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第2話
「あちゃー、毅 今日休みだから出掛けちゃったかもな…。」
とりあえず毅にLIMEで連絡しよう。
『今日休みだったよな?俺、今から学校を出るから、一緒に……』
そこまで入力した時、コンコンと短いノックの後にすぐにドアが開いた。
「失礼します。」
「わっ!…」
この時間は滅多に人が来ないから、急な訪問者に驚いてスマホを落としそうになる。
慌てて上着のポケットにしまって平静を装った。
部屋に入ってきたのは男子生徒1人と女子生徒が8人。
学年カラーをみると女子生徒達はどうやら2年生みたいだ。
彼女たちを校内で見かけることはあっても美術を選択していないので名前は分からない。
だけど、その中で唯一の男子生徒。彼は美術の授業を選択しているから知っている。
3年の中島 拓海 だ。
漆黒の艶やかな髪に涼しげな瞳、凛々しく整った顔立ちなのに派手な感じはしない。
多分、彼の所作が落ち着いた印象を与えるのだろう。
体格はシャープではあるがやせ過ぎというわけではない。
目測では身長は180センチはあるだろう。
これだけ容姿が揃っていれば俳優やモデルになれるんじゃないか?もしかしたら芸能界にデビューしているのかもしれない。
背筋を伸ばした美しい姿勢で絵を描いている中島を見ていると、ドラマの1シーンを見ているかのように錯覚してしまう。
その姿を一目見ようと授業中にも関わらずドアから覗きに来る女子生徒は一人や二人じゃない。
仕方なく廊下側のガラスには目隠しの為に紙を貼り授業中には教室に鍵をかけるようになってしまった。
それほど中島拓海は女生徒を引き付けてしまう。
しかし今日はどうしたんだ?
中島はともかく、美術部の部員や、美術を選択科目にも選んでいない彼女達がここに来た理由が分からない。
「みんな大勢でどうしたんだ?」
9人の生徒が俺の前に一列に並ぶと一度に頭を下げた。
「松岡先生、演劇部の顧問になって下さい!お願いします!」
「え?」
突然、美術と関係ない事を言われて驚いた。
その中の部長と思われる女子が顔を再び下げて言った。
「お願いします!松岡先生、私達を助けて下さい!」
「そんな事、急に言われても困る。」
「このままじゃ、演劇コンクールに出られなくなるんです。」
女子達は俺の周りで矢継ぎ早に言い始めた。
「コンクールまで時間が無いんです。今までの努力を無駄にしたくありません。」
「先生、お願いします。」
「折角練習してきたのに活動ができなくなるなんて嫌なんです。」
「私達、松岡先生しか頼れる人がいないんです。お願いします。」
「ちょっと どうして俺なんだ?」
半ばキレ気味に文句を言うと中島が彼女達の事情を説明してきた。
「すみません。
今まで演劇部の顧問をされていた先生が産休なんです。
顧問不在では部活動が出来ないと言われました。
それで他の先生方にもお願いしたのですが
皆さん他の部を受け持っておられて
全て断られてしまいました。
松岡先生はクラブ活動の顧問をされていないと
お聞きしましたのでお願いに来ました。」
彼女達は必死に頭を下げる。
「お願いします。先生。」
「松岡先生っ。」
そんなに頼み込まれても…美術ならともかく畑違いの演劇部なんて無理だ。
「俺、演劇なんか知らないよ。」
「大丈夫です。自分達で出来ます。お願いします。先生は顧問になって下さるだけでいいんです。」
必死になって8人の女子生徒が俺にしがみついてくる。
中には涙目になっている子もいる。
顧問をしていないのは俺だけなら彼女達も諦めないだろうし…こうしている間も時間はどんどん過ぎて行く。
今日は久しぶりのデートなんだから、少しでも早く帰りたい。
だけど折角練習したのに演劇コンクールに出られないという演劇部のことも可哀相だとも思うしなぁ………産休の間だけなら大丈夫かな?
子供を産んだらすぐに佐藤先生も戻って来るだろうし。
「……じゃあ、産休の間だけだぞ…」
「キャーッ!!」
「有難うございます。先生!」
彼女たちは抱き合って喜んでいた。
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