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第90話 ゴールデンウィーク2019 ②

康太達はコスモワールドへとやって来た 一生に買いに行って貰ったチケットを貰い受け観覧車乗り場へと向かう ゴールデンウィークと謂う事もあって行列が出来ていた その行列の列に並ぶ 大空は瞳を輝かせて観覧車を見上げていた 「おっちぃね かぁちゃ」 「あぁ、大きいな」 「かなね、おおきいかんらんちゃのりたきゃったの」 「良かったな」 大空は頷いた 「かんらんちゃはね、そらにちかいにょ‥‥」 「え?‥‥」 「らからね‥‥ままが‥‥あのこのそばに‥‥いけりゅって‥‥おもいをとばせるきゃにゃって‥‥」 大空の言葉に京香は瞳を見開き‥‥涙を浮かべた 「大空‥‥我の為に‥‥観覧車に乗りたいと申したのか?」 「ままがね、かにゃしーのはいやにゃにょね! らから‥‥ままにあのこのしょばにいけたら、いっちょにいられるじかんれきるとおもっちゃにょね」 京香は大空を抱き締めた 「ありがとう‥‥我にはお主達がいてくれる 家族や瑛智もいてくれる‥‥だからもう大丈夫じゃ‥‥」 「まま‥‥げんちだしてね」 「あぁ‥‥優しい子だな大空は‥‥」 大空は空を指差して 「まま‥らいすきだよ」 「我もお主達が大好きじゃ‥‥」 京香は大空を強く抱き締めて‥‥離すと立ち上がった そして京香は笑った その顔は凛として艶然と笑っていて美しかった 康太達の番が来てゴンドラに康太と榊原、そして流生、音弥、翔と太陽と一生が乗り込んだ その後のゴンドラに清隆と玲香と慎一と北斗と和希と和真が乗り込んだ 続いて、瑛太と京香、瑛智と烈、美智瑠、そして大空と隼人が乗り込み 最後に真矢と清四郎、聡一郎と笙と明日菜と匠と永遠が乗り込んだ 大空は上がって逝く観覧車の窓の外を見ていた 「まま‥おそらにちかいね」 「そうだな‥‥お空に近いな」 「れちゅがね、みえてりゅから‥‥」 「え?‥‥烈は何が視えておるのじゃ?」 「ままのこ‥‥」 「‥‥あの子が‥‥烈に視えるのか‥」 京香が謂うと烈はニッと嗤った 観覧車が上の方に上がって逝く 烈は呪文を唱え始めた 子供なのに‥‥ その言葉は‥‥声は‥‥まるでオッサン並みの熟練された詠唱だった 観覧車が頂上まで辿り着くと‥‥ 時間は止まったかのように、動きが止まった ‥‥かのように感じた そして優しい子供の声が聞こえた 『まま‥‥まま‥‥』 母を呼ぶ声だった 京香の回りにその声は搦みつき‥‥ 京香は亡くした我が子を想った 「未来なのか?」 京香はその子の名を‥‥口にする 『まま おわかれもいえず‥‥ごめんね』 「未来‥‥辛くはないか? 苦しくはないか‥‥痛くはないか?」 『いたくないよ まま つらくもないし、くるしくもない』 「そうか‥‥それは良かった‥‥」 我が子が今も苦しむ姿は見たくはない‥‥ 京香の想いだった 『まま‥‥うんでくれてありがとう そしていきてやれなくてごめんなさい』 「未来‥‥」 京香は泣いていた 『まま‥いつかままのそばにうまれるひまで‥さよならだけど‥‥ いつかままのそばにいくから‥‥まってて』 「未来‥‥我はずっと待っておる」 『まま わらって わたしのためになかないで‥‥ ままがなくのがいちばんつらいんだから‥‥』 「お主が幸せならば我は笑っていようぞ!」 『まま だいすきだから ぱぱもだいすきよ』 優しい声が瑛太と京香に纏わりつき‥‥ まっててね その声に京香は堪えきれずに顔を覆った 『宗右衛門ありがとう』 「別れは謂えたか?」 『ええ、これで新たな道を辿れるわ』 「そうか、なれば逝くがいい!」 烈はそう言うと呪文を唱えた ありがとう 消える前にその声が響き‥‥ 観覧車は動き出した 烈は「はぁー」とため息をついて眠り出した 大空は「れちゅ、おちゅかれちゃま!」と労を労った 烈はニカッと笑った 大空は「わかれいえにゃいとのこりゅのね‥‥らから、れちゅがぎゃんびゃったにょ!」と今回の真意を口にした 瑛太は「ありがとう」と大空と烈に礼を述べた そして丸くなってる烈を抱き上げると膝の上に乗せた 同じく観覧車に乗っていま康太は時を止めた術の最中 「烈の癖に上手い事止めやがったな」と烈が術を使っているのを知っていた 今回の大空の観覧車は家族を思う優しさだと視ていた 榊原も「烈‥‥上手く出来ましたね」と感心した言葉を放った 翔は「そーえもんれすから」と烈の転生者の名を口にした 一生は「これって時を止めたって事やんか、って事はこの観覧車に乗ってる奴等はどうなってるの?」と疑問を口にした 「飛鳥井に関係なき者は記憶にすら残らねぇし、止まってる事さえ解らねぇだろ?」 「なら義父さん達は止まってねぇって訳か」 「だな、真矢さんや清四郎さん、笙や明日菜達も止まっちゃいねぇ」 「しかし‥‥烈は末恐ろしいな、この力‥‥何なんだよ」 一生は烈の底知れぬ力に‥‥驚異を抱いた それに答えたのは翔だった 「れちゅのとくいぶんやはおもいのじゅばくれすから」 と得意分野なのだと口にした 一生は「ならおめぇの得意分野は?違うのかよ?」と素朴な疑問を口にした 「ボクはかんけいあるもののはてをみます」 それが飛鳥井の真贋なのだから‥‥ 「そしてとくいなのは‥‥」 翔が言いかけると「翔!」と康太がそれを遮った 「あい。かぁちゃ しゅいましぇんれした」 翔は母に謝った 一生は「翔に言わせたのは俺だ‥‥ごめんな翔」と翔に謝罪した ゴンドラが静かに動き始めていた 康太は「伊織、烈が寝ちまったから大変だ」と告げた 榊原は「腕が壊れます」と烈の重さに‥‥眠った烈を抱っこした翌日を想った 一生は「なら俺が背負って逝くさ」とお詫びに烈を背負うと口にした 「分相応の力じゃねぇのに使ったからな‥あれは当分起きねぇだろうな‥ 遊びに来てて寝て終わるって可哀想な事をしたな‥‥」 康太の想いに榊原は「起こしますか?僕の力を分け与えれば起きませんかね?」と口にした すると弥勒が『我が起こしてやるから案ずるでない』と言ってくれた 弥勒は烈の所まで飛んで、姿を現した 突然弥勒が現れて瑛太は驚いたが‥‥ 弥勒は瑛太の膝の上の烈の顎を上げて口を開かせると小瓶に入った液体を口の中へと流し込んだ すると烈が目を醒まして‥‥ 「まずっ!」と低い声で唸った 『オッサンかよ?烈』 「うるさい!弥勒!我は寝ていたいのじゃ!」 『烈に体躯を返してやれよ! ゴールデンウィークの真っ只中だぜ? 起きたら観覧車は終わってましたは可哀想だろ?』 「そう言うのならもう一周こっそり回せ! そしたら烈に変わってやろうぞ!」 『仕方ねぇじじぃだな、解ったよ! もう一周回れる様に少しだけど観覧車を進めるとしよう! そしたら丸々一周烈の時間にするがよい!』 「なら我は烈の中へと還るとするかのぉ~」 そう言うと烈がガクッと倒れた様になり、静かに目を醒ました 大空は「れちゅ‥‥らいじょうび?」と心配して尋ねた 自分が無茶な事を頼んだから烈は倒れたのだと心配していたのだった 「にーにー、らーじょーぶ」 「れちゅ‥‥ちんぱいした」 「にーにー、らいしゅき」 「れちゅ!」 大空は烈を抱き締めた 人々は何の疑問も違和感もなく‥‥ 観覧車に乗っていた 係員も二週目だと気付く事なく入場者を並ばせていた こうして観覧車の時間は静かに流れて逝った 弥勒は康太に『烈は目を醒ました』と告げた 「ありがとう弥勒」 『お主が幸せならば我はそれでよい!』 「また甘露酒を持って逝く」 『待っておる 楽しく過ごせ』 「ありがとう弥勒」 弥勒は優しく風になり康太を抱き締めると気配を消した 一生は「おめぇの子はどの子も優しいな」と謂った 「痛みも悲しみも知っているからな‥‥」 だから人は優しくもなれるし 冷酷にもなれる 「最高の贈り物だったろうな京香と瑛兄さん」 「だと良いな 烈が骨折り損だと可哀想だかんな」 「大丈夫だ、烈や大空の想いは届いてる」 一生の言葉に康太は静かに笑った 観覧車から下りると烈は起きていた 母を見つけると烈は康太の胸に飛び込んできた 康太は烈を抱き上げ 「お疲れ烈」と労を労った 「かーちゃ‥はらへっちゃ」 「うしうし!これからホテルに向かうとするか!」 「らめ!いみゃたべゆ」 康太は慎一に「今食べるって烈が譲らんから何かねぇか?」と尋ねた すると慎一はリュックの中から甘いミルクパンを取り出して烈に渡した 烈は大好きなミルクパンを貰ってご機嫌でそれを食べていた 力を使うと腹が減るのだ 烈も例外ではなく腹減りさんだった 一生はミルクパンをパクつく烈に 「ディナー食えるのかよ?」と問い掛けた すると烈は「べちゅびゃら!」と答えた 家族は爆笑した 観覧車から下りて山下公園まで歩いて移動する 今回もSPが同行していた 以前よりも多いSPは真矢と清四郎、そして笙も護る様に歩いていた この厳重な体制で容易に近付いて来れる奴はいなかった 皆が遠巻きに別世界の風景を見る様に眺めていた 康太はそれに関せず目的地へと歩いていた ホテルに到着すると、先にレストランへ向かいディナーを食す 楽しい一時のまま、先にチェックインの手続きを済ませた慎一に部屋のキーを貰い受けた それぞれの家族に分かれて部屋を取ってあった そのカードキーを渡した だが‥‥聡一郎や隼人、慎一、一生の部屋のキーは取ってないのか?貰っている風はなかった 玲香は「一生、お主達は何処で泊まるのじゃ?」と問い掛けた 「俺?俺等は康太と伊織の部屋に泊まる予定だぜ?」 「新婚の邪魔をする気か?」 「子供は伊織と康太と寝る約束だからな 俺等は子供が寝た後に隣のベッドに避難させねぇと危ねぇからな、移動させるんだよ その後はソファーにでも寝るつもりだ」 一生はサッと謂った 真矢は「子供達は両親と寝るのですか?」と問い掛けた 「あぁ、前からの約束だからな一緒に寝る だが康太は寝相が悪いかんな‥‥被害が出るから寝たら移動するんだよ 伊織ももう限界だかんな‥‥寝させてやらねぇとダメだしな」 一生は二人を休ませてやりたくてソファーに寝てでも、子供達の想いと、康太と伊織の睡眠を護るつもりだった 真矢は「なれば子供達が眠るまで私が見ましょう、貴方達も眠りなさい」と提案を出した 頑固な子達は聞かないだろうと解っていて‥‥ それでも申し出たのだった 一生は「真矢さん大丈夫だ!俺は二人を眠らせてやりてぇからな人は少ねぇ方が良いんだよ」とやはり頑固な子は謂うのだった だが飛鳥井の女も一筋縄ではいかない! 実力行使あるのみと家族は言葉を飲み込んだ 延々と押し問答している訳にもいかず家族はエレベーターに乗り込んだ 眠気マックスの榊原は寡黙に歩いていた とにかく寝かせろ!オーラが凄かった 部屋の階に到着すると榊原はドアキーを差し込んで部屋へと入った 子供達に「さぁ寝ますよ!翔、君は寝てないでしょ?流生、音弥、太陽、大空、烈、父と共に寝ますよ」と言い寝る事を告げた 「あい!」 翔は返事をするとベッドに上がった 康太が眠そうに翔を抱き締めると、他の子もベッドに上がり康太に抱き着いた 康太の横に榊原も横になると子供達は嬉しそうに父にも抱き着いた 母と父に抱かれて眠る 子供達は両親の温もりを感じて眠りについた あっと謂う間に寝息を立て始めた子供達を隣のベッドに移して上掛けを掛ける 抱き合う康太と榊原に上掛けを掛けて、一生は子供達の枕元のライトだけ暗めに着けて、部屋の電気を消した 寝室から出ると瑛太や清隆がソファーに座っていた 聡一郎と隼人の姿はなく 「あれ?隼人と聡一郎は?」と問い掛けた すると清隆が「眠りに行かせました!」と答えた 瑛太が「隼人は転た寝してましたからね、母が『添い寝をしてやろう!』と言い連れて行きました だから多分、聡一郎と隼人は母さんが添い寝して寝かせてますよ」 と説明した 一生はこの裏切り者!と想った 瑛太は「君も寝なさい」と優しく謂った だが一生は「康太がいる所に俺はいたいので‥‥」と答えた 瑛太は携帯を取り出すと 「やはり母さん一生は頑固者でした」と告げた 受話器の向こうでは爆笑する声が響いた 『なれば、その部屋で飲むしかないわな』 「今慎一が準備して持って来るので、この部屋で飲みましょう」 『それしかないわいな』 瑛太は電話を切ると「父さん、お酒、買いに行きますか?」と問い掛けた 清隆は「そうですね、少し買い物に出ます。一生は休んでなさい」と言い立ち上がった 一生はカードキーを瑛太に渡し、二人を見送った ソファーに座って待ってる間に知らぬ間に寝てしまった 転た寝していると冷たい手が‥‥ 一生の頬を撫でた 一生は目を開けると‥‥ そこには聡一郎がいた 「寝たんじゃねぇのかよ?」 「僕の眠りは浅いのですよ‥‥」 「隼人は?」 聡一郎は浴室を指差し 「シャワーを浴びてます」と説明した 「俺もシャワー浴びて来ようかな?」 一生がそう言うと隼人が浴室から出て来た 「入るのだ一生! 目がめちゃくそ醒めるのだ!」 隼人はご機嫌でそう言った 一生はバッグを取りに行くと着替えを取り出した そして浴室へと向かった 一生が浴室に消えて直ぐの頃、ドアがノックされて聡一郎はドアを開けに逝った ドアを開けると清隆と瑛太が玲香と京香と真矢と清四郎を連れて立っていた 手には物凄い荷物を持っていたので、聡一郎は慌てて荷物を持った 隼人も荷物を持ちに行きテーブルに並べた 一生がシャワーを浴びて出て来る頃には、すっかりと宴会が出来ていた 力哉が一生の濡れた髪をタオルを奪うとゴシゴシ拭いた そしてある程度水分を拭き取ると洗面所へと向かった ドライヤーで髪を乾かしてやっていた 力哉は笑って 「一生は本当に犬みたいだね」と言った 何時もお風呂から出て来ると犬みたいにブルブル振って吹き飛ばそうとするのだった それを押し止めて力哉は何時も一生の髪を乾かしてくれるのだった 一生は仕事で皆と合流が遅れた力哉に 「いつ来たの?」と尋ねた 力哉は「瑛兄さんが迎えに来てくれたんだ!」と答えた 力哉はゴールデンウィーク最終に行われるレースに入る馬の調整の為に休日返上で調整に入っていたのだった 今回のレースには天才と謂われた藍崎一樹の弟子とも謂える騎手が藍崎の育てた馬に乗るのだ 注目度は相当なもので、力哉は加熱するマスコミ合戦に目を光らせつつ、圧制を掛けねばならず動き回っていた それを知っているから一生は落ち着くまでは‥‥と力哉が動きやすいであろう為にサポートに入っていたのだった 力哉は笑って「ゴールデンウィークだからね僕も後半戦は加わって楽しむつもりだよ」と答えた 一生は「レースは良いのかよ?」と問い掛けた 「もう賽は投げられたからね、後は僕の出る幕はないよ だからやっと休暇に突入出来るよ」と言い笑った 一生と力哉が部屋に戻るとソファーを取り囲んで家族は飲み始めていた 一生は「笙夫妻は?」とそこにいない存在を口にした 真矢は「‥‥明日菜はもう寝てるわ、だから笙が美智瑠と匠を寝かせてるわ」と説明した 一生は携帯を取り出すと「笙さん部屋に来ませんか?」と電話を入れた 「一生、明日菜が寝てるから‥‥」と笙は言った 「美智瑠と匠を連れて部屋に来てください」と言い一生は電話を切った 真矢は「一生?」と何故笙を部屋に越させるのか?不安になり名を呼んだ 「笙も息抜きは必要ですよ 康太が俺に遠回りでお使いに行けと命じたんです で、お使いに行った先で‥聞こえてしまったんですよ‥‥あの二人喧嘩してました 笙も大分弱ってますから、子供は康太の子と同じに寝かせておけば良いんですよ」 その説明に真矢は納得がいった 暫くしてドアがノックされた 一生がドアを開けに行くと笙が子供達と一緒に立っていた 一生は美智瑠に手を差し出し 「子供は寝る時間だぜ?」と言った 美智瑠は頷き匠の手を握った 一生は子供達と手を繋ぐと笙を部屋に招き入れた 「慎一、頼む」と言い一生は寝室に美智瑠と匠を連れて言った 寝室に行き流生達の横に寝るように謂う 美智瑠は流生の横に寝ると匠も寝かせた 「かじゅ、あいがと」 美智瑠は一生に礼を述べた 「おめぇらの両親が喧嘩してるの知ってたからな‥‥」 「あれはね、かーさんがわりゅい‥ かーさんはにゃんでも、ひとりでやろうとちゅるきゃら‥‥」 一生は明日菜の性格を思い浮かべて 「だな、アイツは何でも一人で背負うとするからな‥回りにいる奴は堪らねぇよな」と美智瑠の言葉に解ると示した 「かーさん‥‥ないてた」 「でも泣いてる所を見せたくねぇから部屋に閉じ籠るんだろ?」 「かじゅ‥‥しゅごいね‥‥なんれわきゃるにょ?」 「佐伯との付き合いは長いからな‥‥だがな美智瑠、アイツはもっと頑なで酷かったんだぜ! だがお前の母になり、アイツは変わった だがな、人間んなに変われるもんじゃねぇんだよ だから解り合う為に喧嘩もするさ だからおめぇは何も心配しなくて大丈夫だ」 「かじゅ‥‥ありぎゃと」 「寝ろ!匠も不安がってる 兄ちゃんが不安だと弟はもっと不安なんだぜ? だから寝ろ!弟を安心させてやれ!」 一生が謂うと美智瑠は匠を抱き締めた 流生が美智瑠を抱き締めて 「らいじょうびらよ」と慰めていた 何時しか美智瑠の寝息が聞こえ、一生は寝室を出て行った 部屋に戻ると家族は何も言わず飲んでいた 笙もコップを貰い飲んでいた 一生は笙の横に座ると 「夫婦喧嘩はさ、子供が見てねぇ場所でやりがれ!」と文句を言った 笙は一生を見て「美智瑠が言ったの?」と問い掛けた 「見てたんだよ俺 おめぇらが喧嘩してるのを見てたんだよ 美智瑠は泣きそうな顔で匠を護って立っていた おめぇ、子供はおめぇらを見てるのを知ってて喧嘩してたのかよ?」と問い掛けた 笙は言葉もなかった 一生は「原因は?」と問い掛けた 笙は重い口を開いた 「明日菜が妊娠しているのですが、もう子供は要らないと中絶するって言い出したんです」 「何で、んな事言い出したか解らねぇか?笙」 「明日菜は焦っているのです 飛鳥井には出来る秘書がいます 食らい付いて逝く為にはもう妊娠していられないと‥‥言い出したんです 僕は‥‥産んで欲しかった‥‥今も産んで欲しいと想っている‥‥」 一生は男の自分が何とか出来る領域ではないと玲香と真矢を見た 京香は立ち上がると笙に 「明日菜を呼んで下さい」と口にした 「京香?」 笙は京香の名を呼んだ 「笙、明日菜が呼べないのなら‥ 子が産めなかった母の気持ちが解りますか?と伝えて下さい お子を亡くした母の気持ちが解りますか?とお伝え下さい」と静かに言った 笙は言葉もなかった 京香に謂われたが‥‥笙は動く事が出来なかった 明日菜は頑なだ 一度言い出した事を曲げたりは絶対にしない 真矢は玲香を見て 「姉さん‥‥呼んで来て貰えませんか?」と口火を切った 玲香は「何故我じゃ?」と尋ねた 行かぬ訳ではないが‥‥他所様の私情に口を出すには理由がいるのだ 真矢は「姉さん、私は姑です。私が謂えば角が立つ事もあります」と説明した 嫁と姑と謂う関係は飛鳥井では成立せぬ世界なのだろうが‥‥ 嫁の立場として生きた そして姑の立場として生きている玲香なれば真矢の気持ちは理解出来ていた 玲香は立ち上がると 「誠‥‥真贋がおらぬと不便よのぉ‥‥」とボヤきつつも笙に「キーを寄越すがよい!」と言い キーを貰い受けると部屋を出て行った 一生は「美智瑠が俺にありがとうと礼を言っていた 美智瑠はやっぱ転生した魂だけの事はあるよな? 総てを冷静に見てる そして今回の事も明日菜が悪いと理解している 下手したら笙よりも事態が飲み込めているんじゃねぇか?」 とキツい一撃を食らわせた 笙は言葉もなかった 笙からキーを貰い受けた玲香は、笙の部屋へと向かった 部屋のドアに立ち止まると、キーを差し込みドアを開いて部屋に入った そして寝室をノックすると 「飛鳥井玲香が参った! 入るとするがよいか?」と単刀直入に申して寝室のドアを開けた ベッドに突っ伏していた明日菜は顔を上げて玲香の姿を驚愕の瞳で見ていた 「‥‥何故‥‥」 「それを聞かねばならぬ! だから我と共に康太の部屋に来るのじゃ! だが康太は寝ておる 話があるのは京香じゃ!」 「京香?」 「京香からの伝言じゃ お子を亡くした母の気持ちが解りますか? との事じゃ! 納得の逝く説明をせねば京香は引かぬ それが飛鳥井の女だと謂う事を努々忘れるでない! お前が姉の様に慕っている女は飛鳥井の女じゃ! 納得が逝かぬのならあの世の果てまで逝き納得するのが定め お主は‥‥京香に説明せねばならぬ そして喧嘩を目撃した一生にも説明せねばならぬ! そして母の身を案じている美智瑠にも、な 逃げて閉じ籠っておっては話し合いにもならぬ それは夫にも我が子にも失礼であろうて!」 明日菜は言葉もなかった 「さぁ、来るのじゃ!」 そう言われれば逝くしかなかった 明日菜は身を整えると、玲香と共に部屋を出て逝った 玲香は何も謂わず康太の部屋に明日菜を案内した そして明日菜をソファーに座らせると 「一生、連れて参ったぞ! 本当にお主は主に似てお節介焼きだのぉ!」と笑った 一生は苦笑して明日菜に 「おめぇさ喧嘩するなら美智瑠や匠がいない場所でやりがれ!」と怒った 明日菜は「何で知って‥‥」と一生に尋ねた 「おめぇは何処で喧嘩してたよ?」 喧嘩してたのは人気のない場所だったが‥‥隣には不安そうな顔をした我が子がいた‥‥ 「俺は康太に謂われて、わざわざ遠回りして逝かなきゃならなかった! そして遠回りした所にはお前達が喧嘩していた これは何とかしろ!と康太からの差し金だと想った アイツ達は眠るけど、お前が何とかしろよ!と言う指示ならば、俺はこの命に変えたとしても、それをやり遂げねぇとならねぇ!」 一生は説明した わざわざ遠回りしてジュースを買ってこいと言った康太の真意はこれなのだと想った 一生は「佐伯、おめぇお子が腹にいるんだろ?」と回りくどい事は省いて言った 明日菜は表情を曇らせた 京香は何も謂わず明日菜を見ていた 一生は「おめぇさ、京香が今も悲しんでるの知ってるよな? だから大空が観覧車に乗りたいと言い出したの知ってるよな? ならばおめぇは京香を愚弄しているって何故気付かねぇ?」と言い聞かせる様に言った 明日菜は「ごめん‥‥一生、ごめん姉さん」と言い謝った 「謝罪は要らねぇよ! おめぇが腹の子を要らねぇと謂うならば、俺は朱雀に謂って貰い受けてやる! 要らねぇと想ってる親の所に産まれる方が不幸だかんな!」 「一生‥‥」 「子を亡くした母を、おめぇは弄ぶ様な事をして追い討ちをかけてるって何故気付かねぇ? ならば‥‥輪廻を司る朱雀よ! 佐伯明日菜のお子の命をお前に預けよう!」 一生が謂うと何もない所から兵藤が姿を現した 【なれば、その命!朱雀が預かろう!】 兵藤はそう言うと朱雀に姿を変えた 燃え盛る焔に身を包み、無限の力を秘めた鳥が明日菜を見た 【腹の子は双子だ 榊原笙は双児を妻に授けた】 神々しい声が脳裏に響き渡った 一生は「双児か、手が掛かるわな、それは」と皮肉に嗤った 朱雀は【なれば榊原明日菜、その子は朱雀が貰い受けよう!】と明日菜の腹に手をかけようとした時‥‥ 明日菜は腹の子を庇った 取られたくない!と想った 我が子を庇う母性がそうさせたのか?は解らない だが‥‥この子は私の子だと明日菜は腹を庇った なのに‥‥‥朱雀の手には光り輝く魂が二つ 既に手にしていたのだった 【我は魂を司る神! 幾ら腹を庇おうとも、魂は我の手中にある!】と宣言した 明日菜は「返して下さい!」と訴えた 朱雀は無情にもや【要らぬのだろ?】と問い掛けた 要らないと笙に言ったのは自分だった だけど本当に奪われてしまう今‥‥ 我が子が愛しかった 我が子を護ろうとしていた 明日菜は泣きながら 「お願いです‥‥返して下さい!私の子です」 と訴えた 【要らぬと想う母の元に生ませる方が不幸であろう?】 秘書として生きてきた 飛鳥井康太に拾われた日から、彼の為にだけ生きてきた それこそが己の生きる総てだと生きてきた だが‥笙の妻となり、母となり‥ 秘書として生きれない自分に焦っていた 秘書に戻った今‥‥ スキルの違いを見せ付けられ‥‥ 食い付こうと必死だった そんな時に妊娠を知り‥‥焦っていた そして揺れた この子さえいなければ‥‥と想った 母親失格だ だが引き下がる訳には行かなかった 母親として子を奪われる訳には行かなかった 「子は‥‥渡しません!」 【中絶する気だったのに?】 痛い所を突いてくる 神って奴は‥‥容赦がないのかよ?と明日菜は想った 「私は人間だ、愚かな人間だ だから揺れるし、間違った判断をする時だってある! だが私は母親だ! みすみす我が子を奪われる訳にはいかない!」 【お前はお子を亡くした京香の気持ちを考えた事があるか? 京香の心は今も元気に生んでやれなかった後悔と、幸せを感じさせずに逝かせてしまった我が子への懺悔と後悔で一杯だ それでも京香は精一杯、飛鳥井の女として生きている 飛鳥井の女は弱音は吐かねぇ 血反吐を吐いたとしても弱音は吐かねぇ! それが飛鳥井の女だ! そんな京香の気持ちを考えた事があるのか? お前は他にねだるばかりで、そんな優しさに甘えて‥‥京香の傷に塩を塗ったんだ!】 「ごめんなさい‥‥ごめんなさい姉さん‥」 明日菜は謝った 京香は「もうよい貴史‥‥もうよいのだ」とこれ以上は責めてやるなと言った 「だがな京香、アイツは許しちゃいねぇんだよ! だから今、俺が此処にいるんだ!」 朱雀の言葉に家族全員顔色を変えた 明日菜も涙で霞んだ瞳を見開き‥‥朱雀を見ていた 明日菜は床に崩れ落ちた それを笙が支え抱き締めた 朱雀は掌に光り輝く魂を見せた 【この魂は元は一つの細胞から二つに分かれた双児 故に互いを欲し、互いを感じて生きて逝くだろう だがペナルティだ佐伯明日菜! お主は我が子を要らぬと言った だからお主が我が子を欲したとしても、どちらか一つしかお主には還せはしない!】 笙は「俺の子です!どちらも俺の子なのに‥‥一つしか返しては貰えないのですか?」と問い質した 【ペナルティだからな! 要らぬと申したお子を完全に返したのであれば‥‥罰にはならぬではないか!】 明日菜は「ならば‥‥もう一つの魂はどうなるのですか?」と尋ねた 【魂の行方は知らぬともよい! それがお主が導いた愚かな罪だと悔い改められよ!】 要らないと言わなければ産んでやれた子を‥‥ 己の愚かさに明日菜は夫に謝った 「ごめん笙‥ごめんなさい‥‥」 「明日菜‥‥君の焦りは知っていたのに‥‥なにもしてやれなかった僕も同罪だよ」 笙は妻を強く抱き締めた 朱雀は二つ乗った魂を笙と明日菜の方に差し出した 【選ばれよ!どちらのお子を腹に宿すかを!】 選べと謂われて選べるモノではない 笙は選べなかった 明日菜も選べなかった すると美智瑠が寝室から出て来て‥‥朱雀の掌の中にある魂をじーっと見つめた そして「じゃぁ君が弟だね」と謂うと 一つの魂を手にして母の腹へと魂を戻した そしてもう一つの魂を手にすると京香の所へゆっくりと歩いて行った 「京香、お子を育てる気はあるか?」 その声は‥‥美智瑠の声ではなかった 「お子‥‥私は産めるのでしょうか?」 「この子なれば産める‥‥もう辛い目に合わせはせぬと真贋の言葉じゃ!」 「なれば、そのお子を貰いましょう」 京香が謂うと美智瑠は京香の腹の中へ魂を戻した 「真贋からのペナルティじゃ! 己の愚かさを別々に産まれるお子を見て噛み締めよ!とのお言葉じゃ! さてと、わしは美智瑠の中へ還るかのぉ‥」 ふぉふぉふぉと笑って美智瑠の中へと声の主は消えた だが美智瑠は意識が戻っても確りとした瞳で家族を見ていた そして一生に「かじゅ あいがと」と礼を言った 一生は美智瑠の頭を撫でた 「こんな事しかしてやれねぇけどな」 その言葉を美智瑠は静かに首を振った 「かじゅはちゅごいよ」 「誉めるなよ!照れるじゃねぇか!」 一生はそう言い笑った 美智瑠は朱雀の傍に逝くと深々と頭を下げた 「ごちょくろかけまちた」 ご足労かけました、の言葉に朱雀は兵藤貴史の姿に戻った 「気にすんな!俺の魂は炎帝と共に在る! アイツが望むならば俺は何処へでも逝くと決めている!」 「しょれでも、あいがとういいましゅ」 兵藤は美智瑠を抱き上げると 「でかくなったな美智瑠」と笑って、美智瑠を抱っこしたまま空いてるソファーに座った 「ひょーろーきゅん」 兵藤は美智瑠の手を取ると、手の甲の十字架に口吻けを落とした 「これでよかったか?」 「あい!よきゃったれす」 「弟を分けてもか?」 「きえりゅよりは‥‥まちれす」 兵藤は美智瑠の頭を撫でて 「おめぇは‥‥本当に炎帝が与えた魂だな」 と言った 明日菜は泣いていた 笙も泣いていた だが己の不甲斐なさに動く事も出来ずにいた 「ひょーろーきゅん ひとにょいのちはびょーろーじゃにゃいにょ」 「難しい事知ってんじゃんか」 人の命は平等ではない それを子供が謂って良い台詞ではなかった 「おやぎゃ‥‥のじょまにゃいのは‥‥ころもぎゃいちびゃんわかりゅにょね」 親が望まないのは子供が一番解るのね‥‥と謂われて兵藤は言葉を失った 美智瑠は兵藤の膝から下りると、床に蹲る両親の所に歩いて行った 美智瑠は母の頬をペシッと叩いた 笙は母を叩いた美智瑠を止めようとした が‥‥美智瑠は父もペシッと叩いた 「ふたりは‥‥わがきょをころちたも、どうじぇんらから‥‥」 「美智瑠‥‥」 「ぺなるちぃーらから‥‥ひとり‥‥ちゅくなくなっちゃ‥‥」 笙は美智瑠を抱き締めて 「ごめんな美智瑠」と謝った 「とーしゃん 」と美智瑠は父に抱き着いた 明日菜も「ごめんな美智瑠」と我が子に謝った 「かーしゃんは なんれもひとりでやりょーとしゅる かーしゃんは‥‥かじょくいらいにょ?」 「要らなくなどない! 笙も美智瑠も匠も私の大切な家族だ! 飛鳥井康太が私にくれた家族だ!」 「にゃら もっちょたよるにょ‥‥ かーしゃんはかじょくをきょじえっしてりゅんらよ、わかっちぇ‥」 美智瑠はそう言い意識を手離す様に、目を閉じ動かなくなった 「美智瑠!美智瑠どうしたのだ?」 明日菜は慌てた 兵藤は「寝てるんだよ!」と明日菜に言った 明日菜は「お主が何かしたのではないか?」と言った 「俺は何もしてねぇよ! 俺の総ては炎帝と共に在る! 炎帝が望まぬ事などしやしない! 失礼な!俺を害虫か何かみたいに謂うな!」 兵藤はプンプン怒っていた 兵藤は「佐伯、美智瑠の言葉は届いたのかよ?」と逆に問い掛けた 明日菜は「私は‥‥焦っていたのだ‥」と静かに話を始めた 「飛鳥井に新しい秘書が来た 私が飛鳥井康太の秘書なのに‥‥自由に動けぬもどかしさがあった そんな時に妊娠を知った 私はまた皆から遅れを取るのかと想って焦った 子を‥‥堕胎(おろ)そうと考えた‥‥ 笙や家族に相談する事なく私は結論を出そうとした 笙の気持ちを知らずに‥‥美智瑠の気持ちを考えずに‥‥匠の不安も知ろうとせずに‥ 愚かな事をした 京香姉さんの気持ちを踏みにじり‥‥」 明日菜は悔しそうに言い泣いていた 笙は明日菜を抱き締めて 「僕も‥‥君は頑固だからと話し合うのを止めてた 僕もいけなかったから‥‥我が子を亡くした そして京香も苦しめた‥‥ すまなかった京香‥‥君を苦しめて、本当にすまなかった」 笙は詫びた 京香は「謝るでない、我は大空に優しさを貰った‥‥我が子とのお別れも出来た‥‥ そして今日、康太にお子も戴いた 我は今度こそ‥‥離しはせぬ‥‥ 我の手で育てると決めておる 琴音への想いも、未来への想いも‥‥総てを引っ括めて我はお子を育てると決めたのじゃ! お腹の子は愛する瑛太の種でないのが残念だが、瑛太はそんな瑣末な事を気にせず愛してくれると信じておるからの」 飛鳥井の女は強いと想った 凛として嗤う姿は飛鳥井玲香の様に芯が強く挫けない 瑛太は「京香、康太が采配したのなら、それは私達のお子なのですよ! 笙の種なのは心配ですが、そこは私とお前が曲がらぬ様に育てて逝けばよいだけの事」 と謂ってのけた 失礼な事を言ってる夫婦だが‥‥ 笙は反論も出来なかった 玲香は笑った 真矢も笑っていた そして‥‥‥何時来たのか‥‥康太も笑っていた 「貴史、世話をかけたな」 「気にすんな! 魂を司るのは朱雀が役目 二つの魂は俺の手中に在る! 苦しめれば何時でもその魂は奪い取るのは容易い事だ!」 気にすんな!と言いつつも、朱雀が役目を貫く兵藤だった 「あぁ、その時は止めねぇから飛鳥井の一族の輪廻に入れて転生させてくれ!」 「了解!」 話しは着いたの、それ以上話す事はなかった 康太は笙の顔を見て 「朱雀の手中に在る魂はオレではどうも出来ねぇかんな! 消さねぇ様に育てて逝けよ! でなくばその魂は飛鳥井の者として転生さる事とする!」 吐き捨てる様に康太は言った 笙は「消させる日など来ない!」と言い切った 「だってさ伊織」 康太が謂うと榊原が「そうですか、僕が消し去ってやろうと思ってました」とサラッと謂った 笙は「おい、伊織‥‥」と弟の名を呼んだ 「兄さん、子殺しは大罪ですよ? 魂が宿った命を消すって事は、命でもって償わねばならない罪なのです 努々忘れる事なく叩き込んでおきなさい!」 「はい。二度と子を消そうなんて想いません」 「兄さん、貴方は生まれ来る魂を選別した この後のお子はもう‥‥授かる事はないでしょう! 朱雀が出て来ぬば鬼子母神が子を奪いに来る所でした‥‥ 流産して跡形もなく消えてなくなる所でしたよ なので一人少なくなったとしても‥‥文句は言えませんよね?」 鬼子母神が子を奪いに来る所でした‥‥? そんな夢の様な話し‥‥本当にあるのか?と笙は想った 康太は静かに口を開いた 「子を要らぬと謂う想うや迷いが、鬼子母神を呼び寄せる そんな鬼子母神がお子を奪いに来る時もある 堕胎(おろ)そうか‥‥と悩んでる時こそ鬼子母神は子を狙う 狙われていたんだよ明日菜の迷いが鬼子母神を引き寄せた だから一生は朱雀を呼ぶ事しか出来なかったって事だ!」 康太の説明に一生が朱雀を呼び寄せた経緯を知った 自分達の愚かさが‥‥最悪の事態を招いたと謂う事だった 明日菜は悔やんだ 康太は明日菜に 「んなに焦らなくても、おめぇは大丈夫だって謂ったじゃねぇか? オレの言葉が信じられなかったか?」 「違う‥‥私が‥‥自分であの人たちと自分を比べて落ち込んでいただけ‥‥ 私は‥飛鳥井康太の誇れる秘書でいたかった‥‥」 「今も昔も佐伯明日菜はオレの誇れる秘書だぜ? オレにとっておめぇは替えの効かねぇ秘書だ! 美智瑠を産んでくれた人でもある‥‥ そんなおめぇをオレが切るとでも想ったか?」 「‥‥ごめん康太‥‥西村達は有能だから‥‥もっと勉強してもっと役に立とうと想っていたんだ‥‥」 「子を育てるのは無駄な時間じゃねぇ 本人の了承も取ったからな話す 西村達秘書達は男運がなくてな、嫉妬深い男ばかりを選ぶのか? 男を狂わすから堕落したロクデナシになるのか は解らねぇが‥あの三人は夫に暴力をふるわれて全身ポキポキになって病院に運ばれる程の怪我を何度もおっていたんだ そんな日々生活に疲れて死のうと考えて‥‥何度も何度も自殺を繰り返した 死ねない自分を呪った事もある そんな時、竜ヶ崎斎王が要らない命なれば私に寄越しなさい!と拾って英才教育を叩き込んだ 地獄にいたアイツらを拾って生かしたのは竜ヶ崎斎王だ! アイツ等は救われた命を悔いなく生きるのに必死なんだよ アイツらは今を生きる為に己を磨いている 後で後悔はしたくない! それがアイツらの考えなんだよ! だからさ佐伯、子育ての時間は無駄な時間じゃねぇ! スキルが欲しいなら腹が大きかろうが、子が産まれようが習得は可能だろ? 子は足枷にはならねぇよ 足枷をはめてるのは己なんだよ だから元気な子を産め 今はそれだけ考えて家族を護れ! 仕事はそんなお前の自信の先に見えて来る未来だ 焦らなくても飛鳥井はなくならねぇし、戦力は沢山必要だ! 子供を産むまで働け! 子供を産んだら、保育所に預けて働け! だからおめぇはグダグダしてる時間なんてねぇんだよ! 出産と育児休暇の間だけしか学べる時はねぇんだぜ?」 「康太‥‥私は何を不安に想っていたんだろ?」 「話せば片付く事でも、おめぇは溜め込むからな事が簡単な事もあると知らねぇとな」 「すまなかった自分で自分を追い詰めていた」 「子供は一人減ったが‥‥育てて逝けるか?」 「はい!この命に変えても育てて逝きます!」 「なら立ち上がれ! 前を向いて歩き出せ!」 「はい!」 もう弱気な明日菜ではなかった 康太は明日菜の傍を離れると、京香の傍へと向かった 「京香、良いのか?」 康太は尋ねた 京香は綺麗に笑った 「康太にお子を授かったのだ、嬉しいに決まっておる」 「もう哀しみは増やしたりしはしねぇ‥‥‥」 「康太、大空がくれた優しさを我は忘れはせぬ‥‥ お主の子は優しい‥‥我もお主の様に優しい子を育てようと想う」 「育てられるさ オレの子達からママと呼ばれてるおめぇだからな!」 「康太‥‥嬉しいのだ」 「瑛兄の子じゃねぇけどな」 「それなら大丈夫じゃ! 瑛太は瑣末な事など気にはせぬ! 康太が示した道ならば受け入れられる器は兼ね備えておる」 「オレは誰よりも京香を幸せにしてやると謂ったのにな‥‥哀しませてばかりいるかんな‥‥」 「何を申す、我は幸せじゃ! 愛する夫と共にいられる お義母様もお義父様も康太の子供も仲間も我を気にかけてくれる 我は幸せ者じゃ‥‥ 康太、お主がくれた我の幸せなのじゃ‥‥」 哀しみも‥‥ 苦しみも‥‥ 乗り越えられるからこそ与えられる試練だと想おうとした 試練なれば乗り越えられぬ訳がない‥‥と想おうとした それでも‥‥哀しみに足が竦む時もある 歩み続けられぬ時もある だが支えてくれる夫がいる家族がいてくれる 支えてくれる康太の仲間がいてくれる だから京香はそんは優しさに支えられ生きているの知っていた 「康太、ありがとう」 「あんだよ?急に?」 「我にお子を‥‥託してくれてありがとう」 「その子はおめぇが育てる子だ どんな子になるかはおめぇ次第だ、好きに育てろ!」 飛鳥井の枠に囚われぬ子だから、お前の好きに育てろと言ってくれた 京香は嬉しそうに笑って 「康太の授けてくれた子だから、瑛智と仲良く育って欲しい‥‥ そして何時か‥瑛智を助けて生きて欲しいと想っている」 「ならそうやって育って逝くさ お前の愛で育ててくなら、そうならねぇ訳がねぇじゃねぇかよ!」 康太はそう言い笑った 京香はお腹を擦った 我が子の息吹を感じて、瑛太も京香のお腹を撫でた 家族が一人増えた瞬間だった 明日菜はそんな瑛太と京香を見ていた 幸せそうな二人を見ていた そして自分も誰よりも幸せにならねば想う 「笙、私を誰よりも幸せにしなさい!」 プロポーズの言葉をもう一度謂われて笙は笑った 「幸せにしますよ 誰よりも幸せにします!」 「ならお腹の子は一人減ったけど、その子の分も愛してあげないとね」 「愛するよ‥美智瑠も匠も‥‥この子も明日菜も愛するよ」 笙が謂うと榊原が「惚気は自分の部屋で謂いなさい!」と怒った 笙は笑って弟に「ありがとう」と謂った 兵藤や一生にも「君達も本当にありがとう」と頭を下げた 兵藤は「俺は康太の顔を見に来ただけさ」と気に止めず 一生は「俺は美智瑠が笑ってるなら、それで良い 美智瑠が苦しんでると烈が俺に何とかしろ!と顔に乗って来るからな 俺は何度、アイツに殺されそうになっか解らねぇよ!」と事情を話した 康太は「烈だからな」と謂うと一生は諦めた口振りで「あぁ、烈だもんな」と口にした 兵藤も「烈なら仕方ねぇか!」と笑っていた 黙って見ていた慎一は、美智瑠を抱き上げると寝室に連れて行った そして戻って来た時には烈を抱っこしていた 「起きてました‥‥」 と謂い慎一は烈を榊原に渡した 榊原は烈に「呪文を使ったんですよ?疲れてませんか?」と問い掛けた 「ねちゃ」 と烈は答えた 寝たから体力は満タンだと謂いたげな言葉だった 榊原は笑ってデザートを烈に渡した 康太は「明日は若旦那と船で一泊して翌日はオーケストラだけど、おめぇはどうする?」と尋ねた 「やる事は終わったからな、同行するさ」 と兵藤は言った 「でも着替えがねぇからな‥‥」 「なら明日の朝に着替えを取りに行けば良いさ」と簡単に謂ってのけた 「ならそうする!」 兵藤はそう言い同行を決めた 飛鳥井の家族も榊原の家族も何も言わなかった 一人増えても二人増えても対して変わらないからだ ゴールデンウィーク 6日目の夜はこうして更けて行った 結構濃い1日がやっとこさ終わりを告げたのだった

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