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向う側の鬼もこちらに気づいて走り寄ってくる。完全なる挟み撃ち。最悪だ。視線を横に走らせる。 「これはやりたく無かったけどっ」 連絡通路の丁度真ん中程、前後から来る鬼があと数メートルの所まで迫ってくる。走っている勢いのまま、通路を囲む胸元まである壁の上に手をつく。そして、勢いよく空中へと、飛んだ。 「っえ!ここ3階だぞっ」 「大丈夫かっレイラちゃんっっ」 頭上から様々な驚愕の声が飛んでくる。途中の木の枝に掴まり、勢いを殺してから地面に着地する。失敗すると勿論怪我をするし、枝を掴む時も上手くやらないと手に刺さってめちゃくちゃ痛いので、みんなは真似しないでね。 追いかけて来る者が居ないことを確認し、そのまま木々を横切って進んでいく。暫く森を進んでいくと、見たことのないガラス張りの大きな建物が現れた。 温室・・・かな?周りに人の気配はない。ゆっくりとその建物に近付き中を覗き込んでみる。 「すご・・・」 中は色とりどりの花や木が生い茂っていて、とても鮮やかな空間だった。鍵は掛かっていないみたいなのでそっと中に入る。一つ一つ丁寧に世話をされているのが分かる、美しい花達の姿に自然と顔の筋肉が緩む。 中にも人が居る様子はない。少しここで休憩しようと、奥に進んでいく。すると、奥の少し開けた場所にソファとテーブルが置いてあった。植物の中に溶け込むようなそれらは、元々あったのかそれとも持ち込んだのか。でも丁度いい。 「ちょっとの間使わせてね」 そう言いソファに座る。さっきの追いかけっこで大分体力を消耗してしまった。ソファの包み込む様な柔らかさが体に沁みる。 おもむろにジャージのポケットへと手を入れ、中から長細いスティック状のパッケージを二つ取り出す。その内の一つの包みを破り中から現れたクッキーの様なものにかぶりつく。 実はこれ、血糖値が下がると貧血を起こすため、俺が普段から持ち歩いている非常食だ。 「なに暢気におやつ食ってんだよ」 「っ!」 突然声を掛けられビクッと驚く。先程まで誰も居ないと思っていたのに、そう思いながら声のした方を振り向くと、 「嵐ちゃん!!」 そこにはこの数日で見慣れた嵐ちゃんの姿が。 「何でここに、」 「お前がさっき上から降ってくるのが見えたから追いかけてきたんだよ」 まさか嵐ちゃんに目撃されていたとは。近くには人居ないと思ったのになー。てか、この状況もしかしてやばい?嵐ちゃんは二年生、つまり鬼だ。しかもこの狭い空間。そしてまだ体力が回復してない俺。 「わっ」 「もっとそっちに詰めて座れよ」 俺を押して横に詰めさせ、空いた右の空間にどかっと座る。え、なんで? 「俺は鬼ごっこにも景品にも興味ねーよ」 「なんだ嵐ちゃんはサボりか〜」 焦って損した。でもサボりはよくないんだぞー。騎麻達が折角頑張って準備してくれたイベントなのに。 鬼ごっこ終了まで残り20分程。この温室はあまり知られていないのか、さっきから人が近付く気配すら感じない。ま、嵐ちゃんの気配に気づかなかった俺ですが。 「嵐ちゃん最後までここでサボる気ー?」 追いかけられるのも疲れるけど鬼ごっことはそういう遊びだ。ここでこんなにまったりしていて良いんだろうか。さっきからiPhoneを弄っているだけの嵐ちゃんに声をかける。ぶっちゃけ今俺すごく暇なんだけど。 「何、かまって欲しいの」 ニヤリとしながら手を伸ばしてくる。そのまま頬を擽るように撫でられる。たまに思うけど、俺のこと動物かなんかだと思ってるよね、たぶん。でもその触り方が何だか気持ち良くて、されるがままうっとりと目をとじる。 ふにっ そう唇に何かが触れるのを感じ目を開くと、何事も無かったかのように、また頬を撫でてくる。 「今ちゅーしたでしょ」 嵐ちゃんは数日前に俺にキスしてきてから、何かとキスしてくるようになった。最初の時みたいな、舌を絡めてくるような大人なやつでは無く、俺が家族にするような軽く唇を合わせるだけのキス。 最初は少し戸惑いもしたが、一緒に暮らしている嵐ちゃんも家族みたいなものだと思ってしまえば、恥ずかしさも特には感じなくなった。 「目を閉じたらキスのおねだりだろ?」 「それは俺達が恋人だったらの話だよね」 嵐ちゃんは時々変な事を言う。

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