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第91話 ゴールデンウィーク 2019 ③
ゴールデンウィーク 7日目
康太達はホテルで軽いランチを取ると、一旦家に帰る事にした
戸浪との約束の時間は午後6時に逗子マリーナで待ち合わせとなっていた
兵藤は一旦家に家に着替えを取りに帰った
榊原は一晩留守にしていたとあって、帰宅するなり始めたのは掃除だった
洗濯機に康太と子供達の洗濯と自分の洗濯物を入れて回すと三階から掃除に取り掛かっていた
廊下や子供部屋は特に念入りに掃除して、二階へと移る
二階は瑛太夫妻と一生達の部屋があるから廊下と共有スペースの掃除をして植木に水をやり
一階へと下りる
一階は応接間の他にキッチンや客間、源右衛門の部屋もあり
榊原は先にキッチンと客間と応接間を掃除して、源右衛門の部屋に取りかかった
掃除を終えると、家に帰る前に花を買ったので
仏壇の花を変えて、線香を点し
源右衛門に挨拶をした
榊原と慎一の日課だった
慎一は源右衛門の部屋に顔を出すと、変えられた花を見つけ仏壇に手を合わせた
「何か手伝う事はありますか?」
慎一は尋ねた
「応接間の掃除機は終わったのですが、ローラーがまだなのでお願いします」
榊原が謂うと慎一は源右衛門の部屋を出て行った
榊原は「源右衛門‥‥来年年が明けたら‥‥子供達に(総てを‥)話すつもりです‥‥
どうか‥‥御守りください」と縋る想いで口にした
榊原もやはり不安なのだ
その日が来るのが怖い想いが日々募ってしまうのは仕方がない事だろう
その不安を‥‥口にして覚悟を強める
あの世の源右衛門は不甲斐ない奴め!と怒るだろうが‥‥
榊原は藁にでも捕まる想いで源右衛門にそう呟いた
そして深々と頭を下げると、源右衛門の部屋から出て行った
掃除を総て終えると部屋に戻ってお泊まりの準備をした
自分と康太の分の準備をして、子供部屋へと向かう
子供達は応接間に行っているのか、誰も部屋にはいなかった
榊原は子供達のリュックに着替えを積めて、6つのリュックを手にして子供部屋を出た
一旦自分達の荷物とリュックを応接間のソファーの上に置こうとして応接間に向かう
応接間のドアは開け放たれていて、中から子供達の楽しそうな声が響いていた
榊原の姿にいち早く気付いたのは翔だった
翔は立ち上がると、榊原の傍に走って行きリュックをソファーの上に置くのを手伝った
榊原は翔の頭を撫でて
「ご苦労様でしたね翔」と誉めた
翔は嬉しそうに笑った
榊原は「僕は早目に夕飯を取らねばならないので、キッチンにいますから、後は頼めますね?」と問い掛けた
翔は「あい!わかりました!」と答えた
榊原は応接間を出るとキッチンに向かい、夕飯の支度に取り掛かる事にした
キッチンに逝くと烈が熱々のお茶を啜っていた
「烈、またお茶ですか?」
「あい!」
「お出掛け前は水分は控えなきゃダメなので、今のうちに飲んでおきなさい」
「‥‥りょーきゃい!」
烈は熱いお茶をずずっ!と啜っていた
本当にじじむさい
辺りをくるっと見渡し聡一郎や隼人、一生の姿はなかった
飛鳥井の家族の姿もなく、皆、掃除や休憩をしているのかと想った
飛鳥井のキッチンに子供達も座れる程の大きなテーブルと椅子を入れた
清隆が全員で食事をしたい‥‥とのたっての希望でキッチン隣の倉庫をぶち抜いてキッチンを広くしたのだった
艶々のダイニングテーブルは真新しく輝いていた
早目の夕飯の支度をしていると慎一がキッチンにやって来た
「手伝います
伊織は洗濯機回していたのですよね?
干しに行って構いませんよ」
「なら少し場を離れます」
慎一が言ってくれたから榊原は自分の部屋に行き、洗濯に取り掛かる事にした
子供達の洗濯物も増えて、榊原は脱衣所を洗濯室にリフォームした
榊原達夫婦の浴室は結構大きかった
それに伴って脱衣所も結構広く作られていた
お風呂を沸かす時の熱を利用して洗濯を乾燥させる
乾燥機をかけるよりは大量に干せて乾燥が出来るので榊原は重宝していた
これからは、もっと汚してくるのだろう‥‥
特にうちの子はやんちゃな子が多い
榊原は一枚一枚、大切に洗濯物を干した
子供達の洗濯も
自分達の洗濯も干し終えると榊原はキッチンに向かった
榊原がキッチンに戻り、食事を作っていると、北斗と和希と和真と永遠がやって来てお皿を並べ始めた
榊原は「疲れてませんか?」とお手伝いをしてくれるよい子に問い掛けた
北斗は「大丈夫だよ伊織兄さん」と答えた
和希も「何時もやってる事だから大丈夫」と笑っていた
和真は「僕達の方が誰の食器か詳しいと想います」とお茶目に舌を出して笑っていた
永遠も「慎一さんに秘伝のお茶の淹れ方を修行中なんで、手は抜けないんです」と茶器を手にしてそう言った
北斗達は出来上がった料理をお皿に並べてくれていた
榊原が感心する程に手付きは慣れていて、綺麗に盛り付けがなされていた
これは付け焼き刃では出来ないと想った
毎日毎日お手伝いしてくれているうちに身に付けた技だった
北斗は榊原に「ねぇ伊織兄さん‥‥僕‥‥高校卒業したら‥‥家を出ないとダメですか?」と心配そうに問い掛けた
榊原は笑って
「出なくて大丈夫です
北斗や和希や和真、永遠が結婚して家族が出来て部屋がなくなったら建て替えれば良いだけの事です
ずーっといなさい!
この家の子なんですからね君達は!」
と諭す様に優しく言葉にした
北斗は涙を拭いてお手伝いを始めた
永遠は‥‥表情を曇らせ‥‥
「おれは‥‥だめだよね‥‥」と口にした
「何でそんな事を謂うのですか?
永遠を誰かと差を着けた事がありますか?
誰かが永遠にダメだと言ったのですか?」
「おれは‥‥あすかい‥出ないとだめだって‥‥」
「聡一郎が言ったのですか?
大丈夫です、聡一郎が何と謂おうと永遠は出なくても大丈夫です!
四宮を継いだ後だって、この家で暮らせば良いのです!
文句があるなら康太に謂えば良い!
僕の言葉は飛鳥井康太の言葉です!
良いですね、今後、そんな事は謂ってはいけませんよ!
君は飛鳥井の家族が、榊原の家族が、康太の仲間達が育てた子なんですから!
文句は誰にも謂わせはしません!」
榊原の顔が怖かった‥‥
だが誰よりも頼もしくて頼りになる男だった
榊原の背後から
「康太を敵に回せば僕の命など消し炭同然‥
誰が逆らうものですか!
すみませんでした‥‥僕が愚か者でした‥‥」
と聡一郎が榊原に謝罪の言葉を口にした
榊原は振り返ると聡一郎の頭をポコンッと叩いた
「子供の心は繊細なのです!
不用意な発言は今後一切してはいけませんよ?」
「解ってますよ‥‥でも‥‥最近の永遠は飛鳥井に馴染みすぎて‥‥怖かったんですよ僕は‥‥」
「定めを生きる子は道は違えません!
違えれば飛鳥井家真贋が狩る!
永遠は既に飛鳥井の礎に組み込まれし子です
君が怖がろうが‥‥もう覆りはしない定めの子です‥‥
線引きをするのは止めなさい!」
榊原はキツくそう言った
現実を見ろと謂う事なのだ
怖がろうが‥‥現実は覆りはしない
榊原はそう言ってるのだった
「最近の彼(永遠)は本当に幸せそうに笑うんですよ‥‥
北斗や和希、和真、康太の子供達と仲良く過ごしているのを見ると‥‥少し不安になりました‥‥」
榊原は聡一郎を優しく抱き締め
「怖がらなくても良いのです
君は康太が敷いた道を信じて逝けば良いのです
何も不安になり感じる事はないのです」
そう言い永遠を引き寄せて抱き締めた
和真が「僕も!」と言い抱き着くと
和希も「なら僕も!」と言い抱き着いた
榊原は全員を抱き締めて笑っていた
聡一郎は榊原に「あれ?康太は?」と問い掛けた
「若旦那の所へ逝く前に片付けねばならない用があるとかで、取り込んでます
なので近寄ってはいけませんよ?
話し掛けたら絶交されかねません!」
「‥‥‥それは嫌だから止めとくわ‥」
聡一郎が謂うと榊原は笑った
「ではもうじき食事を始めるので家族や子供達を呼んで来て下さい
榊原の家族は家ですか?」
「ええ。着替えを取りに逝くと榊原の家に一旦帰られました」
「そうですか、ならば僕達は食事にしましょうか?」
「なら力哉と手分けして呼んできます」
聡一郎はそう言うとキッチンを出て行った
子供達が食卓に着くと、瑛太や清隆、玲香と京香もやって来て食卓に着いた
京香は食卓に着くなり
「瑛智が眠ってしまったのだ
幾ら起こしても起きぬからな‥‥後でおにぎりでも握って食べさせる事にするつもりだ」と困った様に呟いた
京香が謂うと一生が
「なら後でオレが一生特性爆弾おにぎりでも握ってやるさ!」と言い笑った
「一生のおにぎりは瑛智や子供達にも人気だ!
頼めるか?一生」
「任せとけって!」
一生は快く了承した
康太が榊原と共にやって来て食事を取り始めた頃、榊原の家族が着替えを持って飛鳥井にやって来た
榊原は真矢に「母さん達夕飯は?」と問い掛けた
「まだよ、飛鳥井で出前でも頼もうと想って取り敢えず洗濯と掃除だけ済ませて来たのよ」と答えた
「なら応接間に運ばせましょうか?」
「キッチンは空いてない?」
榊原がキッチンまで見に行こうとすると玲香が顔をだして
「我等は終わった故に席は空いておるぞ!」と告げた
真矢と清四郎と笙と明日菜は子供を連れてキッチンへと向かった
キッチンに逝くと瑛太や京香も夕飯を終えて席を立っていた
真矢達が適当な席に座ると、榊原は夕飯を並べた
真矢は箸を取り、夕飯を食べ始めると
「子供達は?」と尋ねた
榊原は「ワン達の所ですかね?」と最近行動範囲が広くなって来た我が子を思い浮かべて謂った
「もう自分達の世界を持ってるのね」
真矢はそう言い寂しそうに笑った
夕飯を終えると応接間に行き、お出掛けの準備をする
一生は爆弾おにぎり大小をせっせと握ってサランラップで巻いていた
握り終えると康太が「一生、そろそろ出掛けんぞ!」とやって来た
「おー!ナイスタイミング!
俺は準備万端だぜ!」
一生はそう言うとおにぎりを袋につめて持ち上げた
応接間に逝くと全員お出掛けの準備を整えていた
今日は大人数でのお出かけと言う事もあってバスをチャーターしてのお出かけだった
到着時刻十分前にはバスの運転手から電話があった
家の前には流石と停められないとあって大通りにバスは止まっていた
その場所まで荷物を持っての移動となった
慎一と一生、聡一郎と隼人は家族の荷物を先に運び込む事にした
荷物を詰め込み終わると皆を呼びに行った
飛鳥井康太、榊原伊織、その子の翔、流生、音弥、太陽、大空、烈
飛鳥井清隆、玲香
飛鳥井瑛太、妻の京香、子供の瑛智
一生、聡一郎、隼人、慎一
慎一の子の和希、和真、一生の子の北斗、聡一郎の子の永遠、そして力哉
榊原清四郎、真矢、笙、明日菜、子供の美智瑠、匠
そして兵藤も加わり総勢29名の大移動となった
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