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和臣おじさん
「随分楽しそうじゃん」
「あ、騎麻!騎麻も写真撮ろーっ」
声を掛けてきたのは騎麻御一行。近くにいた響ちゃん、嵐ちゃんも巻き込み一緒に写真を撮る。少し騒ぎ過ぎたのか、周りに人が集まり出してしまった。
気がつけば至る所で写真撮影が始まっていて、知らない人にも声を掛けられ一緒に写真を撮る。騎麻達も同様に色んな人に声を掛けられ引っ張りだこだ。
「俺まだレイラの写真撮ってないのに・・・」
「またチャンスはあるよ」
周りの勢いに負けてレイラから離れてしまった冬弥と秋斗。心なしかいつもよりしょんぼりして見える秋斗の背中をそっと撫でる。
「やっとひと段落ついたな」
思いの外長引いてしまった写真撮影もようやく終わった。もう途中から誰と撮ったかなんて覚えてないし、何枚撮ったかもわからないけど、凄く楽しかったので満足。
「あ、レイラレイラ、ちょっと理事長に挨拶行くぞ」
「理事長って天羽のおじさん?」
「そうそう。お前まだ学園来てから挨拶行ってないだろ」
そういえばそうだ。すっかり忘れていた。天羽といえば常磐の分家にあたる家で、ここの理事長をしているのは確か天羽和臣おじさん。一族の集まりで何度か顔を合わせた事がある人で、ほんわかした優しいおじさんだ。
「和臣おじさーん!」
「やぁ、久しぶりだねレイラ君。それに騎麻君も」
生徒とは少し離れた場所に用意された理事長や理事会の為のテーブルと椅子。その中心の席に座る40歳半ば程のダンディなおじ様が、目的の和臣おじさんだ。
「学園生活は楽しめているかな?」
「とっても!おじさんの学園はいい所だね!」
「ふふふっ、それは騎麻君達やみんなが良い学園を築いてくれているからだよ。レイラ君もよりここを"いい所"にしていってくれると嬉しいな」
天羽学園の統治は生徒会を中心に生徒によって行われている。それは学園の方針、つまり理事長である和臣おじさんの方針であり、生徒の事を信じているからこそ行える事である。
人を信じ、人に任せるという事は、実際には簡単ではない。ましてやその相手が10代の子供だったら尚更。何か問題が起こったら、という事を思うと初めから出来る人間の仕事にしてしまえばいいし、問題が起こらないように先手を打ちたい。しかし、そうしてしまうと新しい人間は育たないし、育つチャンスを失ってしまう。
だからこそ、子供達の力を信じ、仕事を任せ、自分達で考えさせる。失敗をするかも知れないが、何故失敗をしたのか、どうすれば良かったのか、体験し考える事で壁を乗り越える力を手に入れる。それが和臣おじさんの考えである。
「若者はね、沢山の事にチャレンジし、沢山悩んで、沢山考える事が仕事なんだよ。そして大人はそれを見守り、時にはヒントを与え、一緒に悩むのが仕事なんだ」
「レイラ君もこの学園で沢山の経験をすると良いよ」
そういった経験はきっと将来役に立つからね。そう言うおじさんの表情はとても優しい。
あぁ、俺はきっととても良い所に来たんだなと思った。きっかけはただの好奇心と憧れだったけど、学校とはきっと子供から大人になるために必要な場所だ。おじさんの話は俺にそう思わせるのに十分だった。
そろそろお友達の所に戻って食事を楽しみなさい、そうおじさんに促されまた生徒の群の中に戻っていく。途中で何度か理事会の面々に挨拶されたが、みんなしつこく話掛けてくることはなく、軽い挨拶だけで終わった。
"たまに理事長室に遊びにおいで。"という言葉に甘え、今度理事長室にも行ってみようと思う。きっと笑顔で迎えてくれるだろう。
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