20 / 311

食事会が始まるよ

部屋には既に嵐ちゃんが戻っていた。タオルを片手に今からシャワーを浴びるようだ。 「嵐ちゃんも今からシャワー?早く出てきてね〜」 「一緒に入るか?」 流石にそれはと思ったけど、食事会までの時間を考えると少し急いだ方が良いかもしれない。実は寮に戻るまでに鬼ごっこで使ったリボンをくれないかと、数人の生徒に囲まれ時間をくってしまった。リボンを何に使う気なのかは分からないけど、きっと知らない方がいい気がする。 寮の風呂場は狭い。比べるのもあれだけど、たぶん俺の家の風呂場の10分の1も無いだろう。それでも一人で風呂に入るには十分なサイズで問題はない。一人で入るには。 「いたっ、嵐ちゃんちょっと詰めてよ!」 「身体のサイズを考えろよ。お前がもう少し詰めろ」 二人で身体を洗っていると肘や身体が度々ぶつかる。うわっシャンプーの泡が顔に飛んできたっ。絶対わざとだろこの野郎。 それにしても初めて見る嵐ちゃんの肉体はかなり立派だ。主に下半身が。お風呂上りはだいたい上半身裸の嵐ちゃんの、素晴らしく割れた腹筋は見慣れたけど、下半身は初めて見た。 まあ、見た目の通りというか、かなり立派なものがぶら下がっていらっしゃる。男としての敗北感が否めない。 「嵐ちゃんのヤリチン」 「何まぢまぢと人のもん見てんだよ」 ペチンとおでこを叩かれた。痛い。その後は順番にシャワーで泡を流し、風呂場をあとにする。 髪を急いで乾かし、カレンちゃんのスーツへと袖を通す。うんうん、肌触りもバッチリ。ある程度準備の出来た所で共同スペースに向かうと、丁度嵐ちゃんも自室から出てきた所だった。 「お、準備出来たか?」 「わーお!嵐ちゃんかっこいい!!」 濃紺スーツの上下に淡いブルーのシャツ。シンプルだが、それが嵐ちゃんの色気を際立たせている。確か、嵐ちゃんのファンクラブは男らしさを求める"漢"の集まりらしい。 凌曰く、男が憧れる男、それが結城嵐太郎。 体育館に戻ると、この一時間弱でガラリと雰囲気が変わっていた。沢山の白いクロスの掛かった机が並び、その上には色とりどりの料理が乗っている。ステージ近くには特設の簡易キッチンのような物が用意され、今も数人の料理人達が腕を奮っている最中だ。壁際には黒いスーツを身に付けたウェイターらしき人まで十数人待機している。 これで絨毯なんて敷き詰めてあれば立派な立食パーティーの会場のようだが、流石に床はウレタンの輝くフローリングのままだ。 いつもと違うスーツを着込んで正装している生徒達は、どこか浮き足立っているようでみんなそわそわしている。 12時になり食事会開始の放送がかかると、一斉に皿に手を伸ばし始める。流石お金持ちの子息達、取り分け方や食事のマナーは完璧だ。が、やっぱり中身は育ち盛りの高校生、料理の無くなるスピードが尋常じゃない。 「レイラ君」 大好物の牛ヒレ肉のステーキを頬張っていると見知った顔が集まってきた。 「冬弥、あっきー!昨日ぶり〜」 二人も昨日とは違い今はスーツを纏っている。小柄な二人のスーツ姿は、何だかちょっと可愛い。 「スーツ姿もとても綺麗だねレイラ君!」 「ありがとう」 俺に憧れていると言っていた冬弥はまだ、俺と話す時は緊張するみたいで少し今も顔が赤い。そしてその横には冬弥とは正反対の反応、というか無表情のあっきーがカメラを構えてこちらを凝視している。 「スーツ姿本当最高。写真撮っていい?いいよな?」 もぉっ本当にこの子は!でもこの何故か憎めない感じ。実はあっきーかなり可愛い顔をしている。無表情だけど。笑えば絶対可愛いのに。 そう思い頬っぺたをムニムニと揉んでみる。お、意外と柔らかい。 「写真撮るなら三人で撮ろうよ」 「いや、レイラの単品が良い」 文句を言うあっきーからカメラを奪い、近くにいた生徒に写真を頼む。いきなり話かけたからか、やたらと驚かれた。ちょっとショック。 「ほら、冬弥もきて!」 「は、はいっ」 はいっちーず!と掛け声に合わせてシャッター音が鳴る。こうやって友達で写真を撮ったりなんて、もしかすると今まであまり無かったかもしれない。いや、別に友達が居ないとかじゃない。ただ、同年代の友達が少なかっただけで! 「ね!ね!ちょっと俺のiPhoneでも撮って!」 「あ、はっはいっ」 記念だ記念!これからいっぱい写真増やしてやるっ。今日から俺はメモリストレイラだ!・・・いや、ちょっと意味わからない。

ともだちにシェアしよう!