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( 8) バレンタインデー
バレンタインデーが来た。
オレは、休み時間になると、人の目を気にすることなく、スッとチョコをヒナタに渡した。
ヒナタは、大喜び。
「嬉しい! 航太からのチョコ。やったー!」
「なんだよ。作っているところ、見てただろ?」
「これは、ボクからだよ。はい! 航太!」
「おお、ありがとう……」
受け取ったチョコ。
ヒナタからのプレゼントは何だって嬉しい。
でも、これはあのハート型のチョコではない。
残念ながら……。
まぁ、いい。
予定通り作戦を決行するだけだ。
オレの作戦……。
簡単な事だ。
蓮に上げようとしているチョコ、そう、あのハートのチョコを奪いとること。
そうすれば、告白はできない。
そうさ。さすがに、チョコも渡さず告白なんてできるはずがないんだ。
卑怯だと言われようが、そんな事は知ったことではない。
そもそも、蓮がヒナタのチョコを受け取らない、という可能性も考えなくもないが、朝から蓮の様子を観察していたところ、
「いやー。悪いね。サンキュー! ありがとう!」
とか言って、来るもの拒まず、もらえるものはもらうという軽いナンパな態度。
すでに、複数の女子からチョコをもらい、笑顔を振りまいている。
あのコレクションの一つにヒナタのチョコが加わると思うと、いてもたってもいられない。
絶対許さん。阻止しなくては……。
オレは、密かにヒナタの行動を盗み見ていた。
やはり、まだチョコを渡そうという態度は見せてない。
昨晩ヒナタに確認した通り、放課後の教室で渡す、で間違いなさそうだ。
オレがそんな事を思い巡らせていると、ヒナタが声をかけてきた。
「ねぇ、航太。どうしたの? なんかソワソワしているけど」
「へ? そうか? 普通だけど……」
ヒナタは、オレの顔を覗き見る。
「もしかしてさ、女子からチョコもらえることを期待しているの?」
「んなわけあるかよ」
オレは怒った口調で答える。
「いや、あるかもよぉ。ふふふ」
ヒナタのやつ、妙に浮かれている。
まぁ、いい。このまま作戦決行だ。
「なぁ、ヒナタ。そういえば、お前にチョコ上げたいって女子がさっき訪ねてきだぞ」
「ほんと?」
「ほら、廊下、いってみろよ」
「うっ、うん」
ヒナタは、慌てて廊下へ向かう。
よし! 今のうち。
オレは、ヒナタのカバンに手を突っ込み、ラッピングされた箱をスッと取り出すとポケットに入れた。
ヒナタは、廊下に出てキョロキョロしている。
しばらくして、首を振りながら戻ってきた。
「ねぇ、航太、だれもいなかったよ……」
「おっかしいなぁ。恥ずかしくなって帰ったのかもな」
「そうかなぁ。まぁ、いいや……」
ヒナタは、腑に落ちない顔をしていたけど、すぐにいつもの笑顔に戻った。
ふぅ。
よしよし。これで、告白は阻止できたぞ。
オレは安堵の息を漏らした。
そして、放課後の教室。
オレはいったん、家に帰るふりをして、引き返してきた。
教室を覗くと、蓮と数人のクラスメイトの姿があった。
蓮は、いつもつるんでいるクラスメイトに、
「俺は、ちょっと残るから」
と手を上げて挨拶している。
クラスメイト達は、
「いいよな。もてる奴は。じゃあな!」
と去っていった。
なるほど、ヒナタは、あらかじめ蓮に残るように言ってあったのか……。
しばらく廊下で張っていたところ、予告通り、ヒナタが現れた。
カバンの中にはチョコはないはず。
ということは、まだカバンの中にチョコがあると思っているんだな。
ふふふ。
残念だったな。
そのチョコは、オレのポケットの中にあるんだから。
オレは、ポケットをポンっと叩いた。
ヒナタは、教室に蓮がいることを確認すると、ふとカバンの中を見た。
よし!
気が付いたな。これで、あきらめるはずだ……。
完全に作戦通り。
あとは、しょんぼり帰るヒナタに声を掛けて、そっとチョコをカバンに戻す。
「よく探せよ、ほら有っただろ、ヒナタ? まぁ、いいじゃないか、オレがもらってやるよ。一緒にたべようぜ」
これだ!
さぁ、ヒナタ……もう、いいだろう? 帰ろう!
オレがそう思っていたとき、ヒナタは、よし!っと決心した表情で、教室に入っていった。
「えっ? あいつ、チョコなしで告白するのか?」
オレは、驚いて目を見張る。
バレンタインデーに、チョコなしで告白って……そんな事があり得るのか!?
教室では、蓮がヒナタに気が付き、手を上げている。
小走りで近づくヒナタ。
そして、二人は何やら話し始める。
ええい。なにを話しているんだ?
首をふるヒナタ。困った顔の蓮。
なんだ、どうなっている?
耳を澄ますが何も聞こえてこない。
しばらくすると、ヒナタは走り出して教室から出ていってしまった。
泣いていたような気がする。
これは、どういうことだ?
ヒナタは、蓮に振られたのか……のか?
ホッとする場面……のはずなのに……。
ふつふつと沸き立つ怒り。
オレのヒナタを振っただと?
しかも、泣かせて。
これでいいはずなのに、悔しくて悔しくて仕方ない。
腹が立って、頭に血が上る。
オレは一体何をしたいんだ!?
ただ、いえるのは、蓮を許せない、ということだ。
ヒナタの行為を無にするのは断じて許せない!
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