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第20話
事件から二日経ってようやく気持ちが落ち着いた。豊島くんは自分の決心を神野に伝える。
「田崎と対決する」と。
警察に届けるかどうかの判断はいまだ出来てはいない。その前に田崎と話しがしたかったのだ。
どうしても学校に行くという彼の決然とした顔を見て、神野も折れた。
確かにこのまま日が過ぎればいい訳ではない。
解決しなければ先がない。
彼は言った。
「自分にまで負けたくない」と。
神野には背中を押すことしか出来ない。
「学校にはちゃんと通います。それでいつか俺、母さんと約束した栄養士になるんです。こんなことでくじけてる訳にはいきません」
「分かったよ。でも気をつけるんだよ」
神野は彼の肩を壊れ物でも扱うようにそっと抱く。
「君をこうして抱きしめるしか出来ない私は無力だな」
「そんなことありません。神野さんがそばにいてくれるだけで心強いです」
心強い。本当に。
神野に慰めてもらいたい。
愛してもらいたい。
けれど。昨夜はうまく行かなかった。
性行為に抵抗感があった。
身体がまだ怯えている。
心がまだ縮んでいる。
神野を受け入れることが出来ない。
豊島くんの中で田崎とのことが払拭出来ない限り先へは進まないのだと思い知らされた。
神野と以前のように求めあい、愛し合う、そのためには、越えなければいけない高いハードルだった。
そして久しぶりの登校の朝。
神野は心配で心配でたまらないと言いたげに、部屋の中をうろうろと豊島くんについて歩く。
「ほら、あれ。凄い音がするやつ。防犯ブザー。学校に行く前に買って行きなさい」
「大丈夫ですよ」
「でも、何があるか分からないじゃないか。ああ、私がついて行けたらいいんだけど、店が……」
おろおろしている神野がいつもの澄ました神野とは違っていて新鮮だった。
「神野さん、過保護だなぁ」
豊島くんは笑ってしまう。
そして思った。
意外だ。あんな目にあったけど自分はまだ笑える。
「信じてください。俺だって男ですよ。負けません」
「豊島くん」
「田崎とちゃんと話をします」
勇気を振り絞って笑って見せる。
「あの男とは二人っきりにならないように気をつけるんだよ。すぐに誰か助けを呼べるように工夫してね」
神野は彼をぎゅっと抱きしめた。
「帰ってきたらプリンを用意しておくからね。どこにも立ち寄らず真っすぐ帰ってくるんだよ」
「なんだか俺、小学生みたいだなぁ」
「小学生より危なっかしいよ」
神野の声に見送られながら豊島くんは久しぶりに外へ出る。震える足に喝を入れながら学校までの道を歩いた。
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