が大変だろうなと、真矢は想った
帰りのバスの中、子供達は眠っていた
飛鳥井の家に帰り、その夜は朝まで飲み明かした
ゴールデンウィーク3日目
流石と連日のお出掛けに筋肉痛とお疲れ気味な家族の為に、ゴールデンウィーク3日目は静かに過ごす事にした
孫の為とは謂え‥‥清四郎と清隆は筋肉痛に悲鳴をあげていた
瑛太も無謀にもアスレチックで頑張りすぎたツケが来て、筋肉痛で湿布を貼って過ごした
年を痛感せざる得ない瞬間だった
瑛太は「まだまだ若いと想っていたんですがね‥‥」と衰えを感じて‥‥
スポーツジムに通う事を心に決めた
ゴールデンウィーク故4日目と5日目は康太が伊勢の方で神事に関わる仕事が入っていた為
子供達は清隆や玲香、真矢と清四郎達と映画館に出掛ける事にした
康太は3日目の夜から飛鳥井の家にはいなかった
3日目の夜、帰宅と同時に迎えの車が来て、榊原と翔を連れだって迎えの車に乗り込み出掛けたからだ
一生や聡一郎、隼人は康太の命で動いているのか、慌ただしく康太の後を追うかの様に出て行った
慎一は残された子を気遣っておやつを作ったりして世話を焼いていた
でも元気のない子供達の為に玲香にお出掛けを頼んだのだった
瑛太と笙は夜に合流すべくホテルを貸しきって準備をしていた
笙は瑛太に「康太は何処へ行ったのですか?」と問い掛けた
瑛太は「伊勢です」と何でもない風に答えた
伊勢と謂われても‥‥ピンッと来ない笙は
「何をしに行かれたのですか?」と尋ねた
「飛鳥井と倭の国の繋がりは深い‥‥
時代が終わりますからね‥そして、新しい時代が始まる
時は移り変わりには必ず祈願の為に呼ばれるのです」
「‥‥神事‥‥ですか?」
「歴代の真贋は奉納の舞を仰せつかっていますからね‥‥
本来だったら伊織は伴侶だとて共には逝けはしないのですが、今年は次代の真贋が誕生しましたからね‥‥
次代の真贋を視せる為に、同行が許されたのです」
言葉もなかった
だから兄弟の中に翔がいなかったのか‥‥
兄弟は酷く淋しそうで、見ていられない程だった
瑛太は果てを視て
「決められし理です」と呟いた
幾度、時代が移ろうとも飛鳥井の真贋の背負う荷物は軽くはならない
瑛太は「それが飛鳥井が生かされる理由ですから‥‥」とキッパリと告げた
それが生かされている一族の宿命なのだから‥‥逃れる事など出来はしないのだ
笙はもう何も言う事を諦めた
入れる余地などないのだ
その荷物を少しでも背負ってやる事すら叶わない世界の話なのだ‥‥
笙は窓の外を見つめて‥‥
「ひとつの時代が終わり‥‥
新しい時代が始まりますね‥‥」と言葉にした
「ええ‥‥また一つ年号が変わります‥
だけど私達は“今”を生きるしかないのです
必死に生きるしか道は開けないのです」
瑛太の言葉に笙は不思議な顔をして
「瑛兄さんの口から、そんな言葉を聞くとは想いませんでした」と口にした
何時だって、どんな時だって、立ち向かって闘う瑛太の姿しか目にした事はなかったから‥‥意外すぎて‥‥
瑛太は笑って
「私は何時だってギリギリの所に立って弟を守る事しか考えてませんよ」と答えた
まるで自分が生きているのは“弟”の為だと謂わんばかりの言葉に‥‥
「瑛兄さん‥‥」と名前を呼ぶしか出来なかった
「愛してますからね」
ドキッとする言葉だった
心から吐き出された‥‥言葉に笙は聞いてはならない想いを抱いた
瑛太は苦笑すると、何時ものポーカーフェイスを決め込み
「さぁ笙、子供達を迎える準備をしますよ!」と使命に燃えて笙の尻を蹴りあげんばかりに言葉にした
後は‥‥何もなかった様に‥‥
瑛太の本音は‥‥聞けなかった
映画から帰って来た子供達は両家の祖父母に連れられて帰って来た
夜には慎一も子供達と一緒に加わり、共に過ごす事となった
夜8時に慎一は携帯を取り出した
すると慎一の携帯に着信を告げる振動が来た
慎一は電話に出た
「はい。待っておりました」
『子供達は‥‥怒ってねぇか?』
電話の相手は康太だった
「母の仕事なら仕方ないと納得しておいでですが‥‥淋しさは隠せません
ですので義母さん達に頼んで映画に連れ出して貰いました」
『そうか‥‥明日の神事は今日よりも大変になるかんな連絡はもう取れねぇと想う‥‥
だが明後日の朝には還るなんな
そしたら観覧車に乗ろうと伝えといてくれ!』
「解りました」
『子供達に変わってくれるか?
翔が話してぇみぇだかんな!』
「解りました、子供達に携帯を渡します」
慎一はそう言うと流生に携帯を渡した
流生は携帯を受け取り
「かぁちゃ?」と問い掛けた
『りゅーちゃ、かけゆだよ』
「かけゆ!どう?むりちてにゃい?」
『だいじょうびだよ
りゅーちゃは?むりちてにゃい?』
「りゅーちゃ‥‥ちゃみちい‥‥」
そう言い流生は泣き出した
音弥は流生から携帯を貰い受け
「かけゆ!おとたんらよ!」と呼び掛けた
『おとたん、あし だいじょうび?』
「うん!らいじょうびらよ!」
『もすこししたらかえりゅからね』
「うん‥‥うん、まっちぇる!」
音弥はそう言い携帯を太陽に渡した
「かけゆ!ひならよ!」
『ひな、げんきれすか?』
風邪気味なのを知っている翔だからこそ言える言葉だった
「‥‥かけゆとあしょびたいから、なおちゅね!」
『なら はやきゅねないとね』
「うん‥うん、もうねりゅよ!」
太陽は泣きながらそう言うと大空に携帯を渡した
大空は携帯を受け取り
「かならよ!」と訴えた
ほぼ泣いている状態だった
『かな、ひなをきをちゅけてやってね』
「わかっちゃ!」
『かなもむりちたら、らめらよ
かなはいわにゃいから、ちゃんというんらよ!』
「かけゆぅぅぅ、かな、あいちゃい!
かけゆがいないにょいや!」
泣きながら訴えていた
『かな、あちたにはかえりゅから!』
「かけゆ!かな‥‥ぎゃんばるぅぅぅ」
大空はそう言い携帯を烈に渡した
烈携帯を受け取り
「にーにー!」と答えた
『れつ?』
「そー!」
『れつ、おちてりゅのたべたら、らめらよ!』
「おはにゃ くっちゃ」
『らめらよ!れつ』
「にーにー!あーたい!」
『れつ‥』
「にーにー!ぎゃんびゃ!」
『うん‥‥れつ‥‥ぎゃんばるよにーにー』
「にーにー!しゅーき」
烈の言葉に翔は泣き出した
慎一が携帯を受け取り翔に「康太に変わって下さい」と告げた
翔は康太に電話を変わると、康太は
『慎一、すまねぇな』と謝った
「大丈夫です主‥‥一言だけ御家族に声を聞かせてやって下さい」
慎一はそう言うとスピーカーのボタンを押した
携帯のスピーカー部分からは少し疲れた感が抜けないが
『おー!みんな元気か?
わりぃな、みんなに子供の世話を任せちまって!』と康太の声が聞こえた
その声だけで‥‥家族は康太の存在を感じられ‥‥
胸が一杯になった
瑛太が「御帰宅を御待ちしております」と告げると
清隆も「御武運を!」と口にした
玲香は「子供達の事は気にせずともよい!」と言葉にして
真矢は「大丈夫よ!母がいますからね!」と励ます様に口にした
清四郎が「康太が帰ったら船ですからね、薬を沢山買って準備しておきます!」と船酔いの準備をして待ってると告げた
電話の向こうで康太は笑っていた
『では百十夜の儀式の最終日だかんな
儀式に入る
その後は即位の礼に則って五穀豊穣を感謝し、その継続を祈る一代一度の大嘗祭が行われ、即位の礼・大嘗祭と一連の儀式を合わせ御大典(ごたいてん)へと神事は続くかんな
還るまでは連絡はもう取れねぇけど、オレは大丈夫だかんな』
瑛太は「無事お役目を果たされる事をお祈りしております!」と言葉にすると電話は切れた
本当なら儀式の中座はしてはならぬ事なのだろう
だがそれを押してまで家族や子供の為に電話を掛けてきた康太の想いが嬉しくもあり‥‥
哀しかった
真贋として生きる重さを垣間見たも同然だったからだ‥‥
後はもう言葉もなく‥‥
皆、飲み明かして夜を過ごした
子供達は何時までも‥‥両親や兄弟の事を想い‥‥
眠りに落ちた
ゴールデンウィーク4日目がこうして終わりを告げた
ゴールデンウィーク5日目も両親不在で、祖父母や叔父が頑張って子供達と過ごした
年号は新年号と代わり世の中は元年を祝うムードで受かれていた
新しい時代の始まりだった
ゴールデンウィーク6日目
5月2日の朝、康太と榊原と翔は飛鳥井の家に還って来た
4月30日と5月1日は伊勢にいたとだけ家族に告げた
祭儀を終えて伊勢から陸路を使って送り届けられ、やっとの想いで帰った‥‥との事だった
康太は家に着くなり
「さてと、ゴールデンウィークの続きをやろうぜ!」と告げた
示し会わせた様に一生や聡一郎や隼人も飛鳥井の家に還って来ていた
康太は「一生、頼んどいたの、やっといてくれた?」と一生に尋ねた
「おー!今日は観覧車に乗って夜はホテル・ニューグランドに泊まる手筈は整えて来た」
「ありがとう一生
次は聡一郎だな」
康太は一生に礼を言い、聡一郎に問い掛けた
聡一郎は「若旦那の方とは調整を整えて万端です
5月3日出航で4日まで船の中で過ごし、5日にオーケストラを聞きに行く様に調整しておきました」と若旦那と調整を進めて準備万端だと告げた
「ありがとうな聡一郎」
「‥‥‥今日‥‥大丈夫なのですか?」
伊勢から陸路を使っての帰宅は疲れているだろうと聡一郎は心配していた
空路を使えば早いのに‥‥古来より記された道を通って神殿に入らねばならぬ仕来たりがある為に、自由に好き勝手に空の上を使う事は出来なかったのだ
「大丈夫だ聡一郎
車の中で寝て来たかんな
まぁオレは大丈夫かもだけど、伊織はずっも寝てねぇかんな‥‥」
寝不足の榊原伊織‥‥
それは鬼でも避けて通りたいであろう‥‥状態なのでは???
聡一郎は背筋に冷たいモノを感じていた
榊原は「僕は大丈夫です、皆と観覧車に乗って楽しく夕飯を食べるまでは眠りませんから!」
と宣言した
一生は「旦那、そんな無理せんでも‥‥」と言いかけて止めた
今年のゴールデンウィークは‥‥‥子供たちにとって想い出の休日にすると決めたのだから‥‥
子供達が6歳になる時
康太は子供達に総てを告げると決めている
そうしたら‥‥
こうやって遊びに行ける事も無理になるかも知れない‥‥
このゴールデンウィークが最後になるかも知れないのだ‥‥‥
だから無理してでも榊原と康太は子供達が行きたい場所へ連れて行き楽しむと決めているのだ
昼食を早目に取って出掛ける事にした
行き先はみなとみらい21
車で逝くのは駐車場の確保が難しい為にタクシーを呼んだ
家族は家の外に出るとお迎えに来たタクシーに分散して乗り込み、いざみなとみらい21へと向かった
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