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(11) 蓮のこと

ヒナタが気付かせてくれた蓮への思い。 オレは、蓮を初めて意識したのはいつだっただろう? 無自覚だったとはいえ、気になっていたのは確か。 あの目だ。 そう、ギラギラして獲物を追う野生の獣のような目つき。 オレは蓮と目が合うとゾクッとして目を逸らした。 今、思い返せば、間違いない。 あれは、恋のドキドキそのもの……。 恐らくオレの中の雌の部分が、蓮という猛々しい雄に求められて、嬉しくて胸をざわつかせていたんだ。 付き合い始めて気付いたのは、蓮の懐の深さだった。 細かい事は気にしない。 無神経というのとは違う。 オレのちょっとした我がままや甘えを許してくれるのだ。 例えば、オレと蓮は、遊びに行く時は、市内を出てお隣の矢追(やおい)市にまで足を伸ばすことにした。 これは、オレがした最初のわがまま。 蓮と一緒にいるところを、ヒナタに見られたくなかった。 ただそれだけの理由。 なぜ、そう思ったんだろう? 恥ずかしい? ヒナタを差し置いて、オレだけ幸せになるのが後ろめたい? きっと、いろいろな感情がそうさせたんだと思う。 そんなオレのわがままも、蓮は理由を聞くことはなく、一言、「いいぜ」と了承した。 初エッチは、蓮が行きつけという、ライブハウスへ行った日。 オレは、はじめての体験にウキウキした。 大音量でなる生演奏に、心臓がどきどきした。 手をギュッと握りしめ、蓮は耳元でささやく。 くすぐったいのと、気持ちいいのとで、体が熱くなった。 蓮は、オレのしらない世界に連れ出してくれる。 そして、新しい体験をするなかで、どんどん蓮が頼もしく、甘えられる絶対的な存在としてオレの中の大部分を占めるようになった。 今思えば、オレが生まれてこの方よく知らない、父親というものを蓮にだぶらせていたのかも知れない。 ライブハウスを出ると、興奮冷めやらぬ中、そのまま蓮の家で体を合わせたのだった。 さて、何度目かの蓮とのセックスの時、オレはあることに気が付いた。 いつものように、オレのアナルは蓮のペニスに攻められ続け、快感の渦に飲み込まれていた。 その意識が飛ぶような刺激の中で、ふと、自分のペニスを見たのだ。 えっ!? オレは驚いた。 オレのペニスが、今まで、見たことがないほど、大きく、固くなっていたのだ。 オレは理解した。 そうか、アナルからの刺激で、ペニスが本来あるべき勃起をすることができたのだ。 これができていれば、オレはヒナタと……。 そんなことをふと思いついたが、それ以上は考える余裕はなく、オレは蓮の絶頂の突き上げで昇天していた。 そんな、蓮との幸せな日々を送っていたある日の事。 オレは、いつものように、蓮の家に遊びに行き、そして、いつものように繋がった。 ベッドに横になるオレと蓮。 蓮は、ふといった。 「なぁ、航太。ちょっと聞いていいか?」 「なんだ?」 蓮はいつになく改まっている。 「お前、男同士のエッチは、俺が初めてだったのか?」 「ああ、そうだよ……わ、悪いかよ」 蓮は、今更、どうしてそんなことを聞くのだろう? オレは、照れながらも、蓮の心中を探るように見た。 「いや。ちょっと、意外だったから……」 「意外って、お前な!」 「その、航太は可愛いから、そうゆうのいろいろ有るのかと思っていたから」 「それって、オレが男娼って事か?」 蓮に悪気がないのはわかっている。 オレは、怒ったふりをして言った。 「いや、違うって。怒らせてしまったのなら謝るよ。ただ……」 「ただ?」 「俺が初めてだって思ったら、嬉しいなって思ったからさ」 蓮の顔を見れば、冗談で言っているのでは無いのがわかる。 少し照れて顔が赤い。 クスッ……。 一見、女ったらしのイケメンの癖に、こういう可愛いところがオレをキュンキュンさせる。 オレは、お返しに聞き返した。 「で、蓮こそ、どうなんだよ?」 「俺は……まぁ、隠しているのも気持ちが悪いし。ちゃんと話すよ」 蓮は、一呼吸置いて話し始めた。 「俺は、セフレがいたんだ」 「セフレって……セックスフレンド?」 オレは驚いて聞き返す。 「そう。そのセフレ。先輩だったんだけど、その人が俺の最初の人」 「年上かよ。すごいな……」 「ああ。ある日、その人に言い寄られて、いつの間にかフェラされて、気付いたらその人のアナルに入れていた」 「……」 「気持ち良くて、気持ち良くて、何度も何度もいかされ射精した。その人とセックスを経験してから、もう男にしか興味がなくなっちまった……」 意外な話だった。 しかし、確かに、蓮は手慣れている。 される側がどうされると気持ちがいいのか、よくわかっているのだ。 蓮に導かれるセックスは嫌じゃない。 いや、最高に気持ちいい、と言っていい。 なるほど……。 その先輩って人に指南してもらったってことか。 それで腑に落ちた。 ただ、オレは気になっていたことを口に出す。 「なぁ、蓮。その先輩って、その、まだ……」 「心配するなって! もうセフレじゃないから。去年卒業したんだけど、先輩、好きな人が出来たから、って一方的に言われて別れたよ」 蓮は、少し寂しそうな笑みを漏らした。 「そっか……好きだったのか? 先輩の事?」 「いや。どうかな……分からない。でも、先輩のセフレはたくさんいたようでオレはその中のひとり。現に、同じ水泳部の先輩ともそういう仲だったようだし。オレは、完全に遊びって知っていたからな」 「そっか……」 蓮はオレの顔をじっと見つめた。 「セフレとか、軽蔑したか? 俺の事?」 「いや。特には……」 オレはこの話を聞いて、不思議と嫉妬や軽蔑といった念は沸き上がる事はなかった。 むしろ、正直に話してくれた事に好感が持てた。 ああ、こいつは、自分を正直にさらけ出して、オレと本気で付き合おうとしている。 そう、感じたからだ。 なるほど。 そもそも、オレの初エッチを聞いたのは、このことをオレに告白したかったから。 そういうことか……本当に、蓮ってやつは、オレにはもったいないほどの男だ。 オレの答えに、心底ホッとする蓮の顔を見てそう思った。

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