5 / 17

( 5) チョコレート作り

恋とは流行り病みたいなものだ。 しばらくすれば熱も冷める。 あと、数ヶ月もすれば三年生になる。 つまり、クラス替えがある。 環境や人間関係が変われば人の気持ちも変わるものだ。 だから、まぁ、このまま放って置いても何事も無かったようにヒナタの気持ちも変わっていくだろう。 そんな風にタカをくくっていた。 しかし、その考えは甘かった……。 バレンタインデーまであと数日後に迫ったある日。 ヒナタが言った。 「ねぇ、航太」 「ん? どうした?」 「ボクさ、バレンタインデーに、蓮君にチョコを上げようと思うんだけど」 「チョコ? あいつにか?」 オレは、すぐに顔をしかめた。 蓮の名前を聞いて一気に胸がざわめき立つ。 ヒナタは、まだあいつの事を思っているのか……。 「うん。手作り」 「手作り? まっ、まさか、ヒナタ、告白するのか?」 「えへへ。実は、そう」 「お前!」 オレは、かっと頭に血が上ったが、辛うじて自制した。 そうだ、ここはオレが大人にならないとな。 と、ぐっとこらえる。 「そうかよ……よかったな……」 「でね、航太。よかったら、航太も一緒に作らない? チョコ」 「へっ? オレが? どうして」 「いや、だってさ、ボク作り方わからないないし、一緒に手伝ってほしいなって」 「いやだね。蓮にやるチョコだろ? 自分で作れよ」 ヒナタの奴。 オレが蓮を嫌っているのを知っているくせに、無神経過ぎる。 とはいえ、オレに内緒でこっそりと蓮にチョコを渡すのでは無いところをみると、ヒナタなりにオレに気を使っているわけか……。 「えー。一緒に作りたかったのに……。あっ、そうだ。じゃあ、航太はさ、ボクにチョコをプレゼントするっていうのはどう? それならいいでしょ?」 「ヒナタにチョコか……」 ヒナタは拝むように手を合わせ、オレの表情を窺う。 ふぅ……。 しょうがない。 オレが手伝おうが手伝わまいが、どうせチョコを作るんだ。 だったら、一緒にいられる方がいいに決まっている。 まったく、オレは本当にヒナタに甘いな……。 「……分かったよ」 「ほんと? やった!」 ヒナタは、両手を上げて叫んだ。 そして、バレンタインデーの前日。 オレ達は、市内の一番の繁華街の美映留中央駅に買い出しに出かけた。 このシーズンは、チョコ作り専用の特設コーナーが設けられている。 「へぇ、すごいな。いろいろなレシピがあるんだな」 「ねぇ。すごいね」 「それにしても……」 まわりは女子だらけ。 男二人でうろうろしているのが恥ずかしい。 しかし、ヒナタは、 「恥ずかしくないよ、航太。航太とボクだって今日の服装とかだったら女子に見えるって」 とか言ってオレを慰める。 「でもな……」 そうなわけあるか、と思うのだが、オレの服装は、薄手のダウンジャケットにマフラー。ボトムスは、ジーンズ。 ヒナタは、赤いダッフルコートにベレー帽。 確かに、見ようによっては、女子に見えないことはない。 周りからも異物を見るような視線はなく、それが逆に自分の不甲斐なさを嫌ってほどまの当たりさせられる。 いや、周りからどう見えるか何て関係ない。 オレの気持ち次第だ。負けるなオレ。 そんなオレに、ヒナタは声をかけてきた。 「航太。ほら、あそこ見て。あの子、うちの学校の制服だよね? 今時は、男の子だってチョコ作りするんだよ」 ヒナタの指差す方をオレは見た。 確かに、うちの学校の生徒だ。 どうせ女にあげるんだろ? ヒナタ、男が男に上げるのとはわけが違うって。 ん? あれ? あいつ、見覚えあるな……確か、同じ学年の青山って言ったかな……。 オレ達は、家に帰って、さっそくチョコづくり。 ヒナタのやつ、手伝ってくれと言いながら、手際がいい。 「ちゃんと調べていたな?」 「ばれた?」 「オレが手伝う必要なかったじゃないか」 「そうかも。えへへ」 「まぁ、いいや。とりあえずできたから。ほら。早速、ヒナタにやるぞ」 「だめ! 航太! ちゃんと明日、バレンタインデーに頂戴!」 「あはは。そっか。そうだよな。わりぃ」 「もう! ふふふ」 それよりも……。 オレは、ヒナタのつくりハート型の手作りチョコに目が行く。 あれは蓮のために作ったのか。 憎らしい……。 ん? 待てよ……。 そうか! そうだ! そうすればいいんだ。 オレは、ふと頭に浮かんだあるアイデアに心を躍らせた。 オレは、天才だ。 よし! ヒナタの告白を無しに出来るぞ!

ともだちにシェアしよう!