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(10) ヒナタの思い
その日の帰り、オレはヒナタの家に赴いた。
ヒナタはオレの顔を見るなり、真っ先に言った。
「あ! 航太! どうだった? チョコ渡せた?」
「ああ、渡せたよ……」
やっぱり、そうなのか……。
問い詰める迄もない。
ヒナタは、心配そうな表情で言った。
「で、どうだった?」
「どうって……ああ……付き合うことになったよ」
「やった!」
ヒナタの顔がぱあっと明るくなる。
俺は、そんなヒナタの両肩を掴んだ。
「なぁ、ヒナタ。どうして……」
「待って、言わないで」
「だってよ……」
「ボクは、知っていたんだ。航太がずっと前から蓮君の事を好きだって。でも、航太はその思いを封じ込めてた。知らないふりをしていた……」
淡々と話すヒナタの言葉を、オレは黙って聞いた。
「でも、ボクは分かっていたんだ。それはボクのためだって……ボクが寂しくならないように、一人にならないようにって」
ああ、何て事だ。
ヒナタは、オレよりもオレの事を良く知っている。
「大丈夫だよ。航太。今まで、僕は航太とずっとずっと一緒。それで、幸せだったんだから」
「……」
「これからは、ボク一人でも大丈夫……。だから、航太。蓮君と幸せになって」
はにかむヒナタ。
オレの知らない、初めて見るヒナタの表情。
あの甘えん坊のヒナタが、こんなに大人びて見えるなんて……。
いつも、オレの後ろに隠れていて、泣いていた。
そんな、ヒナタが……。
オレは、胸が詰まり、涙がつうっと流れてきた。
そして、止めどなく流れる。
「うっ、ヒナタ、お前ってやつはなんて……」
「大丈夫だよ、航太……」
ヒナタは、オレの事を優しく抱いてくれた。
オレは、ヒナタの腕の中で泣いていた。
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