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第7話

 豊島くんははじめて神野の部屋に入った。  少し雑然としているのが意外だ。よく見ると、ラグの上にも喫茶店経営の専門雑誌やスイーツの本が積み重なっている。店に立ってるだけでも相当忙しいのに、勉強家なのだ。  美味しいスイーツを作るのには、天性の才能だけでなくやはり努力が必要不可欠なのだろう。 「ちょっと待って。エアコン入れるから」  彼がぼんやりと視線を流すと繋がった奥の間にはベッドがあった。  ドキッとする。  神野は彼を抱いてそちらに連れて行こうとした。 「あ…」  豊島くんの足元が思わずもつれる。 「シャワー浴びたほうがいいかもしれないけど」  腕がするりと脇をまわり、緊張する彼を支える。 「私は今すぐにでも君が欲しいよ」 「あ、あの」 「はじめてだしちゃんとするからね。私を信じて、安心して身を任せて」  ベッドの端に座らせられて豊島くんは額に優しいキスを浴びる。  少し気が落ち着いた。 「神野さん、俺なんかでいいんですか」  まだ実感のない彼は上目遣いで問いかける。 「君だからいいんだ。そんな言い方をしちゃだめだよ。ほら、お母さんの教えに『卑屈にならないこと』ってあったでしょう」 「はい」 「何度でも言うよ。君が好きだよ。愛したいんだ」  熱烈な希求にうぶな豊島くんの全身が熱くなる。 「君の心も身体も全部欲しいんだ」  再び抱きすくめられて彼の意識は遠くなった。 「神野さんの、好きにしてください」  続けて『俺、慣れてないから』と告げる様子が可愛すぎて、神野の顔に笑みが浮かぶ。  背中に回っていた手がさりげなく動いて彼のスタッフエプロンの紐を解いた。 「シャツ脱ごうか。腕上げて」  促されて、彼は腕を動かす。半袖シャツは肩口からすんなり引き下ろされて、豊島くんはTシャツ姿になった。  神野が狂おしいような眼で彼を見ている。  そして身体の角度をかえると首筋に顔をうずめて来た。  チュッと音を立てて喉元の皮膚を愛される。 「あ、」  思わず首を竦めていた。 「大丈夫、痛くはしないよ。舐めたりはするけどね」 「な、舐める」  確認した言葉が生々しくてめまいがする。 「乳首吸ったり、いろいろね。でもみんな気持ちいいから、君は全て私に任せていればいいからね」 「乳首……」  もうやだ。  どうにでもして。  豊島くんは無理やり開き直って神野の肩に手を乗せる。一息で言った。 「全部任せます。俺は神野さんが好きだから」 「豊島くん……」  上ずった声が彼の名前を呼ぶ。 「ありがとう。うれしいよ」  甘いキスを繰り返しながら、神野の魔法の手はTシャツの中に忍び込んで来た。 「柔らかくて瑞々しい肌だね」  そして器用にくるりと剥いてしまう。Tシャツの首の部分を頭から抜かれて、肌に直にあたる空気に彼は乱れた息をついだ。  確かめる神野の手が胸をさまよい、乳首を摘まんで来る。 「あっ」  瞬間、そこに甘やかな刺激が走った。耐え切れず声が漏れる。 「どうしよう、そこ……変………」  見る見る硬くなる気配に自分で自分が分からなくなった。男なのに乳首が立ってしまうことが悪いことのように思える。 「くすぐったい……。こんなの……俺、恥ずかしいです」 「さっきも言ってたね。くすぐったいって言うのは感じてるってことなんだよ。まだ緊張してるだろうけど、すぐに気持ち良くなるからね」  囁いた神野の頭が下がって今度は唇で乳首に触れて来た。柔らかなそれにつぶらな突起を吸われる。 「あ、そんな」  狼狽に頬を染めて、反射的に神野の頭を胸に抱いていた。  優しいのにどこか意地悪な技巧に彼は翻弄されてしまう。  ぴちゃりと音を立ててねぶられて、大きく背筋が反った。  逞しい腕が彼の肩を抱きベッドに優しく寝かしつける。  上から見下ろす神野の眼が鋭くなっていた。 「ダメ、です。もう……」  自分がこんなになるなんてはじめてだ。  無意識のうちに彼は神野の肩を押しやる。しかし軽くかわされてしまった。 「焦らさないで。もう待てないよ」  切ない声で懇願されて少しだけ不思議な気持ちになる。  どちらかと言えば懇願するのは自分のほうなのに。 「う……あっ、」  けれど、そんな思考は神野の舌のいやらしい動きに中断されてしまった。  肌をくまなく舐められて身体の中心が熱くなる。自身の分身が反応し出したことが信じられない。  恥ずかしくて、隠そうと思って、腰をひねる。しかし神野にはお見通しだった。 「もう勃って来ちゃったの」  いつも神々しい神野のびっくりするほど淫猥な声。それが豊島くんの耳をダイレクトに刺激した。  ビクッと身体が跳ねる。 「触ってあげるよ」  ジーっと音をさせて神野はジッパーを下ろして来た。遠慮がちだが確かな動きをする指が布地をかき分ける。指先で竿の部分をすっと撫でられて彼は息を飲んだ。  神野の手が的確に動いて、竦む彼の下着を引っ張って下ろす。 「神野さん」  自分のものにさして自信のない彼は、恥ずかしくてたまらなくて手でそこを隠そうとした。 「ダメだよ。見せて」 「でも」 「ほんとに君は焦らすのがうまいね」 「そんなつもりは」  争う声は途中で途切れ、神野の手に彼のペニスは包まれていた。  温かい手がもっと温かい肉の竿を直にもてあそぶ。 「あぁ!」  眼の奥で火花が散ったようだった。  そのままやわやわと刺激されて焦らされる。  成す術もなく彼は首を横に振ることでしか抵抗を示せない。  神野はそんないたいけな様子を伺いながらそっと囁いた。 「気持ちいい?」 「え、あ…、気持ち……」  頭の中がぐるぐる回っている。  神野の指が鈴口のあたりを繊細なタッチで嬲って来た。 「気持ち、……いい」  観念したように白状する彼が可愛くてたまらないと、下腹のなめらかな肌に神野はキスをする。そして言った。 「君の汗は甘いね」 「あ…、ああ……っ」 「このままイかせてあげるよ」 「でも、俺だけ……」  神野はまだコックコートの前を開けただけの状態だ。こんなに自分だけがはだけて猛っていることが恥ずかしい。 「もう、やだっ」  でも我慢できない。気持ち良すぎる。  イきたい。イきたい。神野さんの手でイきたい。 「神野さんっ………あああ!」  神野の眼に間近に見守られながら、彼は自ら腰を浮かせるようにして放出していた。

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