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(13) ある日の学校
お昼休み。
蓮はいつものように、オレにじゃれついてくる。
「蓮、だから、肩を組むのはいいとして、さりげなく、胸元に手を入れようとするなよ!」
「あはは。バレたか……」
「お前なぁ……まったく」
「なぁ、航太。今日も、うちにくるだろ?」
「……ああ」
ふと、窓際の席のヒナタが目に留まった。
ヒナタは、頬杖しながら窓の外を眺めていた。
まだ寒い冬空。
野鳥が飛んで行くのが見えた。
「ヒナタ……」
オレは、ヒナタに声をかけようとして止めた。
きっと、オレが声を掛ければ、微笑んでくれるだろう。
何事も無かったようないつもの笑顔。
でも……。
もう、あの頃とは違うのだ。
二人で戯れあっていたあの頃とは……。
何も変わらない笑顔の裏には、ヒナタの寂しくて寂しくてしょうがない泣き顔があるのだ。
よく分かる。
だって、ヒナタだけじゃない。
オレもそうなのだから……。
蓮の優しさに触れて、オレはどんどん幸せになっていく。
心と体が満たされていく。
でも、その一方で、心の中のある部分、小さい頃から大事に大事に持っていた部分が寂しくて寂しくて泣き叫んでいる。
助けて! 寂しいよ!
っと。
オレが幸せになればなるほど、その叫び声は大きくなっていくんだ。
いたたまれない……。
オレは、ふと、思い出したくない、ある事件の事が脳裏をよぎった。
そう、今のヒナタのように悲しむ顔をさせてしまったあの日の事件の事を……。
それは、去年の秋。
放課後に突然、「図書室に本返してから帰るから、先に帰っていて」とヒナタは言った。
オレは「ああ」と言ったものの、「まぁ、待っててやるか」と思い昇降口でヒナタを待っていた。
しばらく待っていても一向に戻って来る様子がない。
「ヒナタのやつ、やけに時間がかかっているな……」
後から思えば、最初からおかしかった。
図書室でどんな本を借りたのか、何で本を借りたのか全く知らなかったからだ。
でも、その時のオレはそれに気がつかなかった。
オレは、一向に戻って来ないヒナタが心配になり、図書室へ向かった。
本の返却でトラブルに巻き込まれたに違いない、と思ったからだ。
しかし、図書室にはいなかった。
行き違い?
そんな訳ない。他にルートはない。
オレは、次の可能性、忘れものを取りに教室に行ったのかも知れない、と思い、その足で教室に向かった。
しかし、そこでも空振り。
他の可能性。
先生から呼び出しがあった。
ありえるな、という事で職員室に向かう。
でも職員室も違った。
おかしい。
昇降口でオレは待っていたんだ。
外には行っていないはず。
とすると……後は。
腕組みをして考え込んだオレの視界に、ふと体育館の引き戸が不自然に開いているのが入った。
オレは、何とは無しに体育館の中を覗く。
どの部活も使ってない。
も抜けの殻。
いや、違う。
物音が微かに聞こえる。
オレは体育館の中に入り見回しながら歩いた。
あれ?
体育倉庫が空いている。
もしかして……。
オレは、恐る恐るそこを覗いた。
そこで見た光景は……。
オレは目を疑った。
まぐわう男女。
ユッサ、ユッサと揺れるひと塊。
最初、誰だか知らない人だと思った。
しかし、一人は、ヒナタ。
女子生徒の制服を着ていた。
そして、もう一人は見覚えの無い男。
どうして……?
いや、何が起こっている?
何故、ヒナタが女の制服、女の格好で……。
オレはゆっくり考えてはいなかった。
すぐに、男の方を突き飛ばしていた。
「何だ!」
尻もちをついた男は、驚いてたじろいだ。
オレは、「先生を呼んだぞ!」とうそをついて脅す。
男の反応は早い。
すぐに身なりを整えると、足をバタつかせながら走っていった。
オレは、すぐにヒナタに近づいた。
「ヒナタ、大丈夫か?」
「航太……」
ヒナタは、オレの胸で泣き出した。
オレは床に落ちていた使い済みのコンドームを見つけた。
ああ、なんて事だ……。
震えながらオレに必死にしがみつくヒナタ。
オレは、ギュッと胸に抱いた。
そう、ヒナタの父親の時と同じ。
オレはすぐに、ヒナタの気持ちを落ち着かせるため口に吸い付いた。
ヒナタをオレの愛撫を受け入れ、夢中でオレを求めた。
泣き止んだヒナタに詳細を聞いた。
先ほど、慌てふためいて逃げ出し男は、豪間 とかいうひとつ上の上級生だと言うことがわかった。
それで、最近、ヒナタが一人で図書室に寄っていたのは、その上級生と会うため、だったのだ。
最初は、単なる呼び出しだった。
それがいつの間にか、こんな事になってしまった。
どうやら、ヒナタの家庭の事情を、つまりヒナタの父親が前科者で、それを学校にバラす、と脅されていたらしい。
何という卑怯な……。
何処で手に入れのか分からないが、女子の制服まで手に入れ、それをヒナタに着せ、そして……。
オレは、涙が出てきた。
可哀想なヒナタ。
豪間という奴に対する怒り。
そして、近くにいながらヒナタを助けることができなかった自分への怒り。
「ヒナタ、ごめんな。オレ、お前を守ること出来なかった。本当にすまない……」
「ううん。航太は悪くないよ。助けに来てくれて、ありがとう」
「でも……」
ヒナタは、オレの頭をそっと撫でた。
オレがヒナタを慰めるはずが、いつの間にかオレが慰められている。
ヒナタは言った。
「ねぇ、航太。これ使って、チンチン合わせしようよ?」
ヒナタが手にしたのは、豪間が置いていった未使用のコンドーム。
ヒナタは、勃起していた。
オレも、女子生徒に扮したヒナタの幼気 な姿に興奮していた。
ヒナタは、袋を破り中身を取り出すと、二人のペニスをぎゅっと握りしめ、あたかも一本のペニスのように、それをつけ始めた。
「ほら、こうやって、一緒に中に入れるの」
「痛いって。本当に一緒に入るのか?」
元々、小ぶりな二人のペニス。
一般の大きさから見れば、一緒に入ってもおかしくないサイズ。
「分からないけど、ほら入りそう……うっ……」
二人のペニスは見事に入った。
「きついな……でも、ヒナタのチンチンがオレのに密着して本当に一つのチンチンになったみたいだ」
「うん!」
紐で結ぶのとは、明らかに違う。
締め付けられて気持ちいい。
それから、オレ達は互いの脈打つ物をじかに感じながら、腰をユッサユッサと押し付けながら快楽へと導いた。
そして、オレ達は、その場で起きた出来事を心の奥底にしまった。
こんな悲しい出来事は、無かった事にしたのだ。
一方で、オレは心に誓ったんだ。
あの時のような二の前はしない。
ヒナタから笑顔を奪う事なんて、絶対にあってはいけないんだ。
そう、オレがヒナタを守る。
何があろうと……。
あの日の決意をすっかり忘れていた。
ああ、ヒナタの太陽のような笑顔。
そう、ひまわりのように周りを明るくする笑顔。
それが、失われてしまった。
誰のせい?
オレのせいだ。
今度は、オレ自身がヒナタから笑顔を奪ってしまったのだ。
なんて事だ。
あの日、誓ったのに……。
やっぱり、このままではダメだ。
ヒナタの笑顔を犠牲にして、オレだけ幸せになるなんて……そんな事は絶対にダメなんだ……。
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